―水爆は野比のび太の行動によって、無事解体された。のび太の卓越した射撃センスが可能にした出来事であり、まさに彼の才能が発揮された最良の時であった。

「まさか銃で水爆を解体するなんて……ずいぶん無茶をなされましたわね」
「僕としてもイチかバチかだったんですよ。上手くいってよかった」
「でもその銃、とても小学生に扱えるとは思えませんわ。どうやって?」

のび太は自身でもほとんどバクチに近かったというと銃をホルダーにしまう。黒子はのび太が銃を軽々と扱っていることに疑問を持つ。水爆に使われるボルトを外れさせるほどの大口径銃だ。反動などを考えればとても小学生に持てるはずもない。

「実はドラえもんの道具の『グレードアップ液』を使ってるんですよ。改良版ですから朝起きたときに吹きかければ効果は当分続くんで」
「あのお方、ずいぶん奇天烈な道具をお持ちですわね」
「まあドラえもんですから」

のび太はここで種明かしをする。実は朝起きた時にひみつ道具のひとつで、改良型のグレードアップ液をドラえもんに噴きかけられており、大口径銃でも軽々と扱えるようになっているとの事。そうでなければクリント・イーストウッドが「ダーティ・ハリー」シリーズで見せたようなS&W M29同様にマグナム弾を撃てる大口径銃を小学生が片手で撃てるはずはないからだ。

「何故そこまでして大口径銃にこだわるんですの?」
「ロマンですよ、男のロマン。戦艦の主砲だってどんどん大口径になったでしょう?そういうもんですよ」

のび太は強いものに憧れるのはいつの時代も男の共通事項であると言う。黒子も`風紀委員(ジャッジメント)`の同僚や警備員(アンチスキル)の中に銃に憧れる男子はいくらでもいたので、それはまあ理解できる。TVの特撮ヒーロー物が何時までも絶えないのもたぶんその為だろう。

「うんじゃ、この糸なし糸電話でドラえもんに連絡しておきます。……ドラえもん?僕。のび太。水爆は僕が解体したよ」
「ええっ?ドジでのろまな君が水爆を?」
「実に腹のたついいかただな!」
「いやあゴメン。どうも僕は口下手でいけない」

ドラえもんのこの一言は何気にひどい発言だが、ドラえもんはネジが一本抜けているせいなのかは分からないが、何故か口下手で時にのび太に追い打ちをかけてしまう。彼の個性なのだが、本来の開発用途を考えるといささか呆れてしまうところだ。黒子も美琴が呼んでいた`彼`の漫画でそういう場面があるのは知っていたのでやれやれと呆れてしまっている。

「銃で解体したのさ。コルトパイソンでね」
「こういう時の君の度胸には何時もながら感心するよ。流石だね」
「非常時に奴に立つからね。鍛えてるのさ。それじゃ司令部に打電をお願い」
「あいよ」

連絡を終えると黒子ともどもミッチャーを部屋へ入ってきた仮面ライダーV3とXに引き渡す。彼らものび太が銃で水爆を無力化したのを知らされると驚きつつも、のび太を褒めたたえた。

「まさか銃で無力化したとは。オリンピック選手でも出来なさそうなことだな……すごいよ君は」
「まあ銃の腕は鍛えてますので」
「こいつは俺らに任せておけ。君たちは別のところの救援に行ってやれ」
「了解ですの」

黒子はのび太を連れてテレポートする。水爆を無力化したとは言え、依然と激しい戦闘が続いているのだ。人類に取ってはここがまさに正念場であった。





−前線では依然として兵団と地球連邦軍の激しい戦闘が続いていた。ホノルル中心部はまさに激戦地。小銃の火線や野砲の砲撃、高射砲などの弾丸が入り交る阿鼻叫喚の地獄絵図はまさに`戦争のはらわた`であった。

「こちら第25歩兵師団!!兵力の三分の一を喪失!!指揮官は主席・次席共に戦死!!至急救援求ム!!」

地球連邦軍の歩兵達は各々に戦った。小銃を片手に銃撃戦を行い、時に白兵戦をも行った。戦車などは陸上戦の花形であるが、歩兵の戦いもまた重要であった。時には先程の部隊のように運が悪いモノも出てくるが、これも現実である。


「中佐!!ウィッチの部隊が航空支援に来てくれるそうです!!」
「聞いたか!各員奮起せよ、これからだぞ!」

地球連邦陸軍第三軍集団。この戦闘でスポットライトを浴びる部隊である。地球連邦陸軍の中ではリベラル派に属する部隊で、今回の戦闘に従事している部隊の中では、宇宙軍の空間騎兵隊や空軍の空挺師団を除いては数少ない`正規の陸軍部隊`だ。激戦地で従事している部隊なので戦死者も多く、現在までに部隊定員の六割程度まで兵力をすり潰していた。そんな彼らに天使がやって来た。航空支援だ。陸戦での航空支援というのは大助かりであり、敵にとっては悪魔である。

疲労困憊の彼らの前に姿を見せたのは加東圭子率いる航空ウイッチ部隊。
ホ203やホ203などの日本陸軍の大口径航空機関砲を装備した扶桑陸軍ウィッチなどに混じってなのはの姿もあった。なのはは今回の戦での唯一の`時空管理局の空戦魔道師`であったが、今の地球連邦では魔力増幅用のカートリッジの調達に難がある(時空管理局がフェイトなどがいるのにも関わらず地球へのカートリッジの継続的提供を露骨に渋った。そこでスバル・ナカジマがもたらした『新暦 75年の次世代型カートリッジ』を基に連合軍の協力を得て生産に取り掛かったが、モノがモノだけに生産の立ち上がりはいいとは言えない状況であった。
なのはとスバルはこの戦闘でのカートリッジの一日辺りの使用量を普段の7割から6割に制限せざるを得なくなっていた)ので、カートリッジの節約を兼ねて、レイジングハート・エクセリオンを刀剣モード(地球連邦軍の技術陣が自らの技術でフェイトのバルディッシュ・アサルトの予備パーツを組み込んだ改造をしてしまったせいで付与されてしまった、いわば`管理局非公式の改造モード`の一つ)にしてある。


「こちら`扶桑1番`。目標を知らせよ」
「こちら`ブラボー1`。あのトーチカを破壊してくれ。アレのせいで進めん」
「了解。これより航空支援に入る」

加東圭子は編隊を巧みに操り、戦場を駆け抜けた。編隊は大口径砲による掃射を浴びせトーチカを破壊しせめる。空中に上がってきた敵も各自で落としていく。なのはも慣れぬ白兵戦闘ながらも穴拭智子への憧れからか一所懸命に挑んでいる。フェイトが見たらなんというのだろう。

「俺達も援護できんのか!?」
「駄目だ。対空兵器はほとんど使い果たした」
「シット!!なんてこった」


見ていることしかできない歯がゆい状況に思わず舌打ちする兵士たち。彼女らに上空を任せながら彼らは前線突破を目指したが、一抹の不安が彼らをよぎる。
市街戦の常道といえる姿を見せぬ暗殺者への不安だ。銃器が発達した時代で兵士たちを最も怯えさせるモノの一つ。狙撃手の銃口に怯えながら兵士たちはひたすら進んだ。この戦いの最後の決着へ。






















「こいつがこの世界でどの程度効果を発揮するのか……」

のび太はドラえもんと合流したが、ドラえもんはある「道具」を出していた。
一見すると1990年代末には既に時代遅れとなったテレフォンカードにも見える一枚のカード。絵柄はドラえもんと、彼に似たようなロボットたちが描かれている。

「ドラえもん、それって……!」
「そう。親友テレカだよ。最もこの時代にみんながいるかもわからないけどね」
「ずいぶん懐かしいね。僕もその道具の存在自体忘れてたよ」
「ひどいなそれは」

