―1999年。野比家。現在は学園都市から3人の学生が訪れている。
正確に言うと10数年後からだが、御坂美琴、白井黒子、初春飾利の3人が野比家で生活していた。

彼女らは学園都市とは全く違う町―昭和40〜50年代の面影たっぷりなススキヶ原でひとまず平和を謳歌していた。

―だが各国が喉から手が出るほど欲しがる`能力者`を放っておくわけはなく、たまたま美琴が自販機をいつもの通りに回し蹴りを加えた際に強めの
電磁波が無意識のうちに出てしまい、回路を故障させてしまった。自販機は蹴っただけでは壊れる訳はなく、疑問に思ったある修理担当者がその修理の事を
在日米軍に勤務している友人に愚痴混じりに話した事から、その自販機を故障させた女子中学生‐美琴‐が学園都市の能力者である事が知られてしまう。

米国は前々から「学園都市」に対抗戦と対抗せんと必死であった。美琴の時代においては「学芸都市」を作り、裏で非合法研究を行なっていた。
それ故、1999年の米国は学園都市の能力者を非合理的に連れてきて『モルモット』として研究する、冷戦期の思惑がまだ健在であり、美琴は運悪くその米国のターゲットとされたのだ。




―  美琴達がやって来てからおよそ二週間後のある夜 

月もない闇夜を数機のヘリが飛んでいく。大仰極まりないが、兵員輸送用と戦闘ヘリだ。
目的は米軍の最新装備で固められたこの小隊で、民家にいると思われる`能力者`を確保すること。アサルトライフルや麻酔銃を以てして作戦に当たった。極秘任務故、日本政府にも知らされてはいない。
米国の野望のために。



「A小隊はここだ。B小隊はこの地点。ターゲットを確保次第、撤収する」
「随分簡単ですね」
「馬鹿者、目標を甘く見るな。`学園都市`の能力者だぞ。何が来るかわからん……被害は覚悟しておけ」
「ラジャー」
「では作戦を開始する」

彼等は市内では装甲歩兵戦闘車で移動、野比家の背後を突くようにして作戦行動を起こす。
午前2時、町が静かに眠る中、それは始まった。作戦に当たって、周囲の民家には国や区が何かかしらの手で工作し、ほぼ無人としている。静かに侵入し、目標がいるであろう二階に歩を進めるが……




「やっぱりこう来たか。スネ夫からの連絡は確かだったようだね」
「こんなこともあろうかと、ドラミから護身用にもらっておいて正解だった」
「確かにね」

長い階段を登り切った先にはリボルバー式の銃(ただし、ひみつ道具である麻酔銃の類だが)を持ったのび太が居た。
着替えるほどの時間がなかったのか、寝間着姿のままだ。いくらこの時代の最新装備を来ていようが、22世紀の銃弾を防げる道理はない。
躊躇なくのび太は銃の引き金を引いた。

銃声には見合わない可愛らしい`ヒロポロン`という音色が響く。ドラえもんたちはスネ夫が夜間訓練でもないのに、米軍のヘリを複数目撃したことと、ある一人の男からの連絡に
でのび太に事態を通報。迎撃準備を行なっていたわけである。


―別働隊が侵入していた隣の部屋では……

「まったく……こんな夜中に侵入するなんて……無粋な連中ですわね」

白井黒子が得意の空間移動能力を駆使した金属矢や体術で大の大人、それも訓練を受けた軍人たちを拘束していく。見事な動きだ。瞬く間に3人を軽くのして行く。こちらも寝間着姿である。美琴は外の連中をのして来るとか言って、外で戦っている。

「アンタ達、こんな夜中に襲ってくるなんていい度胸じゃない!!手加減なしでやらせてもらうわよ!!」

美琴はとっさに電流を腕に集め、雷撃の槍を形成。それを投げる。余波だけでSEALSの隊員たちは吹き飛ばされ、さらに道路の砂鉄で剣を作り、ボディアーマーを切り刻んでいく。

黒子は自分と`お姉さま`がこれだけ派手に戦っているのにまったく騒ぎになる様子もない事に疑問を抱く。

(おかしいですわね……お姉さまがこれだけ派手にやっているというのに全く騒ぎにならないですって……?)

