‐フェイトはビックトレー級乗艦後もこの世界の事を調べていた。幾多の人同士の戦争、多くの宇宙戦争……。その結果、軍事関連技術が突出して進化した事を再確認していた。その中でフェイトが特に惹きつけられたのがあの宇宙戦艦ヤマトの凄まじい戦歴である。ラー・カイラムで見た白色彗星帝国戦時の映像だけでも凄いのに、イスカンダル戦での死闘は、単艦で大帝国を崩壊へ追いやったという結果になったのは運の良さ、ヤマトの船体性能の高さ、乗員練度などが相まって起こした「奇跡」である。ヤマトを宇宙最強たらしめたイスカンダルからもたらされた超技術は地球連邦軍艦艇の飛躍的高性能化をOTMと共に推し進め、地球人類の生存権を広げるのに一役買ったという。
「だけど、純粋な地球人類の内、地球に住んでいた者はゼントラーディ軍の爆撃で、地下都市に逃げこむのが間に合わなかった人間の殆どが死に絶え、その後の回復を数に入れても数億人にまで落ち込み、ゼントラーディなどとの混血化も進んだ結果、アースノイドに占める、純粋な地球人の割合は多くはない……か。これが戦争の傷跡なんだ……」
フェイトはある日、管理局へ提出するためのレポートを執筆していた。無論、この世界はまだまだ謎だらけなので、そう簡単には書き終わらないだろう。ヘタすれば数年がかりだ。それほどこの世界は混沌に満ちている。この時代にまで尚も健在なナチス残党、ヴァチカンの有するという裏の顔、異端殲滅のための
「イスカリオテ機関」……。これだけでも数十ページにもなりそうなものだ。更に宇宙戦艦ヤマトという一隻の戦艦の存在。
「上もヤマトを恐れてる。だけどそれは単艦で帝国を滅ぼしたっていう、力の側面ばかり見てる。『心』……乗組員の『心』がヤマトの戦いを勝利に導いた事を見ていないんだよね……」
以前、フェイトは簡単にヤマトについて、上へ報告した。その結果、ヤマトの凄まじい戦績は時空管理局に一種の恐怖を抱かせた。『もし、地球を強引に管理世界に組み込もうとしたら、ヤマトの波動砲で惑星ごと、ふっ飛ばされるのではないか』と。無論、地球連邦軍はそんな事しないのだが、管理局の上層部はヤマトのその凄まじい獅子奮迅の活躍ぶりに絶句。戦艦でありながら軽空母に相当する航空攻撃力を有するというのはよくあるが、ヤマトの場合はその艦載機からして、とても通常兵器とは思えぬ高性能を誇る。コスモタイガーUはノンオプションで大気圏脱出可能で、一撃で恒星間航行用艦艇を撃沈可能な火力と、宇宙空間でも大気圏内同様の「航空機」的な機動が可能な高度な機体制御技術を有する。子供でもこの事が如何に凄いのかはわかる。しかしこれは単純な機体スペックの問題で、乗員のことも考慮に入れなくてはならない。こうなるとますます何と書いていいのかわからない。その原型が坊ノ岬沖海戦で果てた、かつて大日本帝国海軍が誇った戦艦大和だという事を書くとますます上を混乱させてしまうだろう。フェイトは子供ながらもこうした事に気を使いながら報告書を書いていった。
「……20世紀後半から世界を守り続けてた2大ヒーロー……仮面ライダーとスーパー戦隊……これも凄いし、本当、この世界はわけがわからないよ」
フェイトは科学と魔術が交差するこの世界をわけがわからないと呟いた。しかもそれが想像を絶するレベルで複雑に絡み合うのだから驚きだ。科学の極致が2大スーパーヒーローだというのなら、イスカリオテやイギリス清教は魔術の極致である。それをどう、上に報告すればいいのか。魔術は「魔法」とは似ているようで異なるので、これまた数年がかりの調査を必要とする。
「上からは地球連邦軍の軍備を調べてこいって要請も出てるけど、腰抜かすだけだと思うなぁ。だけど中将閣下の頼みじゃ断れないし、しゃーないな」
