【Side:一方通行】
「オイオイオイオイ! 何だってんだァ!? この化け物は!」
「知らないわよ! アンタも助けに飛び出してきたのなら、何か手はないの!?」
「無茶、言うんじゃねェよ! くっ、きたぞ!」
あの光の帯のような攻撃。驚くべき事に奴のあの光には、俺の反射≠ェ一切通用しなかった。
しかも、向こうの攻撃は一方的に通るが、こちらの攻撃は一切通用しない、という出鱈目さだ。
これまで俺の専売特許だったはずの戦い方を模倣されているような、そんな嫌な感じだった。
「超能力者か。電撃にベクトル操作、確かに面白い力だがそれだけだ。我から見れば、手品と大差はない」
「あン!? なんだと、てめェ!」
能力を手品扱いされたのは、これが初めてのことだ。しかし、強がっては見ても打開策が見当たらない。
あの光の帯はそこに存在するはずなのに、一切、知覚や認識が出来ない。
光、熱、電気、あらゆる運動量とエネルギーを観測しようとするが、あれにはそもそもそう言った認識出来る物理法則≠ェ存在しなかった。
いや、そもそも目の前に存在するはずなのに、俺は奴自身を見ることが出来ても観測出来ていない。
その場にいるはずなのに、いないような感覚。これが、どれほど異常なことか。科学者を名乗る者ならば、その異常さが分かるはずだ。
「その余裕一杯のツラを、直ぐに吹き飛ばしてやる! おいッ、女! 俺様に攻撃を合わせろ!」
「あー、もう! 私に命令するんじゃないわよ!」
俺は両手を空に広げ、風向きを操作することで一箇所に、圧縮、圧縮、圧縮――――吹き荒れる暴風の中、眩い白光が生まれた。
「嘘っ、プラズマ!?」
超電磁砲が声を上げ、驚いている。
そう、俺の頭上百メートルほどの位置にあるのは、風向きを一箇所に集め、空気を圧縮することで作り上げた人工のプラズマ。
極度の圧縮率で凝縮された空気は摂氏一万度を超える高熱の塊と化し、大気中の『原子』を『陽イオン』と『電子』へと分解し、巨大なプラズマへと変貌させる。
直径二十メートルほどに成長したそれは、目の前の敵を焼き尽くすためだけに作り出された破壊兵器だった。
これはもう、人間に防げる一撃ではない。大気に触れ、風を操作することで作り上げたこの一撃は、あらゆる物を焼き尽くし、溶かし、消滅させる極限の力だ。
あの正木太老に勝つために考え、取っておいた俺の秘策。
こんなところで使う事になるとは思っていなかったが、このくらいしないことには目の前の奴に勝てるとは思えない。
「もう、どうなってもしらないわよ!」
超電磁砲も覚悟を決めたのか? 体中から電気を迸らせ、全身にこれまで以上の、とてつもない電気量を集中させる。
まさに、そこに集められている電気は、雷の一撃に匹敵するほど、強大な力だった。
奴自身が、雷の化身、と言っても差し支えないほどの力だ。
超能力者――確かに、俺と同じように、そう呼ばれるだけの力を秘めているようだった。
「コイツで――」
「――終わりよ!」
二人の超能力者の手を離れ、目の前の敵へと放たれる極限の力。
瞬間――光は周囲の物体を呑み込んだ。
【Side out】
異世界の伝道師外伝
とある樹雷のフラグメイカー 第34話『二人の超能力者』
作者 193
【Side:黒子】
「何ですの!?」
突如、まるでミサイルでも落ちたかのような衝撃が、学園都市を襲った。
光り輝くその視線の先、そこは先程までわたくし達≠ェ居た方角だ。
「お姉様!?」
直ぐに、私の脳裏にお姉様の姿が過ぎった。
こんなことが可能な人物、あの場にはお姉様を置いて他にはいない。
もしくは、あの長身の女が何かをしたか、だ。
「――サカはミサカは助けてって叫んでみたり!」
そんな時、光を中心に外側に吹き荒れる暴風に吹き飛ばされ、電柱に必死に飛ばされまいとぶら下がっている女の子を見つけた。
