お昼も過ぎ、波の国独特の冷たい風が頬を撫でて行くのを感じながら、俺は今の状況を必死に考えていた。

「……………」

「まさかと思いましたが、僕の事を男だと思っていたんですか?」

「………」

「本当に知らなかったんだね、ナルト君。でも、女の子にそれはいくら何でも失礼だよ……」

 だって…だって原作じゃ白って男だし、口調も僕だったし、なにより女だっていう証拠となる胸が平らだったんだぞ!俺が分からなくても仕方ないじゃないかっ!

 ヒナタもいつの間にか白の味方?みたいなポジションにいるし、さっきまでのはなんだったんだよヒナタ……。

「いえ、仕方ないです。僕の胸はこんなだし、口調も女っぽくないですしね」

 白はそう言いながら自分の胸を撫でるが、男のように平らな胸は何の抵抗も見せずに、撫でる白の手をそのまま真っ直ぐに下へと通す。白がその時に見せた表情は寂しそうなモノで、俺に向ける顔も無理やり作ったような笑顔だった。

「そ、そんな事ないよ。白さんとっても綺麗で、お淑やかで……。だからそんな事言わないでください」

 ヒナタに至っては、自分の事じゃないのに眼に涙を溜めながら話している。いや、ちょっと待って下さい。なんか、いつの間にかシリアスになってるけど、意味わかんねぇって!そりゃ俺が悪いってのは雰囲気で分かるけどさ。

 …………あぁ、もう分かった、分かりました。俺が謝ればいいんだろ?だから、二人ともそんな顔すんなよッ。罪悪感でもうお腹いっぱいだ…。

「あぁと…なんだ、白」

「……なんでしょう、ナルト君」

「その…お前が女だってのに気付かないで悪かった。本当、ヒナタの言う通りだ。こんな綺麗な顔してんのに男な訳ねぇよな。ごめんな、白」

「い、いやですよ、ナルト君。僕が綺麗だなんて……そんな訳…」

 誠心誠意、謝罪の気持ちで謝ったら白の頬が赤くなっていき、いつも冷静な白があたふたしだした。あれ?俺なんか変な事言ったか?

 横を向いてみると、それまで涙を溜めていた眼や、悲しそうな表情を引っ込めて、頬をプクっと膨らませて俺を睨んでいるヒナタと目が合った。ヒナタ、睨むんならもっとちゃんとした方がいいぞ。それじゃ、ただ可愛いだけだ。

「ナルト君の馬鹿……」

 普通の人に聞こえないくらいの小声で言っても、俺には聞こえてるぞ、ヒナタ。それに大丈夫だ。白は桃地が好きなんだからな。俺の事は大事な友達って思ってるだけだから。というか、そうであってもらわないと俺が困る。

 まだ、いのとヒナタを選ぶ事も出来ない俺が、白までってなったら……考えただけでも嫌だぞ…。

『しかし、お前のその願いも敵わないみたいだがな』

 久々に出て来て何言ってんだよ九尾。白に限ってそんな事……白を見てみると、それまであたふたしていたのが嘘のように、俺をちらちら見ていた。

『まぁ、仕方ないだろう。お前は自分では気付かない内に女を落としているみたいだからな。ナルト、笑顔や優しい言葉はちっと控えるようにしないとな。クク……』

 そう言って笑う九尾に何も返せない俺は、はははと乾いた笑い声を上げた。

 と、そんな事もありながら、白とヒナタは俺が知らない間に仲良くなり一緒に薬草を取ったり、俺という共通の話題で盛り上がってもいた。そして、気付けば日は傾き、綺麗なオレンジ色になっていた空を照らしている。

「っん〜!それじゃあ、ヒナタ。俺達は帰るとするか」

「あ、もうこんな時間なんだ。白ちゃん、またお話しようね」

「ええ、ヒナタさん。ナルト君も『また』」

「おう。『また』な白」

 そう言って俺とヒナタは白と別れ、おっさんの家に帰った。その際に、ヒナタに白の事は皆には内緒にしておくように話すと、首を傾げながら良いよと言ってくれた。まだ、他の皆には知られたくないし、作戦の事もある。そして、それはいよいよ明日。これから帰って、いろいろと準備しないとな。

