『サモンナイト2』二次小説
メルギトスシンドローム
第4話 「放浪者」
「・・・」
いつの間にか眠ってしまっていた。なんだか最近このパターンが多い気がする。あたし一日何時間寝てんだろ。
「……ふわ…あふ……」
寝すぎのせいか体がなんとなくだるくて頭もすっきりしない。でも昨日のような倦怠感はないのでどうやら体力は回復したようだ。
……ていうか、あたし昨日は布団に包まって丸くなって怯えてたはずなのに、起きたらちゃんと枕を頭に当てて寝てるってどういうこと?
もしかして誰かが……ま…まあいいか。どうせ気絶してる間に寝顔は見られてるんだから。
変な格好で寝てたのは恥ずかしいけど……
「……悩んでてもしょうがないか。とりあえずリビングに行ってみよう。これからのことも考えなきゃいけないし……おなかもすいたしね……」
そういえばこの家(ギブミモ邸)にきてからこの部屋から出るのはじめてだわあたし。家主のギブソン&ミモザにもまだ会ってないし。
そんなことを考えながら部屋を出て階段を降り(2階だった)、すぐリビングルームらしき広い部屋に出た。
朝早いためか人の姿はないが、奥から誰かが作業しているような物音がする。
「こんな朝早くから起きてる……ってことは、アメルかレシィが朝食の準備をしてるのね。なんだかいいにおいもするし」
ちなみにあたしは家事全般がからっきしだ(涙)
カレーだけは家庭科の授業で作ったからなんとかなるけど、この世界にカレールーなるものがあるとも思えない(いや、意外とあるかもしんないけどさ)。
そういうわけで、あたしが助太刀に行っても邪魔することになるだけだろう。
しかし居候(しかも食っちゃ寝しただけ)の分際でこのままリビングのソファででもゆったりまったりしてるわけにもいくまい。
こうなったら玉砕覚悟で何か手伝えることがないか訊いてみるしかないだろう。アメルには昨日のことも謝っておかなくちゃいけないし。
てことで、物音とにおいを頼りに台所らしき場所へ顔を出してみると、アメルとレシィがせかせかとお料理をやっていた。
二人ともかわいらしい絵柄入り(柄はプ二ムとテテ)エプロンが似合っている。
「あ、ナナさん。おはようございます。もうお体のほうはいいんですか?」
あたしに気づいたレシィがそう声をかけてくれる。
アメルもそれにつられて作業を止めておはようございますと頭を下げる。その表情は若干(本当に少しだが)強張っていた。
「おはようございます。体はもう大丈夫です。ところであの後どうなりました?私いつの間にか寝ちゃってて……みんな無事だったんでしょうか?」
それはずっと気になってたことだ。
今考えればマグナたちの中から犠牲者が一人でも出るはずがないと思えるのだが、実際に昨日の戦闘中には万が一の事態が起こるのではとはらはらしていた。
「はい!皆さんご無事で、怪我をした人たちもアメルさんのおかげで大事には至りませんでした」
レシィは笑顔でそう答えてくれ、あたしもとりあえず胸をなでおろすが、あたしにはもうひとつ気がかりがある。
「あの……黒い鎧の人たちは……?」
イオスやゼルフィルドだってストーリー進行上(思い入れ的にも)重要な人物だ。彼らは無事に撤退したのだろうか?
