赤と黒――二体の巨人が世界の運命をかけて戦う。
 グレンラガンとラゼンガンの機体能力は、ほぼ互角だった。
 シモンの螺旋力にカミナの戦闘センス、二人のコンビネーションに敵うものは、この世界広しといえど、数えるほどしかいないだろう。
 大グレン団、獣人軍、そのいずれを含んでも最強の二人が乗るグレンラガンは、文字通り一騎当千の如き力を奮っていた。
 だが、それを持ってしても、数千年、気の遠くなる時間を生き続けたロージェノムの経験には届かない。
 グレンラガンが攻撃をしかければ、ラゼンガンはそれをいなし、その先を行く攻撃を仕掛けてくる。
 辛うじてカミナの動物的勘でしのいでいるが、ロージェノムが優勢なことは誰の目から見ても明らかだった。

「くそっ! 埒があかねえ!! シモン、あれをやるぞっ」
「うん! 兄貴っ」

 グレンラガンが投げた胸のブーメランが二手に分かれ、ラゼンガンを拘束する。
 そのまま目映い光を放ち、全身の穴という穴からドリルを解き放つグレンラガン。
 光が右手に収束していくと全身のドリルが収束していき、巨大なドリルを形成する。

「ギガ!!」
「ドリル!!」
「「ブレイクゥゥゥゥ――ッ!!!」」

 解き放たれるグレンラガン最強の秘技ギガドリルブレイク。今まで、この攻撃に耐えられた敵は、ただの一人もいなかった。
 文字通り一撃必殺の奥の手。ラゼンガンも完全に動きを止め、逃げ場など、どこにもない。
 終わった――
 カミナもシモンも、それを見ていたニアでさえ、そう思った。
 だが、現実は三人の予想を大きく裏切る。

「そんなものか……」
「な――っ!?」

 ギガドリルがラゼンガンを貫くことなく、その腹の位置で完全に動きを止めていた。
 剥がれ落ちた装甲板から現れた巨大な口。やはり、ラゼンガンにもグレンラガンと同じように二つの顔があったのだ。
 その巨大な口でギガドリルは噛み砕かれ、完全に消滅する。

「フ……」

 大きく隙を作ったグレンラガンをそのままロージェノムが見過ごすはずもない。
 グレンラガン目掛けて放たれるラゼンガンのドリル。
 鞭のようにしなり、槍のように鋭いそのドリルは、グレンラガンの四肢に突き刺さり、そのまま大きく壁際へと弾き飛ばす。

「つ……つよい」

 獣人の王――
 世界最強のガンメン乗り――
 ロージェノムの真価を、彼等はその身をもって体験する。





紅蓮と黒い王子 第34話「お爺さん……?」
193作





「あれはっ!?」

 デカブツの頭上に巨大な光の柱が立ち昇る。
 その戦場には大量の肉と血が流れ、ガンメンの残骸が朽ち果て、おびただしい数の死骸が横たわっていた。
 夜が更け始めたにも関わらず、激しさを増し終わることなくその戦いは続いていく。
 すでに人間、獣人、どちらも体力は尽き、彼等を動かしているのはその意志の強さのみ。
 だが、どちらにも負けられない理由。退けない理由があった。
 彼等の後ろにあるものは、たくさんの命。
 共に戦っている者、故郷で帰りを待つ者、家族、友人、恋人、いくつもの思いを背中に背負い戦っている。
 それは人間だろうと、獣人であろうと、違いはない。

「まだ、やれるか? キタン?」
「あ、当たり前だ……」

 他のガンメン乗りも、サポートに徹しているダイガンカイ、ユーチャリスのクルーも全員、疲労の色を隠せないでいた。
 だが、先程デカブツの頂上から立ち上った光の柱。それを見て、アキトに一抹の不安が過ぎる。

「無理を承知で頼みたい。死ぬ気でここを支えてくれ」

 アキトがこんな頼みを、この局面ですると思わなかったキタンは目を丸くして驚く。
 だが、すぐに合点がいく。突入したまま戻らないグレンラガン。そして、先程の光の柱。
 アキトが何をしようとしているのか? どこに向かおうとしているのか?

「たくっ、早く行きやがれっ! テメエなんていなくてもっ」
「「「「「ここは、オレ達だけで、十分だっ!!」」」」」

 いつの間にか、残存していたすべてのガンメンがそこに集まっていた。
 キタンだけじゃない。大グレン団すべてが味方だと言わんばかりに、疲れた身体を奮い起こし、彼等は立ち上がる。

「道はワシらが作るっ、いくぞ! ヴィラル!!」
「おまかせをっ!!」

 白と銀。その二体のガンメンがブラックサレナの前を暴れるように進み、デカブツまでの細い道を作り出す。

「アキト、行きましょう。そして、必ず……帰ってきましょう」
「ああ……」

 静かに呼吸を整え、高くそびえ立つデカブツを見上げるアキト。
 想いは決まった。覚悟は決まった。ならば、やることは後一つだけと自分に言い聞かせ、その手に力をこめる。

