第2話「出会いと取引」










《Side アカツキ》





僕は一人、この会長室で彼等の到着を待っていた。

……人を待ち遠しいと思うのは何年ぶりの事だろうか。



会長になった日から、毎日の激務で心休まる時が無かった。

部下であるプロス君や、秘書のエリナ君に「極楽トンボとか、会長の自覚はあるのか」っと説教もされたっけ……

そりゃあ、勝手に抜け出したのは悪かったよ……でも、そうしないとやっていけないんだよ。

正直、何度逃げ出そうと思った事か……

その度に死んだ兄の顔を思い浮かべ、自分を奮い立たせてきた。

感情を奥に仕舞い込み、蓋をして会長として過ごしていった。

そうして僕は、いつの間にか余裕が無くなっていた。



……しかし、今日初めて会った彼と話して、忘れ去った筈のモノが戻ってきた。

何故だろう……フッ、答えは簡単……余裕が出来たんだね〜。

彼と話して余裕が生まれたのだ……世の中、不思議な事があるもんだ。



今から数時間前に、彼と取引をした。

彼は、社長派の連中がした裏取引や非人道的な実験などの証拠が入ったデータを交渉の材料にしてきた。

ネルガル(僕)のメリットはあのデータだけでも充分すぎるものだ。

彼には感謝しないと、これであの社長派の連中を一掃できる。

それと……是非とも欲しい人材だよね……うまく引き込めるかな? 

でも、その前に彼との取引を成功させないと。

僕は待っている間、どのようにして引き込もうかずっと考えていた。


「そろそろ来る筈だけど…〔コンコン〕……来たね」

「会長、お客様をお連れしました」

「入っていいよ〜」

「……失礼します」


会長秘書のエリナ・キンジョウ・ウォンが四人の客を連れて入ってきた。

う〜ん……感動のご対面……かな?





《Side ユラ》 (数十分前の出来事)





無事、ネルガル本社のヘリポートに到着した俺たちを待っていたのは……

スーツ姿の、如何にもバリバリのキャリアウーマンっといった女性だった。

プロスさんが彼女を紹介してくれた。


「ご紹介致します。
こちらはネルガル会長秘書のエリナ・キンジョウ・ウォン氏です」

「初めまして、エリナ・キンジョウ・ウォンよ……宜しくね」


彼女が右手を差し出し握手を求めてきたので、俺も手を差し出して応える。


「ユラ・マルスです。
 今回は私のような素性がわからない者との取引に応じてくれた事に感謝しています。
 恐縮ですが、“エリナさん”っとお呼びしてもよろしいでしょうか?」


エリナさんは「構わないわ」っと言って、俺の傍にいるラピス達に視線を向けた。


「その娘達が報告にあった……」

「はい……ユラさんが助け出したマシンチャイルドの生き残りの娘たちだそうです」

「そう……あなた達のお名前は?」

「……ラピス・ラズリ」

「……パール」

「……エメラルド」


警戒しているのか恐る恐るといった感じで名前を言う。


「私の名前はエリナよ。
 こっちへいらっしゃい、着替えを用意してあるから」


その事が分かったのか、エリナさんは優しく微笑みながら言ってくれた。


「えっ、着替えを用意してくれたんですか?」


まさか、自分達の着替えが既に用意してあるとは思っていなかった。


「はい、そうです。
 私が先に社の方に連絡を入れて用意させました。
 もちろん、あなたの分もあります」

「良かった……流石に、この格好はまずいですからね」


これから、一流企業の会長と会うのに、研究所から勝手に拝借した白衣とズボンだけの格好ではまずいだろう。

俺は、気を利かせて服の手配をしてくれたプロスさんに感謝した。


「二人とも、時間がないから話をしてないで急いでくれる」


俺たちは、慌ててエリナさんの後を追いかけた。





更衣室前で別れる時に、ラピス達が俺と「一緒に着替える」っと言って一波乱があった。

なんとか、俺の誠心誠意の説得で納得してもらい、ラピス達は渋々とエリナと一緒に女子更衣室に入って行った。



男子更衣室に入り、教えられたロッカーに掛けられているスーツに着替え始めた。

……スーツなんて大学の入学の時以来だな。

以前いた世界でのできごとを思い出すが、備え付けられた鏡に現在の自分の姿が映り再認識する。

もう、以前の“自分”出ない事を……


「そう簡単に、受け止められないよな」


少し自嘲気味に呟く。

気を取り直して、髪型を整えることにした。

……しかし、長い……長すぎるぅっ!!