間違いない――あそこにいるのは、打ち止めだ。
「全く、世話が焼けますわね」
そう言いながらも、私は空間移動で打ち止めの側まで移動すると、自分も吹き飛ばされないように重心を低くして、彼女の腕を掴む。
「へ?」
「静かに、舌を噛みますわよ」
直ぐに、風の影響を受けない近くのビルの陰に空間移動をした。
どうにか一息ついて、その場にへたれ込む打ち止めとわたくし。
背中に抱えていた佐天さんを、路地の壁際にそっと寝かせる。
「あ、ありがとう、命拾いした、ってミサカはミサカは感謝してみる」
「はあ……それは構いませんけど、何故、あんなところに?」
先程から街中では避難勧告がずっと鳴り響いていた。
その所為で、今やこの街の中心部は人気がなく、ゴーストタウンさながらの様子を形容している。
それが、よりにもよって街から離れるのならいざ知らず、こんな街中をウロウロしているのなど、自殺志願者もいいところだ。
「ミサカじゃ、一方通行とお姉様の役には立たないから、マスターを呼びに行こう、と思って」
「一方通行? あそこに一方通行もいるんですの?」
「うん……でも、あの二人でも多分勝てない、と思う。あれは人間を遥かに超越した別の存在だって、ミサカはミサカは思い出しながら述べてみる」
「人間を……超越した?」
確かに、あれを人と呼ぶには些か無理がある例えだと、私も思う。
彼女に対峙した時、わたくしは一瞬で、自らの敗北を覚悟せざる得なかった。
それほど、絶望的な力の差が、彼女とわたくしの間にはあったからだ。
それは、超能力者であるお姉様も変わらない。
あの相手には、能力という概念、この世界の物理法則が一切通用しないような、そんな不思議な感覚を覚えた。
「太老なら、勝てるんですの?」
わたしくもそれを考えた。だから、佐天さんを連れて逃げ、太老の姿を捜していたのだ。
しかし、打ち止めには悪いが、幾ら太老でも、あの相手に勝てるとは到底思えない。
お姉様、そして一方通行、超能力者が二人掛かりで足止め程度にしかならない相手を、幾ら太老とは言え生身でどうにかなるとは――
「分からない……でも、マスターと同じような感覚を感じた、ってミサカはミサカは説明してみる」
「太老と同じような感覚?」
「何て言ったらいいのかな? 匂いって言うか、雰囲気っていうか……マスターと同じ不思議な感じがした、ってミサカはミサカは述べてみる」
太老と同じ……それを聞いた時、わたくしもどういう訳か、打ち止めの言葉を信じられるような気がした。
確かに、あの常識外れな部分は、太老と酷似しているところがある。
それに、あの長身の女は、確かに太老の名前をだした。それも、捜しているような様子だった。
考えられることは、二人は顔見知りだと言うことだ。
学園都市に現れるまでの、太老の過去は一切謎に包まれている。
そこに、彼女と太老の関係を知る鍵があるのだとわたくしは考えた。
この状況を打破出来る人物が居るとすれば、同じく彼女のことを知る太老以外にないのかもしれない、とも。
「分かりました。では、太老を捜して――」
「あっ、マスター!」
「え?」
気付けば、外の風は止み、街に再び静かな静寂が戻っていた。
そんな中、ビルの上を飛び跳ねながら、物凄い速度で先程の光が出ていた方角に向かっていく男。
間違いない――打ち止めが言うように、それは太老だった。
「あの方角は……捜すまでもなかったようですわね」
学園都市の異常に気付き、この事件を解決するために元凶に向かっているのだと、わたしくしは推察した。
何の力にも成れず、また太老を頼ることしか出来ないことが悔しい。打ち止めの言葉通り、今は太老を信じるしかない、その現実が悔しく、悲しかった。
今は、力が欲しいと思う。太老を、お姉様を助けられるだけの力が。
佐天さんや、幻想御手を使った人達は、皆、こんな思いを抱いていたのだろうか?
