「そ、そんな……」
「うそだろ……ルイズが……」
「ゼロのルイズが……」
ざわざわと、群集がざわめく声。
集まった群集は皆、少年少女ばかり。
少年少女達は着ているは同じだが、皆決して安くはないだろう立派な物を着ている。
手にはそれぞれ杖のような物を持ち、背には丈の長いマントを羽織り
その様子はまるでおとぎ話に出てくる魔法使い―――もしくは貴族のよう、とでも言えばいいだろうか。
そしてその中心、大きく輪になった群集に見守られる中―――ピンク髪の少女は『それ』を見上げていた。
「きゅい?」
『それ』は目の前にいる自分より遥かに小さい少女に視線を合わすと、巨大な体躯とは裏腹に可愛らしい鳴き声をあげる。
あまりにも巨大な、そして神秘的な『それ』の姿に放心状態となっていた少女は、自分に向けられた鳴き声にはっとする。
そしてその巨大かつ神秘的なそれこそが、自分の成し遂げた功績そのものであると、ようやく自覚する。
「や……やった……やったわ! 私、とうとうやったのよ!」
高らかに宣言するかのように、ピンク髪の少女の歓喜の声が草原に響き渡った。
「おおっ、す……すっげーっ! ドラゴンだドラゴン! うはー! かっけぇ!」
少し離れた場所に座り込んでいた少年もまた、歓喜の声をあげた。
突如として現れた、遠目からでも見えるほどに巨大なそれは、まさに竜―――ドラゴン。
そんなファンタジックな光景は男の子としては純粋な憧れである。
少年の隣に立っていた少女は、そんな少年をちらりと見て、呑気なものだ、と深くため息をつく。
―――草原に、春の風が吹く。
さわさわと吹く暖かな風が、少年の黒い髪と、少女の青い髪を優しく撫でた。
ゼロの使い魔 SS
青の使い魔
プロローグ 青と黒
「さてと。じゃあ皆、教室に戻るぞ」
集まった中で唯一の中年、若干不自然な毛髪のおっさんが全体に向けて声をかける。
どうやらこのおっさんが指導者っぽい立場らしい。
そのちょっと前にも、でっかい竜とピンク髪の美少女のキスシーンという下手したら食われるんじゃないかとも思える
漫画やアニメのような1シーンがあり、そこでもアニメみたいだと興奮していた少年だったが、またも仰天した。
「と、飛んでる……」
周りにいた連中が次々と空に飛び立って行ったのである。
もしや自分も飛べるのでは、と思いなんとなく気を溜めてみたりパタパタと腕を動かしてみたが、残念ながら飛べなかった。
「……なにしてるの?」
「どぅわあ!?」
誰も見てないと思っていたのだが、自分をじっと見ている少女がすぐ隣にいた。
これは実に恥ずかしい、少年は数ヶ月ほど前に自室で「かめはめ波っ!」と叫びながら両手を突き出していたところを母親に目撃された時の事を思い出してい
た。
少女は初めてあった時からずっと変わらない無表情のままだったが、こんな状況では怪訝な表情で見られているような気すらしてくるというものだ。
「い、いや……なんでも……ははは」
誤魔化しつつ、少年は少女から視線を反らす。
先ほどの奇行を見られて恥ずかしかったのもあるが、それとは違う理由が少年の頬を少しだけ赤く染め上げた。
そんな少年の心情などいざ知らず、少女は少年の服の袖をくいくいと軽く引っ張り、注意を引くと同時に持っていた杖を振り上げた。
「ん? おっ? おわっ!?」
杖の動きに連動するように、少年と少女の身体が同時に浮き上がる。
まあ、実際に杖の動きに連動しているのだが、それはいまの少年の知る由ではない。
「お、俺も飛んでる!? さ、さすがファンタジー」
何の支えも無い浮遊感に包まれ、流石に動揺したが
周りの連中に比べてややゆったりとした速度だった事もあり、それもすぐに高揚に摩り替わる。
(ま、せっかくこんなリアルな夢なんだし、素直に楽しまなきゃ損だよな)
少年はそう思い込む事で全て受け入れる事にした。
少年の現実にはこんな事はありえないのだから。
人が空を飛ぶ事も、竜がいる事も、それは少年の夢オチ意外では説明がつかない。
しかし少年にとって不幸な事にこれらは全て現実である。
ここは少年にとっての異世界、2つの月が世を照らし、空想の生物が闊歩する世界。
そしてこの地はトリステイン魔法学院、魔法が存在し、人が空を飛ぶ世界である。
トリステイン魔法学院では春に生徒達が自らの使い魔を従えるため、サモン・サーヴァントと呼ばれる召還の儀を執り行う。
この儀式により、生徒達は生涯自身に仕える生物をどこからか呼び出し、自らの使い魔とする。
つまり少年もまた、使い魔となるべく他の生物と同様に呼び出されたのだ、ただ1人だけ、異世界の使い魔として。
そしてもう一つ、少年にとっての不幸は
周囲に比べて飛ぶ速度が遅いのは、少女が人間2人を
飛行
という魔法で運ぶのに慣れていなかったとい
う事。
この事が、このすぐ後に厄災となって少年に襲い掛かる事になる。
ふわふわと飛ぶこと数十分、なにやら学校のような建物が見え、ようやく到着か、と少年が周囲を見渡した時。
ギュオオオオオ! と物凄い音を上げ、何かが猛スピードで飛んできているのを少年は見た。
背中にピンク髪の少女が乗っているのがなんとか視認できた。
おっ、さっきの竜じゃん、ああいうのもいいなぁ、ドラゴンライダー! かっけー
なんて事を考えている内に、ピンク髪の少女を乗せた竜は真直線にこちらに向かってくる。
よーく目を凝らして見ていると、背に乗った少女もこちらに気づいたようだ。
