短編『地球連邦軍の次なる戦争準備』
(ドラえもん×多重クロス)



――地球連邦軍は白色彗星帝国を打ち倒した事が逆に新たな侵略国家の台頭を招くと危惧し、メカトピア戦争後は戦前と正反対に軍拡へひた走った。ハト派も白色彗星帝国がガミラス戦後すぐに襲来した事実を鑑みて、軍備拡張政策には反対しなかった。



――西暦2200年末

地球連邦軍はMSなどを重視するあまりにおざなりになっていた主力戦車の開発を再開。61式の純粋発展形案が採択された。これは鹵獲された白色彗星帝国の主力戦車に触発されたため、『61式を純粋に発展させよう』と結論されたからだ。要求仕様は不整地であっても時速100キロ以上。主砲は200mm砲以上、装甲もそれに耐えうるもの、といった具合の高要求で、数十年もの間、停滞していた戦車開発としては無理難題とも言えた。だが、現実的問題として、再就役させた61式戦車の老朽化がのしかかる連邦軍はMSより安価で、デストロイドよりも製造に手間がかからないMBTは『手っ取り早く数を揃えられる』装備として復権し、試行錯誤が重ねられた。これは61式の設計を担当した技術陣は既に亡く、時代遅れとされた故に技術の断絶もあったからである。

「うーむ。時代はMSやVFで、戦車の製造は軽んじられてきたものな……技術の断絶が痛い」

「しかし、やらなくてはならん。どうすればいいんだ」

61式は全てにおいて『完璧』と言えるほどに完成された戦車である。一年戦争時はMSさえなければ王者であるという評価も得た。それ故に先の大戦で再就役が叶い、マイナーチェンジ型も製造されている。しかし根本的に『元の設計が古い』ため、白色彗星帝国の戦車との模擬戦では負けを喫した事もある。更新車両開発はそれなりの熱を帯びて行なわれた。




――2年後

2年の試行錯誤で試作された車両は61式戦車のシルエットを受け継いだ『焼き直し』感の残るものではあった。秘密裏に最盛期の学園都市の調査の際に『実戦テスト』が行なわれ、概ね『2010年代の学園都市製MBT』を圧倒しうる成果を収めた。野比家に保管されている車両はこの時に使用されたもので、それを経て更に改良を施した車両が2202年初頭に完成。『22式戦車』として制式採用された。エンジンは最新型超電導バッテリー(石油資源の枯渇以後の戦車は超電導バッテリーを基本的に使用している。当初は航続距離に不満が叫ばれたが、世代を経るごとに改良されていき、61式の頃にはかつてのガスタービンやガソリンエンジンと遜色ない航続距離が確保された)、装甲厚もMSやVFが踏んでも壊れない強度を確保した他、バジュラや宇宙怪獣の甲殻を撃ちぬく主砲と、61式を上回る性能を確保した。61式の生産ラインを使用するのが前提であるので、主砲のスタイルは連装式に落ち着いた。

――連邦軍 富士駐屯地

61式戦車よりも幾分か大型化したその車両は時代がかった雰囲気を醸し出している。久方ぶりに新規開発されたMBTは一見して、61式と外見上の差異はそれほど見受けられない。だが、波動カートリッジ弾の採用などで飛躍的に火力がアップ。高性能化が続くMSやVFに遜色ない火力を得た。

「と、言うわけで白色彗星帝国の戦車と模擬戦闘訓練を行う。各車は地球人の意地を見せるよ〜に」

「了解」


――制式採用されたものの、仮想敵である白色彗星帝国の戦闘戦車相手に優位に立てるのを証明せねば意味が無い。帝国崩壊後に亡命し、地球に帰化した元白色彗星帝国陸軍軍人らの協力を得ての模擬戦闘訓練が行なわれた。高官らの目の前で性能を証明する良いチャンスなためか、張り切って戦闘は行なわれた。

「各車、状況知らせ」

「こちら二番車、異常なし」

「三番車、異常ありません」

「四番車、異常なし」

22式戦車は61式に比べると多少自動化は抑えられ、3人乗りである。これは数多の61式が一年戦争中に多数撃破された教訓からのもので、通信手が分離された。これは徹底的な自動化が仇となった61式の反省で、多少なりともマニュアル化することで生存性の向上を計った。

