「おい洋、どうしたんだその子」
仮面ライダー8号、スカイライダーこと筑波洋は活動を再開し、現在行動を共にしている城茂から背中におんぶしている一人の少女の事を聞かれ、こう返した。
「パトロール中に見つけたんです。行き倒れみたいで……」
背中に背負っている人物の風貌はハチマキを巻いて、ボーイッシュな風貌をしてはいるが、一応女性らしい。 見たところ年齢は15,6だろうか。
「道路に倒れていたのを連れてきたんです。かなり重傷だったんで。急いで沖や結城さんに連絡を」
「ん?何でだよ、普通は医者だろ?」
「これを見てください」
「こ、コイツは…サイボーグ…?」
ストロンガーの城茂が驚いたのは彼女の負傷箇所からはサイボーグと思われる機械部分が見え隠れしているからだ。筑波洋のいうことの意味を悟ったらしく、電話に手をかけ、大急ぎで連絡する。彼等は知る由もないが、その少女はティアナ・ランスターが元の世界に残してきたはずの同僚であり、親友であった人物。そしてなのは達にとっては、後々に自分たちの部下として関わるはずの人物。
スバルがどうしてここにいるのかの説明をしなければならないだろう。
そもそも、新暦70年代中盤のミッドチルダは「ある世界」以上に大規模なテロ事件に見舞われていた。
なのは達はこの時期には長年の戦友であり、ヴィータの主の「八神はやて」に招聘される形で、はやてが設立した「機動六課」の分隊長として活動していた。ティアナが旧時代の遺跡の調査中に行方不明となった事は彼女の親友であったスバル、そして直接の上司であり、二人を育てる立場にいた、なのはにとってショッキングな出来事であった。
そんな中、スバルは首都防衛戦のさなか、倒され、昏倒した状態の姉を目の当たりにし、怒りを爆発させて敵に立ち向かった。しかしながら敵に決定打を与えることは出来ず、痛み分けになってしまった。さらにその状態のまま、建物の崩落と爆発の真っ只中に巻き込まれた。意識を失う直前に発していた言葉は、目の前で敵にさらわれた実の姉を求める悲痛な泣き声だった。デバイスもBJも破損していたために防御がままならず、そのまま爆発と崩落に巻き込まれた。
「ギン……姉……ごめ…ん 」
これが記録上、スバルが最後に発した言葉となった。これが彼女が転移してしまった経緯である。これは奇しくもかつてのなのはと同じ経緯である。
連絡を受けたなのはは必死に助けに行こうとしたが、彼女が到着した頃にはスバルがいたであろう場所は完全に瓦礫で塞がられており、なのははなお救出を強行しようとしたが、落盤の危険があって、ミイラ取りがミイラになると他の局員から止められ、泣く泣く救出を断念した。
こうしてスバルはティアナに続いて、生死不明として処理される事となったが、なのはは不思議とスバルが助かっているような気がしてならなかった。子供時代に彼女もほぼ同じような経緯の出来事を味わい、生還した記憶があるからだ。
(なのはやフェイトが子供時代に体験した出来事はこの時代の管理局員の間で『奇跡の生還』として知られているが、詳細は不明とされている。)
彼女の管理局の制服の襟には、小さいが、管理局の階級章とは明らかに異なる組織のそれとしか思えない、三等空尉の階級章らしきプレートが付けられていた。これが何を意味するのか?関係者の間でも物議を醸すもとになっていた。(なのは本人はこの事に関して、雑誌のインタビュー記事でも何も語っていないので有耶無耶になっている。)
―まさかあの時の私みたいに……?
