頭痛に倒れ家に運ばれた美守は、安らかな寝息を立てながら眠っていた。
 夕食にも起きてこず、美守が眠る部屋は暗く電気が落ちていた。
 そんな部屋に静かに入ってくる人物がいた。

「寝てんのか……まぁいいか」

 黒装束に身を包む、良守が静かに戸を開ける。
 安らかな寝息を立てる美守を、少し優しげな目で少しの間眺める。

 良守の気配に気づいたのか、美守はゆっくりと小さく目を開ける。
 布団から寂しげに出され、遠慮がちに良守へと伸びる美守の手。
 意識が覚醒してないせいか、記憶されている良守への恐怖心よりも大好きな気持ちが強かった。

「ニィニィ……」

「頭いたいか?」

 かつて、無邪気になついてきていた頃に呼ばれていた呼ばれ方に、思わず笑みがこみあげる。
 小さく横に振られるのをみて、『そうか』っと少し笑みをこぼすと良守は立ち上がる。
 それに吊られるように、美守もゆっくりと身を起こす。

「いいよ、寝てろ。

 俺がちゃんと仕事してくるからさ」

 良守は美守の頭を乱暴に撫でると、スゥッと部屋から出て行く。

 美守は重力に引っ張られ、また布団の中へと消えていく。
 その顔には、先程より安らかに、笑顔に満ちていた。




 そんな静かな部屋から少し離れた和室では、重苦しい雰囲気が流れていた。

 黒の和服に身を包む、頭のてっぺんがハゲ、側頭部に白髪が生え、立派な髭を生やした爺、墨村繁守。
 第21代墨村家当主として、“烏森”と呼ばれた妖を呼び寄せ力を与える土地を守ってきた者である。
 我侭に個人プレーに走りやすい正統後継者達を纏めるクッションのような立場で活躍してきた。
 技術という面だけでいえば、まだまだ孫達には引けを取らない実力を持っている。

 その横に座る白の和服に身を包む、白髪の婆、雪村時子。
 第21代雪村家当主で、繁守と共に“烏森”を守ってきた。
 結界師の歴史の中でも、トップクラスの資質と技術を持つ術者である。
 若かりし頃の暴走しやすい良守の手綱を握り、コントロールする事ができた唯一の人物でもあった。



 そして墨村正守、雪村時音が正面に座る。

 4人とも真剣な表情のまま、重く押し黙ったまま時間が過ぎていた。

 美守が頭痛で倒れた事により、開かれた会議。
 結界師としての能力が高く、“烏森”に関わってきた人物のほとんどが出席していたが、良守と守美子は欠席していた。

「今日集まってもらったのは、わかっているかと思うが美守に掛けられている呪が解けかけた。

 しかるべき時の為の準備を怠らぬように」

「何も知らなかったとはいえ、時音!
 あの子についてはあまり深く詮索してはいけません」

 重い空気の中、口を開いたのは繁守と時子。
 注意された時音は、不機嫌そうに下を向く。

(やっぱり何か知ってる……。
 次期当主である私にも秘密にしなきゃいけないことって)

「……教えて! あの子の事。

 “あの事件”以降、外では引っ込み思案になって他の人と関わろうとしてない。
 昔はあんなに明るくて活発な子だったのに。

 今までは“あの事件”のせいかと思ってた」

「ならそれでいいんだよ、時音ちゃん。

 でも、そろそろ時音ちゃんにも教えてあげる次期ではないですか? おじいさん、時子さん」

 軽く笑みを零しながら、正守は提案する。
 このまま、発言せずにいれば、時音は真相を知らないまましばらく過ごす事になる。
 それは巡り巡って、美守の為にはならないと判断したからかもしれない。

