無限航路−InfiniteSpace−
星海の飛蹟
作者:出之



第六話


 なんというか証拠が、何も無い、んですよ。彼等は実に狡猾で、慎重ですらあるんです。
 惑星「クラーレ」
 産業に乏しいこの星の、スカイフック基部の周辺に広がる、港湾関係者居住層。中でも外れに当たる肉体作業従事者等が住み着いている、薄汚れた町並みに彼の住居はあった。
 カリオ・イスモゼーラ。
 ユーリ達の来訪を受け、戸惑い、また怪訝な表情も浮かべたが、二言三言交わし、中へと通す。
 イスモゼーラ社は惑星「フィオン」に本社を置く、艦船モジュールの中堅メーカだが、最近の、オーナー社長の退陣に不透明なウワサがある、と、「フィオン」のパーチで耳にしていた。
 元社長はその内情を訥々と語ってくれた。
 父に当たる会社会長は地上車の事故死で、加害者も逮捕検挙され服役したこと。
 会社株式の取得収集も適法で、株主総会の議決を以て社長職を罷免され、追放されたこと。
「スカーバレルがこの星域で勢力を拡大し始めてから、確かに我が社の業績は落ち込みを見せていました。物流も何かと滞るようになっていましたし。その業績悪化の責任を追求される形で解任に追い込まれまして……親族の何人かは擁護してくれたのですが」
 言葉を切ると、彼は一つ吐息を漏らした。
 その顔には深い疲労と、諦観の陰が濃く刻まれていた。
「海賊にとうちゃん殺されて、会社も取られて……ひでぇ話だ……」
 トーロはカリオの凄惨な告白に眼を潤ませ頷いている。
 トスカも不快な表情を隠さずにいたが、別のことを考えてもいた。
 これみよがしに海賊艦を飛ばしながら他方、迂遠にも似た企業の掌握。
 手口がばらばらだ。連中は何がしたいんだ。
「クーラッド、さん」
 カリオはユーリを見つめ、呼び掛けた。
「貴方は。やつらと戦うつもりなんですか」
 つもりも何も。既に戦端は開かれている。
 かれこれもう5隻は沈めている。
「ぼくはまだ駆け出しの1船乗りです。戦力も護衛艦が一隻だけ。それがここを牛耳ってるスカーバレルと戦う?。笑っちゃいますよね」
 はは。でも。
「今のぼく、私に、出来る事があるなら、それをするだけです」
 カリオは眼を見開いた。
 立場が人を育てるのか、逆か。
 この少年は……いや。
「艦長」
「何でしょう」
「良ければ私を、艦長のフネで使って貰えないでしょうか」
 ええ?!。
 艦長は少年の顔で狼狽を見せる。
 えーと。
「社長待遇とかムリですよ?てか給料、安いし……」
 ユーリの言葉にカリオは初めて、笑顔で応えた。

 近隣の「ラッツィオ」への移動を終え、艦は超光速巡航からの減速シークエンスにあった。
「アンノン出現。距離85000。方位3−4−0」
 大出力アクティブセンシングにより、それは自ら存在を暴露してきた。
「同定、オル・ドーネ級です!」
 巡航艦が……。
 そのとき艦は、余りにも強大な敵の、突然の出現に、完全に呑まれていた。
 いつも通り、CICへの移動を終えていたのがまだしもだが、動揺しているヒマは無かった。
「回避機動!全力!」
 ユーリは何とか発令していたが、それでも一拍、間に合わなかった。
 巨人が殴りつけたような轟音が艦を貫き、衝撃が揺さぶる。
 照明が落ち、非常灯に切り替わった。
「兵装、砲座正副共に反応無し」
「機関定格出力より20%に低下」
 赤黒い明かりの下、被害報告が交錯する。
 ブリッジクルーの全員が為す術無く彼を、自分達の指揮官を見つめている。
 一身にその視線を浴びながら、ユーリは。
「回線、開いて」
 けっこう、あっけないもんなんだな。
 両艦の間を、光条の奔流が奔った。
「反応検知、エルメッツァ戦域軍です!サウザーン級1、アリアストア級4」
 声が歓喜に踊っている。
 ブリッジにも歓声が溢れた。
「オル・ドーネ級、加速開始しました」
 あ、おい、逃がすのかよ!。
 トーロが叫ぶ。
 エルメッツァ艦隊はオル・ドーネ級に向け更に射線を浴びせるが戦意に欠けているのか。確かに少しおざなりに見える。
 海賊艦はそのまま加速転針、悠々と外宇宙に向け姿を消す。
「艦長、入電ありますが」
「うん、繋いで」
「音声モード、接続します」
 一拍おいて、先方の声が流れる。
「エルメッツァ中央軍所属、オムス・ウェル大佐だ」
 中央軍?。
 ユーリは心に留め。
「ユキカゼ艦長、ユリウス・クーラッドです。この度の救援、誠に有り難うございます」
 ユーリの声に、相手は少し口ごもる気配。
「いや、遅くなって済まなかった。我が方も別方面を哨戒中だったのでね」
 少し改まった口調で。
「失礼だが、貴艦は戦闘艦であると、スカーバレルと交戦中であると理解して宜しいのだろうか」
「そう、理解して戴いて構いません」
 うむ。という頷く気配。
「貴官もこの星域の実情は既に御承知の事と存ずるが、軍も別に寝ている訳ではない。我々は我々の責務を果たすべく精勤している。良ければ一度、私宛で星域軍本部まで御足労願いたい。それでは。貴艦の航海の安全を祈る」



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