『サモンナイト2』二次小説

メルギトスシンドローム









第2話 「炎と闇と」


























あたしがようやく落ち着いて、父親云々について考えるのはとりあえず後にしようと決め、これからのことを考えようとした矢先、
黒の旅団はもう目的地についてしまったらしい。

実際は歩き疲れて何も考えられなくなってたらいつの間にか着いてたんだけど。

「着いたようだな。ルヴァイド様のところへ行こう。ナナ、こっちだ」

「は……はい」

ルヴァイドか〜。なんだか苦手だな〜。あの眼力、あたしみたいな素人には毒だよ。

多分あたしがレイムさんの娘で監視にやってきたと思われてるからなんだろうな。迷惑な話。

「いおす」

「ゼルフィルドか」

「ソノ者ガ例ノ?」

「ああ。ナナという」

あたしがルヴァイドについて考えていると、いつの間にかゼルフィルドが合流していた。

うわ、ホントにロボだよ。一瞬大きな鎧かと思った。だって周りと同じ黒だし。

ルヴァイドよりさらに一回り大きい体躯の機械兵士。こんなのに剣やら弓やらが効くのだろうか。

「決行ニハマダ余裕ガアル。将ハ精神統一ヲスルト」

「そうか。では兵を休憩させておいてくれ」

「了解シタ」

簡潔な会話の後、ゼルフィルドはさっさと離れていった。あたしも何か話してみたかったな。

「僕たちも休憩しよう。歩き尽くめで疲れただろう」

「はい…」

そう言ってイオスは近くの木の根元に座り込んだ。あたしもその隣の木にもたれて座る。

実際あたしはかなり疲労していた。

あたしが起きたのが朝と昼の中間くらいだったらしく、それからすぐ出発。
食事休憩などを挟みながらも、とっくに日も暮れた現在までこんな森の中を歩き続けていたのだ。

最後尾だったため前の人たちが通ったところが道になって歩きやすくはあったが、それでも何度か転んだりして傷だらけだ。

さすがに見かねたのか途中からイオスが手をつないで転ばないようにしてくれた。役得なんだろうけど味わう余裕もなかった。

あんな道のりを重い鎧や旅道具を抱えて踏破するなんて、やっぱり軍人ってすごい。イオスなんて思いっきり華奢そうなのに。

「ほら」

「ふえ?」

突然イオスが手に持った何かをあたしに差し出してきた。驚いて変な声を出してしまった(恥)

「Fエイドだ。あちこち傷だらけだろう」

「あ………ありがとう…ございます……」

おずおずとイオスからいわゆる絆創膏のようなものを受け取る。

うわ〜!これがFエイドか〜。もろ絆創膏にしか見えないけど、使った瞬間体力回復する優れものだからな〜。

とりあえず一番大きな傷のある膝小僧に絆創膏の要領で張ってみる。
するとス〜っと痛みが引いていく。心なしか怪我も治ったようだ。少なくとも出血は止まった。どういう原理なんだろ(汗)

「・・・・」

「・・・・」

場に沈黙が下りる。話題がないというのもあったが、イオスも結構疲れているようだったし、あたしはもっと疲れていた。

お互い今は体力回復に専念しようということで意見が一致したらしい。

(……って、休んでばかりもいられないんだった!どうしよう、これからレルム襲撃だよ!)

聖女の奇跡でつかの間の繁栄を迎えたのどかな山村を襲う理不尽な暴力。

鍵である聖女を手に入れるためだけに抵抗する術さえ持たない人々を虐殺する。
そんなこと、殺す側である彼らだって望んではいないはずだ。少なくともルヴァイドは悔やんでいた。

これはデグレアの元老院議会=大悪魔メルギトスの陰謀。大きな悲劇の始まり。

………止めなきゃ………でも………

(ここで止めちゃったら……主人公たちは……アメルは……どうなるんだろう……?)