「テンカワアキト! ブラックサレナ……出るっ」






 ボロボロに傷つきながらも懸命に戦うグレンラガン。
 ギガドリルも通用しない。経験も技量も相手の方が上。それに、グレンラガンも傷つき、体力も気力もすでに限界。
 まさに絶体絶命の状況にシモンとカミナはいた。
 だが、それでも彼等は諦めていなかった。何故ならば――

「オレ達は絶対にあきらめない……」
「無理を通して道理を蹴っ飛ばす!」
「「それが、オレたちグレン団だっ!!」」

 右のドリルが砕かれれば左のドリルで、そしてまた砕かれれば更なるドリルを。
 二人は決して諦めない。それが、自分達で決めた覚悟だった。

「まだ、終わってねえ!!」

 グレンラガンのドリルが、はじめてラゼンガンの動きを捉える。
 抜き放たれた拳と拳が交錯し、ラゼンガンの攻撃を跳ね除け、その腕ごとグレンラガンのドリルが粉砕する。

「ほう……」

 まさか、ここにきて更に動きが良くなるとはロージェノムも思っていなかった。
 すでに限界に達しているはずの肉体と精神。だが二人は、それを凌駕する気合いでロージェノムを上回った。
 そのままラゼンガンに抱きつく格好で拘束するグレンラガン。

「へっ、捕まえたぜ! シモン――っ!!」

 グレンと離脱し、飛び上がるラガン。シモンとカミナはこの時を狙っていた。
 ラガンインパクトなら、いくらラゼンガンが強かろうとシモンの気合いで逆に乗っ取ることが可能なはず。
 カミナは最後の力を振り絞ってラゼンガンを力の限り締め上げる。

「絶対に離さねえっ」
「ならば、死ね」

 グレンのコクピットを貫くラゼンガンのドリル。
 その一部がカミナの身体をかすめ、破壊された周囲の破片が飛び散り容赦なくカミナを襲う。

「ぐは――っ!!」
「兄貴っ!!」
「い、いけ……シモン。オレたちの……人間の強さを見せてやれ――っ!!!
「ぬうっ!?」

 ラゼンガンのドリルに貫かれ、グレンは半壊。すでにカミナも半死半生の状態のはずだった。
 なのに、いくらロージェノムが力を加えてもグレンは離れない。その拘束を解かない。

「やりおるっ!」

 空からラゼンガン目掛けて迫るラガン。
 ここで、ロージェノムは認めざる得なかった。目の前の敵が、自分の身を脅かすほどの強敵であると言うことを――
 更に巨大な螺旋力を膨らまし、グレンラガンのように全身からドリルを噴き出すラゼンガン。

「ぐは――っ!!」

 グレンはそのままドリルに貫かれ、腕ごと引き千切られて弾き飛ばされる。
 だが、それでもシモンは諦めなかった。
 カミナの作ったチャンスを逃さないため、全力でラゼンガンに突撃する。

「ラガン――」

 光の粒子を放ちながら形状をドリルに変え、まっすぐにラゼンガンに向かうラガン。
 だが、ロージェノムとて黙って見ているはずがない。
 全身のドリルをラゼンガンの左腕に収束すると、巨大なドリルを形成する。

「まさか、ギガドリル!?」
「ギガ、ドリル――」

 ニアの悲鳴にも似た声がラガンに響く。
 それはドリルとドリル。必殺技と必殺技。螺旋力と螺旋力のぶつかり合い。

挿絵「ブレイクゥゥゥ――!!!」
「インパクトォォォ――ッ!!!」

 まさに竜巻。巨大な光の暴風が荒れ狂う。
 二つの力が交錯し、拮抗しあう。

「ぐうううぅぅ……」
「ぬううううぅぅぅ……」

 天井も吹き飛び、壁も床もすべてが空に向かってはがれ落ちていく。

「シモンっ!!」
「ニア……うんっ!!」

 操縦桿を持つシモンの手を握るニア。
 シモンはニアを守ると約束した。ニアはそんなシモンを守ると約束した。
 二人は決して一人で戦ってるんじゃない。その想いも、力も、希望も――
 すべては二人でひとつ――

「ぬうっ!!」

 ラゼンガンのギガドリルに亀裂が走る。
 二人の想いが、螺旋の王の力を上回った瞬間だった。






「シモン、カミナ、ニア……無事でいてくれ」

 その頃、アキトはデカブツの最上部に急ぎ、ブラックサレナを飛ばしていた。
 ずっと感じていた嫌な予感がいつまで経っても消えない。
 それどころか、その不安は徐々に大きなものになっていくのを感じる。
 思い過ごしであればいい。そう思いながらも、アキトは逸る気持ちを抑え、三人のもとへ向かう。
 その時だった――

