『サモンナイト2』二次小説

メルギトスシンドローム









第7話 「新たなる日常」

























「ええ〜〜!?ナナは一緒に来てくれないの〜〜!?」

「え…ええ。すみません、バイトが忙しくって……」

あたしは申し訳なく思いながらもきっぱりとトリスのお誘いをお断りした。

何のお誘いかって?みんなでフロト湿原にピクニックに行くという例のイベントのだ。

ピクニックは楽しそうなのだが、その後の戦闘はやっぱりご遠慮したい。

「いいじゃん一日くらい。ユエルはOKしてくれたよ〜?」

「う…」

そうなのだ。トリスはあたしより先にパッフェルさんとユエルも誘っており、パッフェルさんは断ったそうだがユエルは真っ先に飛びついてしまった。

まあ、非戦闘員のあたしと違ってユエルなら自分の身くらい自分で守れるだろうが、シナリオに無いことなので少し心配ではある。

「…ユエルは初めてのことばかりで、気晴らしも必要だと思うけど、私はまだ頑張れるから…」

「う〜…」

トリスは拗ねたようにテーブルに突っ伏してうなる。

ちなみにここはあたしが働いているケーキ屋のテーブル席だ。

あたしは今休憩時間なのでトリスと向かい合ってひとつのテーブルを占領している。

トリスが客足の途絶えそうな時間を見計らって訪れてくれたからできていることだ。

話を戻すが、ピクニックは敵を誘い出すための罠であって、戦闘になるのはほぼ確定的なのだ。

そんなのに非戦闘員同行させても足手まといにしかならない。

トリスはそこのところを理解していないらしい。わざわざ誘いに来てくれたのは嬉しいんだけど……

「私は行けないけど、ユエルのこと、お願いしますね。あの子、故郷のことを思い出すのか、ときどき寂しそうにしてるんです」

そういう時は決まって例のペンダントを取り出して見つめているのであたしも複雑な気分になる。

どうやら正規のシナリオから外れて来ているみたいなので、 タイミングを計ってペンダントがミニスの手に戻るようにしなければならないのではと思っているのだが、 ユエルのそんな姿を見ているともう少し時間が必要のような気もする。

まあ、ミニスもユエルからペンダントを無理やり奪うようなことはしないと思うから、 まずミニスを安心させてあげたほうがいいのかもしれない。

今度機会があったら教えてあげることにしよう。

「う〜ん、わかった。ユエルのことはあたしたちに任せて、ナナはお仕事頑張ってね」

「はい。あなたたちも、あの黒い鎧の人たちに狙われているんですから、十分気をつけてくださいね」

「うん、まっかせて!アメルは絶対渡さないんだから!」

力強く答えたトリスは力瘤を見せて(出てないけど)笑顔のまま席を立った。あたしもお見送りのために席を立つ。

「じゃね、ナナ。ケーキ、美味しかったわ」

「はい、厨房の方たちに伝えておきます」

トリスは勢い良く手を振りながら店を出てそのままどこかへ駆けていった。元気だなあ。

入れ替わりに配達に出かけていたパッフェルさんが戻ってくる。あたしもそろそろ仕事に戻らないと。

「あ、ナナさん、ちょっとちょっと」

「はい?」

お店に帰ってきたパッフェルさんはあたしの姿を見つけるなり呼び止めてきた。

気のせいか、いつも以上にニコニコとしたその顔にはからかいの色が含まれているような?

「ナナさんをご指名の方がいらしてますよ〜。眉目秀麗な金髪の殿方です。ナナさんも隅に置けませんね〜♪」

「へ?」

ご指名?なんのこと?

「さあさ、お店のことは私に任せて。わざわざ訪ねてきて下さった方を無碍に扱ったらいけませんですよ〜」

「え、あ、ちょっ…パッフェルさん!?」

途惑うあたしを無理やり店の外へ押し出すパッフェルさん。本当に何がなんだかわからない。

「では、ごゆっくり〜♪」

その言葉を残してパッフェルさんは店の中へ戻っていってしまった。あたしにどうしろと?