「初春!この人達の装備から何処の輩か分かりましたの?」
「米軍です。それもこの時代にこれだけの装備があるということは……特殊部隊……地理的に`Navy SEALs`だと思われます。」
「Navy SEALs……随分と大げさですわね」

米海軍の誇る特殊部隊をたかがこんな民家の制圧に投入したというのか。目的はだいたいは察しがつくが……、幾ら何でもオーバーではないか?
黒子はそう思いながら、米軍の精鋭たるNavy SEALsと渡り合っていく。米軍の目的は‘学園都市‘の能力者を拉致する事。


標的は主に御坂美琴。最強の発電能力者を手に入れ、能力を解析する本国の思惑のもとに派遣された彼らだったが、
彼ら以上に射撃能力に優れ、こと銃に対しては稀代の才能を持つ野比のび太の前にあっさりと倒されていった。

「白井さん、伏せて!!」

のび太の声で黒子は地面に伏せる。刹那、銃撃の音と共にSEALsの隊員が地面に倒れていく。ドリームガンの弾丸は切れたらしく、別の実弾銃に持ち替えている。`M1873`「コルト・シングル・アクション・アーミー、通称「ピースメーカー」。(これはかつてのび太が西部開拓時代の米国のモルグ街という町で実戦を経験した事があり、その戦いの際に村長から手渡された回転式拳銃をポケットに入れたのを気づかないまま現在に帰還したため。
弾は消費していたのだが、スネ夫の親戚のツテでいざという時のために補充しておいたのだ。無論、普通に考えると銃刀法違反になるが、のび太の母である玉子は机にしまわれていたこの銃を`のび太が新しく買ったモデルガン`だと思っており、そのままにされていた。なので今回使用できたのだ)

「……殺したんですの?」
「いえ、急所は外してあります。」
「それにしても随分と手馴れていますわね」
「実戦の経験がありますから。`弾は少なめ、狙いは正確に`が僕のモットーです」

こう自負するとおり、見るからに旧式の回転式拳銃で軍人たちの防弾チョッキの及ばない部位を的確に狙い撃ち、数発で数人を行動不能に陥らせたのは流石としか言いようがない。学園都市の警備員

アンチスキル)
でもここまで鮮やかに制圧できないだろう。
黒子は小学生とは思えないほどに戦いなれたのび太に頼もしさと同時に末おそろしさをも感じた。




SEALsの隊員たちは米海軍の精鋭の誇りをこれでもかと、ボロクソに潰されていた。厳しい教練を潜りぬけ、世界最強の米軍の中でも精鋭と扱われ、自分たちもそれを誇りとしてきた。それが、今。

―数人の年端も行かない子供と狸型(!!)ロボットに手も無く捻られているのだ。

「ヌォォォォォォ!!なんでSEALsの俺達がJAP(ジャップ)ごときに……それもエレメンタリーに行ってるようなガキにのされてんだよ!!」

一人の隊員が日本人への侮蔑語である「JAP」を口走りながらM16アサルトライフルを乱射する。彼らは受け入れられないのだ。制圧する側であるはずの自分たちが`制圧される側`に回っている事を。精鋭である自分たちが子供に捻り潰されつつある事を。それもかつて米軍が完膚無きまでにたたき潰したはずの日本人に。

「あなた方に敗因があるとすれば……たった一つ……そう。シンプルな答えですわ……『あなた達は私達を怒らせた』


黒子はどこぞの某有名少年漫画の往年の名台詞を自分なりにアレンジしつつ言った。兵士を取り押さえながら。実にクサイ台詞だったが、その場の雰囲気で言いたくなったかもしれない。室内の兵士たちは大体は取り押さえたが、まだ外にもいるはずだ。

不意にプロペラ音が響き渡る。どうやらヘリで強引に室内を制圧するつもりか。

「させるか!!」

のび太は自室の窓の方に向かう。拳銃で戦闘ヘリに戦いを挑むのか。あまりの無謀さに黒子は制止しようとするが……。

「ドラえもん!!」
「あいよ!!」

ドラえもんは黒光りする一丁の超大型拳銃とその専用弾、スプレーのような物を手渡す。のび太はすぎさまスプレーを体に吹き着け、素早い動作で拳銃に弾を装填する。

ヘリは美琴の超電磁砲の射程外から制圧射撃を加えようとしている。

のび太は弾を込めて、ヘリの機動から未来位置を予測、銃を構える。映画「ダーティ・ハリー」で主役が取るような、両腕で銃を保持し、足に踏んばりを入れる、大型拳銃特有の射撃体勢である。

