一夏が鈴音との戦闘を行っている最中、あかり達の姿は観客席にあった。
初めは箒が観客席より良く見えるという理由で管制室に突撃をかけようとしていたのだが、そこは年長者としてあかりが止めた。
管制室と言えば戦闘中のISのあらゆる情報が送られてくる場所だ。
機密の面から言って、そこに一生徒が入るわけには行かないだろう。
また、それ以前に中にいる人の迷惑担ってしまうだろう。
止められた事を不満そうにしていた箒だったが、あかりの正論に何も言い返せなかったため、今はおとなしくセシリアの隣で一夏の戦いを見守っている。
一夏の優劣によってその表情を一喜一憂させており、失礼なのだが端から見ている分では非常に愉快ではある。

「しかし、織斑さんはきちんと鳳さんに食いつけていますね」
「そりゃ、あそこまで訓練してたからね」

セシリアの言葉に、さも当然だという風に答えるあかり。
鈴音に発破をかけられてから今日まで、一夏は決して訓練を欠かさず、その訓練の内容は非常に濃いものだった。

セシリアとのISによる模擬戦に箒との剣道の鍛錬。
そしてあかり監修の基礎トレーニング。
そのどれもを、一夏は決して手を抜かずに行ったのだ。
本来ならあかりも一夏に対しては基礎トレーニング以外のこともやらせたかったのだが、考えた訓練メニューを見た箒に止められた。

「これでは一夏が死んでしまいます……今は勘弁してやってください、いや本当に」

あかりにとってはかなり軽い物だったため、まさかあそこまで必死に止められるとは思わなかったらしい。
結局、あれこれ箒と話し合った上で今の基礎トレーニングのメニューを作ったのだった。
自分の考案したメニューをやらせられなかった事をいまだに残念に思いながらも、あかりはその感情を振り払い、試合に意識を戻した。

「それまでに一夏は勝ちたいって事だろうね」

見ると、一夏が鈴音の攻撃を防ぎながら反撃をしているという場面だった。
しかし、いきなり一夏が鈴音から距離をとる。

「? なぜ一夏は距離を離したんだ?」
「いや、本人も離れようとしたわけじゃないらしい。ほら、何が起こったのか分からないって顔してる」

アリーナ上部に備えられている巨大モニターには、困惑の表情をあらわにした一夏が映っている。
その事からもあかりの言うとおり本人の意思で行った事ではないと言う事が推測される。

「あれは衝撃砲ですわね。第三世代の武装にそのような物が存在するという事を聞いたことがありますわ」
「衝撃砲?」

セシリアが一夏と鈴音の様子を見て、ある名前を呟く。
聞いたことがないその名前に箒は反応する。

「ええ、空間に強力な圧力をかけ砲身を形成し、衝撃の塊を弾として撃ち出す武装ですわ。この武装の恐ろしいところは、砲身、弾が見えないことです。撃ち出される直前や撃ち出された後なら、ハイパーセンサーで空間の歪みの計測する事などで捕捉はできますが……それでも従来の兵器と違い視認性は非常に悪い物な事は確かですわね」
「衝撃を撃ち出す……微妙に違うけど、僕の刃鉄についてる空打と似たような感じなのかな?」
「そうなのですか?」

セシリアの説明を聞き、あかりは思ったことを呟く。
それに対し、先ほどまで衝撃砲について説明していたセシリアが食らいつく。
なにせ、空打は今までその原理や用途が良くわからない武装だったのだ。
空打を用いた際に、その速度は瞬間加速に匹敵するものとなるため、加速用の何かかと思いきや、明らかに移動以外にも空打を使用している。
代表候補として、他者の専用機に搭載されている武装がどのような物かを知りたいという気持ちもあったために聞いてみたが、どちらかといえば個人的な好奇心の方が大きいセシリアだった。

「うん、僕も詳しくは分からないんだけど、貴文曰く『加速補助』だって」
「加速補助……ですか?」
「何でも、『ブースターじゃ推進剤が必要でその分大きくなっちゃうでしょ? だからこういう方式にすれば少なくとも推進剤のタンク分は小さく出来るわけだよ。え? 足じゃなくて胴体部分にブースター増設すればいいじゃんかだって? こっちのほうがかっこいいじゃん。細けぇ事は気にすんなよ!!』だってさ」

あかりの説明を聞き、セシリアは気の抜けたような声を出し、箒は頭を抱える。
なんというか、あまりにもあんまりな考え方だ。
で、なんだかんだ言って最終的にはかっこいいからと言うオチである。
おそらく、千冬がこれを聞いていても箒のように頭を抱えていただろう。