その問いに対してレシィは少し言いにくそうに答えてくれた。
「あの人たちは……みんな逃げて行っちゃいました。フォルテさんはまた来るだろうって言って……。
で…でも、ギブソンさんが騎士団に警備を強化してくれるように頼んでくれたそうなので、すぐには攻めてこないと思います」
そっか、とりあえずストーリー通りってことかな?ならまずは、目の前の問題からかたづけていかないと。
その問題の人はあたしのことが気になるのかちらちらとこちらを伺いながらも朝食作りに戻っていた。あたしもレシィと話しながら彼女の様子を伺っていた。
アメルは昨日に比べればだいぶ元気になったようで、おそらくマグナかトリスに慰められたんだろう。しかしまだ昨日のことは気にしているらしい。
あたしだってなんであんなことしちゃったのかわからないんだけど、このままアメルとギクシャクしたままになるのは嫌だからちゃんと謝っておかないと。
「アメルさん、ちょっといいですか?」
声をかけるとアメルが一瞬緊張したのがわかったが、すぐに笑顔でなんですかと応じてくれる。
「昨日のことなんですけど……本当にごめんなさい。私、あんなことするつもりじゃなかったんです」
あたしは基本的にアメルは好きだ。マグナ×アメルENDは何度見たかわからない。
そのアメルに、他のどんな人とも仲良くしてるアメルに、自分だけが嫌われたままでいるのは耐えられそうになかった。
だからあたしは言葉だけでは謝罪の気持ちを表すには足りないと気づき、深々と頭を下げた。
そこまでして気づいた。アメルの性格ではここまでされては許さないわけにはいかない。ここまでするのは少し卑怯だったのではと。
「そんな!顔を上げてくださいナナさん。
あたしが余計なことしたのが悪かったんですから、ナナさんが気にすることはないですよ。あたしのほうこそ、本当にごめんなさい」
思った通り、頭を下げたあたしに慌てたアメルはまるで自分のほうが悪かったようなことを言って逆に頭を下げる。
悪いのは一方的にあたしなのに(どうしてあんなことしたのかはわからないけど)。
余計に申し訳なくなったあたしだったが、これ以上頭を下げ続けるわけにもいかず、アメルとの仲直りを優先させることにする。 レシィもなんだかおろおろしてるしね。
「いえ、悪かったのは私です。できれば昨日のことはもう忘れてください。私、アメルさんとは仲良くなりたいんです」
あたしがそう言うと、アメルは天使の微笑を浮かべてとてもうれしそうに言った。
「はい!あたしなんかでよければ、仲良くしてください。
あたし、お料理が得意なんです。お芋さんをいっぱい使ったおいしい朝ごはんを作りますから、ぜひ召し上がってくださいね」
「うん、楽しみにしてます」
ああ、この世界に来てはじめてアメルの心からの笑顔が見れたな。
アメルのエンジェルスマイルはあたしの心にも温かな何かを芽生えさせ、意識することなく自然に笑顔が浮かんでくる。
「私にも何か手伝えることはありませんか?」
だから自分には不向きな家事も率先してやれる気がした。
それからあたしはアメルやレシィの指示に従って精一杯がんばった。アメルたちもあたしのがんばりは認めてくれたようだ。うん、がんばりは…ね。
「ふあ〜、おいしかった。ごちそうさま、アメル、レシィ」
リビングに一番最後にマグナとともに現れて一番最後に朝食を食べ終えたトリスは満足げな笑顔でアメルとレシィにお礼を言った。
アメルはにこにこ笑顔で、レシィはテレながらお粗末様でしたと言う。
「うふふ、でもトリスさん。ナナさんも手伝ってくださったんですよ」
「え、そうなの?」
「ふ〜ん。ナナも料理できるんだ」
トリスとマグナの双子召喚士が感心したようにソファに腰掛けていたあたしの顔を見る。しかしそんなたいした手伝いもできなかったあたしは慌ててしまう。
「そ、そんな!たいしたことしてないですよ!というより、私、家事は苦手で…むしろ邪魔しちゃったというか……!」
そんなあたしの様子がおかしかったのか、双子とアメルはくすくすと笑った。
「あはは。それでもたいしたもんだよ。あたしなんか手伝おうとも思わないもの。というより起きられないんだけどね」
「ああ。まったく自慢できることじゃないけどな、ははは」
「ふふ。ナナさん、がんばってくれたじゃないですか。十分助かりましたよ」
それぞれに賛辞の言葉を送ってくれる3人にあたしは照れ笑いを浮かべながらホントたいしたことないですよ〜と謙遜する。
