元ゲーム研究部雑談論法

「人は神の視点になったときにどのような選択を是とするのか?」

<<これは女の子二人がギャルゲーの並列世界の概念について語り合うというお話です。過度の期待は禁物です>>

プロローグ 「人間は常に選択を強いられている」

みかみ あいほ
三神 愛保
は喫茶店を訪れた。
自宅から電車を乗り継ぎ、駅から15分ほど歩いたところにある馴染みの喫茶店。喫茶店「エベレスト」と店名が装飾された扉を開けると、知り合いの女の子と目があう。
黒髪が似合う彼女は三神が学生時代に所属していたゲーム研究部の後輩の
さきもり きりは
咲森 霧葉
。三神を電話で呼び出した張本人である。

「お久しぶりでーす! 先輩」
「相変わらずね。それにしても引きこもりのアンタが外で話がしたいなんて言うからつい来ちゃったけど……あたし、それほど暇じゃないのよ? 仕事もあるし」

とは言うものの、正直仕事が煮詰まっていた。外に気分転換に出かけようと考えていたところだったのでちょうど良かったのではあるが。

「はい、それは重々分かっております。エロ漫画家サマ」
「ちょ、時と場所をわきまえろ、バカ。こんな公衆の場で口外するとか、ただの嫌がらせに過ぎないぞ?」
「もしかしたら今の店員さんに聞かれてしまいましたかね?」
「わわっ……! え? 嘘!?」

急に挙動不審になった三神。店員が訝しげな様子でこちらを伺っている。
咲森はそれに気づいた様子でニヤニヤと笑っているだけ。
まったく――たちが悪い後輩である。

「店員さんが何なの、この客……って感じでこっち観てますねー。ニッコリ笑って手招きしてみましょう」
「な! アンタ一体何を……」

皮肉を逆手に取った攻撃的な切り返し? 気に入らない店員にクレームの嵐とか……?
店員も不審に思っていたのだろう、何事かと恐る恐る近づいてきた。

「すいません。注文なんですけどいいですかー?」
「注文だ・よ・ね! よかった。もし、嫌味全開の側面を見せられたら……」

次回作がNTRものになってしまうところだった……三神はほっと胸をなでおろした。



時刻は午前9時を過ぎたところで休日の朝にしては店内に人は少ない。ここの店はランチが有名なので昼食時には混みあう。それまでに店を出れば問題無いだろう。

「こ、コーヒー。ホットで」
「私はAセット、ドリンクはレモンティーでお願いしますね」

注文を済ませ、メニューをテーブルの脇に片付けたところでふと三神は思った。
人間には大きく分けて二つに区分されると思う。喫茶店でブルジョア気分を味わうことができる人間とそうでない人間だ。
モーニングの時間帯なのにあえてレギュラーメニューを頼む咲森。明らかにブルジョアだと三神は思うのだ。
確かにAセットにはハッシュドポテトとソーセージがついたセットでゆで卵の代わりにフワフワのスクランブルエッグがついてくる。スクランブルエッグは確かに魅力的だけど、人生慎みってものが大事じゃない?
モーニングメニューで十分でしょうが! 三神は心の中で叫ぶのであった。
ちなみに喫茶店文化が根付いたこの地域では、コーヒーを頼むことイコールこんがり焼いたトーストとサラダとゆで卵(店によって異なるが)がついたモーニングセットを意味する。
ドリンク代で軽食がついてくるお得なメニューなのである。

「今日はアンタの奢りとか言ってたけど、金持ってんの? あたし、正直それだけが心配だった。思わず、無難なメニューにしちゃったし」
「大丈夫です。二人合わせて予算10000円までに抑えてくれれば、先輩の財布と心をすり減らすことはありませんので」

えっへんと胸を張る咲森。

「え? 引きこもりなのに? 金持ってるの? あたしより?」
「フッフッフッ! もう引きこもっていた頃のワタシではありません! 実は就職したんですよ。某町工場、デスクワーク担当として」

