-アムロ・レイ。地球連邦軍最強にして、最初のモビルスーツパイロット。
なおかつ、明確にニュータイプへと覚醒した最初の人物である。
彼のニュータイプ能力はカミーユ・ビダンやジュドー・アーシタには劣るもの、戦士としては両者を上回る。
一年戦争中はRX-78シリーズを乗り回し、グリプス戦役、第一次ネオ・ジオン戦争ではZプラスを、
第二次ネオ・ジオン戦争以降はRX-93シリーズ(νガンダム系統)を乗りこなしている事からもわかる。

そんな彼にも気になるところがある。第二次ネオ・ジオン戦争終結後、彼とνガンダムは無事回収されたもの、
νガンダムが掴んでいたはずのシャア・アズナブルが乗っているポッドだけが消えていた。
「大気圏の摩擦熱で燃え尽きたのだ」と皆から説明はされたが、あれからどうも腑に落ちない点がある。
不死鳥の如く、幾度と無く舞い戻ってきたシャアがあの程度で死ぬとは思えなかったのだ。

ではシャア・アズナブルとアムロ・レイの関係はどういうものか。今回はこの点に触れていこう。

欧州に向かう途中、アムロは自室に入ってきたなのはからの質問にこう答えた。

「あの男がどうなったのかは、実際のところは俺にもわからない。だが、あの男がそう簡単に死ぬとは思えない」

……と。アムロはあくまで私見であると断りつつも、シャアがどこかで生きているかもしれないという考えを言う。

「ネオ・ジオンやジオン公国の残党が未だに多数存在するのはジオンの掲げた大義名分が的を射ていたからだ。
ザンスカールやクロスボーンの奴らはジオンに代わり得るものでは無かった。これはある意味では回帰だよ」

アムロのいう通り、ジオンに代わり得る組織や国はいくつも出現した。だが、いずれも自らの支配と無為な大量殺戮を
正当化する口実に堕してやがて内から崩壊していった。そんな中、ジオンは生き残った。スペースノイドにとって
ジオンこそが心の拠り所であり、ザンスカールやクロスボーンはそれになりえなかったという事実を証明するように。

「大尉、ジオンと連邦の戦いって本当に一年で終わったんですか?」
「公式にはね。まあ実際は元軍人らのテロが多かったからその意識は薄かったが」

なのはにアムロは一年戦争からの実戦経験者としての見解を示す。国家正規軍同士の戦争という意味では一年で『終わった』。
だが、実際は残党狩りが今でも行われている上、後継組織たるネオ・ジオンも未だに命脈を保っている。
連邦軍のモビルスーツも仮想敵はジオンであり、それを想定していた。だが、クロスボーンの出現により
より高性能な兵器が求められ、ジャベリン、そしてジェイブスの開発に繋がる。

「あの男……シャアとは15歳の時に出会った。あの時は曹長か、少尉だったな」

アムロはなのはにシャアとの関係は一年戦争からで、当初は既に撃墜王だったシャアからは「敵の少年兵」と見られていたが、
同じ人を好きになった事、自分がガンダムのパイロットと分かった事、シャアが自分に敗れ続けたなどで宿敵として見られるようになり、

『なぜララァを巻き込んだ!?ララァは戦いをする人ではなかった!』

互いにニュータイプとして完全に覚醒した後は互いの存在を認識出来るまでになり、シャアにこの一言を言ったのを思い出す。
やがて最終決戦のア・バオア・クー戦では互いの愛機を撃破しあった後は生身で戦った事を。

「今、思えばあの時に俺がララア・スンを殺してしまった事がシャアとの禍根になってしまったと思う。
グリプス戦役の時には吹っ切ったと思ってたが……カミーユの事がよほど堪えたんだろう」
「カミーユって、Zガンダムのパイロットだったっていう……」
「ああ。アイツは繊細だった……それ故に重荷になったんだろうな」

アムロはジュドーやブライトから伝え聞く形でカミーユの悲劇を知った。その悲劇を知ったシャアが地球人類に完全に絶望し、
あの第二次ネオ・ジオン戦争を引き起こすきっかけとなってしまった事にアムロは落胆していた。
グリプス戦役で対面した時は過去を吹っ切ったと思われるほどにシャアと自分の関係は修復したかに見えたからだろう。
それにその頃は「クワトロ・バジーナ」との偽名で連邦軍の良識派であった「エゥーゴ」の幹部(後半は指導者)として、
活動し、共に戦っていた。それ故に第二次ネオ・ジオン戦争の際にこの一言をシャアに言ったのだろう。
『俺達と一緒に戦った男が何で地球潰しを!?』と。