そんな和やかな一幕に神経質そうな声が割り込んできた。眼鏡付きの融機人(ベイガ−)ネスティ・バスクだ(というか、融機人はみんな眼鏡か)。
「ところでナナ。君はいつ頃ここを出ていくつもりなんだ?」
う。考えないようにしてたことをさらっと突っ込まれてしまった。いつ頃ったって特に当てもないんだし……
「え。ナナさん、出て行くの?」
「当たり前だろう。彼女には彼女の帰るべきところがあるんだ」
それはそうなんだけど……帰り方わかんないし……。
「え〜。せっかく仲良くなれそうだと思ったのに〜」
うん。あたしもとっても残念なんだけど、なんかそんな流れになっちゃったのよ。
「なあ、ナナ。そんな急いで出てかなくたって、もう少しここにいてもいいんじゃないか?」
「君は馬鹿か。僕たちと一緒にいるというだけで彼女にとっては危険なんだ。出て行くのは早いに越したことはない」
う〜、正論なんだよね。あたしはアメル以上に戦闘能力皆無だし。それに、戦闘が起こるたびにあんなに怯えるのは嫌だし……
「そっか……そうだよな。ごめんナナ。俺、考え無しだったな」
「そうよね……戦いになんて、巻き込まれないに越したことはないもんね」
「う、ううん。ありがとう二人とも」
その気持ちだけで十分うれしいよ。
あたしはたぶんこの異界の地で一般人として暮らしていくことになると思うけど、
あなたたちはこれからいっぱいいっぱい大変な目に会うんだから、負けないでよね。
とそのとき、突然横合いから挑発的な言葉が降りかかってきた。
「はっ!自分だけとっとと尻尾巻いて逃げようってのか。俺たちが必死で戦ってる横ですやすや眠ってる豪胆女のくせによ」
赤い触角、レルムの双子の片割れ、リューグだ。
さすがにこれにはあたしもカチンときたが、事実なので何も言い返せない(涙)
そんなあたしの代わりにアメルが非難めいた声を上げる。
「リューグ!」
「兄貴にしてもそうだ!逃げてばかりじゃなんにもならねえ。俺は敵を全部倒してアメルを守る!」
そういえば、このリビングにいるメンバーの中に青い触角は見当たらない。ロッカは昨日のうちに出て行っちゃったのね。
「威勢がいいのは結構だが、斯く言う君もあの黒騎士にはまったく歯が立たなかったじゃないか」
ネスティが冷静に事実を指摘する。だがそれは、確かロッカも同じことを言っていたはずだ。
「……だったら強くなればいい」
「え?」
「俺は強くなる。アメルを守るためには、誰よりも強くならなきゃいけない。お前らの力も少しはあてにしてやるが、俺は俺の力でアメルを守ってみせる!」
リューグの目には怒りと焦りが見え隠れしていた。まるで手負いの獣(実際には見たことないけどね)みたいだ。
言いたいことだけ言うとリューグは愛用の斧を持って飛び出していった。おそらく訓練に出かけたのだろう。
「リューグ……」
リューグが飛び出していった先を見つめてアメルは悲しげにたたずむ。本当に守らなければいけないものを彼は見失ってしまっているのだ。
「ああ、なんだ、その……」
陰鬱な雰囲気が漂い始めた場にフォルテが口をはさむ。ケイナが止めようとしたようだが、フォルテは苦笑いを浮かべて言葉を続けた。
「あの坊主の言うことももっともなんだが、現実問題敵さんはこちらが力を蓄えるまで待ってくれそうにねえ。
昨日はなんとか凌いだが、次もこううまくいくとは限らねえわけだな、これが」
お手上げ、と言いたげなポーズをとって肩をすくめるフォルテ。他のみんなの顔に不安と緊張が表れる。
「だからな、お嬢ちゃん。悪いが俺たちには他の人間を守りながら戦える余裕はないんだわ。わかってくれるな?」
「……はい」
あたしは頷くしかなかった。彼らがこれからどんな大変な目にあうかはあたしが一番よく知っている。
戦えないあたしが一緒にいても足手まといになるのは目に見えていた。
「私、すぐにでも出て行きます。皆さんには、本当にご迷惑おかけしました」
「気にすることはない。困ったときはお互い様だ」
「そうそう。あなただって被害被っちゃった一人なんだから、気を使わなくていいのよ」
あたしが頭を下げるとギブソン・ミモザの先輩コンビが言葉をかけてくれる。
双子召喚士とアメルも何か言おうとしたようだったが、結局口を開くことはなかった。
第4話 「放浪者」 おわり
第5話 「聖王都の片隅で」 につづく
感想
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