グィネヴィアをどうするかで、エリカとアリスは頭を悩ませることとなったのだが、
「グィネヴィア様のお世話は私がします!」
最終的にはアリアンナのその一言によって、グィネヴィアは太老に保護されることになった。
どちらにせよ、こんな状態の彼女を放って置くことなど出来ない。記憶を失っているとは言っても相手は神祖だ。誰かに任せるにしても万が一のことを考えると、カンピオーネである太老に預けるのは最善の選択と言えた。
とはいえ、これでは問題を先送りにしただけで、何一つ解決していない。
後々、面倒なことになるのは目に見えているので、確認の意味を込めてアリスはエリカに尋ねた。
「よろしかったのですか?」
「不安は残りますが、アリアンナはああ見えて頑固ですから……」
事故の責任を感じているのだろう。
結局、帰りはアリスが地元の結社に連絡をし、迎えを寄越してもらうことで安全にブリストルへ帰還することは出来たが、アリアンナは事故のショックが抜けきらないのか、あれから運転を自粛するようになった。
アリアンナの性格は、エリカが一番良くわかっている。それだけに、今は本人のやりたいようにやらせておくのが一番だと考えていた。
それに、今更エリカが何を言ったところで決定は覆らない。それと言うのも――
「それに、王の命には逆らえません」
太老がグィネヴィアを保護することを決めてしまっているからだ。
こればっかりは、エリカにはどうすることも出来ない。アリアンナ一人の我が儘なら、強引にでもエリカが言い聞かせれば済む話ではあるが、カンピオーネの決定となれば話は別だ。
王の言葉は絶対だ。例え、グィネヴィアに敵意を持つ魔術師が居たとしても、王が決めたことに異を唱える魔術師はいないだろう。それほどに魔術師の世界において、カンピオーネの言葉は重い意味を持つ。
それに太老なら、こうするだろうと言うことはわかっていた。
「アテナだって保護しているんですよ? 今更、神祖の一人や二人……」
何やら諦めた様子で遠い目をするエリカに、アリスは以前、桜花に忠告された言葉の意味を考えながら同情的な視線を寄せる。
太老と行動を共にする以上、避けては通れない道なのだと、理解するしかなかった。
そんな太老の姿がないことに気付き、アリスはエリカに尋ねる。
「とこで、太老様は?」
「集めたデータの解析をすると言ってましたけど……」
アリスに太老のことを尋ねられ、そう言えば、とエリカは時計を見る。
太老が席を立ってから、既に二時間以上が経過していた。
結局、サマセットまで足を運んで得られた成果は、太老が持ち帰った計測データのみ。それも太老が解析を進めてはいるが、『最後の王』に繋がる手掛かりになるかどうかは望みが薄いという状況だった。
そのため、これからの調査方針を話し合うことになっていたのに、一向に太老が戻ってくる様子はない。
太老の話では、解析自体は一時間もあれば終わると言っていたにも拘わらずだ。
「何か、あったのかしら?」
異世界の伝道師外伝/新約・異界の魔王 第22話『魔王の家族』
作者 193
エリカとアリスが、太老の姿を捜して艦内をウロウロしていると、艦橋の方から桜花の悲鳴が聞こえてきた。
「ゆ、幽霊!?」
顔を青くして、テーブルの陰に身を隠す桜花。こんな彼女を見るのは珍しい。
アテナとグィネヴィアの姿も見つけ、こんなところで何をやっているのかと、エリカは太老に声を掛けた。
「太老、こんなところで何をやってるの? 全然戻って来ないから心配したわ」
「エリカか。あ、そう言えば……ごめん。ちょっと気になることがあって、調べてたら忘れてた」
「そんなことだろうと思ったわ……」
迎えに来て正解だとばかりに、エリカはため息を漏らす。
そんなエリカの横でテーブルの陰に隠れ、ガクガクと震える桜花に、太老は疑問を投げた。
「桜花ちゃん、幽霊が苦手だっけ? アテナとは仲良くやれてるのに?」
「アテナは見えてるじゃない! 私は見えないものは苦手なの!」
そんなものか、と納得する太老。
そう言えば、伝説の鬼などと恐れられている魎呼も、オバケが苦手だったと思い出す。
