短編『SF的談話』
(ドラえもん×多重クロス)



――ドラえもんとのび太、ドラ・ザ・キッドは統合戦争の唐突な『最後の激戦期』の訪れを疑問に思っており、ある日、真田志郎に面会していた。

「統合戦争の最後の激戦期は『特に理由もなく訪れた』。それは何でですか?」

「とは言われているがね、実のところは一つあるんだ。技術的特異点の訪れをアメリカなどの欧米人が過剰に恐れたのさ。収穫加速の法則というのも取り沙汰されたが、君たちのような人工知能がより発達し、人間の持ちえる知能を超越してしまうのを異常に恐れ、欧州連合やアメリカは日本に開発中止を求めた。君らがいた時代から数年後、日本が『より進歩した人工知能』を発表したのが、消えかけていた統合戦争の火を再び激しくした」


――技術的特異点とは、人間の持ちえる知能の限界を機械技術が超える時代を指す。日本はあくまで『技術の進歩は人間を豊かにする』と信じていたが、欧米人は宗教などとの兼ね合いから、『過剰に文明が発達すれば、人間の自滅を招く』との倫理観があった。だが、欧米人が東西冷戦時代などに軍拡競争として、加速度的に技術を発展させた歴史があるのをよく実感している日本は21世紀以降に加速度的パラダイムシフトを起こし、人工知能や道具郡を実用化させた。この中興を快く思わない各国科学者などは『日本の得た過剰科学力を摘む』目的で統合戦争で暗躍した。これは『このままでは機械が人間を支配してしまうのだ!』という、ある種の強迫観念に駆られたからだ。




「機械が人間を超え、支配する側に回ることを恐れた科学者や要人は終戦が見えたはずの統合戦争を再燃させ、テロリストを操って、日本でのテロ行為を起こした。だが、そのしっぺ返しはすぐに訪れた。日本国防軍は報復として各国を無力化させていき、遂にはアメリカをも屈服させた。皮肉だが、無人兵器を使った欧米が有人兵器主体の日本に完膚なきまでになぎ倒されたのは調べなくとも分かるだろう」

「日本はなんで普通の兵器で無人兵器に対抗したんですか?」

「有人兵器で無人兵器を倒すことは特別な意義がある。それは自分の血を流す事で、人間は悩み、考えていく事になる。血を流さない戦争など、テレビゲームも同然だ。それで有人兵器が主体であり続けた」


――皮肉なことに、有人兵器が無人兵器を上回るスペックと、『人間の思考と感情』で制圧した事で、統合戦争は日本の一人勝ちになり、勝ち馬に乗っかった英国は欧州連合の構成国がほぼ凋落する中での中興を得た。技術的特異点への恐怖が起こした戦争は『技術的特異点など杞憂である』と言わんばかりの様相を呈したものの、人工知能関連技術などのかなりの分野で衰退を余儀なくされた世界は21世紀前半期と大差ないレベルに文明が退化。そこから立て直しつつあるのが23世紀である。『軍事レベルではそこよりも大きく進歩したが、民間レベルではその水準に戻りきっていない』という歪な文明となった要因は、欧米人らの価値観・倫理観に由来する危惧からの思い込みにあったのである。



「そもそもその根拠はどこににあるんスか?技術的特異点っての」

「そもそもは19世紀頃に冗談めかして語られたものだが、大戦で技術が飛躍的に進歩した20世紀後半頃に現実味を帯びて語られる様になった。そしてトランジスタから集積回路へ技術革新が起こり、10年毎にコンピュータの性能は飛躍した。60年代に8ビット級だったビット数は2000年代ではその10倍以上に達したが、科学者の中には『機械の過剰な進化は人間の滅亡を招く』と考える者が表れた。彼らはハリウッドの『ター○ネーター』のような状態が訪れると本気になって危惧し、その危惧が2010年代末に日本が各技術を革新させた時に、羨望は敵視に変わったのだ。彼らは統合戦争が小康状態だった君たちの時代に、意図的に再燃させる事で人工知能技術の後退を図ったのだ」


真田志郎が語る事はドラえもんらの時代に至るまでに何が科学界であったのかの経緯だ。日本は各技術を飛躍させたが、結果的にそれは科学者の逆鱗に触れた。2127年頃の統合戦争の再燃はある意味では『仕組まれた』のだ。しかし戦争は日本が激烈な報復戦を行ったために彼らの予想を超えて激戦となってしまい、技術レベルは戦争前より発達した分野と、後退した分野が生まれてしまった。因果応報で欧米諸国は根こそぎ、その軍事力を0に近いレベルまで叩きのめされたのである。結果的に国そのものの影響力を大きく削いでしまった事に欧米人は後悔したという。

