カミナ……いや、兄貴は凄い。
あんなに大きな怪物を前に引きもせず、皆が横穴で脅える中、大啖呵をきって見せた。
兄貴は俺に出来ないことでも、簡単にやって見せる。
絶対に退かない。逃げない。何でも正面からぶつかって行く度胸と勇気を持っている。
それは、
俺
にとってはとても凄いことで――
誰よりも強く、格好よく見えて――
ヒーローに憧れる少年のように目をキラキラとさせ、その大きな背中を見つめていた。
紅蓮と黒い王子 第6話「見せてやれ!! 俺達グレン団のドリルの力をっ!!!」
193作
「あなた達、何してるの? 早く逃げて!!」
――それは突然舞い降りた。
燃えるような紅い髪、布一枚とも言える薄着の少女が、見た目には想像も付かない大きいな武器を手に天から舞い降りた。
「ダメ、尻餅を付いてるだけよ。早く逃げて!」
「いよぅ、ベッピンさん。あんたも地上からきたんだろ?」
ライフルを構え、ガンメンに向かって走り出すヨーコの横をカミナが追走する。
「まあね」
「イカしてるねぇ〜。そいつも地上の武器かい?」
「ちょっと違うけどね」
「いいね〜。しかもナイスバディだ! 地上は武器も女も違うと見える」
目の前にガンメンがいると言うのに、陽気に話しかけてくるカミナにヨーコのイライラは募る。
「ふざけないで早く逃げなさい! 死んじゃいたいの?!」
その瞬間。起き上がったガンメンの大きな腕が二人を襲った。
――ドゴォォ――ン!!
崩れ去る瓦礫と、陥没する地面。間一髪のところで、二人はシモンが咄嗟に掘った穴に身を隠す。
「サンキュー、シモン。助かったぜ」
「早く、こっち」
シモンの案内で二人は狭い横穴を這うように進む。
道ながらヨーコに質問を浴びせまくるカミナだったが、ヨーコが隣穴のリットナー出身だと知ると――
「なんだよっ、穴倉女かよ! どけ、このデカ尻!!」
「ちょっと、何?! その態度の違いは!!」
「ケッ!」
地上の女だと思ったのに騙されたと勝手に勘違いしたカミナは、その態度を一変させていた。
「ちょっと待って! ここからなら電送管を狙える。あれをやれば動きを止められるわ」
横穴を抜けてすぐ、建物の影からガンメンの背後にある電送管をライフルで狙おうとするヨーコ。
「おい! そこのデカ面!! 今から一発食らわしてやるから、覚悟しやがれっ!!」
「――ええ?!」
ちょうどライフルを撃とうとした瞬間、前に出たカミナに気付いたガンメンがこちら側に向く。
――ドオォォン!!!
ガンメンの放った攻撃を再び横穴に飛び込んでかわすと、二人は口論を始めていた。
「ちょっと、何するんよっ! アンタっ!!」
「正面からガツンと食らわすのが男ってもんだろう!!」
「私は女です!!」
二人の口論は続きながらも、シモン達はどんどん横穴を奥へと進んでいく。
「ちょっと、何処向かってるの?」
「顔だよ! 顔!!」
「顔?×2」
二人の脳裏に先程のガンメンが浮かぶが、シモンは興奮した声で話を続ける。
「そうだよ! でっかい顔があるんだ!!」
「それって、ガンメンのこと?」
「ガンメン? 何だ、そりゃ?」
「さっきの怪物のことよ」
一行が進んでいった横穴の奥に、それはあった。
赤と銀色のボディに、大きな顔。それに人が一人乗れるくらいのスペースが頭に空いていた。
「乗れんのか? これ?」
「兄貴! これでアイツを、あのデカ面をっ!!」
「やっつける! こいつでか?!」
そう言うと何かを考え込むカミナ。
その時、シモンの持っていた金色のドリルが音を立てながら淡く光りだす。
それに同調するかのように、小型のガンメンからも同じ光がでる。
「動きそうだよ! 兄貴」
「お前がやれ。シモン」
「ええ?!」
その予想外の言葉にシモンは動揺するが、カミナはシモンの言葉を無視して話を続ける。
「お前が掘り出したんだ。なら、こいつはお前のモンだ」
「む、無理だよ俺なんかじゃ……」
「バカ野郎っ!!!」
シモンの肩を掴み、オドオドするシモンを大声で叱責するカミナ。
「無理を通して道理を蹴っ飛ばすんだよ! それが俺達、グレン団のやり方だろうがっ!!」
「でも……」
「いいから乗れ!」
そう言うとカミナはシモンをコクピットに座らせ、ヨーコと一緒にガンメンの後部に乗っかる。
「やれ! お前なら出来る!!」
「ううぅ……でも……」
「いいか、シモン! 自分を信じるな!! 俺を信じろ!! お前を信じる、俺を信じろ!!!」
「……何それ」
恐怖と緊張で固まってしまったシモンの目を見ると、カミナは自信たっぷりに言う。
「……やってみる」
その言葉に心を打たれたのか、シモンはやる気を出し、目の前にある機械を見詰める。
前には自分の持っている金色のドリルと同じくらいの大きさの穴が開いていた。
淡く光るドリルを、シモンはそこに惹かれるように差し込む。
そして、ねじった瞬間――小型のガンメンは眩い光を放ち、動き出す。
その両側から手足が生え、先程の横穴を宙を滑走するように外へと進む。
「「「うわああぁぁぁぁ!!!」」」
三人の悲鳴が地下に響き渡るが、ガンメンはお構いなしに曲がりくねった道を物凄いスピードで移動する。
――ドォン!!
