「……あなたは……いったい……」

目の前に立っている見知らぬ少女を見上げながら、あたしは呆然と呟いていた。

その呟きが聞こえたのか少女はこちらに振り向き、わずかに眉をしかめた。

「私は……」

その後に続く言葉がなかなか出てこない。

少女の釣り目がちで強い光を放つ瞳があたしの目をみつめる。

強い意志を秘めているようにも、他者を拒絶しているようにも取れる鋭い目が、まるで迷子の子供のように揺れているようにあたしには見えた。

「私は…誰?」























『サモンナイト2』二次小説

メルギトスシンドローム









第9話 「仙狐と魔公子」

























そのあとすぐパッフェルさんはあたしたちと別れて憲兵の詰め所へ向かった。

縛り上げた暗殺者たち+カラウスを引き取りに来てもらうためだ。

あたしが召喚してしまったと思われる少女は、送還の仕方がわからないのであたしと一緒にあたしたちの仮宿に戻ることになった。

ぐったりと気絶しているユエルをなんとか担いで帰ろうとするあたしだったが、あんまり危なっかしかったのか、その少女は後ろからユエルを支えてくれた。

人見知りなあたしがおずおずとありがとうと言うと、彼女は平坦な声で気にしないでくださいと答えた。

以後会話らしい会話も無いままあたしたちの仮宿に到着し、ユエルをベッドに寝かせてまもなくパッフェルさんも到着した。

「では、まずは自己紹介からですかね」

到着早々パッフェルさんはそう言って場を仕切る。正直このまま何も話さないでいるのは気まずかったのでありがたい。

「私はパッフェルと申しまして、あらゆるアルバイトで日銭を稼ぎ、老後は裕福な生活を送るのが夢です。過去には暗殺者をやってたこともあるので腕は立つほ うですよ〜」

「へ…へー、そうだったんですか」

本来ならあたしがパッフェルさんの素性を知っているはずは無いので反応に困る。

さも今初めて知りましたというふうに装う(演技力には自信が無いが)あたしの横で、召喚された少女は黙って頷きながらパッフェルさんの紹介を聞いていた。

「さ、次はナナさんですよ〜」

「あ、はい。えと、奈菜です。パッフェルさんの紹介でユエルと一緒にケーキ屋さんで働いてます。あ、ユエルっていうのはこの子のことです。メイトルパの獣 人で、さっきの人たちのリーダーが召喚主だったんだけど、逃げ出してきてはぐれになってたところで私と知り合ったんです」

自分のことはあまり紹介できることが無いので眠ったままのユエルのことも一緒に紹介する。

召喚された少女はそれも黙って聞きながら頷いていた。

「ところで、ナナさんって召喚術が使えたんですね〜。さすがの私もびっくりしちゃいましたよ〜」

「うぇ!?いや、あの〜、あれは…自分でもなんで使えたのかわからないというか……」

「そうなんですか?じゃあ、どうしてサモナイト石なんて持ってたんです?」

「う…だからそれは……知り合いに貰いまして……」

「へ〜え?」

うう、あたしにどう説明しろと?そういうことはメイメイさんに聞いてくださいよ。無我夢中で自分でも何がなんだかわからなかったんですってば〜。

「……ま、いいでしょう。さて、残ったのはあなただけなんですけど、ホントになんにも覚えてないんですか?」

彼女は自分の名前はおろか、住んでいた場所・家族や友人のこと・自分が何者であるのかも、あたしに召喚される以前の記憶がまったく残っていないという。

なんだかあたしが召喚したせいみたいで気が引ける。

「体が覚えているようなことは自然とできる。それ以外の記憶らしい記憶は一切無い。わかるのは主人が奈菜様だということだけ」

……ぅん?今何かすごく不思議な言葉を聞いたような気がするけど?

奈菜…様!?様付け!?いつからあたしそんなに偉くなったの!?