「敵戦車は?」

「森を抜けたところで待ち構えてると思われます」

「ふむ。森を突っ切るのは危険だな、一両を斥候に送り出す必要があるな」

この時代の戦車戦は第二次世界大戦と大差ないレベルに退化していた。61式開発当時に前提とされた『衛星とのデータリンク』は度重なる戦争で崩壊し、ミノフスキー粒子の登場で『電波以外での通信手段』が現れないかぎりは完全には復興しないのが示されたためで、斥候や強行偵察などの戦術が一年戦争中には復興していた。もっとも、戦術そのものは絶えてはいないが、高度な指揮統制システムがあったがためにあまり用いられていなかっただけだ。科学者達の行為は結果的に戦場の様相を有視界戦闘に先祖返りさせた形だが、むしろある意味では『歓迎されていた』。一両の斥候で敵の配置を掴んだ戦車隊は行進射による戦闘で各個撃破するという荒業を敢行した。




「左、距離700。敵戦車!」

「久しぶりに戦車が新規開発されたんだ、技術屋にいいところ見せてやれよ」

「了解!」

22式の連装砲塔が旋回する。155mm2連装滑腔砲から更に大口径となった180mm滑腔砲(試作段階では240ミリ砲が搭載されたが、学園都市などでの実戦試験で、『弾数が少なく、戦闘継続姓に難がある、でかすぎる』という難点が発見され、制式採用型では180mm砲にスケールダウンされた)に模擬弾が自動装填され、連装砲を交互に射撃する。結果は標的に全弾命中。これは一年戦争時に熟練者達が独自に行なっていた射撃方法で、戦後に戦車が『日陰者』とされてからも細々と受け継がれてきた。そして、ガンタンクやガンキャノン系列ではない、純粋な戦車の系譜の咆哮は死んではいないのだ。戦車は一般にMSやデストロイドに比べて時代遅れと考えられているが、それらと比較して維持費などが安価であり、移民船団などでは装備の一角に数えられていたが、地球本星ではMSやデストロイドに押されて、半ば消え去りかけの兵器扱いであった。だが、白色彗星帝国やガミラス帝国が戦車を用いていた故に、コストパフォーマンス的意味合いで戦車の需要が復活したのだ。このテストはギアナ高地へ結果が報告され、直ちに200両ほどの調達が下令されたという。









――同日 日本のとある森

「随分、気合入っているじゃないか」

「一文字さん」

「山篭りかい?」

「ええ。剣の修業でちょっと」

「学校はどうしたんだい?」

「ちょうど高2の夏休みに入ったんで」


一文字隼人=仮面ライダー二号は山にハイキングに出かけていた。そこで山篭り中のフェイトとバッタリ会った。フェイトは17歳となっており、高2の夏休みを迎えたのを機に山篭りを始めたらしい。既にそれなりに日数が経ったようで、バリアジャケットでの服装も髪を適当にポニーテールに結っている状態だったり、デバイス用の使用済みカートリッジの薬莢が自作のゴミ箱にタンマリ入っている。

「これ、どうやって調達したんだい」

「自作したり、買ったりで。カートリッジシステムも大分普及してきたんで、調達が楽になったんですよ。メーカーも生産し始めたんで」

「そうか。それくらいの年月が経ったか……」

「11の頃はまだ出たてでしたけど、スバルが間接的に完成度の高いカートリッジシステムをもたらした事で一気に改良が進んだんです」

「7年くらい未来のものをもたらしたわけだし、それでそれを手本に造ればいいからプロセスが短縮化されたんだろう。なのはちゃんがトラウマ背負うことも無くなったから、精神的にはむしろ改変前より楽だと思うよ」

「ええ。スバルから聞いた話だと、はやてもなのはに表立った処分を出せなかったみたいだし、スバルも内心、『みんなでなのはを持ち上げてフォローする』手法で精神の平静を保させるというのには疑問があったみたいです」

「仕方がないといえば仕方がない。なのはちゃんには『絶対に落とされない』という自信があったし、それが下手したら飛べなくなるし、半身不随にもなりかねない重傷を負ったんだ。始めての撃墜がそれじゃトラウマにもなる」

