え…何なんだよ、これは……俺の目に入ってきたのは、女の人が体を張って『俺』を守る姿だった。
何なんだよこの女の人はっ!腹からは何か尖ったモノが突き出てるし…それに、この赤いのって……血じゃねぇかっ!
「あ、あああう。うあ」
(大丈夫かあんたっ!!)
??何だ今の?何か俺の声が赤ん坊の声になってるような……
「だ、大丈夫よ、ナルト…あんたは私が守ってあげるってばね…」
女の人が咽ると血がそれに伴って出てくる。だが、その女の人は俺に安心させるような笑顔を向けてきた。…って、絶対大丈夫な訳ねぇだろうがっ!そんな顔すんじゃねぇよ!見てるこっちが辛いんだって!
「ああああ、あああうあ」
(俺は大丈夫だから早く逃げろ!)
「クシナ、屍鬼封尽のせいで俺ももうヤバい…そろそろ八卦封印でナルトに九尾を封印するよ」
「ええ…ナルト、お前と沢山遊びたかったし、いろいろ喋ったりしたかった。でも、母さんはあんたをこうやって生めただけで、幸せだってばね。…ねぇナルト、お金はちゃんと考えて使いなさい。それから女には気を付けて。女は魔性なんだから。あとは、健康にも気を付けなさい。忍は体が基本なんだから。それから……それから…ごめんね。まだまだ、たくさん話したい事がある筈なのに、出てこないみたいだってばね。………うぅ」
女の人は涙を流しながら笑顔を浮かべている。その顔を見ているのは辛いけど、今はこの人の顔を、言葉を、忘れたくないから、俺は顔を反らさずに真っ直ぐその人の顔を見続けた。
「ナルト、俺からは母さんと同じだ。生まれて来てくれてありがとうな。そして、こんな選択しかできない父親を許してくれ…」
女の人の右肩から顔を覗かせる男の人の顔には血と汗、それから土が付いていた。ってか、この人の事俺ってば見た事あるような……いやいや、今はそんな事を考えている場合じゃねぇだろう俺っ!
「あああう。うああうあ!!」
(あんたっ!この人を抱えて早く逃げろよ!)
「それじゃ…クシナ」
「ええ…それじゃあナルト、良い子に育ってね。母さん達はお前の事を空から見てるから……」
≪封印術・八卦封印!!≫
男の人がそう言ったと思ったら、俺の中に何かが入って来るのに気付いた。な、何かが体に入って……う…うあああああああああああああああああああああああああっ!!!
そこで俺は意識を飛ばした。
▼ ▼ ▼ ▼
「ああうあ…」
(知らない天井だ…)
なんて言ってみたり…って、ここは本当にどこなんだ?体は……認めたくはないが赤ん坊のままのようだし、首も座ってないせいか動かせない。目を最大限に動かして見える範囲には、ここを特定できるようなものは…ないか。
自分のいる場所が分からないってのも不安だが、一番わけが分かんねぇのはこの体だっ!!
体が縮む?は?何だそれ?どこぞの少年探偵かっての!俺は普通のふ・つ・うの大学生だったんだぞ!まぁ確かに、ちょっとリアじ…ゲフン、一般人とは毛色が違かったかもしれないが。
だが、それがどうした!漫画を読んで、ゲームをして、アニメを見て。すっっっっっげぇ充実した生活だったんだ!それなりに友達もいたし、家族ともよく話してたし、就職先だって決まってたんだ!
それなのに…それなのに……
「あうあうあうああああああああ!」
(何で赤ん坊にまで戻らねぇとなんねぇんだよっ!)
しかも、俺っていう自我まで持ったままとか…今流行りのssじゃねぇんだからさぁ…。俺これからどうなるんだ?
「おお、起きたみたいじゃな」
何かじいさんの声が近くからしたな…って、あんたの事俺知ってるぞっ!!某少年漫画に出てくる忍者達の頭的な存在…。
「お腹が空いたのか?それともオシメじゃろうか?」
火影の猿飛じいさんじゃねぇかっ!!
「ん?なんじゃ、そんなに目を大きく開きおってからに」
そりゃ驚くに決まってんだろ!漫画の中の人物が目の前に出てきたんだから!普通は固まるっての!
「それにしても…やはりあの二人の子じゃな。父親の面影を色濃く受け継いでおるわい。母親の面影は…まぁ、性格がそうなのかもしれんし、お前が話せるようになるのが楽しみじゃわい」
父親?母親?……そうだ思い出したっ!!俺を庇ってくれたあの女の人…俺が大学生ん時に読んでた雑誌でやっと出てきた主人公の母親に似てた。それに、男の人も…。
ん?ってことは俺って………。
「わしがもう少し若く力があれば…いや、過ぎた事はもう何も言うまい。わしは、ミナトとクシナに頼まれたんじゃ。お前はわしが守ってやるぞい『ナルト』」
やっぱり!!!!!!!俺、ナルトに転生しちまった!!!!!!!!