「え?ちょっ!ちょっと!?なんで!?どうして様付け?!ふ…普通に呼んでくださいよ!」

顔を紅くしてあたふたと訂正するあたしにパッフェルさんはくすくすと笑いをこぼし、少女は無表情にあたしを見返して疑問を口にした。

「では、なんと呼べばいいのですか?」

「普通!普通に奈菜って呼んでくれればいいですから!」

「わかりました。これからは奈菜と呼ぶことにします」

「は、はい。そうしてください」

パッフェルさんはあたしと少女のやり取りを微笑ましいものを見るような目で眺めていたが、あたしと少女だけでは会話らしい会話が生まれないのでおもむろに 口を挟んできた。

「それで、私たちはあなたのことをなんとお呼びすればいいんですか?」

パッフェルさんの問いに少女は無表情かつ簡潔に答えた。

「好きなように呼べばいい」

さすがのパッフェルさんもこの答えには困った顔になった。

「好きなように、ですか。う〜ん、困りましたね〜」

しかし困り顔だったのも一瞬のことで、次の瞬間には微笑を浮かべながらあたしの方に視線をよこす。なんだか嫌な予感がした。

「そうだ、ナナさんが名前を決めて差し上げればいいんですよ〜」

「え!?わ、私がですか!?」

嫌な予感的中。いきなり何言い出すんですかパッフェルさん。

「私聞いたことあるんですけど、なんでも召喚獣には召喚した人が名前を付けてあげるのが召喚の基礎なんだとか」

「う…」

た…確かに誓約の儀式では名前を決めて誓約を交わすけど……というか、そもそもこの子とあたしの誓約ってどうなってるんだろう?

「ほらほらナナさん。召喚主として責任もってかわいい名前を考えてあげないと」

「ほ…本気ですか……?」

「もちろん本気と書いてマジですよ。あなたもそれでいいですよね?」

黙って成り行きを見守っていた少女に確認を取るパッフェルさん。

少女はパッフェルさんに頷き返してからあたしの目を見て付け加えた。

「奈菜が決めてください」

「う……うう〜……」

本人にまでそう言われてしまってはどうやら本気であたしが考えなくてはならなくなったようだ。

とはいえ、動物型とか、せめて亜人型ならともかく、召喚獣とは名ばかりで完璧に人間型な彼女に名前をつけるとなると非常に責任重大だ。

変な名前をつけたら彼女はこれから先ずっとその名前を背負って生きていかなければならない。

彼女のイメージに合った、変でも微妙でもおかしくも物足りなくもない、彼女にぴったりな名前をつけてあげないといけない。

ってそんなの無理だよ〜(泣)あたしネーミングセンスないんだから〜(涙)

頭をひねってうんうんと唸っているあたしを眺めてパッフェルさんはニコニコ笑ってるし、当の本人は黙ってじーっとみつめてくるし、ユエルはベッドで眠った ままだし〜。

そのときふと、窓の外に見える月に目が留まった。

そうだ、月。うん。月を入れよう。なんとなくぴったり。インスピレーションは大事だよね。

ならあとは月の前か後ろにどんな字をつけるか……う〜ん、いくつか候補があるな〜……

「どうです?決まりました?」

「えと、いくつかは思いついたんですけど……」

これ以上絞り込むのは無理だ。仕方ない。あとは候補の中から自分で選んでもらおう。

「えっと、まず夕月(ユヅキ)でしょ……」

「それでいいです」

「へ?」

なんですと?

「夕月でいいです。そう呼んでください」

「ユヅキさんですか。うん、いいんじゃないですか、かっこよくて似合ってますよ〜」

え、もう決定?まだ月夜(ツキヤ)とか白月(シラツキ)とか葉月(ハヅキ)とかいろいろ考えてたのに?

