−のび太は非常時には勇気のある凛々しい少年であるが、平時には美琴もなのはも、
元の世界で知る通りの`ダメ少年`だ。だが、のび太は平時においても少しずつ成長していた。
それは1998年頃から10年間(2008年まで)無人島で生活していたというタイムパラドックスの議論の的
的な経験によるもので、時々見せる大人びた側面はその経験によるものであると、
のび太はある日、ラー・カイラムでなのはと美琴と雑談した際にそう語っている。

「じ、十年間!?」
「ずばり十年間ですよ。だからぼくは普通の子供とはちょっとだけ違うんですよ」
「つーか思い切り違うって……」
「魔法使ってるなのはちゃんが言うことじゃないって」
「う〜、それはそうだけどさ……」

のび太のこの的確な指摘になのははタジタジだ。
確かに世界のどこに魔砲をぶちかます小学5年生がいるだろうか。まずいないだろう。

「おっ、何やってんだお前ら」
「あ、大尉。どうしたんです?疲れた顔しちゃって」
「いやあ、向こうにいる戦友が零式神話の信奉者になっちまってなぁ……ありゃそうとう重症だ」

フリーディングルームに遅れてやって来た黒江は疲れた顔をしていた。故郷の世界との電話で相当
骨の折れる会話をしたのだろう。この戦友とは坂本の事だが、坂本の`零式神話`の信奉ぶりには
黒江も`こりゃまずい!!`と説得を試みたのだが……。

「ああ、日本軍のベテラン勢に多かった`軽戦至上主義`ですね?」
「どうもそれらしくてな……どうすりゃいいんだ〜?」

のび太も男の子なので、「旧日本軍」については一応ある程度の知識はあった。
出木杉英才に詳細を聞きに行った事も多いので、その点は一定の水準に達していた。

「太平洋戦争後期は一撃離脱戦法が主になったはずなんですけどねぇ……」
「そいつは零式ストライカーの開発にも関わっててな。それでな……」
「なるほど……これはコンボでやばいですね」

のび太は旧日本海軍が開戦時に開発済みの零戦を最後まで第一線機として扱い続けていた事も
知っている。後継機開発の失敗(正当後継機の烈風は終戦時に8機のみ完成)により、
遅くとも1944年には引退させて然るべき機体を1945年まで第一線で使用し続けた。
日中戦争当時の味を忘れられないベテラン勢の発言力が無駄に多かったため、
零戦後継機(烈風、雷電など)にも運動性重視の設計を指示した。その結果、
「登場時期を逸した」と後世で揶揄される烈風の性能に繋がっていく。

「そうか……お前は`戦後`の人間だものな」
「ええ。ゼロ戦ははもう1944年には時代遅れのポンコツです。
全面的に紫電改とか雷電とかに切り替えたほうがいいと思いますよ」
「お前もそう思うか……ウチら`陸`には疾風があるからいいが、海さんを満足させる
後継機はあるにはあるんだが……地震がなぁ」
「噂の烈風ですね」

この頃、黒江達の世界は1944年の12月を迎えていた。そして`烈風`と呼ばれし十七試艦上戦闘脚(機)
が本来の性能でロールアウトし、その性能を認められて大量生産に取り掛かろうとしていた矢先に
東南海地震が発生、宮菱重工業の名古屋にあった主力工場は空襲以前に壊滅。海軍を呆然とさせた。
ストライカーユニットの方は幸い西沢を初めとする撃墜王に先行生産分が少数行き渡ったが、
正当後継機というので楽しみにしていた坂本には回って来ず、彼女を落胆させた。

「烈風は零戦の後継機ですけど、敵は最強のレシプロ戦闘機も持っているかも知れませんよ」
「ベアキャットか……あり得るな」

それは時代の流れに翻弄されたもの、性能面ではレシプロ最強の艦上戦闘機と謳われた機体
「F8Fベアキャット」である。一節によれば格闘性能では零戦すら凌駕しうるとも言われ、
正に米軍航空技術の象徴とも言える。その`ベアキャット`という言葉に悪寒が走る黒江だった。

‐敵は動態保存されていた機体を動かしていると聞いている。それはレシプロ機も例外じゃないはずだ。
ベアキャットが持ちだされたら零式でも敗北必至だぞ……。

それは零式の次世代機に対する唯一無二の長所「格闘性能」が過去の遺物と化する可能性がある事である。
黒江達の世界にベアキャットやムスタングH型などを使われたらそれこそ終わりだ。特にベアキャットは
一説によれば大馬力で`零戦をも凌駕する格闘性能`を誇ったとも言われる機体。それに対抗可能なのは
烈風か、震電くらいなものだ。リベリオンはF6Fへ更新が始まって間もないし、ブリタニアは
スピットファイア最終型からスパイトフルへ更新が始まろうかという状況だ。
だが、それらは究極のレシプロ戦闘機と謳われたベアキャットの格闘性能、P-51Hの速度性能には
不安だらけだ。`彼等はレシプロ機も投入してくるだろう`。黒江はどこはかとない不安を感じていた。