ドラえもんが取り出したこのテレフォンカードのような道具は「親友テレカ」。超古代から伝わる`伝説のひみつ道具`。その力は凄まじく、色々と謎も多い。それを使えるのはドラえもんとその親友たちのみである。のび太もしばらく見ていないので、その存在自体を忘れていたのである。だからそう言ったのだ。

「前に美琴さんにも一回見せたんだけど、そう言われたよ。`あたしが小さい頃にアニメの声が変わってからはアニメの中での存在が無かった事になってね。いつの間にか忘れ去られてたなぁ……`って」
「まあね。けどぼくは忘れていない。友情ってのはそう簡単には消えない。きみがジャイアン達と大人になっても友達でいるようにね」
「まあね。それは奇跡を起こせるんだろう?だったらそれでみんなを呼べるんじゃ?」
「連絡は取れるはずだから……やってみよう」

ドラえもんは久しぶりに自身の最大の道具「親友テレカ」を使用した。すると……

『ドラえもんか!?何やってんだよテメエ!!』
「うわぁ!!その声はキッド!?」
『俺はな。これからテメエを探そうとしてたところだぞ。どこで油売ってやがる!!へちゃむくれを心配させんな!!』
「いやあこれには止むに止まれぬ事情が……」

ドラえもんが連絡をとれたのは親友達の中では`アメリカ人`的性格の持ち主で、彼と最も縁が深いドラ・ザ・キッドであった。(ちなみに尊敬する人はチャック・イェーガー氏とのこと)彼の国籍はもちろん米国。普段はタイムパトロールで働いている。性格はドラえもんの妹のドラミから「ガサツ」と評されている。状況から察するにドラミから何か頼まれているようだ。

『事情はあとで聞いてやる。どこの時代にいやがるんだ』
「2199年」

しばし沈黙した後、キッドはこう言った。

『はぁ?もういっぺん言ってみろ』
「だから2199年だってば」
『……74年後じゃねえか!?なんでんな未来に来てるんだよ!!』
「しょうがない事情があるって言ったろ。とにかくこっちに来てよ。今大変なんだから」
『どういう事だ?』
「僕がいる所、戦争の最前線なのよ」
『お前、冗談もたいがいに……』
「冗談じゃないって。とにかく事情は後で話すから来てくれ」
「分かった。他のみんなにも連絡とる」
「頼む」

「どう?」

のび太からの問いにドラえもんは答えた。ドラ・ザ・キッドに連絡は取れたと。するとキッドはドラミと共にいたようだとドラえもんはいう。のび太は状況を理解したようで、にやついた。

「……鈍いなぁドラえもん」
「な、何が」
「ドラミちゃんとキッドは同じ所にいた。つまりドラミちゃんは君がどこに行ったのか分かって、心配でどうしようもない。そこでキッドに連絡とった。キッドはドラミちゃんが気になってるからドラミちゃんの力になろうとしてる。こうさ」
「うぬ!!キッドの奴、いつの間に僕の妹を誘惑して……」
「……ふう。本当に鈍いんだから君は。それに2人とも両思いだからいいじゃない」
「なぬぅ!!」

のび太は自身はともかくも、他人の恋愛には鋭い。それでドラミの恋愛に気がついていたのだろう。憤慨するドラえもんを鋭く諭すと戦闘準備を進める。
弾切れのパイソンに代わる得物はこれまた彼の好みの銃、それも西部劇で見る、コルト・シングル・アクション・アーミー(ピースメーカー。バントラインスペシャルとも言う)である。

こうしてのび太はハワイでの最後の戦いに赴く。弾を装填し、西部劇でよくみるホルダー付きのベルトに銃を入れて。

「さて……基地司令がそろそろ出るはずだ。決着をつけてやる」



「……伏せて!!」

のび太はとっさに「コルト・シングル・アクション・アーミー」を腰だめで撃ち、敵を倒す。不意打ちをしようとした兵士は頭を頭部を撃ち抜かれて`死亡`した。
のび太が救ったのは同日に戦線に復帰したばかりであった穴拭智子であった。

「ありがとう。助かったわ」
「いえいえ。やっと復帰されたんですね」
「恥ずかしい話だけどね。魔法力を限界まで使っちゃって……圭子の奴には礼を言っといたわ」

智子は3日間ほど野戦病院で療養していた。この日が奇しくも戦線復帰後最初の戦いであった。なので多少勘が鈍ったようだと言う。

「少佐とは知り合いなんですか?」
「昔の同僚よ。若い頃に同じ釜の飯を食べた仲。圭子の方が昇進早かったけどね」

扶桑海事変当時、智子と圭子は同じ飛行第一戦隊所属で、同階級であり、互いに切磋琢磨する仲であった。この時から扶桑陸軍の`三羽烏`のメンバーに数えられていた両者は戦闘スタイルの差で圭子のほうが怪異(ネウロイ)の撃墜数が多く、昇進も圭子のほうが早かった。だが戦勝式典で事故で墜落してしまう失態(奇しくも、彼女に相当する史実の加藤正治が関東軍特種演習で航空事故死したのと一致する。彼女はこの事実に顔面蒼白となったという)を演じてしまったせいで上層部からの`受け`が悪く、軍の宣伝映画(後世の観点から見れば対ネウロイの戦意高揚プロパガンダ映画)たる「扶桑海の閃光」でも戦闘スタイルの見栄えの問題で圭子は映画の主演(トップエースなのにも関わらず)を逃してしまった。(それで中世の姫武者的な容貌と戦闘スタイルを持つ智子が映画の主演に選ばれたのは扶桑陸軍内部では周知の事実)それで若干ながら悔しい思いをしたと圭子は語っている。その後智子はスオムスで戦功を重ね、1943年に第507統合戦闘航空団の隊長を退き、本国勤務となって事実上の引退(その際のスオムスでの便宜上の階級は大尉であったが、本国では中尉)。圭子はストームウィッチーズの指揮官として手腕を奮っていた。今回の騒乱のドタバタは二人に10代中盤程度の肉体と最盛期の力を再度もたらしたわけだが、
本来なら決してあり得ない事に最も歓喜したのは実は加東圭子であったという。




「この姿になって一番喜んだのは多分圭子よ。いつもマルセイユ大尉と一緒に戦いたかったって言ってたから」
「そういえば少佐の本当の年って……?」
「20代の半ば。私や黒江よりも年上だったから。手紙にはいつも`もうちょっと若ければマルセイユやみんなと一緒に`飛べた`んだけど`……って描いてあったわ」

智子はのび太に結果的に`若い姿`に戻れて一番喜んだのはたぶん、加東圭子であると言う。圭子は`早く`生まれすぎた`がためにマルセイユなどの面々と一緒に現役として空を飛ぶ事は叶わないと思っていた。25歳を迎え、既に飛ぶのが精一杯なほどに魔力が減退していたからだ。そんな経緯で彼女は戦線を地上勤務者として支えてきた。しかし今回の争乱は圭子にある意味福音をもたらした。連邦軍の`若返り`作戦で最盛期の肉体と魔力が再び与えられたからだ。あまり若返りすぎても困る(黒江のように13歳まで若返ると服などで色々と苦労がある)が、運良く14歳頃の肉体年齢であり、満足いく結果となった。智子は「自分が飛べなかったこの一週間あまりは圭子がなのはの長機として面倒を見ているが、圭子ならまた違った意味で勉強になるだろう」と言う。

「圭子と一緒に飛ぶのはあの子にとってプラスになると思うわ。援護とか上手いから圭子は」
「信頼してるんですね」
「ま、まあね。……状況は?」
「敵の司令官がいよいよ出てきました。僕はそれを討ちに行くところです。一緒に行きます?」
「ええ。ちょうどいいわ。リハビリにもなるし」