櫛(くし)をいれるだけでも、一苦労だぞこれは……今度切るか……

着替え終わると同時に、ドアをノックする音が聞こえた。


「もう終わりましたよ」


……と言って、ノックをした人物を中に入れる。


「失礼します。
 ……おおっ、よくお似合いですよ」

「どうも……でも、プロスさん一つ聞いていいですか?
 ……どうしてサイズがピッタリなんですか?
 サイズは教えてないのに・・・」

「企業秘密です」

「はあ……」


疑問に思いつつも、これ以上追求してもまともな答えは返って来ないと思ったのであきらめた。


「そろそろ、あちらの方も終わった頃ですな」

「じゃあ、行きましょうか」


更衣室を出ると、目の前には着替えを終えたラピス達がいた。



その姿は、俺の意識を一瞬だけ奪い去った。

……数秒後、我に返り感想を言う。


「これは先程とは見違えて見えますな」

「元の素材がいいから服が見事に、この娘達の魅力を引き出しているのよ」


プロスさんの感想に、エリナさんが答えるが……俺はどうしても言いたい事がある。


「確かに似合っていますけど………
 でも、なんでゴスロリなんですかっ!?


そう、彼女達の服装はゴシックロリータ。

通称ゴスロリである。

黒を基調としたレース地の服に、スカート、腕部、胸部にフリルが所々に付けられている。


「この娘達に一番似合うのはこれしかないわっ!!!」


力説ですか……エリナさん……


「ああ、もうかわいすぎ………」


さらに……頬を赤く染めて、うっとりとした表情で呟くエリナさん。

流石の俺も、少し引いてしまう……

彼女はこんな性格だったか?

俺の中では、アニメで観た彼女のイメージが音を立てて崩れていく。

まだまだ、エリナさんの暴走は続く。


「さらに、髪型もコーディートもしてみたわ」

次に持ち出してきたのは髪型だった。

ラピスは桃色の前髪を額で分けて、あとはストレートに下ろしている。

パールは白銀の髪を前髪で分けて、両方を三つ編みにして垂らし、後ろはそのまま下ろしている。

  エメラルドは名前と同じ色の髪を、リボンで頭の後ろの方に纏め上げている。


「さあ、感想は?」


彼女は俺だけに感想を求めてきた。


「……可愛いですよ

「聞こえないわよ」

「……可愛いですよ

「もっとはっきりと、大きな声で言いなさいユ・ラ・ク・ン」


絶対にワザとだっ!!

その証拠に、口元が少し笑っているし……んっ、プ、プロスさんまでも敵に回っている!?

エリナさんの後ろで助ける気配もなく、ただ興味深そうにこちらを見ていた。

……っというか、ドキドキ……ワクワクっといった感じだ……あんたは子供かっ!!!