 正守の意見に賛同した、繁守と時子は小さく頷くと覚悟を決めるように深呼吸する。

「あなたが今話題にしているあの子に掛けられた呪を気にしているようですが、それはまだ入り口の出来事。

 これから私は、第21代目雪村家当主として、次期当主であるあなたに密命を与えます。


 ――墨村美守を“全ての害”から護りなさい」

「どういうこと? お婆ちゃん」

「あの子には、“烏森”への鍵が封印されています。

 我々間流(はざまりゅう)に関わる全ての者の記憶を改変して隠していましたが、“神器”を求める人にはあの子が烏森への入り口の鍵が封印されているという情報を掴みかけています。
 我々は400年間、烏森という土地を守護してきました。
 しかし、これから100年間……正確には、あの子が死ぬまで守護する。

 これが我々のこれからの家業となります。

 既にこの事実を知った墨村の次期当主は行動を起こしていますよ」


 魂蔵(たまぐら)と呼ばれる、エネルギーを無限に貯蓄できる、エネルギーが枯渇するまで永遠に生きる事が出来る異能者がいる。
 神器とはその魂蔵持ちの中でも、この世の理をひっくり返す事が出来るほどのエネルギーを取り込める器を持った特別な者のことである。
 数百年に一度、その魂蔵持ちの中でも特別な者が生まれる事がある。
 一番最近に生まれた神器が“烏森”と呼ばれていた。正確には烏森の殿様も事であるが……。
 烏森のお殿様を封印していた土地の守護が、10年前までの墨村家と雪村家の家業であった。


 「あの子にはその為に、“紋”も着けておる」

 衝撃を受けすぎ、時音は思考を追いつかせるので精一杯だった。
 美守の身体に刻まれた紋はある。
 腹から上は胸、二の腕に掛け、下は太ももまで刻まれた紋が刻まれている。
 そのせいで、美守は人前で半袖になる事すら出来ない。そうしてしまうと、黒くおぞましいタトゥのような紋様が露見してしまう。
 そのため、美守は全ての体育の授業は見学、欠席し、夏でも長袖を着用している。

 その事は知っていたが、不思議とそれがなぜ刻まれているのかを気にした事はなかった。
 あの子には必要な事だと勝手に結論付けられて疑う事すらなかった。

 そのせいで、美守は学校のプールはおろか体育の授業のほとんどを受けれずにいたのに……。
 それを間近で見ていたはずなのに……。

「……わかりました」

 時音は静かに受け入れた。
 美守に背負わされた運命を軽くする為、美守を危険にさらさない為。

 一度終わったはずの結界師の任をまた、別の任務を持って動き始めようとしていたのかもしれない。





魔法少女リリカルなのは×結界師
―ふたつの大樹は世界を揺らす―
第4話 「決意の少女」
作者 まぁ





 春の日差しが心地いい週末、なのははアリサとすずかと一緒に河川敷を訪れていた。
 なのはの父親である士郎がコーチを務めるサッカーチームの練習試合の観戦に来ていた。

 特にチームの中に知り合いの男の子がいるわけでもなく、サッカーに特別興味があるわけではないが、友達と集まる場としてなのは達は活用していた。
 目の前で繰り広げられる試合を見ながら3人は楽しく会話を繰り広げていた。

「そういえば、美守ちゃん元気になったみたいだね。
 授業中寝てないし」

 まず寝ずに授業を受けるのが普通なはずだが、ああも華麗に寝られるのを見ていてはあれが普通に思えたのかもしれない。

「いや、そもそも寝てるのがおかしいのよ!

 でも、倒れてから三日経つけど、確かに寝てないわね」

「今日も来ればよかったのに……誘ったんだけど、結局こなかったね」

 なのはは少し残念そうに溜息を着く。
 昨日、昼休みに誘いを入れてみたものの、用事があると断られたのだ。

 そこから話題の中心は今はいない美守となった。
 なぜか出席せずに保健室へ直行する体育であったり、去年の出来事でであったりと、なのはたちは疑問を投げるも回答を得られる事はなかった。
 話題の中心である美守がいなければ、進まない事ばかりを話し、3人は時間を潰していた。

