とある魔術の未元物質

今回は「禁書」らしく視点を変えてみましたw
SCHOOL49  スピン オフ


 さて垣根帝督達が去った事により、学園都市は物語の中心点ではなくなった。
 ただしそれはあくまでこの物語の話である。
 幻想殺しの少年は禁書目録と邂逅する事こそなかったものの、『吸血殺し』や『絶対能力進化実験』などに関わったし、最強の超能力者は『幻想殺し』や『打ち止め』といった少女達に出会った。
 物語は一つではない。
 一人の人間が主観的に観測できる物語は一つだけだが、遠くから世界を俯瞰してみれば異なる物語達が見えてくる。
 或いは、一人の教師。或いは、一人の不良。或いは、一匹の猫。或いは、一人の風紀委員。或いは、超電磁砲。或いは、或いは、或いは…………。
 これはそんな或いはの話の一つ。
 どうでもいい脇役にスポットをあてた、世界に影響を与える事もない、一人の青年の物語。
 科学と魔術が交差する訳でもない。
 物語はただ、日常にちょっとした非日常が混じる事から始まる。
 ただそれだけの、在り来たりなスピンオフ。
 ヒロインは特に大した能力もない、少しだけ非日常に関わる少女。
 ヒーローは特に珍しくもない、単なる脇役の学生。
 





 なんというか夏休み、良い事がなかった。
 長点上機学園の一年生に籍を置く青年は、最近の出来事を思い出しながらしみじみそう感じた。
 二日には適当にひっかけた女が妊娠騒ぎを起こしたり(結局、ただの嫌がらせだったが)、それが原因で反省文を山ほど書かせられるわ、どっかの馬鹿な電撃使いのせいなのか長年愛用した携帯がぶっ壊れたり、つい先日には変な岩の巨人が暴れまわるのを目撃した。
 本当に散々な日々。
 いい加減、ツキが廻ってきても良いと思う。
 
 このドタバタが始まった切欠は―――――――――そう。あの時だ。
 今年の七月、他の同級生の悪友達とツルんで遊びまわっていた頃。いきなりぶつかってきた黒服の男が、謝りもせず立ち去ろうとしたから、つい若気の至り…………というかありがちな高位能力者の力加減を間違えた的な事故でのしてしまい、ボロボロになった男は変なスーツケースを置いて逃げ去ってしまったのだ。それで興味本位でそのスーツケースを開けようとしたが、鍵か掛かってたらしく開かなかった上に、透視能力者に見せてもブロックされているのか中の映像は見えなかった。
 謎のスーツケース。重大な秘密。
 そんなドラマとかでしか聞かないような単語が思い浮かんだ。

 入るなと言われると入りたくなるように、人間という生物は度し難い事に困難な壁であればある程燃える性質があるらしく、それは自分達も例外ではなかった。
 なんとしてもスーツケースの中身を暴いてやるぞ、と仲間内で意気込み―――――――――――そしてあっさりと頓挫した。
 スーツケースを囲っていた自分たちの前に、あの男が現れたのだ。

『時間がねえから単刀直入に言うぞ。
今日どっかの馬鹿から『スーツケース』を奪っただろ。それ出せ』

 最初の襲撃者を難なく倒した自分達の前に、次に立ちはだかった男は強かった。
 自分以外の悪友達は一瞬で気絶させられ、残った自分にしても男に大した痛手を与えることなくやられてしまい、結局、スーツケースの中身は永遠に分からなくなってしまったのだ。

 あれっきり、スーツケースだけじゃなくてツキまで失ってしまったらしい。
 八月、夏休みなど本当に災難の連続で休む間もなかった。
 九月に入り、漸く心機一転と思っていた矢先に今度は岩巨人来襲だ。

「くそっ。ツキが充てにならないなら…………お天道様にでも祈ってみるか」

 全ての授業とHRが終了した直後、そう呟く。
 帰り支度をする生徒や部活の準備をする生徒とで、HR終了直後のクラスは騒がしい。それは学園都市でも最高峰とされる長点上機学園も変わらない。
 自分もまた欠伸をしながら帰り支度をしていると、後ろの席の奴が肩を叩いてきた。

「なぁ。今日はお前も参加しね? いいストレス発散になるぜ!」

「ああ、悪い。最近ちょっと風邪っぽくて運動とかしたくないんだわ」

「そうか? ならいいや。じゃあな!」

 適当にあしらうと男子生徒Aは七人くらいの集団に戻っていく。七月までは自分がリーダー格だったグループに。
 だが現在、あのグループとは疎遠である。理由は単純、彼らが連続通り魔集団になっているからだ。
 
