とある魔術の未元物質
SCHOOL90  そして 五人目


―――科学は熱狂や迷信の毒に対する素晴らしい解毒剤である。
太古の昔にはどこにもかしこにも物騒な迷信があった。その最たる例の一つが「生贄」などといった人間の命を神にささげるなどというものだ。しかし科学はそれを否定する。科学的根拠は悪しき風習や迷信を否定し、神の摂理ではなく自然の法則を導き出す。ただ良い風習や迷信まで消し去ってしまうのも科学の悪徳である。










 手持無沙汰となったフレンダは、『アイテム』のアジトへの帰途につきながら、ぼんやりと空を見上げていた。麦野と一緒にターゲット(垣根)の狙っている物品を滞りなく回収したのだが、アジトで対垣根用のトラップを作るのにフレンダの知識が必要と絹旗の連絡にあったので、途中で麦野と別れこうして徒歩でアジトに帰還しているのだ。
 麦野の方は今頃物品を指定された場所に移している頃だろう。

(だけど第二位かぁ。大丈夫なのかなぁー)

 麦野の実力を信じない訳じゃないが、フレンダは前に垣根帝督と交戦した事をしっかりと覚えている。キャパシティダウンという秘密兵器を用意していたにも関わらず『アイテム』はあっさりと垣根一人によって撃破された。そんな相手にまた『アイテム』だけで挑んだからと言って本当に勝てるのか。こんなこと麦野になんか言った日にはおしおき確定だろうが、アジトに戻ったら絹旗や滝壺に相談してみるにもいいだろう。

(結局、フレメアのこともあるし、こんな所で死ぬわけにはいかない訳よ)

 フレンダには妹が一人いる。LEVEL0の置き去り(チャイルドエラー)という学園都市でもかなり低い立場にいる妹だが、それでもフレンダにとっては大事な肉親だった。敵には温情なんてみせないフレンダだが、肉親への情は強い。これはフレンダのみならず多くの人間にとっても共通することかもしれない。巷で外道や悪党などと非難される人間でも、自分の家族には優しかったりするものだ。

(大体、逃亡してる人間なんて放っておけばいいのに。どうして第二位なんて危険人物にケンカ売るんだか。あ、フレメアの口癖が移った!)

 脳内一人漫才を繰り返しながらフレンダは携帯の受信ボックスを確認する。フレンダが仕事で大ポカをやらかした際に知り合った友人のようなそうではないような同じ西洋人風の顔立ちをした少年、ベルンフリート・レイビーからのメールが二通入っていた。そのどちらもが、怒りのメール。
 実は今日、レイビーに爆弾用のぬいぐるみを買う荷物持ちとして付き合せていたのだが、途中で今回の仕事が入ったため何も言わずに消えた事に対する怒りがありありとメールの文面に染み込んでいる。
 今度会ったら適当に謝っておこう。
 フレンダは携帯のゲコ太ストラップを弄び、携帯をパタンと閉じる。

「久方以来だ『アイテム』」

「いっ!」

 数か月前『アイテム』をたった一人で撃破した男の声に、フレンダがギョッとする。恐る恐る声のした方向を見ると、垣根帝督が白翼を纏い悠然と浮かんでいた。気障ったらしい笑みを張り付けながら、白翼が消え地面へと降り立つ。一瞬、フレンダの脳裏に「逃げる」という単語が霞んだが、直ぐに無理だと一蹴した。垣根帝督を相手に逃げるなんて、絹旗でも滝壺でも不可能だ。フレンダは第三位のLEVEL5といい勝負をした経験があるが、第三位に通用する戦術は第二位には一切通じない。

「なななななななっ……何の用!? 結局、私は何も知らない訳よ!」

「つれねえな」

 垣根の右手がフレンダの首を鷲掴みにした。

「あ―――――かはっ――――――」

 苦しくて息が出来ない。このまま締められれば、死ぬ。死んでしまう。

「なぁおい、俺は別に女を甚振る性癖がある変態じゃねえんだよ。大人しく『ピンセット』の所在を喋るんなら、俺はテメエのような雑魚なんざどうでもいい。だが黙して語らずってなら」

