とある魔術の未元物質
SCHOOL141 共闘する 仇敵


―――遅延は憤怒の最良の治療薬。
怒りにとっての良薬とは時間。時間がたてば強い怒りもやがて忘却し消滅する。人間は多くの出来事により怒りを覚え、それと同じだけ怒りを忘却していく。しかし本当に怒りとは時間が忘れ去ってくれるものばかりなのだろうか。中には時間が怒りをより熟成し強いものへとしてしまうことがある筈だ。まるでよく寝かされたワインのように。










 ガブリエルがどうして一方通行やヒューズ=カザキリとの戦いを止め、こちらに向かってきたのか大方の予測はつく。垣根は初めて自分の性質を呪った。

「biojhiojだけどoviioaj貴方noijivjv世界bnoivjn」

「面倒臭い野郎だコイツ!」

 ガブリエルの型もなにもないようなパンチを光翼で受け止めた。振動が翼を伝わり垣根の骨にひびいてくる。大天使の名は伊達ではない。ただのパンチでも核シェルターをバターのように破壊するだけの威力をもっている。

「ainnvai何故nio死ionv一度oinvioa神の如き者nvieninw関係無しaonvoiwn水」

「あぁ? なんか言ったか?」

「oijinvi貴方bnvi排除jioj与えられしbuio使命viだから」

 ロシアの雪が溶けていきガブリエルの水翼に集まってくる。
 不味い。
 雪の積もったロシアの大地はガブリエルにとって海の上ほどでないにしても有利な地形だ。ガブリエルは水を司る大天使。水があればあるだけその力を無尽蔵に増していく。

(こんな奴を一人で相手するなんざ、やってられっか!)

 垣根はキョトンとしている一方通行とヒューズ=カザキリを見る。彼等はどうしてガブリエルが自分達を無視して垣根の方へ行ったのか分かっていないのだろう。尤も、この事が分かるのは垣根とフィアンマくらいしかいない。魔術について疎い彼等に魔術的理屈を理解しろというのは無謀な話だ。

(あいつ等も……巻き込んでやるっ!)

 意志を決めると、垣根は翼で空気を殴りつけ一方通行達の浮かぶ場所までかっ飛んでいった。
 するとガブリエルも垣根に引き寄せられているかのように追ってくる。

「垣根、テメエ! どォしてここにいやがる?」

 一方通行が警戒し身構えるが、垣根は答えず一方通行の背後へと擦り抜けていった。当然の如く垣根帝督を真っ直ぐ追跡してきたガブリエルは一方通行に突進してくるような形となる。

「あばよ、そいつと仲良く遊んどいてくれ」

「ソレが狙いか、糞野郎がァ!」

 一方通行もただ突っ立ってガブリエルに突進される訳にもいかない。背中から噴出してる黒翼と正体不明の謎のベクトルを操りガブリエルの猛攻を受け流す。

「biojg指令zojnig羊皮紙iojjvj」

 ガブリエルの集中が薄れる。
 フィアンマからの指示と神から与えられた使命、その二つが葛藤したのだろう。だがやはりガブリエルは大天使。神の命を優先し垣根を追おうとするが。

「させねえ!」

「ちょ、きゃ!」

 垣根は混乱して棒立ち状態のヒューズ=カザキリの頭を鷲掴みにすると、まるで野球ボールを投げる感覚で放り投げた。
 AIM拡散力場の集合体。つまりは科学の結晶だ。AIM拡散力場の詳しい内容や裏情報まで垣根の脳髄には刻まれているので上手く『掴む』ことは難しい事ではない。

「きゃぁあああ!」

 ヒューズ=カザキリはまるで女子高校生のように可愛らしい悲鳴をあげながらガブリエルにぶち当たる。そしてガブリエルが怯んだ隙に垣根が逃げに入る。

「俺を利用しよォたァ、随分と舐めた真似してくれてンじゃねェかよォ」

「て、テメエッ!」

 一方通行が垣根の足を掴んでいた。まるで幽鬼のように口元が三日月を描いている。血走った真っ赤な瞳が垣根の目を貫き、そのまま垣根がヒューズ=カザキリにしたように垣根をガブリエル目掛けて投げつけた。

「一方通行ァァァアア!」

 翼を操作しどうにか軌道から外れようとするが、ガブリエルへの直撃コースからは逃れられない。ヒューズ=カザキリに続いて垣根がガブリエルに衝突する。

「yoijg黄nio青noin」

「ぬごぉあ!」

 ガブリエルと垣根が同時に苦悶の声を洩らす。
 音速の五倍近くの速度で投げつけられたせいで体のあちこちが軋むが『未元物質(ダークマター)』のお蔭で体が痛いだけで済んだ。常人なら摩擦熱で溶けている筈だ。

