/01-03


更に一月後。入学式から数えて既に二月が経ったあくる日。

今日も朝の鍛錬も終え、朝食もすませた零達は学校に向かう。

今日は一月に一度の外部での実戦訓練の日であった。

「さーて、皆準備は良い?」

朝のHRを終えた後、すぐにSクラスの実戦訓練が始まった。

現在は学園にもっとも近い位置にある場所に来ていた。

この先にはレベルの低い魔物ばかりがいる拠点があり、彼等は現在そこを目指していた。

例外をのぞき、ある一定の距離まで近づかなければ行き成り襲われる事は無い。

そして今はそのギリギリの位置まで来ていた。

今日の実戦訓練ではこの拠点を使う。

「先月教えたように必ずチームを組む事。これは前に登録したメンバーで構わないわ」

一旦そこできって生徒を見回す郁美。

「勝てないと感じたら迷わず逃げる事。逃げるのは決して悪い事ではないわ。死ぬような事は絶対に避けるように」

そして最後に付け加える。

「何かあった時の為に私も待機しているから、逃げ切れない場合はすぐに助けを呼ぶ事。いいわね?」

全員が頷くのを確認し、にっこりと笑うと息を大きく吸い込み一喝。

「戦闘訓練、開始!」

その声を聞いた直後、チームに分かれていた生徒達が我先にとベース内に侵入を果たした。

そんな中零は両手に手甲をつけつつ自分とチームを組んでいる何時ものメンバーを見回した。

慎司はその手に剣を携え、薫は服の下に大量の短剣を装備し、そして鈴音は二刀の小太刀を携える。

「準備はいいな?」

零の言葉に慎司・薫そして鈴音の三人は頷きあった。

「勿論」

「おっけい」

「万事問題ありません」

三人の返答を聞いた零はニヤリと笑みを浮かべる。

「良し―――行くぞ!」

そうしてまた、零達も拠点へと侵入を果たしたのであった。







◆      ◇      ◆      ◇







「グオォォォォォンッ!!」

「疾(シ)ッ!」

零の素早い右フックが犬型の魔物(バウント)に決まる。

そのまま顔面をつかんで引き寄せると、思い切り膝蹴りを浴びせる。

「ギャイン!」

膝蹴りを浴びせた直後に手を離すとその勢いのままバウントの体が宙に浮く。

「―――止め」

無防備にさらしているわき腹に向かって炎を纏った貫手を放つ。

炎により攻撃力が増大した貫手は、そのままバウントの体を貫く。

「燃えろッ!」

ボウッ!

