『サモンナイト2』二次小説
メルギトスシンドローム
第1話 「目覚めは悪夢の始まり」
「おい!いいかげん起きろ!いつまで寝ているつもりだ!」
は!?
………あれ?あたし……いつの間に……寝て………?
突然まどろみから覚醒したあたしは、状況がつかめずに上半身を起こしてきょろきょろ辺りをうかがう。
「まったく、ようやく起きたか。僕たちは暇じゃないんだぞ。お前が起きなければ行軍できないじゃないか」
周囲をうかがっていた視線が目の前の人物のところでぴたりと止まる。
どうやらこの人があたしを起こしたらしい。さらに付け加えるなら、なにやら怒られているらしい。
「ご……ごめんなさい……?」
とりあえず謝ってみたが、目の前の人は怪訝そうな顔をする。
「どうして疑問形なんだ。まだ寝ぼけているのか?」
…………ああ。うん、寝ぼけてるのかもしれない。
だって目の前の男性(男性……だよね?)がサモンナイト2の登場キャラ・イオスに見えてしょうがないんだもの。
その金髪も赤い瞳も女性のように整った顔立ち女性顔負けの細腰も、全部イオスにつなげずにはいられない。
そんなわけない。うん。わかってる。そんなわけないんだけど……でも…………
「あ……あの!」
「……なんだ」
あたしが思い切って彼(?)に声をかけると、彼はなぜか憮然とした表情で応じる。
そんな彼の態度に萎縮しそうになりながらも、一度声をかけた手前、しどろもどろになりつつも名を訊く。
「え…と……あな……あなた……は……?」
「……イオスだ。ここの特務隊長をしている。お前の世話は僕がするように命じられた」
イオス……特務隊長…………やっぱり……そうなの………?
「ここ……って、黒の旅団……?……世話する……イオスが……私を………?」
「そうだ。わかったらさっさと仕度をしろ。作戦は今晩決行予定だというのに、間に合わなくなるぞ」
そう言ってイオスは折りたたまれた服(たぶん軍服)をあたしに押し付けてさっさとテント(テントだったんだ)から出て行った。
「……………えっと……」
途方に暮れそうになったあたしだったが、彼がなんだか怒っていて急いでいたことを思い出し、
考えるのは後にして急いで渡された服に着替えた。そして改めて途方に暮れた。
「………で、どうしよう?」
イオスが………ゲームのキャラが目の前にいた。これは夢?そうか、夢なのね。
あ!そうだ!ここはお約束ということで、ひとつ頬をつねってみよう。
むに
「……い………いたひ………」
………そうじゃないかとは思ったけど………
「………いや、待って。結論を急ぐことはないよね。そうだ!もっと強くひねれば起きるかも!(錯乱)」
ぐに〜
「いたたたた(泣)」
「おい、何してる。仕度はすんだのか」
「ふえ!?ひゃ…ひゃい!」
仕度……って言っても、着替える以外にできることないんですけど………
私の返事にテントの入り口からイオスの顔が覗く。
「仕度ができたならさっさと出ろ。すぐにでもここを発つ」
「た……発つって………どこへ………?」
私がそう質問した瞬間、彼は心底あきれたような顔をして、きっぱりとのたまった。
「レルムの村だ」
今気づいたことだけど、軍服(女性仕官用?)に着替える前に着ていた服はいつもの普段着だった。
ひょっとしてこの世界で唯一のあたしの世界からの持ち込み物?テントに置いて来ちゃったけど………
「おい、ぼーっとしてるんじゃない」
「あ!は…はい!」
「いいか、ルヴァイド様の前で失礼な真似をするんじゃないぞ。
いくらあいつの娘といっても、おまえ自身が偉いわけじゃないんだからな」
「は……はあ……?」
あいつの娘?……あいつって……?
「ルヴァイド様、連れてきました」
「ああ、入れ」
わ。やっぱりホントにルヴァイドの声だ。
先に入り口をくぐったイオスについてあたしもテントに入ると、思わず鳥肌が立った。
(……こ……怖い………)
例の黒甲冑に身を包んだルヴァイドがあたしみたいな小娘に向けるには明らかに鋭すぎる(殺気含む?)視線をよこしてきた。
本物の軍人の眼力(もはや闘気か?)にあたしは竦みあがることしかできなかった。
何も悪いことしてないはずなのに変な汗と冷や汗をかき、おそらく蒼白になっているだろう顔であたしの目は捕らえられたように彼の目だけを見つめた。
「ルヴァイド様、行軍の用意、ほぼ完了しました。いつでもレルムに発てます」
「そうか」
ルヴァイドはイオスのほうを向くこともなく返事をし、鋭い視線のまま値踏みするようにあたしを上から下まで眺める。
あたしはあまりの緊張に黙って立っていることも困難になり、いわゆる前後不覚になりつつも目はルヴァイドから放せずにいた。
「これがあの者の子か。普通の娘にしか見えんが………名はなんと言う」
あいつとかあの者って誰のことだろうとかいう疑問はあたしの口から出てくることはなく、代わりに震える声で自分の名を答える。
「ほ……堀江……奈菜………です……」
「ホリエナナ?……変わった名だな」
ふと、リィンバウムでは苗字を持つのは貴族階級の者だけであり、しかもアメリカのように名前を先に言うのだということを思い出した。
「あの………すみま……せん………奈菜………です………」
「ナナ、か。ではナナ。お前のことはあの者からくれぐれも頼むと言われている。イオスをつけるのでしっかり行軍について来い」
「は………はい………」
言われていることはわかったがその意味まで気がまわらず、しかし条件反射で了解の意を示していた。
というわけで、現在あたしはデグレア軍・黒の旅団の方々と一緒に深い森の中を歩き回っています。
イオスは世話役とか言ってたわりにあたしには見向きもしないであたしの目の前を突き進んでいく。
あたしを他の旅団員の目にさらしたくないのか、それとも進軍の邪魔だと思われているのか、あたしたちは最後尾を歩いている。
もしイオスの背を見失ってしまったら、あたしは右も左もわからない(ってほどでもないけど)異世界の、
しかもこんな森の奥で取り残されてしまうのかと思うと怖くなった。
振り返ってみれば、昼間だというのに薄暗い深い森が広がるのみ。あたしの目には底なしの谷のようにも見えた。
「どうした、早く来い」
「え?」
声をかけられていつの間にか足が止まってしまっていたことに気づき、あわてて前を向くと、イオスが立ち止まってこちらを振り返っていた。
「す……すみません!」
謝罪を述べつつあわててイオスに追いつく。するとまたイオスは何も言わず前を向いて進みだした。
(………でも、どうしてあたしが立ち止まってることに気づいたんだろう?ずっと前を向いてたのに………)
気配……とか?