なのは(19歳)は相次ぐ部下の行方不明に動揺を見せつつも、かつて自分が陥った状況に余りにも似ていることに奇妙な感覚を覚えずにはいられなかった。その管理局の制服の襟には、
地球連邦軍少尉の階級章が燦然と輝いていた。これは彼女は結局、連邦軍を退役せずにそのままミッドチルダに帰還した事を示していた。
つまり高町なのはは「管理局の一等空尉であり、地球連邦軍少尉でもある」という複数の肩書きを持ったまま思春期を過ごした事になる。
11歳の時の戦いが彼女のその後の運命を少なからずねじ曲げ、二人の愛弟子の未来をも変えてしまったのだ。
―ティアナに遅れること数週間で次元転移したスバル・ナカジマ。彼女は重傷を追っていたが、仮面ライダー一号=本郷猛、ライダーマン=結城丈二、仮面ライダースーパー1=沖一也の手によって治療が施され、復活を遂げた。
黒江の導きで夢を叶えるために、黒江達の故郷の世界へ
鉄人兵団やバダン、クライシス帝国との戦いに身を投じていた。ある日、兵団の兵器工場を襲撃したのだが、そこである者と出会う。
「ダブルトマホォォォクブゥゥゥメラン!!」
兵団の工作用ロボットが`何か`にまっ二つにされて四散し、ブーメランのような軌道で上空に戻っていく。雲が晴れ、その張本人が姿を表す。
「……何、あれ。巨……大……ロボット……?」
彼女は知る由もないが、この赤を基調とした3色の配色がなされたロボこそスーパーロボットの内の一つ「ゲッターロボG」。
その空戦形態の「ゲッタードラゴン」である。日本のとある地域の兵団の排除任務を追い、白色彗星帝国戦以来、哨戒行動以外で久しぶりに実戦投入されたのだ。
これは兵団の太平洋での拠点「ハワイ」攻略の露払いとなるであろう重要な作戦行動だ。
「さて、久しぶりに暴れさせてもらうぜぇ!!
メインパイロットである流竜馬はどこからかドラゴンが敢行するゲッターロボ用に開発された火器「ゲッタービームランチャー」を取り出させ、乱射する。`一騎当千`の力を持つスーパーロボットの真骨頂とも言える攻撃である。1000体規模でいた工作用ロボットは見る見るうちに数を減らしていく。しかし自分たちが到着する前に既に戦闘が行われているようで、一部に破壊の跡が見える。
「リョウ、見ろ。誰かがもうやった跡があるぜ」
「なに?この辺りに`仮面ライダー`が現れたなんて情報は入っていないが?」
どういうことかと見回してみてみると足元に一人の少女がいるのに気づいた。
「……女の子ぉ?なんでこんなとこに?」
「道に迷った……わけじゃなさそうだ。」
「どういうことだ、隼人?」
「見ろあの格好を。ありゃあバリアジャケットだ」
「そう言えば……」
流竜馬、神隼人、車弁慶の3人は女の子の服装が`同僚`のなのはやその親友のフェイトが戦闘時に纏う戦闘服と同じようなモノであるのに気づいた。竜馬は意を決し、その女の子に外部スピーカーを使って話しかけた。
スバルは竜馬達に事情を説明。兵器工場をゲッターポセイドンのストロングミサイルを斉射し、跡形なく吹き飛ばしてスバルを回収し、帰還の徒へついた。ちょうど兵団に関しての新情報を提供するために極東支部を訪れていた仮面ライダー一号=本郷猛は後輩のV3=風見志郎からの連絡でスバルがゲッタードラゴンに回収されたことを知ると、ブライト・ノアと面会して事情を説明。これによりスバルの事情聴取はスムーズに行われる事になった。
−スバルの事情聴取はこの日の非番で自室休養中であったアムロが中心となって行った。
「つまり君は新暦75年のミッドチルダの住民で、その時点でのなのは君の部下だったんだね?」
「はい」
アムロの質問にハッキリと答えるスバル。この少女は後になのはの部下となるはずであったとか。実にややこしい。事前に仮面ライダー一号から連絡が無ければ混乱してしまう所だ。話を聞くに、任務中に次元断層に巻き込まれ、気がついたらこの世界にいたそうである。スバルにしても、いきなり地球連邦軍の戦艦につれてこられて事情を説明することになってしまったから大変である。30分ほど必死に説明した甲斐もあって、どうにかなりそうなので安堵の表情を浮かべた。一号の手引きが無ければ今頃どうなっていたか。アムロの隣には当人−まさか10年後に部下となる人物に会うという摩訶不思議な事態に直面し、絶賛困惑中のなのはが椅子に座っている。彼女の知るかぎりで一番若い姿よりも幼さを感じさせる容姿は不思議な感じがする。さらにはなのはのお目付け役だろうか。地球でその昔あったという`大日本帝国陸軍`の軍服を着た自分とほぼ同年代の少女が傍らにいる。
(この日は穴拭智子が正式に扶桑皇国陸軍よりロンド・ベルへ赴任したばかりであった。とは言え、智子は正式な辞令が出されるより前にロンド・ベルに引越して来ていたので何気なく馴染んでいた。智子もいらんこ中隊にいたためか順応性が上がっていた為である)
「ええと…なんて呼べばいいのかなぁ…?」
なのはは困惑した表情で言った。年上のように見える女の子から突然
‘なのはさん‘と呼ばれれば驚かないはずはない。しかも同じ部隊に属していたと言わればなおさらの事だった。スバルはそんななのはに優しく微笑む。
「スバルでいいですよ。敬語で呼ばれちゃうとなんか変な感じが…」