「そ…それでいいの?夕月って気に入った?他にもあるけど、それでいいの?」

「はい。夕月でいいです」

「そ、そうですか。……本人がいいんならそれでいいです」

あたしが微妙に落ち込み、同時に肩の荷が下りて安堵したとき、ベッドで寝ていたユエルが飛び起きた。

「え…?ここは……」

「ユエル!」

体を起こしてきょろきょろするユエルにあたしは飛びついて抱きしめた。

「え?ナナ…?」

「ユエル、ごめんなさい。私のせいで……」

あたしが強く抱きしめて謝罪の言葉を述べようとすると、ユエルは突然暴れだした。

「は…離してナナ!ユエルは!ユエルはナナを殺そうとしたんだよ!?」

ユエルが強い力で暴れるものだからあたしは弾き飛ばされてたたらを踏むが、夕月が後ろから支えてくれたので転ばずにすんだ。

その夕月はあたしを支えているのとは逆の手にどこからか長い棒を出現させる。それを見たあたしは驚いてすぐに彼女を止める。

「やめて!ユエルは友達なの!傷つけないで!」

あたしが彼女の棒を持っている方の手にすがりつくと、彼女は何も言わずに棒をどこかに納めた。

「ナナ、どうして?パッフェルさんも。ユエルは君たちを殺そうとしたんだよ?」

「それは、カラウスに操られていたから……」

「あの召喚士たちは憲兵さんたちに連れて行かれました。もうユエルさんが操られることは無いんですよ」

「……本当?」

ユエルが涙ぐんだ目できょとんとパッフェルさんをみつめる。そのユエルにパッフェルさんはもちろんですと答える。

「それに、ユエルさんが望むのなら、あなたをメイトルパへ帰して差し上げることもできるんですよ?」

「「え?」」

あたしとユエルは同時に驚きの声を上げる。

……確かにそうだ。ユエルの召喚主であるカラウスが捕まったのならカラウスにユエルを送還させることもできるはずだ。

じゃあ、何故ゲーム中のユエルはそうしてもらわなかったんだろう?

トリスたちとの絆がそれだけ深くなってたから?それって、あたしたちの絆がそれ以下だったら……

あたしは思わずユエルの顔をみつめてしまう。ユエルはうつむいてしまっていて表情はわからない。

その時、あたしは気づいた。布団に隠れてわかりにくいが、ユエルはズボンについているたくさんのポケットを漁っている。

何を探しているのか、あたしには直感的にわかった。ペンダントだ。

ユエルはメイトルパの気配を感じることのできるそのペンダント、シルヴァーナのサモナイト石を心の拠り所にしていた。

それはユエルが本当はメイトルパに帰りたいのだということを表している。

あたしだって、帰れるなら自分の世界に帰りたいけど、あたしの身勝手な部分はユエルに帰って欲しくないと叫んでいる。

「ユエル」

だからあたしは言わずにはいられなかった。本当は言ってはいけなかったのかもしれないけれど。

「私は怒ってないから。ユエルは友達だと思ってるから。だから、私はユエルと一緒にいたいよ!」

卑怯だったかもしれない。あたしがユエルの立場だったら喜んで帰ってたかもしれないのに、自分勝手な都合でユエルを引き止めるなんて。

でも、難しい言葉を並べたわけでも、気の利いた言葉を考えてたわけでもない、あたしは感情を素直に吐き出しただけだ。

だからかどうかはわからないけれど、布団に隠れてペンダントを握っていたユエルの手は、メイトルパの名残を感じさせる宝物のペンダントを、手放していた。






























「夜逃げしましょう」

パッフェルさんの発言はいつも唐突だ。

「いわゆる裏組織と呼ばれる方々は、何かと言うと報復というものに拘りたがりますからね。このままゼラムに留まっていると無用ないざこざを起こすことにな るかもしれません」

「…だから、夜逃げですか?」

「はい♪」

というわけで、急いで各自の私物をまとめた(バイトのことはパッフェルさんが手配したらしい)あたしたちはすぐにゼラムを出発して、現在夜の街道を歩いて います。

先頭はパッフェルさんで暗い夜道でもさくさく進んでいく。元暗殺者だから夜目が利くのだろうか。

そのすぐ後ろをあたしがついて行き、左にユエルが、右に夕月がついている。

……なんかあたし守られてる?

