紅蓮と黒い王子 第13話「今度はこっちから攻める番だぜっ!! 獣人どもっ!!!」
「しかし、随分と派手にやられた物ね」
グレンのコクピットで細部のチェックをしているリーロンは、先日のゲンバーとの戦いの事を思い出す。
グレンラガンの腕をもぎ取ったあの隊長機、そしてユーチャリスの様な巨大なガンメン。
獣人たちの持つ力は正直はかり知れない。現状、うまく退けられているとはいえ、このままでいい物かとリーロンは悩んでいた。
「これは……」
グレンのコクピットに映し出される、ビーコンの光。
リーロンは偶然見つけたそのデータを見直すと、予想だにしなかった衝撃と驚きにかられる。
「大変、早く皆にもしらせないとっ!!」
それが、この先の彼らの行く末を決める、大きな決断の分かれ目だった。
紅蓮と黒い王子 第13話「今度はこっちから攻める番だぜっ!! 獣人どもっ!!!」
193作
「帰投ポイント?」
リーロンが偶然発見したデータ。それは獣人たちのアジトに関する詳細な場所のデータだった。
グレンも元々は敵のガンメンだ。奴らが軍隊であるといっていた以上、帰る基地があるのは当然。
その場で判断ができないことを悟ったリーロンは、取り敢えずアキトやカミナ達を集め、今後どうするかの会議をすることにした。
「ええ、獣人たちのアジトってところかしら? それで、皆はどうしたい?」
「そりゃ、敵さんのアジトがわかったって言うなら、乗り込むしかねえだろっ!!」
「当然だ! 今までと違って獣人たちに攻め込むチャンスなんだろ? 俺はやるぜっ!!」
カミナとキタンが何を当たり前のことを聞いてやがると言った感じでリーロンの言葉に答える。
周りの集まっていた若者達も、先日のアキトの活躍とグレンラガンの力を目の辺りにしたことにより、高揚したその気持ちを抑えきれず、我も我もと叫びたてる。
だが、それを少し後ろで聞いていたアキトは納得が行かない様子でその場に口を挟んだ。
「本気で、今の戦力で獣人たちに勝つつもりなのか?」
予想だにしなかった、アキトの消極的な発言にカミナは食って掛かる。
「なんだ? ビビッったのか!?」
「……そうだな。じゃあ、お前は怖くないのか?」
「んなもん、やって見なくちゃわかんねえだろうが!!」
「確かに、向き合ってみなくてはわからない物もある。だが、それも敵の戦力などある程度わかっていての判断だ。忘れたのか? 先日のガンメンのことを」
全員の頭にゲンバーとダイガンドの姿が浮かぶ。確かにあの時はどうにかなった。
だが、それもサレナとユーチャリスがあったからだ。
おそらくグレンラガンだけなら自分達は死んでいたかもしれない。だが、それも過程でしかない。
「でも、俺たちは勝った、生き残った!! なら、やることは一つだっ!! このまま、獣人たちに脅えて暮らせってのか!? お前はっ!!!」
アキトの胸倉を掴みかかり怒号を発するカミナ。
その様子に、自分達はどうするべきか、全員は思い思いにアキトたちをを見詰め、その場に立ち竦んでしまう。
「なら、お前は勢いだけで獣人たちの基地に向かい、そして彼らを巻き込んで死ぬか?」
アキトはそう言いながら集まってきていた村人達の方を見る。
リットナーの若者達の他に、子供、女性、老人の姿もその中には見受けられる。
「たしかに、お前は強いのかもしれない。だが、そうでない人も多い。彼らにはガンメンすらない」
「なら、俺たち戦える奴だけでも、攻め込めばいいだろうがっ!!」
「その間、残された彼等はどうなる? その間にガンメンが襲ってきたら? この村の位置はすでに奴らにも知れている、それに俺たちがいなくなれば彼らに自分の身を守るすべは無い。それは先日のガンメンの攻撃でわかったはずだ」
全員の顔に恐怖が浮かぶ。あの時に感じた死の恐怖。