もう逃げ場はない、そうしたらやる事はただ一つ。


「ああもうっ、可愛いよっ、クラっときたよっ、抱きしめて撫でたいですよっ!!!」


俺は、もう半分やけくそで顔を真っ赤にして一気に言った。

これを聞いたエリナさんは、もうこれでもかっという位の笑顔で……


「人間正直が一番よ」


耳元でボソっと彼女は言ってきた。


「よかったわね〜。
 みんな、すごく可愛いですって〜♪」


嬉しそうにコクコクと頷くラピス達。
しかし、その片隅で俺は「敗北」という二文字を味わっていた。



数分後、復活した俺たちはプロスさんの案内で会長室に向かった。





俺は用意された席に座り、アカツキと向かい合う。

その後ろには、エリナさんとプロスさんが控えていた。


「改めて自己紹介をしようかな。
 僕がネルガル重工会長アカツキ・ナガレ」

「ユラ・マルス。
 見ての通りマシンチャイルドだ」


通りあえず挨拶を交わす俺たち。


「さっそく、本題に入りたいのだが……いいか?」

「こちらはOKだよ」

「その前に……これを」


スーツの懐からディスクを取り出し、アカツキに手渡す。


「これは?」

「研究所の残りのデータだ」

「なっ!?
 ……どう言う事だい、まだ僕は君の出す条件を聞いていない」


一瞬、アカツキに驚愕の表情が出るが、すぐに顔を戻す。

しかし、取引の前に自分の切り札を渡すっという普通ではありえない行動に、アカツキは動揺を完全に隠せてない。


「あんたに直接会って確信したんだ。
“信用できる人物”だと……これじゃあ理由にならないか?」


その俺の言葉の所為か、アカツキは突然笑い始めた。


「くっくっ……本当に君はおもしろいよ。
 それを聞いたら、僕は何も言えないよ……何でも言ってくれたまえ、出来うる限りの事はやろう」


さっき程とは違い、こちらへの警戒が全くなくなったのが分かる。

俺が今見ているアカツキ・ナガレが、何も被っていない本来の姿なんだろう。

「感謝する。
 まず、俺とラピス達の衣食住を用意して貰いたい」

「わかった、直ぐに用意させよう。
 場所はこの近くでいいかい?」


後の事を考えると、まさに好都合だ。


「ああ、それでいい。
 後は、この娘たち三人に専属のガードつけて貰いたい」

「それについては問題ないよ。
 元々、君達にはSSをつけるつもりだったから」

「そうか……でも、俺にはつけなくてもいいぞ」


俺の申し出にアカツキは一瞬だけ眉をひそめるが、すぐにある事に気づいたようだ。


「そういえばそうだったね。
 ……君の実力はプロス君から、報告を受けているよ」


どうやら、研究所の警備員が全員遺体で発見された事をプロスさんは報告をしていたようだ。

ヘリの中で聞いたが、あそこの警備員はネルガルのSSとほぼ同レベルだったらしい。


「最後に、現在開発中の次世代人型機動兵器のテストパイロットにして貰いたい」

「どこでその事をっ!?」


これには、流石のアカツキも席を立って驚いた。

後ろの二人も同じ様に驚いている。


「迎えが来るまでに、俺がここにハッキングをして調べた。
 ……言い忘れたが、さっきの条件の追加でオペレーターとしての訓練も受けたい」

「ハッキング……君はオペレーターとしての能力にも優れているのかい?」

「このIFSはパイロット用ともオペレーター用とも違う紋様をしているのに気づいて、研究所で調べたが……
 そのほとんどが抹消済み、結局わかったのはこれが両方に適応している事だけだ。」


