――箒となのははブライトの指令で同室となり、以後はメカトピア戦争終戦後まで部屋割りが固定され、行動を共にした。ある日の事。箒が未来世界の兵器を覚えるために、ラー・カイラムの格納庫に足を運んだ。それはドラえもん達がスイスへ向かう数日ほど前のことであった。

「うーむ……凄いな。人型ロボットがこんなに並べられているとは……」

旗艦であるラー・カイラムは全長がほぼ500mはある。これは内惑星巡航艦艇としては最大級のもので、これを凌ぐ内惑星巡航用艦艇は、かのティターンズ最後の総旗艦「ドゴス・ギア級戦艦」しか存在しない。MS格納庫も右舷と左舷と合わせて二区間存在する。ネェル・アーガマやアーガマ級、ペガサス級より進歩した設計で造られたラー・カイラムは搭載数も増加しており、ベースジャバー込みで16機から20機程度の搭載数を確保している。現在、ラー・カイラムはロンド・ベルがレビル将軍や藤堂平九郎軍令部総長の後援を受けていることもあって、搭載MSはガンダムタイプで固められていた。スーパーロボットの受け入れもあり、ラー・カイラムの搭載機はスーパーロボット×4、ガンダムタイプMS×12であった。隊長機はνガンダム。一般機も、隊全体からアムロらがよりすぐった腕利きが集められた結果、ZZやF91を除くと、Zプラスの各型が配備されている。あとは予備機のスペースで、νガンダムの予備機としてのZガンダム3号機、Sガンダム、そのオプションパーツ一式で満杯であった。

「アストナージさん、どうしたんですか?顔色悪いですよ」

「ああ、昨日はSガンダムの整備マニュアルを部下達に講義しててな。完徹だったんだよ……何せあれ複雑怪奇だし」

「あのガンダム、素体はシンプルそうなのに」

「追加オプションの方が本体な勢いだから参るよ。ビームスマートガンやら追加装甲やら……」

アストナージもSガンダムの膨大な追加オプションには手を焼いているのが伺える一幕だった。整備要領を取り寄せたら、それがまたまた複雑怪奇という笑えない話で、オプションパーツが膨大すぎる事に整備兵らは泣き、事態を重く見たブライトも『当面はEx-Sに固定して運用する』と通達を出すほどである。Ex-S状態で運用するというのは、可変機構が完全に備わるという点と、総合性能面が強化されるという利点を重視したからだ。元々は月面からの自力離脱を想定されて設計され始めたオプションである『Ex-sパーツ』は、完成されたら『Gクルーザー形態であれば、1G環境下から自力離脱可能』というスーパーロボットもめったに持たない性能が与えられた、第4世代MS最強最有力とさえ言われるほどになっていた。その後も地味に性能更新は続けられており、ペズンの反乱時には本体からのエネルギーチャージのため、エネルギーケーブルが必須であったビームスマートガンも、スマートガン側にジェネレーターを積むことで、取り回しとチャージタイムを改善した新型に換装されている。

「狙撃に使うつもりなのですか?それ。やけに大きいですけど」

「ああ、ビームスマートガンは狙撃や対艦任務を兼ねられるように長砲身になってるんだよ。普通のライフルより遥かに大威力だから、Z系は最近は、改修込みで使えるようになってる」


(セシリアのブルーティアーズのようだな。どこの世界でも考えるのは一緒という事か)

箒は自分の世界のISのように、『長い得物』を持たせる考えがある事に感心する。セシリアは後方支援や爆撃を主に行うので、接近戦に持ち込まれると無力となる。だが、Sガンダムは全ての状況で最高のパフォーマンスを発揮出来るように設計されている。セシリアが聞けば『ぐぬぬ』と悔しがるだろうと考える。アストナージが案内し、ハンガーの前に立つ。Sガンダムの素体はモデル体形で、スラっとしている。アストナージによれば、軍閥抗争時代のコンペにおけるZZの競合機かつ、再設計機であるとのことだが、ZZの対抗馬とは思えないほどZに近い印象を受けた。



