結界師は夜の街を駆け回る。
 歴代の結界師と呼ばれた者達は、勇猛果敢に妖に立ち向かい排除してきた。

 海鳴市の守護の役目を負う第22代目正統後継者候補である少女、墨村美守はは泣き叫びながら妖に追われ街を駆ける。
 透明な六面体の結界を足場に家の上を最短距離で逃げていく。

「ちょっとちょっとぉ、アンタ何逃げてんのさぁ」

 結界師の後を追う斑尾は、オカマ口調でグチグチと泣き叫ぶ美守に愚痴を零す。
 しかし、美守は耳を傾ける事もせずに、巨大な一つ目玉に黒い翼を生やし不気味な音を立てながら飛んでくる妖から、泣き叫びながら逃げ回り、学校へと逃げ込む。

 校庭のド真ん中になぜかある“四方石”と呼ばれる20cm角の平らな石が10mずつ離れ、上空から見れば綺麗な正方形をつくるこの石たちは、小学校の子供達にとって人気の遊具となっている。
 なぜグラウンドから撤去されないのか、なぜ存在しているのかは誰にも知らない小学校の七不思議の一つのスポットである。

 美守は学校の敷地に入った瞬間から泣き止むも、追ってくる妖の恐怖に震えてグラウンドを走る。
 四方石の作る四角のサークルの中に足を踏み入れると、少女は突然立ち止まり、無邪気な用事みたいな笑い声を上げ始める。

「アハハハ、ア・ソ・ボ」

 美守は見た目よりも幼い声で、無邪気に今まで逃げてきた妖に話しかける。
 目玉の妖も、学校の敷地に入った瞬間から、どこかから力が注がれてくるかのごとくより禍々しく邪悪に姿を変えていた。
 四方石を中心にネトッとしたような気が流れていた。
 美守はそんな妖にも恐れず無邪気に近づいていく。

「ちょっとちょと!! アンタなにしてんのさ」

 美守に付き従っていた妖犬は焦りながら呼びかけるも聞こえていなかのように美守は無警戒に近づいていく。
 妖は美守の豹変した雰囲気を一切気にせず、黒い腕を勢い良く突き出す。

 しかし妖の腕は美守に届く前に、何か圧倒的な力に掻き消されるように崩れ去り、届くことはなかった。

「ちょいと……ありえないよぉ。

 ――“あのお方”はもう」

 妖犬の驚愕をよそに、美守は狂ったように笑い続ける。
 まるで、ようやく外に出られた子供のように全身で開放感を満喫しているかのようであった。

 美守の高笑いに伴い、目の前の化物がより禍々しく姿を変えていく

 ――身体が流れ入ってくる未知の力に耐え切れずに至る所がひび割れ、崩壊を始めながら。

「ア・ソ・ボ。
 “やっと出られたんだから”アソボ」

 美守の笑いが大きくなるに比例して、妖に流れる力は増大し、崩壊もまた進行していく。

 先程まで泣き喚いていた美守が笑い、追ってきていた妖は力を蓄えつつ崩壊していく。
 異様な光景となったグラウンドに、白い袴を着る者が空から降り立つ。

 漆黒の黒髪をポニーテールにくくり、膝元まで伸ばした優しげな雰囲気を纏う女性雪村時音は、この異様な光景を冷静に判断しようと必死に頭を回す。
 前代の結界師として妖関係の仕事を多くこなしてきたが、この状況は特殊すぎる。
 まったく理解が追いつかない時音は、体中に絡みつくようなネトッとした妖気を感じ取る。

「美守ちゃん!」

 時音の叫びに、美守は振り向く。
 振り向いた瞬間、美守は憑き物が落ちたかのようにキョトンとした表情で時音を見つめる。
 美守が笑わなくなった瞬間、ネトッとした妖気は、まるで最初から存在しなかったかのように消え去る。

「と……時音お姉ちゃ〜ん!!」

 見つめて数秒もせずに、美守は学校に入る前と同じく泣き喚きながら時音の胸へと飛び込む。
 足を腰に絡め、両手で和服の襟を力いっぱいに握り、胸の谷間に顔を埋める。
 時音は慣れているのか、美守を抱え構える。