フェイトは歴代ガンダムを初めとする強力なモビルスーツ、この時期には試作が開始されたYF‐29などのVF、マジンガーZなどのスーパーロボットについては前の報告で簡単にレポートを送っていた。反応は概ねその軍備に驚嘆するものであったが、一部の国粋主義者達からは懐疑的な声が多く出た。それは以下の通りであった。
「第一世界であるミッドチルダを超えるモノが観測指定世界に造れるのか?」
「純粋な機械が魔法に敵うのかね?」
「確かに我々も旧時代に用いていたが、駆逐されたではないか」
……と、いう国粋主義前回の内容で、管理局主流派の首魁のレジアス・ゲイス中将はフェイトに宛てた手紙で、「小うるさい国粋主義者どもをギャフンと言わせられる証拠を掴んでくれ」と言ってきている。主流派は地球連邦の存在と軍備を容認する事で、管理局が、他者に寛容であるところを全次元世界に示したいのだろう。なお、此頃には、フェイトも師の影響により言葉づかいが若干変化を見せており、荒っぽいところが見え隠れするようになっていた。「しゃーない」と呟いたのもそのためである。そのため電話でスバルは「変わりましたね」と言ったとか。
「スバル、驚いてたけど、そんなに違うのかなぁ……?未来の私と」
大人になった自分自身の部下と話をするというのもなんだか変な話だが、時空間の解明も進んでいるこの世界では「あり」なのだろう。直接会ったらなんと話せばいいのだろう。話したい事はそれこそ山のようにある。大人になった自分はどんな人間だったのか、どんな暮らしをしていたのか……(未来が変わっていっているので、もう過去形であるが)。なのはを通して送ってもらった、新暦75年の機動六課の集合写真を手に取る。そこには今と変わらない、屈託のない笑顔を浮かべた自分の姿がある。
――信じたい。あの時の心を忘れないでいるって。
今はパラレルワールドとして、歴史の大河から分岐してしまったこの未来においても、なのはと友達になった時の気持ちを忘れずにいると信じたいフェイト。事実、この未来においてはちょっと百合的な関係へ進展してしまったもの、なのはとの関係は良好であった。フェイトは棚の上に写真を置き、独白する。
――今はそれとはちょっと違う関係になりそうだけど……私はなのはを守る……その為に剣の練習だってしてるんだから。
フェイトにとって、なのはは過去に失ってしまった家族と同等の立ち位置にいる。と、言うよりは今や完全に心の拠り所と言って良い。なのはが傷つくことは自分が傷つくのと同じ事。それ故、なのはの生死不明の報を聞いた時は危うく心の平静を崩しかけたほど取り乱していたし、感情的になって、なのはの上官に詰め寄った。彼女が黒江に弟子入りした目的は、『今度こそ、なのはをどんな相手からも守りたい』ただそれだけだ。
――今では、一日に数十回の竹刀の素振りにランニングが日課となり、体を鍛えている。扶桑陸軍流の厳しい鍛錬だが、驚いたことに、今ではそれにも慣れてしまったし、その成果か、筋肉もだいぶついてきて、外見とは裏腹にガッシリした体になりつつある。視力維持のために、牛乳を愛飲してもいる。この点では大きく変わったと言えるだろう。
「ん、そろそろVF-22の整備を手伝いに行くかな」
フェイトは腕時計に目をやる。すると午前11時半になっていた。椅子から立ち上がり、服を着替えて格納庫に行く準備をする。これはフロンティア船団にいた時、事実上の戦闘要員であるS.M.Sの面々と行動を共にしていたため、機体の整備を手伝うことがままあったためで、なのはとも連絡を取り合って、今ではアビオニクスの微調整などの簡単な整備程度はできるようになっていた。ギャラクシー船団との戦いで手に入れたVF-22が今の愛機である。
――ジェット戦闘機の搭乗員というのもなんだが変だけど、飛んでみるとこの世界の人達が好きなのが分かる気がする……。