「そーいえばお前、年の割には大人びてるよな?気になってるんだが」
「今、その話してたんですよ」
「お、マジか」

と、いうわけで、黒江も話に加わった。のび太は取り敢えずかいつまんで、
ドラえもんとの事のあらましを説明した。ドラえもんは2112年の日本製ロボットで、本人曰く
`夢も幻も見れる`高級ロボット。のび太から数えて5、6代ほど後の子孫の野比セワシが歴史改変のために
先祖のもとへ送り込んだロボットだと。

「ん?そーいえば前々から気になってたけど、ドラえもんが歴史を変えたらセワシ君が生まれるって限らない
んじゃ?のび太くんの子孫……子供とか孫の世代が結婚するとは限らないし」
「タイムパラドックスですね。あれもややこしいし……確かにそうですよね、美琴さん」
「うん」

美琴となのははのび太の結婚相手が変化し、未来が変われば、
子孫の構成も当然変化するはずで、セワシが生まれるとは限らないと指摘する。
それにのび太はセワシが答えた答えをいう。

「セワシは`心配ない、どっかで釣り合いはとるから`って言ってました。たぶん、ノビスケ……僕の息子から
セワシのお父さんの代までのどこかでジャイアンの血筋の人と結婚するんじゃないかな?」
「それなら納得出来ないわけじゃないけど、そう上手く行くかなぁ?」
「どーだろう?それはぼくの子孫に聞いてみないことには分からないね……」

のび太もかつて自分もセワシに指摘した事なのだが、それは実のところ分からないのだ。
少なくとも自身の子から曾孫までの代のどこかでジャイアンの血筋(剛田家)の人間と結婚することだけは
確かであるのだが……。

「それでドラえもんが来てから色々冒険するようになって……地底、海底、宇宙……」

のび太は過去の冒険を追想する。多くの冒険をしてきたが、ジャイアンが初めて4人の前で任侠的な側面
を垣間見せたアフリカの犬の王国の冒険は印象深かったと語った。

『やめろジャイアン!死に行くようなものだぞ!?」
『バーロ、とっとと行かないと火あぶりだぞ!』

ジャイアンはこの冒険の時に自分のワガママで友人たちを幾度となく危険に晒してしまったことへの
悔恨から敵が復活させた古代兵器(空飛ぶ船。ダブランダーが造らせた兵器は、
ドラえもん達の助言により事変後も軍の兵器としては残った)の猛爆をかいくぐって、
王国の王子である「クンタック」(人間界では`ペコ`という名でのび太の飼い犬として振る舞っていた)
を助けるべく、いの一番に飛び出し、空襲をくぐり抜けていった。
その勇気ある行動で、のび太はジャイアンを見なおしたとの事。

「いやああれでジャイアンを見なおしましたよ。白亜紀の時やコーヤコーヤ星の時の冒険で
ジャイアンは本当はいい奴だって印象があったんですけど、これが決定打になりましたよ」
「いい奴じゃねーか、チクショウめ……」

仲間を助けるために空襲を掻い潜りながら単身飛び出していく。これは並大抵の肝っ玉では出来ない。
これはジャイアンの並外れた勇気が他の4人を突き動かしたと言っていい。
さらに、話の途中からやって来たドラえもんが当時の映像を見せたので、その場にいた
全員はジャイアンの任侠さに言葉もなく、黒江に至っては感動のあまり泣いている。

「海底の冒険じゃバギーが身を呈してポセイドンに特攻してくれたし………。そうそう、ドラえもんって
二回くらい壊れた事あったよね」
「天上世界の時とチャモチャ星の時だね」
「特にチャモチャ星の時は苦労したよ。ジャイアンとスネ夫なんてロボットのコスプレやって首都に
潜入したんだから。ドラえもん、その時の映像出せる?」
「がってん」

タイムテレビに一同がかじりつく。チャモチャ星でのジャイアンとスネ夫の苦労が忍ばれる映像が映し出される。

『ふう、生き返ったぜ』
『本当、生きててよかったよ。…ん?そうだ!』
『なんだよ?どうした』
『この食料は何のために作られてると思う?』
『馬鹿、そりゃ人間が食べるため……そうか!』
『この食料が運ばれる先には……』
『人間がいる!!』

 

「ジャイアンの話だと、この後人間収容所にはたどり着いたけど、バレて車を奪って逃走して……
最後は飛行機で逃げて、嵐で南極に墜落してサンタクロースに助けられたそうです」
「え、なんで別の星にサンタクロースがいるの!?」