こうしてのび太は智子と共に基地司令を討ちに行く事になった。のび太と即的でコンビを結成した智子であるが、前途は多難であった。それは……

空に穴が開き、馬とそれに乗った何かが現る。智子は思わず身構えるが、のび太はそれを制する。

「な、何!?敵!?」
「いや待って!!あれは……!!」

のび太はすぐにその正体を悟った。現れたのはドラえもんの親友のドラ・ザ・キッドであった。彼は高所恐怖症であるが、一瞬なら我慢できるので登場の時だけはかっこよく現れるというのがある意味のお約束。(ただし本人曰く、仕事柄我慢しないといけない局面も多いので低空から現れるようにしているとか)

「ドラ・ザ・キッド、ただ今到着!!久しぶりだなのび太!!」
「久しぶり。高所恐怖症は治ったのかい」
「ば、バーロー、それを言うなよ……今だって腰抜かすほど怖かったんだよ」
「ハハハ、変わってないね」
「うん?なんだよのび太、お前の隣にいるヤマトナデシコな美人さんは?デートかよ?」
「え、ええ!?」
「ち、違うって。今状況説明するから」

この時の智子の服装はいつもの巫女装束と小具足姿。キッドは日本的美人を見たことないのでそう言ったのだ。智子は図らずしも顔を赤らめる。`美人さん`と言われた事は初めてらしく、嬉しいのと恥ずかしさが入り交じっている心境だ。のび太は慌てて状況を説明する。

「じつはカクカクシカジカで……」

実に簡単かつ省いた説明だが、キッドはおおよそを理解した。この時代は戦争の方が平和な時期より長い`戦乱に明け暮れる`時代である事。鉄人兵団の事、そして智子の事を。

「……だいたい分かった。要するにそういう事だろう?」
「そういうこと」

……と、どこぞの仮面ライダーのような台詞を吐くキッド。左腕にはドラ焼きを持っている。すると智子は我が目を疑った。小豆の味と甘みが売りなはずのドラ焼きに事もあろうに、アメリカらしい味のケチャップとマスタードをかけ始めたのだ。これに智子は思わず物申す。

「ち、ちょっと!!何やってんのよアンタ!!」
「見りゃわかるだろう。ケチャップとマスタードかけてるんだよ」
「んなもん小豆に合わないわよ!!ゲテモノよゲテモノ!!どうしたらそういう結論になるのよ!!」
「るせぇ!!これが美味いんだよ!!」
「正気の沙汰じゃないわね!!ドラ焼きを冒涜してる!!」
「んだとぉ!!」

と、モメ合う智子とキッド。キッドにはラブコメ属性があるのだろうかとのび太は2人のやり取りを見てそう思った。









−司令部に殴りこみ、司令官と対峙する野比のび太は拳銃を彼に突きつける。

「あなたがこの基地の司令官か」
「そうだ。最もその肩書は今や無意味になったがね……」
「味方の派閥抗争に利用された気分はどう?」
「私は軍人として優秀だった。だがそれが仇となったようだ……」

ハワイ基地司令「ミシチェンコ」はのび太や智子、ドラ・ザ・キッドと対峙する。連邦軍の砲撃でボロボロになった建物の中で彼は自嘲気味にそう言った。
彼の不幸は軍人として優秀すぎたがゆえに幹部から疎まれた事。それを象徴するかのように、
彼が本星に送った援軍要請の書類が積まれている。それには受理されなかった事を示す判子が押されている。この一週間の間に彼が本星に送った援軍要請は全て本星の幹部たちに否認され、黙殺されていたことの現れだった。

「降伏して。これ以上無駄な殺生はしたくない……!」

穴拭智子は腰に引っ掛けている日本刀「備前長船兼光」の鞘に手をかけながら言う。彼女もこれ以上の殺生はしたくなかったのだ。初めて血を血で洗う戦争を経験し、数多の兵士をなぎ倒して来た智子であるが、
勝敗が明らかになった以上、これ以上戦っても何もならない。ただ虚しいだけだ。だから彼に呼びかけたのだ。だが、ミシチェンコは軍人として最後まで生きる事を選んだ。あくまで軍人として`雄々しく`死にたいと。すると部屋に「ラスプーチン」が入ってきた。
美琴達を伴って。

「やはりあんたはそれを選ぶか」
「……`ラスプーチン`か。事後のことは頼む」
「カミさんや息子たちに残す言葉はあるか」
「息子たちには`父さんのような生き方はするな`と伝えてくれ。アイツにはすまなかったと」
「……分かった」

彼は何を選んだのか。軍人として生きた彼は最期までそれを貫くつもりなのだ。それはのび太に「撃ってくれ」と無言で語りかけているようだった。

「すまないねお嬢さん達。私は最期まで軍人でありたいのだ……。それに私はこうなるまでに人を殺しすぎた……裁かれるべきなのだよ……」

のび太はそれに応え、バントラインスペシャルの引き金を引いた。弾丸は彼を貫く。

「これでよかったのだ……全て……。フッ、地球の若者に倒されるのも……、悪くはないな……」

「……ぼくにあなたは裁けません。安らかに眠ってください」

のび太……いやその場にいた誰もが無意識の内に「敬礼」の形を取った。皆、不思議と涙は流さなかったが、そこには無言の戦士への敬意と奇妙な友情があった……。



−この時、あたしは不思議な感じがした。……不倶戴天の敵だったはずなのに敬意を払いたくなった。その場にいた誰もが同じ気持ちだったらしい。みんな自然と敬礼をとってた。この時からかな?。戦いってなんなのか考えるのって……。

その場に居合わせた一人であるスバル・ナカジマは後にこう述懐したという。少なくともこの戦いは管理局で`綺麗な戦争`のぬるま湯に浸かっていたなのはやスバルに戦いの実像を思い知らせ、戦いへの姿勢の再考のきっかけを与え、御坂美琴にある一つの決意を抱かせたのは確かであった。


−2199年 10月初旬 一◯◯時 鉄人兵団地球攻撃軍 アジア太平洋方面軍司令「ミシチェンコ」少将、戦死−











− 同日 ベルギー王国

「ハワイ基地からの通信が途絶えました」
「……そうか。全軍に布告。ミシチェンコ少将は名誉の戦死を遂げられたと」
「ハッ……」
(奴はそれを選んだか……上層部の派閥抗争が奴を殺したのだ……)

ベルギーの司令室で地球攻撃軍司令は教え子が戦死した事を惜しんだ。それは兵団にとってかけがえのない逸材が失われた事でもある。これから訪れるであろう苦境にため息混じりに部下にこう漏らしたという。「上が派閥抗争などにかまけているから緒戦の優勢を保てないのだ」と。

彼の言うとおり、この日を境に連邦軍は各所で奮闘。鉄人兵団は地球上で最も平穏であった欧州戦線が逆に最大の激戦地になってしまうという、思わぬ誤算を生むことになる。













−兵団は指揮官を失い、指揮権を受け継いだラスプーチンが自らの権限で地球側への投降の通達によって各所で武装解除が進められていたが、まだ敵は残っていた。クライシス帝国である。仮面ライダー達(風見志郎、神敬介、南光太郎)はまだ自分たちの戦いは終わっていないと告げる。すると……

「フム……頃合いか」
「その声は……やはり現れたか……!クライシスめ」
「そうだ、風見志郎。我々は地球人と鉄人共の争いなど眼中にはない。あるのは我々の邪魔となる貴様らの抹殺のみ!!」

「あいつらは……?」
「クライシス帝国。異次元からやって来た帝国で、皇帝の施策で地球に侵攻を行なっている。向こうにも止むに止まれぬ事情はあるが、地球の平和を乱す以上は戦うのみだ」

風見志郎(仮面ライダーV3)はドラえもん達に事の経緯を掻い摘んで説明する。これは生存競争でもあるのだ。地球人とクライシス人の。

−無論、クライシス帝国全てが悪いわけではない。現在の皇帝はどちらかと言えば武断派であり、衰亡が近い怪魔界から地球に強引な形で移民させようと目論む`悪`(ただしジャーク将軍によれば地球侵攻計画は計画そのものは考えられてはいたが、それを本気で実行するのは無いと思われていたとの事で、ジャーク将軍は強引な侵攻を開始した皇帝の背後にバダンの大首領の影を感じたと言う)。

クライシス帝国の幹部の一人「ボスガン」を前にして南光太郎は叫ぶ。

「ボスガン!!悪に生きる道は無いと思い知れ!」
「そうだ、最後には必ず正義は勝つ!!」
「世界に悪が栄えた試しはないのだ!!……変身だ!!」

『おう!!』

−ムウン……変身・V3ァ!!