 化物は崩壊してきていた体の一部の下からまた新たに身体を生み出す。
 ギョロリと目玉を剥き出しに時音達を睨み、腕を伸ばして攻撃を始める。

「“方位”、“定礎”、“結”」

 時音は高速で向かってくる攻撃にも焦らず、結界形成のプロセスを踏んでいく。


 妖の攻撃と時音達の間に形成された透明の結界は、妖の腕を受け止めはじき返す。
 伸びた腕が妖の元へ縮みきる前に、時音は縮んでいく腕の一箇所を覆うように結界を小さく形成する。

 結界に囲まれた腕は、結界に包まれてから先の部分が一気にひび割れ崩壊する。
 結界に囲まれるまでの腕は崩壊した腕を切り離したかのように綺麗に離れ、身体に戻っていく。

「なるほど……力の供給が無くなれば消滅するんだ」

 小さく形成した結界に付加させた“条件指定”と呼ばれる方位の時点で掛けられた条件“力の供給の遮断”。

 ――の結果を見て、素早く推察する。

 実体を持たない目の前の妖は妖の身体全体が力を持つのではなく、身体の内部に核を持ちそこから供給される力によって身体を維持しているのだと。
 時音は静かな目で妖を凝視すると、妖の巨大な目玉の内部に10cm大の結界を形成する。

 結界が形成された瞬間から数秒で、目玉の妖は急速にひび割れ崩れ落ちる。
 崩れ落ちた妖の中心に形成された結界のなかには蒼い宝石が光を放ち浮いていた。

 時音は結界から伝わってくる蒼い宝石が放つ力の巨大さを感じ取り、滅する事も出来ず、結界内に閉じ込める事で精一杯であった。

 対処に困っていた時音の元に、白を基調とした制服のような服を纏う少女が降り立つ。

「なのは! ジュエルシード封印急いで!」

「うん!」

 突如校庭に降り立ったなのはは、レイジングハートを掲げ、いまだ結界に包まれるジュエルシード封印の手順を踏んでいく。
 レイジングハートから封印の光がジュエルシードに伸び、時音はタイミングを合わせるように結界を解く。
 見事に封印を果たしたなのはは、安堵の息を着き、目の前に立つ時音を見る。

「あの……結界師さんですか?」

「ええ、前代の……だけどね」

 なのはは、想像していたよりも年上だった事に少なからずがっかりしていたが、前代である事を知り嬉しくもあった。
 美希から聞いていた結界師と友達になりたいと思っていたなのはは辺りを見回し、他の影を探す。

「あの……今の代の結界師さんは?」

「ぁあ、この子なんだけどね……」

 っと薄暗がりの中、時音は胸に抱きつく美守を指差す。
 暗く、はっきりと視認できなかったが、黒い袴を着た黒髪を一つに纏めた女の子だとなんとかわかった。
 しかし、指名されたにも関わらず、抱きついている美守は顔も上げず声も上げず蹲っていた。

「ごめんね、この子こうなったら無理に引き剥がそうとすると、私の服ももってっちゃうから、今日はこれで失礼するね」

 時音は結界を足元に形成して、空へと消えていく。

「あぁあ、行っちゃった。友達になりたかったのにな」

 なのはは残念そうな溜息を吐きつつ、家路を急ぐ。





魔法少女リリカルなのは×結界師
―ふたつの大樹は世界を揺らす―
第3話 「不機嫌そうなお兄さん」
作者 まぁ





(やっぱり……あの子は何かがおかしい)

 時音は昨夜の美守の豹変ぶりに、疑惑を持っていた。

 結界師として護り続けた烏森が封印されていた地点に入った瞬間に、性格が変質する美守。
 妖を呼び寄せていた烏森が完全消滅したにも関わらず、夜になれば妖が蔓延っている海鳴市。
 烏森を封印していた異界を支える支柱の役割を果たしていた呪具を包み込んでおかれた校庭の四方石。

(昨日良守に聞いてみたけど、何も知らなかった……。
 三年前の“あの事件”以来変わっている美守ちゃんの性格も、事件の後遺症って言ってた)

 時音は謎を思い返していたが、そこから先に至る事ができない。
 手がかりが少なすぎて、全ての仮説が胡散臭くなる。

「はぁ……もうこんな時間だし。

 ――まさか担当してるクラスの子が魔法少女だとはね」

 時音は時計を見て、溜息と共に席を立つ。
 私立聖祥大学付属小学校の教師・雪村時音は受け持ちの生徒達が待つ教室へと急ぐ。

 ちょうど月明かりが隠れた時であったので、なのはに顔を見られてはいないだろう。
 変に接触して余計ないざこざを起こすよりも、影から見守る方がいい。

「それよりも、こっちには解決しないといけない問題もあるしね」

 まず最優先事項は、“なぜ烏森を封印していた呪具が未だ残っているのか”という事。
 役割を終えた呪具が稼動しているという異常事態。
 しかし、なぜ気にしていなかったのか……