「きゃ、きゃあああああああああ! よ、避けてえええええええ!!」
「きゅいきゅい〜♪」
楽しげな竜の声と、人を轢く寸前のF1ドライバーの表情の少女。
いや、そんなの見たことないけどさ。
「って、えええええ!!? お、おい! 避けろって言ってるぞ!?」
「え……」
少年は自分を浮かしているらしき少女に回避を促したが。
慣れない2人飛行に集中力を割いていたいた青髪の少女は、竜の急速接近に気づいておらず、少年の声にようやく周囲を見渡す。
「あ……っ」
その時にはもう遅かった、実際は直撃するほどではなかったが、2人の横をすれ違った巨大な竜の風圧は慣れない2人飛行を軽々と吹き飛ばす。
「どわぁあああああ」
「くっ……」
少年と共に吹き飛ばされる中、少女は思う。
幸いにも下ではなく横に飛ばされたため、物凄い勢いのまま地面に叩きつけられる事は無い。
そしてほぼ水平に飛ばされたため、物凄い勢いのままではあるが、回避行動は取れる。
しかし―――。
カラン、と音を立てて、少女の持っていた杖が地面に転がり落ちた。
魔法使い―――メイジはいわゆる魔法を使える、先ほどの飛行や、浮かぶだけの
浮遊
でもい
い、それらで衝撃を回避できる―――筈だった。
しかしそれらは全て杖があってこその話だ。
メイジは杖が無くては魔法は使えない、杖がなければただの人、そしてただの少女である。
少女は自分を心中で叱咤した、こんな程度で杖を落とすなんて。
いまのがただのクラスメイトの事故だったからまだいい、だがもし敵意ある刃だったなら自分は死んでいるかもしれない。
だけど、死にはしないだろう、受身さえ取れれば。
相当に痛いだろうけど、それを教訓として受け入れよう。
接地まで2〜3秒、受身の体勢を取ろうとした瞬間。
ぐいっ、と何者かに身体を押さえ込まれた。
何者か、といえばそれは一緒に飛んでいるはずの少年である。
少年は吹き飛ばされつつも『夢だから痛くない』という前提の元に、空を泳ぎ、少女を抱きかかえた。
杖が無いから魔法が使えない、などという事は少年は知らない。
少女が魔法使いだからとか大丈夫だとか、そんな事も関係ない。
それは夢だからこそか、それとも少年の本心か。
ただ、目の前の女の子を守りたい。
それだけを思い、少年は少女を強く抱きしめる。
(あーそういえば……こういうのって大抵これで夢から覚めちまうんだよね、くそう、もうちょっと夢の世界にいたかったな)
そんな事を思いながら、2人は少年が下という形で地面に叩きつけられた。
小柄な少女を少年は腕にすっぽりと包み込み、そのまま2人は十メイルほど地面を転がり続け、ようやく止まる。
地面を転がり回ったせいか、少女はふらふらな状態ではあるが、なんとか意識を保っていた。
頭の中がグルグルと回っているようで、とてもじゃないが目を開けられない。
身体を動かそうとするが、モゾモゾとしか動かない、骨でも折れているのだろうか。
そう少女は考え、悪化しないように全身から力を抜く。
早いうちに応急処置はしたいが、ふらついた頭ではそれもままならない、それに―――。
(……ここはトリステイン、私の『敵』はここには居ない)
それは『甘え』であると、少女自身も自覚はしている。
例えここがトリステインであろうと、戦士としての彼女にそんな甘えは許されない。
先ほどそう自身に戒め、いま現在この状況こそがその報いであるというのに。
それでも少女は何故だか、まだ起きたくないと思ってしまう。
しかし、実際には少女の身体には骨折どころか軽度の打撲すら無いのだ。
それでも少女にもいくつかの擦り傷ができてしまっている。
草原であった事が幸いし、それほど土の露出している場所は多くは無いが、それでもまったくの無傷というわけにはいかない。
しかしそれは逆に、よくたったそれだけの怪我で済んだ、と十分に言える事だ。
実際、地面の落ちる前には少女も最低でも骨の1つは覚悟していた。
それも、体術の心得が多少はある少女でこその話だ。
それほどの勢いで吹き飛ばされたのだ、もし落下地点が広い草原でなく、転がった先に学院の壁でもあったなら、命が無かっただろうほどに。
頭のふらつきは大分収まったが、少女は未だ起き上がろうとはしなかった。
心地良い暖かさが自分を包んでいるような気分が、彼女に長く忘れていた安らぎを与える。
それはまるで幼い頃に母の腕に包まれていた時のように――――
トクン トクン
耳に届いたその鼓動に、何故自分がその程度で済んだのか、その事にようやく頭が回った。
すぐさまはっと目を開き、何故身体が動かなかったのか、その理由にも気づく。
開けた目のすぐ前に、少年の顔があった。
血で濡れてはいるが、知っている顔だ、なぜならそれは自分の召還した使い魔―――。
少年は、少女を強く抱きかかえた体勢のまま気絶していた。
あおのつかいまのあとがき
略してあお書きっ!(以下統一)
どうもっ作者の雪夜です☆
読んでくれてありがとうございますというか
読ましてしまってすいませんというか……(笑)
そんなこんなでブランク明け1発目! ……またしても長編……w
まあなんていうか、最萌トーナメントでタバサが1回戦目でらき☆すたのこなたと当たって
負けたのでかっとなって書きました。
我が人生に悔い無し。
タバサかわいいよタバサ
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