タブルタイフーンが出現し、力と技の風車が勢い良く回転し、光を発する。

−大・変・身!!

次いでXライダーの神敬介。こちらは変身ポーズを取ると変身に用いるアイテムのレッドアイザーとパーフェクターが瞬時に装着される。有名な「セタップ」では自分で装着する必要があったのでその点は大きく改善されている。

−変身!!

最後は南光太郎。腕を天を掲げ、そこから一定のポーズを取り、V3のダブルタイフーンを思わせるサンライザーが回転し、キングストーンの力と太陽の力を秘めた目映い光を発し、彼を最強の戦士へ変化させる。
−そして次の瞬間。そこにいたのは3人の勇士。

「仮面ライダー、V3ぁ!!」
「仮面ライダーX!!」
「俺は太陽の子!!仮面ライダーBLACK RX!!」

地球を守ってきた3人の男たちはその勇姿を見せる。そしてこれから見せるは大自然の使者たるその力。

「トウァ!!RXキィ――ック!!」

RXは奇襲とばかりに後ろ向きの宙返りの後に繰り出す必殺キックを見舞う。キングストーンと太陽のハイブリッドエネルギーによるパワーはボスガンを、戦闘員である「チャップ」ごと軽く吹き飛ばし、ビルの窓から盛大に外へ堕ちていく。

「ここからは俺たちの`仕事`だ。ここは任せろ!!」
「頼みます!!」

RXはそう言ってドラえもんやスバル達にサムズアップをしてみせると、跳躍してボスガンたちを追う。他の2人のライダーも続く。美琴やスバルなどはここに来るまでにスタミナを消耗しきっており、コレ以上の戦闘継続は不可能。智子とて怪人相手には正面きって戦えるほど魔力とスタミナは残っていないし、のび太も敢行した弾薬は使い果たしている。



「悔しいけどあの人達に任すしか無い、か……」

歯噛みして悔しがる美琴。彼女も出来れば戦いたかったのだろう。だが、スタミナが切れてはどうしようもない。自分はどちらかと言えば能力に依存がちである事を彼らとの交流で改めて認識し、能力に決して依存しない戦い方を模索することを誓った。

「あの人達なら大丈夫よ」
「どうしてそんなにあの人を信じるんですか、中尉」

ドラえもんの疑問に智子は応える。

「あの人達は絶対的な信念で戦ってる。強い気持ちがあればどんなことだって貫き通せる」
「そう。あの人はそれをあたしに教えてくれた。だからあたしは……あの人達を信じる」

スバルも智子に続く。2人は共に戦った経験からか仮面ライダー達を信頼しているのだ。それは彼らが示した『正義を信じる心』の結晶なのだ。3人の仮面ライダー達はそれを地で行く強さを見せる。その様子を見ながらスバルは思った。

―あたし、近い内にスーパー1…一也さんに頼んで北派少林拳の流れを汲む「赤心少林拳」の修行をつもうかな……なのはさんを守れるように−












ボスガンは持ち前の剣術で仮面ライダーXに挑むが、ライドルホイップでの巧みな剣戟に苦戦する。

「ええい、ちょこまかと!!」
「ボスガン!!貴様の剣術もこの私には通じん!!」

ボスガンはここの所いいところ無しである。この作戦でもバダンに漬け込まれるのを懸念したジャーク将軍により、結局配下の大隊戦士の出撃は禁じられ、自ら作戦を実行せざるを得ない状況となった。そしてRXより能力が劣ると思われるXにも遅れをとる有様。

「トゥ!!」

XはV3による再改造で埋めこまれたマーキュリー回路により初期設計時の想定を超えるパワーと耐久性を得ている。その力はたとえ強力なクライシス帝国とでも決して引けは取らない。回し蹴りを加え、ボスガンの剣を吹き飛ばす。

「おのれXライダー!!」

Xライダーに互角以上に持ち込まれているのに憤激するボスガンだが、Xとの戦いに夢中になるあまり、周囲の気くばりを怠っていた。その隙をすぐにV3に漬け込まれる。

「横がガラ空きだぞ!!V3スクリューキィィ――ック!!」

今度はV3の必殺技が横合いから命中し、度重なる屈辱を味わう。

「ええい私としたことが……一度ならず二度までも……!!」

「バイオブレード!!」
「む、むぅっ!?」

今度はバイオライダーの剣術に苦慮する。彼の今回の災難は三人ライダーを敵に回した事に尽きるだろう。最も二発のキックに耐える彼も十分に強者なのだが。形勢不利を悟ると怪魔獣人さえ出撃できれば……と愚痴る。しかし三人ライダーの前ではよほどの強者を動員しなければならないだろう。そうおもわせるほど、三人ライダーのパワーは絶対的な威力であった。









ボスガンと戦いを繰り広げる三人ライダー。それを見守るドラえもん達。ボスガンはおめおめと逃げ帰ってはジャーク将軍から厳罰を受けるのを理解していたので死に物狂いで戦っていた。だが、バイオライダーから変身したロボライダーの装甲の前に自慢の攻撃も通じずじまいであった。

「トゥワ!!」
「お、おのれロボライダー!!」

ロボライダーの如何なる灼熱さえ無効化する装甲は当然ながら物理攻撃にも凄まじい耐久性を発揮する。並の剣では傷もつけられない。それを証明するかのようにボスガンのいざという時の切り札であるもう一方の武器のナイフも装甲に触れた途端に刃こぼれする始末。更にXライダーに吹き飛ばされた剣を拾ってロボライダーに攻撃を仕掛けたもの……

「ボスガン、その剣で俺の体を貫けるか!?」

……と言い放たれ、それに乗って剣を一気に振り下ろすが……

「ひぉぉぉ!!」

渾身の一撃にも関わらずも無常にもロボライダーの装甲は剣の刃先を肩で受け止め、さらにチョップで剣を叩き折ってしまう。その力の差はまさに無常そのもの。

「しまった、剣が……!!」

「ボルティックシューター!!」
「え、ええい!!」

すぐにロボライダーの誇る必殺武器「ボルティックシューター」が火を噴く。ボスガンもこれには攻撃を諦め、再度のリターンマッチに賭けた。しかし内心ではこれからジャーク将軍による抜け駆けに対する厳罰が待っている事に対する落胆がある。撤退した彼を尻目に三人ライダーは凱旋した。


「逃げたんですか?」
「いや、撤退してリターンマッチするつもりだろう。」

凱旋するロボライダーは智子の問いに答える。あくまでロボライダーは歴戦の経験で冷静に判断する。その点がゴルゴムを倒し、クライシスを苦しめる力の一端なのだろう。

「クライシスは日々手強くなってきている。俺もパワーアップしたりして対抗するしかないのさ。それにたとえクライシスを倒してもまだ敵はいる」
「……バダンですね」
「ああ。たぶん奴らはクライシス以上の強敵だ。先輩達と何百年に渡る因縁を持つというからな……」

それはロボライダーの本音であった。クライシスは日々強力な敵を送り込んでくる。これまでにRXを凌ぐパワーを誇り、ロボライダーへの変身を会得するきっかけとなった怪魔ロボット「デスガロン」などがいる。バイオライダーへの変身などRXもパワーアップを重ねてそれに対抗するという、イタチごっこのような状況が続いている。更に彼をして強敵と言わしめるバダン。過去の10人の仮面ライダー達と長きに渡る因縁を持つ強敵。ロボライダーはクライシスの背後に潜んでいるであろう`影`に戦慄を感じていた。