――それも当然、Zの開発チームの次作がSガンダムであり、開発系統としてはむしろSこそがZの正統後継機なのだ。ZZの再設計を彼らが行い、Zの発展型と言える姿となったというのが正解だろう。性能面はνガンダムなどをも凌いでおり、正にガンダムの中でも最高峰の一つである。もっとも、それはオプション込みでの話であるが。オプションをつけての運用前提なSガンダムは素体単体での運用は殆ど想定されていない。もっとも単体でも高性能なのだが、オプションで真価を発揮するようになっているのが特徴だ。それに比例して運用コストも莫大で、オプションパーツ一式を置くと、ベースジャバーなどを置けるスペースが無くなってしまったのだ。グレートブースターやカイザースクランダーとの兼ね合いもあり、護衛艦らにジェガンやジャベリンを移し、ラー・カイラムは特機(スーパーロボットの書類上の呼称)及びガンダムの運用に特化させたのである。

「今回のコイツはスペース食うから、ジェガンとかはクラップ級とかの護衛艦や第二以降の分隊に移したよ。おかげで整備が大変な機体だらけだよ。ZZなんて俺以外整備できんよ」

「そういえばアストナージさんはエゥーゴ時代からいるんでしたね」

「そうだ。あの時も大変だったが、今回はもっと大変な機体が山積みだ。整備班を各艦から選りすぐる必要まで出てしまったし、運用ローテーションも変えてもらうように大尉に言ったよ。整備班が泣くからな」

アストナージは思わず愚痴った。整備に手間が掛かるガンダムタイプを二個小隊も運用した場合、整備時間が長くなり、整備班が過労になってしまう。なので、これまではせいぜい一個小隊+α(ガンダムチーム)が限度であったのだ。しかしその定数はZプラスで固められた部隊が複数生まれた事で増加し、今では二個中隊が限度とされるようになったという。ガンダムの複数運用は意外な苦労があるのだ。特にロンド・ベルの場合はアナハイム製、サナリィ製が入り交じるので、OSその他は同じであるが、バイオコンピュータやバイオセンサー、サイコフレームなどの機構も相成って整備班は過労死寸前である。

「確かに、なんか疲れてますね皆さん……」

なのはの言葉にその場にいる整備兵全員が頷く。皆、疲労困憊である。本来、一機だけでも大変なワンオフ高性能機や、それに準じる高級モデルだらけの現場というのもなかなかの戦場である。ロンド・ベルの整備班は、主だった幹部は旧エゥーゴやカラバ在籍経験があり、ガンダムタイプでも手馴れているが、他は経験がまだ浅い若年者も含まれており、教育に苦労しているのが現状だ。アストナージはその幹部をラー・カイラムに集めて指揮をとっているが、それでもこれである。

「ワンオフ機や高級モデルの現場ほど大変なのは無いぜ。量産機と違って調整がシビアだし、推進剤の容量間違ったらそれこそ終わりだ。新兵だとやらかすんだよなこれ」

そう。MSは推進力に使う燃料の増槽として、にプロペラントタンクを使用する場合が多い。その規定容量を入れ忘れる例が古今東西の整備班のミスとして多い。地上では徒歩という最終手段があるのだが、それでも戦場では死につながる。どの陣営もビームライフルを主兵装にした故の苦労がこれである。連邦軍は従来の砲熕兵器を使用したりしているが、他陣営はジオン軍やティターンズ残党などの陣営を除けば、猫も杓子もビームライフルのオンパレードである。アストナージが新人教育に力を入れているのは、エゥーゴ末期にあった整備の遅れを気にしていたせいでもあるのだ。