 そうこうしていると、サッカーの試合は終わりのホイッスルが鳴り響く。
 見事、士郎のチームが勝利を収め、子供達は喜びを分かち合っていた。
 それを見るだけで、3人も勝利の余韻に浸れているかのように嬉しかった。

 士郎の計らいで、チームの子供達となのは達3人は、士郎が経営している喫茶店“翠屋”でケーキを食べる事になった。
 午後からアリサとすずかはそれぞれ用事があるので、ケーキを食べおわったら解散する事になっていた。

「すずかちゃんはお姉ちゃんと買い物だっけ?」

「うん! お姉ちゃんとお姉ちゃんの仲良しさんとその妹さんたちと一緒にお買い物だよ」

「この前も行った人よね? 妹さん達とも仲いんでしょ」

「うん。このカチューシャはその子から貰ったんだよ。
 なのはちゃんやアリサちゃんよりもホンの少しだけだけど長いお付き合いなんだ」

 すずかは嬉しそうに頭につけている白のカチューシャを触る。
 それを見るだけで、すずかがいかにその子を好きなのかがわかった。

「アリサちゃんはお父さん達と買い物だっけ?」

「そうよ! 久しぶりに海外から帰ってくるから」

「そうなんだ……」

「なのははこれからどうするの?」

「私は家でのんびりかな……」

 なのはがふぅっと視線を道路にふと向けると、ボサボサの短い髪に感情の無い瞳の男がピシッとした執事服を着てノソッと立っていた。
 この男には見覚えがあった。
 すずかの家の執事であり、すずかの家に大量に飼われている猫の世話をいつもしている男だ。
 猫の世話をしている時は、執事服を脱ぎ、Tシャツ一枚で庭を駆け回っている。
 “祭”と背中にプリントされたモノを愛用しているらしく、文字が違うだけで様々な一文字シャツを着ている。
 その種類を見るのが楽しみでもある人だ。
 知っているのは名前が“蒼士”という事だけだ。
 それ以外は歳も知らない。

 なのはは、蒼士がいる事をすずかに知らせると、すずかは携帯電話で時間を確認する。
 すずかが蒼士に視線を向けると、蒼士はゆっくりと音も無く近づいてくる。

「……時間」

 蒼士は腕時計をすずかに見せるように差し出す。

「また竜頭回したんですか? ずれてますよ?」

「……ずれる?」

 すずかはそれから少し、時計の竜頭について蒼士に説明していた。
 理解したのかしてないのか、感情の乗っていない瞳で受け止めていた。

 そろそろ解散の頃合いかと、アリサが勢いよく立ち上がる。
 タイミングよく、店の中から士郎とすずかの姉の忍が出てくる。
 道路の脇に停められているアリサの家の車もあり、それぞれの保護者に連れられて3人は解散する。

