短編『スネ夫の無敵砲台VSドラえもん一行』
(ドラえもん×多重クロス)

パート2


――野比家は一時に比べれば落ち着きを取り戻した。そしてなのはと箒は取り敢えず、のび太の両親に挨拶をすることになり、居間でまずは顔合わせした。


「初めまして、高町なのはです」

「同じく、篠ノ之箒です。お世話になります」

「私がのび太の父です。うちの子がお世話になったそうで」

「のび太の母です。あの子達がご迷惑かけてるんじゃないですか?」

「いえいえ。のび太くんやドラえもん君には私達のほうが逆にお世話になってますよ」

「そうそう。ドラえもん君には美味しいどら焼きの見分け方を力説されましたよ」

「あの子らしいですね」

のび助は玉子と比べると、息子やその後の代の子孫に受け継がれる気質である、温厚な性格をしている。彼の父親の影響を受けて、説教する時はするが、基本的には野比家におけるアメとムチのアメの役割を担っている。また、玉子がのび太のあまりの不出来ぶりに若干ヒステリックの傾向が見えるのを窘められる存在でもある。

「君、何か食べるものを用意してくれ」

「棚に何かお菓子があったはずだから今用意しますね」

玉子に食べ物を取りにいかすとのび助はなのはと箒に自身やのび太に纏わる話をした。



「あの子は子供の頃のぼくによく似てます。漫画好きで、勉強嫌い……。ママが怒るのも無理は無い」

「親子というのはどこかで似るものなんですね。のび太くんから聞いたんですが、学生の頃に画家を目指されてたとか?」

「ええ。親父、あの子にとってはお祖父さんになりますが……の反対で美術学校には行けなかったんですがね。もう20年近く前の話です」

のび助は若き日は画家志望であり、中学生時代はこの時代には画家として大成している“柿原”に師事していた時期もあるほど。小学生時代には全国図画コンクールで金賞を受賞した経験も持ち、画家としての素質は存分にある。が、当人は玉子と結婚した時点で夢を諦めたらしく、現在はそれほど書いてはいない。腕自体は錆び付いていないとの本人の談だ。

「今はたまにしか書いてませんけど、町内会の美術教室の講師を息抜き代わりに引き受けてます。あの子にどーしてこの感性が受け継がれなかったのか気になってますよ」

のび助はそう言って炭酸水を飲み干す。彼は歴代の野比家直系長男の中では珍しく、平時に活用可能な絵画の技能を備えているが、この世代の野比家の人間は大人になってそれなりの成功をおさめるケースが多く、のび太らと最も顔を合わせる叔父である野比のび郎は日本とインドを往復する機会が多い仕事に就いているし、彼の更に2番目のに弟の野比ムナシは無名とはいえ、映画俳優をしているし、同じく、のび郎のすぐ下の弟で、3番目ののび三郎もそれなりに成功を収めている。だが、のび太には今のところ、父親である自分や、弟らが見せた才覚は何もないようにしか思えない。玉子が日頃から怒るのもわからないわけではないとのび助はため息をつく。


「絵の事はよくわかりませんが、そういう才能はのび太君にはないですね」

「本当、射的が上手くても世の中の役に立つわけないのに、どうして無駄な事はうまいのかしら……もうあの子ったら……」

玉子は普通の“子供らしい”何かの才覚をのび太が持えていない事を疎んじている節があるらしく、のび助とは違う意味でのため息をついている。が、のび太の才覚を間近で見てきた身としてはのび太を擁護したくなると箒は思った。。

――こういう時は突っ込んでいいのか?オリンピックに出れるぞ、あの腕なら……。

箒はそう思わずにはいられない。が、ここは心の中にしまっておくことにした。


「そういえば二人共、高校はどうですかな?」

「はい、それなりにやってますよ。あたしと箒さんはそれぞれ別の高校なんですけど」

こういう時の起点はなのはの方が機転が利くため、なのはが代表して答える。なのはは自分は私立、箒は国立の学校に通っていると説明する。

「高校かぁ……もうずいぶん昔のことに思えるなぁ」

「はぁ」






――その後も二人はのび太の両親との雑談に応じ、風呂に入る頃には午後10時の15分前になっていた。のび太とドラえもんは既に床についている時間である。

「ふう。今日は大変だったな……」

「のび太くんのご両親、あたし達みたいな年頃のお客さんと話すのは普段は殆どないですからね。はりきっちゃったんでしょうね」

「まあな。のび太が無事高校に入れるか心配なんだろうが……アイツに言わせれば“もののはずみ”で入れるらしいじゃないか?」

「ええ。前にのび太くんから聞いたら、“中学も今と似たような成績で、高校にはもののはずみでは入れて、大学は流石に浪人したけど、しずかちゃんと同じ大学に入れる”はずなんですって。のび太くんが子供持ってる年頃の自分に聞いたら“あとで苦労したからね”と返されたそうですよ」