「今度はアナハイムからネオ・ガンダムっつー小型機をテストしてくれと要望きてるし、参るわ」

「確かF91の対抗馬ですよねそれ」

「なんだなのは、お前知ってるのか?」

「元の世界でお兄ちゃんがその漫画とプラモ持ってるんです。でも全機が失われたはずじゃ?」

「コンペに出す必要上、3号機と4号機が再建造されたと聞いてるぜ。アナハイムも多大な予算掛けたり、裏工作してるから」

「アナハイム、小型機に乗り遅れたから裏工作しまくりなんですよねえ」

「うむ。対抗心丸出しだしなあそこ。Sガンダムの実働テスト済んだらネオ・ガンダムの受け入れの準備せんと……」

「そういえばSは誰が乗るんですか?」

「みんなで予備機代わりに乗るのが想定されてる。もうみんな自分専用にガンダムあるからな」

ある意味これも贅沢だが、Sガンダムは予備機の一つとして運用されるという。他部隊が聞いたら怒る内容の会話だ。

「アストナージさん、ドラえもんが人間ドックしたいって」

「ドラえもんに検査室に行くように言ってくれ」

「あいよ」

ジュドーに言付けを頼むアストナージ。なのはと箒は『ドラえもんの検査』におかしくなる。考えてみれば彼もロボットである。AI回りは遺失技術とは言え、ボディなどはこの時代の方が進んでいる場合があり、ドラえもんは前の検査の際にマグネットコーティング処置と、動力源の手入れを行って貰っている。

「そういえば忘れていたが、あいつもロボットだったな」

「ええ。なんだがおかしいですね」

「だな」

同じロボットでも、モビルスーツと猫型ロボットでは、製造目的や使われる技術はかなり異なる。ドラえもんのようなロボットが一社会を築いていたという22世紀初頭から前期はどんな時代だったのか?興味がわく二人であった。






――数時間後、検査を終えたドラえもんは『異常無し』との事で安堵していた。

「異常なしだってさ、キッド」

「お前、ずいぶんのび太のとこで苦労してるもんな。聞いたぜ?あいつ、危うくロボット裁判所に起訴されてムショ行きになりかけたんだって?」

「うん。ぼくが過労で倒れたのを見かねたある検事が告発しちゃって、裁判になったんだ。ドラミは他の時代の一族のみんなにも弁護人依頼したりして大変だったらしい」

それは1998年の秋ごろ、ドラえもんが過労で倒れ、その診察を受けた医院の診察を見かけた検事がドラえもんのあまりの疲労困憊ぶりに憤り、『ロボットを奴隷にしている』と告発し、のび太は警察に連行され、22世紀で裁判の被告になった事件だ。本来、22世紀には没して久しい上に、年齢が子供である時期の彼を後世が罰することに、タイムパトロールは反対したが、検察が押し切ったという。のび太は敏腕検事の前に無力に等しく、子孫らの証人や(ノビスケ〜セワシ)やドラミの弁護も虚しく、陪審員たちはのび太を罰することに異論がなかった。だが、のび太はドラえもんのいる集中治療室へ生き、ひたすら泣きじゃくた。謝罪とともに。その純朴な謝罪の言葉と姿に陪審員も裁判長も、証人も皆涙した。その結果、裁判長は無罪放免を言い渡した。陪審員も無罪放免で一致した。これは2125年頃の10大ニュースの一つであると同時に、ドラえもんとのび太の揺るぎない友情はロボット達の意識にも影響を与えた。だが、その数年後に統合戦争の最後の激戦期が到来。ロボット社会はあっけなく瓦解してしまう。それは運命の皮肉であるとも言えた。

「でも、皮肉だよね。その数年後に某国が大規模テロした結果、ぼく達の社会は瓦解しちゃうんだから」

「おおかた、十字教のカトリック狂信者か、ロボットが人間に取って代わるのを恐れた奴らが仕組んだんだろう。ありがちな顛末だよ」

「キッドは辛くないの?メリケンの凋落」

「ベトナムの時から予期できた事さ。アメリカだって絶対無比の存在じゃないし、驕りがあったしな。歴代の大統領ら」

――アメリカこそ世界の進路を決める存在である。これは東西冷戦下やその直後に見られた傾向であった。その路線はアメリカ自体の衰退で幾度となく軌道修正が試みられた。だが、既に第二次大戦での旭日の旨味を染み込んで覚えた国民はあくまで『アメリカこそ世界一であり、未来永劫そうであるべき』と信ずる世論が存在し、リベラル系政権がこの世論により無力化されるケースが21世紀前半から続いた。結果、22世紀最終盤における貧困層の地位へ落ちぶれた。愛国心を抱いていたキッドが意外に冷静なのは、ベトナム戦争での泥沼ぶりを知っている故かもしれなかった。