そう。飛行機は魔力を持たない者たちにとっては、空を飛ぶための翼そのものだ。昔から人々は空を自由に飛びたいという願いを持っている。イカルスの伝説しかり、飛行機を発明したライト姉弟しかり……。そして元々、ジェット機も各国が戦前から研究を重ねていた物だ。歴史上、エポックメイキングなのは、メッサーシュミット・Me262『シュワルベ』。戦争末期、もはやレシプロ機では落としにくくなった連合国軍重爆撃機への唯一の有効な手段として投入され、一定の成果を上げた。日本もそれを受けて起死回生の手段として火龍、橘花を作ろうとしたのは有名だ。フェイトも以前、乗艦した空母の搭乗員達の気持ちが理解できる境地に達していた。
――この時代ではVF‐11やコスモタイガーがベストセラー航空機と言えるだろう。VF-11はVF-1の正統後継機として、白色彗星帝国戦時に大量配備され、次世代機が就役した今でも大多数が現役稼働中だし、コスモタイガーUはその汎用性から、恒星間航行艦中心に配備が進められた割には重宝され、今では前任機のブラックタイガー以前の機体を第一線からほぼ`駆逐`し、空母艦載機戦力の一角を担うようになっている。レシプロ用の短距離滑走路でも離着陸可能なのが大きな強みであり、VFより比較的安価である事も手伝って1944年(45年)にも複数の装備飛行隊が送り込まれている。
艦の格納庫にはジェガンなどのモビルスーツの他にはコスモタイガーやVFが複数置かれ、それを暗示する光景が広がっている。このビックトレー級は一年戦争当時に就役していたタイプの拡大改良型なので、固定翼機の本格的運用も可能である。そのため、編成上は原型艦の戦艦から陸上戦闘空母へ分類替えされている。ショックカノンを装備し、砲撃能力も残っているので、そう呼ばれる。
「おっ、お嬢ちゃんか」
「整備、手伝いますよ」
「助かる。コイツは特に気を使う機体だからな」
フェイトは超大型戦車(ホバークラフトだが)と言えるビックトレー級にも宇宙艦艇同様の光景が広がっているのに新鮮さを覚え、愛機の整備を手伝う。この時期にはフェイトはVFでも一定の戦果を上げ、撃墜王と呼べるだけの撃墜数は一応確保していた。なので、パーソナルマークを尾翼に描いていた。それはなのは同様、大人になった自分が率いるはずの「ライトニング」のマークである。ただし、細部の意匠は変わっており、むしろ旧日本軍の電光をモチーフにしたマークの航空部隊のものに近い。フェイトはなのはと違って、連邦軍での身分は「有志の民間人」扱いであったもの、待遇は士官(少尉、もしくは中尉)相当であった。そのために軍からの給金もちゃんと出ており、それなりに羽振りはよく、給料を釣り道具に使い込んでしまう黒江にたかられる事もしばしばである。
「これでも旧式に入り始めたんですか?」
「次世代型のYF-24を基にした次世代型が続々とロールアウトして生産に入ったからな。扱いにくいこの世代はエース専用で生き延びるしかないよ。ただし、一応、VF-19が再生産されているのが救いだがね。バジュラに対してVF-171では力不足だったし」
40半ばほどの整備員はAVF世代はVF-1的地位に付くのは、その性能特性上、叶わなかったもの、一応はある一定の需要は満たし、バジュラに対して有効な性能を持つ『旧世代型』としての地位を築いたと言う。確かにVF-19Aやその系統機はエース専用機としての需要は満たしており、腕がいいパイロットはVF-19系統に乗り換えるというのがここ最近の風潮だ。
「そう言えば綾香さんも乗り換えてたし、この世代は一応それなりに評価されていいと思いますよ」
「だろ。この世代のVFは結構将兵の中じゃ人気高いんだぜ。アビオニクスの調整はどうだ?」
「今、アップデートが終わりました。これで。これで生産型のMDE弾頭も撃てますね」
「ああ。だが、アレは色々と生産ラインの改編が大変だったらしいぞ。新星に勤めてる俺の従兄弟はぶーたれてた」