「しかし、はやてが処分を下せないほどに気に病むなんて……そんな事……」

「自分が無敵だと思っていた者ほど、意外に脆い。俺達でさえ、一敗地に塗れた時は『次に勝てるのか…?』という気持ちがよぎる。俺達には、おやっさんという叱咤激励してくれる人がいたし、負けまいという気持ちで特訓して立ち直ったが、なのはちゃんの場合は負の気持ちに陥っている時に叱咤してくれる人がいなかったんだろうな。強く言えば鬱になる危険性があっただろうし…」

「なのはは子供の頃は自分で抱え込んでしまう癖がありましたからね…」


一文字はなのはの初撃墜がどれだけトラウマになったかを読み取っていた。今の楽天的な状態でさえ時々、夢に見てうなされるというのだから、生真面目な性質が強まっていた改変前なら余計に気に病むはずだと。そして精神面で叱咤してくれる人がいなかった故と、抱え込んでしまう性質からか、彼女に強く言えなかったとも推測する。それにフェイトも同意する。仮面ライダー達には立花藤兵衛や谷源次郎のような精神面に父親たり得た存在がいたが、改変前のなのはには該当者はいたかどうかは定かで無い。フェイトが思ったのはなのはの性格上、表面上は強くあろうとしても、内面的には少女期同様の性質が潜んでいるのは想像に難くない故の、心の傷だった。




「今はもう歴史の狭間に消えたとは言え、気分のいいものではありませんね」

「一人の女の子の人生を左右するものだからね。俺だって改造されなければ、君たちの時代にはじいさんになってたはずだし、本郷に救出されなければショッカーの手先に堕ちていた。歴史はそれこそ無限に分岐し得る。君がそうなったのも、ね」

「闇の書事件の時の私が今のコレを見たら驚くのと同じか…」

そう。今のフェイトは子供時代の延長線にあるデザインのバリアジャケットを着てはおらず、天羽々斬モード用にこしらえた完全新規のバリアジャケットを着ている。黒ではなく、白と青を基調にしたツートンカラーであり、防御力重視の性能を持つ。これは平行時空の明治時代に滞在した際に、達人たちの妙技でバリアジャケットを貫かれたり、斬られたりして負傷した経験によるものだ。(どこぞのアニメを思わせるデザインなのはナイショ)

「隼人さん、仕事はうまくいってます?」

「最近はネルガル重工を取材してる。あそこ、軍需産業に手を出してきたっていうんで気になってね」

「ああ、アジア圏で最大級に躍進してるあの企業」

「ああ。火星のテラフォーミングや遺跡とかにも一枚噛んでるんだが、どうやらそこの技術で戦艦を作ってるらしい」

「戦艦を?」

「最近は工廠が波動砲搭載艦に傾倒してるから、それ以外の艦艇がおざなりになってる。そこに漬け込むつもりだろう。佐世保でもう一番艦の工事が70%まで進んだという話も聞く。確か……写真がこれだ」

隼人は取材で撮った一枚の写真を見せる。写真には艤装がかなり進んだ宇宙戦艦の姿が見える。地球連邦軍が造る艦艇が船の形状を残すのに対し、これはアメリカのSFの宇宙船のような形状である。砲塔の類が無く、武装は内装式であるのがわかる。

「割と小さいですね」

「それでも300mくらいはある。詳しいことは分からんが、それでもラー・カイラム級やクラップ級みたいな内惑星巡航用艦艇よりは飛躍的に高性能だとさ」

「核融合炉より凄いエンジンでも積んでるんですかね?」

「核融合炉以上、波動エンジン以下だろう。波動エンジンを超えるとは言ってなかったし」

「軍の許可得てるんですかね」

「さあ。少なくとも裏で提督だか将軍に得てるんじゃないか?そうでなければ数隻も建造してるはずはないし」

「軍艦への採用でも見込んでるのかな?」

「民間軍事企業でも軍艦相当のものを持てるのは大手に限られる。ネルガルも業績拡大のために将来的には売り込みたいんだろう」

ネルガル重工が地球連邦軍の艦艇市場に殴りこみをかけたい思惑が透けて見えるような戦艦建造。ここ数十年は数社が寡占状態の地球連邦軍艦艇受注に新風でも吹かすつもりかと推測しあう二人。その戦艦が数年後に連邦宇宙軍の新たな象徴として君臨するとは知る由もない。