『ドラえもんは直ちに格納庫へ。Sガンダムのデータ集計を行う』

「呼び出しだぞ」

「行ってくる」

ドラえもんはデータ集計にも役立つ道具を持っている。それ故に整備班などに重宝されているのだ。彼はキッドと別れて、格納庫へ向かった。








――格納庫

『Ex-Sガンダムの発進準備だ!随伴の奴はその後に発進だ!』

怒声が響く中、Ex-Sガンダムの実働テストが開始される。テストパイロットはアムロだ。随伴機代わりになのはと箒がついている。ビームスマートガンに両手を添える独特のポーズで右舷カタパルトに接続される。Ex-Sは大型高性能化の極地に位置するため、ゴテゴテした印象をなのはたちに与えた。本来はGクルーザー形態に付随する形態と位置されるEx-Sは他のフルアーマーとは一線を画する。だが、ロンド・ベルはMSとしての性能に敢えて着目し、MS形態を主にして運用することにしたのだ。

「これがEx-Sか……すさまじい力を感じるな」

アムロはEx-Sの大パワーに思わずそう漏らす。完成時でさえ7180kWのパワーであったが、ジェネレーターが次世代のものに換装されたために、Iフィールドを常時作動可能になっているなどの性能更新がなされている。そして、スラスターを吹かすと、νガンダムやZガンダムが嘘のようなすさまじい推進力を発揮した。瞬く間にマッハ3へ加速し、大気圏で自力飛行さえ可能にした。162.5tものの大重量をバイアランよろしく飛翔させた。これはスラスター推力が桁外れに高いことから(バイアランの更に数倍以上)可能にしたのである。なのはも箒もそれぞれ最大推力で追ったが、Ex-Sに追いついたのはそれから6分後であった。なのはは砲撃型であるが、、最大推力そのものはフェイトよりある(速力ではフェイトに負けるが)ので、まさかぶっちぎられるとは思わなかったらしく、目を白黒させている。箒も赤椿がカスに見えるほどのスピードでぶっちぎられたのは始めてであり、驚いている。

「大尉……そのガンダム、化け物じゃないですか!!追いつけませんよ!!」

「正直言って、俺もここまでとは思わなかったよ。アナハイムの連中、とんでもないの作ってたんだな……参ったなこりゃ」

Sガンダムは第3・第4世代MSの頂点に位置するMS。機動性ではZZを凌ぐのがこれで確認された。アムロもその機動性に感心する。ガンダムタイプはGPシリーズ以後、全ての性能でその時々のナンバーワンを目指す事が責務となり、破格の予算でおおよそ軍用機としてはオーバースペックな機体が次々と生まれた。Sはその風潮の最高潮の時の最強として生み出されたので、単純な機体スペックでは歴代随一である。アムロも関心したりである。


「操縦はZよりは楽にはなっているな。まあアレが異常だったが……」

Zガンダム系は総じてピーキーな操縦特性を持つため、乗り手を選ぶ。量産を渋る声が大きかったのもこの『乗り手を選ぶ』傾向が大であった。アムロは変形が便利なためと、戦闘機搭乗経験ありなので、好んで乗っていたが、同僚からは変人扱いされたこともある。もっともZ乗りを尊ぶ風潮が生まれてからは羨望の眼差しへ変わったが。Sが好評であるのは、ZZやZよりは動かしやすくなっている点である。兵器としてはむしろ、これこそが正しいのだが。

