――あれから二日が経った。
ユーチャリスはその機能の20パーセントを回復。超低空航行にて移動を続けてる。
黒い兄妹≠フアジトまであと半日あまりで到着予定。旅は順調。
だけど、アキトはあれからずっと何か調べ物をしてる。
私に言ってくれればすぐなのに、手伝わせてくれない。
私はアキトに嫌われたのかな?
「アキト……」
「ラピスちゃ〜ん。こんな所で何してんの?」
甘い声を出し、キヨウがラピスの首に手を回し背後から抱きついていた。
「何デモ、ナイデス」
「ダーリンに相手してもらえなくて、拗ねちゃってるんでしょ〜」
何故、この人はアキトの事をダーリン≠ニ呼ぶのか? それを考えると胸がざわつく。
「ほら、食事にしましょう。ダーリンにはキヤルが食事を持って行ってくれてるから」
私はどこか変なのかな……。
かつて、アキトを追いかけて来たナデシコのクルーや、ルリに抱いた感情と同じ物。
それが嫉妬だと言う事に、この時の私は気付かなかった。
紅蓮と黒い王子 第3話「もう、何でこんなことになるのよっ!!」
193作
空に浮かんでいたのは確かに月だった。
だがここ二日、ユーチャリスのデータベースを使って、地球の歴史や現在の月の位置から年代を割り出そうとしたが、その結論は全てUNKNOWN=B
未知、解析不能。ここは地球であるはずなのに地球でない。
ならば未来に来たのか? しかし、そう言う事でもないらしい。
「だとしたら、ここは……」
考えられることはただ一つ、平行世界。自分達の未来とは違う歴史を歩んだ世界。
「あの時のボソンジャンプの影響か……。時間を超越するどころか、世界を跨いでしまうなんて」
分かったことは唯一つ、宇宙に出れたとしても、その先は更なる未知の世界。
かと言って、ボソンジャンプをしたとして帰れる保障は全くない。
「いよいよ、ここに骨を埋める覚悟をしないと駄目か」
今更、あちらに帰る場所などない。それが分かっていても、アキトの心にはどこかやりきれない寂しさが募っていた。
「アキト! ほら、メシ持ってきてやったぞ」
「キヤルか。すまない」
そう言い、食事の載ったトレーを受け取り、優しい笑顔を浮かべるアキトに、思わずキヤルは顔を赤くしてしまう。
「ああ……。えと、礼なら良いって。むしろ、俺達がご馳走になってる訳だし。……て、その笑顔は反則だろう」
「……?」
「な、何でもないよ。さっ、俺も飯を食おうかな」
――ビィービー! 索敵レーダが何かを捕らえ、警報を鳴らす。
「何だ?」
画面には、この間のロボットとそっくりの機体。そして、それに追われる少女の姿が映し出されていた。
「――ガンメン!!」
すぐそばにいたキヤルの声が艦内に響く。
映し出されたガンメンとその少女を、食い入るように険しい表情で見つめるキヤルを見て、アキトは心を決める。
「……やはり放っておけないか」
『アキト。助ケルノ?』
通信機から顔を出したラピスがアキトに問い掛ける。
「ああ。ここで見捨てて、丸腰の彼女達に出て行かれる方が被害も大きくなる。キタンはどうしてる?」
『兄ちゃんなら、昨日はお酒を飲みすぎたみたいで、ベッドでウーウー唸ってるわよ。キノンが診てるわ』
アキトの脳裏に、キタンの置かれている状況が頭をよぎる。
キヨウの言葉に思わず状況が想像出来てしまう辺り、この二日で随分と毒気に晒されたらしい。
「ラピス。ガンメンだけを射撃で狙えるか?」
『……ダメ。敵ト、アノ人の距離ガ近スギル。一緒ニ巻キ込ンデシマウ可能性ガ高イ』
「そうか。なら、方法は一つしかないか」
そう言うとアキトは、武器庫に置かれているコンテナから身の丈の半分以上もある大口のライフルを持ち出す。
「アキト、俺も……」
自分も連れて行ってくれと主張するキヤルの頭に、アキトはそっと手をのせる。
「大丈夫だ。だから、安心して待っていろ。彼女も、この艦も守ってみせる」
そうだ。元の世界に帰れる帰れないじゃない。ラピスを受け入れたあの時から、
ここ
が俺の帰るべき家なのだから。
――ドオォォン!!! 少女の放ったライフルから銃弾が放たれ、ガンメンの額に当たる。
「くっ! どうなってんのよ!! あのガンメン!!!」
確実に当たっているはずの銃弾を物ともせずに進んでくるガンメン。何とか避け続けているが、このままでは捕まるのも時間の問題だった。
「もう、何でこんなことになるのよっ!!」
――ズギューン!!! ヤケクソとばかりに放った銃弾を、ガンメンは右腕で弾きながらその距離を縮める。
「えっ! うそ!! (や……やられる!)」
終わった。そう思い、自分を襲う衝撃に耐えようと目を瞑るが、いつまで経ってもその衝撃はやってこない。
「……え?」
