『サモンナイト2』二次小説

メルギトスシンドローム









第12話 「夢の中のあたしは」

























「ごめんなさい!お待たせしちゃいました?」

「おっそ〜い!何やってたのよもう!」

申し訳なさそうな顔でバタバタと駆け寄ってきた彼女にあたしは愚痴をこぼした。

いつもはあたしの方が遅れてくるのに、今日は珍しく彼女の方が遅れてきた。

「すみません。大事な会議に出席していたもので……」

「会議〜?そんなのいくらやったって無駄なのわかりきってるじゃん。あたしとの待ち合わせより会議なんかを優先しちゃうわけ〜?」

「い、いえ、そういうわけではないのですが……」

あたしの言葉に彼女はしょぼんとした顔になってしまった。背中の純白の羽も心なしか縮こまってしまっている。

しかし実際にはあたしはそれほど怒ってもいないのであった。むしろ珍しく遅れてきた彼女のそんな反応を楽しんでいる。

遅れたといっても10分くらいだし、いつもあたしが遅れてきたときに彼女は笑顔で許してくれるのであたしもこれ以上責めるのはやめることにする。

「ま、いいわ。それより今日も相手してくれるんでしょ?」

「あ、はい。もちろんです」

あたしがそう言うと、彼女はようやく元気を取り戻して天に両手をかざす。

「光あれ」

その言葉と同時に彼女の両手からまばゆい光があふれ、数秒後に光が収まったときには彼女の手には月の光を反射させて鈍く光る剣が握られていた。

「毎度毎度それやるわよね。そんな派手な演出いらないんじゃないの?」

あたしがそう言って右手を前に突き出すと、突然その手の中に片手でも楽々振り回せるくらいの短剣が現れていた。

「やらなくても出せないことはないんですが、なんというか、癖なもので」

「ふ〜ん。やっぱ天使って変わってるわね〜」

「私たちにとってはあなたたちの方が変わっているんですが…」

「まあ、そんなことはどうでもいいわ。さっそく始めましょう」

「はい!」

彼女が返事をするかしないかのタイミングであたしはすでに地を蹴って彼女に突っ込んでいた。

あたしの短剣と彼女の剣のリーチの差を考えると間合いを詰めないとこちらが不利だ。

もちろんあたしも彼女も武器に頼らない遠距離攻撃も使えるのだが、今はお互いにそれを封印している。

あたしが彼女の懐にもぐりこもうとすると、彼女は近寄らせないように牽制しつつ、逆に斬り込んでくる。

「はっ!」

「ぐ!」

避けきれないと悟ったあたしは短剣で彼女の剣を受け止める。

相手が彼女でなければ受けきれなかっただろう。減点1だ。

その体勢のまま、あたしは彼女に蹴りをくらわせようとするが、彼女はバックステップであたしと距離を置く。

しかしそれはあたしにとってチャンス。

彼女の剣の圧力が無くなった瞬間、あたしは力強く地を蹴って飛び退いた彼女にぴったりついていく。

彼女の足が地面につく前に繰り出したあたしの突きは、それを予想していたかのように翼を羽ばたかせて飛翔した彼女には届かなかった。減点2。

「突っ込むだけでは動きを読まれますよ。もっとフェイントを織り交ぜていかないと」

「そんなこと言われたってな〜」

あたしはそういう小細工とかが苦手なのだ。だからあたしの戦法はヒット&アウェイしか存在しない。

「あなたの動きは確かに速いんですけど、単調で無駄な動きが多いんです」

「む〜」

なかなかボロクソに言ってくれる。

だが彼女の言うことはもっともだ。魔力でなら彼女にも負けない自信があるが、剣術では手も足も出ない。

だからこそこうして毎晩特訓してるんだけど、あんまり上達してないような気もする。