「大尉、テスト相手が追いつけないとか愚痴ってますよ」


「数分でつくだろう。言わせておけ」

「は、はあ」

テスト相手はジェガンR型(メカトピア戦終盤であるこの時期にはジェガンは後継機のジャベリンとジェイブスの生産拡大と生産ライン転換が進んでいて、既にA〜J型までが一線から退役し始めていた。M型やR型の生産ラインは維持されているが、それはスタークジェガンの素体や、第一線から外れた任務の練習機としてである)である。ジェガンとしては最高性能を誇る機種であるが、いささか旧式化は否めない。スタークジェガン化のベース機がR型へ切り替えられたのは、素体であったD型が陳腐化したからという現実的な観点からだ。R型とてジェガン系としては一番マシな性能だが、現在ではいささか旧式化が進んでいる。しかしながら信頼性の高さや堅実性から、完全退役は先延ばしにされている。

――数分後、テスト相手が到着する。模擬弾が入ったマシンガンは彼らが運搬してきた。ジムライフルである。ジオン系MS相手には必要十分な性能があるため、地上軍やコロニー守備隊中心に未だ現役の武装だ。ビームスマートガンを背中に仕舞い、(MSには使わない武装を背中などに携行可能なようにハードポイントがある)ジムライフルを受け取り、模擬戦を開始する。データ集計はドラえもんが、その処理と解析は初春飾利が担当している。随伴機の役目を追う二人はEx-SとジェガンR型の模擬戦闘を目の当たりにするわけだが、ここで初めて、アムロが『地球連邦軍最強のMSパイロット』と謳われる所以を垣間見た。





「さて、行くか」

アムロは初搭乗ながら、Sガンダムの機体挙動、機体反応速度などを瞬時に把握し、的確な動きを見せる。ニュータイプパイロット対応システムとして、バイオセンサーを増設してある仕様なため、反応速度は良好。手に持たせたジムライフルを巧みに操り、模擬戦相手を逃げ惑わせる。

「これがこの世界の兵器なのか……SFじみてて現実味がないぞ」

「んな事言ってたらゲッターやマジンガーなんてどう説明つくんですか?」

「確かにな。しかし私のコイツはパワードスーツが発達したものだし、人型ロボットを真面目に兵器にしようとは考えていないぞ」

「ミノフスキー粒子でレーダー網やネットワークが崩壊して、第二次大戦レベルまで退化したから実現した兵器ですからね、あれ。それと考えたのがコロニー居住者なんで、常識を覆す兵器が必要だったんですよ」

「そういうものか」

箒は自分達の世界ではISに国防の中心から追われたとは言え、従来型兵器も残存している事から、男達が躍起になってISのカウンター兵器を造ろうとしているという報もIS学園には流れていたが、教師たちも生徒達も大半は『バカじゃねーの』と言わんばかりに嘲笑していたのを思い出す。MSは一年戦争でその従来型兵器の大半を駆逐するほどの大活躍を見せ、連邦軍もガンダムやジムシリーズで対抗したように、どんな兵器にも対抗兵器が造られれば、当初のアドバンテージは消滅する。古くは航空兵器における零式艦上戦闘機やメッサーシュミット、新しいところではジオン軍のザクUなど……枚挙にいとまがない。ISを無敵だと嘯いている学園の一般生徒らを諌めてやりたい気持ちになる。それはなのはも同様であった。ゲッターロボ號に敗北してからは、魔法は万能とさえ考えて始めていた自らを戒め、銃火器、MSや可変戦闘機、スーパーロボットなどを勉強した。そのため、一時期のように管理局の危うい側面のある種の思想には染まらなくなった。これは地球連邦が必ずしも正しいとは限らないという事を知った事、ジオンやザンスカールなどが『正義』の名のもとに、人類粛清を公然と行ったのを知った事で、組織の大義名分を一から信用しなくなった表れでもあった。





