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アウターゾーン リターンズ サロン 美沙里
作者:M4A3E4   2011/01/15(土) 10:19公開   ID:mPbgXOlmz3k
夜の繁華街を連れ立って歩く二人の男。
一人は四十代後半から五十代前半、もう一人は十代後半から三十代前半なら何歳でも通用しそうな顔である。
両者に共通しているのは一見してあまり裕福な暮らしはしていないと分かる身なりだろう。
「出戻よ、その女店長というのはそんなに凄い美人なのか?」
「この世のモノとは思えん」
「むぅ〜ワシはみなぎってきた!」
それを聞いて鼻息を荒くする中年は小久保のおっさん。
若い方の名は出戻始という。
二人は同じアパートの隣室同士で、出戻はフリーター、小久保はセックスコンサルタントという怪しげな仕事を生業としている。
その夜はどこに就職しても必ずクビになるか仕事先の方がダメになるという、疫病神に取り付かれているのか自身が疫病神なのかよく分からない出戻が、久し振りにいい勤め先であるという酒場の店主が大美人だと聞き、ゼヒお近づきになりたいという小久保のおっさんを店に連れて行くところなのであった。
出戻の先導で二人はドンドン灯りの少ない寂れた街区へと進んでいく。
「おい出戻よ、ホントにこの道でいいのか?」
「大丈夫大丈夫、間違いない」
などといってる間にもますます闇は深くなり、いまや足元もおぼつかない。
「あった、あれがオレの勤め先」
出戻の指差す先にその店はあった。

サロン「美沙里」

「サロン“びしゃさと”?」
「“ミザリ”だよおっさん、店長の名前」
「そうかそうか、いや名前からしてせくしぃじゃの〜」
無駄に高ぶるエロ中年。

小久保を引き連れ店に入ると、店内には誰もいなかった。
「おい、大美人はどうした大美人は?」
リビドーが暴走気味の小久保は出戻を揺さぶる。
「ハテ?この時間はもう店に出ているはず…」
小久保を引き剥がした出戻が店内を見回していると、二階からなんとも艶っぽい声が聞こえる。
「出戻さん?ちょっと来てくれるかしら」
言われるままに階段を上る出戻、あとから小久保もくっついていく。
「こっちよ」
声に誘われドアを開ける。
一歩足を踏み入れたところで凍りつく二人。
部屋の中にはミザリィがいた。
いたのはいいが素っ裸だった。
「ごめんなさい、シャワーを浴びていたら声が聞こえたものだから」
輝くばかりの裸身に見とれ案山子のように立ち尽くす出戻始。
「うわ〜全裸だ全裸だ」
小久保は興奮のあまり出戻の首に両手をかけギュウギュウと締めあげている。
振り向いた拍子にボリュウム満点の二つの果実がたゆんと揺れた。
「あら、そちらの方は?」
小久保に向かって妖艶に微笑むミザリィ。
「ど、どうも。自分は出戻クンの大親友の小久保であります、ハイ」
何故か軍隊口調になっている。
「それでご用件は?」
ようやく立ち直った出戻が尋ねる。
「あれの始末を頼みたいの」
見ればベッドの上で顔面をグシャグシャにした男が大の字になっている。
ちなみにこちらも全裸だった。
「む〜こっちの全裸は嬉しくない」
眉をひそめる小久保のおっさん。
「こちらの御方は?」
「今日最初のお客よ」
出戻の問いにミザリィは肩を竦めた。
「最初から私のカラダを舐めるように見ていたの、しばらくは大人しく飲んでたんだけどいきなり銃を突きつけて言うことを聞かないと殺すって」
なるほど男の右手には拳銃の残骸が握られている。
かろうじて原型を留めているグリップの形から察するに、西部開拓時代に使われたコルト社製の六連発のようだ。

「寝室に案内させると裸になれと言ってしたい放題」
「したい放題!」
全裸のミザリィが後ろから前からナニされて悶える姿を想像し、小久保は激しく興奮する。
「ナニが終わると私を撃ち殺そうとしたんだけど、銃が暴発して撃ったほうが死んじゃったの」
「おいたわしや」
顔面に蓮根形のシリンダーをメリ込ませて息絶えた男に向かって合唱する出戻。
「ワシは…ワシは…」
ピンク色の妄想に没入した小久保はうわ言をつぶやきながら激しく腰をシェイクしている。
「それでこのホトケさんは警察に届けるので?」
当分帰ってきそうにない小久保を無視してミザリィに訪ねる出戻。
「こちらで片付ければいいわ、強盗殺人強姦和姦その他モロモロしめて前科23犯、七千ドルの賞金首だもの」
「さいですか」
それで納得してしまうあたり出戻もいい神経をしている。