右手の甲にあるIFSを指して答える。

IFSにはパイロット用、オペレーター用と二つある。

そして、この二つのどちらかしかその能力を持たない、故に両方の能力を持つのは異常だった。

俺は、研究者は何故このようなIFSを持たせたか疑問に思うが、今考えた所でその答えは見つかるわけがない。


「それで……受けてもいいのか?」

「ああっ……最後の条件もOKだよ」

「取引成立だな。
 フウっ……サンキューな、アカツキ」


ようやく交渉も終り、肩の荷が下りた。


「あれっ、口調がガラリと変わったけど?」

「あれは営業用、今は地の方」

「本当に変わったわね」

「元がこのような口調みたいですな」


余りの変わりぶりに、あちらの三人は驚いているようだ。

……ふと、自分の服が引っ張られたことに気づいき、見てみると……


「どうした、ラピス?」

「ワタシモオペレーターノクンレンシタイ」


突然、ラピスがそのような事を言ったので驚いた。


「どうして、もう普通の女の子として生活を送ることが出来るのに?」

「ワタシモヤリタイ」

「ワタシモ」

「パール、エメラルド、君達まで……そこまで言うなら理由を教えてくれないか?」


俺には全く解らなかった。

だからこそ知りたい、何が彼女たちをここまでさせたのか……


「ユラノヤクニタチタイシ……ソバニイタイカラ」


エメラルドの言葉に、他の二人もコクリと頷く。

俺は、嬉しかった。

こんなにも自分を慕ってくれている事、はっきりと自分の意志で答えていることに……けれど……


「そうか……
 気持ちは嬉しいが、俺の傍にいると危険な目に遭う可能性が高い……だから、考え直してくれ」


しかし、フルフルと首を振り否定するラピス達。

何度も説得するが、今回は引き下がってくれない。

そこに……


「いいんじゃないかな。
 僕はそれに賛成するよ」

「アカツキっ!?」

「そう睨むのは止めてくれ……僕は彼女達の力を利用するつもりはない。
 ただ、君の傍が一番安全だと思ったから言っただけさ」

「……しかし」

「それに……彼女達の初めてのワガママ位聞いてあげないと」


その通りだった。

初めて彼女達は自分の“意思”を表に出した。

俺が無理矢理、言い聴かせればあきらめるかもしれないが、それは彼女達の“自己”を殺してしまう事になる。

そんなことはしたくない、だが………俺は決断した。


「……わかった。
 ラピス、パール、エメラルド、本当にそれでいいのか?」

「「「ソレデイイ」」」

「……だっ、そうだ」


溜息をついて、「仕方がないな」という感じの目をアカツキに向ける。


「了解、彼女達の事も手配しよう。
 ああ、それとね……彼女達には命令はしないけど、お願いはするかも……」

「こいつらが引き受けたなら俺は何も言わない」


全く、抜け目の無いやつだっと思った。



「それでは会長、私はユラさん達の住居と護衛の方を手配します」

「私は衣服の方を……」

「……あんまり趣味に走らないようにね、エリナ君」


しっかりっと、クギを刺されるエリナさん。

助かった……毎日あんな服だと教育的にもマズイと思う……あと世間にも……

皆、それぞれの作業に移ろうと行動しようとしたが……

ヤバっ、肝心な事を忘れていた。


「ちょっと待ってくれっ!!!」


思わず、大声を出してしまい、俺に視線が集まる。


「い、いや……あと一つだけ大事な事を言い忘れた」

「「「大事な事?」」」

「これは、俺の身体についての事なんだけど……」

「身体……ユラ君どこか悪いのかい?」

「嫌、どこにも異常はない。
 ただ……脱出の直前に実験が行われて、俺にある場所で採取されたナノマシンが投与されたんだ」

「それで、場所はどこなのよ?」


エリナさんが、興味深そうな顔をして聞いてくる。


「遺跡だと研究者は言っていた……」


「「「遺跡っ!!」」」


俺の予想よりも、遥かに通り超した顔で叫ぶ三人。

その存在の重要さを十分に知っているからこそ、ここまで声を上げてしまうのだろう。


「今のところ何も起きていない。
 だけど、何らかの影響は受けていると思う」

「未知のナノマシンか……これは手を出さない方がいいね」

「そうですな……下手をしたらユラさんの命が危ないですから」

「プロスペクターの言う通り……リスクが高すぎるわ」


俺も知りたいのは山々だが、詳しいデータもないのに調べるのは愚かとしか言えない。

しかも、アノ“遺跡”から採取された物、何が起こるか予測ができないため彼等も慎重にならざるをえない。

今は何もしない事が良策だという結論に達した。


「じゃあこの件は、僕ら以外に口外しないこと……いいね?」


全員がそれを了承する。


「ユラさん、まだ何かありますか?」


プロスさんが確認を取ってくる。


「いえ、こちらの言いたい事は全て話しました」


その言葉を聞いて、さっき任された行動に移ろうとするエリナさんとプロスさん。


「それじゃあ、2人共あとは任せるよ〜」

「わかりました」

「それじゃあね……」


二人はそう言って会長室を後にする。

次に、アカツキが俺たちに視線を向け……


「最後に僕から一言……ようこそ、ネルガルへ。
 僕らは、君達を歓迎するよ」





そして舞台は一年後に移る。





2196年某日。



俺とプロスさんは、アカツキに呼び出されて会長室に来ていた。


「「<スキャパレリプロジェクト>!?」」