確かに今後もグレンラガンにアキトたちがいなくなっては自分達の村を守れるかわからない。
現実、彼らに頼っていることは免れない事実だ。
「それに、忘れないことだ。戦っているのはお前達だけじゃない。彼等が、彼女達が、帰る場所を守ってくれているから俺たちは戦えるんだ」
アキトはそういうと、ラピスを連れてその場を後にした。
残された面々は各々に何かを考え込むように俯き、カミナはその悔しさからか血がにじむほど強く、その拳を握り締めていた。
「アキト、いいの?」
「たしかにカミナの言うこともわかる。今のままではいずれ、獣人たちにやられる時を待つだけかもしれない」
「アキト……?」
ラピスはアキトの考えを汲み取ると、少し笑みを零しながらアキトの腕を取る。
「アキト、素直じゃない。でも、アキトの言いたいことはわかるし、それをサポートするのが私の役目だから」
「俺は俺の目的の為に彼らを利用しているだけさ……」
「兄貴、何してるのさっ!!」
部屋に戻ると荷物をまとめだすカミナをシモンが止めに入る。
「俺たちだけでも獣人のアジトに殴りこむんだよ!!」
「そんな無茶だよ、兄貴!!」
「無茶でも何でもねえ! 誰かがやらないと、俺たちはずっと脅えて暮らさないといけねえんだ!! なら、俺が、俺たちが世界を変えるんだよっ!!!」
ドン――ッ!! 壁に強く拳を打ちつけながら叫ぶカミナ。
「アキトの言うことは俺にもわかってる。だから、俺たちだけで行くんだ……ここはアキトたちが守ってくれる」
カミナのその決意に満ちた言葉に、シモンは戸惑っていた歩みを前に向け、カミナに向き直る。
「兄貴……俺は兄貴にずっとついて行くって決めたから、兄貴がいくなら俺も行くよ」
シモンのその言葉に固く握手を交わすカミナ。
その様子を廊下から見ていたヨーコは溜息をつきながら、呆れた様子で呟いた。
「ほんとに馬鹿なんだから……」
「リーロン、カミナ達がああ言うとわかってて全員を集めて言っただろう?」
全員に指示をしながら自分の荷造りをするダヤッカは、工具を弄っているリーロンに昼間の件を問いかけていた。
「まあね、でも、アキトに悪者させちゃったけどね」
「俺も含めて、こないだの戦いで全員浮き足立ってたからな。まあ、アキトには悪いことしたな……」
「アキトは何ともおもってないと思うけどね。彼にとって重要なのはラピスとこの艦。その為なら周りにどう思われようが、大したことじゃないのよ」
「リーロンは、アキトの事をなんか知ってるのか?」
「私も推測だけよ、直接聞かされたわけじゃない。でも時々、アキトを見ているとすごく悲しく思えるときがあるわ」
そう、アキトはカミナとは別種の強さと、優しさを持っている。でも、それは深い孤独と悲しみの上に成り立っているアキトの根源に繋がる物だ。
吸い込まれそうなその漆黒のバイザーの奥には、どれほどの悲しみと想いがこもっているのだろう。
それを考えるだけで、リーロンはアキトの過去を知ろうとも無理に聞き出そうとも思えなかった。
「彼は強いんだな……」
「違うわ……弱いのよ。壊れそうなほど、誰よりもずっと弱い」
「そうなのか?」
リーロンの言ってることが今ひとつ理解できないダヤッカは首を傾げていた。
「アキト、いいのか? カミナたち出て行っちまったみたいだぞ」
ユーチャリスの艦橋から外を見るキヤルの先には、村から遠ざかろうとするグレンとラガンの姿があった。
「お前こそいいのか? キタンとキヨウ、キノンは出て行ったのだろう?」
「俺はアキトについていくって自分で決めたからな。それに姉ちゃん達にもアキトの事を頼まれちゃったし」
キタンもあの一件の後、何かを思いつめるように部屋に戻り、その後、アキトに何も告げず、リットナーを後にした。