少女が目を開くと、バランスを崩して倒れたガンメンの姿と、自分の前に背を向けて立つ黒いマントを纏った男の姿があった。
「合図をしたら全力で反対方向に走れ」
何の説明もなしに告げるアキトに、少女はただ頷く。
「貴様、よくもやってくれたな! この特殊装甲を持つガンメンを傷つけるとは一体どんな手品を使いやがった」
「…………」
「無視するとは、良い度胸じゃないか! なら捕まえてその手品の種を吐かせてやるっ!!」
そう言うと、その大きな鋼鉄の腕を振り下ろすガンメンを前にアキトは少女に合図を出す。
「今だ。全力で走れ!!」
合図と同時に銃口を下向きに構え、アキトは迫り来る腕に飛び乗る。
「――?!」
そのまま腕の上を肩にかけて駆け出すと、間接部に向かって銃口を構えた。
ドドドドドドオォォ―――ン!!! 無数に連射された弾丸が、ガンメンの右腕をもぎ取る。
「……なるほど。たしかに硬いな」
地面に着地し、打ち込んだ弾数を確認してそう呟くアキトを見て、ガンメンを操作している獣人に動揺が走る。
「す……すごい」
少女はアキトの合図で距離を取りながらも、その動きに感嘆していた。
敵の動きを見て、それを逆手に取れる身体能力。あの馬鹿でかいライフルで精密射撃が出来る筋力と精密さ。
ガンメン相手に、人間が一人で圧倒しているその姿を見て、驚きを隠せない。
「おのれぇぇぇ! 人間なんかに負けてたまるかぁぁぁ!!」
「人間なんかにか」
スッ――。
一瞬で姿を消したアキトを前に、獣人の背中に恐怖が走る。
「ならば、人間を侮った貴様の負けだ」
ガンメンの後部に姿を現すと、一瞬で頭部にまで駆け上がり、電送管を貫いた。
「――うっ! うごかねぇ!!!」
電送管をやられ突然動かなくなったガンメンの様子に獣人に焦りが生まれる。
ドンッ!! ドドドドドドォォォン!!!
コクピットの外から、そのハッチの付け根を狙い無数の弾丸が撃ち込まれると、壊されたハッチの向こう側には黒い衣服を纏い、冷たい殺気を放つアキトの姿があった。
開け放たれたコクピットを前に獣人にかつてない恐怖が走る。
「ヒィッ!!!」
「おい。少しばかり質問に答えてもらおうか?」
そう言いながら殺気を放つアキトに、獣人はただ、首を振る事しか出来なかった。
「最初に、この星は何だ?」
この星? 妙なことを口にするアキトを不思議に思うが、獣人は言われたままに答える。
「……ここは螺旋王様が治める地。螺旋の地」
「螺旋王? それがお前達の主か?」
「そうだっ! 貴様達人間なんぞ、足元にも及ばぬお方だっ!!」
――螺旋王。
――螺旋の地。
しかし、ここが地球である事には間違いない。ならば、やはり異世界と言う方が正しいのだろう。
「もう1つ質問だ。お前達は何故、そこまで執拗に人間を襲う? 人間達を地下に押し込めているのは何故だ?」
「……この地上にお前達、人間の存在は許されない。俺達の役目は地上に出てきた人間を始末する事だけだ。全ては螺旋王様の御心のままに」
「つまり、お前は何も知らないと言うことか(螺旋王。もしくはその幹部にしか知らされていない秘密が何かあるようだな)」
――カチャ。 質問を終えると、アキトは獣人にその大きな銃口を向ける。
「ヒィッ! ちゃんと質問に答えたんだぞ!!」
「なら、お前達は命乞いをした人間を助けるのか?」
冷酷にその引き金を引こうとするアキトを、通信機から発せられたラピスの声が止める。
『ダメ! アキト!!』
――?!
『アキト、モウ復讐ハ終ワッタンダヨ。ソウヤッテ、マタ、アキトガ傷ツクノハ嫌』
「……ラピス」
その言葉にアキトは動きを止めていた銃口を再び獣人に向け、その引き金をひいた。
『――アキトっ!』
ドォンッ!! 銃声と同時にラピスの声がユーチャリスに響く。
「……俺が守るのは、ラピスと
帰る家
(
だ。それを傷つけようとする者には容赦をしない」
そう言い立ち去るアキトの後ろには、ショックで気絶した獣人と、打ち抜かれたコントロールパネルの姿があった。
「あっ! あのっ!!」
ガンメンから降りてきたアキトに最初に声を掛けて来たのは、先程、ガンメンに追われていた少女だった。
年の頃は16、7。抜群のプロポーションと、水着の様な過激な格好をした赤いポニーテールの少女は、その容姿だけで言えば美少女と言える。
「あ、ありがとうございました!」
少し緊張しながらも、きっちりと頭を下げ礼を述べる少女。
「礼ならいい。俺は一度、君を見捨てようかと考えた。礼ならあの船で待っている、君を助けたいと訴えた彼女に言えばいい」
そう言うアキトに、少女は首を横に振ると笑顔で答える。
「でも、あなたが助けてくれた事は変わらない。だから、お礼ぐらい言わせて」
プシュー……ボンッ!