 ――自分でも気づかない間に、記憶を改変されたのかもしれない。


 時音は気を取り直し教室に入っていき、平和に授業をこなしていく。
 いつものように、バレないように絶妙な体勢で眠る美守を黙認しつつ、優しい先生として教鞭をとる。

 午前中全ての授業を終えると時音はいつも職員室へと直行するのだが、今日は少し違っていた。
 お弁当に沸く教室内にて、ボーっとしている美守の元へと向かった。

「墨村さん、ちょっといいかな?」

 夜の仕事柄、美守は妹のようによく知っているが、昼の学校では他人を演じなくてはならない。
 美守にもそれは言って聞かせているので、美守も他人の振りで返してくる。

「なんですか? 雪村先生」

「ちょっと昔の事で聞きたいんだ……美守ちゃん」

 時音は、他の子達に聞こえないように小さな声で美守に話しかける。
 名前で呼び、異能関係の事を聞くと言う事を暗に載せ、周囲に誰もいない事を確認する。

「なに? 時音お姉ちゃん」

「6歳の“あの事”……覚えてる? はやてちゃんと2人で夜に出て行った事」

「うん、お母さんみたいな結界師に憧れて、はやてを式神に背負ってもらって町内一周したよ」

「え……? その後は?」

「良守お兄ちゃんに怒られた……」

「そ、そう……。

 ――妖に会ったよね? 牛の」

「……アヤカシ?」

 時音が記憶している事と、美守が返してきた答えが違っているのだ。
 夜、美守が双子の妹を背負って夜の街に逃げるように出て行き、牛の妖に襲われ瀕死の重傷を負ったのだ。

 “牛の妖”という単語を出した瞬間、美守の目が泳ぎ始め、血の気が引いていく。

「肩に大砲が組み込まれた……妖」

「……ハァハァ……ハァハァ」

 時音がドンドンと掘り下げて聞いていく毎に、美守の息は荒くなり小刻みに震えだす。

「熱い……アツイ……背中が」

 熱から逃げるように美守はうずくまる。
 未だ教室内で美守の異変に気づく者はいない。

 血の気が引いた美守の額から血管が、まるで美守の頭を締め付けているかのようにくっきりと浮かび上がる。
 美守は蹲ったまま、頭を抱える。

「痛い……痛いよ……頭が痛い……!」

 助けを求めるように美守は時音に手を伸ばす。
 美守の手を取ると、恐ろしいほど冷たく冷え切り、身体全体の力がどこかへ抜け落ちたかのように握る力が感じられなかった。

「美守……ちゃん?」

 時音は後ろから突然聞こえた声に、振り向くとそこには不安そうな表情をしたなのはが立っていた。
 時音がなのはに大丈夫だと言おうとした瞬間、美守は頭を抱えながら気を失って、床に突っ伏す。

 時音はなのはに美守を触らせないようにすぐさま美守を抱き上げると、なのはに大丈夫だからっと言って立ち去る。






「ちょっとちょっと、なのはどうしたのよ?」

 少し沈んで帰ってきたなのはに、アリサは尋ねる。雪村先生が美守を抱えて出て行ったのは見たが、何があったのか近くにいたなのはに尋ねるも、返答はわからないの一言だった。

「美守ちゃん、なんか頭痛みたい」

 それからなのは達は弁当を食べ、保健室へと足を運ぶ。
 静かな保健室のベッドの中で、荒い息を立てて目を開かない美守が眠っていた。

 保健の先生から静かに寝かせておくようにと注意を受け、なのは達は静かにベッドのよ横に置かれた椅子に座る。
 未だ血管が浮かび上がる額を触ってみると高熱がでているかのように熱い。
 しかし、手を握ると、凍っているかと思うほど温度を失っていた。

