【Side:一刀】

 諸葛亮ちゃんに頼まれたお願いとは関羽さんの事だった。

「……ううん。本当に俺にどうにか出来るのか?」

 ある程度の事情は諸葛亮ちゃんに聞かせてもらったけど、赤の他人に過ぎない俺に関羽さんの問題をどうにか出来るとは正直思えない。
 天の御遣いに俺を祭り上げたいと思う関羽さんの考えは分かったけど、幾ら当事者だからと言って関羽さんの問題は彼女自身の問題であって俺がどうこう出来るような話でも無い気がしたからだ。
 俺よりもずっと付き合いの長い諸葛亮ちゃんにどうにも出来なかった事を、俺なんかがどうにか出来るとは到底思えない。
 それは当然、諸葛亮ちゃんにもはっきりと俺の考えを伝えた。しかし返ってきた答えは――

『北郷さんはいつものように北郷さんらしく振る舞って頂ければ、それで十分ですから』

 黙って巻き込むような真似をしたくなかったから事情を話しただけで、特に何かをして欲しいという話では無かった。
 お願いとは、事情を知ったからと言って態度や考えを変えない事、関羽さんにも普通に接して欲しいという事だけだった。
 それはそれで期待されているのか、期待されていないのか、判断に困る内容だ。
 どうにも諸葛亮ちゃん個人の考えとしては、俺に関羽さんの考えに同調して欲しく無いらしい。
 まあ、元より天の御遣い代行なんて役目が自分に務まるとは考えていないので、それはそれで構わないのだが。
 とはいえ、一番の問題は――

「原因は言うまでも無く、ここに居ないあの人だよな」

 俺はなんで人の色恋沙汰に巻き込まれているのか。その事に疑問を持ち、腕を組み首を傾げるばかりだった。
 原因となっている天の御遣い、正木太老。当人がここに居れば、簡単に解決する問題のように思える。
 ようは関羽さんは主である劉備さんとのすれ違いに思い悩んでいるとの話だが、諸葛亮ちゃんの話を簡単にまとめると劉備さんは御遣いさんの事が好きで、関羽さんは劉備さんの事が好きと。

「これって傍から見ると、三角関係以外のなんでもないよな……」

 理想とか難しい話や彼女達の過去に何があったかは分からないけど、大好きな人が別の人に惹かれていて良い気がするはずもない。
 男が出来て変わっていく姉を見たくないとか、複雑な心境を抱えている妹って例えの方が正しい気もするが、事情を詳しく把握し切れていない俺からすると嫉妬から来る物のように思えてならなかった。

「やっぱり、どう考えても惚気話にしか思えない……」

 余計話がややこしくなる可能性は否めないが、当事者同士で解決させた方が早いような気がした。
 第一、イケメンやモテる男に同情の余地は無い。璃々ちゃんの父親で黄忠さんと良い仲の癖して、その上あの癒しおっぱい……劉備さんにまで愛されてるって妬みを通り超して殺意すら湧いてくる訳だが……。
 冗談抜きで羨ましい。なんて、世の中は不条理に出来ているんだ。その幸せをほんの少しでいいから俺にも分けて欲しいくらいだ。
 と、愚痴を溢しても始まらない訳だが……。結局、事情を知ったところで、俺の方から特に何か出来る事は無いという結論しか出なかった。

「まあ、難しく考えるだけ無駄だな。なるようになるか……」

 それよりも、俺には他にやるべき事がある。まずは当初の目的である薬の材料費を稼ぐ事が最優先だ。
 薬の材料費は諸葛亮ちゃんにざっと諸経費を見積もりしてもらっただけでも、かなりの金額だった。どうしてもというので御言葉に甘えて半分は諸葛亮ちゃんに持ってもらう事になったが、残りの半分だけでもちょっとやそっと働いたくらいで返せるような金額では無かった。そのため、出来るだけ割の良い仕事を選択する必要性があった。