何か弾ける様な音がすると、少女の持っていたライフルから煙が出る。
「え、え〜!! あうぅ〜」
プスプスと煙を放つライフルを見て、少女は涙目になる。
「……はあ。それは君の銃か?」
「え? あ、そうだけど? あ、いえ、そうですけど」
「別に普通の話し方でいい。助けておいて、ここで放っていく訳にも行かないだろう。ついて来い」
そう言い、ユーチャリスに向かって歩き出すアキトに、少女は慌てて後を追いかけた。
「ふ……ふわぁ」
ユーチャリスを見た少女が最初に見た感想は驚きだった。
「こんなのリットナーにもないよ。えっと……」
「アキトだ」
「あ、ごめん。助けてもらっておいて、私も自己紹介まだだったね。ヨーコよ。アキト、よろしくね」
そう言い、アキトの手を取り笑顔で答えるヨーコに、少し照れ臭くなりながらもアキトは会話を続ける。
「リットナー? それが君……いや、ヨーコの町か?」
アキトは、君と言われ少しむくれるヨーコを見て、名前を言い直す。
「まち? リットナー村は私の出身の村よ。昼間、予想外に沢山のガンメンとぶつかっちゃってね。それで村からガンメンを引き離すために逃げて来たんだけど、ヘマしちゃって」
「一人でか……。また、無茶をした物だ。村というからには仲間もいたんだろう?」
「いるにはいるけど、他のみんなも襲ってきたガンメンの対応に追われててね。私も一匹連れて逃げるのが精一杯だったし。皆、無事だといいけど……」
先程までとは一転して、心配そうな顔を浮かべるヨーコを見て、アキトは告げる。
「取り合えず、リットナーまで送ろう。もし、ガンメンがいるなら少しは助けになるかもしれない。こちらも先立つ物が少なくてな。多少の対価は頂くことになると思うが……」
保管されている食料や水。弾薬などにも限りがある。
村があるというならここで少しでも補給しておかなくてはいけない。そう思い、ヨーコに言うアキトだったが……
「ありがとう! アキトっ!!」
満面の笑顔でアキトに抱きつくヨーコ。
予想以上に感謝されて動揺するアキトだったが、帰り着いたユーチャリスの艦内で待っていたのは――
「オカエリナサイ。アキト。」
無表情で黒いオーラを放つラピスの一言だった。
「ふん。人間が生身でそれもガンメンを二体も倒したとは、にわかに信じられん話じゃな」
そう言いながら、アルマジロの様な姿をした獣人は先日アキト達がいた海岸線に立っていた。
「じゃが、これを見たら信じざる得ないかの?」
目の前にはバラバラに解体されたガンメンと、無残に破壊されたガンメンが二体。
これをやったのが人間だとしたら、それはどんな化け物なのだろうか? 獣人にも不可能な事をやってのける人間とは?
獣人の頭にその人間への興味と、僅かな恐怖が募る。
「グアームさまっ! 砂漠に何か巨大なものが埋まっているようなのですが……」
「巨大なものじゃと?」
「はい。どうにもガンメンの様なのですが、こんなタイプのガンメンは見たことがありませんし、その事で技術部の連中も首を傾げております」
部下の獣人が報告を済ますと、グアームは案内され、そのガンメン?と思しき物の所に足を運ぶ。
「こ、これは……」
グアームの前にあったのは、全身の半分以上を砂に埋もれさせた黒い巨人の姿だった。
……TO BE CONTINUED
あとがき
毎度、お騒がせしております。193です。
ヨーコさん登場しましたね。最後に謎のガンメン?もw(バレバレな気もしますが……)
WEB拍手返信板の方でも書きましたが、フォント装飾、ルビ振りのHTMLと、今までどおりの装飾なしの二種をこれから用意させた頂きます。
この辺りは周りにも聴いてみたのですが、好みによるところが大きいようですので、お好きな方で閲覧ください。
なお、今週より配信を不定期の月曜配信と、今までどおり木曜の定期配信の二度行います。
月曜の配信に関しては、一定数以上のストックがある場合、月曜の夜に配信致します。
かなり応援も頂いたことですし、3月までこちらにシフトを置くことにしました。その間に書き溜めるつもりですので。
正直、週1本ではいつまでたっても終わりそうにないので、可能な範囲で月曜の配信も行っていく予定です。
次回は、少し寄り道をして、リットナーの村に行くことになった一同。そこで知る世界の現実。目の前に突きつけられた現実の前にアキトが思うものは……。
次週は月曜日に配信します。木曜日は毎週配信しますが、月曜に関してはストックが一定数を超えている時のみ配信いたします。
紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。
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