「がぁあ!」

 首を絞める力が更に強まった。頭が真っ白になっていく。フレンダが意識を手放そうと言う直前、垣根が首を掴んでいた手を放した。力が抜けたフレンダは地面に倒れ込む。

「はぁはぁ……ピンセット?」

 息も絶え絶えに確認すると垣根は頷いた。
 ピンセットという名称で思い浮かぶのは百均などに売っているピンセットだが、垣根がそんなもの欲しさで襲撃しに来る訳がない。十中八九、ピンセットとは麦野が別の場所に移しに行った物だろう。

「言え。さもねえと……」

「わー、言う言う言う!」

「良い子だ」

 それからフレンダは知る限りの情報を話した。
 物品を別の場所に移す仕事を受けた事も、絹旗や滝壺のいる『アイテム』の場所についても。物品を隠しに行く場所も。なにもかもを。
 垣根はそれらを聞き終えると何も言わずにその場から立ち去ってしまった。麦野の所に向かったに違いない。『ピンセット』を回収する気だ。麦野と交戦して。

「や……やばい!」

 そして漸くフレンダは事態の深刻さに気付く。
 垣根の脅されるままに情報を下呂してしまったフレンダだが、このままだと待っているのは麦野による粛清だ。
 身を隠さなければいけない。
 出来る限り遠く……いや、麦野の見つからない場所まで。

(結局、どうしよう! 私が喋った事が知られたら絹旗だって怒るだろうし、麦野なんて……!)

 麦野は優しい時は本当に優しいが、怒った時は本当に恐ろしい。
 フレンダ一人のせいで仕事が失敗したとなれば、麦野はもしかしたら――――――――想像したくもないが、フレンダを殺すかもしれない。

(絹旗とか、『アイテム』の皆には頼れないし、ほとぼりが冷めるまで、どっかに! だけど何処に、どうやって!?)

 こんな時『アイテム』以外に頼りになる知り合いを、フレンダは持っていない。
 幾ら何でもフレメアに助けを求めるなんて馬鹿な選択肢はないし、警備員に通報なんていうにも論外だ。学生だらけの風紀委員なんてもっと有り得ない。
 そうやってパニックになっているフレンダに、ポケットから落ちたらしい携帯のストラップが目に入る。

「そうだ!」

 あの筋肉ダルマのスキルアウトを一方的に撃破した彼なら。
 LEVEL4の大能力者で、表側のエリートでもあるレイビーなら、なんとかなるかもしれない。



 大量のぬいぐるみを抱えながらレイビーはげんなりしていた。
 フレンダから劇場版スーパーゲコ太大戦のチケットを餌に、ぬいぐるみの荷物持ちなどを引き受けたのだが、フレンダは途中でどっか行くし、男が大量のぬいぐるみを抱えているせいで周囲の目線が痛いやらで散々だった。
 そんな折、当のフレンダから電話が掛かってきた。
 
(あいつ……メールも無視しやがって。文句言ってやる)

 通話ボタンを押して、第一声でレイビーは怒鳴る。

「おい! お前今どこで何して――――――」

『助けてっ!』

 フレンダの第一声は緊迫感に溢れていた。声が微かに震えている。何かに怯えているのかもしれない。レイビーの目が細まる。これは厄介事の香りだ。

「…………冗談、じゃないよな」

『詳しい事は後で話すから、どこか隠れる場所でも……ああ、なんというか……』

「たっく、今何処にいるんだよ」

『第十八学区の素粒子工学研究所の近くっ! ああでも……またあのホストみたいなのは出てくるし、散々よ!』

 賢い選択としては、こんな面倒な電話、聞かなかった事にするのが吉だろう。しかし残念ながらまだ『劇場版ゲコ太』のチケットを貰ってはいない。

「そのケータイ、入ってるアプリで現在地の情報を他人に簡単お手軽に送れるサービスがある筈だ。それで落ち合う」

『あ、ありがとう!』

「感謝の気持ちがあるなら、後日色々と借りは返して貰う。十倍返しでな」




ふぅ、同じケータイになったという伏線を回収できましたぜ。
そして垣根は原作通りピンセット強奪へw
フレンダはフレ/ンダを免れるのかw



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