それはそれとして、幽霊と比較されたアテナは不機嫌なオーラを滲ませていた。
「まあ、幽霊みたいなものと言うだけで、実際には違うんだけどな」
「……でも、見えないんだよね?」
まだ警戒しているのか、テーブルの陰から出て来ない。
そんな桜花の様子に苦笑しながらも、太老は困った様子で頭を掻く。
「そこなんだよな。問題は……」
サマセットから持ち帰った計測データを解析していた際、人間の物とは思えない高次元エネルギー反応が見つかったのだ。
それも複数。そのなかでも、特に大きな反応は三つあった。
一つは、アリスの話にあった『まつろわぬアーサー』であることは間違いない。そしてもう一つは、アレクの権能によるものと考えていいだろう。
問題は最後の一つ、アリスから聞いた話や状況から察するに、それはランスロット・デュ・ラック。上位の魔女の守護者と呼ばれ、グィネヴィアを庇護する神霊ではないかとの結論に達したのだ。
「グィネヴィアは、この通りだしな?」
「うう……すみません」
心の底から申し訳なさそうに頭を下げるグィネヴィア。
アリスはそんなグィネヴィアの反応を見て、過去のイメージから顔を引き攣っていた。
もっとも、以前のグィネヴィアを知らない太老からすれば、彼女は事故の被害者。保護すべき対象だ。
こんな風に頭を下げられては、逆に罪悪感が込み上げてくる。
「ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないんだ」
「いえ……私が皆さんにご迷惑をお掛けしていることは確かですから……」
ずっと、この調子だった。
或いはグィネヴィアに話を聞ければ、アリスの話とは違った観点から、新しい情報が得られるのではないかと考えた太老ではあったが、記憶喪失の彼女にそれを要求するのは余りに酷と言うものだ。
ならば、と思いついたのが、彼女の守護者の存在だった。
神様に事情を聞く。魔術に携わるものであれば、普通は考えもしないような発想だが、アテナともこうして会話が成立している以上、無理と言うことはないはずだ。実のところ、零式も過去に同じことをやっていた。
実際、そうして持ち帰ったのが『最後の王』と共にある船の情報だったのだから、意外と神様の持つ情報というのはバカに出来たものではない。
それもそのはず、彼等は人間よりも遥かに長い年月を生きる高次元生命体。謂わば、歴史の生き証人だ。
問題は、ランスロットからどうやって話を聞くか、と言った点だった。
「アリスの話では、グィネヴィアと常に共にあるって話だったけど」
懐から片眼鏡を取りだし、それを左眼に付ける太老。
レンズに捉えたグィネヴィアの身体から、何かの計測値と思しきパラメータが表示される。
これも太老の発明品の一つ。レンズを通して対象のデータを取得することで、あらゆるエネルギーを数値に換算し、相手の能力などを大まかに把握することが出来る機械だ。
これはアストラル情報も計測することが可能なので、幽霊のようなものがいれば、その姿も捉えられるはずなのだが――
「見当たらないんだよな。それどころか、パスも観測できないなんて……」
「お兄ちゃん、パスって?」
「契約パスのことだよ。ほら、俺も零式とアストラルラインを通じて、パスが繋がっているだろう? 桜花ちゃんだって『龍皇』や『船穂』から力を借りる時は、そこから力を引き出しているわけだけど、グィネヴィアとランスロットの契約だって似たような仕組みがあるはずなんだよ」
本来であれば、グィネヴィアとランスロットを結びつけているパスを逆探知すれば、ランスロットの位置を特定することも可能なのだ。
しかし、そのパスを見つけられないとなると、考えられることは一つ。
「グィネヴィアとランスロットを結ぶ契約は切れてると考えるべきか」
「お兄ちゃん、それって……」
「ああ、どんな契約だったかは知らないけど、恐らくはグィネヴィアが記憶を失っていることが原因だろうな」
「でも、記憶を失ったくらいで、契約のパスって簡単に切れるものなの?」
桜花の疑問はもっともだ。
少なくとも、皇家の樹と契約者のパスが途中で破棄されたという話は聞いたことがない。