 商会が募っている義勇軍に参加する事を決めたのも、手っ取り早く薬の材料費を稼ぐためだ。
 分割払いにしてもらったところで、俺が稼げる金額なんて高が知れているし何十年ローンになるか分かった物じゃない。
 その事を考えれば、一番都合が良いのが義勇軍の存在だった。特別手当や報償を含めれば、危険ではあるが普通に働くよりずっと効率がよい。
 打算的と言われてしまえばそれまでだが、当初の目的を考えれば俺にとっては何よりも重要な事だ。

 それに義勇軍に志願したのには、もう一つ理由がある。
 ちっぽけなプライドや意地と言ってしまえばそれまでではあるけど、諸葛亮ちゃんのような小さな女の子や劉備さんのような女性が戦場に行くのに、俺一人だけが平和な場所で安穏としているというのが嫌だった。
 兵の指揮が執れる訳でもなく、武芸に特化している訳でもない。与えられた仕事は諸葛亮ちゃん達、軍師の補佐や文官の真似事とは言っても、どれだけ自分の力が役に立つか分からない。
 でも、戦いが嫌だ、人を殺すのが嫌だ、などと喚いていても何も始まらない。甘えてばかりもいられない。
 俺にも何か出来る事があるのなら、自分の出来る事を少しずつでもやっていきたいと考えていた。

 一先ずの目標は薬の材料費を稼ぐ事。そして今は少しでも経験を積む事だ。
 普通に平和に暮らすだけなら戦いになど行かず、このまま商会で細々と働くのも選択肢の一つではあるが、もう一つの旅の目的を考えるとそうも言ってはいられない。実際のところ、戦場に行く前から武者震いはするし恐いしで不安で一杯ではあるのだが、機会が目の前にあるのなら恐れずに一歩を踏み出す事も大切だと俺は考えた。
 それに、やはり自分が恐くて嫌だと思う事を女の子達だけに背負わせたくはない。男の悲しい性。所謂、やせ我慢という奴だ。

「あっ、そう言えば鳳統ちゃんにあれから会ってないな」

 そうこう考え事をしながら荷造りをしていると、鳳統ちゃんに本を返しそびれたままだった事を思い出した。
 仕方の無い事とはいえ、寝台の下にやおい本を隠すといった状況は、そろそろ勘弁して欲しい。
 誰かに見つかりでもしたら、きっと俺は立ち直れない。エロ本を発見されるよりも遥かに嫌だった。

「早めに返して置かないと、義勇軍に参加したら帰ってくるのが何ヶ月先になるか分からないしな」

 思い立ったら吉日とも言う。本を風呂敷に包み、鳳統ちゃんを探して部屋を出た。
 あれだけ目立つ服装だ。誰かに訊けば、居場所くらい直ぐに分かるだろう。

【Side out】





異世界の伝道師外伝/天の御遣い編 第57話『北郷一刀』
作者 193






【Side:風】

「あわわ……本当に私で良いんですか? 風さんや稟さんも行きたいんじゃ……」
「お兄さんだけで無く、風や稟ちゃんまで抜けたら商会が機能しなくなりますしねー」
「ええ。太老様の留守を守るのも立派な務めです」

 雛里ちゃんにお願いしたのは、義勇軍の軍師として同行する事と凪さん達の舵取りでした。
 商会から参戦するのは劉備さんが元々連れてきていた義勇軍と、有志を募って集まった商会の団員の混成部隊。
 前者は劉備さんと孔明ちゃんだけで大丈夫としても、後者は凪さん、沙和さん、真桜さんを始めとした癖の強い自警団の面子。
 定石から外れたあの人達を、幾ら有能だと言っても付き合いの浅い孔明ちゃんでは上手く使いこなせるか分かりません。
 そこで私達と比較的付き合いが長く、時々自警団の調練にも参加して癖を把握している雛里ちゃんにお任せする事にしたのです。