「はあ。なんなのよいったい。指名がどうとか……なんのことなの?」

「おい」

「え……?」

あたしが閉じられたお店の扉を途方にくれて見つめていると、後ろから聞き覚えのある声がかけられた。

「捜したぞ、ナナ。こんなところで何をしているんだ」

「い!イオス……さん!?」

思わずゲームプレイ時の癖で呼び捨てしそうになって慌てて『さん』をつける。

その違和感は気にならなかったようで、パッフェルさん曰くの眉目秀麗の金髪の殿方・イオスは、微妙に怒ったような表情であたしに言う。

「とりあえず場所を変えるぞ。誰かに聞かれると面倒な話だからな」

「は…はい」

それはあたしも賛成だ。

もしパッフェルさんにイオスがデグレアの人間であり、あたしも少なからず関係があることを悟られたら……

以前の怖い想像が頭をよぎる。

「こっちだ。ついて来い」

手近な路地裏へ誘導するイオスについて行きながら、あたしはちらちらと後ろを気にしていた。

パッフェルさんならあたしたちの後を追ってきて盗み聞きとかする可能性も十分ありうる。

お店の中で忙しそうにウェイトレスをやっている姿を確認しても、絶対に安心とは言えない。

ちょっと目を放した隙に追いついてきて聞き耳を立てているかもしれない。

疑心暗鬼に囚われたあたしは路地裏で待ち受けているイオスの傍へ小走りで寄っていき、小声で話しかけた。

「イオスさん、気配とか読めます?」

「は?」

いきなりの発言に目を丸くさせたイオスだったが、すぐにまじめな顔になってあたりを伺う。

「誰かいるのか?」

「いえ…そういうわけじゃないんですけど……」

「……よくわからないが、誰かに見られているということはないはずだ。一応軍人だからそれなりにはわかる」

「…そうですか」

そう、イオスは軍人だ。素人のあたしよりは気配を読む術に長けているだろう。

パッフェルさんのことに関してはイオスの気配読みに期待するしかないか。

ならば次は本題の方か。こちらも一筋縄ではいきそうにないけど……

「それで?どうしてお前は敵国のケーキ屋なんかで働いているんだ?」

敵国、ですか。やっぱまずいよね。旧王国は聖王国を親の仇のように嫌っているから。

旧王国は帝国とも戦ってるけど、聖王国にはもっと昔から煮え湯を飲まされてきた。

そしてデグレアは聖王国打倒の悲願のために召喚兵器(ゲイル)なんてものを求めるくらいに(実際にはメルギトスの策略だが)切羽詰っている。

彼らは遺跡の封印を解く鍵とされているアメルを手に入れればすぐにでも聖王国を攻め滅ぼすつもりなのだ。

なのに彼ら側ということになっているあたしが聖王国、しかも聖王都ゼラムにいたら問題だろう。

あたしが本当にデグレアの人間だったら真っ先に黒の旅団に合流するのが当然の選択だろう。

しかし実際にはデグレアの人間でもレイムさんの娘でもないあたしは黒の旅団に合流するのはちょっとご遠慮したい。

今まで周りに流され続けてきたあたしだけれど、今回は勇気を出して新しい日常を守りたい。

今居るあそこは、いきなりこの世界にやってきて、あちこちたらい回しされて、嫌なことや辛いことがあって、

周りの人たちに親切にされて、あたしも自分なりにがんばって、そうしてやっとたどり着いた自分の居場所。

まだ数日しか経っていないけど、あたしはこの新しい日常がずっと続いていったらいいなと思い始めてる、だから。

「ごめんなさい!私、黒の旅団には戻れないんです!」

「……どういう意味だ」

意外なことにイオスはあたしの爆弾発言(のはず)を比較的冷静に聞いている。

「言葉通りです。私はあなたたちとは合流せず、ここで暮らしていきます」

「……僕たちを裏切るという意味か?」

「違います。デグレアと敵対するつもりはありません。でも旅団には戻りません」

「僕たちは聖王国を滅ぼすぞ?」

「…関係ありません私はここで暮らします」

「……そうか」

……どうして?どうしてイオスはこんなに冷静なんだろう?