「あの…言い過ぎましたか?」

黙り込んでしまったあたしに彼女が心配そうに声をかけてくる。

こういう反応をされるとついついからかいたくなってしまうのがあたしの性分だ。

「言い過ぎ。あたしの繊細な心は深く深〜く傷ついた。泣いちゃうかも」

「ご、ごめんなさい!私、そんなつもりじゃ…!」

あたしのバレバレの演技に人を疑うことも知らなそうな天使はあっさり引っ掛かって必死になって謝罪の言葉を述べる。

ホント、こんなんだから人間たちに良いように使われてることにも気づかないんだろうね。

「ごめんなさい!許してください!なんでもしますから!」

この娘は天使の中でもずいぶんな変わり者だと思う。

白い翼を持つものが黒い翼を持つものに許してくださいだなんて、普通は口が裂けても言わないものだ。

そこらへんが彼女の良い所であり、欠点でもあるんだろうね。

そんな彼女を憎からず思っているあたしは、そっちの方が泣きそうじゃないかと言ってやりたくなる顔で許しを請う彼女にこう言ってやった。

「じゃあ、歌が聴きたい」

「え…?」

あたしの言葉に彼女は目をぱちくりさせる。だからあたしはもう一度言ってやる。

「歌が聴きたい」

「歌…って、私のですか?」

「他に誰がいるのよ」

この場所を知っているのはあたしと彼女だけだし、当然今この場にいるのはあたしと彼女だけだ。

あたしは初めて逢ったときに聴いた彼女の歌が忘れられなくて、もう一度聴きたいと思っていた。だからこれはいい機会なのだ。

ふとした思い付きで出た言葉だったが、口に出してみれば実にいい考えだと思えた。

身につかない特訓に明け暮れるより彼女の歌を聴いている方がずっと楽しい時間を過ごせるだろう。

「この間の歌、もう一度歌ってよ」

「…私なんかの歌でいいんですか?」

「あなたの、アルミネの歌が聴きたいのよ」

「……はい!」

あたしの言葉に彼女は花のような笑顔で応えてくれる。

あたしは近くにあった岩に腰掛けて歌を聴く体勢になる。

月の光の降り注ぐ自然のステージに立った彼女は照れくさそうにこちらを見ている。

そして彼女は歌いだす。優しく澄んだ暖かさを感じさせる声音で。

あたしは今まで歌なんてほとんど聴いたことがないから他と比べようがないけど、彼女の歌は彼女自身の優しさを具現しているかのように聴く者に心地良い安ら ぎを与えてくれる。

天使は皆こんな歌が歌えるのだろうか。

いや、きっとこんな優しさを持っているのは彼女だけだろう。

でなければ白い翼を持つものと黒い翼を持つものは敵対していないだろう。

皆が皆彼女のようだったらこの世に争いは起こらないのかもしれない。

まあ、あたしは争いも結構好きなんだけどね。

でも今は、いつまでも彼女の歌を聴きながら優しさに包まれてまどろんでいたい。

月の光を全身に浴びてあたしだけのために歌い続ける彼女はとても美しかった。

彼女にはいつまでも歌い続けていて欲しい。

いつまでもあたしだけの彼女でいて欲しい。

彼女の優しさをあたしだけのものにしてしまいたい。

しかしそれが叶わないことはわかっていた。

だからせめて、今だけでも、彼女があたしのためだけに歌ってくれているこの時間だけでも長く続いてくれることを願う。

いつまでもこの夢の世界のような楽園でたゆたっていたい。

「奈菜!?」

「「「「「ナナ(さん)?!」」」」」

まだだ。まだもう少し、この心地良いまどろみを楽しんでいたい。

「お寝坊はいけませんよ〜?えい!」

「へ?―――きゃわぁ?!」

ああ、もう少しだけ夢見心地でいたかったのに(涙)

