ドラえもん のび太とスーパーロボット軍団 第二部


――野比家でおおよそ数ヶ月過ごす内に、調はこの『暮らし』を続けることに安息感を感じるようになっていた。野比家の人々の温かさが彼女を決定的に変えたのである。自分が本来であれば得られていた筈のもの。両親の不慮の事故と、米国が奪ったモノが野比家にはあった――



――食事から数時間後――

「どうして、調はここで暮らす事が幸せと感じるようになったのデスか?」

「私は……実はね、本当に帰るべき場所は見つかったの。埼玉県の調神社。そこの宮司の孫娘。でも、今更名乗るわけにもいかないし、今、この名前で築いたモノは失いたくはなかった」

調は自分の名前が仮名であり、本名が別にあった事を自覚したためか、自分のアイデンティティは失いたくはなかったと切歌に告白した。だからこそ、今の名前で生きるために『家族』が欲しかったと告げる。

「家族……!?」

「うん。切ちゃん達は仲間だけど、切歌ちゃんは友達、マリアは近所のお姉さんみたいな感覚なんだ……。だから」

「のび太さんに縋ったのデスか?」

「うん……。見知らない土地で生きるにしても、帰る家は必要だよ。切ちゃん」

「家……」

切歌は微妙な気持ちだった。自分達は帰る家を持たなかった。そのことが調に何かしらの気持ちを抱かせていたのか、と。

「もしかして、ワタシ達のせいデスか……?」

「切ちゃん達のせいじゃないよ。これは私個人の気持ちだから。10年くらい古代ベルカにいたけど、私は主を護れなかったから……」

ベルカ戦争の世に転移したのが、調に帰るべき場所を意識させるきっかけであった。オリヴィエのいるべき場所を護るために戦ったが、護れずじまいであり、ベルカ国家そのものも台頭したミッドチルダにより解体された。その事への悔恨、黒江との同調が今の彼女を形作った。そのため、厳密に言えば、今の調は『黒江綾香の分身でもあり、実質的に転移前と別人格』である存在なのだ。

「だからって、軍に入ろうなんて……!」

「一度、なのはさんにヴィヴィオのメイドとして働けないかって打診したんだけど、『メイド雇うほどお屋敷じゃないからなー』で断られてね。代わりにロンド・ベルに入らないかって誘われてるんだ。軍って言っても、旧エゥーゴ/カラバが編成に組み入れられた存在だから、独立した指揮系統だし、実質的には外部団体みたいなものだよ」

「そ、そういう問題じゃ……」

「今の私には、市井の暮らしは無理なんだ。10年も騎士なんてしてるとね、戦いを本能的に求めちゃうようになるんだよ」

そのあたりの思考回路は完全に黒江のそれであった。黒江の職業軍人としての職業病と、トラウマが調にも強く影響を与えていたのだ。そして、彼女自身の騎士としての職業病が作用し、『戦う環境がなければ、精神の平静を保てない』という心理を持つのも、黒江と共通した精神状態だった。

「でも、軍に入ったら人を殺すんデスよ!?」

「私達が元の世界でやってきた事も……けして綺麗事じゃないよ?」

ここで切歌はハッとした。元の世界でも、マリアは何人か米軍人を手にかけているのだ。自分達にやらせまいと。

「それに軍人は人を殺すんじゃなく、敵を倒すんだ、殺さないで倒せた方がいいからね。だから、地雷なんてのが考えられたんだよ」

切歌はここで、目の前にいる人物が黒江のような錯覚を覚えた。考えが調のそれではなく、黒江の軍人然としたそれであったからだ。

「私は……もう、今までの私じゃないんだ、切ちゃん」

それが切歌には衝撃だった。調はもはや『戦士』なのだ。連邦軍ヘの志願書を英語で書いているのもあり、それが別世界との明確な差異だった。英語で『ロンド・ベルへの入隊を申請します』と書かれている文面への同意と、自分の名前を書き終える。それをのび太に渡し、のび太は普通にポストに出しに行った。

「数時間もあれば、パルチザンから返事が来る。一応、師匠やレヴィさんに言って、軍服一式は取り寄せてもらってるし」

「本当に……?」

「士官学校は一応、戦後に速成コースで行くつもりだから、実質的に特務士官で扱ってもらえる。知識はあるから」

「うーん……わけが分からないデス!」

「要するに、将校になれれば、それなりに身分は保証されるし、一生涯食いっぱぐれないって事だよ」

「う〜」

「大まかに言えば、将校は現場のそれなりの責任ある立場にあるというわけです。最下級の少尉でも、下士官以下には指揮権はあります」

「アルトリアさん」

「士官とは、自分で判断し行動する権利は有るが、その行動の責任は自分に帰ってくる立場です。所属する組織に忠誠を誓い、組織の為の判断が出来る事を求められる替わりに行動の自由が得られるのです。ロンド・ベルは割合、独自裁量権が大きい部隊ですが」