「そう、詳しい事はこの資料にかいてあるから」


アカツキは用意しておいた書類から資料を出して俺たちに渡す。

差し出された資料に目を通すこと十五分。

読み終わると、資料に書かれている余りの内容に唖然とする。


「これは、忙しくなりそうですな」

「……って言うか、何でそんなに冷静でいられるんですか?」

「いえいえ、これでも内心は驚いていますよ」


俺には表情が全然変わらないので、嘘にしか聞こえない

相変わらず、プロスさんの表情は読めない。


「アカツキ、生きて帰れる保障はあるのか?」

「それは、君達の力とこれから選ばれる乗員次第だね」

「おまえ、俺達に全てを押し付けていないか?」

「酷いな〜、親友である君を信頼しているから任せたのに……」


……アカツキ、人はそれを押し付けるっと言うのだぞ。

俺は心の中で愚痴を零す。


「……っで、引き受けてくれるかい?」


そう聞いてくるアカツキだが、俺が引き受けない筈が無いっという事を解っているクセに……


「私に異論はございません」

「火星には“アレ”があるかもしれない。
 行くに決まっているだろう」

「契約成立。
 じゃ、後はよろしく」


手をヒラヒラと振り、俺たちを送り出す。

出会って一年経つが……全然変わらないなアイツは……

会長室を後にした俺たちは、廊下で今後の事を話しながら歩く。


「どうしますか、プロスさん?」

「とりあえず、乗員の候補は今日中に私が選んでおきますよ」

「じゃあ、交渉に行くのは明日からですね」

「そうですな……では、明日の正午に本社前に集合ということで……」

「わかりました。
 車の方は俺が手配しておきます。
 ……それじゃあ、失礼します」

「いつものところですか?」

「ええっ……」


そう言って話が一段落すると、俺は急いで例の場所に向かう。

……やっぱり、みんな怒っているかな?





例の場所の前に辿り着く。


「さて……何て言い訳しようか……
 ……やっぱり、何時もの様にアカツキの所為にしよう……実際そうだしな」


彼女達が待つ部屋の扉を開けるのとほぼ同時に、腰に軽い衝撃がくる。


「ユラ、遅刻だよ」


衝撃の正体は頬を膨らませたラピスだった。

予想通り、彼女は御機嫌ナナメのようだ。


「ごめんな、アカツキから急に呼び出しがあってさ……」


言い訳をするが、彼女の機嫌は全然直らない。


「せっかく、今日の課題一番早く終わったのに……ユラに見て貰いたかったな」


その言葉から、ラピスが余程見ていて欲しかったのがよく解る。


「そりゃあ、悪かったな……でも、文句ならあいつに言え」


罪を親友に擦り付ける……しかし、事実であるから仕方がない。

余談だが、この時の言葉でラピスの報復の対象がアカツキとなり……

その後、アカツキのプライベート映像(主に仕事をサボって遊びにいった時の物)がエリナに届けられたらしい。

おかげでアカツキのヤツは、一週間も会長室に缶詰状態にされたらしい。


「ユラァ〜、私も終わったよ♪」


そう言いながら、次に抱きついて来たのはエルだった。

……以前の事だが、名前が長かったので“エメラルド”を短くして、“エル”という愛称を俺がつけた。


「おっ、今日はエルが2番か……」

「そうだよぉ……でも、パールと僅かの差だった」

「僅かでも、負けは負けよ」


パールが愚痴を零しながら、同じ様にこちらに近づいてきた。
彼女の愚痴は、まだ続く……


「ハァ……負けたから、今夜はエリナとね……」



ここで説明しよう(誰に?)、ラピス達は水がトラウマになっている。

恐らく、研究所で液体に満たされたケースの中で実験をされた所為であろう。

水に入るとその事を思い出すからだろうか、風呂に入るのをとても嫌がる。

何をしようとも入らないので、アカツキは冗談で「ユラ君と一緒なら入るんじゃない?」と言った所。

即座に、「「「「ダッタラハイル」」」」っと三人はOKを出した。

……色々と説得はしたのだが、このあと首が縦に振ることはなかった。

結局、この案が可決されて俺はラピス達と一緒に入るハメになった。

その時の事を思い出して語ると……毎回、自分との戦いだった……

今は、なんとか慣れたが……それもそれで、問題だな。



当然、この提案を出した張本人に制裁(とりあえず、ボコった)を与えておいたのは言うまでもない。



3ヵ月後、ラピス達は親しい人(エリナさん)となら一緒に入れる様になった。

……そのときの感動は、今でも忘れていない。

そこで、エリナさんに後は任せたのだが………


悪魔が光臨した。


彼女曰く、「三人を一遍には無理だから、二人はユラ君が担当ね」らしい……

俺は「何故!? Why!?」と聞いたが、ラピス達の「「「ワタシのことキライ?」」」」の涙目攻撃に轟沈する。

・・・その時、俺は確かに見た。

エリナさんに、典型的な形をした悪魔の尻尾が生えているところを……

後でアカツキに聞いた所によると、この事をラピス達に相談されたエリナは、数日前にこの策を彼女達に授けたのだ。

エリナ・キンジョウ・ウォン……あの女性(ひと)対しての戦績は……全て敗北。

まさに、俺にとって天敵なのだ。



ここで、先程の“勝敗”が関係してくる。

オペレーター訓練で出された課題を一番目、二番目に終わらせた者が、俺とのバスルームタイムを獲得できる。

エリナさんでも悪くはないのだが、どういう訳か俺にこだわる彼女たち……何故だろう?