旧王国と聖王国の関係を考えたら怒鳴り散らされて無理やり連れて行かれてもおかしくないのに。

いや、冷静に考えたら裏切り者は処刑だとか言って殺されてもおかしくなかったんじゃ……

「お前がその道を選んだのなら、それもいいだろう」

なのに彼はそんなことを言う。それどころかイオスはあたしの顔を見て微笑する。

「不思議そうな顔をしているな。無理やり連れ戻されたほうがよかったのか?」

「い…いえ……」

「他の者だったらともかく、僕にはお前を咎める資格はない。僕も裏切り者だからな」

裏切り者……そうだ、イオスは元帝国軍人。

本当ならルヴァイドやゼルフィルドではなくアズリアやギャレオと肩を並べていてもおかしくない人物だ。

なのに今はデグレア黒の旅団の特務隊長としてルヴァイドに仕えている。帝国も旧王国にとっては敵国なのに。

「お前がここで暮らしていくというのなら僕は止めはしない。 先日聖女を匿っていた家にお前が居たことは報告していないし、それ以前にはレルム襲撃のどさくさで行方不明と上に報告してある」

ああ、あの目が合っちゃったときのことか。それでイオスがあたしを捜しに来たのね。

「この件で僕やルヴァイド様の風当たりは悪くなるかもしれないが、聖女さえ確保すればなんら問題ない。 そのときには旧王国と聖王国は全面戦争に突入する。もちろん我々が勝利し、聖王国は滅び去る。それでもここに残ると言うんだな?」

