翌朝、アキト達はリットナーの村を襲ってきた三体のガンメンと対峙していた。

「ヨーコ! 深入りするなっ!!」
「大丈夫っ! 向こうの一匹は私に任せてっ!! 私が……私が村を守るんだからっ!!」

 前に突出していたヨーコに向かってダヤッカが叫ぶ。だが、ダヤッカの言葉を無視して、ヨーコはガンメンに向かい先行していく。

「全く、ヨーコの奴、どうしちまったんだ?」
「…………」

 ――昨日のことを引きずっているのか? アキトの脳裏には昨夜のヨーコの姿が浮かんでいた。

『私に戦い方を教えてっ!』
『それは復讐の為か?』
『違うっ! 私は村を守りたくて!! アキトみたいな力があれば私にだって!!』
『ヨーコが求めた力は、復讐の果てにある暗く濁った物だ。俺に教えられる事はない』

 力を求めることは悪い事ではない。村を守りたいと言う気持ちは分かる。だが、今のヨーコは気持ちばかりが先行している。
 かつての自分の様になって欲しくないと言う思いから突き放したが、アレで本当に良かったのか? アキトにはまだ答えが出せないでいた。

「ダヤッカ。ここを頼めるか?」
「……ああ。ヨーコのことをよろしく頼む」

 アキトの意図を理解したダヤッカは、ヨーコのことをアキトに託す。

「ラピス。キタン達とこちらを頼む」
『ウン。アキトモ気ヲツケテ』

 ユーチャリスのラピスに通信を取ると、ヨーコを追いアキトは駆け出していた。




紅蓮と黒い王子 第5話「お前のドリルは天を突き破るドリルなんだよっ!!」
193作





 ――ドオオオォォン!!! 轟音が響き渡る。
 放ったライフルでガンメンが尻餅をついたと思った瞬間――突然、地面が陥没した。
 地盤の緩んでいた箇所からガンメンが落ち、ヨーコもその後を追いかけていく。
 しかし、落盤した場所がまずかった。
挿絵
「この先には村があったはず」

 ヨーコは焦っていた。
 先行してガンメンと戦ったまではいいが、まさか第三者を巻き込む結果になるとは思っていなかった。
 この下に村があったとするなら、生き埋めになった人がいるかも知れない。
 落ちていったガンメンの被害者がでてるかも知れない。
 ヨーコの脳裏に死んでいった仲間たちの姿が浮かぶ。

「もう、誰も……誰も殺させないっ!」

 それはヨーコが密かに決意した思い。アキトに憧れたのも最初はその圧倒的な戦闘力ゆえだった。
 自分もああなりたい。力があれば皆を助けられる。死んでいった仲間達の仇だってうてる。
 純粋なその思いは焦りになって、ヨーコの心を蝕んでいた。

「……!!」

 下から誰かの声が聞こえてくる。空洞に響くその大きな声は、どこか力強いものを感じる。

「ジーハ村に悪名轟くグレン団! 漢の魂、背中に燃える……不撓不屈の鬼リーダー!! カミナさまたぁ〜〜俺のことだ――――っ!!!

 地下から聞こえる大きな声の正体。
 片手に長い刀を持ち、サングラスを顔にかけ、その身体には燃え盛るような炎の刺青が彫られている。
 大胆不敵に笑いながら、そのカミナと名乗った男は、ガンメンを相手に正面から対峙していた。

「ちょっと、何なの?! あの馬鹿っ!!」

 落下しながらヨーコはライフルを構え、ガンメンに向かって射撃する。
 まずは腕、カミナを攻撃しようとしていた腕がはじかれ、ガンメンは体勢を崩す。
 ――ドォン!! ドォン!!!
 次に二発の弾丸を放つと、それはガンメンの額に直撃し、後方に転ばせた。

「あなた達、何してるの? 早く逃げて!!」






 ――はじまりは、いつもと同じだった。
 いつものように、横穴を広げる為に穴掘りをする。
 手でグルグルとそのハンドルを回しながら、少しずつ柔らかい掘りやすい場所を探してドリルを進めていく。
 地下の村にとって横穴を広げると言うことは、村を広げることにつながる。
 村が広がれば、それだけ多くの家畜が飼え、みんなの暮らしもよくなる。
 穴をたくさん掘れば村長も喜んでくれるし、ブタモグラのステーキも食わせてくれる。
 でも、そんなことよりも俺は穴掘りが好きだった。ジメジメした感覚。土のにおい。狭い空間。
 全てが閉ざされた地下の村でも、俺の掘った穴は毎日少し違う。その僅かな違いが俺は嬉しかった。
 そんなある日、俺は片手に乗るくらいの小さな金色のドリルを掘り出した。
 淡く緑色に光る不思議なドリル。その時からそのドリルは俺の宝物になったんだ。

お前のドリルは天を突き破るドリルなんだよっ!!