−ボスガンはほうほうの体で逃げ帰ってきたもの、ジャーク将軍に厳しく叱責されていた。
命令を無視した単独行動はジャーク将軍を憤激させるに値し、しかも三人ライダーにいいところ無く打ちのめされたというのが追い打ちをかけていた。

「馬鹿者めが!!この余の命令も無しに行動を起こしおって!」
「ハ、ハッ。申し訳ありませぬ……次こそは必ずや仮面ライダー共の息の目を止めてご覧に入れます……」
「そう言って11人ライダーに負けてきたのは一度や二度ではあるまい!!それにそちの今回の独断専行は目に余るものがある。余としてもこれ以上は許し難い」
「お、お待ちください!!」
「見苦しい!!」

言い訳に終止するボスガンに業を煮やしたジャーク将軍はこの後厳罰を加え、次はガデゾーンとマリバロンが共同で作戦を実施する運びとなったが、その間にもボスガンはロボライダーの装甲を研究し、それを切り裂ける金属による剣を配下のチャップに研究させ、それは一つの結論に辿り着く。自らの手でRXを倒すための秘密兵器。その名は「怪魔稲妻剣」。






クライシスが撤退し、ジオン残党軍もある一つの目的を果たしたためか、最後の隊長命令により残存する機体は撤退し、完全にハワイでの戦いは終結した。スーパーロボット達は苦しい現状を支えたとしてその労が讃えられ、ルーデルはその戦果から、カールスラント皇帝からの通達で2度目の宝剣付黄金柏葉騎士鉄十字章を受賞し、智子も生還を果たしたハルカと再会を果たし、さらに長年ぶりにルーデルと対面した。

「久しぶりだな中尉。何年ぶりか?」
「私が16の時ですから7年ぶりですね、`大尉`……いえ`大佐`あの子が世話になったみたいで……お礼を申し上げます」
「ウム……あの子は確かにいい素材だ。面白い。貴官が目をかけるのもわかるよ」
「あ、ありがとうございます」
「しばらくあの子に`仕込む`が、いいか?」
「構いません。大佐に仕込まれるならあの子もいい勉強になるでしょう」
「了解した。御目付役のスバルともどもしばらく預からせてもらうぞ」

なのはの保護者としての権限は現在のところ智子に帰属している。なので智子の同意があればルーデルがさらにあずかってもOKなのだ。なのははまずまず恐ろしいことになっていくのであった。



「ところで大佐……おいくつですか」
「ん?ああ。もう20幾つだよ。」
「嘘ぉ!?普通なら……」
「私は魔力の減衰とは縁遠い体質でな。まだまだ現役でいくぞ」
「さすがですね……負けそう」

ルーデルのあまりの根性に智子は根負けしそうだった。そして智子はこの後、美琴との共通点「相棒が百合な変態気質の持ち主」にため息をつきあい、互いに愚痴を言い合ったとか。それを見たルーデルはやれやれといったそうな。








ハワイでの任務を終えて帰還中の土佐では、山南に呼ばれてドラえもんが重要事項を伝えられていた。連邦にとって最重要情報を握っているに等しいドラえもん達は政府から特別待遇をされていた。軍人でもないドラえもんが山南の参謀のように振舞っていてもお咎めなしなのはそういう理由であった。


「なんでしょうか、提督」
「ウム……君たちにはしばらく休んだ後に欧州へ行ってもらいたい」
「欧州に?急な話ですね」
「そうだ。欧州は一部除き、今や鉄人兵団の牙城となっている」
「何故です?」
「開戦時の奇襲でベルギーを初めとする領域は兵団の手に堕ちている。陸軍の装備に旧式のものが多かったのもあって物量攻撃に対処できずに各個撃破されていった。今ではフランスのヌーボ・パリが戦線の最前線になっている」
「ヌーボ・パリ?」
「かつての巴里は一年戦争の惨禍で巨大な湖に成り果てた。そこで旧・フランスの出身者たちが中心になって再建しているのがヌーボ・パリ。ご丁寧にランドマークまで復元している町だよ。そこに我々は戦線の司令部を置いている」

フランス地域は連邦軍の欧州での最前線。ロシアからベルギーまでの広い地域は兵団の支配下。かの有名なノイシュヴァンシュタイン城、ディナン城などのかつての各国の城郭にも兵団の司令部が置かれている。その現状を山南は説明する。ドラえもんは固唾を飲んで彼の説明に聞き入っていた。

「陸軍はなんで攻勢に出ないのですか?」
「装備の大半が旧態依然としたものだからだよ。軍の予算の大半は宇宙軍や海空軍に回されているから更新も滞りがちでね……攻勢に出たくともできないのだ」

それは地球連邦軍の財政危機を示していた。連邦軍の財政は度重なる戦乱でほぼ破綻状態にあり、予算の大半は宇宙からの侵略に対応するために宇宙軍や空海軍関係に優先的に回され、地上軍は今の連邦軍の首脳陣にとっての`敵`が多いせいか、あまり顧みる事は無かった。だが、皮肉にもその施策が今次大戦では裏目に出た形となってしまった。モビルスーツ一つとっても、地上軍には未だに旧式になって久しい「RGM−79R ジムU」が残置しているという有様である。なので一部重要都市などは宇宙軍が海兵隊のように防衛任務に付いている。
時間を置き、ハワイ戦で装備が更新された部隊の再建を待って攻勢をかけるのが上層部の思惑なのだ。

「君たちにはまた苦労をかけるが……幸い一週間ほど間は空いている。ゆっくりと休みたまえ」
「ありがとうございます」

−3ヶ月か……長いような、短い気もするけど…戦時中ならしょうがないか。

ドラえもんは軍の行動に付き合っている現状を受け入れていた。鉄人兵団を倒すために来たのだから軍隊に協力してでも達する必要はある。兵団は強大だ。以前の戦いでは弾薬が尽きた後は破れかぶれの突撃しか出来なかった。それを考えると軍隊のバックアップがある分、今回は楽だ。しかし兵団の主力が欧州にいるとなれば軍もただではすまないだろう。ハワイは途中で敵が見捨てたようなものだから、比較的損害は軽い。だが、次は主力が待ち構えている。親友テレカも使ってでも戦う必要がある。そうドラえもんは結論づけ、山南に軍隊での慣例に従って敬礼し、部屋を後にした。











なのははハワイ戦終結の方に安堵し、休暇が与えられた。その日は自室で軍隊生活というものを考えていた。
智子や圭子、ルーデルと共に生活を送る内に色々な事を身につけた。技能の中には普段の生活では絶対に使わないであろう銃の撃ち方やその整備法(古今東西、回転式・オートマチック問わず)まで……。家族が聞いたら泣くのは間違い無いだろう。剣術も智子のそれを教わっている。実家に立派な剣術がある身ではあるが、今更実家の剣術をやるわけにはいかないので、智子に教えを請いた。

−中尉に憧れたってのもあるけど……フェイトちゃんと背中を合わせて戦いたい気持ちもあるんだよね……。剣術を始めたのは。

なのははフェイトと一緒に戦いたかったのだ。戦闘スタイルが違うために同じ戦場で戦うことは多くても、背中を任せ合う形で`共に戦った`事は殆ど無い。だからレイジングハートに連邦軍の手で改造が加えられたのを機に剣術を始めるのを考えた。穴拭智子という剣術の達人との出会いは渡りに船であり、彼女に教えを請うことにしたのだ。それはスバルも後押ししてくれた。