「のび太君、どうするつもり!?」
「耳をふさいで!鼓膜敗れますよ!」

机から乗り出し、銃を構えるのび太に下から見上げる格好の美琴がギョッとする。当然だ。いくらなんでも戦闘ヘリを拳銃で落とそうなど無謀もいいところ。下手をすれば蜂の巣にされるのは眼に見えている。
しかしのび太の表情は冷静そのものだった。美琴に耳を塞ぐように促すとのび太は飛来したAH-64「アパッチ」に対して、銃の引き金を引く。

―その瞬間。戦車砲、もしくは艦砲かと見間違うような閃光と轟音が辺りに響き渡った……。美琴も黒子も己が目を疑った。戦闘ヘリが拳銃の`銃弾`一つで火達磨になって爆発したのだから。

「ば、化物じゃない……」

美琴は唖然としながらそれだけ言うのが精一杯だった。のび太の持つ銃は艦砲射撃と見間違うごとき威力を発揮し、アパッチを塵に返したのだ。米軍の誇る兵器を一瞬で地獄に堕とした張本人であるのび太は当然と言わんばかりに銃を鮮やかに回転させ、ホルダーにしまう。さながら西部開拓時代のガンマンだ。

「なんですの……その銃は……?」

あまりの光景に驚きを隠せない黒子にのび太はこう答えた。一言だが、この銃の力を示す単語を以てして。これぞあまりの殺戮兵器故に、ドラえもんが封印していた人類史上最大最強の拳銃`ジャンボガンだった。

「`ジャンボガン`。この時代のどんなMBTも…たとえ学園都市製のものであっても一発で吹き飛ばせる、ドラえもんの道具ですよ」
「……!!」

黒子も、この光景を間近で目撃した初春もその単語に絶句する。とんでもない破壊力を持った超兵器をなぜ一介の子守りロボットが……。黒子は底知れぬドラえもんのもつ道具の力に畏怖さえ感じ、立ち尽くしていた。







‐ドラえもん達に接触する任務を帯びた地球連邦政府諜報部部員―コードネーム「ケルディム」―はのび太の学校の教生として潜り込み、のび太達にそれとなくニュアンスを匂わせる形で注意を引きつけ、ある日の放課後、遂に接触するチャンスを得た。




「先生はなんで鉄人兵団のことを知っているんですか?僕達以外には誰も知らないはずで、誰にもしゃべっていないはずなのに」

のび太のこの疑問に彼は答えた。自分がなぜ鉄人兵団の事を知っているのか。その理由を。

「野比君、それは私が`ドラえもん`と同じタイムトラベラーだからさ」
「先生が……未来人!?」
「ああ。ただし彼よりもずっと後の時代だが」
「なんでそのことをあたしたちに話したのですか?」
「私の故郷の時代は2199年。鉄人兵団と戦争中の世界だ。政府は兵団と戦うのに情報を欲している。君たちの力が必要なのだ。だからこうして話している」
「何でですか?軍隊や情報部がいるんじゃないですか?何でぼくたちなんですか!?しかもまだ子供なんですよ〜!?」

しずかとスネ夫の言葉に彼は答えた。兵団の母星「メカトピア」は軍事クーデターで完全に専制かつ統制国家となっていて、地球連邦の諜報部の能力を以てしても情報は近隣の惑星国家や国内でのレジスタンスからの情報提供者から時々伝えられるものが頼りであると。地球に侵攻した奴らの動向は如何様にも探れるが、行動パターンなどは読み切れないために軍もうかつに行動できないと告げる。

「君たちが過去に兵団と戦ったという言い伝えが君たちの子孫達に伝わっている。政府は軍の反攻作戦に君たちの力を借りたいのだ。兵団と渡り合った君たちなら……と」
「そんなの勝手すぎるわ!自分達で戦争やればいいのに、過去の人間に頼るなんて……」