と、ふとそんな疑問が頭を掠めた。
「打ち止め?」
不安に駆られ、唇を噛み締め、体を小刻みに震わせるわたくしの手を――
突然、握ってきた打ち止めの行動に、わたくしは動揺を見せる。
「後悔するくらいなら、行った方がいいと思う、ってミサカはミサカは忠告してみる」
「……後悔?」
打ち止めの言葉は、わたくしの胸に深く突き刺さった。
後悔――それが全くないか、と問われれば、ないと言える自信が今のわたくしにはない。
「力のあるなしじゃない。自分に何が出来るか、とかじゃなくて、本当に大切なことは何をしたいか≠セ、ってマスターは言ってた」
「……何が出来るか、ではなく、何をしたいか」
「ミサカもそう思う。ミサカは、お姉様も大切だし一方通行のことも同じくらい大事。
でも、ミサカには戦えるだけの力がないから、マスターに頼ろうとした。
マスターなら、何とかしてくれる、ってミサカはミサカは信じてるから」
「わたくしは……」
「マスターはミサカや、他のミサカ達、皆を助けてくれた。
ミサカ達は、一度マスターに命を助けられてるから、生きてて楽しい、って思える人生を与えてもらったから、ミサカはマスターのことを信じてる」
打ち止めの言うとおり、太老はこれまで大勢の人達を救ってきた。
その中に妹達や、そしてわたくし達も含まれていることくらい、わたくしも知っているし、感謝している。
だからこそ、今度も頼らなければ、何一つ出来ない自分が悔しかったのだ。
「黒子はマスターの力になりたいんでしょ? だったら、好きにすればいいと思う」
「でも、わたくしが行ったところで足手まといにしか!」
「マスターなら、きっと守れると思う。黒子のことも、一方通行やお姉様、この学園都市に住む人、皆を――」
打ち止めのその言葉には強い意志が籠められていた。
彼女は確信しているのだ。太老なら、どんな困難な状況でも、例え夢を見るような可能性であっても、きっとなんとかしてくれる。
そう、彼女は信じて疑わなかった。
そして、きっとそれは、わたくしも――
「佐天さんのこと、お願い出来ますか?」
佐天さんを打ち止めに託し、元来た道をわたくしは振り返る。
そう、太老がわたくし達を守ってくれるように、わたくしは太老を守りたい。
たった一人、いつも全てを一人で背負い込み、孤独に戦い続けている彼の重荷を、ほんの少しでも分かち合うことが出来れば。
「行ってきますわ」
ただあるのは、大切な人達を――
この世界で最も大切な人を守りたい、助けになりたい、というそんな想い。
先程の震えが嘘のように、死ぬかも知れない、そんな恐怖は微塵も頭を過ぎらなかった。
【Side out】
【Side:初春】
学園都市中のネットワークが、強力なウイルスに侵され、都市機能の殆どを麻痺させていた。
この状況では、幻想御手の治療プログラムを、学園都市中に放送することなど出来るはずもない。
「事情は大体分かったけど……白井さんといい、あなたといい、あなた達の先輩をやるのも楽じゃないわね」
「すみません。でも、これしか方法がなくて」
そこで、多少時間と手間は掛かるが、私が考えた作戦はこうだ。
風紀委員の力を借り、コピーした治療プログラムのデータを、拡声器などを使って人力で散布する。
ネットワークに通じた学園の設備を使えない以上、方法はこれ以外にない。
今は、一刻も早く幻想御手で昏睡状態となった人達の、目を覚ませることの方が優先された。
「本当なら、風紀委員の先輩として怒るところなんでしょうけど、警備員から彼女を捕らえるように協力要請が出ている訳でもなく、この騒ぎで上との連絡は取れない、とくれば、私達は何も知らなかった。街の風紀と治安を守るために最善を尽くしただけ、って弁明も出来るしね」
「あ、ありがとうございます!」
最初は、木山春生を連れて、こんなお願いに現れた私のことを、訝しい表情で見ていた先輩だったが、必死に頭を下げて頼み込むと『やっぱり白井さんの相棒ね』と言って、私の頼みを引き受けてくれた。
何だか腑に落ちない納得のされ方だったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
携帯で連絡を取り合い、何とか集めることが出来た風紀委員の委員達に、コピーした治療プログラムの入ったメモリを配り終え、後は病院や避難箇所、そして学園都市中を巡って治療プログラムを流すだけ。
こうしている間も、何かよくないことが、この学園都市で起こっていることは間違いない。
そして、木山春生の言うように、それは幻想御手に深く関係していることは、疑いようのない事実だった。
「あれは……」
「どうしたんですか? 早く車に――」
木山春生が見詰める先には、暗い空の下、闇を照らす白光の姿があった。
ここからは随分と離れている。だが、あの方向と位置には見覚えがある。
そう、私達の中学の近く、佐天さんの寮がある辺りだ。
「佐天さん……」
私は、佐天さんの無事を確かめに行きたい気持ちをグッと堪える。
この治療プログラムが行き渡れば、佐天さんも必ず目を覚ます。
そう、今は自分に言い聞かせて――
「大丈夫。彼が、何とかしてくれるはずだ。尤も、私の勘≠セがね」
「……科学者が、勘に頼っていて大丈夫なんですか?」
「違いない。だが、そうさせたのは他ならぬキミ達だ。『信じろ』――そう言ったのも彼だしね」
「……ですね。行きましょう、正木さんにばかり頼ってもいられません」
そう、今は――この学園都市を守るため、自分に出来る最善を尽くすだけだ。
【Side out】
……TO BE CONTINUED
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