……っというわけで、勝者の2人は俺とのバスルームタイムを獲得したわけだ。


「そうそう、急な呼び出しは何だったの?」

「んっ、まあ色々とね」

ラピスの質問に、言葉を濁して答える。

「色々ってな〜にぃ〜?」

「色々は色々だ」


エルの追求にも、また言葉を濁す。

顔はポーカーフェイスを保っているから、バレる心配はないだろう。


「「「あやしい……」」」

「んっ、何か言ったか?」

「「「ううん、なんでもないよ♪」」」


そう言っているが、一瞬だけ彼女たちの瞳が怪しく光ったのは気のせいだったのだろうか?



その後、俺は業務を済ませてラピス達と自宅に戻った。





自宅はネルガルの所有するマンションだが、部屋の中は普通の一軒家と…・・・嫌、それ以上広さを持つ。

ちなみに、隣にはエリナが住んでいる。

アカツキが言うには、「隣にいれば困った時に便利だろう」っだそうだ。

……だが、ネルガルの会長秘書と貴重なマシンチャイルドが、一箇所に集まっていれば護衛しやすいのが本音だろう。



夕飯のあと、今日の勝者であるラピスとエルと一緒に風呂に入る。

ちなみに、敗者のパールはエリナの所で風呂に入っている。

隣から風呂上りのパールを引き取り、就寝まで雑談やゲームなどで過ごす。

こうやっていると、一年前の彼女たちが嘘みたいだ。



最初の時は、話しかけるのも俺からだったし、自分の事も話さなかった。

そういう事をしたのは、あの取引の時しかなかった。

あの時の事があったから、メンタル面も大丈夫だとタカをくくっていたが……それは、甘かったと認識した。

その解決策として、就寝前に会を開く事にした。

会っと言っても堅苦しいモノでは無い。

ただ、その日に感じた事や思った事を互いに話す事により、感情に起伏を与えるのが目的だ。

結果は見ての通り、ラピス達に喜怒哀楽がはっきり表情に出るようなった。

俺にとってこんなに嬉しい事はない。

現在は会を開かなくても、ラピス達は色々と報告してくれるので、自動的に消滅した。

そして、今も彼女達は心身共に成長している。





……午後10時を過ぎたので、寝る事にした。

ちなみに、寝る時も俺たちは一緒だ。

ここに引っ越して最初の夜、「一緒に寝る」とラピス達はきかなかった。

俺も、“寝るくらいなら”と思ったのが甘かった。

三人に抱き枕にされて、自分の五感に感じる女の子特有の柔らかさや匂い。

さらに、吐息や無垢な寝顔の所為で、眠れる状態ではなかった。

俺は夜中ずっと「ロリコンじゃないロリコンじゃないロリコンじゃないロリコンじゃない」っと繰り返して自己を守った。

その次の日、アカツキ達に「寝不足?」と聞かれた。

今は何ともないのだが……何度も思うが、慣れとは恐ろしいと思う。





ふと、目が覚めた。

起き上がり時計をみると、現在午前2時。

カーテンの隙間からは、月の光が差し込んでいた。

ベッドには、俺とその左右にラピス達が寝ている。

あれから一年が経った所為か、今日は思い出に浸ることが多かった。



いよいよ、ナデシコの出航まであと数日……

長い様で、短く感じるこの一年余り……やっと、ここまで来る事が出来た。

俺のやるべき事は歴史に干渉する事。

それで、未来がどう変わるかは判らないが……少なくとも、あんな未来にはさせない。

俺の全てを賭けて必ず変えてみせるっ!!!