そういえば、トリスたちが出発するのも今夜だったんじゃ……

ってことは今夜ゼラムは黒の旅団に包囲されてるんじゃないの?

しかもあたしたちが進んでいるのは街道ルート、イオスが出てくるルートだ。

『次に会う時はお互い敵同士だ』

……まずいんじゃないだろうか……

「どうしたの、ナナ?疲れちゃった?」

「え?う、ううん。大丈夫、平気」

「皆さん気をつけてくださいね〜。夜の街道は危険がいっぱいですから」

ええ、いっぱいでしょうとも。街道、山道、草原、どのルートを通っても黒の旅団黒の旅団ですからね。

しかも草原ルートなんか通った日にはルヴァイド&平均レベルの高い兵士の皆さんに迎えられてえらいことになりますよ。

街道ルートが一番安全……って、そんなこと言ったらイオスに失礼か。

いつものごとくあたしの思考がずれていっていると、突然先頭を行くパッフェルさんが立ち止まった。

「ど、どうかしたんですか?」

イオスが出たか!?

「いえ、あれを見てください」

そう言ってパッフェルさんは前方を指差した。

「…明るい…?」

月が出ているとはいえあたしたちの周りは素人のあたしでは足元もおぼつかないような暗さだというのに、前方はるか向こうはやけに明るかった。

あれはファナンの町の灯?……いや、違う。あれは炎、松明だ。

あれだけ大量の松明の灯、おそらくあの一つ一つが黒の旅団兵なのだ。

「こんな夜中に賑やかなことですね〜。こっちは夜逃げ中の身ですからあんなお祭り騒ぎに飛び込むわけにはいきません。迂回しましょう」

「……そうですね」

やっぱりトリスたちも来てたんだ。シナリオだとこのままじゃ敵に囲まれちゃうけど、大丈夫だよね。

ギブソン先輩・ミモザ先輩とシオンさんが援護してくれるはずだもの。

ついさっきシナリオ通りでない事態に直面したばかりだというのにあたしも懲りないが、そうそうシナリオから外れたことばかり起こるとも思えない。

仮にシナリオ通りでなかったとしても、あたしにはどうすることも……う!?

「あ…ぐ?!ああ……あああ!!?」

「!?ナナ?!ナナ、どうしたの!?」

「奈菜!?」

「どうしました?!」

な…に……これは……あぁ…あぁあ……

あたしの中から何かが抜けていく……ダメ………力が……

あたしは自分の体をかき抱いて崩れ落ちた。

夕月が支えてくれたから顔から地面にダイブすることは無かったけど、体がガタガタと震えだし、全身に鳥肌が立っている。

おそらく今のあたしは顔面蒼白で油汗まみれだろうがそんなことは気にしていられない。

「奈菜!奈菜!!」

「ナナ、どうしちゃったの?!ねえ、ナナ!!」

「ナナさん……いったい何が……!?」

体の心が熱い。あたしの中で何かどろどろとしたモノが、すごい勢いで創り出されている。

と同時に、体中が寒い。創り出されたモノがあたしの中身ごと、どこか外へあふれていっている感じ。

やめて……出て行かないで……持って行かないで……全部、抜けていく……あたしの中身が…空っぽに…なる……


































「マグナ!トリス!」
召喚術の詠唱の途中だったネスティがいつも冷静沈着な彼にしては珍しく悲鳴のような声を上げる。

「なんだ、あれは……」

圧倒的優勢を誇っていた黒の旅団の総指揮官ルヴァイドはあっけに取られたように呟きをもらす。

「おいおい、なんだありゃ?!冗談じゃねえぞ!」

「あれは…召喚術なの……?」

相棒のケイナが取り囲まれないように大剣を振り回して奮戦していたフォルテも、番える矢を失った弓をもてあましていたケイナもその光景に危機感を感じずに はいられなかった。