▼ ▼ ▼ ▼
そして月日は過ぎ、俺は7才になった。この7年間はというと…修行やら何やらで暇じゃなかった。俺は火影のじいさんのとこで世話になっていたが、今年から一人で暮らしている。まぁ、大学生ん時も一人で暮らしてたんだから余裕だし、何よりじいさんが俺に気を使ってる感じが嫌だったからな。
そんでもって、今は忍者アカデミーに通ってんだな俺ってば。漫画ん中でしか見れなかった建物とか、原作人物の子供ん時や若い時とか見れたのはめっちゃ嬉しかった。だって、普通に生きてたらそんな経験出来ねぇんだぞ?その点から考えると、俺ってラッキー!みたいに思ってる。まぁ、人が普通に死んでいく世界ってのはおっかねえけどな……。
そうそう、九尾の狐に関してだけど。何だかなぁ…話してみたんだよ、九尾と。原作のナルトは波の国で覚醒した事で九尾の力を引き出そうって考えたみたいだけど、俺は原作を知ってるから早速、深層心理の深いとこに潜ってみた。そん時の俺の年齢は何と3歳。原作を知ってるのと知ってないのとじゃあ、これは出来ねぇよな。
んで、話してみた。初めの内は原作通り『わしを解放しろ』だの、『こっちに来たら殺す』だの、もうホント物騒極まりないって感じだった。そりゃあ、自分を封印した奴の子どもってだけでも苛つくのに、子どもがぽか〜んって自分の事見てるんだもんな。
でも、一年くらい根気強く話しかけてたら、ちょっとは丸くなってくれたみたいだ。
『おいナルト、わしを馬鹿にするのもいい加減にしろ…』
ん?わりぃわりぃ、お前を馬鹿にしてるわけじゃねぇよ。ただ、懐かしいなってな。
『ふん…ならばいい』
こんな感じで、九尾とは仲良く?やっている。そのお陰か知らねぇけど、原作でナルトの頬に付いてる髭みたいなもんは消えた。火影のじいさんが不思議がってたけど、『ミナトにそっくりになったの。フォッフォ』って最後には笑ってた。そんなんでいいのかよ、じいさん…。
んで、四代目火影(まぁ俺の父さん)の小さい時に瓜二つって感じになったらしい。らしいってのは、母さんが『父さんの小さい時にそっくりだってばね。うん。イケメンよナルト♪』と言っていたから。原作を読んでいる俺としては、消えてくれなくても良かったんだけど。父さんはその時に照れていたと、追記しておく。
性格については…中に入ってるのは俺なわけで、ナルトのあんな良い意味でウザい?感じになるわけも無く、原作より落ち着いたものになってる。まぁ、口調はナルトのものを真似て(実は結構はまってたりする)毎日を面白可笑しく過ごしている。そんなの気にしなきゃいいんだろうが、やっぱり母さんと父さんの死に際を見てる俺としちゃ、どちらも消したくなかったんだ。
修行に関しては、全部自分一人でやった。まぁ一人って言うか、口寄せ使って修行したけど…。てか、原作崩壊してやりたいじゃん。俺を育ててくれた火影のじいさんを死なせたくないし、暁にだって負けたくないからな。
俺っていうか、九尾を狙ってるのは分かってる。だから強く、ただひたすら強くなるために体と術を鍛えた。そのために初めに覚えなきゃならない術…それは勿論、『影分身の術』。影分身とか、もはやあれチートだろ?数千、数万って影分身出して修行したら、数千、数万倍の練習量とか………原作のナルトが強くなるわけだよな。
んで、影分身のやり方を九尾に聞いてみたら…。
『わしに聞くよりも適任の奴らがいる。』
それって誰だ?しかも『ら』って…。
『こいつらだ。』
そう言って九尾が俺の後ろ(あ、これ深層心理の世界での話しな)を見ていたから、後ろを振り向いた。そうしたら、母さんと父さんが二人並んで立っていたってわけ。
『ナルト、元気にやっていたか?』
『ミナト、そんなの見れば分かるじゃない。会いたかったわナルト、元気そうね』
な、なんで父さんと母さんが…
『ふん、わしをお前に封印する時に自分らのチャクラも一緒に封印していたらしくてな。違和感があったから探してみたらこの通りだ…』
九尾…ありがとな。
『フン…わしは何もしておらん。こいつらが勝手にわしの中に隠れていただけだ』
『九尾がこんなに丸くなるなんてねぇ…流石は私の子どもだってばね』
『クシナ言葉使いが素になってるよ。でも、本当にお前は凄い奴だな、ナルト』
そ、そんなに褒められたら…照れるってばよっ!