 すずかは忍と蒼士に連れられて消えていく。
 アリサは車に乗り込み消える。
 なのはは2人を見送ると、士郎と共に家路に着く。

「アリサちゃん達行っちゃったね。
 なのはさんは今日はこれからどうするの?」

「お家でのんびりだねぇ、お父さん」

 なのはと士郎が話していると、サッカーチームの子供達も帰路に着く。
 なのはは一瞬の違和感を感じながらも、勘違いと思い、気にせずに士郎と並んで歩き出す。

 家に着くと、士郎は風呂へ直行し、なのはを誘う。
 少し悩んで、なのはは一緒に入ることにした。

「ねぇお父さん、強いってなんなのかな……?」

 一週間と短い間に出会った異能者達を見て、なのはは思うところがあったのだろう。
 出会った三人の異能者達は、それぞれ違う強さを持っていると感じた。

「っお、難しい話だね、なのはさん。
 何かあったの?」

「んっとね、最近強くなりたいなって」

「そっかぁ、なのはさんもそんなお年頃になったのかぁ。
 そうだね、お父さんも恭也君や美由希さんと同じ剣術を納めてきたけど、正直まだわからないんだよね」

「そう……なんだ」

「単純に剣術の技量としてってなら見えるんだけどね、何を持って強いというかはわからないんだ。

 お父さんみたいな年齢になっちゃうと、天井が見えちゃうから余計にね。
 なのはさんみたいな年齢なら、がむしゃらに何かしてると見えてくるんじゃないかな?」

「がむしゃらに……っか」

「そう、がむしゃらにね。
 今打ち込んでる事に一生懸命にやってみると何か見えてくるかもしれないから頑張りなさい」

「うん」

 なのはは身体を軽くシャワーで流すと、風呂から上がる。
 士郎はそれを見送ると、湯船でゆっくりとくつろぎ始める。
 何かに打ち込み始めた娘の成長を喜びながら……。




 部屋に戻ったなのはは、ベッドに倒れるように寝転ぶ。
 ユーノと出会ってから約1週間、平凡な小学生に降りかかった非日常の出来事で、疲れは溜まる一方。
 布団に入れば、すぐに眠りに着くほどなのはは疲弊していた。
 それを気遣い、ユーノはジュエルシード探しをお休みしようと提案し、部屋でくつろいでいた。

 そこに疲れきったなのはを起こすに足る程巨大な魔力反応が出現する。
 急いで窓から外を見ると、街の方で巨大な樹が出現していた。

 ユーノは急いで、広域結界を張り、樹となのは達以外の時間をずらして被害が及ばないように対処する。
 樹の根が養分を求めるように、乱暴に伸ばし、暴れまわっていた。
 そのため、なのははレイジングハートを起動させ、自身の射程ギリギリにあるビルの屋上に降り立つ。

「なにこれ……」

「きっと人間がジュエルシードを発動させてしまったんだ。
 ジュエルシードは願いを叶える

 ――だから人間が願った事はこんなに強く発動してしまう」

「ユーノ君! これってどうすればいいの?」

「ジュエルシードの反応を探すんだ。でも、この距離じゃ……」

 ユーノの心配をよそに、なのはは目を閉じ意識を集中させる。
 なのははレイジングハートを通して、ジュエルシードの位置を特定しようと試みる。

 既に樹の増殖は街を飲み込んでいた。
 近づくものの養分を食らおうと、うねうねと枝と根を動かすまるで生命を宿した樹となっている。
 安全と思われる場所で、なのはは意識を集中させ、ジュエルシードの場所を探す。

「見つけた!

 でも……このもう1つの反応は?」

 樹の上部に見つけたジュエルシードの反応とは別に、地面近くに同等の力を感知する。
 思ってもいない事態になのはとユーノが困惑している中で、さらに困惑を呼ぶ出来事が目の前に現れる。
 根の部分から、絵に描いたような雲が巨大な腕を造形を作り上げ、上部の樹を襲う。
 腕が触れた部分はまるで何かに分解され、吸収されるかのように消え去る。

 一つの体に二つの頭は要らないと言っているかのように腕は、触手のように暴れまわる枝と根に襲い掛かる。

 10秒とせずに、樹は枝をほとんど失い、まるでやせ細り枯れた樹のようにボロボロになっていた。
 腕は養分を吸い取ったのか膨張し、溢れ分散しかけていた。

 その隙に、なのはは遠距離での封印をしようと意識を集中させていく。
 樹と雲の腕の動きが止まった瞬間を狙って撃ち抜く。









 なのはが驚愕する数時間前……。

 街には墨村美守がお買い物に来ていた。


 頭痛を起こしてからしばらくは、家の全員が美守に結界術の使用と鍛錬を禁止させた。
 夜の街の警護任務は兄の良守が代わって行い、美守は夜に安眠させて貰えいてる。

 美守には体を気遣ってという風に伝えられた。
 しかし、実際には美守に妖を接触させないようにするためである。
 そのせいか、墨村家の塀に沿って、当主である繁守の妖のみを遮断する結界が張られている。