「なのはさん、フェイトさんから宅急便が来てますよ〜」
「本当!?」

ガバッとベットから跳ね起きると、軍服に着替えてドアの向こうにいるスバルを応対する。スバル共々宅急便を開けてみると手紙と数枚の写真、そしてフェイトがヴィータに買ったFIRE BOMBERのアルバムCDが同梱してあった。

「フェイトちゃん、ヴィータちゃんにCD買ってくれたんだ〜」
「相変わらずですねフェイトさんは」
「うん。`そっち`でもフェイトちゃんは変わってないの?」
「ええ。なのはさんの訓練は厳しかったんですけど、フェイトさんのほうは変わってないですよ。なのはさんにはあたし達が無茶するのは許してもらえなかったですけど」
「え?あたしが?」

スバルはそういう。大人になったなのはの課した訓練は厳しく、バテそうになったのも一度や二度ではない。おそらく撃墜事件がスバルがいた時間軸の自分の心に強いトラウマを埋めつけてしまい、他人の無茶を許容できなくなったのだろうと子供のなのはは思った。それ自体はスバルとの出会いで`消えた`未来となったが、なのははバツの悪い想いをした。

−スバルがいた時代のあたしにライダーキックでも食わわしてやりたいよ……自慢じゃないけどフェイトちゃんのお母さんの時の戦いや闇の書の時は無茶しまくってたからなぁ。それを棚に上げるのはどうかと思う……。

智子などに教えを請い、成長した彼女は無茶ばかりする自分を受け入れた。それが自分のありのままの姿であるのを自覚していたからだ。スバルから聞いていると、`その歴史`の「大人の自分」はどういう成長をしたのだと考えてしまう。


「手紙はどうですか?」
「待って。読むよ」

手紙を開けて読んでみると、マクロスフロンティア船団でのフェイトの生活の様子が記されている。内容は黒江綾香大尉と一緒に生活し、剣術の稽古に励む日々。練度の点で役にたたない腑抜けの正規軍の代わりに、フロンティア船団の防衛を担う「S.M.S」という民間軍事会社の面々(表向きは運送業者を装う)との出会い、そして一人の歌手志望の少女と親しくなった事。名前はランカ・リー。話に聞けばゼントラーディという宇宙人の血が入るクォーターとの事。過保護気味な義理の兄(フェイトはS.M.Sと仕事をする関係上、オズマ・リーとランカ・リーとの関係についてオズマの口から出自を聞く機会があった)の反対を押し切って小さい事務所からデビューのオファーを受けたとの事。フェイトは応援しているらしい。フェイトはカラオケで歌が好きな所を見せていたので、ランカを応援するのもわかる。写真にフェイトと写っている15、6歳くらいの緑色のショートカットヘアーの少女がおそらくランカ・リーだろう。フェイトはうれしそうに笑っている。屈託の無い天真爛漫な笑顔だ。正直言って羨ましい。しかし一方で戦いが過酷であることも告げていた。S.M.Sの誇る最新鋭機「VF-25 メサイア」でようやく撃退が出来る「バジュラ」という敵……フェイトが乗る機体である「VF−17 ナイトメア」では生き残るので精一杯であるとフェイトは記している。機体も些か旧式であるので、今後はAVFに機種転換する予定だとの事。

「バジュラか……宇宙怪獣といい、プロトデビルンといい……わけがわかりませんよ……」
「うん。フェイトちゃん……大丈夫かな……」

なのはとスバルは自分たち以上に過酷な戦場に身をおいているフェイトの身を案じた。その心配は的中していた。



































−2199年12月。鉄人兵団打倒の布石となる行動の一環でヨーロッパ戦線・旧フランス地域に楔を打ち込むべく戦闘が開始された。
ハワイ攻略後は予算・損害の関係で大規模作戦を行えない連邦軍であるが、小〜中規模な行動なら数カ月で可能になり、ヨーロッパ戦線の打開を意図し、行動に移されたわけである。



−連邦軍・ティターンズの運用する嘗てのジェット戦闘機は第4世代機までが大半で、第5世代は極少数であった。何故か。廉価版を目指したF−35にまつわる計画が失敗に終わり、
第5世代機そのものの意義も第4世代機の大規模改良タイプが能力面で追いついてしまった事、ステルスの過度な追求で維持・保守費用が膨大な金額に登り、その割に成果が疑問視され、冷戦時代再末期に計画され、大規模戦争が起きなかった時代に生まれたがために軍縮気運が大勢を占めた議会の槍玉にあがり、生産数が削減された事が要因である。そのため第5世代ジェット戦闘機は「遅れてきた冷戦時代の落とし子」と揶揄され、実戦でその力を発揮する機会に恵まれぬまま退役していった。その後継が第4世代ジェット戦闘機の改良型で占められたのは運命の皮肉であったとも言われている。そのため連邦軍は第5世代機を入手するのに多大な苦労を強いられていた。



−2199年 10月中旬 北米 デビスモンサン空軍基地

旧・米軍時代から多くの退役していった機体の保管場所として活用されていたこの基地は今や連邦軍の『補助機材』の供給場所となっていた。その基地の格納庫に眠っていた機体が引っ張り出されている。その名はかつて最強と謳われながらも不遇の運命を辿った「F−22 ラプター」。ステレス性はパッシブステルスからアクティブステルスへ改造された事で飛躍的に向上。塗装はアクティブステルスが搭載されたことでわざわざ旧世代のものを使用する意味は無いので、現役時代のレーダー波吸収素材を含んだ塗料からVF−171と同色の通常塗料へ変更されていた。配備場所は激戦地の欧州戦線であるそうだ。

「欧州へ回すのか?」
「ああ。今は一機でも多く機体が欲しいからな。こいつなら第4世代機数機分の戦力になる」

整備兵たちは欧州戦線へF−22が回される理由を話しあう。第4世代機が30機必要な局面でも第5世代機なら少ない機数で同等の戦力になる。それを見込んでの第5世代機の現役復帰であろう。ただしここで動態保存されている機数が少ないので20機ほどしか確保できなかったのは残念だ。

「ほとんど第5世代機は平和だった頃に現れたのが不幸だったみたいなもんだからな。冷戦時代が後10年くらい続けば文字通りに主力になれただろうに……」
「冷戦時代の残滓と惰性で作られたからな」

それは第5世代機の生まれの不幸であった。冷戦時代に『次期主力機』として開発され始めたF−22は就役が遅れた割にはアメリカがステルス技術の独占が失わるのを恐れて輸出されず、配備を国内だけに絞った結果、投資に似合った結果を残せずに終わった。アメリカ軍の贅沢の犠牲と凋落の象徴ともされた第5世代ジェット戦闘機群であるが、数百年越しにその真価を発揮する時がやって来たのだ。議会への名目は「最新鋭機の補助を目的にした補助機材」。バルキリーやコスモタイガーはその高性能と引換に製造コストなどが高騰し、議会には左翼系議員を中心に大量配備を疑問視する輩が多く存在する。追求を躱すべく連邦軍が考えた方法はティターンズが用いた方法を逆輸入した「古典機の近代化改修」という方法。製造当時は高価格であった機体も現在の最新鋭機と比較すればずっと安価な費用で改良可能。そのあたりが軍の秘策であった。エンジンは最新鋭の「ステージU熱核タービンエンジン」(VF−25以降に搭載されている次世代型熱核バーストタービンエンジン)に、乗っけるアビオニクスは可変戦闘機と共通のモノを使用(可変戦闘機の生産施設を使用して改修する都合上もある)。その為性能は可変戦闘機のファイター形態に引けを取らない。ただし宇宙での運用はまだ考えられていない。