しかし、アリスの考えは違っていた。
「可能性としては十分に有り得るかと。本来、特定の者を庇護するために神が地上に留まるなど前代未聞。そのような契約を結ぶには、互いの了承が不可欠となります」
「ようするに、ランスロットは自分の意思でグィネヴィアの守護者になったってことか」
「はい。それに、これだけの大呪法です。恐らくは契約を維持するために、幾つもの制約が課せられているはず。あくまで予想ですが、互いの存在を強く想うこと。その信頼こそ、契約を維持する条件だったのではないでしょうか?」
アリスの言葉通りなら、面倒なことになった、と太老は嘆息する。
まったく予想をしなかった事態だ。だとすると、ここでまた一つ大きな問題が発生する。
「アテナ、一つ訊きたいんだが……」
「む……なんだ?」
「こう言う場合、契約の切れた神霊はどうなるんだ? 消えたりするのか?」
太老の質問の意図を理解し、少し考える仕草を見せるアテナ。
「いや、消えたりはしないはずだ。どのような契約であろうと、神を完全に縛ることなど不可能。契約が切れたからと言って、消滅することなどありえぬ」
「それって、やっぱり……」
「契約に縛られ、制約によって失っていた真の姿を取り戻す」
予想していたのか、太老は嫌な勘が当たったとばかりに嘆息した。
「え? あの、それは……え?」
アリスは一瞬、アテナの言っている言葉の意味がわからず、呆然とする。
無理もない。それはランスロットが、まつろわぬ神として復活すると言うことだ。
その結果は考えるまでもない。
「妾と同じだ。失ったものを取り戻せば、後は『まつろわぬ神』として狂える性に身を委ねるのみ……」
ほんの少し、悲しげな表情を浮かべ、アテナはそう付け加えた。
アテナは今の生活が嫌いではない。『蛇』を取り戻すという使命を忘れた訳ではないが、ここでの生活に満足していた。
それだけに、わかるのだ。この幸せな時間も、『蛇』を取り戻せば終わってしまうことが――
今のアテナは、神として不完全な存在。故に、まつろわず、戦いに狂うこともない。
しかし真の姿を取り戻せば、その狂気に呑まれ、まつろわぬ神の本能に身を委ねることになるだろう。
そうなれば、アテナと太老は敵同士。戦いは避けられない。
いつかは訪れる未来。アテナは来たるべき戦いが近いことを予知していた。
◆
「ランスロットが、まつろわぬ神に!?」
ようやく意識を取り戻したアリスは、余りの非常事態に顔を青くして卒倒した。
フラフラとソファーに倒れ込むアリス。それも当然と言えば当然だ。
一難去ったかと思えば、再び英国が危機に晒されているのだ。まつろわぬ神がもたらす被害。それを考えるだけでも、頭は痛くなる。
ましてや、相手はあのランスロット。上位の魔女の守護者にして、グィネヴィアと共に千年を超える時を、この地上で過ごした鋼の軍神。
それほど強力な神が、まつろわぬ神として顕現すれば、どれほどの被害があるかわかったものではない。
だから、太老ならどうにかしてくれると言う期待を込めて、アリスは尋ねた。
「あの……太老様。それで、どうされるおつもりで?」
「どうにもしない、というか、打つ手がない」
何処にいるかもわからないランスロットを捜して、どうにかするというのは現実的な手とは言えない。
アリスの心配はもっともだが、まだ英国に留まっている保証すらないのだ。
ランスロットに繋がる手掛かりは、今のところグィネヴィアしかないのだが、そのグィネヴィアも記憶を失っている状況では、はっきり言って打つ手がない。
「それにアテナの話では、まつろわぬ神としての力を完全に取り戻すには、まだ時間が掛かるだろうって話だしな」
千年もの時を契約によって縛られていた以上、ランスロットが完全にまつろわぬ神として顕現するには、相応の時間が必要だとアテナは言った。
その期間は数ヶ月と言ったところ。それに契約が切れたからと言って、グィネヴィアのことを忘れてしまったわけではない。どのような約束が二人の間に交わされたかはわからないが、そのことを覚えている間はランスロットも大人しくしているだろう。
「では、すぐに危険はないのですね」