――模擬戦はEx-Sとジェガンの高機動戦闘の様相を呈した。開戦時に鉄人兵団によって住民が連行され、無人になったとある市街地でを疾駆しながら、マシンガンを撃ちあう様はまるで何かの映画のように劇的である。だが、それぞれが高速で飛び交うので、市街地のビルのガラスはソニックブームで割れまくりである。無人のビル街を飛び交う模擬戦ながら、アムロは機体に一回も被弾しておらず、どの箇所にも模擬弾が当たった事を示す紅いペンキはついていない。対する、ジェガンR型はシールドが赤ペンキまみれになったりしている。カタログスペックで遥かに推力が劣るジェガンでEx-Sを追える辺り、彼らもそれなりに熟練者であるのが伺える。箒は彼らから少しでも高機動戦闘を学ぼうと必死になって、戦闘の様子を追う。この時、魔導師としては教導隊に属するほどの練度を持っていたなのはも、アムロの高性能な機体を逆にねじ伏せる操縦の腕、その戦闘機動の鋭さに舌を巻く。

「初春さん、このスペックだと、まだ限界推力まで余裕がありますね」

「だね。こんなの元の世界で見せても誰も信じないよ。学園都市だってこんな推力出せるのはないよ。アムロ大尉、初春です。戦闘出力を全開にして戦闘を継続してください」

「了解した」

初春の通信にアムロが答え、推進力をアップさせる。MS形態で出せる最大速度を発揮すると、もうなのはや箒でも置いてけぼりを食らうほどのスピードを発揮し、瞬く間に一機の胸部にマシンガンを当てる。正に神速と言っていい。コックピットのアムロ自身も予想以上の加速Gに顔を顰め、歯を食いしばっている。彼にかかったGはウェーブライダーの最大推力のGを更に2G以上上回る強烈なもの。これはグレートブースターをも上回る加重で、既にGには慣れっこであるはずのアムロをして冷や汗タラタラにさせた。

「まったく……とんでもないバケモノを作ったもんだよアナハイムめ。トールギス型とタメ張れるぞこれ……」

かつてOZのトレーズ派、今はプリベンターが使用しているトールギス系統のMSとも加速力で負けないだろうと愚痴る。これなら旧ジオン軍のビグロやヴァルヴァロも目じゃないと踏む。模擬戦は更に続く。Ex-Sは建物の残骸を目眩ましに使い、そのまま跳躍。太陽を背にして急降下、マシンガンを食らわし、無傷で模擬戦に勝利する。

「これがSガンダムか……確かにバケモノだ。ある意味、ZZより凄いな」

アムロはZZという偉大な対抗馬に対し、総合力で勝負したSを褒める。しかし何の因果か、ZZは派生機含め、あまり量産されず、Sはネロという形で量産されたので、ある意味こちらが勝ったと言える。箒となのはも、この凄まじいバケモノに驚嘆する。

「早すぎて何が何だか……」

「私もだ…。Sガンダムの正式名称は何だ?」

「たしか……スペリオルのはずです」

「スペリオル、か……」

『高等の』などの意を持つ旧エゥーゴ、地球連邦軍最強の一角を担うMS、Sガンダム。箒はバケモノのような機体がシバシ造られているこの世界に、思わず身震いするのであった。テスト結果はすぐに初春を通してブライトへ報告された。





――艦長室

「テスト結果は良好なようだが、加速の際にかかるGが激烈なのと、整備兵にかかる負担が大きい、か。アストナージが過労で倒れそうだから、直ちに私がアナハイムに文句つけてくる。電話を用意してくれ」

「はい」

こうして、アストナージらの愚痴はブライトを通して、アナハイムへ通達された。後日、整備が難しい機体ばかり送ってくるアナハイムから、お詫びも兼ねて、ニナを始めとするエンジニア・メカニックチームが派遣され、アストナージはやっと安息日を得られたという。



――※ あとがき

Ex-Sガンダムの推進力については、発表当初は『月面から離脱可能』な程度であったとの証言が得られたので、当時の設定と現在の設定を突き合わせています。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.