紅蓮と黒い王子 第11話「お帰りなさい、アキト」



 グレンラガンの拳の両脇からでた二本のドリルがエンキの剣を破壊する。

「なんだとっ!!」

 壊れた剣を捨て、バックステップで距離を取るエンキ。

「あの小型ガンメンと合体しただけで、何故、こうも変わるっ!!」
「テメエには一生かけてもわかんねえよっ!!」

 エンキに向かって距離を詰めるグレンラガン。
 咄嗟にエンキは全身のミサイルをグレンラガンに向けて発射する。

 ――ドドドドドドオオオオォォ――ッン!!

 高い轟音と共に爆風に飲み込まれるグレンラガン。

「カミナ、シモンっ!!」

 ヨーコの声が響くが、土煙の中から全くの無傷のグレンラガンがその姿を現す。

「うそっ! あの爆発で何ともないの?!」
「身体全体を特殊なエネルギーバリアで覆って中和してるのかしら? 興味深いわね」

 その出鱈目とも言える頑丈さに全員が驚愕する。

「いねえっ! どこに行きやがった」
「ダメだ! 兄貴、深追いしちゃ」

 爆風に紛れ、姿を消したエンキ。それを追おうとするカミナをシモンが止める。

「怖いんじゃない。怖いけど今はそうじゃない。明日、勝つ為に今は抑えて兄貴……」

 シモンの真剣な願いにカミナはその緊張を解く。

「そうだな。いつも俺を助けてくれるのは、お前のその言葉だ。シモン」

 戦いは終わり立ち去ろうとした瞬間。
 気を抜いた一瞬の隙をついて、地中から現れた橙色のガンメンがグレンラガンを襲った。

「な、なにぃ?!」

 咄嗟に身を翻し、左腕を持っていかれながらも距離をとるグレンラガン。

「ほう、あれをかわすのか。やるではないか、人間」
「な、何モンだ……テメエ」
「全く、人間は口の利き方がなっとらんのう。ワシは螺旋王四天王が一人、不動のグアーム」
「四天王だとっ!!」
「人間、聞きたいこともあるんでの。楽には殺さんぞ」

 そこには不敵に笑う強敵、不動のグアームと、愛機ゲンバーの姿があった。



紅蓮と黒い王子 第11話「お帰りなさい、アキト」
193作





sasie「オモイカネ。システム状況ノ再度確認ヲ」
『現在、出力ノ53パーセント迄ヲ確保。通常戦闘ノ範囲デアレバ可能デス』

 ラピスはバッタ達をフル稼働させ、現状で取りうる最良の状態を得るために、寝ずにシステムの復旧に力を注いでいた。
 カミナ達が頑張って時間を稼いでくれている。
 その間にも出来るだけユーチャリスを万全の状態にしておかなくてはいけない。
 アキトのいない間は、やれることを精一杯やっておきたい。アキトの居場所を守る為にも。
 不可抗力とはいえ、他人の力を借りて迄、これほど力を注ぐラピスは初めてのことだった。

『ラピス、追撃デ現レタ新タナガンメンヲ確認。後方ニハ、戦艦級ト思シキ機影ヲ更ニ確認』

 画面に映し出される、半円の形をした巨大なガンメン。
 ラピスはそれを確認すると静かにユーチャリスを浮上させる。

「アキトノ大切ナ物ハ……アキトの居場所は私が守るっ!!

 今までよりも強く、その感情を顕にするラピス。
 その決意はAIであるオモイカネにも伝わった。

『守リマショウ、ラピス。私達ノ家ヲ』






「くっ! なんて固え野郎だ!!」

 グレンラガンのドリルを弾く装甲、片腕を失いながらもグレンラガンは必死にゲンバーに攻撃を加える。

「まずいよ、兄貴っ! このままじゃ……」
「グフフフ……」

 グアームが不適な笑いを浮かべるとその後方からグレンラガン目掛けて大量のミサイルが降り注いだ。

ぐあああぁぁぁっ!!!