美人店主(全裸)の指示でようやく現実に回帰した小久保とともに死体を一階に運んだ出戻が勝手口を開けると、そこには荒涼とした夜の砂漠が広がっていた。
「出戻くんよ、ここは都内のハズだよな?」
「二人して幻覚を見ているのでありましょうか?」
なんてことを言い合っている二人の目の前にガラガラと車輪の音を響かせて、ジャッカルの仮面を被った御者が操る馬車が停まった。
荷台からピラミッド時代の神官のような男たちが降りてきて無言で死体を受け取ると、やはり無言で馬車に積み込み最後まで無言のまま去っていく。
「ああいうの昔映画で観んかったか?」
「ハムナプトラとかハナモゲラとかいうやつだったかなあ」

二人が店内に戻るとカウンターに腰掛ける白髪頭の老人がいた。
女性としては長身のミザリィと並ぶと子供のように見える小柄な老人は、着流しのうえに羽織をつけ、堀川国弘一尺四寸八分の脇差を帯びているという、時代劇から抜け出してきたかのような出で立ちであった。
「こちらは常連の秋山さんよ」
「よろしゅうにな」
ミザリィに紹介された老人は、にこりと笑って会釈した。
そこにその夜三人目の客が現れる。
古めかしいが値の張りそうなスーツを着込んだ初老の西洋人は、誰かに追われているかのように息を乱し、怯えこそないものの目には厳しい光を宿している。
「ようこそポラーニ伯爵」
男は驚愕の表情でミザリィを見た。
「私のことをご存知なのかな?」
「ええ、貴方がパリのハンガリー大使館に外交官として勤めながら密かにナチに対抗する東欧諸国の自由主義者のために働いていることも、その鞄の中にロシア人スパイから受け取った第二次世界大戦の行方を左右しかねない秘密文書が入っていることもね」
二の句も継げずに立ち尽くすポラーニ。
「ここの女将はなんでもお見通しなのじゃよ」
口元のお猪口を傾けながら秋山老人が言う。
「では死んでもらおう」
カーテンの影から第四の男が現れた。
その手にはまたしても拳銃。
ただしこちらは幾分近代的なベルギー製のオートマティックだ。
「また物騒なのが出たよ」
「今日は厄日じゃのう」
顔を見合わせる出戻と小久保。
その割りにあまり深刻そうに見えないのは何故であろうか。
「物騒なものはしまっていただけないかしらソンボル大佐」
「ほう、私のこともご存知かね?」
「ええ、貴方はハンガリー秘密警察パリ支局の責任者。そしてポラーニ伯爵と対立する親ナチ派」
「貴様は魔女か?」
引き金にかけられた人差し指がピクリと動く。
「たわけが」
秋山老人の手からお猪口が飛んだ。
顔面を狙ったお猪口を仰け反ってかわしたソンボルが銃を構えなおすよりも早く相手のふところに飛び込んだ老剣客が両手を振るうと、どこをどうされたものか大柄な白人男性はたちまちぐったりと脱力して床に座り込んでしまった。
「この店では暴力沙汰はご法度じゃ」
厳かに語る秋山老人は汗ひとつかいてはおらぬ。
「そう、国も時代も属する陣営も関係なくみんなが幸せになれる場所よ」
立ち上がろうとするソンボルに手を貸したミザリィは、続いてポラーニを手招きする。
「よければお二人が和解するお手伝いをさせてもらえるかしら?」
そのままポラーニとソンボルを連れて二階にあがるミザリィ。
やがて取り残された三人が見上げる天井の、寝室の床にあたる部分がミシリと鳴った。
「行くぞ」
足音を殺して階段を上る秋山老人。
二人を空き部屋に導いた秋山老人が壁に架かった絵を外すと、そこには寝室を覗くための細長いスリットがあった。
「むわ〜こら凄い、実にいい!」

隙間に目をくっつけた小久保が思わず声をあげる。
スリットから得られる視界の中では、ベッドの上で繰り広げられる情事が壁に架かった大鏡によって映画のスクリーンのように映し出されていた。
「ほほう、あのポラーニという男なかなかに遣うのう。わしも帰ったら早速おはると…」
秋山老人もそんなことを言っている。
出戻は一言も発さず、逞しい男二人にサンドイッチで責められ、快感にのたうちまわる白い裸身を食い入るように見つめている。
やがてバーに戻った三人が無言で杯を交わしていると、十年来の知己のように和気藹々としたポラーニとソンボルが階段を下りてきた。
「さて、わしも帰るとするかの」
二人に続いて秋山老人もストゥール降りる。
そのあと出戻と小久保は店内の酒を飲みつくす勢いでベロンベロンに酔っ払った。


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