フェイトのVF-22は、フロンティア船団で支給された試作タイプの対バジュラ用のMDE弾頭には対応していたが、その後の本国で生産された、より貫通性能のある制式採用型にはアビオニクスが対応していなかった。それは本国でVF-25の装備よりも、一世代に進んだアビオニクスが西暦2200年付けで採用されたためで、それ以前のものが使われている機体はソフトウェアの更新で対応する、というもので、戦闘機にしてはえらく大昔のPC的な対応であるが、既に生産した機体のアビオニクスをいちいち改修する手間が面倒くさいとの事。大昔の戦闘機でも21世紀に入ってもアナログ計器のあるアビオニクスが稼働していたので、一応的は射ている
(昨日の敵は村正を作らせてたし、使えるのはなんでも使えってのは何も人間に限った話じゃないんだよね……)
そう。兵団も、この際だからと、鹵獲機、鹵獲品を積極的に用いている。フェイトが出会った男しかり。地球連邦軍も過去の戦乱で鹵獲したものを一定数前線運用しているのは事実だ。考えることは同じなのだ。初代マクロスにしてもそうなのだから。4
――使えるのはなんでも使え。たとえそれがウィッチだろうが、魔導師だろうが、魔術師だろうか、ヒーローだろうがお構いなし。それが地球連邦政府の方針なのだ。整備を手伝いながらフェイトはそう思った。
――地球連邦軍はウィッチや時空管理局の魔導師(空戦・陸戦問わず)をも前線に動員して、欧州戦線を持ちこたえていた。それには兵器の生産が損耗に追いつかないという事情も絡んでいたが、概ね目的は達していた。魔導師のスキルやウィッチの固有魔法が崩壊寸前の戦線を持ちこたえさせたという報告も多く出され、地球連邦政府は連合国と時空管理局に更なる協力を要請。両国は恩を売る思惑のもと、精鋭を派遣することで答えた。それと、その中でも、とびきり優秀であるなのは達にはスバルが持ち込んだ新暦75年のカートリッジを元に、新暦60年代末時点の技術で再現を試みた試作タイプが支給され、これで地球連邦軍を通してのカートリッジの安定供給がようやく可能となった。この時に供給された試作型を経て、改変後の75年に流通しているカートリッジは改変前よりも安定性・容量共に向上しており、その性能は数多の実戦で証明される事になる。
――ラー・カイラム なのはの私室
「カートリッジの試作タイプですって?」
「うん。私の時代の技術でできるだけ性能をアレに近づけたタイプだって」
ダンボールに入れられてギアナ高地から送られてきたカートリッジは大まかな規格は変化していないため、見かけは新暦75年製と一緒だ。だが、抽出可能な魔力量などに時代故の差が生じているが、安定性は75年製と遜色ないようにはなった。技術班が最も気を使ったのはその辺らしい。
「まあなのはさんの時代じゃこれで最高品質なんでしょうね。あたしの時代じゃ魔力量がこれより一桁多く出来ますけど……」
「まーね。8年もあればカートリッジだって2世代は世代交代してるよ」
「ですよね。でもなのはさん、撃つ魔力を逆に剣のエネルギーにするって誰が考えたんです?」
「アムロ大尉だよ。ディバインバスターの練習してたら、そんなにエネルギー量あるんなら剣に応用したら切れ味良くなると思うんだが、って言われてね。試しにディバインバスターと同じ量の魔力を切っ先に集中させてみたらガンダリウムα合金程度は一刀両断できちゃったよ」
「おっそろしいですよ、それ。そーいえばなのはさんのご実家には立派な剣術の流派があるじゃ無いですか。なんでそれをやらないんです?」
そう。スバルはなのはの実家にも行った経験があるので、なのはの実家に、『小太刀二刀御神流』という立派な剣術流派があるのを知っていた。それをどうしてやらないのか。スバルはそれが気になっていた。それ故、突っこんだのだ。それに対しなのははバツの悪そうな顔で答えた。