「それに雛里。あなたは諸葛亮と知らない仲ではありませんし、今回の任務には適任でしょう」

 稟ちゃんの言うように、彼女が孔明ちゃんと知り合いと言うのが抜擢の大きな理由にありました。
 凪さん達の事をよく知っていて、尚且つ孔明ちゃんと顔見知りで適役なのは彼女を置いて他にいません。
 それに何事も適材適所。商会の仕事では私達に一日の長がありますが、軍師としての才能は風達では雛里ちゃんに敵いません。
 雛里ちゃんの参加した演習の様子を見たり、何度か象棋盤(しょうぎばん)で対決した事がありますが、その先読みの深さには正直脱帽の一言でした。

 風や稟ちゃんが五手先を読めば、雛里ちゃんはその倍、十手先を読んでくる。その読みの深さは、まさに神算と言っても過言では無い物でした。
 華琳様のところの桂花さんや、劉備さんのところの孔明ちゃんの実力も大体は把握していますが、風や稟ちゃんを含め、こと戦略という面に置いては雛里ちゃんに敵う軍師はいないでしょうね。
 同じ軍師を名乗る者としては悔しくもありますが、雛里ちゃんは紛れもなく軍略の天才。それは認めなくてはいけません。
 それに――

「風達の分まで、お兄さんの事よろしくお願いしますよー」
「わ、分かりました! 頑張りましゅ!」

 顔を真っ赤にしながらも、どこか気合いの入った様子で返事をする雛里ちゃん。
 大役といえば大役ですが、そんな雛里ちゃんの様子を見て『罪作りですね。お兄さん』と心の中で呟かずにはいられませんでした。
 お兄さんの救出に向かいたい人達は大勢います。華琳様を始め、凪さん達や紫苑さんもそうでしょうし、商会に在籍する人達の大半は今の雛里ちゃんと同じ気持ちのはずです。
 風や稟ちゃんだって、お兄さんを助けに行きたいという気持ちはあります。商会の仕事が無ければ、という条件が付きますが――

 まあ実際のところ、風の場合はそこまで心配していなかったりするのですが……。相手は、あのお兄さんですしね。
 正直、風にはお兄さんが酷い目に遭って困っている姿が想像できません。
 風の予想ですと、今頃はいつも通り女の子を侍らせて、こちらの心配を余所に自由気ままに過ごしているような気がするんですよねー。
 こういう時の風の勘はよく当たりますし、十中八九それに近い状況になっていると思います。

 さすがに無いと思いたいですが、こちらの予想を大きく上回って想定外の事態を平然と引き起こすのがお兄さんです。
 噂に聞く献帝は幼い少女という話ですし、お兄さんの毒牙に掛かっているという可能性も考えられなくはありません。
 まあ、さすがにお兄さんでも皇帝陛下にまで手を出すとは思えませんが……でも、お兄さんですしね。正直、風にも全く予想がつきません。
 実際、青州の視察から帰ってきたかと思えば、また新しい女性が周囲に増えている始末ですし、あの星ちゃんが主に選ぶくらいですからね。
 桂花ちゃんに『女誑し』や『軍師泣かせ』と言われるのも無理からぬ話です。あれで天然の女誑しですからね。同じように籠絡された一人である風が言うのですから間違いありません。
 唯一、風が心配な点があるとすれば、そこくらいでしょうか? 半分諦め、半分楽しみでもあるのですがね。
 まあ、そこがお兄さんの魅力とも言えるのですが……。自重したお兄さんはお兄さんではありませんしね。

「雛里が上手くやってくれるといいのですが……」
「そんなに気になるなら稟ちゃんも一緒に行ってもいいのですよー? 商会の事なら紫苑さんと風だけでもなんとかなりますし」
「風!? わ、私は別に……。それに太老様に留守を任された以上、それを全うするのが私の役目!」

 雛里ちゃんが退出したのを確認すると、ボソッとそんな言葉を漏らす稟ちゃん。本人は否定していますが気になっている事は、その態度を見れば一目瞭然でした。
 稟ちゃんも不器用というか、素直じゃ無いですねー。まあ、そこが稟ちゃんらしいといえば、らしいのですが。
 素直じゃ無いといえば、華琳様も同じですか。桂花ちゃんは半々と言ったところですが、華琳様は自分の気持ちに気付いていて敢えて隠している節がありますしね。華琳様の立場を考えれば分からなくも無いですが、劉備さんくらい素直さがあっても良い気がします。
 そうでなくてもお兄さんは朴念仁ですから、あれでは察してくれというのは無理があるでしょうし。