なんだかんだ言っても主人公たちはルヴァイドたちとの戦いで力をつけて、メルギトスを倒す力を手に入れた。

あたしが下手に介入したら……リィンバウムそのものが危ないかも……

ファミイさんやルヴァイドでもレイムさんには敵わなかったし、エクス総帥でもそう変わるとは思えないし………

そうだ!誓約者(リンカー)に抜剣者(セイバー)!調律者(ロウラー)が駄目ならあの人たちに頼ればいい!

(彼らには悪いと思うけど……人の命には代えられないよね……)

よし!ルヴァイドを説得してみよう!この際レイムさんの娘って設定も大いに利用して!

いや!むしろこの設定は、この世界の神様(エルゴ?)がルヴァイドたちを止めるためにあたしに与えたものに違いない!

ならその期待に応えないと!そうすれば元の世界に帰れるかもしれないし!

「いおす、招集ダ」

「わかった。今行く」

(勇気を出して!ルヴァイドを説得しなきゃ!!)































「将ヨ、総員ニゴ命令ヲ」

「………ああ」

「ルヴァイド様……」

「……説得しなきゃ……説得しなきゃ……」

「……何ヲブツブツ言ッテイル?」

「え?……ふや!?」

び……びっくりした……。さすがにロボにはまだ慣れないよ。って!?いつの間にかルヴァイドいるし!?

……そ……そうだ……言わなきゃ……説得しなきゃ……

「言わなきゃ……言わなきゃ……!!」

「待テ」

「うぐっ!?」

げほっ!げほっ!?……ぜ……ゼルフィルド……いきなり襟首つかまないでよ……(泣)

咳き込みながら恨めしげな顔で見上げてやったけど、さすがロボ、そんなこと意にも介していないようだ(っていうか嫌われてる?)。

「将ハ覚悟ヲ決メテイル。余計ナコトハ言ウナ」

「そ……それじゃ、困るのよ……!」

「・・・・」

襟をつかんだ手を振り払ってルヴァイドのもとへ駆け寄る。今度はゼルフィルドは止めなかった。

「ルヴァイド!」

「……なんだ」

うわ、振り向きざまの眼力が痛い……ま……負けるもんか!

「おい、ナナ。なにを……」

「イオスは黙ってて!ルヴァイド!こんなのだめだよ!焼き討ちなんてやめて!」

「……なんだと……」

ひぃっ!?殺気!?

「祖国デグレアの悲願のため、聖女を手に入れる。貴様もデグレアの民ならばこの意味がわからんとは言わせん」

デグレアの民じゃありません、なんて言える雰囲気じゃなかった。それ以前に恐怖で口が開かない。

「元老院議会の決定は絶対だ。元老院議会が黒と言えば白も黒になるのだ」

そんな無茶な!と叫びたかったが、ルヴァイドから発せられるオーラがそれを許してくれない。

嗚呼。神様仏様エルゴ様!ナナは弱い子です。人の命が懸かってるっていうのにあたしは彼に何も言い返すことができないのです。

どうかこの迷える子羊をお助けください。ていうかぶっちゃけ元の世界に帰してください(泣)

「ルヴァイド様。ナナは軍属でもない一般人です。もうそのへんで」

イオスーー!!ナイス!グッジョブ!もうサイコー!!さっきは黙っててなんて言ってごめんなさい〜〜!!

「……俺はそんなにまで信用されていないということか」

「…ルヴァイド様?」

足元を見つめてつぶやくように何か言ったルヴァイドは、再びあたしと視線を合わせた。

そこに先ほどのような殺気は感じられなかったが、なぜか、それ以上の強い意思が込められている気がした。

「レイムが何を考えて貴様を送りつけてきたのかは知らぬ。しかし、何があろうとこのルヴァイド、祖国を裏切るようなまねはせん!

 ナナよ。とくと見ているがいい。そしてレイムに伝えろ!