「“あとで苦労した”……か。」
 
箒はボディソープの泡がついている体をお湯で流しながら、昼寝の鬼と言えるのび太の顔を思い浮かべる。しかし、のび太が勉強してる姿がどうしても違和感があり、想像出来ない。

――うぅん。アイツが必死になって勉強してる姿が思い浮かばない……。

そう思いつつ、体を流して、体を洗うために湯船から出たなのはと入れ違いで湯船に浸かる。

「ところで箒さん」

「なんだ?」

「この時代の家電製品に慣れました?」

「何せ、何もかもが私の時代と20年か30年くらい違うからな。あまりにアナログ過ぎてついていけない時がある……。お前よりも後の時代の人間だからな、私は」

「そーいえばそうでしたね」

なのはは箒と出会ってから気に留めていなかった“実際の年の差”をここで改めて実感した。箒が生きる時代は21世紀も中頃に差し掛かる頃で、家電製品はすっかりデジタル化しきって久しいであろう時代。なのはの地球はその過渡期の時代であるが、それだけでも世代の違いが妙実に表れる。なのははちょうどこの頃はまだ3,4歳の幼児だが、辛うじてその頃の記憶があるが、箒はこの時代だとまだ“影も形もない”。そのためにIC乗車券もインターネットショッピングもまだ本格的に普及する以前の時代である1999年にはなのは以上に難儀していた。テレビに番組表の機能がない、DVDでもなく、アナログなビデオテープであるとか、PCすらないなど、が野比家で箒が面食らったところだ。

「何せ、この家はパソコンもないしな。使うにはスネ夫の家か、噂の出木杉くんに使わしてもらうしかないが……この時代だと、ウィンド◯ズXPですらないOSでしかないし」

90年代末時点でのPCの性能や快適性は2000年代以降のモノと比べると動作などが“鈍い”。それは当時の技術的限界もあるのだが、2000年代以降のPCに慣れてしまってると却って困るという箒の心情が現れていた。

「XPかぁ。箒さんの時代でもまだ生き残ってるんですね」

「ああ……前に市役所の手続きにいったら現役で動いてた。もう何世代も交代してるのになんでまたと思ったよ。」

箒の時代はなのはの時代よりさらに10年単位で後の年代である。そのため2000年代初頭に登場するモノも二昔前の代物でしかないそのため、この時代から見ると“次世代機”でも、箒から見れば旧型もいいところ。それ故の戸惑いはなのは以上なのだ。

「どこの時代も予算ないんですね、日本は」

「まぁ色々問題あるしな…。少子化とか……。お、そうだ。思い出したんだが、フェイトの奴が剣の流派を調べてると綾香さんから聞いたんだが?」

「ああ、飛天御剣流ですね。フェイトちゃんが調べてますよ」

なのはは飛天御剣流という、数ある世界の日本でも“最強”と噂される実戦剣術の事を箒に話す。“有名な流派が児戯に等しい”とも言われるほどの戦闘力を個人に与えるが、それを扱うには恵まれた体格を必要とする事を説明する。箒は体格の良さが必要とされる剣術に驚きを見せ、フェイトの細めの体ではその習得は無理なように思えた。それはなのはも同様であるようだ。

「アイツは細めだからなぁ……私やお前なら可能性はあるが」

「ええ。フェイトちゃんどーするつもりなんだろう……」

「アイツは精神的に脆いからな……一号ライダーも言っていたが、アイツは力を追い求める傾向が強い。それが悪い方向へ行かなければいいが」

なのははこの5年間、「スバルや白井黒子、流竜馬らに護身術を習った」、「教導隊転属後も過酷な任務や訓練を志願した」などの理由により、11歳時までと一線を画する体力と、運動神経を得た。箒もほぼ同様に同年代の一般人と比べて遥かに体力・持久力に優れている。戦争という非常時も関係しているが、この二人に関しては、身体が鍛え上げられているため、魔法・ISの補助を考慮に入れなくとも会得できる可能性はある。が、フェイトはどうだろうか。この剣術の情報をもたらした張本人なだけに習得したい気持ちは強いだろうが、フェイトの体格などから言って、魔法の補助を入れるのを考慮に入れなければ体を壊す可能性が高いだろう。しかしフェイトはあの戦争以来、“力”を渇望している節があり、飛天御剣流を何としてでも習得しようとするのは目に見えている。なのはと箒はその点が心配なところであった。