「お偉方はこれと最新鋭機で`ハイ・ローミックス`を考えてるらしい」
「ありがちな思想だが、まあ、ありだろうな」

最新鋭機と旧型機の相互運用はジェット戦闘機の時代になってからよく見られる光景である。旧型機を全て代替できるほど最新鋭機の数が揃えなくなってくると、国を問わずこのような運用法が見られた。アメリカも超大国と言われるようになりながらも最新鋭のジェット戦闘機の大量配備が見込めない時世になるとこのような運用法を取った。それは地球連邦の時代が訪れても不変で在り続けた。それは連邦軍のすべての兵器にあてはまる。白色彗星帝国との大戦当時に緊急で大量配備されたジェガンを代替する後継機の開発に手間取り、ようやく配備され始めたジャベリンの登場までにいくつかの失敗作も生んでしまったモビルスーツ分野。製造コストの高騰に悩む可変戦闘機群。傑作機と名高いコスモタイガーに変わりうる戦闘機を作れずにいる航空部門。兵器開発というのは一つの成功の裏に数多の失敗があるという事の証明であった。眠りから寝覚めた米国が誇った`猛禽類`は静かに再び空へ舞い上がる。











−日本 光子力研究所

「マジンカイザーの最終調整はもうじき終わる。だが、このカイザーは異端児だ。何故コレをゲッター線は……」

光子力研究所で整備を受けているマジンカイザーは本来のマジンガーの開発系統に属さない。弓弦之助博士はその点でカイザーをゲッター線が産みだした異端児と称したのだ。開発系統で言えばグレートマジンガーが現在最新最強のマジンガーであるが、マジンカイザーは偶発的にグレートをも超越し、真ゲッターロボと対等の力を持つに至った異端児。先のギャラクシー船団とフロンティア船団の初の船団間戦争ではバジュラクイーンさえも超合金ニューZαの前には傷ひとつ負わせなかったという経緯がある。バジュラの女王を以てしても衝撃で吹き飛ばすのが精一杯というその性能は魔神を統べる者に相応しい。

「先生、カイザーはどうして生まれたんでしょうか」

兜甲児が弓に質問する。彼もマジンカイザーの誕生の秘密が気になっているのだ。世間には「グレートマジンガーの発展型」と伝えられてはいるが、実際はプロトタイプが進化した姿であるという信じがたい事実を。

「ウム。全てはもう何年も前……君のおじいさんがちょうどマジンガーZを作り始めた頃の話だ……」

弓弦之助博士は甲児に話す。マジンカイザー誕生の秘密を。彼によれば最終的に完成するマジンガーZ以前の複数のプロトタイプのうちで最も出力が高く、不安定な挙動を見せた一機があり、それがカイザーへ進化した個体だったのではないかという推測も交えて。


「それじゃカイザーはそれが進化した姿だと?」
「確証はない。君のお父さんの剣造博士もプロトタイプは複数あったと話しているからね。そのプロトタイプはまだ人の形はしていなかったはずだったとの事だし、カイザーは武装も含めて、すべてが完璧な状態で発見されている」
「姿がグレートマジンガーに近くなったのは……?」
「グレートマジンガーの姿がマジンガーの行き着く「ひとつの形」だったのだろう。マジンガーZに近い姿であった「それ」が年月をかけて少しづつグレートに近い姿へ変化していったのだろう」

彼はマジンカイザーがZでなく、グレート寄りの姿なのはグレートマジンガー(ひいてはゴッドマジンガー)の姿がマジンガーの行きつくべき姿であり、マジンカイザーがそうなったのは当然であり、必然だという。甲児もその説明に納得し、カイザーを仰ぎ見る。

「マジンカイザー……お前は俺に何をさせるつもりなんだ……」

甲児は一人、そう漏らす。バジュラクイーンさえ意にも介さぬほどの強大な力。マジンガーZを作った祖父がもし、いまこの場にいれば「神をも越え、悪魔を倒せる」と称しただろう。ミケーネはまだ帝国そのものは健在であるし、百鬼帝国は暗躍と胎動を続けている。カイザーがここにある理由を甲児は考えていた。そして行方の知れぬデビルマジンガー。かの「デビルガンダム」もそうだが、悪魔の名を冠するマシーンは元がなんであれ、災厄をもたらす。

−カイザーはもしかして死んだ祖父がゲッター線の力を介して自分に与えた、人類の最強の「剣」なのかも知れない。

甲児はロボット工学の名家の出である。それ故にカイザーが自分の手に渡った真の理由に薄々と気づいていたのかもしない。弓弦之助博士はこの時の甲児の様子を後にそう語った。









−科学要塞研究所

ここ、科学要塞研究所ではグレートマジンガーの整備が行われていた。ハワイ戦では要塞のトーチカや火砲破壊に重宝されたグレートマジンガーであるが、外部装甲に目立った損傷はないが、念のために内部部品のオーバーホールを行う。装甲を一旦取り外し、内部構造を丸出しにして行う。

「ん?鉄也兄ちゃんがいないけど、お父さん知らない?」
「ああ、鉄也くんなら買い出しに出かけた。」
「買い出しに?鉄也兄ちゃんまた甘いもの食いまくってくるつもりだな」

兜剣造博士は息子のシローに剣鉄也がこの日何をしているか教える。すると、彼はボヤく。兜博士の息子の一人で、甲児の弟である兜シローは兄とは別々に暮らしている。現在は父親の名乗りをあげた兜剣造博士と共に親子水入らずで科学要塞研究所で暮らしている。彼は剣鉄也が繁華街に買い出しに出かけた目的をあっさりと見破った。子供ながらに鋭い。

彼の言う通り、剣鉄也は戦闘のプロを自認する屈強な戦士であるが、周囲に「劇画顔」、「老けてる」と揶揄される、濃い顔立ちに似合わず、大の甘党という歳相応の側面がある。彼のそんな意外な側面が表に出たのだ。


−伊豆  とある繁華街

「……ん?」

剣鉄也は喫茶店で特大の宇治金時をほうばっていたのだが、そこで見慣れた扶桑海軍のセーラー服を着た、一人の少女が目に入った。この時、彼は知らなかったが、その少女は西沢義子。扶桑皇国海軍の撃墜王として名を馳せるウィッチであった。一兵卒としては最強レベルを誇るが指揮官としての適性は無きに等しいという欠点を持つ。彼女は生来の自由奔放な性格により、軍が半ば扱いあぐねているために前線任務についていないのと、近頃、引退したはずの軍の同期や先輩達が再度前線に駆り出されているという報が気になり、それを調べる目的もあって未来世界へ来たのである。ちなみに彼女は坂本、竹井の両名と同期であり、史実では坂井三郎や笹井醇一等と共に台南空のエースとして栄光の大日本帝国海軍航空隊の名を後世に知らしめた西沢広義海軍中尉に当たる。(奇しくも彼女らも三羽烏と称された)

「くそぉぉぉぉっ!なんで死んだんだよ、太田ぁ……あたい達はいつも一緒じゃなかったのかよぉ……!」

彼女は悲しみに暮れていた。未来世界へ来て早々にリバウでの戦友であった「大田」
飛曹長が撃墜され、戦死した事が竹井醇子から電話で知らされたからだ。技能優秀、敢闘精神旺盛な彼女を撃墜したのはF−14D「スーパートムキャット」。これは史実の太田敏夫飛曹長がF4Fに撃墜された事実と一致し、因果が彼女を飲み込んでしまった事を示していた。(同じグラマン社製の戦闘機に撃墜された点でも同じ)因果を乗り越えた形の西沢にとってそれは衝撃的であり、「自分がいれば死なせなかった」という悔いが彼女を自暴自棄に走らせていた。

(まさか……あの時のアレが最後になるなんて……ッ)

その想いのままにサイダーをヤケ飲みする。明るい性格の彼女かしらぬ行為であるが、また靴を並べて戦う事を誓い合った仲間のあっけない幕切れ。無敵・最強を自認する西沢にとってこれ以上のショックは無かった。鉄也はそんな彼女を見かねたのか、席を移動して西沢の隣に移る。