「じ、じゃ…ス、‘スバル‘…?」
なのははぎこちなくスバルの名を言う。スバルはそんな彼女の姿が可愛く思えた。19歳になったなのははこう言った‘少女らしさ‘を見せる事は少なく、凛々しさと厳しさを感じさせる印象(彼女の親友のティアナに対して行った事、時々見せた厳しさなど)が強かったが、奇しくもスバルは子供なのはと会ったことで、なのは本来の少女らしさを垣間見たのである。(か、可愛い〜!未来のなのはさんとはまた違った魅力がある…)
「未来の私って……どうなってるのかな?」
この質問にスバルは大いに困ったが、大体は教える事にした。ここで会ったという事は自分となのはは何らかの縁があるのだろうかと感慨にふける。記憶を無理矢理に繋ぎあわせて、つじづまを合わせて考えると、「数年後の空港火災の時に出会ったときはあえて初対面のように接していて、(自分にとっては文字通り初対面であったが)機動六課で再会した時のあの言葉はなのはに取っては長い間会っていなかった友への言葉というニュアンスを含んでいたのだろうか……。それは今となっては分からないが。
「教導隊には入れたと聞いてます。それと‘エースオブエース‘の異名で有名ですよ」
「そうなんだ〜!じゃあ未来でも全力全開なんだね、私」
そう言って無垢な笑顔を浮かべるなのは。しかしスバルの知る未来では、大人の持つ汚さをも身につけてしまったために、そういった意味での笑顔はめったに見せていない。
(どちらかと言うと全力‘全壊‘な気が…。まっ、この際それは言うまい)
「ところでなのはさん、その人は?」
「紹介するね。穴拭智子中尉。こことも違う世界の空戦魔導師で、私の空戦の師匠なの」
「……えぇぇっ!!」
なのはは傍らにいる智子をスバルに紹介した。後々の史実と付き合わせるとこのような事実が浮かび上がる。彼女に一から魔法を教え、闇の書事件まで側で彼女を支えた、魔法での師がスバルの時代では「時空管理局「無限書庫」司書長」という要職に付いているユーノ・スクライアであるように、なのはに教導隊の猛者共とも対等に渡り合える程の空戦の術を仕込んだのは穴拭智子であるという事になる。そしてスバルは後に知るのだが、新暦70年代前半頃のミッドチルダにてその証たる技をなのはは模擬空戦で見せている。それは`ツバメ返し`。智子必殺の空戦機動を長年に渡る特訓で身につけていたのだ。同様にフェイトも黒江綾香から教えられた`秘剣`雲耀を10年間かけて習得し、実戦で使うのだが、それらはまた別の機会に語ろう……。
「ところでスバル君。君はこれからどうするつもりだい?」
「あたしは……戦います。この世界に来てからバダンやクライシスとか色々な脅威がある事を知って……奴らを倒すまではこの世界にいるつもりです。……それが`あの人`達の助けになると思います」
「歴代の`彼等`のことか。本当にいいのかい?ここに居れば必然的に君は殺し合いをする事になってしまうんだよ?」
「元の世界には戻ればそれでいいのかも知れません。だけど戦う事で救えるものもたくさんあるはずですから……それに守りたい人もいますから」
スバルは短めではあるが、アムロに今の自分の思いを伝えた。元々災害救助を志して入局し、それ部門の部隊に属していた彼女にとって、「どんな危機的状況でも人を助ける手段は必ずある」というのが信条であった。何よりそれを自分に示してくれたのは、大人になったなのはなのだから。
「わかった。ブライトに手配するように頼んでおく。智子君、2人の面倒は任せた」
「分かりました」
そう言ってアムロは部屋を離れ、3人だけが残された。
「この子から大体聞いたとは思うけど、私は穴拭智子。ココとも違う世界の`日本陸軍`航空隊の中尉よ。よろしく」
智子はスバルにも分かりやすく扶桑とは言わず、日本と言った。彼女なりの気遣いだ。
「スバル・ナカジマです。これからよろしくお願いします」
スバルは智子に敬礼を返す。この日以後は以後は本来『なる』はずの関係を超えて、なのはのお目付け役として生活を送る事になり、地球連邦軍に協力することになり、
ハワイ攻略戦に参加することになる。
‐ラー・カイラムが護衛艦らと共に地球での母港を出港したのは主力部隊から遅れること三日後の事であった。なのはとスバル、そしてティアナ。三者の運命は大きく変わろうと
−ティアナ・ランスターは2199年で出会った友人で、現在は親交が深いウィッチ「黒江綾香」と「穴拭智子」のツテで、
「扶桑皇国」の航空ストライカーユニット「五式戦闘脚」を極秘裏に入手。その過程で一度、黒江と共に扶桑皇国を訪れる事となった。(その際に地球連邦軍とのコネクションを得た)
飛行を行うには、現地で数カ月ほど訓練を受ける必要があるが、どうにか使い魔との契約も済ませ、便宜的処置で書類上`扶桑皇国に亡命した外国人`とし、軍曹として、扶桑陸軍に入隊した。
(海軍に入らなかった理由は、陸軍の方が智子らと共に戦える可能性大のため)
黒江が自分に対し、色々便宜を図ってくれたおかげで、どうにか自分の魔道師になった際の`夢`がもう手の届く所にまで着ている。その事を思い、感極まってしまう。
(感動だわ〜……やっとあたしは……夢を叶えられるんだ!!)