――あの子、フェイトちゃんは力を求めている。何かを守るための力を。そのためにはどんな危険な代物にも躊躇うことなく手を出してしまうだろう。注意してやるんだ。

なのはと箒は、仮面ライダー一号がかつて自分たちにいった言葉が心のなかでリフレインする。なのははフェイトの気持ちを親友故に、一番良く理解している。フェイトの事が心配そうな顔を見せ、心のなかでこう、述懐した。

――フェイトちゃんのことだ。あたしを守るためにどんな事もやろうとしてる。今回は“先回り”といおうか先読みしておくしかないな……。

――この時を境に、なのははフェイトの思考を先読みした行動を取り、師と連絡を取ってフェイトより先に飛天御剣流の技を身に着けておく事を決意する。既に師匠のあの二人には資料は送られているだろうからという判断だったが、それはピタリとハマり、なのははこの4,5年後にはその飛天御剣流の極意をある程度はモノにする事になる。そして、その代価として、なのはは25歳になっても、17歳の頃同様の容姿を保つ事になってしまう。その若々しさは飛天御剣流に手を染めた故の産物とも言え、機動六課時代になって、シャマルの頭を混乱させてしまう要因の一つとなるが、それは別の機会に語ろう。










――翌日、スパイ衛星で無敵砲台の事を探っていたドラえもんは裏山に設置された無敵砲台の周辺が驚くべき様相を呈していた事を遂に突き止めた。


「う〜〜む…‥…みんな、これを見てくれ。ぼくのスパイ衛星が捉えた無敵砲台周辺の状況だ」

ドラえもんはプロジェクターにスパイ衛星のモニター映像を拡大投影する。のび太、箒、なのははその圧倒的偉容に思わず息を呑む。

「こ、これは……!まるで要塞じゃないか!」

箒が開口一番にそう唸った。箒は代表候補生であった同期生の4人と違い、後から専用機を得た。そのため軍事的知識は正規軍で訓練を受けた経験がある鈴、元から将校であったラウラなどと比べると、未来世界での軍歴を加味しても、多少知識では遅れをとってはいるが、それから見ても凄まじいものだったからだ。

「スネ夫のやつ、おもちゃの兵隊まで買ってたの?」

「ああ……昨日、ぼくの所に未来デパートからの明細書が送られてきてそれで分かった。見るとぼくが持ってる英国兵バージョンじゃなくって帝政ロシア軍バージョンだ。スネ夫のやつ、変にこってるんだから」

「デパートの明細書って……スネ夫君、ドラえもん君の名義で買ったの?」

「そうだよ。ぼくはカード決済もできるからね。ディスカウントセール対象品だから思ったよりは安くついてたけど」

「ディスカウント品って、そんな危ないモノなんで一般に売り出してるの〜!?」

なのはは思わず突っ込まずにはいられない。ドラえもんの馴染みのデパートはそんな危険な代物を一般販売しているというのかと。

「なのはちゃん、これで驚いてちゃ未来じゃ買い物出来ないよ。別の会社なんて人間製造機作ってたし」

「に、人間製造機ぃ!?」

「そう、人間製造機。これが凄い欠陥品でね、凄まじい超能力を持ったニュータントを作っちゃう。それがかってに増殖して大変だった。当時の国連軍まで動いたんだから」

ドラえもんの時代では統合戦争が起きる前であったので、国連が地球連邦への移行準備のために形の上では存続していた。事実上、この騒乱がそのさらに後に起こる統合戦争と合わせて“旧・国際連合時代最後の戦争”と、後の世から一括りにされている。ドラえもんが2125年にいた時点で“近い将来における地球連邦設立”が国際連合で決議され、資本主義国の多くが決議を受け入れ始めていると度々ニュースにされていた。そんな矢先に人間製造機の事件が起こったと説明する。

「話すとこれもかなりながーくなるから今はパスしとくよ。この事件も思い切り問題になったから……」

「ふ、ふぇっ……そんな事があったんだ」



なのははドラえもんの道具には色々エピソードが込められている事を知り、感嘆の声を上げる。キリがないので、ドラえもんは話題を無敵砲台のことに戻す。


「無敵砲台の周囲には日露戦争の時の旅順攻防戦の折に威力を発揮した“マキシム機関銃”を模したおもちゃの兵隊用の機関砲が多数添えつけられている。それとおもちゃの兵隊達が自前で塹壕まで掘ってる。かなり凝ってるよ。スネ夫の奴め…かなり映画とか見たな」