一年前の誓いを胸に、再び眠りへと落ちていく……










第三話に続く










楽屋裏劇場




以降は

二式(クイック二式) ユ(ユラ) ラ(ラピス) パ(パール) エル(エメラルド)





二式「ここは、本作品のキャラたちと俺との雑談の場である。
   では、第一回目は主人公であるユラ君に登場を……あれっ、いない?
   おかしいな、いったい何処に……」

ユ「くたばれぇぇぇっ!!!」

二式「ゲフッッッ……イ、イタタ……いきなり何しやがる!?
   お前の蹴りで、首が180°回転したぞっ!!」

ユ「やかましいっ!!!
  お前の所為で、俺が何度も自分自身を保つのに苦労した事か……」

二式「ラピス達との同居のことか?
   仕方無いだろう……お前はアキトと同じ女難が付きまとう運命なんだからな」

ユ「それを設定したのはお前だろうっ!!!」

二式「まあ、いいじゃないか……楽しかったんだろう?」

ユ「そりゃまあ、そうだけど……」

二式「だったら、無問題じゃないか」

ユ「ああ……(確かに、ヤツの言う事も事実だし……許してやるか)
  あと、首を治しとけよ……もうすぐ、ラピス達が来るんだからな」

二式「ハ〜イ……よっと〔ゴキッ〕……よしっと」

ラ「やっほ〜」

パ「入るわよ」

エル「きたよぉ〜」

ユ「おっ、三人とも来てくれたか……」

ラ「ユラのいる所、私たち在りっ!! ……だよ」

パ「一応、私たちの事を書いて貰っているし……」

エル「暇つぶしぃ〜〜」

二式「偉い言われようだな……」

ユ「仕方あるまい事実だしな……っで、俺たちを集めてどうする」

二式「君たち、四人の細かい設定の紹介を皆様にね」

ユ「なるほど……最初は誰からだ?」

二式「最初はラピスからだ」

ラ「ラピス・ラズリ、9歳。(2196年現在)
  好きなものは、TVゲームとユラの作るご飯。
  あとは……ユラの全てっ!! ……だね」

ユ「ラ、ラピス……なんて過激な事を……」

二式「愛されているな、お前……
   細かい設定として、北辰に拉致されていないからトラウマが余り無いので、劇場版より明るく、感情表現も多種多様。
   外見は天真爛漫な少女であるが、それは心の拠り所があるから……って設定だ。
   容姿は劇場版の9歳にした感じだぞ」

ユ「性格と容姿が変わっただけなのか?」

二式「ラピスは完成されているから、余り変更したくなかったんだよ」

ユ「まっ、懸命な判断だ。
  次は……パールだな」

パ「初めまして……パール 9歳よ。
  好きな事は、料理と読書。
  今の目標は……ユラの恋人ね」

ユ「おまえもなのか……パール……」

二式「仲の良い事で……
   設定は、本を読んでいるからか機転が利き、物事を深く考えるクセがある。
   性格は、沈着冷静なクールビューティー……を目指している。
   だが、時折見せるドジな面が愛嬌となっており、結構甘えん坊だ。
   料理は、最近ユラに習い始めた……こんな設定だ。
   容姿の方は、ラピスたちより成長が早いので少し大きい。
   髪型のイメージは、シスプリの可憐だ」

ユ「お前は、このゲームをやった事をあるのか?」

二式「無いっ!!
   でも、イメージの髪型だったから……使わせて貰いました」

ユ「最後は、エルだぞ」

エル「どうも初めまして、エル 9歳だよぉ〜。
   好きな事は、頭を撫でられる事とお買い物。
   将来の夢は……ユラのお嫁さん(真っ赤)」

ユ「あっ……あああっ……」

二式「ついに何も言えなくなったか……
   設定は、癒し系で人懐っこい感じである。
   しかし、好奇心旺盛で興味があるとすぐに調べようとする。(例、解体など)
   ラピスとパールよりオペレート能力はほんの少し劣るが、ソフトウェアの開発に関しては右に出るものはいない。
   あと、語尾をたまに伸ばすクセがある。
   容姿はラピスとほぼ同じ体型で、髪型のイメージはKanonの佐祐理さん」