 カミナの声が地下に響き渡る。午前の穴掘りを終えたシモンはカミナに連れられ、家畜の小屋まで来ていた。

「なんで?」
「俺には分かる。理由は聞くな」
「説明できないんだ……」

 いつものカミナのペースに乗せられ、シモンが渋々その場の流れに身を任せているとカミヤの号令が響く。

「行くぜ! 野郎どもっ!!」

 カミナの号令とともに家畜小屋の扉が開け放たれ、尻を蹴られたブタモグラ達が一斉に外へと駆け出していく。

「来い! シモン!!」

 ブタモグラに飛び乗る一行。そのまま、ブタモグラは天井に向かって、一直線に駆け上がっていく。

「ど、どうする気なの?」
「お前のドリルでアイツをぶち抜け!!」

 そう言うカミナの指差す先には、開かずの天井と呼ばれる、開けてはいけないとされる村の禁忌があった。

「そんなの、無茶だよぉ……」
「お前なら出来るっ! あの先にきっと地上がある!! このまま一気に地上にいくぜ!!!」

 カミナのどこから来るのか分からない根拠と自信に呆れながらも、天井は今か今かと迫ってきていた。

「カミナぁぁぁ! また、お前かぁ!!」

 図体のでかい大柄な男が、鞘に入った刀を片手に一行の前に立ちふさがる。

「どけぇ! 村長っ!!」
「この……バカモンがぁぁ!!!

 ――ドゴォォン!!! 村長の振りかぶった鞘がブタモグラに乗っていたカミナ達を捕らえ吹き飛ばした。






「カミナ……大丈夫かな?」

 村長に 素直に謝った 寝返った 子分達と、無理やり連れて行かれたシモンは無罪放免となり、カミナはメシ抜きで反省房に繋がれていた。
 シモンは穴を掘りながら考える。先程の、カミナの言葉を。



『毎日毎日、こうして地震に脅えて生きて行く気かよ? 俺はゴメンだぜ』

 突然起こった地震の中、カミナは震えるシモンをそっと胸に抱き、その溢れる想いを口にする。

『地上にゃ! 壁も天井もねえんだぞ!!!』



 地下生活にとって地震は最大の脅威だ。
 天井が崩れれば村は埋まり、みんな生き埋めになって死んでしまう。
 シモンの両親も地震による落盤が原因で亡くなっていた。
 シモンは思う。こうして穴を掘っていても、いつかはみんな崩れてきて死んでしまうんじゃないだろうか?
 それが決まりなんじゃないかと……

 ――ガキンッ!

 ドリルの先端に何か固い物があたる。
 岩盤でもないそれを不思議に思ったシモンは、あたった物の周りを掘り返していく。

「これは……」

 土の中から出てきたのは大きな顔だった。






 荒野に、年の頃は40過ぎと言ったところか、マントを羽織った体格の良い男と、幼い少年の姿があった。

『見ろよ。これが地上だぜ』
『なんにもない……』
『だからいいんだ。壁もなければ天上もない。これが漢の世界ってもんだ』

 夕焼けに染まった大地で男は少年に告げる。

『お前もいくか?』

 その言葉に、目の前に映る光景に圧倒され、少年は二の足を踏む。

『そうか……なら、お前はその時が来たら来ればいい』

 男はそう少年に言い残すと、地平線の彼方へと消えていった。



親父――っ!!

 反省房でロープで繋がれた状態を確認すると、カミナは自分が寝ていたことに気付く。

「夢か……俺は何であの時、ついて行かなかったんだろうな」

 それは後悔か? 悔しさか? 