キヨウとキノンはキタンだけにしておけないからと、キタンについていく事を決め、キヤルはアキトの元に残ることを決めた。
兄妹の間で何か話があったらしいが、アキトはその事については何も知らない。
「リーロン、準備の方はどうなってる?」
「物資の積み込みはほとんど終わったわ。あとは、みんなが乗り込めば終わりかしらね」
すでにユーチャリスの格納庫には大量の補給物資が積み込まれていた。
それと平行して、生活区画の改修工事も進められていた。
「ま、今までのところも雑魚寝に近い状態だったしね。そこまで完璧にしなくても大丈夫よ」
コンピュータールームからバッタたちに指示をだし、作業を進めるラピスにリーロンはフォローをいれる。
「アキトが気にするからギリギリまでやらせて。自分の部屋を明け渡してブリッジで寝るくらいのことはアキトならしかねない」
ラピスのその言葉に、確かに冗談では済まないかも知れないと思ったリーロンは口を挟むのをやめる。
「アキト、あと四時間、いいえ、三時間あれば出発できると思うわ」
リーロンの言葉に頷くアキトの視線の先には、カミナたちと出会ったあの日の様な、夕焼けに彩られた真っ赤な荒野が広がっていた。
「ちょっと、待ちなさいよっ!!」
ジェットバイクに乗ったヨーコがグレンとラガンの真横を追走するように走る。
「ヨーコ!! なんで!?」
シモンの一言に顔にかけていたバイザーを取って呆れ顔で答えるヨーコ。
「あんた達だけじゃ不安で一杯だから、一緒にいくことにしたのよ」
「でも、村は……」
「村にはアキトがいるじゃない。それこそ心配するだけ無駄よ」
何を当たり前のことを聞いてるんだ?って顔でシモンを見るヨーコ。
「何よ……私が一緒だと迷惑だって言うの?」
「いや、そんなことは……」
「くくく……」
グレンの中でこみ上げる笑いを我慢するカミナ。
「ケっ! 尻が重くて遅れるようなら置いていくぜ、穴倉女」
「あ〜ら、ナマリ玉ケツから入れられて、口からだされたい? リーダーさん?」
二人の冗談交じりの掛け合いに思わず笑みがこぼれるシモン。
「ぶいっ!」
シモンの肩で自分も一緒だとアピールするブータに、カミナは大きく言葉を上げる。
「ああ、お前も一緒だ!! 今度はこっちから攻める番だぜっ!! 獣人どもっ!!!」
その言葉は三人プラス一匹の決意となって、荒野に響き渡った。
「何? ヨーコも出て行っちゃったの?」
倉庫のジェットバイクとライフルを持ち出して、カミナたちを追いかけていく所を、目撃した村人から報告を受け、リーロンは思わず溜息を漏らす。
「なんで、こう先走るのかしらね……あの子たちは」
すでに積み込み作業も終わり、村人達の乗艦も完了したユーチャリスはあとは出発を待つばかりとなっていた。
『大丈夫、ユーチャリスならすぐに追いつく』
「伝えてなかったアキトも悪いといえば悪いしな。あんなんじゃ、うちの兄貴みたいな思考の奴にはとどかねえよ」
「ヨーコも思い込むと、突っ走るところがあるしね……カミナと意外とあってるのかも知れないわね」
「ま、俺はカミナとヨーコがくっついてくれた方が、アキトに余計な虫がつかなくて大助かりだけどな……ってサレナなにしてんだよ」
アキトの膝に抱きかかえられるように座っているサレナに、憤慨するキヤル。
「ここは私の特等席です。キヤル、恋愛と友情は別物だといったのはあなたですよ?」
「だからって、そんな……アキトもっ!!!」
怒りの矛先をアキトに向けるキヤル。
その迫力に圧されながらも、アキトはしっかりと答える。
「いや、先程までサレナにはブラックサレナのメンテナンスを頼んでいたんだ。それで疲れたというから……」
「だからって、別に膝の上じゃなくてもいいだろう!!」
「私はここが一番リラックスできるんです。キヤルだって、昨晩、こっそりアキトの布団にもぐりこんで寝ていたことはわかっているんですよ」