なのはが驚きの声を出す。そもそもサンタクロースは地球の近代になって存在が確立されたお伽話の人物で、
宇宙規模で見れば凄くマイナーなはずだ。なのに何故、まったく別の星にサンタクロースがいるのか。
信じられないようだ。

「さあ。それは僕たちにもわからない。少なくとも同じような話が向こうにもあったと考えたほうがいいかも」
「ええ〜!?んなのでいいの!?」
「これでいいのだ〜」
「バ◯ボンじゃないんだから、そんなので納得出来な〜い!」

のび太のジョークを入り混ぜた問いに、なのはは憮然とする。
サンタクロースの事がいまいち釈然としないようだ。

「またある時は日本人の先祖になる原始人を中国から移住させたこともあったし……」
「ブッ!!そんなことやっていいの!?」

美琴が飲んでいたジュースを吹き出しそうになりながらツッコむ。日本人の元になった原始人は
ドラえもん達が移住させたというのは日本の歴史の根幹に関わることなのだが、これに
タイムパトロールから何のお咎め無しなのはおかしいからだ。

「たぶん日本人の元になったヒカリ族が移住するのは歴史の中での決定事項で、僕たちがやったのは
その手助け程度なんでOKだったのかも。いまいちわからないけど。今でもあの時代の洞窟は
取っといてますし」
「え!?ま、マジなの?」
「マジなんです」

ドラえもん達は7万年前の日本に洞窟を遺した。無論、22世紀序盤当時の超技術がてんこ盛りである。
ノビール水道管などで上下水道完備、洋式トイレ完備の素晴らしい環境で、かなりの広さを誇る。
高台に築かれているので、原始人では登れない。今でもドラえもんは施設に手入れを定期的に行っているので、
使える状態である。近くにはヒカリ族の集落もあって快適な環境で、`理想的`なリゾート別荘地だ。

「その洞窟……まだ使えるの?」
「はい。良ければ戦争が終わったら皆さんを招待しますよ、ただし僕、あそこじゃ呪い師なんでその家来という事で」
「呪い師ぃ?」
「はい」
「どうしても信用させるには呪い師の身分が必要で……ドラゾンビって名前を名乗ってました」
「そうか……原始社会じゃ呪い師って崇拝の対象だったからね」
「どうしてですか?」

文系に疎いなのはが美琴に質問する。美琴は最盛期の学園都市のお嬢様学校である「常盤台中学校」の中でも成績優秀の
部類に入るため、歴史にも詳しい。それは高校生の上条当麻の宿題を軽く解いてしまうほど。そのため
原始社会での呪い師の地位についてなのはに説明する。

「今よりずっと世の中が単純だった頃、人々は世の中の全てに精霊が宿っていると考えた。
で、精霊を怒らせると地震や山火事、伝染病なんかの災害が起こると信じてたわけよ。
そこで精霊をなだめるのが呪い師。原始人の社会じゃみんなに畏れられてたわけよ」
「へぇ……それをドラえもん君が?」
「そうだよ。名前はスネ夫が考えたんだけどね」
「あいつもよく考えるよなぁ」
「スネ夫は口がうまいですから、大尉」
「確かに」

ドラえもん達の普通ではない体験談にウキウキしながら話に聞き入る一同。
この時、のび太とドラえもんは7万年前の日本に持つ`別荘`にここにいるメンバーを招待することを確約したが
それで済むはずはなく、ドラえもん達は洞窟の大拡充に追われる事になるのだが、それは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

‐さて、1944年12月 アフリカでは。

「何ぃっ!?馬鹿な……原爆型ネウロイだと!?」

トブルクから海上を偵察飛行中のマルセイユは新型ネウロイの姿に驚愕していた。
その超大型ネウロイの姿はどう見ても、
向こう側で
広島を消滅させた原爆「リトルボーイ」にしか見えなかったからだ。マルセイユが
護衛を務めているブリタニア艦隊は「キングジョージV世」を旗艦とする有力な艦隊だが、新型ネウロイは
それらを歯牙にもかけない。再生速度は早く、マルセイユが「Ta183」の装備である「MK108」で攻撃を加え、
再生速度を遅くした上で、
キングジョージV世やデューク・オブ・ヨークが「1922年型 Mark 7`35.6cm(45口径)砲`」で砲撃するが、
`リトルボーイ`の再生速度は尚も凄まじい速さで、戦艦主砲の装填速度を上回っていた。