突然の浮遊感と落下の衝撃にあたしの意識は一気に覚醒した。

と同時に、今までみていた夢のことなんてすっかり何処かに吹っ飛んでしまったのであった。



































「―――いたたた……」

「おはようございます、ナナさん」

床に打ちつけたお尻をさすりながら声のした方を見上げると、パッフェルさんがニコニコ笑顔で見下ろしていた。

その両手には掛け布団が握られている。

おそらくあたしのしがみ付いていた掛け布団をパッフェルさんが引っぺがして、その拍子にあたしはベッドから落っこちてしまったのだろう。

ほんの少し恨みがましい視線を送ってやると、パッフェルさんは笑顔を崩さずおっしゃった。

「ナナさん、おはようございます」

「お…おはようございます……」

笑顔に有無を言わせぬ迫力を感じ取ったあたしはちょっと怯えながら挨拶を返す。

そんなあたしをいきなりの衝撃が襲った。何かがあたしに飛びついてきたのだ。

「ナナ!よかった!よかったよぅ〜!!」

「ゆ、ユエル?」

飛びついてきたのはユエルだった。ユエルはその大きな瞳いっぱいに涙を貯めながら犬か猫のようにあたしに擦り寄って来る。

「ナナ、よかった。気がついたんだな」

「もう!すっごく心配したんだからね!」

「ナナさん……よかった……」

ふと気がつけば、周りには見知った面々があたしを取り囲んで微笑んだり怒ったり涙ぐんだりしている。

「み…皆どうしたんですか?何かあったんですか?」

あたしが戸惑いながらもそう訊くと、パッフェルさんがなんでもないことのように答えてくれた。

「三日三晩眠り続けていたナナさんが気がつかれたので皆さん喜んでいらっしゃるんですよ〜」

「へ?三日三晩…?」

一瞬なんのことかわからなかった。次の瞬間にはあたしそんなに寝坊してたのかと考える。

「ナナさん、3日前にゼラムを出発したのは覚えてますか?」

「え、ええ、覚えてますけど、3日前?」

「じゃあ、街道の途中で突然苦しみだして倒れちゃったのは覚えてますか?」

「苦しみだして…?」

う〜ん、そんなことあったかな〜?あったような、なかったような…?

「ナナさんはそれから3日の間飲まず食わずで眠り続けてたんですよ〜」

……言われてみれば、とてつもなくお腹がすいてるような?喉もカラカラだし……

「ちなみに、下のお世話は私たちで分担してやらせていただきました〜」

「ええ!!?」

あ、やばい、くらくらしてきた。衝撃的事実にあたしの脆い精神が砕かれそう(泣)