 アリサとなのはは美守の身体の異変に少し焦り、すずかは少し青ざめる。

 お昼休みが終わろうかという時、保険室へ現れたのは雪村時音と刃鳥美希。

「刃鳥さん!?」

「高町……なのはさん」

 刃鳥は一瞬驚きの表情を見せたが、奥に眠る美守の元へと足早に向かう。
 美希は悲しげな顔で、優しく美守を抱きかかえる。

「お母さん……暖かい」

 意識がない美守が寝言のように呟くと、美希は『うん……』っと少し寂しそうに頷き、保険室を出て行く。

「雪村先生、ご迷惑をおかけしました」

 時音に一礼すると、美希はさっていく。

「あいつのお母さん若いわね……どう見ても20代じゃない。てかなのは、アンタあの人知ってるの?」

「うん……ちょっと前に知り合ったんだけど。

 苗字違う」

 なのはの一言で、アリサは気づく。
 なのはが美希を見た瞬間に言った苗字は『刃鳥』。
 しかし、美守の母親であるならば『墨村』でなければおかしい。

「はい! 3人とも、人のプライベートあんまりさぐっちゃだめよ」

 時音の一言で、なのは達は保健室を放り出される。
 不満そうにしながらも、午後の授業の予鈴がなり、3人はそれどころではなくなる。
 







 放課後になると、時音は美守の鞄を持って中等部の男女合同美術室準備室に来ていた。
 準備室には、少し跳ねた黒髪と少し拗ねたような目つきの顔の男が生徒達の作品を見ていた。

「良守、美守ちゃんの鞄よろしくね」

 時音の声に良守と呼ばれた男はさらに不機嫌な目になる。
 男の名前は墨村良守。
 美守の3人いる兄の真ん中の兄である。
 第22代目墨村家正統後継者である証である“方印”と呼ばれる正方形の痣が左手に刻まれており、それを隠すために包帯を巻いている。

 そんな美守をスパルタに育てている兄の良守は、私立聖祥大学付属中学校の男女兼任の美術教師をしている。

「家が隣なんだから時音が持って帰ればいいだろ」

「アンタが持って帰ってきてくれたって知ったら、美守ちゃん喜ぶでしょ」

「あいつは俺を恐れてるからねーよ」

「美守ちゃんについて少し聞きたいの……今日6歳の“あの事件”の事について深く聞いたら頭痛で倒れたわ」

「……お前もしたのか。俺も一年前にしたよ。

 そんときは鼻血出して痙攣しながら気を失った」

「っ!! なんで私に知らせないのよ!」

「知らせたってなんにも出来ねーよ。母さんが何かしたんだろ」

「守美子さんが……」

「昨日から探ってる事も探るのやめろ。お前が知りたいってのはわかるが……今回のはやめろ。

 世界がまた混乱する」

「混乱するってどういうことよ」

「“烏森”だよ。完全に消え去っても俺達は烏森に縛られてる。

 ――だからここで俺達は教師をしてる」

「なんで完全に消え去った烏森が……」

「それ以上しゃべるな……烏森の所在はこの世の者もあの世の者も誰も知らない……覚えていない」

 時音は思い返しても、烏森がどうなったのかを覚えていない。
 完全封印したという事だけを覚えて……記憶している。
 どうやって封印したか、どこへ封印したのか、内容をまったくといっていいほど記憶にないのだ。

「もう帰れ、今日の夜にでも会議があると思うがな」

 良守の態度に溜息をつきながら、時音は準備室のドアへと歩みだす。

「月村すずかだっけ? おない年の子の話はいいが、“夜の一族”の話はやめとけよ。
 また、美守の頭痛が出る」

「確か治療の為に、二週間程預けられてた家よね」








 昼休みが終わってから、すずかは落ち込み下を向き続けていた。
 アリサとなのはと話していても、心無い返事を返すばかり。
 
 2人はすずかが優しいから、美守が倒れた事にショックを受けていると思い、励まそうと明るい話を振っていた。
 しかし、すずかの顔に笑顔が戻る事は無かった。

 放課後になると、すずかはなのは達を待たずに走って帰っていく。
 何かおかしいと、すずかの後を追うなのはとアリサ。

 すずかが向かったのは、すずかの姉である月村忍がバイトしている翠屋。
 ホールで接客をしている忍を見つけるや否や、飛ぶように抱きつく。

「ちょっと、すずか……どうしたのよ」

 忍の問いにも答えず、力の限り抱きつくすずか。
 お手上げとばかりに、困った表情で翠屋の店主である高町士郎に休憩の許可を取る。
 快く許可を出した士郎はジュースを2つ渡し、忍を裏へ行くように促す。
 すずか達が店の裏に消えると、士郎は店の前で中の様子を伺っていたなのは達を中に入れ、席に着かせる。