一先ず、ほっと息を吐くアリス。しかし、それで問題が解決した訳では無い。
逆に言えば、数ヶ月もすればランスロットが、まつろわぬ神として完全に目覚めると言うことだ。
「このことは、賢人議会にも連絡をしておいた方がいいでしょうね……」
「ええ……赤銅黒十字を通じて、他の魔術結社にも注意を促してもらいます」
アリスの話に、エリカも同意する。問題が問題だけに内々にと言う訳にもいかなかった。
グィネヴィアが太老の保護下にあることは知れ渡ってしまうだろうが仕方がない。
この際、彼女の安全を確保する意味でも、太老の名を最大限に活用することを二人は考えた。
契約がなくなったとはいえ、グィネヴィアとランスロットの関係が切れたわけではない。彼女に万が一のことがあれば、ランスロットが黙っていない可能性は高い。そうなれば、戦いは避けられないだろう。
早いか遅いかの違いでしかないかもしれないが、どうせ戦いが避けられないのであれば、万全の準備を整えてからにしたい。
想定される被害を考えれば、今は少しでも時間が欲しかった。
「青銅黒十字の方は、リリィとカレンに頼んだ方が早いわね」
ヴォバン侯爵の一件で弱体化を余儀なくされている青銅黒十字ではあるが、かの組織が東欧を中心に幅広いネットワークを持っていることに変わりはない。それに青銅黒十字は数多くの魔女を抱える組織だ。
魔女は、魔術師にはない繋がりを持っている。
リリアナは勿論、カレンも見習いとはいえ、魔女の一人。協力してもらった方が、情報も早く伝わるはずだ。
そう考え、リリアナとカレンの姿を捜すエリカではあったが、
「リリィとカレンは?」
「そう言えば、帰ってきてから姿を見てないな」
太老もエリカに言われて、ようやく気付く。
この時間は夕飯の仕込みや家事に専念していることが多いため、特に気にしていなかった。
誰か二人の姿を見ていないか、と尋ねる太老。
しかし返ってきた答えは、誰も知らない、見ていないと言ったものだった。
「お兄ちゃん達が帰ってくるまでは、確かにいたんだよ?」
留守番をしていた桜花によれば、今朝までは確かにいたらしいことがわかった。
姿が見えないのは、買い物にでも出ているものと思っていたらしい。
しかし、そろそろ夕食の時間だ。この時間になっても二人の姿がないのはおかしい。
もしかしたら台所にいるかも知れないと考えた太老は、艦橋のコンソールを操作し、アリアンナを呼び出した。
「アンナさん、ちょっといいですか?」
『はい。何か、御用でしょうか?』
空間ディスプレイにアリアンナの姿が映し出される。夕食の用意をしていたようだ。
事情を説明して、二人を呼んでくれるようにアリアンナにお願いする太老。
しかし――
『申し訳ありません。私が戻った時には、既にお二人の姿はなかったので……あっ、でも……』
ここ数時間のことを思い出しながら答えるアリアンナ。
ふと、何かに気付いた様子で話を続ける。
『気になって、お二人の部屋を訪ねたのですが、ベッドの上に綺麗に折り畳まれたメイド服が置いてありました』
その時は、特に気にならなかったらしい。
替えのメイド服も渡してあるので、洗濯した物を仕舞い忘れているのだろうと、アリアンナは思っていた。
でも、今になって思うと、どこか不自然だったようにアリアンナは思う。
「まさか……」
アリアンナの話を聞いて、エリカはリリアナの部屋へ走った。その後を太老達も追う。
リリアナの部屋に入るなり、クローゼットを物色し始めるエリカ。
何かを探すように、中の衣服を床に放り投げる。
そんなエリカの様子に驚いた太老は、心配になって声を掛けた。
「どうしたんだ? エリカ」
「ない……ないのよ」
「ない?」
「青と黒の衣装がなくなってるのよ」
結社に所属する魔術師にとって、その結社を象徴する色というのは重要な意味を持つ。
エリカも着る服には、必ず紅と黒を取り入れているほどだ。
彼女達にとって、それは正装のようなもの。先人から脈々と受け継がれる魔術師の証だ。
その衣装がなくなっている意味を考え、エリカは唇を噛む。
「それって……ここを出て行ったってことか?」