「それでは風はそろそろお昼寝の時間なので、これで失礼しますよ。くぅ……」
「風!? ここで寝るな! というか、仕事は!?」
「うみゅ……おや、これは失礼。稟ちゃんが随分とやる気をだしているようなので、それなら風の分もお任せしようかと……ぐう」
「お願いだから仕事をしてくれ……」

 やれやれ、相も変わらず冗談の通じない稟ちゃんです。
 もう少し柔軟な思考と免疫をつければ、あの鼻血をだす癖も直ると思うのですが、これでは当分は無理そうですね。
 とはいえ、稟ちゃんの言うように仕事をしないと、お兄さんに嫌われても困りますしね。風は風の仕事をする事にします。
 お兄さんの世界の言葉で『ふぉろー』と言いましたか。風の仕事はあくまで目立たず、ひっそりと皆さんの補佐をする事です。

 そろそろ、風も次の準備をしないといけませんね。
 先に放った行商人を装った細作から第一報が入る頃ですから、洛陽の詳しい情報も掴めるでしょうし、風の予想が正しければお兄さんがそろそろなんらかの行動を起こすはずです。いえ、もう起こしているかもしれませんね。一ヶ月もの間、大人しくしているお兄さんとは思えませんし。
 風は目立たず静かに、お兄さんや皆さんのふぉろーをするとします。

(あの夢の事も、ちゃんと確かめたいですしね)

 それに、お兄さんが居なくなった日、風が見た夢の意味を考えなくてはいけません。
 この国の行く末。お兄さんが作る未来。それを踏まえ、風が何を為すべきなのかを――

【Side out】





【Side:一刀】

 鳳統ちゃんを探してブラブラとしていると、劉備さんと関羽さんの二人にばったり出会(でくわ)した。
 なんというか少し気まずい雰囲気だ。関羽さんには諸葛亮ちゃんから話が伝わっているはずだし、俺がはっきりと断った事も知っているはずだ。

「北郷さん、朱里ちゃんから聞きました。義勇軍に参加してくれるんですよね?」
「……ああ、うん。色々と事情があってね」

 一緒に頑張りましょうね、と話す劉備さんの励ましに若干戸惑いを覚える。明らかに後の関羽さんと温度差がある様子が窺えたからだ。
 その様子を見る限り、諸葛亮ちゃんが言っていた話は本当のようだ。だからと言って、俺に出来る事など何も無いのだが……。
 ここで話を蒸し返されてもかなわないし、早々に立ち去った方が良さそうだと考えた俺は話もそこそこに挨拶を済ませ、その場を立ち去ろうとした――その時だった。

「北郷さん、何か落としましたよ?」

 風呂敷からこぼれ落ちた一冊の本を拾い上げようとする劉備さん。しかし本に手が届きそうなところで、ピタリと彼女の動きが止まった。
 無理もない。床に落ちた拍子に本が開き、男同士絡み合った絵が載ったページがその場で顕わになっていたからだ。
 固まった劉備さんを不審に思い、関羽さんが代わりに本を拾い上げてその内容を確認する。
 俺も咄嗟の事で意識が飛んで、思わず反応が遅れてしまった。

「……なるほど、合点が行きました。北郷殿が何故、朱里の誘いを断ったのか」
「いや、ちょっと待って!? 何か誤解してない!?」

 何だか雲行きが怪しくなってきた事に気付き、慌てて否定するが、

「えっと……。趣味趣向は人それぞれだと思うし、べ、別に愛し合っているなら男の人同士でも……」

 明らかに動揺を隠しきれない様子で、一生懸命フォローしてくれようとする劉備さん。
 しかしそれは誤解を助長させるだけで、全くフォローにすらなっていなかった。
 一体、誰と誰が愛し合っているというんだ? 俺と貂蝉? いや、絶対に無いから!