 店の裏に座ると、忍はすずかが落ち着くのを待つ。
 すずかの力が抜け、顔を離すとすずかの顔は涙でくしゃくしゃになっていた。

「何かあったの? 学校で。もしかして、なのはちゃん達とケンカでもした?」

「ううん……美守ちゃんが、みーちゃんが倒れたの

 ――私達“夜の一族”の呪で」

 なるほどね……っと忍は、すずかが泣いている理由を理解する。

 すずかの“異能者”の初めての友達である墨村美守。
 出会ったのは、美守が瀕死の重傷を負い、治療の為に運び込まれた事から始まる。
 吸血鬼の能力を持つ、忍が美守の血と自身の血を同化させ、治癒を図った。

 治癒を始めてすぐに現れたのは、美守の母である守美子。
 要求してきたのは、

『背中の傷を残し、それを鍵として活用して今から前後二週間の記憶を封じてほしい』

 ――という事だった。

 瀕死の重傷を受けた原因が襲撃との事だったので、その記憶を消しておいてあげたいという優しい親心かと忍は了解した。
 しかし、傷が完全に癒えた二週間後に呪を掛ける作業に入った時、守美子は双子の妹だと言って、もう1人暗く落ち込んだ少女を連れてきた。

 結局2人に呪を掛け、2人の一ヶ月近くの記憶は封印された。

 すずかは傷が癒えるまでの2週間をすずかと過ごした。
 異能者としての自分を恐れていたすずかを変えた美守は、すずかの事を忘れ深く関われば美守に頭痛が現れる。

 それ以来すずかは、美守から貰った白いカチューシャを大事につけている。

「大丈夫よ。すずかが気に病むことなんて無いよ。
 美守ちゃんとまた友達になれたんでしょ?
 
 この前すごく嬉しそうに話してくれたじゃない」

「でも……私達の呪で」

「いいのよ。もうそろそろ解けるんだし……あの頭痛は直視するにはまだ恐ろしすぎる記憶から美守ちゃんを守るためなのよ

 ――だから、明日美守ちゃんが来たら笑顔で挨拶してあげなさい」

「……うん」










 翠屋から帰ったなのはは、自身の部屋で明日の時間割をしつつユーノと話をしていた。

「刃鳥さんってね、美守ちゃんのお母さんなんだって……。

 墨村じゃないんだね、苗字」

「旧姓を名乗ってるのかもしれないよ」

「でもさ、親子なら美守ちゃんも裏会関係者なのかな?」

「僕達の世界では一族が異能者ってのは聞いた事もないからなんとも言えないよ。

 突然現れるって聞いてるから」

「そっかぁ……美守ちゃんが裏会関係者ならよかったのに。

 もっと仲良くなれると思ったんだけどな」

 なのはは、ユーノと話を進めながらしていた明日の時間割を終えると、電気を消してベッドに入る。
 ユーノも与えられた寝床に着く。

「ねぇ、ユーノ君……魔法で空って飛べる?」

 電気を消しても、しばらく続く会話の始めになのはは疑問を持ってきた。
 魔法を使ってジュエルシードを封印する作業で一度も跳んだ事は無い為、気になっていたのだ。

「うん。レイジングハートに頼めば、魔法を選択して実行してくれるよ」

 ユーノの返答に、なのはは静かに起き上がる。
 足音を消し、窓を開ける。

「ちょっとだけ……行っていいかな?」

 なのはは少し照れたように空を指差す。
 既になのはの両親は明日の朝のの為に寝床に着き、兄達もそれぞれの部屋ですごしている。
 物音を立てずに行けばばれる事はないと、踏んでいるのだろう。

 ユーノは溜息を着きつつ、賛同し部屋を飛び立つ。

 初めて体験する空を飛ぶという非日常な事になのはのテンションは最高潮にあがる。
 高く飛翔したり、ゆっくりと旋回したり、空中で浮いていたりとなのはは空を楽しんでいた。

 夜の闇に染まる海辺の公園で、一休みしようとゆっくりとベンチに降りる。

 空を飛び、興奮覚めやらぬなのはは笑顔を絶やさずにユーノとおしゃべりを始める。

 闇に染まり生きる者達の時間は眠りにつこうかという時刻に動き出す者達もいる。
 実体を持たず、人の恐怖を喰らい、闇を支配する妖達が行動を始めていた。

 楽しくおしゃべりをしているなのは達に牙を剥こうと魑魅魍魎がなのはを囲むようにポツリポツリと出現していた。
 しかし、なのはには見えず、何も知らずにおしゃべりを続けていた。