「まぁ、ブースターよりいろいろ応用が利いて便利だし、僕としては文句は無いけどね」
「応用……ですか」

あかりが言っているのは蹴りの際にも空打を使っている事だろうか。
確かに、あれが本来の空打の使用方法ですなどといわれたら無理があるようには思う。

「……あー、ところで、先ほどから貴文とおっしゃっていましたが……もしかして、Dr.キリシマのことでしょうか?」
「ドクター……? ああ、そういえばそんな風に呼ぶ人も居るっけか。うん、たぶんセシリアが思ってる通りの人物だと思うよ?」

自分の隣に座っている彼は、いったいどれだけの大物と知り合いなのか。

セシリアは急にめまいが大きくなったように感じた。
Dr.キリシマといえば、第三世代ISの開発にも多大に貢献した人物として各国に知られている。
IS開発者である篠ノ之束には一歩負けているが、世界有数の天才の一人としてその名をとどろかせている。
そういえば、噂ではあかりのISはとある個人が打鉄を改良して作った第三世代に近い第二世代という代物らしい。
その個人とはもしかして……

そのことを詳しくあかりに聞こうとしたセシリアは、ふとあかりの表情が険しい事に気がついた。

「? あかりさん、どうなさいましたの?」
「ん、いや……あれ何かなって思って」
「あれ?」

あかりが指差した方向をセシリアも見やる。
あかりの指がさしているのは空。
しかし、空には何もない。しいて言うならアリーナを覆うバリアの天辺部分が見えるくらいか。

「……何もありませんわよ?」
「セシリアの言うとおり……いや、待て! 確かに何かが……落ちて来る!?」

セシリアと同じくあかりが指差した方向を見ていた箒が、セシリアに同意しようとして、しかし何かを見つけたのかあかりに賛同し始める。

「いったい何が……」
「ブルーティアーズのハイパーセンサーで見てみたらいいよ。ISの展開は校則違反だけど……ハイパーセンサー程度ならたぶんばれないから大丈夫だろうし」
「はぁ……」

校則を破るのは気が引けるが、あかりの表情があまりにも険しいものだったため、あかりに言われた通りブルーティアーズのハイパーセンサーを起動させ、空を見上げる。
すると……

「あれは……」

それは黒い塊のようだった。
その黒い塊が、まっすぐにこちらに……正確に言うなら一夏と鈴音が戦っている場所に向かって落ちて来ている。
しかしハイパーセンサーで視覚補正をかけてようやく見えたそれを肉眼で捉えたあかりと箒は一体何者なのだろうか。
ましてやあかりは誰に言われるでもなく一番最初に気が付いたのだ。最早視力が並の人間ではないではないか。
そんな思いがセシリアの脳裏をよぎったが、そんな事を呑気に考えている場合ではなかった。

なぜならそれは、まっすぐアリーナへ向かって落下してきており、それどころかアリーナのバリアを突き破り侵入を果たしたからだ。

「なっ!?」

いきなりの事にさすがのセシリアも動きを止める。

「危ない!!」

急にセシリアと箒を押し倒すあかり。
次の瞬間、あかりの頭上を光の線が通り過ぎていく。
その線により、あかりの髪の先端が音も立てずに灰となり、瞬間その灰も消滅した。

「い、今のいったい!?」
「今落ちて来た奴の攻撃だ! バリアを貫通してる!!」
「なっ……!」

焦っているかのようなあかりの言葉に耳を疑う。
アリーナのバリアはそれこそISの攻撃でもそうそう揺るがない程強固な物だ。
それを貫通させるほどの兵器を持った何かが侵入してきたのだ。

やがて、それが落ちて来た際の砂煙が消え去り、侵入者の全貌が明らかとなった。
それは黒い金属を身に纏っていた。

「あれは……全身装甲(フルスキン)のIS……? 全身装甲は第一世代のISですわよ!?」
「そんなことより、早く避難しないと……バリアを貫通できるなら、ここも危険だ!」

やがて、一人の生徒が悲鳴をあげ始める。
その悲鳴は観客席全体に広がり、観客席は混乱の坩堝となる。

「くそっ! これではろくに避難が出来ない! あかりさん!!」
「分かってる! セシリア、教員が来るまで僕達で出来る範囲で避難誘導をしよう! 特に、僕とセシリアは専用機を持ってるからいざというとき対処しやすい!」
「分かりましたわ!」

箒の言いたい事を察知し、あかりがセシリアにそう伝える。
あかりとセシリアが避難誘導に向かったため、箒はそれについていこうとしたが、ふとアリーナであの侵入者と相対している一夏を見やる。

「一夏……これぐらいの苦難、乗り越えずして何が漢か……乗り越えろよ」

そう祈るように、願うように呟くと、あかり達が向かった方向へと駆け出した。



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