・・カチ・・カチ・・カチ・・カチ・・・・カシュ

エレベーターの数字が1を示すと同時に目の前のドアが開く。

目の前の女性に導かれるままにドーム状の空間にでる。

回りが暗かったせいだろうか一瞬視界が真っ白になる。

徐々に見えてくる景色に霞掛かった意識もはっきりとしてくる。

回りにあふれる緑の木々。青い水の湖。小鳥のさえずり。虫達の鳴き声。





あの世界とは違う。





どうして忘れてしまったんだろう。

ただ繰り返される毎日の中でいつの間にか見なくなっていた「生きている」という事を。


「綺麗だな・・・ここは・・・こんなに生きているじゃないか。」

「人工的なものよ、人が、自分達の望む形に作り変えた森よ。」

「それでも生きている、ただ生きるためにそこに在る。」


横に居るカズヤの雰囲気が変わった気がしてリツコは隣を見て思わず声を掛ける。


「どうしたの?泣いてるわよ、あなた。」


手で自分の頬をこする。


「・・はは・・・勇を・・・千晶を殺した時だって出なかったのにな・・・」


こんな身体をした俺でもまだ泣けるのか。

あの時・・・あいつ等にもこれを見せてやりた・・かった・・・な・・・・

・・・女の声が聞こえる・・・・・・・・・・・・


・・・目の前の女が何かしゃべっている・・・・・



・・・だめだ・・・世界が歪んでいく・・・・・・



そして俺は意識を手放した。






修羅から人へ〜第一話〜



『鏡の世界』









意識が覚醒していく、俺はどうしたんだ?外の風景を見て、泣いて、そこから意識がない。

自分に掛かっているシーツを剥ぎ起き上がり周りを見回す。

パソコンのモニターのようなものがたくさん並んでいる。

自分の寝ていたベットの隣には本が山積みになっていてお世辞にも片付いているとは言いがたい。

しばらく回りを観察していると自動ドアが開き俺を案内していた女性が入ってきた。


「あら、起きていたの?急に倒れるから焦ったわよ。」


目の前の女性が笑いながらコーヒーを準備している。

コーヒーメーカーをセットし女性が俺に向き直る。


「私の名前は赤木リツコよ、失礼だけどあなたの身体は調べさせてもらったわ。」


別に調べられても困らないので黙って話を聞く。


「検査の結果、あなたは100%人間の身体よ、首の後ろの角と刺青だけが解析不能だったけど。」


そうかまだ一応、科学的には人間なのか。


「ところでまだ、上の名前を聞いてなかったわねカズヤ君。」

「・・・無い・・・この身体になった時に必要なくなった・・・」

「この身体になった?よかったら経緯を話してくれないかしら?」


別にかまわないと普通の人間が信じるとは到底思えなかった俺はあの頃を語り始める。


ある男が起こした東京受胎。

悪魔の身体を与えられる事で生き延びた自分。

悪魔が必要とする赤い精。

変わっていた友人との再会。

先生との再会。

世界の分岐点で心が悪魔となる事を拒んだ自分。

コトワリをめぐり友人達との戦い。

友人達を殺し世界の意思との戦い。

そして世界を壊した事。


「・・・・人類補完計画・・・・」


?人類補完・・・・、なんだ?


「いえ、なんでもないわ・・・・ところで、あなた行くあてはあるの?」

「・・・特に無い・・・俺の世界は死んだ・・・この世界では異質な存在だしな・・・」

「そう・・・ここで働いてみる気は無いかしら。」

「・・・ここで?・・・」

「ええ、ある子供達を護る仕事よ。」

「子供?何者なんだ?」

「ある能力を持った子供達よ、そのせいでいろんな組織から狙われているの。」

「・・・別にかまわない・・・いく当ても無いしな・・・」

「ありがとう、戸籍を作りたいのだけれど、私の義理の弟という事でいいかしら。」

「いいのか?仮にとはいえこんな化け物だぞ?」

「私は・・・かまわないわ、それに私は本当の弟として接するつもりよ。」

「・・・・なぜ・・・そこまでしてくれる・・・・初対面の俺に・・・こんな化け物の俺に・・・」

「自分を悪く言うのはやめなさい、それに・・・私のためでもあるのよ。」

「貴女の?」

「そうよ・・・・私は昔、母子家庭だったのだけれど10年くらい前、母さんを亡くしてね・・・・家族が欲しいのよ。それに誰でも良い訳でもないわ、あなた だから言っているのよ。」