 ゾクリと微かな寒気を感じなのはは辺りを凝視すると、半透明な火の玉のような妖が大量になのはを囲んでいた。

「ユーノ君……あれって幽霊さんかな?」

「ジュエルシードの反応はない……みたいだ。

 ということは、幽霊かな」

 ジュエルシード関連でなく、妖と対峙という想定外の事態に、焦りつつもレイジングハートを構え防御を固める。
 身体の底から震えが起こるも、必死に恐怖に負けないように全身に力を入れる。

 数秒の睨み合いも、なのはにとっては一分以上に長く感じて、精神的に疲労していく。
 張りつめていた気が一瞬緩んだ時、なのはの正面にいた魑魅魍魎の一匹が突進してくる。

 目を瞑り身を固めたなのはを魑魅魍魎から守ったのは、レイジングハートが発動させたシールドではなかった。

 透明な正六面体が魑魅魍魎を囲み、閉じ込めていたのだ。

「今日はやけに多いな……“滅”」

 不機嫌そうな男の声と共に、なのはの目の前に降り立った真っ黒な袴姿の男。
 男は黒髪が少し跳ね、左手を人差し指と中指を伸ばし、右手に先に刃が着いた杖を持っていた。
 男は、墨村良守。
 美守の前代の結界師である良守は街を駆け回り、蔓延る妖を対峙して回っていたのだ。
 そこへ、魑魅魍魎に囲まれたなのはを見つけ、一般人に見られてはならないということも忘れ、降り立ったのだ

 良守はなのはの方を一切向かず、遅れて降りてきた斑尾に他に妖がいないかを確認する。
 斑尾はオカマ口調で、いない事を伝えると、つまらなさそうになのはの周りをブラブラと回る。

「なら、話ははえぇ!
 餓鬼! 動くなよ」

 良守は軽く手を挙げると、なのはを囲んでいた魑魅魍魎全てを余裕で囲む程巨大な結界を形成する。
 結界内部には、魑魅魍魎達、良守となのは、ユーノ、斑尾が閉じ込められる形となった。

 身の危険を感じたのか、大量の魑魅魍魎は一斉に襲い掛かってくる。

「んじゃぁ、いっちょやるか……

 滅!」

 良守はなのは達を守るための結界を形成せずに巨大な結界を滅する。
 内部に囲っている者を破壊する“滅”の掛け声と共に結界は滅していく。

 身の危険を感じたなのはとユーノは、目を瞑り全身を守るシールドを展開し始めるも、間に合うわけもなく衝撃が襲ってくるかに思えた。

 しかし、衝撃は一切なのは達を襲う事は無かった。
 魑魅魍魎だけが粉々に砕け散り、良守が杖を掲げ、魑魅魍魎の破片を吸い込ませる。

 良守は全部滅したのを確認すると、ゆっくりとなのはに近づく。
 不機嫌な顔で近づいてくる良守に警戒して、身構える。

 襲ってきた頭のてっぺんの痛みに、なのはは自身が良守に叩かれた事を理解する。
 助けてくれたとはいえ、見ず知らずの人に叩かれるとは思わなかったのか、なのははポカーンっと良守を見上げる。

「家は!?」

 良守の問いにも、呆気にとられ答えられないなのはに良守はもう一発頭をはたく。
 ようやく痛みが襲ってきたのか、頭をさするなのはの頭を構わず良守は握る。

「餓鬼がこんな時間に家出てんじゃねーよ。
 ほら、家どこだよ?!

 送って行ってやるよ」

 なのはは渋々と家への道を口に出していく。
 終始不機嫌な雰囲気を出し続ける良守に怯えながら、なのはは足早に歩いていく。







 ――TO BE CONTINUED








 あとがき




 どうも、まぁです。

 一日起きの投稿ペースですが、大体フェイト登場まではこのペースで進めそうです。

 そこからは……なるようになる!



 こんな微妙なタイミングで書くのもなんなんですけど、結界師……



 マイナーなのかな? (^・ω・^).....

 うちは結構メジャーな作品だと思って構想を練って投稿してるのですが、

 マイナーだよね。。

 とよく言われます。



 ふぅ……もう、突き進むしかないんですけどねっ!
 まぁ、気楽にやっていきます。


 どうぞ、お付き合いください


  まぁ!



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