冬場は自室のコタツから一歩も出ない、いろんな意味で温室育ちの引きこもりがよくもまぁ成長したものだ、と三神は感心した。

「何、そのカミングアウト!? あんたパソコンとかできたの?」
「……えぇ、引きこもりだったのでひと通りは。ま、でもやることは主に電話番ですが」

だが、気になったのはそこではない。最大の疑問が残っている。

「……それよりまず、デスクワーク担当って何!? 町工場でしょ!?」
「やはり気になりますよね。ただ、名刺がそうなっているんですよ? ほら」

名刺の渡し方が様になっているのがなんかムカつく。そんなことを考えながら三神は渡された名刺をまじまじと見つめた。そこには名前の上にデスクワーク担当の文字が印字されている。

「あ、ほんとだ。ふぅん電話番ねぇ……」

三神はテレビ通販のコールセンターに所属するお姉さんを想像してしまったが、職場が町工場だということを思い出した。とすれば認識を改めなければならないだろう。
外で30tプレスがガチャコンと金属を打ちぬく音が鳴り響き、たまに金属を削るグラインダーのキュゥィイインという音が交じる。事務所と呼ばれる一角には事務机がところ狭しと置かれ、その上に帳簿やら生産指示の伝票などが置いてあり、その片隅の机には一台の電話とその電話番をする咲森の姿が想い浮かぶ。
きっとそういう感じに違いない。三神はイメージを補正して勝手に納得することにした。

「なんか、デスクワーク担当とか言い方がアレよね。実際大したことしていないのにそれっぽく見せるあたりが」
「訂正しましょうか? 某スモールファクトリー テレフォンオペレータみたいな!」
「ごめん、単にウザさが増しただけだった……」



第1章 「真のエンディングとは?」

「で、本題は何? また今回も単なる雑談なんでしょ?」

三神はたびたび相談と称して咲森に呼び出されることがあった。今日もその類のものなのだろう。

「また……とか、失礼な人ですね……大正解ですが。今回は『究極の選択』つまりは選択肢の優位性について語り合いのです」
「あの有名な『カレー味のウン×かウン×味のカレー、どっちを食べる』ってやつ?」
「発想が小学校低学年の男子並ですね……それは『究極の選択』と言うより『最悪の選択』です」
「ゴメン話がそれたわ、で?」

咲森はコホンと咳払いをして、心に溜まったものを吐き出した。

「複数人攻略できる美少女ゲームありますよね?」
「何? 改まって……いつものようにギャルゲーと呼べば……」
「果たしてどのルートが一番ゲームの世界観を表しているのか、気になりませんか!?」

三神の言葉を遮って、疑問を口にする咲森。喫茶店で女同士がする話題じゃないというツッコミはこの際だから置いておく。

「パラレルワールドっていう設定なんだから……問題ないじゃない? はい、議論終了?」
「終わりなんかじゃないですよ! これは大変な事態です! 悩ましい事態です! 考えてみてください!」
「ヒロインを全攻略した後、最後にトゥルーエンドというルートが開放されるゲームがあるでしょう!」
「確かにね……でもそれがどうしたの?」
「それはすなわち、数ある並列世界の中で1つだけ優位性をもたせられた世界が存在しているということなのです! その世界を観測してしまった私はいてもたってもいられせん! 別ルートのあのキャラの笑顔はその後から来たトゥルーエンドによって否定されるべき存在となっている気がしてならないからです!」

そんなのどうでもいいよとか、いろいろと突っ込みたい。まぁ彼女なりに悩んでいる様子なので野暮なことは言わないけれども。

「……じゃあ、こういうケースはどう? メインヒロインが全攻略された後に開放されるモブキャラのオマケエピソードがあるゲームの場合……ルートの開放順で世界観の優位性が決まってしまうならばモブキャラのストーリーはメインキャラより優位になってしまう可能性があるわけだけど?」
「そのケースはもっと悩ましいです。オマケとしての話なんだから最後に楽しんでもらうのはある意味妥当なんですよ……プレイヤーもそのオマケ的世界をパラレルワールドと認識できるはず。……なのですが最後にサブキャラのエピソードにそれなりにボリュームがあった場合に最終的なゲームの印象ってそのルートに大きく引っ張られてしまうというか……」

確かに思い当たる点がなくはない。過去にやったゲームの中で安全牌だと思って一番最後に回したお姉さん的なキャラのルートが実は主人公監禁調教ルートだった事がある。その時の悲壮感はあまり思い出したくない。