『口癖があたしにそっくりだってばね♪子どもって性格が母親に似るのかしら?』
『あはは。それは分からないけど、俺と君の結晶ってのは確かみたいだね』
それから今まで話せなかった色々な事を話した。生まれてきて4年間。親の愛情をやっと得る事が出来た瞬間だ。前世でも、親と仲が良かった俺だから、勿論こっちの世界でも親がいるのは嬉しい。それが例え深層心理の世界の中での出来事だとしても、俺の中で溜まっていたわだかまりは消えていった。ナルトに転生したと理解した時から覚悟していたが、大人や子供達からのいじめはめちゃくちゃ苦しいものだったからな。
原作とは違い、俺は火影のじいさんに育てられていたが、里の大人達の俺に向ける憎悪や殺意は消える事はなかった。ナルトはこんな日常を過ごしていたのか…と、壊れそうになる心を何とか誤魔化していたがそれも今日で終わりだ。俺には、こんなに立派な父さんと母さんがいるんだから。
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そんなこんなあって、父さんと母さんという優秀な先生のおかげもあり、俺は心も体も強くなる事が出来たってわけだ。終始修行は森の中で行い、外からは中が認知されない半径500mの結界を張った。そのお陰で、木ノ葉の暗部や火影のじいさん達に気づかれる事はなかった。じいさんには、俺が一人で遊んでいるという姿を想像させてしまったが、それは仕方ない。これはじいさんを、里の皆を救う事に繋がるんだからな。
そして、あれよあれよという間に時は過ぎ、原作で大きな出来事とされている、うちは虐殺事件が起きてしまったのは、俺が父さんとの修行を終えて自分の家で熟睡していた時だった。この日、俺は父さんと実戦形式の組手をしていた。
あぁ、何で父さん達が九尾の中から出てきて大丈夫かっていうと、九尾の性格が丸くなった御陰で、父さんと母さんはチャクラを九尾から供給してもらえるようになり、今現在も、俺の中で生きていられるようになったからだ。
んで、口寄せの術の応用で、俺の深層心理の世界にいる二人を呼び出すことが出来るんだけど、それは結界の中でしかやってない。理由としては俺の実力を里の皆に教えたくはなかったし、何よりも里を守った英雄の二人を蔑ろにする里人には絶対に見せたくなかったからだ。閑話休題。
≪飛雷神の術≫
父さんがクナイを俺に投擲し、それと同時に父さん十八番の術を使ってくる。おそらく、術が書いてある札をクナイに巻いている筈…。なら、ここは影分身で迎撃だな。クナイを避けて術を行使しようとしたところへ、父さんの螺旋丸が俺の影分身を抉る。
『うん、この術より早く行使した影分身。強くなったなナルト』
螺旋丸を突き出した姿勢の父さんに、九尾のチャクラでつくった火遁・螺旋丸を突き出す姿勢のまま動かない俺の影分身。その数は三体で、後ろと左右に配置した。その中には俺の本体は勿論、父さんの本体もいない。
化かし合うような戦いが俺と父さんの組手。どちらもチャクラが多いから出来る戦術であり、他の忍びよりも早い印のせいで、それは高速の組手となる。そして、本体同士は体術で戦う戦闘へと変わっていき………いつもの組手が終わる。
「ありがとうございましたっ!」
『うん、ありがとうございました』
俺と父さんはそう言って揃って笑顔を浮かべる。修行と言っても親子の時間。俺にとっても父さんにとっても楽しい時間なんだ。
『今日も頑張ったわね、ナルト。こっちに来なさい。マッサージしてあげるから』
そして、母さんがこう言って半ば強制的に、マッサージという拷問を掛けて来るのもいつものことだったりする。
「痛くしないでってばよ、母さん…」
『あら、私がいつ痛くしたの?いつも優しいじゃない♪』
あはは…。あの顔は絶対分かって言ってる顔だな。満面の笑みだし……。
『クシナ、程々にしてやって『なぁにミナト、あなたもやって欲しいの?』ナルト、母さんに優しくしてもらいなさい』
「あぁ!父さんが逃げたってばよ!」
父さんはそう言って、ドロンという音を出して白煙とともに消えた。まぁ、俺の中に戻っただけなんだけど…。
んで、母さんの拷問という名のマッサージを受け終わった俺は結界を消して家に戻った。
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次の日、何だか外が五月蝿いから起きて外に出てみると、里中が大騒ぎしていた。何だこれは?と、疑問に思って火影のじいさんがいるところに走って向かった。ん?瞬身の術とか、屋根を走って行かないのかって?俺はドジな奴ってことになってるから出来ねぇんだわ。
んで、辿り着いた火影邸ではじいさんが俺を待っていた。
「じいさん、何があったんだってばよ?」
「ナルト、今は話す時ではない。木ノ葉丸と一緒にここで待っているんじゃ」
じいさんは怖い顔を浮かべて、俺を子ども部屋に押し込んで出て行ってしまった。
「ナルト兄ちゃん……」
まだ、5歳の木ノ葉丸は何が起こった分からない、という顔を俺に向けて来る。
「大丈夫だ木ノ葉丸。俺が守ってやるってばよ!」
里に何かが起きたのか?この時期に起こる事って言ったら…原作知識も七年も過ぎると曖昧になってきてんだよな。何かあったっけか?………ッ!!!
うちは虐殺事件!そうだ、間違いないッ。こんな大事なことを忘れてたなんて…原作崩壊?いきなり躓いちまったじゃねぇかッ!原作通りなら、サスケが生き残ってる筈だけど……自分の事だけで精一杯だったなんて言い訳にもならない。くそっ!
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