【Side:太老】
結局、ミサカを放り出す訳にも行かず、アパートに連れて帰る羽目になった。
あそこでミサカを放り出せば、間違いなく実験が再開され、ミサカは一方通行に殺されることが分かっているからだ。
そんなことになったら、色々と寝覚めが悪すぎる。
フェミニストと言う訳ではないが、さすがに女の子を見捨てられるほど鬼畜な性格はしていない。
「美味いか? まあ、コンビニ弁当で悪いけど我慢してくれ」
「何の捻りもない単調な味付けの弁当ですね。でも、意外とイケマス、とミサカは率直な感想を述べてみます」
「その感想、率直過ぎるだろ!」
美味いかと感想を求めた俺も俺だが、人様の金で晩飯を食っておいて、何と言うマイペースな発言。
いや、これもミサカだからか。何となくしか覚えてないが、何か、そう言う奴だった気がする。
でも、こんな奴が二万人もいるんだよな。しかも、ただ一方通行に殺されると言う実験のためだけに。
考えると、ちょっと胸糞の悪い話だ。さすがの鷲羽も、ここまで非人道的なことはしなかった。
時々と言うか、実際はかなり理不尽なのだが、自分が面白がっても外道な行いなど、基本的に曲がったことは決してしない。
それに鷲羽のやることには、後できちんと納得できる理由がある。
でも、この学園の奴等がやっている実験だけは、俺は納得できそうにない。これは狂気の沙汰の実験だ。
同じ人間の行いとは思えない。いや、人間だからか? 一つ言えることは、この実験を考えた奴等はどこか狂っている。
どちらにせよ、自分から率先して関わるつもりはなかったが、こうして拾ってしまった以上、このミサカの面倒は俺が見るしかない。
「ジッと見てもあげませんよ? とミサカは訴えます」
「いらんわ! と言うか、よく食うな……。幕の内弁当にフライドポテト、更にはコロッケまで」
「施設での栄養摂取は、錠剤と点滴だけだったので、食べると言う行為に興味があるだけです、とミサカは弁明します」
どう考えても食いしん坊なだけだと思うが、そう思われたくはないらしい。
こんな醜態を晒しても尚、なけなしの女のプライドでも働くのだろうか?
そう言えば、このミサカ、どこかおかしい。
俺が美琴と彼女を見間違えたのは、この美琴と瓜二つの容姿と常盤台中学の制服にあるのだが、何かミサカと美琴を見分ける方法があったような、なかったような気がするのだが。
「あ! お前、いつも額に付けてる軍用ゴーグルどうしたんだ? あのゴツイ奴」
「無くしました。そして探している内に実験の時間になっていました、とミサカはありのままの事実を説明します」
何だ? このウッカリさん。と思ったが、何やら、真剣な面持ちで弁明してくるミサカ。
ミサカの補足説明によると、とても可愛らしい子猫が居たらしい。
しかし、自分は微弱な電磁波を発しているため、子猫に触れることが出来ない。
でも、そこに子猫を放っておくと、衰弱して死んでしまうかも知れない。
施設には連れて行けないし、誰かが拾ってくれないか? どうしよう? どうしよう? と思い悩んでいる内に、通りかかった親切な老人が子猫を拾ってくれたらしく、礼を言って駅で別れたところで、
「ゴーグルがないことに気付いたと」
「頭から外して手に持っていたので、どこかに置き忘れてしまったのかと思い、ミサカは必死に探しました」
「でも、なかったんだよな?」
「はい、誰かに拾われてしまったのかも知れません、とミサカは熟考した上で推測を立てます」
子猫を大切にするのは良いことだと思うが、やっぱり、このミサカはどっか抜けている気がする。
うっかりミサカか。ああ、だから見分けがつかなかったんだな、と俺は何度も頷き納得した。
「ですが、何故、あなたがミサカのゴーグル≠フことを知っているのですか?
