因果奇譚マブリアル プロローグ | ||||||
▼この作品の別話を閲覧する ▼話の続きを投稿する ▼感想を見る・送る | ||||||
作者: ファースト 2014/03/08(土) 04:12公開 ID:TH5QJOPj5wg | ||||||
紺碧の海深く、その青はある…… 陽の光溢れるLight Blue…… 闇の力強まるDeep Blue…… そして、すべての光が届かぬ『真の青』…… Great Blue―――『Grand Blue』。 音も光も届かぬ、その『真の青』に包まれて彼女は眠る…… いつの日か再び、『Eremental Driver』との再会を夢見て…… これは、あいとゆうきとおもいでのゆめものがたり 「ヘルメットを外さないようにね、土屋君!エリザベス!」 手のひらと呼ぶにはあまりにも大きな機械の指にしがみつく同僚と親友に注意を呼びかける。 「アエリアルの音で耳を悪くするから!」 『わ、わかってるさ。そのくらい!』 『うん、分かった』 『アエリアルはそんなに騒がしくないわよ』 外の2人とは違う、コクピットに響くと同時に頭の中に囁くような、無表情な苦情が届く。 「ごめん、星海さん。他意はないよ。でも一応、そういった安全を守るから許可が下りたんだし」 普段と変わらない、相変わらずの無表情で正面の映像に映る銀髪の少女。 彼女を知らない人物が見れば上半身だけが映るとは言え裸なのに物申すだろう。 本人はそういったことに無頓着なのでコクピットの彼がアエリアルに搭乗し操縦するために、一々衆目の中でも平然と服を脱ぐことに文句を言いたくなるのだが、既に半ば諦めていた。 着艦時には女性の整備スタッフがブランケットを用意するし、男性は回れ右を順守する。 これ以上は贅沢なのだと。 『東郷!『Star Noa』はまだ見えないのか!?』 「そろそろ視界に収まるはずだよ。どう、星海さん?」 『高度を取れればもう収まるわ。でも、今日は雲が多いから……』 「だってさ?」 『ううっ……』 『雲?』 戦闘機では高度を取るのも、速度もを出すのも、敵機を振り切るべく雲に突入するのも平気でも、さすがに生身では堪える。 というか、どちらも未成年であまつさえ片方はそういった飛行訓練すら受けていない少女だ。 雲間に飛び込むのはいささか厳しい。 しかし、突風に耐えるのに2人の必死な表情には翳りはない。 むしろ喜びに満ちている。 まあ、それもそうだろう。 どちらかと言えばそういった文化に傾倒していたらしい手のひらの彼、土屋少尉の念願が叶っているのだから。 避難民で一般人の少女、エリザベスの方も年齢でDMドライバーとしての道が開かれるまで待たされるとあって、今日の飛行は遠足気分だった。 『……理解できないわ。何故アエリアルの機外にしがみ付いて飛行するのが長年の夢なのかしら』 彼一人なら特殊な嗜好で、人類の思考サンプルとして記録するだけだったろう。 彼もまた戦闘機のパイロットであり、これからはDMドライバーとして共に戦うのだから、その精神や思考を理解しようとするのは合理的だ。 他のDMドライバー候補生である、同僚となる数名に留まらず、整備スタッフや一般市民からも希望が殺到となるともはや理解を示すの範疇を超えている。 中でもエースパイロットである佐官は職権濫用してまで一番を名乗り出たくらいだ。 「そういうものなんだよ、星海さん」 『……あなたにもそういった願望があるのかしら?』 「僕の場合は、別の形が叶ったようなものだからね」 些細な、僅かな表情の変化。 とても短いが、それでも他の誰よりも長く、そして深い付き合いの『Eremental Driver』は見逃さなかった。 これは本当に疑問を抱いた、でも答えを問わないと決めた時の顔だ。 だから、勝手に答えを告げる。 「巨大ロボットと美少女に選ばれたパイロット。ある意味で夢が叶ったんだから」 『……!』 不満と不服が混ざった無表情。 矛盾してるけど、それが今の彼女の心だと『Eremental Driver』、東郷シンにはわかった。 「シン!まだなの?」 最初は正面の海に対して低すぎる高度での飛行に興奮していたが、それも慣れてしまったらしい。 大融解によって地球全体が水の星と化してしまった今、海はもはやかつてのような情景はない。 陸地はなく、人口の大地だった『AQUAPOLICE』を捨てた人類に残された希望の箱舟――― 「うん、十分視界に収まるよ。停止してから緩旋回で振り向くから」 『周辺に精霊力の反応なし。当該空域の安全を確認』 巨体は重量を感じさせない動きで空中で静止する。 手のひらの2人は今か今かと待ち望んだもう一つの瞬間を迎える。 『い、いよいよだね、シン』 『―――』 息を飲む音が聞こえそうなほど緊張しているようだ。 土屋少尉はオペレーションフューチャーの後に出撃しているが、戦闘中にその全容に目を向ける余裕は、まあなかったのは仕方ないだろう。 彼に取って空は、戦場は、決して取り返しのつかない失敗の場なのだから…… 「うん、いよいよだよ。いよいよ『Star Noa』での新しい歴史が始まるんだ」 「エリザベス、どう?心の準備はいいかい?」 「う、うん、少しドキドキしてる」 「そうだよ、その胸のドキドキを忘れないでね。誰もが味わえる感覚じゃない」 「『Star Noa』に移住できた僕たちは、色々な意味で幸運なんだからね……」 「……うん、分かった」 「どうしたんだ、エリザベス?怖いのか?」 表情を曇らせる少女を気遣うのか、少しだけおどけて見せる土屋少尉。 「べ、別に怖くなんかないわ!シンと、アエリアルが一緒なんだし―――」 「ただ、『Star Noa』がどれくらい大きいのか、全然見当もつかないし……」 |
||||||
| ||||||
| ||||||
テキストサイズ:4351 | ||||||
■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |
−Anthologys v2.5e Script by YASUU!!−
−Ver.Mini Arrange by ZERO−
−Designed by SILUFENIA−