広場に飛び出た三人は、暴れまわっている先程のガンメンに向かって勢いを殺すことなく疾走する。
「出来たじゃねーか! シモン!!」
「うん、兄貴!!」
「よっしゃー!!」
ガンメンの目の前に降り立つと、カミナは再び大声で啖呵を切り出す。
「ハーハハハッ! ちっとは驚いたかガンメン野郎!! テメエの横暴は天が許しても、このラガン様がゆるさねぇ!!!」
「ラガンって?」
不思議そうな顔をして尋ねるヨーコにカミナは言う。
「こいつの名前だ。今、俺が決めた」
小型ガンメンを叩きながらそう言うカミナ。
その時、振り下ろされたガンメンの武器をシモンは咄嗟にレバーを切りかわす。
「おいっ! シモン、なんで逃げる」
「だ、だって! 死んじゃうよ!!」
ガンメンの突き出した大きな棍棒がラガンを捕らえ、カミナとヨーコを振り落とし、壁に向かって吹き飛ばされる。
「シモン!! ――ってぶわっ!!!」
ガンメンの頭の上に転がるように倒れこむカミナ。だが、そこにヨーコの姿はなかった。
「大丈夫か? ヨーコ」
「うぅ……」
それは懐かしい声。温かく包み込んでくれる、強く逞しい腕。
目を明けたそこには、あの時と同じように黒いマントに身を包んだアキトの姿があった。
「え?! ア、アキトっ!!」
咄嗟に、その腕に抱かれていることを気付いたヨーコは、顔を真っ赤にして慌てて飛びのく。
「全く、無茶をしたものだ。そんなに死にたいのか?」
「違う! 私はっ!!」
アキトの言葉に反論しようとするヨーコだったが、その巨体を自分達に向けるガンメンに遮られる。
「話は後だ。先にこいつを叩く」
右腕に持ったライフルを片手に、一気にガンメンへと距離を詰めるアキト。
ドォン!ドォン!!ドォン!!!
放たれた三発の弾丸がガンメンの額にあたる。
「ウギャアアァァ!!!」
「うおおっ!」
弾の勢いに体勢を崩され、倒れこむガンメン。
傾く頭から飛び降りたカミナは、その勢いでアキトの元へと闊歩していた。
「ああ?! お前、なにもんだ?」
いきなり出会い頭にメンチを切るカミナにヨーコの一撃が飛ぶ。
「イテェ! こら、テメエ!! その馬鹿でかい筒で思いっ切り後ろから殴るんじゃねえ!!!」
「バカはアンタでしょうが!! 助けてもらっておいて、何メンチ切ってるのよ!!!」
「んなこと言っても、こんな黒ずくめの奴、怪しいに決まってんだろうがぁ!!!」
「アキトはそりゃ、見た目はちょっと怪しいかもしれないけど、滅茶苦茶強くって優しくって……それにその何ていうか頼りになるし、だから、お兄ちゃんみたいって言うか……ゴニョゴニョ」
「あん? お前、何言ってんだ?」
「兄貴っ!! 後ろ!!!」
シモンの叫ぶ声が飛ぶ。起き上がってきたガンメンの攻撃を三人は飛びのき、かわす。
「シモン、無事だったか!! よし、そいつで――」
ドオオォォン!!!
横殴りに振り下ろされた棍棒がカミナのいた位置を捉え、辺り一体を吹き飛ばす。
「ア、兄貴イィィ!!!」
シモンは左右のレバーを一気に前へ倒すとラガンをガンメンに向かって体当たりさせる。
「グ、グウオォォォ!!」
後頭部に一撃を食らったガンメンはバランスを崩し前に倒れる。
「兄貴っ!!」
シモンは先程カミナがいた位置を確認するがそこに姿はなく、いつの間に飛び上がったのか、アキトとヨーコと一緒に上の階層に逃れていた。
「た、助かったぜ。サンキューな、えーっとアキトだっけ?」
「アンタ、もうちょっとまともに礼も言えないの?」
「ヨーコ、雑談は後だ」
「う、うん」
「なんか、アキトと俺で随分と態度が違わなくねえか?」
少し呆れながらも、アキトに対してしおらしいヨーコを見て、カミナは不満げに口にする。
――ガン!