「あ〜! もう、つまんねえ、夢見ちまったな〜」
「ぶみゅう」
「……ん?」

 カミナが足元を見るとブタモグラの子供がカミナの様子を伺っていた。

「なんだ? お前、見舞いにでもきてくれたのか?」
「ぶみゅう!」
「よ〜し、それじゃ、お前の名前は……ブータだ」
「ぶ〜い!!!」

 嬉しそうに頷くブータを足でガッチリとホールドすると、カミナは不穏な発言をしていた。

「よしっ! 取り合えず非常食ゲット」
「ぶっ、ぶひぃ〜〜〜!!!」

 ブータは必死に逃げようとするがしっかりと足でホールドされていて動けない。
 そんな馬鹿をやっていると、足元の地面に穴が開き、中から光が漏れてきた。

「カミナっ!」
「ん? シモンじゃねえか? お前も見舞いか?」
「一緒に来て! カミナ、見せたいものがあるんだ!!」

 そう言い興奮が冷め切らぬのか、嬉しそうにカミナを呼ぶシモンに、縛られていたロープを引き裂くとカミナは言った。

「しんねえぞ。こりゃ、脱走だ」







「で? 見せたいもんってなんだ?」
「顔だよ! 顔っ!! でっかい顔なんだ」
「でかい顔ね……でかい顔って……」

 話ながら地下道を歩く、シモンとカミナの前に現れたのは村長だった。

「これ(村長)のことか?」
「違うよっ!」
「誰がデカ顔だぁぁ――!!!」

 激昂する村長を前に漫才を始める二人。

「お前もお前だシモン! 馬鹿には付き合うなといっただろう!!」
「やめろっ! 悪いのは俺だ!!」
「そんなことは分かっとるわ――!!!」

 そう言い、村長が持っていた刀でカミナを叩こうとした瞬間、大きな揺れが村を襲った。
 ズズズズズゥゥゥ――ン!!!

挿絵
「な?! こりゃ、でかいぞ!!!」

 天井や壁に亀裂が走ったと思った瞬間――開かずの天井が割れ、崩れた落盤が村に降り注ぐ。

「カミナ、危ないよ! 早く逃げないと!!」

 焦るシモンの言葉が届かないのか、カミナは天井があった場所を見つめ、肩を震わせていた。
 地下に降り注ぐ天の光。その幻想的な美しさに一瞬、シモンの目も奪われる。

「へへ……シモン、お前が見せたかったものっては……こいつのことか?」

 カミナが指す先には天井から落ちてきたガンメンの姿があった。

「上だ! 上からこのデカブツは落ちてきたんだ!!」

 そう言いながら天に向かって指をさすと、カミナは村長に向かって大声で叫ぶ。

「やっぱり地上はあったんじゃねえか!! そうだろ、村長!!!
「こ、こんなことが……」
「なんだよ、村長。これじゃ、どっちが嘘吐きかわからねえーな」

 話も聞かず、大慌てで刀を捨てて逃げる村長を見てカミナは侮蔑の言葉を述べる。
 カミナが落ちている刀を蹴り上げると、クルクルと宙を舞いその右手に収まる。

「オウオウオウ! いきなり人の村に落ちてきて、でかいツラしてくれるじゃねえか!」
「ア〜ン?! ナンダキサマァ〜」
「教えてやるから、そのでっかい耳、かっぽじって聞きやがれ!!」

 ガンメンに、これでもかと言うほどに大きな態度で胸を張るカミナ。

「ジーハ村に悪名轟くグレン団! 漢の魂、背中に燃える……不撓不屈の鬼リーダー!! カミナさまたぁ〜〜俺のことだ――――っ!!!

 その一世一代の大啖呵は、地下全体に大きく響き渡った。






「ここか……」

 アキトの前には先程、ヨーコとガンメンが落ちていった大きな穴があった。
 すでにヨーコが降りてから数分が立っている。万が一のことを考え、アキトに緊張が走る。

「無事でいろよ。ヨーコ」

 アキトはそうして、奈落の穴へと身を投げ入れていった。






 ――運命の歯車は動き出す。
 カタカタと音を出し、確実にその時を刻んでいく。

 異世界からの来訪者と、螺旋の地で運命に抗う若者達。
 彼らの出会いにより、未来は予測出来ない場所へと歩み始める。





 ……TO BE CONTINUED









 あとがき

 193です。ここからようやく本編の始まりです。
 アキトと彼等の出会いにより、物語は加速度的に動き始めます。
 彼等を待つ先には、どんな運命が待ち受けているのでしょうか?

 次回は、ヨーコを追って地下へと降りたアキト。そこで待っていたものは……。遂に動き出すラガン。少年の想いは天を突き破るドリルとなる。
 紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。



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