「な、なんだっ!!」

 ――ドドドドオオオオオオン!!!
 巨大な爆発音がアキトの更に頭上、目的の場所から巻き起こる。
 まるで巨大な隕石でも落ちてきたかのような、物凄い轟音と爆発。
 そこにだれか居たのならチリ一つ残らないだろうと思わせるほどの爆発が起き、大気を揺るがす巨大なうねりとなる。

「アキト、危険ですっ!!」
「くっ、何が――」

 予感とはいつも、悪い方向でよく当たるものだ。



 そこには何も残っていなかった。ラガンもラゼンガンも、そしてグレンの姿もない。
 壁も天井もなく。床は完全に剥がれ落ち、真ん中に巨大な穴を残すだけで他には何も残されていない。
 その光景は、そこで起こった爆発の凄まじさを物語っているようだ。

「くそっ!! 間に合わなかったのか!?」
「アキト、下から……下の階層から微弱ですがエネルギー反応があります」

 サレナの報告を聞いて、慌てて探査レーダーで周囲を調べるアキト。
 たしかに反応があった。とても小さな物だったが、それは間違いなくグレンの識別コードをだしている。
 その反応は部屋の中心、大きな穴の下から出ていた。

「サレナ、いくぞっ」
「はい!」

 まだ、終わっていない。シモンもニアも、そしてカミナも生きているかも知れない。
 一抹の望みを賭け、アキト達は反応のする方へ向かった。






 巨大な穴の底――。その一番奥深い場所に、ラガンとシモンが横たわっていた。

「ううぅ、ここは……ニア……ニアは!?」

 目が覚めたシモンはニアの姿を探す。だが、ラガンのコクピットにその姿はなく、周囲にもニアらしき姿はない。
 途中で投げ出されたのだとしたら、どこかに閉じ込められている危険や怪我をしている可能性もある。

「兄貴とも連絡がつかない……」

 ラガンの通信機器は完全に壊れていた。
 どうにか動かすことは出来るが、すでに戦闘に耐えられるとも思えないほど傷ついている。
 しかし、シモンはとにかくニアを捜すことにした。
 あの爆発の中、ロージェノムも無傷とは思えない。
 だが、今すぐに襲っては来なくても、早くニアやカミナと合流しなくては、いつロージェノムとまた戦闘になるかわからない。
 もし、二人が先にロージェノムと遭遇していたら――
 嫌な考えを振り払い、シモンはラガンに乗り、崩れたデカブツの内部を進む。
 どれほど落ちたのかはわからないが、今のラガンではその大穴を飛んで登ることは出来そうになかった。

「広すぎるよ……どっちにいけば……」

 デカブツの中はシモンが思っているよりもずっと広大だ。
 王都の中枢を担っていたその大きさは伊達ではない。軽く街の二つや三つ、その中に収まってしまうほどの大きさを持っていた。
 シモンは勘を頼りに進もうとするが、依然として同じような場所をぐるぐると回るばかり。
 こうしている間にも時間は過ぎていく。それがシモンを焦らせていく。
 さすがに体力も限界にきて「一休みして呼吸を整えよう」とシモンが動きを止めた時だった。

「お爺さん……?」

 シモンの目の前に白髭白髪の老人が立っていた。
 後ろの方の道を指差すと、シモンの方を見てそちらの方に歩き出す。
 まるでついて来いと言っているようだった。
 普通なら怪しい。敵の罠かも知れないと考えるところだが、不思議とシモンはその老人を信じる気持ちになっていた。
 その老人から、何故か懐かしい匂いがしたのだ。

「お爺さん……ニアのいるところを知ってるの?」
「…………」

 老人は無言で頷く。そして、そのままその道を先導して歩き出した。
 理由はわからないが、この老人はニアの敵じゃないとシモンは確信する。

「待っていて、ニア」

 老人の後を追いかけるシモン。二人は、デカブツの奥へ、奥へと向かっていた。



 デカブツの最深部。空に向かって延びる三角錐の部屋に巨大な試験管のような物が並べられていた。
 その一つ一つにはまだ成熟していない獣人の姿や、ニアに似た少女の姿が見られる。
 そこは、このデカブツのメインコンピューターがある場所、そしてニアや獣人を生み出したロージェノムの研究施設がある場所だった。
 まさに、この世界の中心とも言うべき場所に一人の男がたたずむ。

「よもや、これを使うときが来ようとは……」

 ロージェノム――。
 その男は、部屋の最奥、巨大な螺旋コンピューターの前に立ち、物凄い速度で目の前の機械を操作していく。
 そして、ロージェノムの頭上、コンピューターの中枢には先程シモンたちが戦っていたラゼンガンの姿と――

(シモン……)

 丸い球体――緑色に輝く液体の中に入れられたニアの姿があった。





 ……TO BE CONTINUED









 あとがき

 193です。
 アキトの予感は最悪のカタチで訪れます。
 遂に牙を向く、ロージェノムの秘策。
 シモンはカミナは、そしてアキトに勝ち目はあるのか?

 次回は、ロージェノムの最後の足掻き。それはシモンに迷いと、アキトに最悪の選択を迫る。

 紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。




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