「でも、それはプレイヤーが経験的に自分なりにゲームを楽しめる攻略順序を会得していればある程度解決できる問題じゃない? ゲームの話の展開をある程度想像した上でペース配分を考えてツンデレ → メイン級ヒロイン → ロリ → お姉さんのような。攻略順序がゲームによって決まってたりすると成り立たないけど」
「玄人限定で話を進めないでくださいよ! ペース配分まで考えてプレイするとかどこのヘビープレイヤーですか!?」
「違うの? 特定のライターの無条件買いとかしてたんじゃなかったっけ?」

特定の原画師、シナリオライターのゲームを無条件買いする行為のことである。気に入ったブランドのゲーム無条件買いすることはあるかもしれないが、その行為とは似ているようで決定的に違うものがある。
『経験』の差である。酸いも甘いも経験した人間が導き出した経験則がなせる技なのだ。
人はこれを重度のギャルゲーオタクと呼ぶ。

「……オホン。基本的にルート開放順は伏線と関係しているのです。ネタバレを防ぐためにルートをロックするという考え方ですね。その考えにもとづくと攻略がロックされているサブキャラルートの場合、他のルートでネタバレが行われた上での話になるためにその世界の深い情報に触れる頻度が高くなる。当然、最後にプレイした方のルートのほうが記憶は深く残っているはずですから、ゲームを振り返ってみて世界の深さを比較した時にメインルートが何だったのかという疑問が生まれてしまう可能性は否定出来ません。それを解消するために考えられたかどうかはわかりませんが、全キャラルートとは別にゲームの世界観を踏襲したトゥルーエンドを用意してゲームの終わりにプレイヤーが感じる印象を調整しているゲームがあるわけです! これはすなわち製作者がこのゲームを通して伝えたかった世界観はこれですよと主張していることに他なりません!」
「ごめん、それが問題にあるわけ? 優位性があることで何かが問題になるという根拠がイマイチわからないんだけど」
「ワタシが納得しがたいのはですねぇ〜。製作者の手によってキャラクターのエンディングに優位の差つけられているということなのですよ! この手のゲームの共通認識としてゲームでは並列世界によるマルチエンディング、そこには主人公の選択によりルートが決定するという公平性があると思うんです。だから製作者がゲームの印象を調整するために主張した世界観は各キャラクタールートとの公平性を崩してしまう。共通認識の上で動くシステムを製作者自ら壊していることになるんです! だから私はこの世界観の優位性を尊重すべきなのか、公平に立ち返った上で世界を比較して渡り歩くか悩んでいるんですよ!」

たんに好みの問題では? とも思わなくもない。ヒロインAとBのどちらの世界がゲームにふさわしいかなんてプレイした人間によって変わってきそうだし。
製作者のオススメでトゥルーエンドを任されるヒロインがいるというだけで、プレイヤーはもっと自由になっていいと思うのだ。

「それはアレ……エゴってやつよ。なぜならその考え方は物語を俯瞰できる『神の視点』でなければ考えつかないことだから。それぞれのルートの優位性を見出すなんて世界の比較をしなければ成り立たないはず。ありえないフラグの立て方をする主人公でさえ抗うことのできない次元の話なのよ」
「えー、つまりシナリオから比較して優劣をつけるという考えはナンセンスということですか? ワタシの悩み全否定?」
「楽しむのは構わないけど悩むまでの意味は無いということをアドバイスしたかっただけ。あと、アンタはこう言ったのよ? どうして製作者はエンディングに優劣をつけたのかってね。この問題はゲームの内容の問題ではなくてプレイヤーと製作者の間(神の視点に立つもの)同士で行われるべき次元の話なのではないかしらね」
「単なるギャルゲー談義に花を咲かせろとおっしゃるのですか!?」
「え? なんか違うの?」
「もっと壮大な話をしている気でいたんですが……」



第2章「あるべき世界の方向性なんて別世界の観測者にならなければ意味がない!」

「わかりましたよ。もうギャルゲー談義でいいですよもう」

咲森はいじけた様子で追加注文で頼んだバナナジュースに口をつけた。
ギャルゲーに深い愛着をもった人間にとって、大した問題ではないとか無意味な行為だと結論付けられたのは、残念な結果だったのかもしれない。
結論づけた三神自身も考え方自体を否定するわけではなかった。このような話をすることが無駄なことだったなんて切り捨てることはしたくないしするつもりもないのであるから。