「確か、扶桑は特務士官の扱いで」

「ええ。海上自衛隊や日本の各界から突かれて、旧特務を序列二位にしたとか聞きました。かなり兵学校連中が文句いったそうですが、海自と海保の一喝で押し黙ったと聞き及んでいます」

「負けてますからね、それで」

「ええ。特に海保は成り立ちからして、兵学校卒エリートを嫌ってますからね」

二人の言う通り、日本連邦の成立後、扶桑皇国海軍は外圧により、軍令承行令をほぼ原型ないほどに改正した。強烈な外圧に扶桑皇国海軍も腰を上げたのである。海保は旧・復員省を源流にするので、旧海軍との関係は無いわけではない。そのため、将来的な海保的組織の扶桑側での設立を睨み、海保も口出ししたのだ。日本側には『軍令承行令の悪癖で、叩き上げのエキスパートが新米の兵学校卒の言いなりになった』という負の記憶があるため、兵学校卒の新米将校達の傲慢を糾弾した……つもりだった。しかし、実際の扶桑では、古参下士官や特務士官がかなりの力を持ち、(ウィッチの存在のおかげ)、兵科将校が従う場面も多かったのだ。結果、それの明文化という形に落ち着き、特務出身者の序列が明確に同格とされた。また、兵科士官の無能で敗戦した世界線が叩きつけられた事も、彼らの恐怖を煽った。(その事で、今でも赤松に頭が上がらない北郷は『今まで慣習であったことを明文化しただけ』とコメントし、冷静だった)そのあたりで、皇国海軍はかなり外圧に泣いている。もっとも、未来兵器の大量導入により、兵器の質は世界最高峰に既になっていたので、変わるのは、人事的問題なので、ある意味では、太平洋戦争の敗北者であった『大日本帝国海軍』という鏡に映る自分に泣かされたと言っていいだろう。また、海軍関係者の中には、技術音痴と言われ、まだ開発途上の兵器群をいきなり21世紀以降の水準の兵器に置き換える事に反発する声も大きい(特に、一定のレベルだった電探や、この世界においては必要性が薄かったソナー、対潜兵器など)。21世紀以降の水準となると、扱うに必要とされる知識や扱いが、登場して間もない初期型であるこの時代より格段に高度になる。特にいきなり三次元レーダーに置き換えていったので、当時、最も先進テクノロジーを誇ったはずのリベリオン製レーダーが旧態依然としたものと化してしまった。扶桑はブリタニアから防空システムを既に導入していたが、それを自衛隊規格の最新世代の自動警戒管制システムにいきなり置き換えてしまったので、ある意味では世界の追従を70年は許さなくなった。そのため、索敵ウィッチは戦術目的で使用されるようになり、太平洋戦争では偵察ウィッチ含めて、索敵魔法は役目を変えてゆくのである。また、ウィッチ閥が衰退した要因の一つは、索敵魔法の確実性がM粒子で低下した事、三次元空間把握能力の上位互換たるニュータイプ能力が現れた事なども含まれる。(アルトリアも、自分の依代となったハインリーケの索敵魔法は用いていない)

「軍学校出てる人達が特務士官を見下すのはよくあるけど、ジオンは逆に序列が上だったとか?」

「ええ。そこはかの国独自の文化です。ジオンは特務士官こそがエリートの象徴で、二階級上の待遇を受ける特権階級だったとのことです。ジオンは将官になれる道がザビ家の信任を得た者に限られていましたから、実質的に大佐が一般軍人の最高位と見なされていましたからね」

「ジオンはどうしてドイツ軍かぶれなんですか?戦艦や空母にもドイツ名が多いですよね」

「聞いた話によれば、サイド3に移民した者たちはドイツ系が多かったそうで、第二公用語もドイツ語で、ドイツ訛りの英語がジオン訛りとされているそうです。ザビ家に助力したのがバダンという噂も」