 『無能力者狩り』
 そんなゲームが、一部の高位能力者の間で流行っている。
 切欠はスキルアウトと高位能力者が言い争いになった事らしいが、詳しくは知らない。
 なんでも無能力者への正当な報復のために、スキルアウトのように武装していない無害な無能力者を無差別に襲うというモノだ。スキルアウトではなく、ただの無能力者を襲うのはスキルアウトからの報復が恐いからだろう。幾ら高位能力者が強いと言っても人間だ。五十人の人間なら相手にできるかもしれないが、五十人の武装した集団だと分が悪い。
 先程の誘いは、つまりこれに参加しろとのことだったのだ。
  
 全く本当に馬鹿な連中だと思う。
 彼等は理解していない。
 高位能力者はこの学園都市では特別な存在だ。奨学金だってLEVEL4ともなればかなりリッチな生活が送れるようになるし、他にも様々な面で優遇される。
 ただ高位能力者は優遇される存在であっても、決して特権階級ではないのだ。
 昔の武士みたいに切り捨て御免なんてない。
 無能力者だろうと何だろうと、殴れば傷害罪が適用されるし殺せば殺人罪だ。今のところ、無能力者狩りに参加した連中の逮捕者は少ないが、それも時間の問題だろう。警備員とて無能ではないから、必ず逮捕される時がある。
 逮捕されても、もしかしたら優遇処置がとられ直ぐに出所できるかもしれないが、それでも一度でも臭い飯を食えば経歴に傷がつく。
 この不景気で前科一犯にでもなったら唯でさえ就職難だというのが『就職 MUST DIE』になってしまうかもしれない。能力者だって何時までも学生やってる訳にはいかないのだ。大人になれば就職なりなんなりしないといけないのだ。

 悪事というのは、何でもグレーゾーンで済ますべきだと思う。
 例えば万引きすれば警察に捕まるが、コンビニの前で騒ぐだけなら怒られる程度で済むだろう。窓ガラスに落書きすれば教師の説教を喰らうが、窓ガラスを金属バットで叩き割れば校長室で説教の上に弁償沙汰だろう。
 完全な黒にはならない。グレーでいい。グレーの悪事で終わらせれば、大問題にはならないのだ。
 
 まぁ今のところは静観する。彼等が逮捕されたら手紙くらいは出してやろう。
 けど止めはしない。
 学校のクラスというコミュニティーは排他的な村社会に似ている。余所者は許さない、という程ではないが別のクラスに行くのには何となく抵抗があるし、なによりも裏切りを許さないのだ。なにかあると直ぐに担任教師に報告するチクリ魔などは迫害されるし、空気の読めない者や暗くてコミュニティーに入らない者は苛められたりもする。
 もし仮に、自分が彼等の無能力者狩りを止めようとしたら、最悪、クラス中から迫害されるかもしれない。正面から挑んでくる分には、能力的のLEVELもあってそう安々と負けはしないだろうが、学校内の虐めが最も悪辣なのは正面攻撃ではなく、机の落書きや教科書を破いたりなどといった攻撃が多くを占めるからである。
 出来れば高校三年間を平穏に暮らしたい一庶民としては、こういう厄介事には関わらない方がいいだろう。

「俺が、もっと強ければ。そういう四面楚歌とかを全く怖がらないのか?」

 LEVEL4の中でも上位クラスに位置する自分だが、学園都市には更に上の能力者がいる。
 それがLEVEL5。学園都市に七人しかいない最強の超能力者達。 
 一人で軍隊を相手に出来るような、怪物たちだ。

「やめよ。変な正義感なんて出すもんじゃない」

 それなりに立派な学生寮の103号室。そこがマイホームだ。
 今日は一日、TUT○YAで借りたル○ン三世でも見て時間を潰そう。今この瞬間に決めた。
 意気揚々と自宅の扉をオープンすると、

「どうもー」

「………………Unbelievable」

 何故か誰もいない自室に金髪少女がいた。
 そう。これが学園都市の暗部に属する少女『フレンダ』と、第二話にして垣根帝督の前にあっさりと敗北したやられ役『上位次元(オーバーフロー)』ことベルンフリート=レイビーの初邂逅であった。




なんだか主人公が増えましたが、流石に原作のように三人主人公の同時進行になったりはしません。というか……どちらかというと八巻で黒子が一時的に主人公になったのに近いです。つまり本当の本当にただのスピンオフ。八話ほどで完結します。



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