「いや、スネ夫一人でこんなすごい事出来ないよ……例のいとこが手を貸したんじゃ?」

「ああ、いつもの大学生のあのいとこ……なら考えられるな……」

のび太とドラえもんはスネ夫の無敵要塞のあまりの出来の良さにスネ夫の大学生の従兄弟である“スネ吉”の存在を感じ取った。年齢は1999年当時で20代前半なので、1975年〜1979年までのいずれかの生まれと思われる。スネ吉は大学では遊び人で通っている一方、機械工学を専攻している節があり、この時代においては明らかな“オーパーツ”な精巧かつしなやかな動きをする二足歩行ロボットを制作している。スネ夫にホビーなどを仕込んでいる、スネ夫の師匠と言っても過言ではない存在だ。

「スネ夫君のいとこって、噂のアフロヘアーで遊び人の?」

「そう、その人。無敵砲台を要塞化したのはたぶんスネ吉さんの助言だと思うな」

のび太はなのはにスネ吉の凄さを説明する。そして彼は野比家やいつものメンバー以外でドラえもんを“ロボット”といち早く見抜いた人物でもあると。その時、ドラえもんは着せ替えカメラを取り出すと、“コマ◯ドー”のアーノルド・シュ◯ルツネッガーよろしく、防弾チョッキに身を包み、体は森林迷彩に塗られ、まるで特殊部隊員でも気取ったような服装に着替えた。“デデーン!”と擬音が聞こえてくるようないで立ちだ。

「ど、ドラえもん……いくら無敵砲台破壊のためっていっても、そんなコスプレしなくても」

「いいの。こういう時はまず服装から入るの」

「いったい何が始まるんだ……?」

箒のこの一言に、ドラえもんはこれまたコスプレの雰囲気に合う台詞で返した。

「第三次大戦だ」

……‥と。ドラえもんは何気にノリがいいらしい。なのはとのび太は顔を見合わせた。








 ――スネ夫サイドは無敵砲台の更なる要塞化に熱心だった。

「スネ夫、対空砲はドイツの“8.8 cm FlaK 18/36/37”型とかがおすすめだ。日本のにするなら五式十五糎高射砲タイプか、三式12cm高射砲型にしなさい」

「なんで?」

「実際に活躍したり、カタログスペックでB-29にも対抗できるとされたからだ。こういうの買うんだったら戦史を勉強してからにするんだ」

スネ吉はスネ夫が新たに買ってきたおもちゃの兵隊用の“高角砲・対戦車砲・野砲セット”を吟味していた。高射砲に適する砲はどのタイプかを説明しながら振り分けていく。段ボール箱に高射砲、対戦車砲、野砲と書いて、入れておき、裏山に持っていく準備を進める。野砲は九〇式野砲タイプ、カノン砲は主にM59 155mmカノン砲タイプ、対戦車砲はドイツ軍タイプを選定し、車を裏山の近くの駐車場に止めて、そこから徒歩で運び入れるという方法でこれらを運んだ。


――学校の裏山。

「ぜんたぁーい整列!!」

スネ夫とスネ吉の号令に従い、無敵砲台の守備についているおもちゃの兵隊達が“捧げ銃”をし、整列する。帝政ロシア軍を模した兵隊が多いが、ナチスドイツ軍タイプ、日本陸軍タイプ、米陸軍タイプの兵隊の姿もあった。

「諸君に指令を通達する。本日、ヒトマルゼロニ時よりこれら火砲の設営任務に就け。敵はおそらくこちらの意図に気づいてるだろう。それの裏をかいてやれ。作業は迅速に行うように!以上!!」

スネ吉の指令は直ちにおもちゃの兵隊達に火砲の設営任務を課す。ドラえもんがタケコプターなどを使って爆撃を敢行するのを見越して高射砲の設営に気を使わせ、先制攻撃のためのカノン砲は徹底的に隠匿させるなどの対策を実行。要塞の防衛ラインを構築していく。


「ドラえもんめ……以前の貸しボートの借りを返してくれる!!」
「スネ吉兄さん、張り切ってるね」
「ああ。あの時の貸しボートの借りがあるからな。戦争は金ばかりかかって虚しいが、時には立たねばならない時もある」

スネ吉は初めてドラえもんと遭遇した際に、スネ夫に作ったった戦艦大和のラジコンを乗っ取られた挙句に、原子力潜水艦に貸しボートを沈められて煮え湯を飲ませられている。その雪辱を晴らしたいのだろう。マッドサイエンティストよろしく、不気味な笑顔を浮かべながらスネ吉とスネ夫はドラえもんへの雪辱戦を挑むべく、無敵要塞を設営していった。作業は3時間ほどで完了、いつでもドラえもんを迎え撃てる。そう彼らは意気込んでいた。



――ドラえもん側も“管理局のエース・オブ・エース”、“最新最強の第4世代IS”を要して戦闘準備を進める。学校の裏山はまるで日露戦争か第一次世界大戦のような雰囲気に包まれながら、その開戦の時を迎えようとしていた。1999年の秋頃の事である。



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