――この時期、地球連邦の軍需産業であるネルガル重工は火星を脅かす「とある勢力」を倒すため、火星の遺跡の技術を独占するために戦艦を4隻前後は建造していた。これはネルガルの前会長が推し進め、その長男が引き継ぐはずの野望であったが、その長男が事故で死亡したため、次男坊が否応なく引き継ぐ事を余儀なくされた。

――ネルガル重工の建造ドック

「まさかこの僕が親の野望を引き継ぐハメになるとは……」

その男はネルガル重工の現会長である。20代頃と思しきスケコマシ的なチャラ男に見えそうな風貌の青年であるが、会長に就任出来るだけの手腕は持ちあわせている事から、そこそこの手腕はある。もっとも当人は継ぎたくはなかったのだが、直接の後継と目された兄が死亡した故に『代わり』を父親から求められた末の就任である。

「会長はドンと構えていればいいのです。それだけで社員は安心します」

「そういうものかね。まっ、4番艦まで建造する資金は確保したから、あとは頼むよ」

「はい」

彼は就任から日が浅いこともあり、勉強に追われているため、腹心の重役に細かいことを任せる(重要所はきちんと視察する)業務生活を送っていた。艦名については地球連邦軍の命名規則に囚われない故、様々な名前が検討されているとの事。

「艦載用の機動兵器も既に生産体制を整えつつあります。これで父上と兄上の悲願を達成できますな」

「父と兄貴、か……」

彼は優秀であり、父親からも『後継者の器』とされていた兄にコンプレックスを抱いていた。それ故に自分を『兄の代わり』としてしか考えていない父親を憎んでさえいる。しかし父親に認められたい一心で家業を継いだという経緯がある。親から受け継いだ事業を進めているのもそのためだ。目の前に鎮座する戦艦が自らの運命を左右することになるとは、この時の彼は思いもよらない。運命が動き出す日はそう遠くはない…。







――話は戻って、フェイトは一文字隼人についていき、そのままハイキングと洒落こんだ。服装はそのままバリアジャケットである。これはバダンや再生組織のアジトがある危険性を考えてのことだ。そして、山の中腹辺りに差し掛かると、案の定であった。

「ショッカーのアジトだ……奴らめテンプレート通りのところに作ってるとは……学習能力あるのか?」

「悪の組織って本当にやることが中途半端に隠れてないですねぇ」

双眼鏡越しにショッカーのアジトと分かりやすい戦闘員の歩哨を発見し、悪態をつく二人。忍び足で接近し、手刀で気絶させる。

「俺は中に行く。君は周りの歩哨を排除してくれ」

「了解です」

フェイトは一文字と別れると、一文字の移動を探知されそうな場所の歩哨を倒していく。どこその必殺仕○人だか、忍者の如く抜き足、差足で(これは忍者戦隊カクレンジャーのニンジャレッド=サスケから教わったとの事)近づき、天羽々斬モードのバルディッシュ(フェイトはこのモードの時は天羽々斬と呼称している)で後ろから刺したり、頸動脈を斬ったりして倒していく。エグいが、実戦では重宝する戦法である。

「おのれ小娘!」

やがて、見回りに来て、事の重大さに気づいた分隊〜小隊長格相当の赤戦闘員が棍棒を持ちだして対向する。フェイトは天羽々斬を手に、鍛え上げた身体能力で立ち向かう。

「おっと、当たるか!」

棍棒による攻撃を紙一重で回避する。Xライダーのライドルスティックを見慣れているので、回避術は心得ているとばかりの動きである。突きを仰け反って回避すると、棍棒を振り払って天羽々斬で胴体からスパーンとなぎ払う。戦闘員はこれで死亡だ。非殺傷設定を適応しないあたり『絶対悪には容赦しない』という考えが身についたようだった。ややあって、一文字が弾薬庫を爆破したらしき爆音と衝撃波が伝わった。これから忙しくなるだろう。

『二号ライダーが第一弾薬庫を爆破!各員は戦闘態勢に入れ!』

放送の声が切羽詰っている。よほどまずい不味い事態なのが伺える。戦闘員をあしらっていると、怪人達が出てきた。蝙蝠男にハエ男などのショッカー怪人だ。

「逃しはせんぞ小娘めが!」

(こいつらは割とスペックの低い怪人だ。武装でも十分に渡りあえる。二号ライダーから聞いといてよかった)