感極まって、涙を流すほどに感動しているティアナだが、この世界の実情を考えると、そうも言ってられない。常識はずれの金属生命体のような異形の敵`ネウロイ`なる敵が跳梁跋扈していて、さらに次元を超えて地球連邦軍の介入が必要になるほどの色々な揉め事も起こっているらしい。幸い扶桑皇国は最前線からは離れているので、そういう事とは無縁なのだが、何時そうなるとも限らないので気は抜けない。因みに今の彼女の服装は管理局の制服ではなく、扶桑皇国陸軍(大日本帝国陸軍に当たる)のウィッチに多い戦闘装束姿。−つまり巫女装束と小具足姿である。元の世界の上司のなのはやフェイトが見たら、あまりの仰天の事実に目が点になるだろう。
魔道師としては空戦適正と才能が無いとの烙印を押された彼女だったが、ウィッチとしてはどうだろうか。
「いっけぇ!!」
そんな彼女は今日もウィッチとしての猛訓練を受けていた。纏っているストライカーユニットは五式戦闘脚。`郷に入っては郷に従え`の要領で持っている武器はデバイスの「クロスミラージュ」ではなく、綾香から渡された日本刀とホ5 二式二十粍機関砲である。
訓練は辛いが、なのはの下で訓練を続けていたおかげでヘばる事無くついて行けた。つまりこれは隠れていた才能が魔導師とは似て非なるもの、`ウィッチ`として目覚めた事で開花したのだ。彼女の他のウィッチに対する利点は魔力を補給・供給する器官`リンカーコア`が備わっているために魔力減衰を気にする必要が全く無い事。この強みが上層部が彼女に目をつける事になる原因となる。
扶桑(日本)の月月火水木金金に例えられる、猛訓練についていける体力があるのは、元の世界−ミッドチルダ−でのなのはの猛訓練のおかげだから、これはなのはに感謝しなくてはならないだろう。
そして、そんな彼女が扶桑皇国陸軍で穴吹智子、黒江綾香に次いで友人関係になった
ウィッチがいた。稲垣真美。短髪の少女で、日本人形(扶桑)を思わせる容貌を持つ
第31統合戦闘飛行隊「ストームウィッチーズ」所属のウィッチ。見かけによらず、88ミリ砲をも難なく持てるほどの怪力の持ち主。
背は現在(2010年)の水準から見ると、とんでもなく低い120cmほどで、下手すれば小学生に間違えられそうだが、れっきとした16歳(!!)である。彼女はアフリカから本国の扶桑皇国の指示で一時帰国していたが、そこでティアナと出会ったのだ。
因みに彼女の階級は曹長である。
ティアナは飛行訓練でそこそこの成績を収め、飛行学生の中では優秀な部位に入っていた。
模擬戦では、機動六課での経験を活かして、教官の扶桑皇国のエース達に一泡吹かせていた(時には砲撃魔法をも用いて)。こうしたこともあって、ティアナが一介の飛行学生にしては妙に`実戦慣れ`している事に疑問に思った真美が基地を訪れていた黒江綾香に聞いたところ、こんな答えが返ってきた。
「ええっ!?ティアナって別の世界のウィッチなんですか!?」
「ああ、私もアイツから一度聞いただけなんだがな。本人曰く実戦経験はそれなりに積んでいるそうだ。ただし向こうじゃ陸戦魔導師だったらしい」
「元々陸戦だったのに、何でまた航空歩兵に志願を?」
「アイツは元々空戦魔導師になりたくって`管理局`に志願したそうだが、色々あって陸戦魔導師として活動していたんだ。心のなかで夢を叶えたい気持ちを燻せながらな。ツイてないよな、アイツは」
黒江は出会ってそんなに間もないとは家、信仰が深いため、ティアナの心情、夢を分かっていた。だから真美に教えたのだろう。空を飛びたいという気持ちと憧れを持ちながら、適正なしと言われたティアナの無念さを。それを自分が晴らしてやりたかったと黒江は言う
た。管理局のこともこの時期では既に連合軍の間でも知れ渡っているので、このような会話がなされるのだ。(最も、管理局の体制にはいささか疑念は持っている。警察機構と裁判所機能が一緒になっているというのは、三権分立がきちんとなされていないことであり、前近代的に感じてしまう)