「ええ……それしか考えられないわ」
「でも、どうして?」
太老が疑問に思うのも無理はない。
リリアナは、クラニチャール家の取った問題行為の責任を取るために差し出された人質のようなものだ。
太老がこんな性格と言うこともあって、ある程度の自由を与えられているとはいえ、勝手に出て行くことなど許されるはずもない。そんな真似をすれば、家の顔に泥を塗ることになる。
こんなことが知れれば、タダでは済まない。青銅黒十字は追っ手を差し向けるだろうし、魔王の怒りを買うことを恐れた魔術師達も黙ってはいないだろう。リリアナが太老の庇護下にいるから彼等も黙っているのだ。
「恐らくは、クラニチャールのご老人の差し金ですわね」
「それって、前に言ってたリリアナの爺さん?」
「ええ、その通りです、太老様。リリアナがこのような行動に出たのも、すべては彼女の祖父が裏で糸を引いてのこと。違いますか? エリカ」
「お察しの通りです。プリンセス」
エリカは眉を顰める。アリスは英国の人間。賢人議会に所属する魔女だ。
青銅黒十字の問題とはいえ、赤銅黒十字もイタリアの魔術結社の一つである以上、まったく関係ないと言い切ることは出来ない。ましてや、同じ『七姉妹』に席を置く身だ。本来であれば、自分達の国の恥部を探られたくはないのだろう。
しかし、そんなエリカの気持ちを知ってか、知らずか?
太老は一人納得した様子で、二人の予想を超えることを口にした。
「なら、簡単だな。リリアナとカレンを迎えに行こう」
「え? あの太老様? ご自分の仰っていることをわかっていますか?」
「正気? リリィは、あなたを裏切っていたかもしれないのよ?」
何も言わずに出て行ったリリアナを迎えに行くと言う太老に、アリスとエリカは驚く。
普通、ここは怒ったり、文句の一つも言うところのはずだ。
なのに、太老は怒るどころか、リリアナを疑っている様子は微塵も無い。
「うちのメイドになったからには、二人は俺の家族だ。家族を信じるのは当然だろう?」
「少しも疑っていないの?」
「うん。それに悪いのは、その爺さんであってリリアナじゃないんだろう?」
それは、呆れるほど単純な理由だった。
太老からすれば、既にリリアナとカレンは家族も同然。この場合、ちょっかいをかけてきた老人が悪いのであって、リリアナとカレンに罪はない。二人に問題があるとすれば、そのことを相談もしないで勝手に決めて、船を出て行ったことだろう。
そんな太老の話に、桜花は慣れた様子で「まあ、お兄ちゃんだしね」と一人納得していた。
「まあ、なんというか……さすがは太老様。大物ですわね」
アリスも苦笑する。そして、そんな王を敵に回した者達を哀れに思った。
太老は味方には優しいが、敵には容赦がない。それは、これまでの件からも明らかだ。
「フフ……アハハハ! やっぱり、あなた最高だわ。太老」
腹を抱えて突然、大声で笑い始めるエリカ。実のところ、リリアナが祖父の命令でここに来たことや、そのことで思い悩んでいることにエリカは気付いていた。友人として心配もしていたのだ。
しかし、エリカの立場上、リリアナを擁護することは出来ない。
それだけに、太老の出した答えは、友人を救いたいというエリカの想いに沿うものとなった。
人間社会の都合や、立場・体面と言ったものなど、まったく歯牙にも掛けない様は、まさに王のなかの王と呼ぶに相応しい在り方だ。
「褒められている気がしないんだが……」
「十分、感謝しているわよ。それでこそ、私の太老だわ」
そんな王に仕えることが出来る自分が、エリカは心の底から誇らしかった。
太老に剣を捧げることを決めた選択が、間違っていなかったとエリカは再確認する。
これからも太老は、たくさんの人を救い、たくさんの人に感謝され、そして――
たくさんの人に恐怖され、恨まれるだろう。
「あなたは最高の魔王になるわ!」
「それ、やっぱり褒めてないだろう!?」
太老と共に歩む未来を想像し、エリカは希望に胸を膨らませていた。
……TO BE CONTINUDE
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