 雨のように降り注ぐミサイルの嵐。さすがのグレンラガンも、膝をつき倒れる。

「何よ、アレっ!!」
「まずいわね……このままじゃ」

 ゲンバーの背後に現れた巨大なガンメンの影。半円球の形をした要塞型ガンメンダイガンド≠フ姿があった。

「あんな、大きなガンメンもでてくるなんて……」

 さすがのヨーコも力が抜け、膝を落としてしまう。
 他の面々も同じだ。その圧倒的な恐怖に、逃げ出そうにも膝が折れ、動かぬ者もいた。

「畜生っ!! 何で、足が動かねえんだっ!!!」

 身体をガクガクと震わせながらも前に出ようとするキタン。
 しかし、グレンラガンの武器すらも通じない敵を相手に、彼らの心はすでに折れていた。

「兄貴……」
「まだだ……まだ、負けてねえ」

 グレンのコクピットで額から血を流しながらもカミナは諦めない。
 震えるその手に力を込めると、再び起き上がり、ゲンバーに向き直る。

「人間というのは往生際の悪さだけは一人前だのう。だが、それもここまでだ」

 ゲンバーがその腕で合図を送ると、再びダイガンドからミサイルが発射される。

「くそっ!!」

 カミナの表情に今までにない焦りが見える。
 その瞬間、後方から放たれた一筋の光により、ミサイルは空中で爆発した。

「やはり、現れたか。人間とはつくづく愚かな存在だのう」

 先日逃げ帰った獣人より報告のあった、白い戦艦を見上げるグアーム。
 人間は追い詰めれば、巣をつついたように姿を現す。
 グアームの狙いはグレンラガンではない。
 姿を現した件の異邦人を見て、グアームに笑みが浮かぶ。

「確かにあの兵器は強力だ。だが、ダイガンドに果たして通じるかの?」

 ユーチャリスはグレンラガンの後方に停止する。そしてラピスはグレンラガンに通信を取る。

「シモン、カミナ」
「ラピスか?! わりい、助かったぜ!!」
『シモン、カミナ、ハジメマシテ。オモイカネト申シマス』
「うお、なんだこいつは?!」
「これはご丁寧に」
「シモン……」

 シモンをじっと見るラピス。

「あなたがアキトに言った言葉を忘れないで」

 ――俺は兄貴に死んで欲しくないっ!!

 シモンの脳裏に浮かぶあの時の光景。

「私はアキトの為にもあなた達を信じる。だから、目の前のガンメンをお願い」
「それは……ラピスはどうするの?」
「私は」
『ワタシタチハ』
「『あの大きなガンメンを破壊する(シマス)っ!!』」

 強い意思をその言葉に宿し、ダイガンドを見詰めるラピスとオモイカネ。

「ラピスにそこまで言わせて、男なら引き下げれねえよな。シモン」
「うん、兄貴っ!!」

 闘志を蘇らせ、再びゲンバーと対峙するグレンラガン。
 その様子に、後ろで震えていた者達も再び立ち上がる。

「ラピスが来た。カミナ達も諦めてねえ! なら、俺たちもやることは一つだ!!」
「「「「うおおおぉぉぉ!!!」」」」

 キタンの一言で気合を入れなおす一同。

「そうだよね。私は誓ったんだ自分に……ラピスや皆を守るって!!!」
「それにしても、変わったわね。あの子」

 奮い立つヨーコ。その後ろで、ラピスの通信を聞いていたリーロンが言葉を漏らす。

「時には愛する男の為に、熱血するのもアリよ」

 そう言ってユーチャリスに向かって親指を立てるリーロン。
 ここにグアームとの第二幕が幕を開けた。






「くうっ! 急に動きがよくなりおった?!」

 素早い動きでゲンバーに攻撃を繰り返すグレンラガン。
 左右に上手くフットワークを使いながら的確にその攻撃を続ける。

調子にのるなっ! 人間がっ!!

 ゲンバーの腕がグレンラガンを捉えようとするが、その隙をつくように四方から爆撃銃弾の雨がゲンバーを襲う。

「怯むな! 攻撃を続けろ!!」
「そうだ、例え攻撃がきかねえでも、隙が生まれりゃ、カミナ達がグレンラガンが何とかしてくれるっ!!」

 ダヤッカとキタンの声に応えるかのように一斉に攻撃を仕掛けるリットナーの皆。

図に乗るな!! 人間どもがあぁぁ!!

 群がる人たちを吹き飛ばそうとその大きな腕を振るうゲンバー。
 その腕の隙間を縫うように、ヨーコの弾丸が連射される。

「幾ら硬くたって、装甲の継ぎ目を狙えばっ!!」

 アキトとの出会いで見た戦い方。いくら装甲が厚くても、稼動する部分には必ず継ぎ目が生まれる。
 腕を振るった瞬間、隙間から見えた装甲の薄い部分目掛けて、何発もの弾丸を同じ箇所に的確に撃ち込む。
 ヨーコの想いが、その極限までに高められた集中力が、今まで以上に正確な射撃を呼び起こす。

 ――ドオォォン!!

「ぐあっ!!」

 腕を破損させられ、よろめくゲンバー。
 その隙をつき、ヨーコが攻撃した箇所目掛けてグレンラガンのドリルが襲う。

 ――ドガンッ!!