ショッカー怪人は初期に日本支部に属してい
た怪人はベルトをしていない。中期以降に死神博士が着任して以降は平均スペックが飛躍的に向上し、ライダー単体で撃破困難な怪人もチラホラ出始めた。その頃からベルト着用の怪人が出始めた。ベルト着用怪人は平均スペックこそ高いが、再改造されたりパワーアップしたダブルライダー達に一敗地に塗れている事から、十分に渡りあえると踏んだのだろう。

「お前らの事は二号ライダーから聞いている。生かしておくわけにはいかん、ここで成敗する!」

この頃にはフェイトはどことなく武士的な物言いが増加していた。傍から見れば俗にいう中二病と取られるが、当人としては至って真面目である。ハエ男の拳を避け、蹴りを一発見舞う。改造人間相手に渡り合うには見切りの早さが生死を分ける。達人なら改造人間を倒しうる拳を持てるが、フェイトは剣技を中心に鍛えたため、体術に関しては常人以上、達人以下という水準に留まっている。なので牽制に使うことが専ら。それで怯ませた隙に一撃を見舞うというスタイルを対改造人間の際には用いていた。

「おおおっ!」

天羽々斬の黄色の刃がハエ男の腕とぶつかり、火花を散らす。ザンバーよりも切断力に優れるモードであるが、ハエ男の腕部装甲もかなりの強度を持っているらしく、一撃では斬れない。

(硬いッ!改造人間の装甲は特殊合金が使われているっていうけど……再生怪人の割には強いな)

フェイトは再生怪人の防御力が予想以上であった事に驚く。大抵の場合は再生怪人は初登場時と打って変わって、ヒーローに烏合の衆同然に倒されていく存在に過ぎないからだ。再生怪人と言えども生前同様の能力を与える余裕があるあたりはバダンの強大さが伺える。

「死ねぃ!」

ハエ男のパンチで地面が凹むが、その直前に跳躍して避けると、空中の蝙蝠男の顔面に天羽々斬をツインブレードでぶち込む。悪には情け容赦ない側面がこの頃から顕著になり始めたのである。ツインブレードから繋げる技として、この技を用い始めたのも剣技が熟達したこの頃からだ。

『アークインパルスッ!』

蝙蝠男を空中で顔面から胴体にかけてX文字に斬り裂く。これを行うようになったのは、『決め技と決めポーズが欲しかった』からという少女らしい理由と、上から『プロパガンダに使える見栄えのいい技を持て』と指示されたという実務的理由も含まれている。ちょうど往年の特撮ヒーロー番組『時空戦士ス○ルバン』がウィッチや宇宙刑事などの間でちょっとしたブームになっていたのもあって、フェイトは習得したのだ。着地時にちゃっかり決めポーズ決めているあたり、彼女への少女期からのヒーロー達の影響度の高さが伺える。(その証拠に叫びが子供時代に比べると恥ずかしさが消えている)












――彼女らがなぜアジト発見後にすぐに攻撃を仕掛けたか?それには理由があった。



――とある山中

「一文字がハイキング中にアジト見つけたから攻撃かけたそうだ」

「レースは明後日ですよ?間に合うんですか」

「一文字の事だ、今日中には片付けるだろう。マシンの整備はやっとけよ茂」

「へいへい」

仮面ライダー達の多くも参加するオートレースが開催されるのだ。仮面ライダーの内、7人ライダーは立花藤兵衛の遺志を継いでオートレースに出場する事を再開しており、最近は7人の誰かでもいれば上位確定と言われている。もちろん、彼らだけに賞金を独占させはしないと、ウィッチではシャーリーやドミニカ・S・ジェンタイルなどのリベリオン出身者が主にエントリーしていた。応援にはドラえもん達が招待されており、マシーンの整備所にも関係者として立ち入り可能になっていた。