飛び上がり、カミナの傍に着地したラガンからシモンが顔を出す。
「兄貴!! よかった無事で……」
泣き出しそうなシモンの頭をガシガシと抑えるカミナ。
「バカ野郎! もっと、シャキっとしやがれ、シモン!!」
「兄貴……」
「よーし! 今度こそ、このラガンであのガンメン野郎をぶっとばすぞ!!」
ラガンに飛び乗って指をさすカミナ達目掛けて、ガンメンの大きな棍棒が投擲される。
「げっ!!」
「うわああぁぁ!!」
咄嗟にアキトはヨーコを腕に抱え飛び出すが、そのままカミナとシモンは取り残され、棍棒とともに瓦礫に埋まってしまう。
「くっ!!」
咄嗟のこととは言え、ヨーコしか連れ出せなかったことに苦虫を噛み締めるアキト。
だが、そんなアキトの心中も知らず、瓦礫から眩い光を放ちラガンが再び姿を現した。
先程まで剥き出しだった頭はシャッターが閉められ、その頭部からはドリルのような物が飛び出ている。
「ドリルか!!」
「何か、でちゃった……」
「似合いの武器だぜえ! お前らしい!!」
シャッターの閉められた狭いコクピットの中で二人はそのドリルを見て歓声をあげる。
「兄貴!! これならいけそうだよ!!!」
「よーし!! 見せてやれ!! 俺達グレン団のドリルの力をっ!!!」
そう言うと二人の気合に呼応するように眩い閃光を放ちながら、さらにその形状を変化させる。
両手からドリルが更に飛び出し、三本のドリルを武器にラガンは雄たけびをあげる。
「いけ、シモン!! お前のドリルで天を突け――!!!」
「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
目も眩むほどの強力な光を放ちながらラガンは光の矢となって、その身体をガンメンに突き刺す。
信じられないことに、その巨大なガンメンの身体が持ち上がり、空へと向かって突き破っていった。
「あばよ、ジーハ村! 俺達は地上へ行く!! ガキのとき見た地上へな!!!」
力いっぱい左右のレバーを握るシモンの口元にも笑みが浮かぶ。
ガンメンはその身体をドリルの遠心力に削られながら、地表へと向かってドンドンと進んでいく。
「だあああぁぁぁぁぁ!!!!」
二人の気合の声が臨界に達した瞬間。地面を突き破り、上空へとガンメンと飛び出していた。
「グ、グギャアア!!!」
――ドオオオォォォン!!!
空でその衝撃に耐え切れなくなったガンメンが四散する。
そして、空まで飛び出した二人が見た光景は、壁も天井もない遥か彼方まで続く地平線と――
カミナが子供の頃に見た、あの夕焼けに染まった真っ赤な荒野の姿だった。
「うわあ……」
「こ、これが地上か」
二人はそのあまりの存在感に心を奪われていた。
「なんだ、あのガンメンは?」
今まで見た事がない小型のガンメンにアキトは驚いていた。
あの巨大な質量の一撃を受けても傷一つないその強度。 そして、あのガンメンと地表を削りながらを地上まで到達するパワー。
そのどれもが今までに見てきたガンメンの常識を一変させるものだった。
「ヨーコ。とにかく追いかけるぞ」
「うん」
二人はラガンを追いかけ、再び地上へと向かった。
「おい、何か空中でとまってるぞ」
「いや、兄貴、これ落ちてるんじゃない?」
「おいっ! 何とかしろ、シモン!!」
「そんな、あの時は無我夢中で……」
「「うわああぁぁぁぁ!!!」」
二人の悲鳴は地上に大きく響き渡った。
「ぶいっ!」
「ん? アンタいつの間に紛れ込んだの?」
ヨーコの胸の谷間に挟まり、密かに危機を脱していたブータがいた事を忘れてはいけない。
……TO BE CONTINUED
あとがき
193です。冒頭は、あまり本編とは大きくかわりません。
ラガンがないと始まりませんし、これが村を飛び出す切っ掛けですしね。
しかし、この時のブータを羨ましく感じたのは私だけではないはずw
何か、マスコットキャラってお得な位置にいますよね。
ちなみに次週の月曜日の配信はお休みさせて頂きます。休みなんでちょっとブラっと旅に出てくる予定ですw
木曜日の配信はありますので、そちらはご心配なく。
最近、疲れ気味なんで癒されてきます。リポビタンでは限界が……;
次回は、ヨーコは苦悩する。自分の不甲斐無さに、情けなさに自身を追い込んでいく。そんな時、ヨーコを救ったのは漢の一言だった。
紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。
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