「やって……くれやがったな、糞野郎」

「おォ。やってやったぜェ、メルヘン野郎」

「減らず口は相変わらずと見える。先ずは、テメエから潰してやろうかっ」

「好きにすりゃァいいだろォが。それとも俺に許可されなきゃァビビッてなにも出来ませンってかァ? 随分とヘタレてンだなァ、垣根くン?」

「安い挑発だ。だけど言ったよな、次は殺すって。人間、テメエで言ったことには責任もたねえとなぁ」

 一触即発、不穏な空気が二人の間を漂うが、

「oiuihjnnvio排除ziong排除iuvjg排除nioi排除」

 上空から水の槍が降り注ぐ。
 垣根も一方通行も自らの翼を前に出して防御した。しかしやはり天使の力は重い。

「ノッペラした面構えの癖して一丁前に御冠ってかァ? たっく、どォもロシアに来てから妙な事態ばかり遭遇すンな」

「……チッ、テメエを殺してえのは山々だがアレを潰すのが先決か」

 ガブリエルは今の所、垣根帝督を狙っている。垣根がフィアンマのいるであろうベツレヘムの星へ行くにはどうしてもガブリエルが邪魔をする。
 そしてガブリエルが仮に垣根帝督を殺してしまえば、次は一方通行のもつ羊皮紙を狙ってくるだろう。故に二人は戦うのを止めた。同時に同じ解になった為に。

「休戦だ。あの糞天使をぶち殺すまで一方通行(アクセラレータ)、テメエの命は見逃しといてやる。勘違いするなよ? あくまで休戦だ、停戦じゃねえ」

「ハッ、テメエみてェな糞メルヘンと組むなんざ、俺も焼きが回ったよォだ」

「連携はどうする?」

「気色悪ィ。テメエと仲良子よしなンざ、死ンでも御免だァ」

「そいつは同意するぜ。それじゃあ」

「早い者勝ちだ。どっちが先にあの糞天使をぶち殺すか」

「上等だッ!」

 一方通行と垣根帝督が同時にガブリエルへと飛翔する。
 不倶戴天の敵同士である二人の共闘。もしかしたらこれから先の未来においても見られないかもしれない協奏曲が奏でられた。
 
「ojnn二人noivaj」

 ガブリエルは手を翳し、水で槍や刀などといった武器を作り出す。ここロシアでアックアが似たような攻撃を繰り出していたのを思い出した。
 
「ンな玩具で遊びてェなら一人でやりやがれッ!」

 一方通行がガブリエルの水をベクトル操作で纏めて吹き飛ばす。創りだされた武器が雲散し一瞬ガブリエルが無防備になる。そこを垣根は容赦なく突く。未元物質と魔術の融合、それにより生み出された極大の光線がガブリエルの胴体を貫いた。

「ziie光uaio黒uiojvn羽根」

 一方通行が敵の攻撃を散らせば、垣根が本体を攻撃する。
 垣根がガブリエルの動きを抑え込めば、一方通行がガブリエルにキツい一撃を与える。
 本当に二人は敵同士なのだろうか。二人を知らぬ者が視ればそう思ってしまうことだろう。それほど二人の動きは完全に息が合っていた。シンクロしているとでもいうのだろうか。

「物事には部ってもんがある。この世界は大天使のお前が存在するには不相応だ」

「だからよォ、元の場所に還りやがれ」

 垣根と一方通行が同時にガブリエルを蹴りあげる。するとどうだろうか。ガブリエルの力がみるみる現象していくのを感じる。まるでパワーという器に皹が割れそこから漏れ出したような。
 チャンス到来、二人はそれを強く感じた。

「ijgjnbioaj後方nga水oin」

 ガブリエルはボロボロになった体をロシアの大地にある雪を吸収することで癒そうとする。しかしその行為は背後からの紫電によって散らされた。

「やらせは、しませんよ?」

「ijig一人now忘却ioj」

 ヒューズ=カザキリ、またの名を風斬氷華。科学の結晶である彼女が魔術の結晶であるガブリエルの動きを止めた。
 そこを垣根帝督と一方通行が同時に襲ってくる。

「こいつで!」

「終わりだァ―――――ッ!

 ガブリエルの両頬に一方通行と垣根の拳が突き刺さる。
 光翼と黒翼、二つがまるで共鳴するかのように点滅しガブリエルを包み込んでいった。大天使の体が崩れる。体を保てない程に消耗し削られたのだろう。

「なぁ、一方通行」

 垣根はふと一方通行に声を掛ける。

「あン? なンだ……ごほぁ!」

 一方通行が言い終わる前に垣根は全力で一方通行の顔面を殴り飛ばしていた。
 くるくると回転しながら隕石の様に地面に落ちると地面の雪を盛大にぶちまけた。

「今回はこれで勘弁してやる、テメエに長時間構ってやるほど暇じゃねえしな」

 人間ならこの高度であの勢いで堕ちれば死ぬが、一方通行のことだから死んではいないだろう。
 垣根は一方通行の堕ちた場所を一瞥すると、改めてベツレヘムの星へと飛ぶ。
 右方のフィアンマ、彼の王こそが最後にして最大の敵だ。




後書き

 共闘終了。そして地味に一方通行はやり返しました。まぁ原作の脳味噌を考えると、一発殴るくらいなら全然ノープロブレム……だと思う。
 そしてヒューズ=カザキリの出番が減りました。インデックス関連といい垣根は風斬に恨みでもあるのだろうか。
 


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