 我ら黒の旅団はデグレアの剣!その剣が血にまみれようとも、砕け散ろうとも、デグレアの悲願が成ればそれでいい。

 戦いの中で身を砕き、すべてのあとで打ち捨てられようとも、剣が主に異を唱える道理はない。この命はただ祖国のために……」

「ルヴァイド様……」

……ルヴァイド……。画面越しでなく、直に感じる彼の気迫は、あたしの脆弱な心を簡単に打ち砕いた。

駄目だ……あたしなんかじゃ……彼を止められない……ううん、あたしなんかが止めちゃいけない……

所詮あたしは部外者で……戦争なんて話に聞いた程度だし……人を傷つけるための物なんて持ったこともない……

誰も傷つけず、自分も傷つかないように生きていけると思っていた……そんなあたしが……

祖国のために他のすべてを傷つけ、自分の命でさえ捨ててしまう覚悟を持った彼を……あたしなんかが……

「村に火を放て!聖女の確保を最優先しつつ村人をすべて掃討する!総員、突撃!」

悲劇の始まりを告げるのろしは上がった。もはや誰にも止められない。物語の幕は上がってしまったのだ。





























「げほっ!ごほごほっ!?」

血の匂いの混じった煙にむせて咳き込んだおかげで、朦朧としていたあたしの意識はようやく覚醒した。

そう。血の匂いだ。争いのない国にいたって自分の血の匂いをかぐ機会ぐらいある。あの鉄のような匂いだ。

もうすでにこんなところまで血の匂いが漂ってくるくらいの人が死んでいる。

赤い炎に彩られた黒い鎧の兵士たちが、血の雨を降らせながら死体の山を築いていく。

その光景を想像して吐き気がした。

「大丈夫か?」

イオス?どうしてイオスがここにいるの?…ああ、そうか。イオスはあたしの世話役だっけ。

……あたし、なんでこんなとこにいるんだろ?…そうだ、監視だ。ルヴァイドたちを監視しなきゃいけないんだっけ?

でも監視なんてしなくても、あたしは物語の展開を知っている。

(アメルたちは無事かな……)

そんなことを考えながらちらりと村のほうに目をやると、人が人を切り捨てる場面。見たくもないのに目に入ってしまった。

「ウッ!…おえ!げえぇ……!」

堪えきれずにその場で吐いた。恥も外聞もかなぐり捨てて、みっともない声を出し、涙を流しながら。

悲鳴と涙を飛び散る血が塗り替え、恐怖・絶望・苦痛・驚愕、さまざまな感情を内包させた表情を永遠に焼き付け、
あたしと同じ、空気を吸って物を食べて生活していた人間がただの物になった瞬間も、嘔吐の苦しみの間は忘れられた。

「…はあ…はあ…はあ…」

あたしが落ち着くまで、イオスは黙ってあたしの背中をさすっていてくれた。その手の暖かさが、今はただ怖い。

(暖かくて、優しい手……この手が…人の命すら奪うんだ……)

あたしは言いようのない恐怖に駆られて走り出した。イオスの制止の声は聞こえてはいたが、意味はあたしには届いていなかった。

何も考えられずに燃え盛る村の中を走った。立ち止まってしまったら、考えてしまったら、何か黒いものに追いつかれてしまう気がした。

そんな状態のあたしになぜあの光景が見えたのか、自分でも不思議でしょうがない。

血を流しながらも生き延びようと必死に地面を這う女性と、その女性に止めを刺すべく近づく黒い兵士の姿。

もともとなにも考えられなくなっていたあたしだ。気づいたら剣を振り下ろそうとする兵士の前に躍り出ていた。

(なにやってんだろあたし……。こんなところで死ぬなんて……ホントになんにもできずに終わりなんだな、あたしの人生……)

一瞬で人生あきらめたあたしの前に、闇が、現れた。

闇は振り下ろされた剣を飲み込み、兵士の腕を、体を、頭を、すべてを飲み込んだ。

ぽん

軽い音がして、辺りに兵士の体が飛び散った。

血と肉片があたしに降り注ぐ。

ガチャガチャという鎧の落ちる音と、ビチャッという肉片の落ちる音がした。

あたしはその光景をすべて見ていたが、理解したのはそれから30秒後だった。

女性はすでに死んでいた。


















第2話 「炎と闇と」 おわり
第3話 「お持ち帰りOK?」 につづく





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