 美守が家に着くと、双子の妹のはやてが美守にベッタリとついて回った。
 生まれてからこの方足が不自由で車椅子で生活しているが、家の中だけでは家族の結界師達の式神に運んでもらっていたりする。
 美守とは違い、茶髪のショートでもみあげに赤と黄色の髪留めをしている。
 読書と料理が大好きな笑顔が眩しい太陽のような少女である。
 とある事件が起こってから、学校を休んでおり、登校を拒否し家に引きこもっている。
 結界師一族としてお隣同士の墨村家と雪村家の絶対的なアイドルで、美守とは違い結界師達全員からチヤホヤされている。
 しかし異能力はもっておらず、結界師としての訓練は一切受けていない。

 美守が修行や学校と任務についている時以外では、美守とはやてはいつも一緒にいる。
 美守に刻まれた呪も傷も受け入れ、2人は育ってきた。
 

 そんな2人に美希が付き添って、服と本の買い物に来ていたのだ。
 午後からは、美希の友人の忍とその妹と合流して継続する予定となっていた。

 こんな機会がないとはやてと美守は街へ出る事はないので、ウキウキとして美希に話しかけていた。
 2人とも平日の日中にはない笑顔を見れて、美希は嬉しく笑顔が自然とこぼれてくる。

 美守は学校では夜の任務とその後の自主鍛錬の疲れによって眠り続け、小学生に上がってから友達の話を聞いた事はおろか、学校での出来事すら聞いた事もない。
 はやてに至っては、美守が学校に行っている間は、料理を主夫の父と一緒にする以外は、部屋に閉じ篭り本を読みふけっている。美希達大人が散歩に行こうと誘っても、昼間には拒絶してくる。

 2人の世界は他の子供達よりも狭い。
 それを心配している美希達はなんとしても美守達を外へ出そうと試みていたりする。

 その数少ない成功のこの買い物を成功させようと、美希は気合を入れていた。

 午後からの買い物で美守達の買い物をするので、午前は2人の強い希望で美希の服を選ぶことになっていた。
 あまり外には出ないが、服を選ぶのは人並みに好きな2人のまたとない機会に2人はテンションがあがっている。

 いくつもの店を回り、あれでもないこれでもないと美希を着せ替え人形のように服をとっかえひっかえする。
 2人がちゃんと日常を教授していることに安堵しつつ、2人の言いなりになっていた。

 時計を見ると、既に買い物を始めて二時間が経過しようとしていた。
 美希は2人に待ち合わせの時間だと知らせ、集合場所である広場へと移動を始める。

 美希は既に購入した服を両手に持ち、先を歩く美守とはやての後を追う。
 笑顔で会話する2人は道路を挟んだ場所にあるとある屋台を見つけ、2人して振り返り指差し美希を笑顔で見つめる。

「「クレープ!!」」

「合流してからお昼ご飯だから、2人で1つね」

 えぇえ〜!! っと2人の不満を背に受けつつ、車がこない事を確認して道路を渡る。
 2人の好みを考えて、メニューを軽く吟味していたら、後方から力の爆発を感じる。

 美守達がいる30m程離れた地点にいた信号待ちのジャージ姿の男の子と女の子から眩い光が放たれ、一瞬にして美守達を巻き込む樹が発生する。
 2人を助けようとするも、美希よりも先に樹が美守達をさらっていく。

 助け出そうと黒羽を撃ち込もうとするも、形成を終えた根が暴れまわり、美希は後退せずにはいられなかった。
 そばにいる人を狙っているわけではなく、無作為に根を伸ばそうと暴れているようだった。
 黒羽を撃ち込んでも、撃ち込まれた部位を囲むように根が再生する。

 救援を呼ぼうと後退し始めた瞬間、美希は心臓や臓物全てを握られた恐怖が襲ってくる。
 立ち止まる事もせずに、美希は全力で逃げる事を本能的に選択してた。
 100m以上逃げてようやく思考が再開された。
 襲ってくる恐怖と守らなければという意思がせめぎ合い、逃げる事も戻る事も出来ないでいた。