「そもそもあたしは剣術やる気は無かったからね。翠屋を継ぐつもりだったし。小さいころは、剣術はお兄ちゃんやお姉ちゃん達がやることだって思ってたんだ」
それは、なのはの元々の性質にも関係しており、魔法少女として戦うようになる以前は実家の稼業である喫茶店を継ぐつもりの普通の少女だった。それに母親似なのか、運動神経が鈍かったし、誰かを傷つけることは嫌いであった。それ故、父親や兄や姉達もなのはに剣術を無理強いさせることはなく、そうやって育ってきた。今のような性質になったのはロンドベル隊に属するようになってからで、元々、颯爽と剣を振るうフェイトへ憧れを持っていた事、同じ土俵に立って、フェイトの背中を守りたいという仄かな願望とが絡みあって、智子や黒江に弟子入りしたのだ。
「だからウチには言えないんだ。こんな仕事やってることは」
それはなのはの軍人としての実家への負い目であった。元々、両親は`せめてなのはだけは普通の人生を歩んでほしい`という願いを持っていた。それを真っ向から否定する世界に自分はいる事を。ある意味、父親の昔の商売であるSPよりも危険な仕事をやっている。それがなのはの家族への負い目なのだ。その事の『償い』として、少なくとも高校までは進学する事をこの時から腹に決めていた。
「でも、いつかは言わないと」
「うん。20くらいには言うつもりなんだ。世間的にもせめて高校までくらいは出ないと……大学の付属に入ってるしね」
「確かに今の時点じゃ家族の皆さんに今のなのはさんのことは言えませんからね……小学生ですしね」
「うん。私の時代じゃ子供の兵士なんて紛争地域の悪しき例でしかないからね。言えないよ。どこの世界に「Pfeifer Zeliska』とか、コルトパイソンを携帯してる小学生がいる?アメリカでもいないよ?」
「あ、あはは……た、確かに」
なのはは世間的に中卒だとつぶしが効かないし、21世紀のご時世には外観的にもまずい事を知っていた。だから家族への「裏切り」の償いをどこかでしなければならないと思うようになっていた。それが進学という道なのだ。
いくらミッドチルダで立身出世しようと地球での自身はあくまで「学生にすぎない小娘」なのだから。それにサイドアームがのび太に勧められるままに選んでしまったので、「Pfeifer Zeliska」や「コルトパイソン」などの大口径拳銃ばかりで、魔力による身体強化+ドラえもんの「グレードアップ液」でもなければ、とても撃てもしない代物だ。なので普段は比較的扱いやすい「コルト ガバメント」を携帯しているが、これでも非日常的にすぎる。
日本の小学生に銃を撃つ機会など、20〜21世紀では半永久的に無い。それでもドラえもんという存在により、人を撃ち、更には撃ち殺した経験を持つのび太、学園都市という存在そのものが特殊なところにいるために、訓練で触った経験を持つ黒子、実戦で相対した経験がある美琴などの例外はいる。しかし学園都市がない世界の出身であるなのはは銃など触った事もなかった。それがどういう因果なのか、今ではリボルバー、オート共にそれなりに扱えるようになってしまった。これも軍人としての道を選んだ自らに課せられた運命なのだろうか。それはまだ子供に過ぎぬ自分にはわからない。今は少しでも早く、この戦争を終わらせること。それがこの世界での自分の使命なのだから。
「で、戦況はどうなの?」
「最終目的までは遠いですよ。この戦争を終わらせるのは。ノイシュヴァンシュタイン城を奪還できればなぁ」
それは欧州戦線の中枢たるノイシュヴァンシュタイン城の事。世界一美しい城と謳われた同城郭は兵団に奪われ、司令部が置かれてしまっている。また、ベルギーについで最重要拠点であり、こことベルギーを抑えれば兵団は指揮系統を失う。地球連邦軍の最大目的の一つであるが、そこに至るまでにはいくかの大要塞を陥落させなくてはならない。そうなればまた自分たちにお鉢が回ってくるだろう。今回はもうこの世界にも慣れたので、存分に暴れられる。