「あら、まあ、意外とやることはやってるのね」
リーロンの言葉に同調するように、再びコンピュータールームからピシピシと鈍い音を立てながら、黒いオーラを発するラピス。
『アキト、それ本当?』
通信から発せられたラピスの問いに咄嗟に答えられないアキト。
昨晩、「怖い夢を見て眠れない」と訴えるキヤルにほだされ、一緒に寝ることを許可したのは自分だ。
しかし、天に誓って何もしていないとアキトは思ってはいても、通信越しにかけられるプレッシャーの前にはその言葉も意味をなくす。
『そう……キヤルと寝たんだ……私が夜通しでユーチャリスの作業をしている間、お楽しみだったんだ……』
「いや、まて、ラピス! たしかに一緒に寝はしたが、何もしてないぞ」
このままではまずい。そう感じたアキトは必死にラピスに自分の無実を訴える。
「でも、アキト、優しく抱きしめてくれた……それにすごくあたたかかった」
頬を染めながら昨日のことを思い出すキヤルのその言葉に、ラピスの怒りは頂点をこえる。
『よかったね、アキト。可愛らしい恋人が出来て』
祝福してるようでまったく心がこもってない台詞。その背筋も凍る迫力に、嫌な汗を流すアキト。
『乗員、全員の搭乗を確認。相転移エンジンいきなりMAX出力。発射、カウントダウンに入ります』
「「「……え??」」」
ラピスの不穏当な発言。「いきなり」しかも発進ではなく「発射」発言に思わず全員、声を揃え驚く。
「ちょっと、アキト! 何でもいいから謝ってラピスを止めて頂戴!! そんなことされたら皆もただじゃすまないわよっ!!」
リーロンの訴えに、アキトは通信越しに必死にラピスに叫ぶ。
「ラピス、俺が悪かった! 謝罪の意味も込めて、何でもラピスのいうことを聞いてもいい、だからっ……」
『……なんでも?』
その言葉に反応したラピスの動きが止まる。
「あ、ああ……俺に出来ることなら」
それを聞くとラピスは何かを考え込むように俯き、アキトにこう言った。
「……じゃ、一緒にご飯食べて、一緒にお風呂入って、一緒に寝てくれる?」
少し恥ずかしそうに頬を染めて言うラピスに、アキトは固まってしまう。
たしかにこっちの世界に来てからラピスとの時間があまりとれなかったことは確かだ。
それ故にラピスに寂しい想いをさせていたのかも知れない。
アキトはそう考えた。
だが、さすがに添い寝はともかく風呂はまずい。
ラピスもお年頃なのだ。
そんなことは出来ない。そう思ったアキトはラピスにしっかりと告げようとするが――
「……ダメ?」
今にも捨てられそうな子猫のように、純真な瞳で訴えるラピスに抗えるはずもなく、アキトはあえなく陥落した。
「なんで、ユーチャリスがここにいるのよ……」
「俺たちの決意は一体……」
後方から追いついてきたユーチャリスとリットナーの面々を見たカミナたちは、やるせない気持ちで一杯だったという。
……TO BE CONTINUED
あとがき
193です。
HAHAHA! 仕事に追い込まれかなりハイテンションですw
しばらくはこの状態が続きそうですが、ストック持つかな?
次週からはいよいよ、獣人討伐の旅へ。
キタンは何か思うところがあるのか、しばし別行動に入ります。
すでに原作以上に目をつけられたカミナやリットナーの人々、地上に安全な場所がない以上、ユーチャリスの乗組員として共に戦う道を選ぶことに。
これで人員も装備も整いだしたユーチャリス。
獣人たちとの本格的な戦いが幕を開けるのも間近です。
次回は、獣人のアジトを目指して進む一行。その途中、獣人に襲われる三人の子供を救う。彼らから聞かされる世界の歪みにカミナは憤慨するが……
紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。