「……だから上層部の装備担当者をチョロマカして、あの子に新鋭のストライカーユニットを与えたんですね」
「そうだ。アイツの話を聞けばそうもしたくもなるさ」
「……大尉」
「お前も協力してくれるか、稲垣」
「もちろんです!!」
二人は手を握り合った。これ以後、二人は何かと連絡をとりあって協力関係を結ぶが、それはまた別の話。
「さて、ヒョッ子どもをしごいてやるか」
「あまりいじめないでくださいよ?」
「分かってる」
黒江は実戦のカンを取り戻すべくティアナら飛行学生との模擬戦に臨む。そして、稲垣真美の見守る中、ティアナは空を飛ぶ。
`エースオブエース`高町なのはに近づくために。その思いを載せて空を飛翔する五式戦闘脚。
彼女は魔導師としてでは無く、「ウィッチ」として目覚める事で、自身の悲願を叶えたのだ……。(こうなっては、自分の服装に恥ずかしさを感じることは一切無くなっていた。この世界の`常識`にすっかり染まりつつある証拠であった)
江の個人的なシゴキなども含めた、数ヶ月の訓練で、ストライカーユニットの扱いにもだいぶ慣れ、訓練でも五式とは特性の違う四式戦闘脚「疾風」も使いこなせる様になっていた。
ちなみに`四式戦闘脚 疾風`は`キ84`のキ番号を持ち、(史実でも日本陸軍が機体の試作順の記号をこう呼んでいた。前線でもよく用いられた)中島飛行脚`(史実での中島飛行機)が`キ44`二式戦闘脚「鍾馗」の直系発展型として開発したストライカーユニットであり、一式戦闘脚`隼`に代わる主力制空戦闘脚である。
それを扱えるようになったのと、飛行学校の成績がそこそこ良好なため、ティアナもどこかの独立戦闘航空隊に配属されるだろうとの噂が立っていたが、それは現実になった。
−ある日、飛行訓練を終え、巫女装束姿で翼を休めていたティアナは学校長からの呼び出しが書けられ、そのままの格好で校長室に向かった。
「失礼します」
ロックをし、敬礼しつつ室内に入る。そこには学校長と陸軍参謀本部の武官がいた。なにやらただごとでは無いらしい。最初に校長が切り出した。
「君も第505統合戦闘航空団壊滅の報は聞いているだろう?」
「はい。東部戦線の要だった統合戦闘航空団ですね。たしか`向こう側`のティターンズの攻撃で壊滅したと聞いていますが、それが何か?」
「ウム……それが問題になっているのだ」
−校長の言う通り、505統合戦闘航空団の壊滅によって東部戦線は崩壊、オラーシャ(史実でのロシア・ソ連に当たる)連邦の領土は欧州側が徐々にティターンズ側に制圧されていっているのが現状だった。いや、`短期間の間に首都へ侵攻させなかった`点では双方の技術格差にして、優に数百年にもなる軍隊相手によく持ちこたえていると言ったほうがいいだろう。
「奴らはアフリカ方面にも部隊を派遣し、第31統合戦闘飛行隊「アフリカ」……もうじきストームウィッチーズに変わるが…と既に一戦を交えている」
「……!!」
ティアナは仰天した。第31統合戦闘飛行隊「アフリカ」と言えば、稲垣真美の所属している飛行隊ではないか。その部隊とティターンズが一戦交えたとはどういう事だろうか。
「この写真を見たまえ」
その写真は現地に派遣されていた地球連邦政府の駐在武官が撮影した物で、この時代では珍しいであろう、カラー写真だった。映っているのは2連装砲を持った、明らかにこの時代では有り得ない形状を持つ戦車が陸戦用ストライカーユニットを纏ったウィッチを追い回している様子だった。そしてもう一枚は`アフリカの星`との異名を取り、地球連邦軍側に`ニュータイプ`ではないかの噂も立てられているエース『ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ』大尉が向こう側製のジェット戦闘機や爆撃機に戦いを挑んでいる。写真に写っているジェット爆撃機…というよりは攻撃機の姿はティアナにもピンと来た。なのはたちの世界でも使われている、米軍の古参機であり、近接航空支援で名を馳せた「A-10 サンダーボルトU」そのものだった。