しずかの憤慨は最もであった。本来関係ない人間を、それを死んでいるはずの人間まで巻き込んでまで戦争に勝ちたいのかと。確かに兵団は憎いが、自分達が助太刀する義務はないと。血みどろの争いは好まない彼女の心が垣間見えた。彼女は戦うこと自体には躊躇はないもの、未来の人間に利用されてまで戦う理由はない。

「でもしずかちゃん、僕達は前にヒカリ族の人たちをギガゾンビから助けてる。それにパピ君やペコの時もそうだよ。僕達はいつだって誰かために戦ってきた。今回はぼくたちの子孫達を、地球を守るために戦う。それだけだよ」

のび太は自身の未来の運命を知っているためか、未来の自分の子孫達のために戦うという理由を見出していた。2199年ならば野比セワシの更に孫か曾孫の代になっているはず。自身としずかの子孫である彼等を戦火から守りたかったのだ。冒険の先頭に立つこともある彼にとってこれ以上の理由はいらなかった。

「そうだよみんな」
「話は聞かせてもらったわ(もらいましたわ)」

「ドラえもん!それに美琴さんと黒子さん……どうしてここに?」
「君たちの帰りが遅いから君たちのママたちに様子を見に言って欲しいと頼まれてね」
「あたしと黒子はそれにくっついてきたわけ」
「君が`超電磁砲`御坂美琴か」
「ご存知ってわけね」
「ああ。有名だからね君は」

彼の言葉に美琴は苦笑する。数百年後の世界にまで自分が有名というのは予想していたとは言え、こうして言われるとなんともいえない。

「あなたはどうして連邦政府の命を受けているのですか?それを僕は知りたい」
「ドラえもん君、それは詳しくは言えん。政府関係者と言うことくらいしか言えないが、骨川くんに米軍のことを告げたのは私だ」
「そういう事ですか」

ドラえもんは悟った。彼の正体を。連邦政府の命で動く人間、それもこのような活動を行なっているのは「あの方面」しかないと。普段は別の仕事についているあの……。

「要するに兵団の情報が欲しいから、この子達に政府や軍に協力しろってことでしょう?」
「そういう事になる。過去の人間である君たちを戦争に狩りだすのは、子孫の世代の我々としては忍びない。だが……兵団に打ち勝たなければ地球人のこの地球圏で生きる権利は踏みにじられる。君たちにはなんと詫びてもしたりない。だが、今は地球連邦政府の……いや、未来の人々の願いを聞いてくれ!!頼む…っ!」

彼は自身のプライドは愚か、恥も外聞もかなぐり捨てて、ただただドラえもん達に頭を下げる。この彼の全てをなげうった行為はドラえもん達に未来世界への協力を決意させた。

「……分かりました。この場にいる全員を代表して、あなたがたへの協力をお約束します」
「……………ありがとう」


ドラえもん達は彼のこの誠意と、世界のためには何もかも捨ててでも行動するという、決意のこもった行動に心を打たれ、全員の意思を確認した上で、ドラえもんは地球連邦への協力を確約した。

「あ、もう日が暮れるよ」
「母ちゃん怒るな……」
「ぼくも」
「僕も」
「玉子さんが怒ると一時間じゃ済みませんからね……苦手ですわ」
「もう二週間になるけど、あれは未だに慣れないのよね……」


のび太たちは母親の怒りに触れる事を何よりも恐れている。その証拠にのび太とジャイアンなどはそれぞれの母親への恐ろしさでガタガタ震えている。美琴と黒子も野比玉子のカミナリは苦手なようで、顔を見合わせて冷や汗をかいている。




「それは心配ない。私が親御さん達になんとか言っておくよ」
「ありがとうございます〜!」

のび太とジャイアンはこの時、救世主を見るような目で彼の姿を仰いでいたという。こうして、ドラえもんたちは改めての連邦政府からの正式要請に答え、再び未来に飛んだ。
ドラミは念のためにドラえもんのかつての親友へ連絡を取る。それに答えたのが……

























‐2199年、地球連邦軍は安全保障会議で決定されたハワイ攻略に向けて戦力を結集していた。


「新造艦までも駆り出すか……」
「兵力をすべて動員せよという上層部の司令ですからね……」
「果たしてこれが吉と出るか、凶と出るか……」

完成間もない主力戦艦級後期型までも作戦に駆り出すというのは異例のことであった。これはハワイの戦いは乾坤一擲の大作戦である故に戦力は多いほうがよく、たとえ質が数合わせに近くとも動員される事を示していた。

