とある魔術の未元物質
SCHOOL39  雑 魚


―――被抑圧者や被搾取者の無力感を大いに強めるには、彼らの苦情を一貫して無視すればよい。
無視というのは一番嫌な対応だ。無視されれば幾ら話しかけてもコミュニケーションは成立しないし、無視する相手とは対話が成り立つ筈がない。また悪口などに反応せず無視すれば、やがて悪口は収まるものだ。反応しない相手ほど面白くない者も、相手したくないものもない。無視というのは最高の防衛策であり、そして残酷な攻撃方法だ。







 勝敗は決した。
 『猛毒右腕』は地に倒れ、狙撃手二人は沈黙し、垣根帝督を止める者は消えた。
 全てが消える。最初に二人が逝った。
 次は貴様だ『猛毒の右手』を持っていた男。
 垣根は呟きながら、服の埃を払い前進する。その歩みを妨害する者は誰もいなかった。

「安心しな。勘違いされ安いんだが、俺も殺人狂って訳じゃねえんだ。敗者甚振って悦に浸る変態じゃねえし、男の悲鳴なんて聞きたくもねえ」

「――――――――――――――」

「殺しはしねえよ。大人しく喋れば殺しはしねえ。ただし喋らねえと…………暗部なら、分かってんだろ?」

 学園都市の闇に、表の法律などによる縛りは存在しない。表の世界のヤクザなどとも違う。闇の大本とは学園都市そのもの、学園都市という表の支配者であるが故に、その裏に属する闇に表の常識は介入することはないのだ。

 だから殺人も、拷問すら認められる。表で死刑執行以外で殺人を犯せば法で裁かれる。だが闇で殺人を犯しても、それは黙認される。裁判も行われない。
 戦場と日常の違いにも似ているか。戦争で人を殺せば称えられるが、日常で人を殺せば単なる犯罪だ。学園都市の闇も同じ。学園都市の表側は日常だが、裏側は常に戦場なのだ。普通の戦争と違う所は、暗部に属する兵士には死んでも保険がおりることもなく、人権など容易く無視され、賞賛など欠片もないことだろう。兵士に与えられるのは殺人と言う名の狂気と金のみだ。
 法を作り罪人を捌く都市そのものが暗部と言う闇を作り上げている以上、暗部に光はない。
 暗部に属する者なら誰でも理解していることだ。垣根も、そしてこの男も、それは百も承知だろう。

「…………ま、あの右腕は諦めな。俺としても、捕虜に銃を持たせたまま尋問するようなヘマはしねえ。誇っていいぜ。この俺の未元物質を溶かすなんざ、どっかのしずりちゃんにも無理だからな。あの狙撃手もだ。相手が俺じゃなけりゃ、任務は滞りなく成功していたろうよ」

「…………………………」

(本当に何も喋らねえか。これは、やっぱ喋らないじゃなくて喋られないってことか)

 となると厄介だ。言葉というのは一番手っ取り早いコミュニケーションだ。喋れない相手のコミュニケーション手段としては手話が挙げられるが、ロシア語を流暢に使いこなす垣根も手話までは知らない。となるとモールス信号……も論外。紙に知りたい情報を書かせるのが妥当な所か。しかし妥当な選択肢であっても、生憎と今の垣根には紙とペンの持ち合わせがない。

(仕方ねえ。気絶させて俺の部屋まで引っ張ってくか。あの暴食シスターには…………金やって好きなもん食ってこいって言や消えるか)

 心の中でわりと失礼な事を考えつつ、『猛毒右腕』の頭部に手を伸ばす。

「…………………ありがてえこった」

 伸ばす手が止まった。
 振り向くと視界に映るのは大柄の男。燃えるような赤毛が印象的な白人男性。漂う雰囲気から察するに『猛毒右腕』と同じく学園都市の追っ手であろう。