『そんなッ……ウォートホッグ(サンダーボルトU)!?』
ティアナはその攻撃機の名を言った。−A-10 サンダーボルトU。通称は「ウォートホッグ」。かつてのアメリカ軍が、
かの`タンクキラー`ハンス・ウルリッヒ・ルーデルの助言を得て開発したと言われる名機。
その力は1990年代の湾岸戦争などの実戦で示され、武装に強力なガトリング砲を装備しているのが特徴である。
あの世界では200年経ってもなお現役なのか。(エンジンなどは時代相応の物に変えられてはいるだろうが)
「そうだ。この攻撃機`ウォートホッグ`とか言う攻撃機の前に陸戦ウィッチ達はこれまでと一転して`駆られる側`になってしまい、これまでに多数の死傷者も出ている」
校長曰く、強力な戦車部隊に加え、この機体の近接航空支援が行われるようになってからは戦線がズタズタにされつつあるの事。武官は深刻な顔で校長の言葉に続いて言う。
「これらの戦力の前にさしもの第31統合戦闘飛行隊「アフリカ」……いや、「ストームウィッチーズ」と言えども戦線を維持するのが困難となりつつある。
無論、各方面の部隊も同様だ。我が皇国としては不本意ではあるが、今次学年生を繰り上げ卒業させて各方面に補充要員として派遣することが決定された。
君に来てもらったのはその事を直接通達するためだ。君の本国での書類上の配属先は追って通達する」
「……分かりました」
ティアナは真剣な顔で武官の言葉を聞いていた。実戦に駆り出されるのは覚悟していたが、いきなりそれが訪れるとは……。
武官らの説明が終わると、自室に戻り、何時でも出れるように荷造りする。そこで写真立てを四個ほどカバンに入れる。一枚は親友のスバル・ナカジマとの、2 枚目は機動六課のメンバー全員との、三枚目はウィッチとしての友である黒江綾香や穴拭智子、稲垣真美との、そして最後の写真は飛行学校の級友達との物だ。数カ月の間という、短い期間であるが
苦楽を共にした仲間達との日々は楽しかった。色々な出来事もあった。それを思い、思わず目に涙が滲んでしまう。ここ数日の内に配属先も決まり、級友達との別れも訪れるだろうから、今は……。
−ティアナは窓に映る夕日の光を浴びて黄昏ていた……。
そして数日後、彼女に正式な辞令が出された。
かいつまんで表すと「ティアナ・ランスター、ここに扶桑皇国陸軍軍曹に任ズ。次いで、第31統合戦闘飛行隊への配属を命ずる」というものだった。
こうして彼女はアフリカ戦線に贈られる事となったのである。
真美と同僚となるので、お互いに改めて挨拶を交わし、共に横須賀から発進する山西「二式大艇」に乗り込む。黒江が見送りに来ている。
「ほんじゃティアナの面倒をまかせるぞ、稲垣」
「はいっ、任せてください大尉、ケイさんによろしく言っときますよ」
「そうだ、アイツにこれを渡してやれ」
「なんですか、これ」
「未来の胃薬だよ。結構効くんだこれが」
「ケイさんも苦労人ですから」
「それじゃ、頑張れよティアナ」
「ありがとうございます、綾香さん」
「何、私にできることといえばこれくらいしかないからな」
ちなみに「ケイ」とは同隊の隊長である加東圭子の事。黒江とは共に戦った仲であり、黒江の事を「黒江ちゃん」と呼んでいる。
もし、黒江のこの姿を見せたら爆笑する事間違いなしだろう。それほどにロリータ化していたのだから。
黒江は飛び立つ二式大艇へいつまでも敬礼を送り続けた。それはティアナたちの武運と生きてまた会えるようにという祈りが込められた敬礼だった。
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