「隣、座っていいかい?」
「あ、ああ。どうそ」

……と上手く場を作る。その点は長年炎ジュンと共に生活しているのが功を奏したと言っていいだろう。鉄也は落ち込んでいる西沢から上手く事情を聞き出し、自己紹介をする。

「自己紹介をしておこう。俺は剣鉄也。スーパーロボット「グレートマジンガー」のパイロットだ」
「グレートマジンガー?ああ、噂には聞いたことはあるが……あんたがそうか」
「ああ」
「いいよなあんたのマシーンは。無敵で……」
「いや世の中に無敵というのは無い。最強というのはあるがな」
「どういう事だよ」
「どんなに強いモノでもどこかに弱点はある。それを補っていくのが世の中の常だ。例えば元祖スーパーロボットのマジンガーZだって最初は空を飛べず、海にも弱かったが、改良を重ねて強くなっていった。それは俺のグレートとて同じだ」



一般にグレートマジンガーは「無敵」として知られているが、ミケーネ帝国との戦いではミケーネの繰りだす戦闘獣相手に苦戦する事もままあり、強力になる戦闘獣に対抗すべく改良を繰り返した。その成果が幾つかの追加武装であり、グレートブースターである。元々ミケーネとの交戦を想定して造られたグレートマジンガーでも改良を重ねていくというのは、正にスーパーロボットといえど「兵器」であると知らしめる事実であった。

「無敵なんてものはどこにもない。力に溺れた歴史上の国々がそう自称し、滅んでいったのがそれを証明してる。俺達の世界の大日本帝国やアメリカ合衆国のようにな」

鉄也は20世紀前半のアジアの覇者であった前者、20世紀後半からしばらく世界の覇者であった後者を例にして西沢に無敵という言葉の意味を説く。前者は保有していた空母機動部隊や航空部隊の一時の栄光に、後者はその高度な軍事力に溺れたが故に破滅の結末を迎えた国々。無敵とは軽々しく口にするべき言葉ではない。あのマジンガーZさえも無敵を具現化するのは無理だったのだから。それを体現できるのは今のところマジンカイザーと真ゲッターロボの両巨頭のみだ。

「……そうかもな。あたしはあんたらの世界で言えば多分ラバウル航空隊にあたる「リバウ航空隊」にいた。場所は全然違うけどな。そこであたい達は無敵って言っていいくらいの戦果を上げた。これ以上のモノはないってくらいの……。力に溺れてたってのは間違ってない。その時は負けるなんて考えが無かったからな……」

西沢は太田が撃墜されたショックからか、塞ぎこんでいた。ウィッチ達も仲間が死ぬことは経験しないことはないが、西沢の場合は以前の所属部隊が「無敵」とも称されていた事、そこでの戦友があっけないほど簡単に撃墜され、戦死したという事はこれ以上ない衝撃だったからだ。

「戦争で誰も傷つかない事など無い。俺も戦いの中で多くの者を失い、友の父親であり、親代わりの人をも危うく見殺しにしかけた……」
「え……?」
「俺は孤児なんだ。物心つくかつかない頃に引き取られ、グレートマジンガーのパイロットとして育てられた。それで俺は家族がいるその友達にどこかで嫉妬していた。戦いで人その人を見殺しにしかけたのは俺の罪だ」




それは鉄也の本心だった。ミケーネ帝国との一大決戦を前にして、自身の嫉妬で兜甲児と対立し、戦闘になれば、危うく兜剣造博士を見殺しにしかけた事。孤児ゆえの寂しさが心のどこかに残っていた事が自身の甲児へのコンプレックスとして具現化してしまった事を彼は恥じていた。鉄也はそれを「自分の罪」だと言い、兜甲児らに対して重い十字架を背負って生きている事を暗に西沢に示した。

「戦いの中で誰かが傷つくのなら誰かが守るために戦えばいい。俺`たち`のようにな」
「鉄也さん……」
「また何か悩んだら俺のところに来てくれ。いつでも相談にのる。連絡先はそこに書いてある」

鉄也は最後に戦いが起きるのなら自分が戦うことで何かを守れると言い残し、喫茶店を後にする。西沢は鉄也と触れ合うことで何かを感じ取ったのか、鉄也が置いていったメモを
大事に持ち合わせたカバンに入れて、勘定を行なって喫茶店をでる。鉄也と話した事で、心のもやもやが晴れたように晴らかな顔をしていた。そして自分なりに大田を弔うと誓った。









− 翌日 科学要塞研究所 


「はい。こちら科学要塞研究所……何!?それは本当かね!?」

電話の会話は深刻であるようだった。通話を終えた兜剣造博士は青ざめた表情であった。所員の一人が剣造に話しかけてみると…‥‥。

「今すぐ光子力研究所へ電話をつなぎ給え。緊急事態だ」
「は、はい!!」

光子力研究所へ電話がつながると、出たのは甲児であった。弓弦之助博士はカイザーの最終調整が大詰めに入ったので格納庫に根詰め状態だとのことで、甲児が応対したのだ。

「どうしたんですお父さん」
「甲児、落ち着いて聞いてくれ。欧州であしゅら男爵の姿が目撃された」
「!?そんな馬鹿な……あしゅら男爵は……確かにあの時……海底要塞と一緒に」
「あしゅら男爵は元々ミケーネの人間だ。闇の帝王が蘇らせていてもおかしくはない」

甲児は信じられないようだった。自身が討ったはずの祖父の仇であるあしゅら男爵が再びこの世に蘇ったなどと。しかしミケーネの人間という出自を考えると闇の帝王が蘇えさせても別段不思議ではない。

「軍の兵士によればあしゅら男爵は真紅のゲッタードラゴンを率いていたそうだ……」
「ゲッタードラゴンを!?あれは新早乙女研究所にある一機しかないはずじゃ」
「わからん。とにかくグレートマジンガーを整備が終わり次第、すぐに発進させる。お前もカイザーを出動させてくれ」
「わかりました」

甲児はあしゅら男爵が蘇っただけでなく、さらにこの世に一機しかないはずのゲッタードラゴンを複数率いていたという未確認情報に動揺しつつもカイザーの最終調整が終わるのを待つ。そしてそれとグレートマジンガーが発進したとの情報が入ったのはすぐの事だった。











−伊豆 上空 

『スクランブルダァ――ッシュ!!』

オーバーホールを終えて早々、科学要塞研究所から勇ましく発進するグレートマジンガー。偉大な勇者の異名を持つグレートの目的地は欧州戦線。そこへ進路を取る。するとレーダーに妙な反応が映る。

『ん?』

グレートをその方角へ向けると……。

「鉄也さん〜〜!!」
『義子ちゃん!?どうしたんだ、こんなところに』

ストライカーユニットを履いた西沢義子がなんとグレートの後を追ってきたのだ。履いているストライカーユニットはロールアウト間もない、扶桑最新鋭かつ最後のレシプロ艦上戦闘脚「十七艦上戦闘脚 烈風」であった。

「あ、あたしも……あたしも連れて行ってくれ!!頼む!!」
『な、何ィ!?』

鉄也はグレートマジンガー越しに驚き、仰天した。ご丁寧にグレートマジンガーもそのような動作を見せている。やがて懇願する西沢に鉄也も根負けしたのか、グレートについていくことを了承した。

『う〜む。ついていくはいいが、俺が行くところは欧州だ。そいつじゃ飛べないぞ。それに途中には連邦軍の基地はインドしかない」
「そ、そうかぁ…‥…」
『そう落ち込むな。左手に乗ってくれ。それなら問題ない」
「わかった!」

パァッと西沢の顔が明るくなる。烈風の航続距離は零式より短い。(紫電改よりは長いが)魔力の節約も兼ねてグレートマジンガーの左手に乗っかり、ひとまずストライカーユニットのエンジンを止める。

こうして、剣鉄也の駆るグレートマジンガーは西沢義子と共に欧州へ向かう。

そして欧州戦線で暗躍する兜家の仇敵、「あしゅら男爵」。それは何を意味するのであろうか……。



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