「・・・家族か・・・ずいぶん聞かなかった言葉だな・・・・」

「でも、いい言葉でしょ?」


そういってリツコはカズヤに笑いかける、「ああ」とぶっきらぼうに相槌を打つカズヤの顔は年相応の笑顔だった。

照れくさくなったリツコはコーヒーでも飲んで少し待っていてと言って部屋から出て行く。


「・・・人の為に戦うか・・・それもいいのかもしれないな・・・」


自分が生き残ることで精一杯で流されて戦う事しかできなかった、だが今度こそ自分のコトワリを見つけよう。そう考えながら久しぶりのコーヒーに手を伸ば す。









〜司令室〜


「赤城博士、侵入者の様子はどうだ。」

「はい、情緒面に多少の不安定はありますが、特に問題は見受けられません。」

「それで、彼は何者なのかね。」


なぜかリツコにはカズヤと言う青年を見てから、ゲンドウに対して何の感情も抱く事ができなくなっていた、ここで真実を言ってカズヤを失いたくないと思い 「東京受胎」の事は報告せず、他組織をスケープゴートにすることを思い立つ。


「記憶が著しく欠如しており明確にはわかりませんが、何処かの被験者の可能性も考えられます。おそらくは戦自かゼーレかと。」

「ふむ、戦自の強化兵の実験体だと?」

「・・・・・その可能性が強いかと思われます。」

「それで、引き込みの方はどうかね。」

「はい、先ほども申しましたとおり彼には記憶がありません、そこでレイと同じように絆を与えこちらに引き込みました。」


嘘ね、絆が欲しいのは私ね、と、内心自分を笑いながら答える。


「記憶喪失が奴のフェイクということは?」

「今のところ見受けられません。」

「それで、どこに配置するつもりかね?」

「先の戦闘でも判るように対人戦では最高の部類かと、そこでチルドレンの警護に当てようとおもいます、監視の意味を含め私の直轄の部下にしたいのですが、 いかがでしょう?」