とミサカはそのことを非常に疑問に思い、問い掛けてみます」
あ、うっかりは俺もだったらしい。
【Side out】
異世界の伝道師外伝
とある樹雷のフラグメイカー 第9話『うっかりミサカ』
作者 193
【Side:ミサカ】
ミサカが実験場に戻ろうとすると、『マサキタロウ』と名乗った男は『行くな、行けば殺される』とミサカに命令しました。
しかし、ミサカはそのために作られました。実験を放棄すると言うことは、ミサカの存在意義に関わる重大な問題です。
なのに、彼はミサカを行かせてくれませんでした。
強引にミサカの腕を掴み、コンビニで買い物を済ませたかと思えば、自分のアパートにミサカを連れ込んでしまいました。
そう、ミサカは、こう言うのを何と言うか知っています。
「ミサカはお持ち帰り≠ウれたのですか? とミサカは不安げに問い掛けてみます」
「偏った知識を披露するな!」
こうしてマサキタロウにお持ち帰り≠ウれたミサカは、差し出された微妙に濃い味のコンビニ弁当を、物珍しそうに食していきます。
実際、ミサカには初めての体験≠セったので、色々と興味深かったのです。
「美味いか? まあ、コンビニ弁当で悪いけど我慢してくれ」
「何の捻りもない単調な味付けの弁当ですね。でも、意外とイケマス、とミサカは率直な感想を述べてみます」
「その感想、率直過ぎるだろ!」
美味いか? と聞かれたので、素直な意見を述べたと言うのに、マサキタロウは自己中心的過ぎます。
美味しいものとは思えませんが、まずくもありません。食べるという行為自体が新鮮で心がワクワクした、とミサカは補足しておきます。
何故か、マサキタロウは疑わしい目をミサカに向けていましたが、失礼極まりありません。
決して、ミサカが食いしん坊と言う訳ではない、とミサカはここに弁明しておきます。
「あ! お前、いつも額に付けてる軍用ゴーグルどうしたんだ? あのゴツイ奴」
「無くしました。そして探している内に実験の時間になっていました、とミサカはありのままの事実を説明します」
気付いたら無くなっていたのは嘘ではありません。
子猫が気になって気になって、その場から離れられなくなっている内に、気付けば時刻は夜になっていました。
見知らぬお爺さんが親切に声を掛けてくれて、子猫は無事に保護され、ミサカは丁寧にお爺さんお礼を言いました。
しかし、気がつけば手に持っていた軍用ゴーグルが無くなっていたのです。
正直、ミサカは焦りました。困りました。あれがないと、ミサカは電子線や磁力線を目で追うことが出来ません。
実験もあると言うのに、思わぬ出来事、著しい戦闘力の低下です。しかも、気付けば時刻は実験の十五分前。
時間にだけは遅れる訳にはいきません。結局、ミサカはゴーグルを諦め、実験場に向かったと言う訳です。
「ですが、何故、あなたがミサカのゴーグル≠フことを知っているのですか?
とミサカはそのことを非常に疑問に思い、問い掛けてみます」
とは言え、マサキタロウが何故、そのことを知っているのか?
ミサカには、そのことが不思議でなりません。
ミサカが問い掛けると、視線を横にずらし、困ったような表情を浮かべるマサキタロウ。
その姿は、不審者以外の何者でもありませんでした、とミサカはここに報告しておきます。
【Side out】
【Side:太老】
何とか様々な言い訳の末に、ミサカを誤魔化した、もとい納得してもらった俺は、取り敢えず寝床の準備をすることにした。
ミサカのことは気になるが、こっちは明日も仕事だ。時刻は、すでに深夜の一時を回っている。
さすがに、そろそろ寝ないと明日に響く。布団は残念ながらワンセットしかないので、ミサカに布団をやって俺は毛布に包まって寝ることにする。
この真夏真っ只中の七月中旬に、毛布一枚だからと言って、風邪引くようなことはないだろう。
それにこう見えて、生まれ変わってから今まで、風邪一つ引いたことが無いのが俺の自慢だ。
深夜や朝がよく冷える山篭りでも、難なく野宿できていた俺だ。雨風さえ凌げるのであれば、実際、何とでもなる。
「…………」
「どうした、ミサカ?」
「いよいよ、ミサカを美味しく頂く気なのですね、とミサカはこれから起こることに不安を抱きつつ邪推してみます」
「するか! お前はこっち、俺は向こうで寝る!」
ミサカに布団で寝るようにと指差して、俺は部屋の隅で毛布に包まってストンとその場に座る。
どこで、こんな偏った知識ばかり取得してくるんだ?