「シャアが行方をくらまし、エゥーゴはあのまま自然消滅すると誰もが思っていた。
立て続けの戦で軍事力は開戦時からは見る影もなかったからな……。指導者不在だったし、
大義名分も薄れていたからな。だが、正規軍の改革派がエゥーゴを生きながらえさせた。正規軍の部隊としてね」

エゥーゴは2つの戦いには勝利したが、多くの人材や機材を失った上に軍事力が小規模となってしまっていた。
そのままの状態では自然消滅を待つのみの状態だったが、エゥーゴの影響力を重視したジョン・コーウェン中将が
エゥーゴの残存人員と戦力を自らの配下として正規軍に組み込み、即応部隊として維持させた。
それがロンド・ベルを初めとする外郭独立部隊の母体となり、その後の戦乱での連邦軍を支えた。
そして軍改革派の屋台骨だったレビルが帰還し、エゥーゴ設立者のブレックス・フォーラの遺志を図らずしも受け継ぐ形で改革を断行。
その結果、今ではエゥーゴとカラバ出身者が軍内で大きな力を持っている。

「そんな事があったんですか」
「ああ。おかげで俺達の扱いもグリプス戦役の前に比べてだいぶ改善されたが……、今の地球圏をシャアに見せてやりたかったよ」
「大尉……」

アムロは第二次ネオ・ジオン戦争終結から時が流れ、今では宇宙出身者(スペースノイド)地球出身者(アースノイド)の数を完全に逆転し、
異星人との混血も進んでいる今の地球圏をシャアに見せてやりたかったとなのはに言う。
それは人生で幾度と無く戦ってきた宿敵がいなくなった事で、その日々に懐かしさすら覚えるようになった事の表れかもしれなかった。

「ところで、大尉。机に置いてあるのは何ですか?」
「ん、ああ。今度ロールアウトしたνガンダムの完全型の模型だよ。アナハイムが開発する時に予想模型を納入してきてね……
俺としても自信作なんだ」

アムロの部屋に置いてある机をよく見てみると初代ガンダム(RX-78-2)を初めとする彼の歴代の愛機の模型が何体か置かれていた。
中にはパイロットが自分と予定されていたものも含まれており、RX-78XXとRX-78NT-1の模型もあった。
ただしRX-78NT-1に関してはグリプス戦役時に、ガンダムMK-V(ティターンズもMK-Vを独自に造っていた)の開発テストベッドとされ、
ティターンズが保管していたのを奪取する形で本当に乗ったが。

模型を見ると、アムロは基本的にガンダムタイプが好みなようで、Z系などにも乗っていたようだ。

「Z系に結構乗ってたんですね」
「Zは乗りこなせばいい機体だよ。Zガンダムはもちろん、Zプラスもね。ただ、リ・ガズィはちょっと……」

アムロはリ・ガズィについてはあまりいい印象は無いようである。シャアに太刀打ち出来なかったのと、
量産型としてはあまり成功作とは言えず、少数配備に終わった事も関係しているようだ。後続機のリゼルが変形可能なのが余計にまずいらしい。

「あれってどうなんですか、実際」
「Zの特徴の変形が自由にできないのと、グリプス戦役当時の水準での性能だから第二次ネオ・ジオン戦争の時には性能不足だった。
ジェガンの初期型よりは遥かにマシだったが」

そう。リ・ガズィは第一次ネオ・ジオン戦争直後の計画で造られた。
そのため技術的にはグリプス戦役当時の水準で建造された。グリプス戦役当時なら十分な性能であったが、
第二次ネオ・ジオン戦争の際には敵モビルスーツの性能が向上していたため、
量産型相手にはいいが、エース機には苦戦する程度。オリジナルのZガンダムとほぼ同程度の性能のリ・ガズィでこれなため、
モビルスーツの技術向上が目覚しい事の表れであった。

「そうなんですか?カタログスペック見るとZのオリジナルとほぼ同程度なのに」
「近年の技術向上の前には一昔前の高級機も形無しってところだよ。実際、シャアのサザビーの前には太刀打ちできなかった。
その場合に備えてνガンダムを造らせておいたが、ピタリハマったよ。今はその後継機を待ってる状態だ」