「反対する理由は無い、好きにしたまえ。」

「そうだな、二尉待遇を用意しておこう。」

「ありがとうございます。」


と言って退出する、部屋を出ると「ふぅ」とため息をつき自分の行動を振り返る。

今まででは考えられないような自分に内心驚いていたが、これでも良いのかもしれないと思う。

そして歩き出しこれからの事に思いをはせていく。

司令室内で冬月は将棋盤から目を上げる。


「よもや、この場面で新しいカードとはな。」

「問題ない、使えないカードなら捨てるだけだ。」

「簡単に捨てられればいいがな。」


そう呟くと再び盤に目を向ける。









〜リツコの研究室〜


「司令からの許可も下りたわ、はい、あなたの制服とお金よ。」


と言ってガード用の黒いスーツとキャッシュカードを渡す。


「ありがとう、赤木さん。」


普通に礼を言ったつもりなんだがなぜか不満そうな顔をしている。


「リツコ姉さんよ。」

「リツコさん。」

「リツコ姉さんよ。」

「・・・・・・・」

「リツコ姉さんよ。」


むぅ、笑顔でそう言っているが正直何かてれくさい。


「・・・ね、姉さん・・・・」

「まぁ、その辺で妥協しときましょうか、で住む所だけれど今日は私の家で我慢してね。」

「俺はかまわないが。」

「じゃあ、着替えたら出ていてくれるかしら、表で待ってるわ。」

「わかった。」


いい人なんだなリツコさんは。

しかし自分の体を見るたびにあの人とは違うと言う事を思い知らされる。

それから車でリツコさん宅に向かい夕食をとった。

夕食のあいだアルコールのせいか始終陽気だった。

ソファーで眠っているリツコさんにシーツを掛けて外に出る。

しばらく歩くと高台に出たので周りの風景を眺める。


・・・しかし・・見れば見るほど俺の居た世界とは違うな・・・

なんだありゃビルが生えてってるぞ、向こうのビルなんかミサイルしか入ってねぞ?ビルの形してる意味はあるのか?

一通り周りを眺めた後、ベンチに座ってさっき買ったタバコに火をつける。

フゥと煙を吐き出すといろいろ複雑な気分になる。

昔の東京を思い出すな、あの頃はよく勇と一緒に授業を抜けてタバコを吸ったっけな。




・・・もう、オマエとか・・・・裕子先生とかアテにしねぇし、関係ねぇよ・・・・




クソッと言いながらタバコを踏み潰す。


「・・・どうかしてるな・・・・」


やれやれと頭をかきながらベンチから立つ。


カンッ・・・・・カラカラカラ


前から缶が転がってきたので拾い上げる。

エビチュ?ビールか、しかしどこから?

視線を前に向けると学生らしき少年がこちらに走ってくる。





〜コンビニ前〜




「ありがとうございましたー。」


両手に大袋を持ったカッターシャツの少年が出てきた。

袋に入っているのは少年には似合わないビールとつまみ、スナック多数。


「まったくミサトさんもアスカも自分の買い物くらい自分でしろよなぁ。」


ぶつぶつとぼやきながら歩いていき途中の階段で足を止める。


「どうしよう、こっちにいけば近道だけど・・・・怖いんだよなー・・・・・まあだいじょぶかな。」


少年は重たい袋を持ち上げながら階段を上っていく。


「はぁー、やっと上りきった。」


袋を置いて少し休憩しようとすると袋が崩れて中に入っていたビールの缶が転がっていく。


「うわっやばっ!」


そう言って缶を集め始めるが数が多すぎて思うように拾えない。

最後の一缶を追っていると人影が缶を拾い上げる。


「ありがとうございます、それ・・・!す、すいません!!」


うわぁ黒いスーツに顔まで刺青だよ!ヤ、ヤクザかなぁ・・・・やっぱ通るの止めれば良かった!・・・やばいなぁ、お、怒ってるのかなぁ・・・に、逃げたい なぁ・・・・・





〜カズヤ視点〜


「ありがとうございます、それ・・・!す、すいません!!」


そう言って目の前の少年は固まってしまった。

ふむ、この状況どうしたものかと思いつつ声を掛ける。


「なあ」

「は、はいっ!!」

「このビールが転ってきたんだが、キミのだろ?はい。」

「あ・・・はい!ありがとうございます!」


礼を言うと少年はこちらを伺いつつおどおどし始める。

?、どうしたんだ?挙動不審な少年にちょっと尋ねてみる?