ユ「エルだけ、リボンがついているんだな」

二式「おっきいリボンって可愛いじゃん」

ユ「確かにそうだな」

二式「それじゃあ、ラストいってみようっ!!」

ユ「何、今のが最後じゃないのか!?」

ラ・パ・エル「「「ホントのラストはユラよ(だよ)」」」

ユ「仕方ないか……
  ユラ・マルス 16歳(肉体年齢)
  好きな言葉は、“幸福と真実”だ。
  将来については……今の所考えていない」

二式「ラピスたちはいったんあっちにね……
   設定は、最強の退魔師一族宗家の直系で、歴代の中で一・二を争う実力者。
   何故、ナデシコの世界に来てしまったかは今の所は不明。
   誰にでも優しく、人当たりも良いが……敵に関しては容赦はしない。
   普段は一般人と変わりないが、戦闘になると沈着冷静で臨機応変に事を進めるプロフェッショナルに変わる。
   自分の現在の身体には謎が多く、ナデシコの発進までの一年で色々と調べまわった。
   ラピスたちには、本当の家族のように接している……本人達はそれでは満足していないようだが……
   容姿がズバ抜けているせいか、よく女に間違われる。
   髪型のイメージはヴァルキリープロファイルの主人公レナスとほぼ同じ。
   変更点は、前髪が額にかかる感じで、腰の辺りで髪を三つ編みにしている」

ユ「ほっっっとうに、よく女に間違われるんだよな」

二式「前の世界でもそうだったしな」

ユ「そうなんだよな……初めてこの顔見たときは確認できなかったが、顔は全く変わってないだが何故だ?」

二式「それは、今の所は秘密だ。
   あとは、前の世界の家族構成を説明しないと……」

ユ「俺がやる。
  俺と両親に、母方の両親が一緒に暮らしたいた」

二式「家は凄い豪邸だろう?」

ユ「嫌、一般の家と比べてたら大きいかもしれんが、宗家はもっとでかい」

二式「あれっ、おまえ直系の子孫だろ?」

ユ「そうだけど、今の当主は父の弟……つまり、俺の伯父というわけだ。
  父さんは、当主にはならないって言ったらしい……」

二式「凄いな……ちなみに、おまえの父親の年齢は?」

ユ「両親共に29歳だ」

二式「………お前の前の世界の年齢は18歳だったよな……
   ……っということは母親は11歳の時にお前を産んだのか!?」

ユ「ああっ、そうなんだよ……ちなみに、家の祖父母は10歳で母さんを産んだらしい」

二式「月○シリーズの○夜の退魔師一族と一緒かよっ!?」

ユ「昔はそれと同じだったらしが……どうも、あっちは恋が燃え上がった結果みたいだ」

二式「自分で設定して言うのもなんだが……ちょっとヤバイかな?」

ユ「そうしないと俺はいない訳だし……いいんじゃないか」

二式「そうか……
   それじゃあ、この辺でお開きにしますか」

ユ「そうだな……ラピス、パール、エル。
  こっちにおいで……」

ラ・パ・エル「ハ〜〜イ」

二式「コホン……では……どうぞ」

ユ・ラ・パ・エル「「「「「またの機会に会いましょう(ね)」」」」

二式「それでは……」










あとがき

どうも、クイック二式です。

今回も私の作品を読んで頂きありがとうございます。

感想を頂いた管理人の黒い鳩さん、時量師さん、神威さん 、雪夜さんには限りない感謝を言わせていただきます。

この上に書いた楽屋裏は、突発的に書くので毎回ではありません。

あと、今回から視点が主人公だけでなく、他の人にも移ります。

どうか、この二点の御了承のほどをお願いします。

今回の話は、原作本編との橋渡しの話です。

だから、パッとする場面を書こうと思ったのですが、上手くできませんでした。

しかし、次回はナデシコの発進になるので、上手く書けるよう頑張ります。




感想

なるほろ、七夜氏と同じ設定で容姿がレナス・ヴァルキュリアっすか…無敵の美少女少年ですな。

まあ、アキトさんに代わって主役を 張るんですからそれくらいでないと、勤まらないんでしょう、大変ですね。

アキトのパラメーターの内、戦闘力と容姿で一枚上でその外は何倍とか言うレベルのようだね…(汗) 料理は五分かな?

バカな事を言わないでください! 容姿でアキトさんに勝てる人なんていません! テンカワスマイルを知らないとは言わせませんよ!

容姿かい!? って私も男だからね、そんなの威力が分らんよ。

テンカワスマイルの威力は老若男女問いません! その証拠に、 SS投票にアキト×シンジなんていうリクがあるじゃないですか!

ぶっ、いあまあアレはどちらかっていうと、シンジ君のイメージの問題でアキトには関係ないんじゃ…(汗)

ああ、確かにそんなシーンの多い人 ですねシンジさんは…(汗) 最終的には私と結婚するとはいえ…二人のそれ見てみたいきもしま すね(微笑)

ルリ様いつから腐女子に…(汗)


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