「いいんですか、マシーンなんて持ち込んじゃって」

「連中に襲われた時用も兼ねて用意した。一応、出る連中のは持ち込んである」

ライダーマシーンの内、レースで使用を許可されたのは割と装飾物の少なく、シンプルなデザインである。ダブルライダーの新サイクロン号、ハリケーン号、カブトローの三台がそれに該当する。スーパー1やスカイライダーは誘われたが、パワーがありすぎ&彼ら自身にオートレース出場可能な腕がないとの理由で辞退した。応援担当にXとアマゾンが回った(ライダーマンはそもそも多忙なためオファーはかからなかった)のもあり、7人中4人がエントリーした。

「君達用のホテルはスポンサーが用意してくれてる。俺達の名をフロントで出せばいいから」

「分かりました」

ドラえもんはいつものメンバーを連れてきているが、学園都市勢にも声をかけていた。今回は美琴のみが応じた。風紀委員の仕事が多忙な初春や黒子の二人と違い、概ね成績優秀、レベル5女性陣で唯一無比の品行方正さで学校からの信頼が高い美琴だが、最近は学園都市そのものへ不信感を持ったため、積極的に学園の暗部と向き合い、インデックスらが使う力―魔術―を知ることを最近は行動原理にしている。今回、ドラえもんの誘いを受けたのは、思い悩む様子を黒子には見せたくなかったからでもあった。



――ホテルの一室

――あたしはあいつらの事を知らなかった。いや……ひいては自分の世界の事に無知だった。この時代に召喚された事で、学園都市の闇やこの世界の裏を知った……あたしがあの時に提供したDNAマップが『妹達』を生み出し、実験に加わってた一方通行からは『妹達を作る原因を生み出した元凶』って憎まれてた。あの子たちを生み出してしまった原因を作ったのはあたしだ。でも、それで生まれた個体がアイツの良心を一手に担っているっーのは皮肉だよね……。


美琴は上条当麻の過酷な経緯とその運命を詳細込みで知り、更に彼には学園都市上層部どころか世界規模の思惑や陰謀が関係している事に憤慨しているが、奇しくもそれは彼女に自分の力が如何に微力であるかを強く認識させもした。そしてそれらと未来永劫、対峙する宿命を背負ったヒーロー達の生き様を意識し、自らの手で運命を変えたいという信念を抱くようになった。そして自らの地力を向上させるための努力を行った。ある時、宇宙刑事ギャバン=一条寺烈と出会い、彼の紹介でこの時代の日本に来ていた、あるヒーローと出会った。そのヒーローとは、かつて日本のみの存在とされたはずの『忍者』を名乗る世界各地の強者たちと戦い、ひいてはそれらを倒した『忍者』であった。『忍者』は21世紀以降は偶像化した感があり、科学万能の世に生きる美琴とは縁遠いように見えるが、魔術へ対抗できる術を模索していた美琴は体術を鍛えたい思惑で彼の手解きを受けることにした。その成果で、剣(砂鉄の剣、通常の剣でも)に上条当麻の『幻想殺し』の効力が及ばない自然の力(人間の生命力の発露でもある気力)を纏わせる事で、威力を強化する方法を身につけた。万が一、彼と本気で戦ってしまう事態に陥った時、体術以外の攻撃を無効にする彼を止めるための手段を持ちたい故の選択だった。


(あたしにはあいつみたいにヒーローになる資格はないのかもしれない。妹達を一万人以上見殺しにして、あいつの夢を守ることも、一方通行に抗うこともできなかった…。学園都市そのものがあたしをプロパガンダに利用しただけじゃなく、計画にも利用したのに、あたしはそれを享受していたッ…!)

美琴の学園都市への信頼や望郷の念などは戦いの中で学園都市という組織への憎悪へと変わっていた。それは謳い文句と余りに剥離した実情があり、自分の能力は努力で開花したとは言え、相応の素養が元から確認されていたからこそ起きたことだと知ったこと、上層部の中枢が『上条当麻の存在を特別視し、色々と画策していた』などが要因だ。

(たとえ誰も知らなくてもいい、誰も褒めてくれなくてもいい。アイツが望む世界を、夢を叶えたい)

美琴は上条当麻へ恋心を抱いていた。これは黒子も半ば公認しているのだが、この時期には独白などで彼の名を呼ぶまでに恋心は進展しており、パニックになったりすると、それが表に出てしまうようになった。その為に黒子は悔し泣きでハンカチを何枚かダメにしたとの事。