「どうした?なんで怯えてるんだ?」

「えっ!・・・・・あの、その・・・・」

「?、まぁいいけどな・・・・それ、重そうだな片方もってやるよ。」

「えっ!・・・・・だ、だいじょぶです!一人で持てます!」

「一人で持っててさっき落としたんだろ?」

「う・・・・」

「まぁ、俺も帰るとこだし持ってやるよ。」

「は、はぁ。」





〜シンジ視点〜


そう言うと刺青の男の人は軽々とビールの袋を持ち上げる。


「すごいなぁ・・・・はっ!そっちは重たいでしょ!僕が持ちます!」

「ん、まあ気にするほどの重さじゃない、じゃ行くか。」


なんなんだろう、ただの親切なひとなのかな?慌てて僕も着いて行く。


「しかし、このビールの量多すぎないか、まさかキミが飲むのか?」

「ちがいます。同居人の人がお酒好きなんです。それで僕が買い出しに。」

「ふーん、ところでこの街はすごいな、科学の粋を集めた街って感じだな。」

「この辺の人じゃないんですか?」

「ん、まぁな、明日からここで働く事になったんだ。それで散歩がてらこの辺りを回ってたんだ。」


明日からかぁ、ネルフに来るのかな?と考えているとミサトさんのマンションに着いた。


「あ、僕の家ここなんでもう大丈夫です。」

「そうか、まぁ気をつけてな。」

「ほんとうにありがとうございます。」

「ん、じゃあな。」


そういって男の人は行ってしまった。

なんか、見た目に反してやさしい人だったなー、ああゆう親切な人もいるんだなぁ、それにくらべて・・・・

刺青の男と同居人を比べて深いため息をついてエレベーターに乗ろうとする。


「あっ!・・・・名前、聞いてないや・・・・」


今度会う事があったら聞いてみよう、と思いつつエレベーターに乗る。






〜カズヤ視点〜


帰り道、突如立ち眩みのような感覚に襲われて立ち止まり目を瞑る。

再び目を開くとそこには舗装された道路はなく、流れ落ちるマガツヒと幕の下りた舞台があった。

周りには久しぶりに感じる悪魔の強い気配。


「またここか?」


キィ・・・キィ・・・キィ・・・

徐々に幕が上がって行き奥から車椅子の老人と喪服の女が出てくる。


「お久しぶりですね、あの世界が滅びを迎えて以来ですか?」


喪服の女が感情を抑えた声で淡々と喋る。


「そうだな。・・・・・で、いまさら俺に何の用だ。」

「・・・・・ご挨拶ですね・・・・・・今日は主があなたに伝えたい事があるとのことでお呼びいたしました。」

「用?悪いがあんた達に就く気はさらさらないぞ。」


俺の言葉を聞いてか聞かずか老人が喪服の女に耳打ちする。


「あなたに寄生するそのマガタマ、その力はまだ完全には引き出されてはいません。あなたがその心を悪魔にすることを拒否したその時から眠り続けているので す。」

「・・・・何が言いたい・・・・」

「主の言葉を伝えます、お前が決意をする時マガタマは完全に目覚めるだろう、その時、人に戻るか、完全な悪魔になるか、その身を滅する事になるかはお前し だいだ。とのことです。」

「なぜそれを俺に教える。」

「主の誘いを断る男の進む結末を見ておきたいそうです。」


フッと鼻で笑いながら言ってやる。


「こんな中途半端な男の末路をか?アマラの底ってのはよっぽど暇なのか?」


キィ・・・キィ・・・キィ・・・


再び幕が下りていく中、喪服の静かに語る。

「中途半端かどうかは時と貴方の行いが決める事、ただアマラと違いその世界と貴方の時は常に動いてるのです未来は誰にもわかりません、主も、神も、貴方で さえも。」


気づいた時、そこにはもうアスファルトが広がっていた。


「決意だと?そんな事知るか!俺は戦うだけだ、戦う理由があり続ける限り!」


ズガンッ!!


コンクリートの塀を叩き壊し、一人苛立ちながら歩き出す。

今の俺は何もできずただ物に当たる事しかできなかった。





感想

カズヤ君良い感じにトラウマを負っているね、こういう部分がしっかり書かれていると、全能の存在と言う感じでなくて人間味のある主人公に見える。

やはり、こういう部分は大事だね。

事実ですね、万能選手はどうしても一芸に秀でたタイプより目立てませんから。


まあ君も、技巧派なのか知性派なのか良く分からないけど一芸の人だしね。

そういわれると何だかやですけど、 確かにそうですね。

これからも、魅力の引き出しを上手く操作してくれる作品であって欲しいね。

まあ、既に次も来てますし…

第二話にいきますか

楽しみに出来る作品ですから、一気 に読めて良いですね。駄作家もこのくらい書けると良いんですが…

グハッ(汗)

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