 破壊され爆散する腕。ゲンバーは大きく後方に飛び上がり、グレンラガンから距離を取る。

「まさか、人間どもがこれ程やりおるとは……」

 人間の思わぬ底力におされ、苦虫を噛み締めるグアーム。
 その後方では、ユーチャリスとダイガンドの戦いが幕を開けていた。






『ラピス、前方ニ多数ノミサイル接近』
「バッタを散開、ミサイルと敵を撹乱した後、1番〜2番の砲門をチャージ」

 IFSを通じ、無人のバッタ達に指示を送るラピス。
 的確にコントロールされる大量のバッタ達の動きに翻弄され、攻撃対象を見失うダイガンド。

「凄いわね……」
「本当に凄いですね。あの子達、てっきり作業用ロボットだと思っていたんですけど、ここまで凄い動きができるなんて」

 ミサイルを縫うようにかわしながらダイガンドに取り付くバッタを見て、驚きを隠せないリーロンとキノン。

「違うわ、本当に凄いのはラピスよ。あの数の無人兵器をあの子は一人でコントロールしてるのよ」

 バッタ達のリモートコントロール。
 無人兵器であるが故に単調になりがちだった動きを、オモイカネのサポートを有することにより、各機のコントロールを可能とした新しいシステム。
 アキトとの約束を守るため、急場とはいえ、ラピスが必死に組み上げたシステムだ。
 この事により、グラビティブラストしか搭載していなかったユーチャリスの戦い方の幅が広がったことになる。
 一撃を撃つ時間を稼ぐ為にバッタ達による誘導、撹乱を行い、計算した密集ポイントに一斉に放たれる四門のグラビティブラスト。
 嘗てのラピスならこんなことは思いつかなかったかもしれない、これほどの無茶は出来なかったかもしれない。
 だが、ラピスは見事にやってのけた。
 自身の持てる力を全て使い。アキトの想いに応えるために。

「アキトの帰る家は、私が守るっ!!!」

 一斉に照射ポイントから左右にバラけるバッタ達。
 その隙間を縫うように、二筋の閃光がダイガンドを襲う。

 ――ドオオオォォォン!!!

 大きな爆発を上げながら、グラビティブラストに後方に押し飛ばされるダイガンド。
 その表面の一部が剥離し、内部の装甲が姿を現す。

『表面装甲一部破損っ!! グアーム様、このままではっ!!』
「くっ!」

 部下からの通信を受け、ゲンバーの中で舌打ちをするグアーム。
 そのまま、グレンラガンに背を向け、崖に飛び上がるとその一番高い部分からユーチャリス目掛けて飛び上がる。

「だが、このままでは終わらせん!! せめて貴様だけでもっ!!」

 ユーチャリスの側面から迫るグアーム。
 前方のダイガンドに戦力を集中していたラピスに防御手段はなくその凶刃が迫る。

「しまったっ!! ラピスっ!!」

 カミナが不測の事態に思わず大声で叫ぶ。
 全力でゲンバーを追いかけるが間に合わない。
 ラピスの目の前に映し出されるゲンバーの特攻。
 その瞬間、ラピスの脳裏にアキトの姿が浮かぶ。

 ――ラピス。

sasieアキトぉぉぉ!!!

 ラピスの張り裂けるかのような叫びに、現れた黒い影。
 ゲンバーとユーチャリスの間に突然割って入ると、前方に展開したバリアの様な膜を使いゲンバーをダイガンドの方向へと弾き飛ばす。

な、なんだとおおぉぉぉぉ!!!

 吹き飛ばされながら叫ぶグアーム。
 そして、ラピスは姿は少し変わっても、よく見知るその黒い機体に目を奪われその名を言葉にする。

「アキト……アキトっ!!」

 両目に涙を浮かべながら必死にサレナに語りかけるラピス。

「ラピス、よく頑張ったな。最後の仕上げだ」

 そう言うとユーチャリスのオモイカネに指示を送信するアキト。
 それに答えるようにユーチャリスがその砲門を、ダイガンドとゲンバーに向ける。

「ラピスに手を出したことだけは絶対に許さん」

 空中からグアーム達を見下ろし静かな怒りを胸に、冷酷な瞳で殺気を放つアキト。

「き、貴様はっ!! 何者だっ!!」

 吹き飛ばされ瓦礫に埋もれた機体から大声で叫ぶグアーム。
 それにアキトは静かに答えた。

「俺は……死神だ」

 その言葉を合図に放たれる二門のグラビティブラスト。
 グアーム達のいた場所を飲み込むその閃光に目を奪われる人々。
 その光の中、ヨーコは空の黒い機体を見上げながら、アキトの帰還を心から喜んだ。

「お帰りなさい、アキト」






 ……TO BE CONTINUED









 あとがき

 193です。
 ラピスの想い、それに答えたシモンとカミナ。
 そして美味しい所を持っていく我らがフラグマスター、アキトくん(オイ!
 物語はまだ序盤に差し掛かったばかり、この出来事が彼らにまた新たな決意を宿らせます。

 次回は、アキトとキヤルの無事を喜ぶ一同。だが、アキトとキヤルが連れてきた少女に戸惑う彼等だったが……
 紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。



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