「ご、ご主人様!マグナさん!ど…どうしちゃったんですか?!」

「魔力せんさーガ搭載サレテイナイ本機デハ確認デキマセンガ、異常ナ魔力ガ放出サレテイルノダト思ワレマス」

マグナ・トリスの傍で二人の援護をしていた護衛獣たちにも状況はつかめていないらしく、他を寄せ付けない魔力の圧力に弾き飛ばされないよう必死に踏ん張っ ている。

ミニスもリューグもイオスもゼルフィルドもその光景に戦慄している。

調律者の双子の変容は凄絶な戦場を圧倒するほどの存在感でその場のもの全てに畏怖の感情を抱かせた。

「マグナさん!トリスさん!」

近寄りがたい威圧感を放つ二人の下へ駆け寄ろうとする少女がいた。

聖女アメル。彼女はどこからか二人の召喚士に流れ込む黒い気配に気づいていた。

「よせアメル!近づくんじゃねえ!」

「でも!このままじゃマグナさんたちが!マグナさんたちが……!!」

闇に飲み込まれてしまう!

彼女の言葉は双子召喚士を中心にして起こった爆発のようなまばゆい閃光と地を揺るがすような轟音にかき消された。
































「ナナ!ナナ!しっかりしてよ!!」

「ナナさん、どこが苦しいんですか?!横になったほうがいいんじゃ……」

両膝をついて蹲るような格好で自分の体を抱きしめながら苦しんでいる奈菜にユエルとパッフェルが声をかけている。

奈菜の体温は急激に低下し、脱水症状かと思われるほどの脂汗を噴出してガタガタと震えている。

背中をさすってやったり声をかけてみても反応は無い。周りの様子を知覚する余裕も無いらしい。

とそのとき、どうしてかはわからないが、私は妙なことに気づいた。

視覚で捉えることはできないのだが、奈菜の体から何かモヤモヤとしたモノが放出されているのを私は感じることができた。

なんだこれは?これが奈菜を苦しめている原因なのか?

「?どうしました、夕月さん?」

私の様子の変化に気づいたらしいパッフェルが声をかけてくる。

私は立ち上がってモヤモヤとしたモノの行き先を目で追いながらパッフェルに応える。

「何かが奈菜の体から放出されている。流れていっている先はあの明かりが集まっている方向」

私の言葉を聞いたパッフェルは目を見開いて驚いている。

「わかるんですか?!放出されているって、いったい何が……!?」

パッフェルが私にも答えようのない疑問を口にしたとき、今まで俯いて焦点の合っていない目で地面を見つめていた奈菜が突如天を仰ぐようにのけぞり、絶叫を 発した。

「ああぁ…あ…あああああぁぁぁああああああぁあああ!!!?」

「ナナ!?」

「ナナさん!」

「――――!?」

その瞬間奈菜からあふれ出ていたモヤモヤとしたモノが一際激しく放出され、私は一瞬モヤモヤと一緒に奈菜まで飛んで行ってしまったのではないかという錯覚 に陥った。

実際には仰け反って叫び声を上げた奈菜は力尽きたように意識を失ってその場に倒れこんでいた。

同時に、たくさんの灯が集まっていた方向から強い輝きと爆音のような轟音が響いてきた。


































(俺は…どうなったんだ……?)

(あたしは…どうしたんだろう……?)