あたしがお先真っ暗な心境で床にへたり込んでいると、なんだか居心地悪そうにマグナが口を開いた。

「え〜と、ナナも目が覚めたみたいだし、俺たちはそろそろおいとまするよ。こんな大勢で居座っちゃ迷惑だろうし」

……確かに多いな。気のせいか護衛獣ズが二人ほど増えてるし。

「そうね。病み上がりで騒がしくしちゃ、良くないわよね」

トリスもそれに賛同し、なんだかその場は解散のような雰囲気になった。

「それじゃナナ、また今度会いに来るから」

「あ、はい。また今度」

「騒がしくしちゃってごめんね〜」

「私が呼んでおいて御構いもできませんですみません皆さん〜」

「またね!」

「ナナさん、早く良くなって下さいね?」

「はい、ありがとうございます」

それぞれに辞退の言葉を残して聖女ご一行は去っていった。

起き抜けに慌しくいろいろあって、事態の終息にとりあえず一息ついたあたしは気づいていなかった。

あたしが起きてからずっと、いや、眠っている間もずっと見守り続けてくれていた夕月の慈愛に満ちた視線に。




































「おい、ニンゲン」

「なに?バルレル」

奈菜たちの借りている宿を出てすぐ、今まで黙り込んでいたバルレルが口を開いた。

ちなみにニンゲンという呼び方はやめるようにトリスに何度も言われているのだが、なかなか改めようとしない。

「あいつら何者だ?」

「ああ、紹介してなかったわね。あの人たちはゼラムのケーキ屋で働いてた人たちで……」

「あいつら、本当に人間か?」

「え?ユエルはメイトルパの獣人だけど?」

「そんなの見りゃわかるんだよ!俺が言ってるのは棒振り回してた奴と寝てた奴のことだ!」

「もう、なに怒ってんのよ。ナナたちのこと?人間に決まってるじゃない」

「何を根拠にそう言いきれるんだ?」

「根拠って、どう見ても獣人にも妖怪にも天使にも悪魔にも機械兵士にも見えないじゃない。もしかしたらシルターンの人かもしれないけど、どのみち人間で しょ?」

「ケッ。つまり確証はないんだな」

「なによ〜。ナナたちが人間じゃないって言うの?」

「わからねえから訊いたんだよ」

「なによそれ?」

「どうした?なんの話だ?」

トリスとバルレルの言い争いを見かねたのかマグナが口を挟んでくる。

ちなみにレシィはトリスとバルレルの間でおろおろしており、マグナの参戦にほっとした顔になった。

「聞いてよマグナ。バルレルがナナとユヅキさんのこと人間じゃないって言うのよ?」

「人間じゃない?どういうことだ?」

「別に人間じゃないとは言ってねえ。ただ普通の人間とは違うって言ってるだけだ」

「普通の人間とは違う?ナナとユヅキさんが?」

「う〜ん。ユヅキさんについてはわからないけど、ナナは普通の女の子だと思うけど?」

「ケッ!お前らの目は節穴かよ。お前はどうなんだジュウジン?」

そう言ってバルレルはレシィに話を振った。まさか自分に矛先が向けられるとは思っていなかったレシィは慌てたように答える。

「え!?僕ですか?!え、えと、ナナさんは普通の人だと思いますけど……」

「……使えねえジュウジンだな。だったらヨウカイ、てめぇはどうだ?」

今度はハサハに順番が回ってきた。

皆の視線を一身に受けたハサハはひるんでマグナの背後に隠れたが、手に持った宝玉をみつめながらポツリとつぶやいた。

「あのひと、おねえちゃんににてる」

「お姉ちゃん?」

「うん。アメルおねえちゃん」

「え!?あたしですか!?」

名前を出されたアメルは驚いているが、バルレルはふんっと満足そうに笑った。

「そいつはわかってるじゃねえか。そうだ。あいつらはそこのオンナと似たような気配がしやがる」

ハサハとバルレルの言葉に他の者は困惑する他ない。

「どういうことだ?まさかナナとユヅキさんも聖女だとか?」

「知るか。ていうか、そもそも聖女ってのはなんなんだ」

「アメルみたいに癒しの力を使える人のことなんじゃないの?」

「そんな力を使える奴がホントに人間なのか?そのオンナも、あいつらも」

「バルレル!」

「ケッ」

「アメル、気にするなよ?人間にだって、ストラとか召喚術とか、不思議な術を使える人がいるんだから」

「は、はい…」

「シカシ、聖女トイウモノガナンデアルノカハ我々ニトッテモ重大ナコトデアルト思ワレマス」

「…どういうことだレオルド?」

「主殿ノオッシャル通リ、癒シノ力ナラすとらヤ召喚術デ代用デキルハズ。黒ノ旅団ガ狙ッテイルノハモット別ノ力ダト思ワレマス」

「癒しの力以外の聖女の力か…」

「何かわかる?アメル」

「いえ…」

自分のことなのに何もわからないと悩むアメル。

周りの者はそんなアメルを見かねてなんとか励まそうとする。

少し離れたところから人間たちの馴れ合いを眺めながら、悪魔の少年は誰にも聞こえないような声でつぶやいた。

「あの気配…どこかで……?」















第12話 「夢の中のあたしは」 おわり
第13話 「話せばわかる?」 につづく




感想

感想が遅れて申し訳ない(汗)

どうにか、書ける状況になりそうです。

お話は山場に近づいてるかな?

ナナちゃんの裏設定が少しだけ開示されましたね〜

それもどうやらアメルと関係ある感じです。

ちょっと女の子同士風味な感じですが(爆)

話を見ていても良く練りこんであると感じますね。


私は話を見ていて、裏を予想させる、深みを残しておくというのは大事だと思うんです。

裏とは開示されずに残っている情報の事であり、

同時に公開されると今までのお話と方向性が変わってしまう可能性を含む物です。

深みとは、漏れ出したメインのお話以外の情報であり、

また、同時にどこかで何かと繋がっている事を予想させる情報であったりします。

これらの情報を時には出し、時には隠し、読み手に先を予想させつつ、

それをいい意味で裏切り、もう一歩先の話を作る、

コレができる人は素晴らしい作家です。


私の見たところ、浮気者さんはその手法をある程度行っているようです。

ですので、良い作品であると私は感じます。

ただ、やはりナナちゃんの動きが小さい為、どうしても派手さに欠けるきらいがあるのは否定できませんが…

日常と非日常を上手く使い分けられるようになれば、更に良いと思いますよ。


それでは、次回も期待しております♪



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