先行して発進した空母「ワリャーグ」を旗艦とした囮艦隊が目標を引きつけ、偽電も打つ。その間に主力艦隊及び航空隊が発進し、ハワイを痛撃し、攻略するという段取りだが、すべてが段取り通りにうまくいくとは思えない。
兵団のハワイの司令は名将と言われる「ミシチェンコ」少将が赴任したという未確認情報もある。一筋縄ではいかない相手なのは間違いない。

呉の地方総監部(隠語で鎮守府)の長の将官は中部太平洋付近に向かって、軍港を次々と出港していく名だたる連邦宇宙軍と海軍の軍各艦艇と中部太平洋沖の基地へ向かう航空隊を見送りながらそう呟いた。







中部太平洋沖で部隊を再編した連邦軍は囮艦隊が作戦行動を開始したと同時にハワイへ進軍。
同時に上層部により「作戦行動開始」が伝えられた。これ以後、この作戦は「H作戦」と呼称され、海軍艦艇を補給艦含め数十隻、宇宙軍と空軍の太平洋方面軍主力を総動員し、
陸軍なども相当数の師団が動員された一大軍事作戦が開始された。

ドラえもん一行は地球連邦軍遠征艦隊の総旗艦であり、山南修少将座乗の「主力戦艦級第25番艦`土佐`」に乗艦。その内のドラえもんと美琴は作戦室にて作戦会議に参加していた。





‐土佐 作戦室

「それで、君は兵団がこの方面から侵攻してくると踏んでいるのかね?」
「そうです、山南提督」

この艦隊の指揮を取る山南に堂々と意見を具申するのはドラえもんであった。
過去に、兵団と直接交戦したという経験は連邦軍の軍人たちをも納得させるのに十分な働きを示し、連邦軍の将官達も一目置いている。
彼は過去の経験則から兵団の取り得る行動を十分に予測する事が可能だった。それがこの作戦で過去から呼ばれた理由だった。

「敵はまず、僕達を物量で押し潰そうとするでしょう。ですから一網打尽にできる火力が必要です」
「物量というと……大体どのくらいなのかね」

一人の高官がドラえもんに尋ねる。ドラえもんはハッキリと答えた。誇張などではない物量を。それは物量戦に慣れた連邦軍でも緊張を隠せないほどの数字だった。

「軽く見積もっても数十万。下手をすればもっと多数でしょう。僕達が前に戦ったときは文字通り空が青く見えないほどでしたから。だいたい、空が3、敵が7の割合で」
「まるで坊ノ岬沖海戦やカルネアデス計画のようだな」

ポツリと誰かが呟いた。連邦軍は度重なる戦乱の中で圧倒的多数の敵と戦った経験がある。
特に今持ってギネスブックの記録に乗っている天文学的単位の敵と戦った後者は当時の連邦軍太陽系直援艦隊(太陽系を直轄する艦隊。本星防衛艦隊はさらにその一分である)が主力を総動員して臨んだ作戦。8000隻以上の艦隊が向かい、生き残れたのはその半数以下との報告が入ってきていた。
移民船団へ入ってきた通信によれば、艦隊はあと数年は帰って来られないとのことだが、これらの戦いを想起させるほどの数だった。


「まさかそれほどまでとはな……」
「もちろんこれらはほんの一部に過ぎません。艦隊の火器で落とせる数はどうなのです?」
「砲塔の拡散弾頭やミサイルを考慮に入れてもそこまではとても落とせないな。機動部隊の攻撃も加えて初撃でどの程度落とせるか」
「とにかく最初の攻撃を凌いで下さい。その後は各個撃破に持ち込めればこっちのものです」
「あいわかった。それで御坂君、君はどうするつもりかね」
「私は揚陸部隊に加わります。奴らとは一度戦っていますから手の内は把握してます」