(俺はアメルのお婆さんのいる村に行くためにみんなと一緒に夜の草原を走っていた……)

(草原にはルヴァイドが待ち構えていて、敵に囲まれる前に突破しようとあたしたちは必死に戦った……)

(でもルヴァイドと旅団の兵士たちの錬度は予想以上に高くて、俺たちは苦戦を強いられた……)

(気づいたときには旅団の増援は次々と合流していて、あたしたちは進むことも引くこともできなくなった……)

(このままではアメルを奪われてしまうばかりか、大切な仲間たちをみんな失ってしまうかもしれない。そう思ったから、俺は……)

(そんなのは絶対に許せなかった。だから、あたしは……)

(自らの命を削ることも恐れずにありったけの魔力を未誓約のサモナイト石に込め……)

(一か八か、応えてくれた召喚獣に全てを託そうと思った……)

(そしたら……)

(そのとき……)

((あの声が聞こえた……))

さらなる力を望むか?類まれなる魔力を持つ者たちよ。

因果の律を操るほどの力を望むのだな、この世に破滅をもたらさんとする者たちよ。

その願い、この大悪魔メルギトスが聞き届けた。

我が魔王なる力、汝らにくれてやる。

汝らは楽園と霊界を繋ぐ道を我への見返りとせよ。

その暁には悪魔の軍勢が楽園を汝らの望む地獄へと創り変えよう。

その上で汝らは絶対なる者として君臨するがいい。

運命すら跪かせる絶対なる者たち、汝らの名は調律者(ロウラー)。

因果の鎖を意のままに弄ぶ大悪魔の狂信者なり。

(そして……)

(どこからか黒い力が……)

(あたしの中に、流れ込んできた……)

(サモナイト石の異常な輝きと凄まじい魔力の圧力は敵味方関係なくその場にいる者たちの体と心を蹂躙し……)

(あたしの心にかつて魔力の暴走事故を引き起こした幼いころの自分を思い起こさせる……)

(一際強い魔力が流れ込んできたとき、一瞬サモナイト石が膨れ上がったように見えた……)

(次の瞬間には石と魔力が爆発した。太陽が生まれたのかと思わせるような閃光と地面が揺れているかのように錯覚させるほどの音の波があたしたちを襲っ た……)

(そうして……)

(その直後……)

(彼女は……)

(彼は……)

((このリィンバウムに召喚された……))

(人間の5〜6倍はありそうな巨体で真っ白な毛並みの妖狐が天を仰いでひと鳴きすれば暗雲から幾筋もの雷がとめどなく降り注ぎ……)

(あたしたちを見下ろしてしまえるくらい大きな炎の魔人がその豪腕でひと薙ぎすれば火炎を纏った灼熱の竜巻が吹き荒れる……)

(敵も味方も関係ない。荒れ狂う彼らにとって俺たちなどちっぽけな虫の大群も同然だった……)

(絵に描いたような地獄絵図。それを生み出したのはあたしとたった1個のサモナイト石……)

(まただ……)

(あの時と同じだ……)

(もう二度とこんなことにならないように召喚術を習ったのに……)

(もう二度と周りの人に迷惑をかけないように今まで我慢してきたのに……)

(俺は……)

(あたしは……)

((また同じ過ちを犯してしまった……))















第9話 「仙狐と魔公子」 おわり
第10話 「因果を律する者」 につづく











感想

ナナ嬢、少しばかりその力を解放した様子。

霊界の力、大悪魔メルギトス、指し示す破壊…

ナナ嬢の求める世界は一体どんな物なのか、疑問はつきませんね〜

この先、彼女を待つ運命がどんな物となるか期待です♪

深そうに見せかけてますけど、意味の無い言葉の羅列で感想をごまかしてません?

ぐは!!

言い返せない…(汗)


知識の無い事は解釈できませんもんね…作家としての格が違います。

でも、ナナちゃんこの先不安ですね…

後遺症とかも心配です。

う〜んメルギトスにとっても便利だし、暫くは大丈夫だろうけどね…

色々裏はありそうだけど…

裏は読まれたらおしまいな部分もありますし、そういうのは残しておいた方が良いです ね。

でも、結局読めない黒い鳩さんはノータリンであることは変わりませんが。

ぐは!!

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