νガンダムはそもそもはZ計画の延長線上に位置していたμガンダム(ミューガンダム)をベースにサイコミュシステムを取り付け、
フィン・ファンネルを取り付けた上で発展させる形で出来上がったが、急造故、アムロの構想と理想とは多少異なる姿となった。
それをより発展させてアムロの理想を実現させたのがHi-νガンダムなのだ。形式はνの設計改善型だからか「RX-93-ν2」である。

「ネオ・ジオンの残党にも新型機が納入されてるっていうからな……。備えは万全にしておかないと」

それは第二次ネオ・ジオン戦争時にネオ・ジオンが発注しておいたり、戦後にアナハイム側から納入されたモビルスーツの事。
連邦軍に対抗する目的で残党も機材を更新したと推測される。

「残党なのになんでそんな経済力があるんですか?」
「君の世界でのアニメかなんかではどう描かれているかは知らないが、少なくともこの世界ではネオ・ジオンまでをひっくるめた残党が
相当生き残っている。連邦軍も外宇宙からの脅威の方が大変だったから残党狩りを行う暇が無かったからね、他とくっついてたりして
大きくなったのさ。だからそれなりの経済力もある。それと、アナハイムとかの連中は軍需産業で儲けている`死の商人`だ。
この際儲かれば相手が誰でもいいのさ」

アムロはアナハイムの死の商人ぶりに呆れながらも、ジオンと連邦の血生臭い骨肉の争いは未だ終わってない事を告げる。
近代の人類同士の戦争で連邦軍相手にガップリ四つに組んで争えたのはジオン公国とギガノス帝国の2例しかない。
ギガノス帝国軍人は崩壊した帝国から離れ、蜂起前同様に連邦軍へ帰属したり、他の組織に加わった場合が多いが、
ジオンの場合はジオン公国軍→デラーズ・フリート→第一次ネオ・ジオン→第二次ネオ・ジオン(シャアのネオ・ジオン)と、
残党がお互いに統合・再編を繰り返している。その過程でティターンズ残党の一部、ギガノス残党も加わったと思われるので、
単なる残党の範囲に収まらない強大さを持つと推測される。

「そのためにあの機体を?」
「ああ。`Hi-νガンダム`。本当は第二次ネオ・ジオン戦争が長期化した場合に備えて造らせてはいたが、
白色彗星帝国との戦いで月面も相当打撃を受けたから軍への納入が遅れに遅れてね」

 

実の所、Hi-νガンダムは急激なモビルスーツ関連技術の発展により設計変更が施されている。
ジェネレーターもF91やV2以降の技術で新造された結果、元々、本体がシンプルな構造であったのと、
本体に余分な火器がない分、出力に余裕が生じたのでハイパーメガバズーカランチャー(かつての百式のものの小型発展型)
の装備が可能となっている。ファンネルラックもνからレイアウトが変更され、翼のようにファンネルが備えられている。
このレイアウト変更は成功し、νガンダムより5mの小型化に成功している。ただし18m級MSへのビームシールド搭載はまだ不可能であるので、
ビームシールドの搭載は見送られた。

「カッコイイですね、このガンダム」
「まあね……」

模型を見ると流麗なフォルムを持つ事がわかる。機械好き(この`なのは`には機械好きの性質がある)としては造形美がたまらないようだ。

と、そこへ部屋のチャイムがなる。智子だ。

「アムロ大尉、なのはを見ませんでした?」
「なのは君ならここにいるが?」
「そうでしたか、ありがとうございます。入ってよろしいですか」
「ああ、構わない」
「失礼します」

智子がなのはを迎えに来たようだ。アムロがとりあえず応対する。

「智子君、何か?」
「はい。νガンダムのサイコミュの調整に格納庫に来られるように、アストナージさんから」
「分かった。すぐに行く。なのは君、それじゃまた」
「はい。今日はありがとうございました」

アムロのこの時の年齢は20代後半。少年時代の面影は残っているが、戦士として経験が増したために凛々しさが増している。
史実より多くの実戦を経験したため、戦略眼も鍛えられている。(上官に恵まれたためもあるが)
そのためネオ・ジオンの新型への警戒心を見せる。

智子となのはに続いて出ていく彼の右腕にはある写真が握られていた。建造中のネオ・ジオンの新型を写した一枚だ。
その機体の名は「ナイチンゲール」。サザビーの後継機と思われるMAよりの姿の赤い機体だ。

(シャアが生きているのか?それとも……?)

アムロにはこの写真が宿敵の健在を表しているようにしか思えない。赤い彗星は健在か、それともその再来なのか。彼にはまだ分からなかった。

-ジオンの系譜が蘇りし日はそれほど遠くはないであろう。

 

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