「ま、ここは開き直ってギャルゲー談義に花を咲かせようじゃないの。ホラ、並列世界そのものを渡り歩くようなストーリーの場合はもっと難解じゃないかしら? 例えば、ある時間軸で殺人が起こって、それを回避するために別の時間軸に渡るという話があるとするじゃない? 一見、救済を行ったように見えるけど、それは観測者の視点に立った場合にそう見えるだけで、実は根本的解決にはなっていないのは分かる?」
「確かに殺されたという事実は元の世界では変わっていませんからねぇ〜。少なくとも救済ではありませんね。改変とも違う気がしますし」
「今の世界では救済できないけど、並列世界で救済されるからとか言われて納得できる? お前は、今の世界では一生独身だけど、別世界ではハーレム築いているから気にすんなって言われているのと一緒よ?」
「それは、まぁ……別世界のワタシに向かって爆発しろって叫んでエンディング迎えそうなシチュは勘弁して欲しいです……」
「その救済方法に満足できるとすれば『観測者』つまりプレイヤーと製作者だけだったりするのよ」
「『観測者』って主人公とは違う存在なんですか?」
「主人公は世界を写すカメラの内のひとつ。観測者はそのすべてのカメラを見渡せる存在。確かに主人公の視点が一番多い観測ポイントであるには違いないけど、他のキャラクターで語られるエピソードもあるわけだし観測者とは異なるわね。観測点とでも言うべきかしら。世界観の説明のために引用されることがあるシュレディンガーの猫って知ってる? 量子論の」
「箱の中に猫を入れる。そして箱のなかの猫はある確率で死ぬ。箱のなかを観測するまでは生きている状態と死んでいる状態の2つの状態が重なりあっている、観測するとその状態はどちらかに収束するという思考実験ですよね? バッドエンドとハッピーエンドの2つの状態があって観測によってストーリーが決定するという展開は見たことがあります。最初は斬新な方法だと思いましたけどだんだんパターン化されてきましたね……」
「シナリオライターの逃げの手口としか思えないのよ! その世界軸の中だけで危機を回避するならともかく、別世界で救済ってそりゃ暴論にもほどがあるわよ」
「何か恨みでもあるんですか?」
「ちょっとしたコンプレックス。そのゲームに罪はないわ。プライドが高い人間が構築したような世界観って癖があってね。なんだかそれが気に障るのよ。気にいらないならゲームをするなって話なんだけど……」
「同族嫌悪とも違いますね、嫉妬ですかね……」
「実際大した実力を持っていたりするわけじゃないけど変にプライドを持っていたりして、他に才能をもった人間が現れてくると対抗心とか燃やしちゃったり。そんな自分が嫌で自己嫌悪したりして。でもそれは人間だからどうしようもなくて、年齢とかセンスとか気にしちゃう! プライドを捨てたって言ってる時点でプライド捨てきれてないし! あーなんだ今日の私!」
「(面倒くさいヤツですね……)でもそういうのは表に出さないだけで人間の本性なんですよ。だから誰もがそのような想いを持っていると思うんです。私もしかり。溜まったフラストレーションを各自の方法で解消しているだけ。先輩の場合の想いの捌け口がワタシだったっていうだけなんです! ワタシは話を聞くことしかできませんけど話すことによって先輩が楽になれたらそれだけで幸せなことだと思うんです」
「咲森……アンタいいやつ?」
「……正直迷惑ですから謹んでください。これ以上は金取りますよ!」
「さらっと本音で返された!?」
「ま、話を戻すと……。並列世界を渡り歩くストーリーってベストな選択をしているように見えますけど場合によっては安全地帯に逃げ込んでいるともとれるってことですよね?」
「そ、だけどこれはプレイヤーにはどうすることもできない。それは製作者が提示した問題解決方法なんだから。どうしても納得がいかないというならゲームをやめるかゲームの続編でその辺りの矛盾を取り除いてもらうしかないわね」
「ところでワタシのたちは今、『神の視点』で語り合っているわけですか?」