 おっさんの家に帰ってみると、サスケがイナリと言い合いをしている現場に居合わせた。これが、イナリイベントか……というか俺の代わりがサスケなんだな。この世界も良く出来てるじゃん。

 ま、イベントについては割愛させてもらう。だって、あのイベントって今作ってる橋に自分の名前が付くってだけだしさぁ……ま、サスケ大橋ってなるってだけ覚えておけばいいんじゃね?それに、俺は明日の準備しなきゃならないし。

 そんなイベントが進行中だという事も関係なく、俺は忍具や着替えを準備し、明日の作戦をもう一度頭の中で展開させてから、眠りについた。英気を養うのって大事なんだぞ、それに寝坊なんてしたくないしな。

▼ ▼ ▼ ▼

 次の日は霧の多い日だった。霧が多い国、そしてこの町はその中でも霧の発生する時間帯が多いもので有名だった。でも、昨日までは晴れていたし、気持ちのいい朝だったはず……それなのに今日は…。空を見てみると雲が太陽を隠し、朝にも関わらず夜のように暗かった。

 おっさんの家の外で、俺がそう感じながら空を見ていると七班、八班、そしておっさんが集まっていて、話をしていた。

「それじゃ、護衛に行く人を決めますか。シノ君は木登りの行出来るようになったんだっけ?」

「まだね。あと少しで登り切ると思うけど、今日も修行かしらね。それから、キバ。あんたも今日はこっちよ」

 カカシと紅さんがメンバーを決めているみたいだな。ま、予想通りキバ、シノ、紅さんが居残りか。ヒナタは昨日一発で登り切ったから、護衛に回されるみたいだ。それから、今日は俺も護衛に付く。作戦もあるから当然だが、嫌な予感がするからな。それも、ここ最近で一番最悪な…。

 うちは一族皆殺しの時にも感じた事のない、嫌な予感。こんなのはじめてだ……九尾、お前は何も感じないか?

『ううむ…我には感じぬが……それに強さで言ったらお前は、そんじょそこらの奴には負けん。それでも不安なのか?』

 いや…戦いとかじゃない。俺が大事にしているものが壊れるような……そんな感じなんだ…。

『大事なもの、か。ミナトやクシナ、お前の友もあやつら三人以外は里におる。それに、そこの三人にはお前がついている。何を不安がるのだ?』

 そう…だな。何も心配することはないんだ。俺が守ればいいんだから。ここに影分身を二体残していこう。紅さんは上忍だけど……やっぱり不安だからな。ごめんなさい紅さん、貴女を信じられなくて。でも俺、甘い考えだとは思うけど、一人も傷ついて欲しくないんです。

 そして、キバ、シノ、紅さん、ツナミさんに手を振りながらおっさんの家を出発した。まだ嫌な予感はなくならない。頼むから何も起こらないでくれッ!

 道中そんな事を考えていたから、ヒナタが俺を心配そうに見ている事に気付けなかった。

▼ ▼ ▼ ▼

 そして、おっさんの仕事場である橋のところに着いた訳だが……。

「どうした!一体何があったんじゃ!?」

 目に入る光景は、数人の男の人達が血塗れで倒れている姿。たぶんこの人達がおっさんの仕事仲間なんだろう。それにしても、誰がこんなことを?それにこの霧は……。

「ば…化け物……」

 倒れている人達は全員、死ぬ程の傷は負っていない。だが、この傷じゃしばらくは動けないだろうな。桃地にはガトーの首を取りにガトーのアジトに向かってもらっている。

 それに作戦通りならここにはガトーの手下がいる筈なんだが……そいつらの姿が見えねぇってのは、おかしい…よな。

 俺が一人思考に耽っている間に、カカシ達はその人達を治療するために動き出していた。それを見て俺も手伝おうとするが、もの凄い殺気を感じて橋の向こう側を見る。……!?