「……はい」

実際には滅び去るのはデグレアの方なんだけど、そんなことは言わないほうがいいよね。

それにしてもイオスが思ったより話のわかる人でよかった。調子に乗ったあたしはさらにイオスに注文を言ってみることにした。

「あの…できれば私は死んじゃったってことにしといてもらえませんか?また捜しに来られても困るので……」

「…いいだろう。その方がこちらとしても気兼ねがなくなる」

そう答えてからイオスはあたしに背を向けて歩き出した。

「次に会う時はお互い敵同士だ。もっとも、もう会うことも無いだろうがな」

振り向きもせずにそう言い残してイオスは去って行った。ちょっと恰好よかったかも。



































「あ、ナナさん、お帰りなさいませ〜。どうでしたか、見目麗しい美青年との蜜月は?」

「ぱ…パッフェルさん、そんなんじゃありませんよ〜」

あたしがお店に戻ると会計係をやっていたパッフェルさんが冷やかしのお言葉をかけてくださる。

どうやらさっきの会話は聞かれてなかったみたい。

いくらパッフェルさんが暗殺者だかエージェントだかであっても、いちいち盗み聞きなんてしないか。

今のところはマークされるようなこともしてないし。心配すること無かったのかも。

「あ、ナナ!どこ行ってたの?」

店の奥から重そうな小麦粉の袋を軽々と抱えたユエルが姿を現した。

メイトルパの獣人であるユエルは力持ちなので力仕事を任されることが多い。

「うふふ。ナナさんは殿方と密会してらしたんですよ♪」

「ぱ…パッフェルさん!」

「みっかい?何それ?面白いの?」

「それはご本人のみぞ知るってやつですね〜」

そう言ってパッフェルさんはニマニマ笑いのまま視線をあたしに向けた。だからそんなんじゃないって言ってるのに……

「ふ〜ん。ねえ、それってユエルもできる?」

「あ〜、ユエルさんには少し早いかもしれませんね〜」

「私にも早いですってば!彼はただのちょっとした知り合いなんですから」

「あはは。じゃあ、そういうことにしておきますです。ナナさんってば、照れ屋さんなんですから。かわい〜ですね〜♪」

「!?ぱ…パッフェルさん!」

「ほらほらお二人とも、もうお仕事に戻りませんと。ナナさんはウェイトレスをお願いしますね〜」

って話をはぐらかさないでくださいよ。も〜、パッフェルさんたら。

しかしそのときお客様が入ってきたのであたしたちは一斉にいらっしゃいませと言い、それぞれに仕事に戻ることになった。

女の子たちの集団が和気藹々と席に着いたのであたしは急いでお水とメニューを持っていく。

パッフェルさんはお持ち帰りのお客様の応対をテキパキとこなしている。

あたしやユエルがあのレベルに達するにはまだまだ経験が必要だろう。

「ふう」

いや、パッフェルさんのレベルに達するのは当分無理かもしれない。

何せあの人はケーキ屋のバイトだけでなく掛け持ちでいくつも仕事をこなしているのだから。

老後の為とか言ってたけど、そんなに躍起になって働かなくても蒼の派閥のエージェントはそれなりに給料いいだろうに。

「すいませ〜ん。注文お願いしま〜す」

「あ、は〜い」

あたしはつくづく甘やかされてたんだと思う。

注文をする側なら何度も経験したけど、自分が注文される側になるとは夢にも思っていなかった。

慣れない口調で注文を読み上げ、調理場へ取って返す。

ケーキの注文を伝達すると、教えてもらったばかりの紅茶入れに挑戦する。

するとユエルが傍によって来て横からあたしの作業を眺める。

コポコポと紅茶を入れ、注文のケーキと一緒におぼんに乗せたところでユエルが子供のようにせがむ。

「ユエルが持ってく!」

「うん、じゃあ、よろしくね。4番のテーブルだから」

「まかせて!」

ユエルは危なげな手付き足付きで慎重にケーキを運んでいく。

耳と尻尾をピンと立てて真剣そのものの表情である。

本人は一生懸命なのだろうが、その様子はどこかかわいらしさを感じずにいられない。

その後姿を眺めながら、あたしは考える。

あたしにとってこの世界は本当の世界じゃない。

あたしは現実世界の人間で、ここはゲームなのにリアルな世界。

もしかしたらゲームとかリアルではなく名も無き世界とリィンバウムなのかもしれないけど。

とにかくここは本来のあたしの居場所じゃない。本当の日常じゃない。

でも、あたしは今の新しい日常を結構気に入っていた。

リィンバウムに来てから散々な目に遭ったせいか、ここでの生活に安堵と落ち着きを感じずには居られない。

イオスのおかげで気づいた。あたしはここに帰属意識を持っている。

黒の旅団でもギブミモ邸でもなく、パッフェルさんが居て、ユエルが居て、あたしが居る、この場所に。

なんだかうれしくなっちゃうな。

誓約者(リンカー)がフラットをこの世界での自分の家だと感じたようなことを、あたしはこの場所に感じているのだ。

そう思うと、慣れないお仕事や馴染みの無い異世界での暮らしにも耐えていける気がする。

「これからはここがあたしの新しい日常。くす。こんな異世界で日常だなんて、私って結構図太いのかも」

そう呟きをもらすと、あたしはまた日常の中に戻っていった。

しかし、このときのあたしは忘れていたのだ。

あるいは未だにこの世界をゲームだと思って嘗めていたのかもしれない。

油断するべきではなかった。忘れるべきではなかった。

日常とは、非日常な事態においてもっとも輝かしく、かけがえの無いものであることを。

その非日常が、否応無くこの世界を覆いつくそうとしていることを。

平和な生活に漬かってしまっていたあたしは、忘れてしまっていたのだ。
















第7話 「新たなる日常」 おわり
第8話 「反転」 につづく




感想

浮気者さんにまた頂きました!

ナナちゃんはケーキ屋ですねぇ♪

今後どうなっていくのか気になるところですが、今日はイベントの横を走っている感じでしょうか?

今日もパッフェルさんは意味深でしたねぇ〜

ナナちゃんはケーキ屋のバイト気に入ってるみたいですが、ケーキ屋でウエイトレスって…

喫茶店も兼ねてるのかな?

メニューはどうなっているのか気になる所です(爆)

ナナちゃん可愛いですね♪

今後も健気な感じで居てくれるといいんですけど…

それは無理だろうけどね(汗)

まあ、サモンナイトである以上戦いはあるでしょうし。

そうですけど…

可愛いナナちゃんを見せていて欲しいです〜♪


ははは…

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