そんなことで目を輝かせないで! よし、もうこの言葉をかけるしかあるまい。

「『神の視点』でギャルゲー談義してるだけだけど」
「ワカッテマスヨもう……哀しくなってきますねぇ〜。あ、お腹すいてきました。何か食べません?」

咲森はバナナジュース(2杯目)を空にすると、再びメニューを開いた。
朝からさんざん食べてきたのにまだ頼むつもりなのか……
三神は呆れてため息をつく他なかった。



最終章 「要するに『面白ければ』許される!」

話は白熱し、ついにランチタイムに突入した。
店員の方も最初は長話でテーブルを占拠し続ける二人に対して退場願おうと空き皿を頻繁に取りに来ていたが、そのたびに追加注文がでるのでついにはこの忙しい時間になっても追い出されることはなくなった。

「タコたこピザとくりったけモンブラン。先輩は?」
「バジルとナッツのアボガドスパゲッティ」
「……少々お待ちください」

注文を伝えた後に一瞬の空白を味わった二人。店員はそそくさとオーダーを伝えに調理場に戻っていった。

「なんか、あの店員。オイオイオイ……まだ何か食べるのかよって顔してなかった?」
「まさか、気のせいですよ。飲食店でそんな顔する人がいたら。即クビなります。即ビです!」

あの一瞬の空白は気のせいで済ませてよいのか? 店員さんは絶対思っていたと思う。本当にそうであれば即ビに値するが。

「なに? 流行語でも狙っているの? 略せばなんでも新用語になるとか思っていない?」
「まさか、人々が興味を持つワードが流行る、ただそれだけのことですから」
「ま、……それはその通りなんだけど。最近はそういうの多い気がして」
「しかし、そう考えてみるとゲームにおける最終的な評価基準って楽しめたかどうかですよね? 矛盾をはらんでいても面白ければ許されるっていうか……」
「アラを探して製作者をつついても『細かいことは気にスンナ!』って言われて終わりな気がするし。製作者にとっては世に出て面白いという評価がでたか否かというのがゲームの評価基準なんだから正しいか正しくないかはさほど重要ではない。矛盾だらけでつまらないのはクソゲー。矛盾をなくして代わりにゲームがつまらないのは残念なゲーム。矛盾があるけど面白いのが大穴。矛盾すらなく面白いのが名作ってところかしら」
「製作者はルートの優位性について重要視しないという可能性がある以上、ルートの優位性の問題を自己解決する方法はやっぱりないってこと!?」
「根本的解決じゃないかもしれないけど、その矛盾を二次制作という形で解消する人もいるんじゃない? 二次制作が生まれる作品というのは世界観に拡張できる余地が残されていないと難しいけれど」
「間接的な方法でしか矛盾を消費者が解消する手段はないのかなぁ……やっぱり」
「製作者の立場からしたら、楽しめ! 細かいことは気にするな! 文句があるならそれに対抗する面白いゲーム作ったらいかがですかぁ〜? (ププ、デキルナラヤッテミナサ〜イ!)って切り返すところじゃない?」

その切り返しは本当ならばおかしい。だって、料理人が作った料理にマズイとクレームつけた客に対して文句があるなら自分で作れと切り返すようなものだから。
だけど私には料理をつくって料理人の鼻を明かしてやることくらいしか妙案が思い浮かばなかったのだ。

「世の中を変えるためには自らが立ち上がるしかないって、世の政治家とか革命の史実ででてきそうなセリフですが……はぁ、やるしかないのかなぁ」
「え? 何、アンタ何をやる気なの?」
「もちろん直接的に訴えるしか無いんじゃないですか? ゲーム制作ですよ!! ゲーム制作! シナリオはワタシが書きますから先輩はイラストをお願いしますね」
「でぇ? なんで、私まで!?」
「イラストは先輩の専売特許じゃないですか!? お願いです! エロ漫画家サマ!」
「だから、それを言うなってんでしょ〜〜が!」

どうしてこんな話になってしまったかは分からない。
咲森は注文を待ちながら早速、制作するゲームの構想に取りかかっている模様であった。
突拍子もない話だと誰もが思うだろう。
だが、三神は自分がワクワクしていることに気づいた。

「世界を変えますよ……先輩」

咲森の言葉に三神は軽く頷いたのだった。

END


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