「くそっ、再生速度がダンチだ!こっちの主砲を歯牙にもかけないとは……」

キングジョージX世の艦橋で艦隊司令長官は呻いた。まさかブリタニア最新鋭戦艦がネウロイの前には
蟷螂の斧同然の醜態を晒す事になろうとは思っても見なかったからだ。
そして彼の眼前で隣を航行していたF級駆逐艦が船体をビームでまっ二つに折られ、轟沈する。
艦隊将兵はまさかのネウロイとの遭遇に右往左往する有様で、これがかつて世界最強を誇った
「ロイヤルネイビー」の成れの果てかと、憤慨した。

無論、艦隊は戦艦や巡洋艦主砲、各艦高角砲で応戦するが、再生速度の前に全て無意味である。
マルセイユは単機だった故に艦隊の全てをカバーできない事に悔恨を感じていた。そして如何に
ジェットストライカーユニットといえど、この攻撃力は脅威だ。

「クソッタレめ!!この私がこうもいいようにされるだとっ……」

マルセイユは自身がネウロイに翻弄されているという現実に苛つきと焦りを覚えていた。冷静な彼女にしては
珍しい事だが、それほどまでに新型ネウロイは強敵だった。そしてネウロイはさらなる動きを見せる。
一部を分離させ、数機ほどをビット状にし、オールレンジ攻撃の端末として再構成したのだ。
これにはマルセイユも感情を顕にして叫ぶ。

「ば、馬鹿な!?`ファンネル`だとぉっ!?」

それはネウロイがティターンズとのモビルスーツとの戦闘を学習し、進化した証でもあった。
`リトルボーイ`はファンネルをマルセイユに向かわせ、ニュータイプさながらのオールレンジ攻撃を
展開する。彼女はこの攻撃を必死に避けるが、さすがにアフリカの星と言えども全方位からの弾はよけきれず、
ビームにMK108を切断され、爆発する。

「あ〜〜〜!!この装備高いのにぃ!!おのれぇぇぇ〜弁償しろ、弁償ぉぉ〜!!」

マルセイユは思わず叫ぶ。
ジェット用装備は通常装備より補給・整備が難しく、補給申請も審査が難しい。隊長代理の任についてからは
経理のことも考えなくてはならなくなったためにこういう事も気にしており、弾丸がある状態で装備を失う
というのは、、これ以上ないほどに屈辱だ。
だが、ビームの光芒は彼女を一層、追い詰める。
そして遂にその隙を狙うが如く、キングジョージX世に向けて高出力ビームが撃ち出される。

「くぅっ、そうはさせるかぁっ!!」

マルセイユはとっさにサブウェポンとして携帯していた日本刀を引き抜き、刃でビームを切り裂く。
これは地球連邦軍が本来はティアナや圭子、真美用に用意した未来世界の技術で作られた軍刀で、
エネルギー転換装甲材製である。その魔力との親和性は高く、本来、念動系ではないマルセイユでも
扶桑の達人たち同様に魔力で刃を輝かせる事が可能なほどである。居合をマルセイユができたのはひとえに
飛羽高之=バルイーグルのスパルタ特訓によるもので、彼はアフリカ防衛に地味に貢献していた。

‐もしこの場に上条当麻がいたら、神裂火織と聞き間違える事だろう。
マルセイユの声は神裂と面識がある人間でも一瞬間違えるほど、よく似ていたのだから。
ちなみに後に神裂本人は`他人の
空似でしょうが……恐ろしいくらいですね`とコメントしたとか)

このマルセイユの行為は艦隊司令長官に「う、美しい……」と見惚れさせてしまうほどで、
「何見惚れてるんだ、とっとと逃げろ!」の言葉で正気に戻るまでの数秒間、艦隊は隙だらけの状態だった。
この時の様子はデューク・オブ・ヨークに乗艦していた従軍記者によってバッチリ写真に収められており、
ニュースとなって全世界を駆け巡り、ハルトマンをして「う、嘘だろ〜!?」と言わしめ、バルクホルンを
絶句させる事になるが、それは別の話。

 

‐そんな艦隊を救うため、扶桑海の`スーパーバルカンベース`では、
二機の巨大母艦が出撃しようとしていた……。

『ジャガーバルカン、発進!!』
『ゴーグルシーザー、発進!!』

嵐山長官の命を受けて、太陽戦隊サンバルカンの母艦「ジャガーバルカン」と大戦隊ゴーグルファイブの母艦
「ゴーグルシーザー」が発進する。ちなみにジャガーバルカンはニューバルカンベース同様の、
発進シークエンスだが、ゴーグルシーザーはベースの格納庫部分が地上にせり出し、発進するという
未来科学研究所に似たシークエンスをとっている。

それは20世紀の現役時代には実現することのなかった共演。太陽戦隊サンバルカンと大戦隊ゴーグルファイブ。
2つの`古参`スーパー戦隊はその超メカを以ってしてネウロイへ立ち向かおうとしていた。

その母艦が発進する様は扶桑のマスコミにも知られ、紙面を賑わせたとか。

 

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