「ありがたい? 垣根帝督、お前は新たなる敵の出現に歓喜する魔性の戦闘狂なのか?」

 白人にしては流暢な日本語であった。
 学園都市の生活が長いのだろう。それか国籍は日本か。ハーフという可能性もある。

「んな訳あるか。俺にはどこぞの第一位の野郎みてえに、二万体の雑魚殺して粋がる変態趣味はねえよ。俺が言いてえのは、そこの無口とは違ってまともに喋る奴が出てきたから問題解決ってことだ」

「ああ。そいつは珍しい能力持ってたせいで研究者共に色々と弄られてな。粗方の調査が終わったら言葉を失って……ま、私が目を付けて拾ったんだがな」

「つぅことだ。拾った責任だ。拾い主として俺の質問あれこれに答えてもらおうか」

「それは無理というものだ。第二位」

「俺に勝てるとでも?」

「真っ向勝負なら100%の確率で私の敗北だな」

「なら暗部お得意の人質作戦でもしてみっか?」

「ふむ。良い手段だ。お前と共にいるインデックスとかいうシスター、人質にとれば些かの勝機が芽生えるかもしれんな」

「とるのか?」

「とらん」

 あっさりと男は否定した。
 意外だった。人質をとって従わせるのは暗部の、ひいては学園都市の良く使う手なのだ。垣根自身は実力もあるので囮をとる事はあっても人質をとった事はないが、効率の良い手段であるのもまた事実。尤もインデックスには鉄壁の『歩く教会』があるのでインデックスの頭に銃口が向けられようと、超電磁砲が向けられようと垣根は平然と無視するので人質にすることに意味はない。寧ろ垣根のことだ。『歩く教会』を盾替わりにすることもあるだろう。
 だから内心ではどうでもよかった。相手が魔術師ならまだしも学園都市の能力者が、インデックスの『歩く教会』をどうにか出来るとは思えないし、仮にできるとしたら同じLEVEL5でないと無理だろう。そして目の前の男はLEVEL5でないことは明らかだった。

「ロベルト=アベル。耳に挟んだことがある。アレイスターお抱えの暗殺部隊のお山の大将だったか」

「知ってたのか?」

「こう見えて暗部になって長えからな」

「同様だ。私も暗部に堕ちて随分とたつ。いい加減アレイスターの声色も聞き飽きた所だ」

「反逆の予定は?」

「現状ない。所詮、幾ら反逆しようと私は大した器の持ち主ではない。小さな小隊のリーダーが精々。アレイスターに反逆してそれに成功したとしても、私にその後上手く立ち回る手段はない。アレイスターを殺しても別の誰かに殺されるだろう。だから、反逆しない」

「一生飼い犬でいるつもりかよ。物好きな野郎だ」

「飼い犬というのも慣れれば悪くないものだ。少なくとも命は保証されている。仕事に失敗しない限りは、だが」

「じゃあ保障できねえな。今回の仕事は大失敗。皆揃って全滅だ」

「しないさ、全滅など」

「降伏要求には?」

「応じない」

「ならば、どうする?」

「お前を倒す」

 やけに堂々とした発言だった。とても正面から戦えば100%負けると宣言した男には思えない。だが自信を感じる。常に格上を倒し続けてきたという自信を。

「勝てるのか?」

「勝たなければ、死ぬしかないな。俺達は仕事を成功し続けているから生かされているようなものだ。仕事に失敗すれば後の末路は散々だ」

「勝つには真正面から戦わなけりゃいい、っていうのは良く聞くパターンだが、お前、俺に真っ向から立ち塞がっているな」

「正攻法に見える奇襲もある」

「上等だ」

「雑魚には雑魚の戦い方があるものだ。これからお前に雑魚キャラの戦いを教えてやる」

 垣根帝督が大地を滑る。
 LEVEL5という最強キャラと、そこいらに転がる雑魚キャラの戦いが始まった。




さて遂にラスボス戦。垣根のLEVEL5としての力が今こそ!



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