「さて、明日はレースだし、それまでに英気養うとしますか」

気分を切り替えて、ホテル内の自動販売機コーナーに向かう。23世紀を迎えたというのに、昭和後期から大して進歩していないという皮肉ぶりに呆れつつ、ジュースを買う。手持ち金は未来銀行(ドラえもんの時代から存続している銀行。タイムトラベル者の換金も事業に入っている)でこの時代のものに変えてあるので安心だ。炭酸飲料を買い、部屋に戻る。部屋のバルコニーに出ると、強烈な日差しが照りつける。この時代では戦乱の弊害で気候が完全におかしくなっており、元来は温暖であった日本を熱帯地域へ変貌させていた。しかもこの時は2月だ。元来ならば雪が降っても可笑しくない月だ。だが、どう見積もっても5月末から6月期の日差しが照りつけている。

「暑っ……2月っていうのに、馬鹿みたいな日差しなこと。嫌になるわね。多分優勝は本郷さん達の誰かだろうけど」

炭酸飲料を喉へかっこみながら日差しへ悪態をつく美琴。どうせ優勝は仮面ライダー達の誰かだろうとたかをくくる。実際、実戦を生き残ってきている7人ライダー達のバイクテクニックは並のレーサーでは及びもつかないレベルである。マシーンも時速500キロを超える速度を叩き出すモンスター。それを使うのなら普通の人間とマシーンでは太刀打ちできないのは目に見えるからだ。





――しかしながら彼らも注目しているのがウィッチチームである。彼女らもバイクを規則の範囲内で改造し、更に固有魔法も使用OKというフリーダムな規則があるため、シャーリーは虎視眈々と優勝を狙っていたりする。美琴の予測とは裏腹に、優勝が誰になるかはわからない。













しかし、この西暦2202年、遂に暗黒星団帝国が地球圏到達、電撃戦を展開。地球本星はものの数日で中枢を制圧されてしまう。ドラえもん達も巻き込まれ、ゲリラ化した地球連邦軍の一角を担う事になるのだ。

――太陽系周辺監視衛星



「お、おい。ワープアウト反応多数!」

「何!?反応数は!」

「数千、いや、数万!

「その中央に極大な反応があるぞ!戦艦クラスでもない!」

「何だって!」
太陽系外縁部にワープアウトしたのが暗黒星団帝国の遠征軍であると判明するのはこの後すぐ。そして真っ向からでは返り討ちにあうのを見込んだ彼らが用意した兵器が発射され、自立飛行で地球に迫る。その名も重核子爆弾。中性子爆弾の発達型とも言える特性を持つこの爆弾こそが強烈な機動兵器保有国である地球連邦に対する切り札であった。それは第11
番惑星である智王星の宙域を通過し、第10番惑星である魔王星(地球人が恒星間航行技術を得た時期に存在が確認された、新・外部太陽系惑星郡の一つ。余りに遠くにあったので、エクセリヨンの自爆に伴って一時的に発生したブラックホールからも難を逃れた。ただし、現在の太陽系の惑星にしては遠すぎる軌道を持つため、現太陽の先代の超新星が健在時に保有していた惑星群の生き残りが現太陽の誕生時に捕獲されたと推定されている。)の宙域へ達しようとしていた。



――ちなみにこの時代には太陽系の構成は、新惑星の発見、木星が人口都市で代用された影響があるものの、概ね21世紀初頭から数個増えた程度だ。冥王星が惑星から外れた影響を消すほどの発見があったからだ。また、ドラえもんの提言で太陽の裏側に反地球がある事が確認(実際は再発見。統合戦争の時期にそれに関する記録がテロリストに破棄されたために闇に葬られた)され、接触が検討されている。また、ドラえもんの道具『天球儀』で地球によく似た惑星とその文明が銀河系内だけでも複数発見されていたのが通達されたため、地球連邦は銀河系の地図を書き換える必要に迫られたという。だが、地球の名を冠する惑星を持つ太陽系が複数あるのに、なぜ『この太陽系』のみが集中して狙われるのだろうか?その答えはゲッター線開発が進んでいるという点にあるのかもしれない。西暦2202年。新たな宇宙戦争の狼煙が上がろうとした。暗黒星団帝国の復讐戦として。地球連邦軍の戦争準備は的中しようとしていた。



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