……ともかく、一応イオスがあたしのことを気にかけてくれていることがわかり、少しうれしくなった。
あたしの中で少しイオスとの親密度が上がったところで、今まで疑問に思っていたことを思い切って訊いてみることにした。
「あ……あの……イオス……さん………」
「なんだ」
無感情に、しかしすぐさま返事が返ってきた。正直男性と話をすること自体稀だったあたしにとって、目の前の美青年は強敵であったが、
さっきの様子ではルヴァイドに訊くより100倍ましだと思えた。………あたしルヴァイド好きだったはずなのに………
「あの……今更なんですけど………どうして私、ここに………黒の旅団にいるんでしょう……?」
本当はなんでリィンバウムにと訊きたかったが、彼らの態度が異世界のものに対するものとは違うように思えたので無難にそう訊いた。
「あいつに聞いていないのか?お前は昨晩のうちに眠ったままつれてこられた。僕たちの監視のためにね」
……監視?あたしが?……黒の旅団を?
「……どうして……?」
あたしがつぶやくようにそう尋ねると、イオスはあきれたという顔をしながらも(実際には前を向いていて見えないが)答えてくれた。
「どうしてって、僕たちがちゃんと任務を果たすかどうか見張るために決まってるじゃないか」
「任務……?」
任務……レルムの村で……って、まさか!?
あたしが嫌な想像をしていると、イオスは任務の内容について訊かれたと思ったのか、律儀に答えてくれた。
「レルムの村を焼き討ちし、聖女を確保。村にいるものは一人残らず殺し、口封じをする」
「……!!」
やっぱり、そうなんだ。考えないように考えないようにしてたけど、イオス自身の口から言われては認めざるを得ない。
今、黒の旅団はレルムの村を襲撃し、アメルを捕まえるために進軍している。そしてあたしはその彼らを監視する。
でもやっぱりわからない。どうして『あたし』が彼らを監視しないといけないんだろう?
そういうのはあの悪魔たちの仕事なんじゃ……?
「あの………何度もすみませんが……どうして私があなたたちを監視するんですか?
私は……その……自慢じゃありませんけど………ただの一般人ですよ……?」
「そんなの、僕に訊かれても知るものか。お前の父親にでも訊くんだな」
父親?……って、訊きたくても……あたしのお父さん、あたしがちっちゃいころに死んじゃったんですけど……?
いや……おじさんの方かな?あんまりお父さんって呼んだことないけど、一応父親だし……
「お前の父親、我らが顧問召喚師殿が持ってきた任務だ。疑問も文句も、あいつに言うといい」
「・・・・」
は!?え!?なに!?今なんて言ったこの人!?
顧問召喚師があたしの父親!?なに言ってんの!?あたしは普通の人間だってば!?悪魔っ子なんかじゃないよ!!
「ここここ…顧問召喚師がちちちち父親ってて………れ…レイムさんが……!?」
「なんだ、お前は自分の父親をさん付けで呼ぶのか?」
「ち…父親なんかじゃありません!!」
たちの悪い冗談をまじめに話すイオスに動揺したあたしは思わず大声を上げてしまう。
そんなあたしをどう思ったのか、イオスはようやくあたしのほうを向き直って言った。
「お前は……レイムが……父親が嫌いなのか?」
「や、嫌いというか……だから父親じゃないって……」
あたしがそう言うと、イオスはなぜかやや沈痛な面持ちになって言う。
「そうか。お前の家は……いろいろと複雑なんだな。もうこの話はやめよう。………すまなかった」
そう言ってイオスは再び前を向いて歩き始めた。
「え………?」
あたしは途方に暮れてしまった。何も考えられなくなって、遠ざかっていくイオスの背を目で追った。
するとそんなあたしに気づいたのか、イオスは振り返ってあたしを呼んだ。
「ほら。急ぐぞナナ。このままでは置いて行かれてしまう」
言われるままに、あたしは歩き始めた。初めてイオスがあたしの名前を呼んでくれたことになど気づかず、ただただ歩き続けた。
第1話 「目覚めは悪夢の始まり」 おわり
第2話 「炎と闇と」 につづく
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
浮気者さんのへの感想は掲示板でお願いします♪