「ガオォォォウッッ!?」

零の一言と共に貫通した場所から炎が噴き出し、バウントの体を根こそぎ燃やし尽くす。

「………フゥゥゥゥゥ」

軽く息を吐きつつ残心。

―――撃破数、二十体。




一方こちらは鈴音。

こちらの決着は意外な程あっけなくついた。

「………行きます」

能力を使って自分の影に沈み、バウントの背後にあった影から出現すると、素早く小太刀で喉元をかききる。

「―――ッ!?」

動物をベースとして存在している以上、元となった動物の弱点を備えているのは当然の事として認知されていた。

喉笛をかききられれば無論、それで終わりである。

―――撃破数、十体。




そしてこちらは慎司。

「あー、つまんねぇよ、お前ら。訓練にすらならねぇ」

こちらも比較的楽に決着がついた。

そも、慎司の能力はサイコキネシスである。

その中でも世界有数と言える程強力な慎司の力は、念じるだけで相手の首をねじ切ってしまう事も可能なのだ。無論、相手にはよるが。

バウントは自分が死んだ事も気付かずに逝った筈だ。

剣を抜いては見たが、結局その剣を使う事はなかった。

「南無。つーか、剣出すまでも無かった」

―――撃破数、十八体。




そしてチーム最後の一人である薫。

「グオォォォォンッ!」

「………」

バウントが突貫してくるが、攻撃は当たらない。

当然だ。薫の能力は世界トップレベルの空間転移(テレポート)なのだから。

当たる直前に転移して見せるのである。当たる以前の問題だ。

懐から短剣を三本取り出し、一瞥する。

「終わり」

「ギャウンッ!?」

手元から一瞬にして消えた(……)短剣が敵の二つの眼球と喉元深くに突き刺さる。

―――転移能力を応用した物質転送術。

薫が攻撃用に考えた能力、その唯一の使い方だった。

「………ぶい」

―――撃破数、八体。




「一番時間かかったのはやっぱ俺か」

このベースに侵入して既に四十分が過ぎていた。

零達はつい先程三度目にして最も敵の数が多い戦闘をこなした所だった。

「まぁ俺らの力はちょっと反則っぽいからな。バウントレベルの敵ならこれぐらいは」

頭を掻きつつ慎司。

「零の力はどちらかというと一対一に向いてる」

「力の使いようによっては一対多の戦闘にも優位に働くでしょうが、そも炎は多数に対する攻撃が少ないですから」

薫の言葉を補足するように鈴音が言う。

「ま、そこら辺は理解してるつもりなんだがな……」

「戦闘力で言えばお前さんがダントツに高いんだぜ? 今はそれで良しとしようや」

不満そうな顔の零に向かって慎司が言う。

彼の言うとおり、戦闘力だけで言うと一番この中で強いのは、両親の方針により最も実戦を積んでいる零であった。

今回は移動スピードの速く数の多いバウント相手だったからこそ、時間がかかったのである。

何故か一番バウントに狙われていた、というのも理由の一つだった。

実際、倒した数だけを言えば零がトップである。

「それに炎使いにしては、十分多数に対する戦い方が上手いですよ」

「戦闘経験だけだもんな。俺が皆に勝ってるのって」

「そう言わない。………それにしても、随分敵の数が多かった」

零を一瞥しつつ薫。

「確かに。これだけのバウントが群れをなしてるなんて、今までなかったよな」

零が顎に手をやり思考に入る。

総数にして五十六。通常バウントは群れたとしても、十体前後の群れにしかならない。

そしてこれだけの数を撃退できたのはSクラス―――否、学園内でもトップクラスの実力者が固まった零達のチームだったからこそ、だ。

もしこれが別のチームだったなら、成す術もなく敗れていた事だろう。

「………この先、何かあるのかもしれないな」

「一旦戻る?」

慎司の言葉に薫が提案する。

そのまま考え込んだ二人を、それまでじっと見ていた鈴音が口を開いた。

「零様。零様がご決断を」

「………」

思考を一時中断した零が視線を上げると、他の三人全員が零を見ていた。

このチームのリーダーである、零を。

「―――どうにも気になる。先に進もう。危険を感じたら薫の能力で一気に離脱する」

その答えを聞いた全員が頷く。

この時零には一つ、気になる事があった。

先程から首筋がチリチリとし、焦燥感に駆られているのである。

それが悪い方に向かっているのか今一判断がつかない。

ただ、自分は先に行かなければならないと感じていた。

(―――鬼が出るか、蛇が出るか)

零達は辺りを警戒しつつ、先へと足を進めるのであった。






◆       ◇       ◆       ◇






「………っは」

其れを見た時、例外なく誰もが唖然としていた。

「遺跡、だと?」

目の前にはこの場にある筈の無い物がある。

零は額に手を当て唸った。

「つーか先月はこんなの無かったよ、なぁ?」

少し自信が無いのか言葉を濁す慎司。

「少なくともいくみーはこの先に遺跡がある、何て言ってなかったけど」

「実際にはある」

零が疑問の声を上げると薫が答える。

「………あのさ」

「慎司?」

「此処に遺跡があるって事は、まずくねぇ?」

若干顔色が悪くなっている慎司に、零は黙って頷く。

そもそも、ベースの中に遺跡があるという事はその遺跡がベースの中心にある、という事だ。

そしてそれは此処には魔物、もしくは魔族にとって大切な物がある事に他ならない。

つまりは最悪の場合、此処には魔族が居る事になる。

もしそうならば今の零達に対抗する手段は無い。

いくら世界有数の能力を持つ零達とは言え、零や鈴音をのぞくと実戦経験は少ない。

能力は弱くても実戦経験が多ければ対処法は見付かるものである。

「急いで引き返すぞッ!」

零が声を張り上げそう叫ぶ。

薫が心得たかのように頷き、転移する為に集中に入る。

大人数で転移する場合は多大な集中力を要する。

無論これだけの人数を一気に飛ばせるのは、それだけ薫の能力が高いという事に他ならないが。

「………」

集中をといて目を開けた薫の顔は、傍から見ても解る位に青ざめていた。

「飛べない。何かが邪魔をしてるみたいで、到達地点を設定しても転移自体がキャンセルされてる」

「ジャミングか!? って事は相手には最低転移能力を無効化出来る存在がいるって事かよッ!」

薫の言葉を聞いて慎司が頭をかきむしる。

「兎に角走ってでも此処を離れよう。先頭は慎司、殿は俺が務める。薫は援護を。鈴は万が一に備えて」

「了解」

零の言葉に返事を返すと、慎司は鞘から剣を抜く。

「零様」

と、その時今まで沈黙を保っていた鈴音が零を呼ぶ。

「鈴?」

「どうやら既に遅かったようです。―――そこッ!」

隠し持っていた短剣を一瞬にして投げ放つ。

ギィンッ!

「………随分と感の良い奴だ」

鈴音が狙った木の枝から一人の男が姿を現す。

短い黒髪に黒い瞳。

どこから見てもそれは人間、それも日本人の姿だった。

「人間!?」

「そ、人間デス」

驚愕の声を上げた慎司にニヤリと笑う。

「最も―――ガイストの、だがね」

「ガイスト!?」

驚くべき事実。

実際、零達はガイストと呼ばれる魔物に組するヒトの集団があることは知っていたが、そこに実際に所属する人間を見た事はなかったのだ。

「喋りすぎだ、阿呆」

別の声が響いた瞬間、その場に新たに三つの人影が姿を現した。

一つは声の主。短く切った銀色の髪(……)に金色の瞳(……)を持つ少年。

一つはその右側に従者の如くただずむ日本人形風の少女。

一つは日本人形風の少女とは反対側にただずむ、その少女と似た風貌の少女。

「良いじゃねーか」

「はぁ」

少年にあからさまに溜息を吐かれ、若干顔色が青くなる男。

男から視線を外し、零達の方を見る。

その頃には男も調子を取り戻していた。

ガイストと聞いて硬直している零達に、全員が視線を向ける。

「葉月 俊也(はずき しゅんや)」

最初に姿を現した男が言う。

「楓(かえで)」

少年の右側にただずむ少女(姉)が。

「椿(つばき)と申します」

その反対側にただずむ少女(妹)が。

「ハジメマシテご同輩(……)俺の名は、闇乃 怜(やみの れい)」

そして最後に少年が。

「アンタと同じ存在(モノ)だよ―――玖藤 零」

闇乃 怜と名乗った少年の目には、零ただ一人しか映っていなかった。
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