これまでの姉妹の影響か、こいつが特殊なのか、ああ、何かこいつが特殊な気がしてきた。
ゴーグルを無くすわ、人の分の弁当まで食うは、どこか変な奴だもんな。
うん。このミサカが特殊なんだと、俺は納得することにした。
どちらにせよ、もう一方通行に会うこともないのだし、後にも先にも、ミサカに会うのはコイツだけだろうから、確かめようがないのだが。
「どうした? 寝ないのか?」
いつまで経っても、布団に入って寝ようとしないミサカを不思議に思い、俺は訝しい表情を向けながら彼女にそう言う。
「……分かりません。あなたは優しいのか、優しくないのか、変態なのかすら、ミサカには理解不能です」
変態は余計だろうと取り敢えず、心の中でツッコミを入れておく。
本当、無駄にあれこれと考えすぎる奴だな。かと思えば、殺されるのが分かってて態々、『実験場に戻る』なんて言うし、俺から言わせれば融通の聞かない只の馬鹿だ。
大体、こっちは無茶して助けてやったというのに、別に恩を着せるつもりはないが、もう少し気遣って欲しいと思う。
「あれこれ考えてないで寝ろ。それにあなたとか、お前じゃなくて、俺は太老だ」
「マサキタロウ……タロウ?」
「助けてやったんだ。名前くらいは、ちゃんと覚えてくれ。
んじゃ、俺は寝るぞ。おやすみ、ミサカ=v
本当に良く分からない奴だ。
俺がコテンと横になり毛布に包まると、ようやく布団に入ったようで、ゴソゴソと言う物音が聞こえる。
ミサカの件は明日、仕事が終わったら、ゆっくり考えることにしよう。
そう思い、俺は目蓋を閉じ、床についた。
【Side out】
【Side:ミサカ】
本当によく分かりません。
ミサカを何故、ここに連れ込んだのか? ミサカに行くなと命令したのか?
マサキタロウは、ミサカにとってよく分からない意味不明な存在です。
やはり、ミサカはお持ち帰り≠ウれたのかと思い、そのことを問い掛けても、
「いよいよ、ミサカを美味しく頂く気なのですね、とミサカはこれから起こることに不安を抱きつつ邪推してみます」
「するか! お前はこっち、俺は向こうで寝る!」
完全否定されました。これは喜ぶところなのか、悔しがるところなのか、ミサカにはよく分かりません。
ミサカは、学習装置によってインストールされた情報の他に、ミサカネットワークによって繋がっている姉妹達と情報を共有することで、様々な記憶や知識を得ています。
故に知識としては知っていても、ミサカには実際に経験≠ェないため、それがどう言ったものなのかと言ったことが、正確に理解できない時があるのです。そう、今回のように。
「どうした? 寝ないのか?」
マサキタロウの存在は、そんなミサカにとって、不可解でならなかった。
自分は部屋の隅で毛布に包まって、ミサカには布団で寝ろと言う。
この部屋はマサキタロウの部屋、ここはマサキタロウの家、そしてこの布団はマサキタロウの布団。
「……分かりません。あなたは優しいのか、優しくないのか、変態なのかすら、ミサカには理解不能です」
これは素直な疑問だった。
マサキタロウは微妙な表情を浮かべているが、ミサカにとっては由々しき問題なのだ。
ミサカを強引に連れ込み、ミサカをこれだけ悩ませておいて、困った顔をされると言うのは、ミサカとしても不愉快でならない。
マサキタロウは何を思って、何を考え、どうしてこんな行動に出ているのか?
ミサカは、ただ簡潔に説明を求めているだけなのに、マサキタロウは面倒臭そうに、はぐらかすばかり。
「あれこれ考えてないで寝ろ。それにあなたとか、お前じゃなくて、俺は太老だ」
「マサキタロウ……タロウ?」
「助けてやったんだ。名前くらいは、ちゃんと覚えてくれ。
んじゃ、俺は寝るぞ。おやすみ、ミサカ=v
そう言って、マサキタロウはコテンと横になり、毛布に包まった状態で寝てしまった。
ミサカはマサキタロウに助けられた。確かに、あそこで彼が来なければ、ミサカは死んでいた。
でも、ミサカは何も頼んでいないのに、ミサカはあそこで死ぬ≠ヘずだったのに、ミサカの代わりなんて幾らでもいるのに――
ただの模造品に過ぎないミサカを、何故、マサキタロウは助けようと思ったのか?
一方通行は学園第一位の能力者。
そんな相手の邪魔をすれば、殺されるかも知れないのに、彼は迷わずミサカを助けた。
正直、ミサカには理解不能な行動だった。でも――
「おやすみなさい……タロウ」
とミサカはタロウの名前を素直に口にしてみる。
タロウに『ミサカ』と呼ばれた時、いつもと違う何かを、感じたような気がしていた。
【Side out】
……TO BE CONTINUED
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