美琴は最前線で戦うとの意志を示した。この`時間`は『あの馬鹿』‐上条当麻‐が命がけで守った結果、生まれた世界だ。ならそれを守るのが自分の役目だと言わんばかりに。

‐元居た時間からそんなに経たないうちに起こったっていう学園都市とロシアとの戦いの中心にアイツは関わった。私はアイツの事を何も知らなかった。アイツが記憶を無くしても守りたかったモノ……それは……。

美琴の心中は複雑だった。自分が本来辿るはずのほんのちょっと後の運命を知ってしまった事。自分がどんな行動を取るのか、そして上条当麻がその戦いで最終的にどうなるのか。大まかにだが、知ってしまった。それを見た瞬間、全身から血の気が引いていくのが分かった。出来るものなら運命を変えたい。だが、そんなことをして`アイツ`が喜ぶのか?
その問答を繰り返す内に一晩明かしてしまった事もあった。そしてたどり着いた答えが
`アイツが守った世界を今度は自分が守る`だった。それが今の自分が出来る事だと決意した。それがこの一言に現れていた。

「……そうか。これは本来ならばこの時代の人間である我々の仕事だ。だが、過去の人間である君達をこうして戦わすしかない。……すまない」

山南は美琴とドラえもんに頭を下げた。それは今の連邦の窮状が過去の人間ですら戦いに狩りだす始末であることを悔やむ彼の姿勢が妙実に示されていた。これは彼なりの過去の人間を戦いに狩りだしたことへの贖罪だった。ドラえもん達は地球連邦に信頼を置く事を躊躇っていたが、これがきっかけとなって連邦を信頼するようになる。




正式に作戦が決まり、山南から全艦隊への「人類の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ」と訓示が行われ、全員が覚悟を決める。これに先立って、日本の参謀本部には「敵艦見ゆとの警報に接し、連合艦隊はただちに出動これを撃滅せんとす。本日天気晴朗なれども波高し」とかつての大日本帝国海軍同様の一文を打電した。

「全艦、Z旗を掲揚せよ」

この時期より地球連邦軍の各艦隊には大日本帝国海軍色が色濃く現れるようになった。それが日露戦争以来の伝統である、Z旗の掲揚である。各部隊に日本の艦船の名を継ぐ艦船が多いのも連邦政府の実権の半分を日本系勢力が握っているためである。
そして軍艦旗には地球連邦のそれに加え、十六条旭日旗、Z旗が掲げられたのもその雰囲気を強めていた。艦隊は宇宙艦艇も多いが、水上艦に足並みをそろえるため、水上航行能力を備えた宇宙艦艇は水上航行を行なっている。

正規空母や戦闘空母を中心に輸形陣を組んでの艦隊は威風堂々としたもの。囮艦隊と併せると凄まじい大艦隊が航行している。だが、その様子は既に鉄人兵団のハワイ基地に察知されていた。どこまでが囮で、どこからが本命であるかも。




‐ハワイ

「司令、敵の大艦隊がアッツ島に向けて侵攻中!!」
「狼狽えるな、敵の狙いはアッツ島ではない。ここだ」
「なぜそう言い切れるのです」
「見ろ。敵の前衛には空母が3隻しかいない。後衛に主力空母を温存するには明らかに見え透いている。子供でも分かるほどな。それに前衛と後衛の間は開いている。分離しますと言わんばかりに」

宇宙空間から取った写真からすぐに地球連邦軍の真の目的に気づく「ミシチェンコ」。兵団がロボットである故の地球連邦軍に対する索敵能力の理はここで、
開戦時はミノフスキー粒子を逆利用し、敵のレーダー探知を逃れながらのこの宇宙空間からの空撮情報を基に奇襲を成功させている。それが地球連邦軍に対する強みであった。
ミシチェンコはハワイ防衛のため、ロシアから呼び寄せられた。そのためハワイ基地の駐留兵などからは優秀さが仇となって煙たてられており、同時に防衛部隊の司令官の一人として
赴任してきた「ミッチャー」からも快く思われていない。だが、その優秀さ、高潔さから彼に共感する兵士も増えてきているが……。

彼は「味方すら半分信用出来ない」状態での指揮を余儀なくされる。それは兵団にどう作用するのであろうか。吉か、狂か。


彼は不安を抱えたままで連邦軍の大部隊を相手に死闘を繰り広げることとなってしまう。彼にとっての獅子身中の虫は…。



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