「だから、あんな残虐非道な事を考えられるはずだ……」

「あれで他のサイドから一気に顰蹙を買ったことに、気付かなかった辺りは、ジオンらしいです。最も、世代交代で忘れ去られた事実でもありますが」

アルトリアは依代となったハインリーケがドイツ系であるので、戸籍上はドイツ(カールスラント)人である。そのため、サイド3の人間かと聞かれ、地上のドイツ人と言ったら、店主の態度が変わった経験もある。その経験からか、デザリアム戦役の時代になっても、サイド3の人間は相当に敵意を持たれていると実感したらしい。

「未来でちょっとした事を体験したのですが、相当に根深いですね。一年戦争からデラーズ紛争を経験した世代の本国在住者は特に、身内の誰かどうかを失った経験があるので、怨み骨髄だそうで…」

ザビ家の中では、ガルマ・ザビとドズル・ザビの二名は、武人であった故か、戦後も一定の人気を保っていた。それは、謀略に明け暮れ、身内すら手にかけたザビ家の中にあっては異端と言える人物であったからだ。ギレンは超然的な態度が生み出すカリスマ性から、エギーユ・デラーズのような狂信者が多く、ザビ家最大の嫌われ者はキシリア・ザビである。キシリア・ザビは若き日から謀略に明け暮れ、次兄のサスロ・ザビの謀殺、シャアのような面従腹背な者も多く、ジョニー・ライデンも一説によれば、内心では嫌っていたとの噂も残っている。そのため、ザビ家は後世で割と好意的に見られるのは、政治指導者としてはギレン、人間的にはドズル・ザビとガルマ・ザビの二名である。

「大戦緒戦の虐殺はザビ家の中でも、ギレンやキシリアが中心になって行っていた事で、ドズルには知らせていなかったそうです。なので、ドズルも腹心に『知っていれば反対していた』と弁明していた記録もあります」

「見たんですか、あの時代の記録」

「一年戦争から第二次ネオ・ジオン戦争までなら、この時代のアニメで大体の内容は見られますからね。大まかには分かります」

「そうか、この時代、一般人はまだ、あの映像が本当に起きるなんて」

「そういうことです。時空融合の為せる業ですが」

時空融合の結果、本当に一年戦争からの戦乱がアニメよりも遥かに短いスパンで起こるのだが、それはまだ数百年後の話であるこの時代。居間のTVで流れるCMや番組は、後の時代の事など微塵も感じさせないものだった。

「未来にどんな出来事が待っているかを考えると、平和ですねぇ」

「コロニー落としされるオーストラリアよりはマシですよ。カウントダウンされてるようなものですから」

オーストラリアには、数百年後には『キャンベラとシドニーは地図から消えてます』という事は知らせたい日本だが、日本連邦結成後も言えなかった。未来は確定事項ではないからで、オーストラリアからの大反発も予想されたからだった。日本は一年戦争で地球がどうなるかを、2005年までに掴んでいたが、公表することはなかった。これは当時の常識からすれば、様相がアニメじみていた事や、当時の技術水準からのあまりの乖離、それと時空融合で資料散逸は確実なため、公表しても防げない事は確実なため、公表されなかった。(オーストラリア出身者からは後に批判されたが、たとえ知っていても当時の連邦軍に対抗手段はないため、自然と消えた)

「それで、日本との関係が良好な時期に、アデレードの都市化が?」

「そうです。コロニー落としの影響を受けたあとでは、アデレードが最大規模になるので」

「うーん。つまり、未来で起こるはずの出来事をオーストラリアは知らないって事デスか?」

「ま、知ったところで信じないし。あそこ、今時、時代遅れの白人優越主義の国だし、日本が言っても信じないし、馬鹿にするよ?」

「過激デスよ…調」

「23世紀にはトリントン基地っていうのがあるけど、片田舎の寂れた基地だし」

「行った事が?」

「在籍経験があるコウ・ウラキ中尉と知り合いだし、師匠について、VFのテストで立ち寄った事があるんだ」

オーストラリアは23世紀にはシドニーとキャンベラが吹き飛んだおかげで、コスモリバースを以てしてもそれだけはどうにもならず、戦争の爪痕を色濃く残す。そのため、片田舎と表現したのだろう。