 唯、美守達が呑まれた地点を見つめることしか出来ないでいた。
 そして、恐怖を与えた存在を目の当たりにする。

 ――美守達が呑みこまれた地点から雲が形どったような巨大な絵に描いたような雲が形成する腕が生えるのを。





 樹に巻き込まれる瞬間、美守の咄嗟の機転によって、はやてと美守は結界内で生きていた。

「みも姉……大丈夫?」

「……うん。絶対持ちこたえさせる。

 ――はやては絶対護る!!」

 美守は必死に自身の全力の力を結界に注ぎこむ。
 一瞬でも気を抜けばつぶされてしまう事がわかっていたから。

 今まで聞いた事ない音で軋む結界は美守の力を吸い、なんとか形を保つも長く持つとは思えなかった。
 美守の消耗も激しく、30秒と経たずに大量の汗をかき肩で大きく息をしていた。
 護られているだけのはやてはオロオロとした表情で美守を見守るも、何も出来ない無力感に引け目を感じ視線を落とす。

「笑って……いつもみたいに。

 私ははやてが笑ってくれたら、誰よりも強くなれるから!」

 美守は流し込む力を絞りきり、ぶっ倒れそうになりながらも意地で捻り出そうと腹の底に力を入れる。
 しかし出てきたのは、力ではなく激痛だった。
 腹の底から発生し、印が刻まれている部位に広がると、全身へと駆け巡る。
 そして痛みと共に、刻まれている印が全身に浮かび上がる。

 全身に印が浮かび上がった瞬間、


 ――カシャン……


 っと、美守とはやてはどこかで鎖が落ちる音を聞く。
 その直後に起こったフラッシュバックにはやては震え、美守は叫ぶ。

「出てくるな!! あんたなんか……こんなのいらない!!」

 美守の言葉と共に、張っていた間流の結界は白い光となり、美守とはやてを包み込む。
 美守が何かを振り払うように左腕を振り回していると、美守から絵に描いたような雲が伸び、押しつぶそうとしている樹を触れたその部分がなかったかのように消滅させる。
 美守とはやては出現した雲と白い光に驚く前に、激しい頭痛に襲われ、意識を失う。

 雲は主人を失った狂犬のように暴れまわっていた。

 すぐに樹は跡形もなく姿を消し、上空を蒼い宝石が飛んでいた。


 すぐさま駆けつけた美希によって、2人は運ばれ自宅で療養することとなった。
 午後からの買い物も急遽中止されてしまう。











 無事、ジュエルシードを封印したなのはは、ユーノが張った結界内で破壊された街を見ていた。

「ユーノ君……私って、弱いね」

「そんな事ないよ。こんな射程持ってるなんてすごい才能だよ」

 単純にユーノはなのはの射程距離に畏怖に似た感情を抱いていた。
 魔法と出会って一週間で、開花していく速度とその才能の巨大さに震えが出てきそうになる。

「ううん。

 私、あの子がジュエルシード持ってるって気づいてたのに、勘違いだって見逃した。
 きっと、羽鳥さんや結界師の人たちはそんな事しない」

「なのはは疲れてたんだよ、仕方ないよ……」

「ううん……違うよ。

 ユーノ君、私強くなりたい。この魔法ももっと使いこなして、誰にも迷惑かけないくらい強くなる」

 なのはは決意と共に、ジュエルシードをレイジングハートに収めると、先ほどまで樹があった空を見据える。
 深く深呼吸をし、ゆっくりと力強く歩みだし、ビルから去る。







 ――TO BE CONTINUED






  あとがき


 どうも、まぁです。

 ストックが早くも怪しくなってきました……。。

 いや、これからきっと妖精さんが……!

 なんて事はないので、地道に書いていきます。。



 どうぞ、これからもお付き合いください。

 では


   まぁ!



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