「ねぇカカシ先生、これってあいつの仕業よね?」

「確証は出来ないが、その可能性は高い。ヒナタ、白眼で辺りを探れ。これをやった奴が近くにいる筈だ」
(ヒナタをこっちに付けたのは正解だったな。感知は俺の写輪眼じゃ出来ないからな)

「はい!」

≪白眼≫

 ヒナタは白眼で霧の中を探り、俺が見ている方向に眼を向けた時、これをやった奴と思われる人影を見つけたらしく、声を上げた。

「い、いました!橋の向こうです!」

 その言葉で、おっさんを後ろに下らせてカカシは前に出る。俺とヒナタが見ている場所には、霧が一段濃くなっていて、それが邪魔をして肉眼でははっきりと見る事は出来ない。俺はチャクラの反応からそっちに人がいると分かっただけだ。

≪風遁・大突破!≫

 一刻も早く肉眼で確認をしたかった俺は、カカシの指示を待たずに口から暴風を生み出して、視界を覆う霧にぶつけて吹き飛ばした。狙い通り霧は晴れ、そこにいる人物の姿を俺達に見せた。そして、そこにいたのは顔を仮面で隠した痩せ身で大刀を担ぐ、二日前まで一緒にいて、友達になった……桃地再不斬だった。

「ナルト、ナイスだ。サクラとヒナタは怪我人の応急処置。サスケ、ナルトはタズナさんを守れ。俺はあいつを殺る」

 桃地ッ!お前は…お前は、ガトーの所に行ってる筈だろっ!何でここに……何でこんな事をしたんだ!

 カカシは額当てをずらし、写輪眼を開く。そして、桃地に向かって駆けていく。対する桃地は印を組んでいく。それは何度か見た覚えのある印。

≪水分身の術≫

 十を超える桃地の分身が俺達の周囲を囲む。そして、本体は首斬り包丁を構えた。

 俺にしたら水分身くらい相手にするのは、赤子の手を捻るより簡単な事。サスケにおっさんの護衛を任せ、俺は桃地の水分身をクナイで斬り裂いた。横目でカカシと桃地を見てみると既に戦闘をはじめていた。

 桃地がここにいる事は分かった。だけど、それなら白はどこにいるんだ?作戦通りなら、白がここにガトーの手下を連れて来る筈だが、逆にここにいるのは桃地で……ああ、もう!訳分かんねぇってッ!

 水分身はあと五体、サスケもおっさんをヒナタ達に任せて戦っていたみたいで数は一気に半分に減った。原作同様に強くなっていたサスケは、桃地の殺気につぶれる事はなかった。

「サスケ、俺はカカシ先生の所に行く。お前はどうする?」

「決まっている。俺はあいつには借りがあるからな」

 サスケはそう言って、嫌な笑みを浮かべる。そういやこいつ、桃地にはじめて会った時にぶるぶる震えてたんだっけ。話しながら、残り五体もサスケは火遁の術で、俺はクナイを用いて倒した。

「ヒナタ、サクラ、おっさんと怪我人を頼む。俺達はカカシ先生の所に行く」

 最後の一体を消した後、俺とサスケはカカシの後を追って走りだそうとしたその時、タタタタタ……。

 千本が俺とサスケを襲った。だがそれは俺達には届かない。俺は持っているクナイで弾いて、サスケは避けたからだ。そして、千本という武器を使う奴は原作のここじゃ、一人しか俺は知らない。

「…………」

 なんで、お前までそんな事してんだよ……。霧隠れの追い忍が付ける仮面を付けた、俺達と同じ年くらいの忍びがカカシ達と俺達のちょうど真ん中に現れた。

「っち、あいつの仲間ってところか」

「あの子、私達と同い年みたい……」

「な、ナルト君…」

 三人が何か言っているが俺には聞こえていなかった。なんで白が……それも原作みたいにそんな仮面付けて…なぁ、作戦は……作戦はどうしたんだよ。なぁ、白、桃地!

「ナルト、あいつとは俺がやる。お前はカカシの所に先に行け」

 サスケはそう言うと、白に向かって駆けて行く。俺は頭が混乱し過ぎて、それを見送ることしか出来なかった。

 何でなんだよ……。

 何で…。




あとがき
今月は投稿が全然できなくて申し訳ありません。何とか時間を取って編集しているんですが…仕事が忙しくてパソコンに触れない日が続いているのが現状です。
とにかく、波の国編を早く終わらせて中忍試験編にいきたいです。



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