「彼処とか北米のエドワースとかは乾燥していて整備が楽なんだよね」

「ああ、そこはテストには最適ですからね」

「う〜、専門用語だらけで分からないデス…」

「まあ、そこは軍隊にいないと理解できないところですから。私もその辺りの記憶は、この肉体の記憶を用いていますので」

「うぅ。軍事に疎いのに、これほど劣等感持つなんて…」

「そこは、ね。響さん達もそのあたりは詳しくないし、マリアが戦略練れる唯一無二の装者だし」

「たしかに、響さん達はその場のノリでなんとかしちゃう質デスけど、今の調も、そのノリが……」

「せ、聖剣持ちの聖闘士だし!私」

「聖剣って聞くと、背筋が……。イガリマを何回も弾かれたし、オールレンジ攻撃はされるし……うぅ。嫌な思い出が」

「あの方は私の技も放てますから。聖剣は因果律操作兵器でもありますから、対抗手段はより上位の聖剣しかありません」

「シュメール神話の武器というだけでは、対応できないのデスか?」

「アガートラームの神剣・ヌアザ以外は不可能でしょう。聖剣は世界を見れば、似たような伝説は多い上、竜殺しの伝説を持つもの、『持ったモノに勝利を与える』のもポピュラーな属性です。エクスカリバーやデュランダルはその最たる例です」

「エクスカリバーを超えるのは『天地乖離す開闢の星』、俗に言う『神剣・エア』や『草薙神剣』のみです。デュランダルやカーテナは同等の聖剣になります」

「あれ?たしか私達の世界だと、デュランダルは響さんが使って、対消滅で消えたはず」

「それは私達の世界でのことだし、聖剣ってのは本来、対消滅は起こさない代物だよ」

「え!?」

「それに、私達の力は聖剣の霊格を宿すモノだから、神様でも斬れるしね」

「ええ。なので、聖剣の力が衰えるのは原則としてありません。私の『全ては遠き理想郷』が現状では防御手段としては唯一です」

「宝具のバーゲンセールで目が回りそうデス……」

「私や娘、それとジャンヌは英霊ですので……」

「うぅ。イガリマのギア着てるのに、これほど自分が霞んでしまうなんて……」

「切ちゃんには子山羊座の聖衣があるけど、あれは有事じゃないと纏えないしね」

「うぅ。纏えるけど、技は一つも打てないし……正に宝の持ち腐れデス」

しょげる切歌。イガリマのギアを着ている状態ながら、戦闘能力では英霊達には大きく差をつけられているし、調は既に、黒江から受け継いだ闘技を持つ、一線級の聖闘士である。ギアを纏っているのは、訓練とリミッター代わり、それと移動手段でしかない。

「それは師匠に教えてもらえればどうにかできるって。なんだったら、赤松大先生でも……」

「あの人は豪快すぎて参考にならなさそうデス…」

赤松のことは、黒江の更に目上に当たる事から、大先生と呼んでいるらしい調。切歌は赤松の豪快さに圧倒されているらしく、何とも言えないコメントである。

「私で良ければ、お相手しましょう。私も鎌を持つ相手との戦闘経験が欲しかったところですので」

「え!?で、伝説の英雄と一戦……デスか!?」

「こんなチャンス、元の世界だと絶対にないから、受けなって」

「え、ち、ちょっとぉ!?何デス、この断れない雰囲気!」

「地下のトレーニングルームが使えるので、そこでやりましょう」

「で、でも私の鎌は全力でやれば魂を……」

「アヴァロンやエクスカリバーの加護があるので、その心配は無用ですよ」

「……なんか自信無くしそうデス」

切歌の自信は黒江が既にヒビを入れていたのが、この時にはイガリマに自信がないようだった。しかし、伝説の英雄たるアーサー王(アルトリア/セイバー)に現代人としての意地は見せたい。切歌のセブンセンシズを鍛える意図もあり、アルトリアは模擬戦を持ちかけた。その間に調は赤松に連絡を取り、赤松に来てもらうのだが、赤松は『大丈夫、解りやすく教えてやる』と自信たっぷりで大笑しており、大人物ぶりを見せつけていた。英霊相手に豪快に振る舞えるのは、赤松のみだろう。円卓の騎士やジャンヌ・ダルクをして、『「大先生』と呼ばれる人物なので、英霊達も一目置く現代人であるのは間違いなく、モードレッドも素直に従うのは、母親とジャンヌを除けば、赤松のみだ。従って、G/Fウィッチの統率者は紛れもなく赤松であり、黒江達が大先輩、それ以外が大先生と呼ぶに相応しい威厳の持ち主であり、英霊達も一目置く存在にして、黄金聖闘士に匹敵する実力の白銀聖闘士。それでいて、元から扶桑で二強を謳われしウィッチ。転生で箔が多くなりすぎた彼女だが、『孔雀座の貞子』と呼ばれるのを好むので、『白銀聖闘士最強クラスの女性聖闘士』の箔を一番好むのは間違いない。電話で大笑する赤松に、調は思わず圧倒されるのだった。


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