「ち、違うんだ! これは俺のじゃ――」
「ごめんなさい! 今日の事は忘れますから!」

 そう言って、脱兎の如く走り去ってしまう劉備さん。弁明くらいさせて欲しかったのに……というか最悪な誤解だ。
 これ、どうやって誤解を解けばいいんだ?

「この本は、お返しします」
「ああ、どうも……って、これは俺のだけど俺のじゃ無いっていうか! ああ、もうなんでこんな事に!?」

 関羽さんに本を返してもらうも、全てが手後れになった後では虚しいだけだった。
 いや、マジな話、この誤解は洒落になっていない。まだロリコン疑惑の方が遥かにマシだ。
 ここ最近、碌な目に遭っていない気がするのは、きっと気の所為じゃないはずだ。
 ここに来て生活水準は一気によくなったけど、代わりに色々な物を犠牲にしているような気がする。

「北郷殿。一つだけ尋ねても構いませんか?」
「……はい?」

 頭を抱えてどうしたものかとテンパっているところ、関羽さんに声を掛けられて思わず首を傾げる。

「何故、義勇軍に志願されたのですか?」

 それは諸葛亮ちゃんと同じように、どうしてこちらの提案を断ったのに義勇軍に志願したのか、と訊いているのだと察した。
 まあ、理由は幾ら訊かれても同じ事しか答えようが無いのだが――

「俺が薬の材料を探して旅をしてるのは聞いてると思うけど、目的のためにそれが一番近道だったから。それ以外に特に理由は無いよ」

 これが俺の本音だ。というか、それ以外に理由が無い。
 幾ら環境や状況が変わったとしても当初の目的は何一つ変わっていないし、何一つやり遂げない内からコロコロと目的を変えるつもりも無かった。

「……その力を平和のために役立てようとは思わないのですか?」
「俺に関羽さんが期待するような大層な力なんて、これっぽちも無いよ。平和のために役立てる気はあるのか無いのかと聞かれても正直漠然とし過ぎててピンと来ないし、理想がどうとか考えてられるほど余裕がある訳でも無いしね」

 その上で、今は自分の事で精一杯だと、はっきりと関羽さんに告げた。
 ガッカリされたかもしれないし、嫌われたかもしれない。でも、それが今の俺の正直な気持ちだ。
 劉備さんの理想は尊いものだと思うし、関羽さんの行いも立派だと思う。でも、そう思うだけでそれだけだ。
 以前の俺ならその考えに共感していたかもしれないけど、当初の目的を無視してまで賛同する気持ちにはなれなかった。

 それに納得の行かない事がもう一つある。

「何度訊かれても俺の答えは変わらないよ。俺と正木太老って人は違う。『天』って言葉だけで一括りにされても正直迷惑だ」
「私はそのようなつもりで――」
「同じだよ。最初から俺に頼みにきたのならともかく、『天の御遣い』という色眼鏡を通してしか見てないようじゃ幾ら言葉を繕ったって一緒さ」

 何の実績もなく自分の事すらままならない俺が、皆を救う、平和な世の中を作ると言葉を飾ったところで、その言葉に賛同して人がついてくるとは思えないし、そんな漠然とした理想が叶えられるとは思えない。『天の御遣い』を名乗ったところで、それは正木太老って人が作った実績であって俺がやった事では無い。一時的にその名で人は集まるかもしれないが、結局はそれまでだ。

「俺は俺。他の誰でもない北郷一刀だ。関羽さんの望んでいるような人物にはなれないよ」

 思い詰めた様子で、『失礼しました』と言って立ち去って行く関羽さんの背中を俺は黙って見送った。
 少し言い過ぎたかも知れないけど、これだけはっきりと言って置けば二度と俺を誘おうなんて考えないだろう。
 でも、これで嫌われただろうな。劉備さんの誤解も解けてないし――

「わ、忘れてた! それどころじゃない! ああっ、どうすりゃいいんだ!?」

 再び頭を抱えて奇声を上げる。一番の問題が解決してない事に気付いた時には、全てが遅かった。

【Side out】





 ……TO BE CONTINUED



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