「まっ、あたしたちにできるのは敵を多くやるだけだよ」
「ええ。今度こそは大暴れしてやりますよ」
「前回は仮面ライダーと会ったけど、今回は誰だろう」
「さあ。他のライダーか、はたまたスーパー戦隊か……」
「でも、ヒーローがいるって凄いと思うよ。どんな時でも諦めない。あの人たちみたいにあたしはなりたい」
それはなのはがスーパーヒーロー達と出会った事で、彼らに影響を受けた事を示していた。
剣形態のレイジングハート・エクセリオンにカートリッジを装填しながらなのはは遠い目をする。それをスバルは微笑ましい表情で見つめ、さらなる魔改造を目論むのであった。
――欧州戦線
「B地点が突破されたぞ!!」
鉄人兵団は確実に追い詰められていた。少しづつ戦線が突破され、開戦時に確保した橋頭堡や布石は崩壊した。そして本国からは増援はこれ以上出せないという、絶望の知らせが欧州戦線の司令長官の一人「シャール」へ届けられた。
「何!?」
「小うるさいレジスタンス共め!」
シャールはその電報を受け取るなり、その紙をクチャクチャに丸めて罵倒する。この知らせは本国の反政府レジスタンス活動が憲兵や警察機関では抑えきれないレベルに達した事を意味するからだ。
「か、閣下!!」
「なんだ騒々しい!!」
「B地点が突破されました!なお、この戦闘では五星戦隊ダイレンジャーと忍者戦隊カクレンジャーの存在が確認され……」
「忌々しいヒーロー共めが!」
そう。地球連邦は歴代のスーパーヒーローを複数呼び寄せ、その協力を得て戦線の膠着状態を打ち破って攻勢に打って出た。スーパーヒーローである彼らに鉄人兵団は対抗する術を持たない。そこが地球連邦軍の狙いだったのだ。
「カクレンジャーとダイレンジャーの他には!?」
「A地点に仮面ライダーアマゾンとストロンガーが、C地点に科学戦隊ダイナマン、ジャッカー電撃隊が……」
「C地点の映像を出せ!」
「ハッ!」
司令室に備え付けられたモニターにその地点の映像が映し出される。それは悲惨の極みの映像であった。
「よし!ジャッカーコバックだ!!」
ジャッカー電撃隊のリーダー「スペードエース」の号令と共にジャッカー電撃隊の必殺技のジャッカーコバックが放たれる。これは四人のメンバーで敵を取り囲んで、敵の体内に原子・電気・重力・磁力の4つのエネルギーを同時に流し込んで空中に蹴り上げ、爆破させる必殺技である!そのため大爆発が起こる。その犠牲者はC地点の副司令官だ。更に悲惨なのは……。
「ニュースーパーダイナマイト!!」
科学戦隊ダイナマンの全員が飛び蹴りを繋ぎに、5人同時にジャンプし、レッドの両腕に他の4人が掴まり、レッドを中心に5人が大回転して燃え盛る巨大な火の玉となる!
「ダイナマンがニュースーパーダイナマイトを使うぞぉぉぉー!総員待避だ!!急げ!」
ダイナマンのこの技は必殺の威力を誇るが、爆発の殺傷半径が広大であり、下手をすれば要塞ごとぶっ飛んでしまう。地球連邦軍はダイナマンがこれを戦線で初披露した際に兵士が巻き込まれて負傷者を出してしまった。そのために技が発動したら安全圏に避難するようにしているのだ。これの犠牲者は司令官だ。大爆発でC地点の防衛拠点が跡形もなく消し飛ぶ。その様子にシャールの怒りのボルテージはクライマックスだ。
「ええいどいつもこいつも!!誰か奴らを止められないのか!!」
「無理ですよ。作業用ロボット出したら、この有様ですよ」
副官はザンダクロスタイプの作業用ロボットがダイナマンのダイナロボの科学剣・稲妻重力落としで一刀両断される写真を差し出す。これにますます憤慨するシャールであったが、現状、これらへの対抗策など無きに等しい現実問題に大いに嘆いた。
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