「だが、軍事分野では更なる革新を引き起こしたものの、民生レベルではひみつ道具関連技術が失われた、あるいは散逸したために、終戦時には文明の平均レベル自体が21世紀前半と大差ないレベルに後退していた」

「でも軍事に関係した技術は依然として発達し続けて、あんな化け物を生み出したんでしょ?なんか複雑だぜ」

「人型兵器は地球では一部のロボット工学者が研究をしていたのが、OTMを得た事や過去のスーパー戦隊が用いたオーバーテクノロジーの情報が一部解禁された事で、現実化した。マジンガーやガンダムなどは科学が生み出した化け物と言っていいかもしれん」

「けど、マジンガーとかは兵器の枠超えてません?」

「スーパーロボットはある種の偶像にもなるからな。かつてのマジンガーZは鉄の城と諢名され、崇拝すらされていた。無敵と謳われ、常勝を義務付けられていたが、ミケーネ帝国の前には無力だった。Zの敗北はセンセーショナルに扱われ、ミケーネ帝国に屈服もやむなしという世論すら生まれた。グレートマジンガーがそれをすぐに払拭したがね。スーパーロボットも実のところ完成時の性能のままではなく、小刻みに改造が繰り返されている。兵器技術に関しては君たちの時代よりも進んだと見ていい」

「なるほど。あとはどこでもドアとかの技術はどうして失われたんですか?」

「恐らくはプライバシーの問題も大きかったんだろうが、他の要因としては、乗り物の関係者らが意図的に歴史から抹殺したんだろう。ドアさえ買えばどこでも一瞬というのは、乗り物を売ったり作る関連企業の商売上がったりだからね」

真田はのび太とキッドにそれぞれ回答する。どこでもドアに代表される空間跳躍系道具技術が断絶した理由、スーパーロボットが造られた理由……。スーパーロボットには納得したものの、どこでもドアなどの便利な技術を自分から手放した理由は身も蓋もないものであると推測された時には幻滅したようだ。ともあれ、揺るぎない事実としては『統合戦争の戦乱を再燃させた欧米諸国は因果応報を次の時代である地球連邦政府時代で受けた』のはハッキリと提示されている。

「それで地球連邦政府と言っても、覇権は日本が握ってるんですよね?なんでですか?」

「統合戦争が完全に終わった後に日本が工業力を最も温存していたのと、軍事力で世界一に上り詰めていたからね。それで地球連邦軍は基本的に当時の一、二番だった日英軍に各国軍隊残存部隊を取り込む形で出来た。このように軍事力で統一したのが今に至る」


「兵器ばかり発達した印象ありますけど、他の分野で進んだのはないんですか?」

「ある。ナノマシンの実用化で以前より医療が飛躍し、他惑星への宇宙移民がより現実的になった。あとは義手や義足だ。私がこの好例だ」

「!?」

「ちょうどのび太くんよりちょっと小さいくらいの頃に、グラナダの遊園地に遊びに行った。その時に事故を起こしてね。姉と自分の手足を失った。今では義手や義足で不自由なく暮らしているよ」

――科学が生み出したものは兵器ばかりではない。真田は高度に発達した医療技術のおかげで何不自由ない生活を送っているが、幼少期の事故で四肢切断を余儀なくされている。見かけは生身と変わりないが、義手である。これは仮面ライダー達が残した技術の応用であり、医療技術において仮面ライダー達が貢献していた事を示す事例である。真田志郎の四肢を奪ったのも科学だが、彼の人生を救ったのもまた、科学なのだ。そしてナノマシンの実用化が惑星のテラフォーミングを現実化し、火星のテラフォーミングを成功させた事などの飛躍も起こった。この時期の地球連邦政府は生活圏を木星まで広げていたが、木星そのものは現存していない。ブラックホール爆弾として使われたからだ。木星圏の権力者らはかつて、自らを弾圧した者らへの復讐に燃えているのは地球連邦政府内でも問題視されており、地球連邦軍の軍拡を認めているのだ。

「最近は復興が第一になってはいるが、テロ行為が多くてね。ロンド・ベルみたいな治安維持部隊は重宝されているよ」

「なんでスペースノイドに寛容な政策がされてるのにテロを?」

「地球連邦政府は地球から宇宙を支配しているが、地球を聖地として無人化する『エレズム』という思想がスペースノイドの間で流行し、やがてジオニズムという選民思想に利用され、一年戦争に繋がった。ジオンはスペースノイドには人気あるのはそこだよ」

「エレズムか……僕達には理解し難いです」

「君たちの時代にいた過激な環境保護団体みたいな思想が発達したと思えばいい。問題はそれに選民思想がくっついたという事だよ。それがスペースノイド達が立ち上げた組織や国家の大義名分に使われたから、余計に質悪い」

「連邦政府はなんでそこまで放置を?」

「第一に官僚が保身や汚職まみれだったこと、地球で失われた主要都市の復興を望んだなどの理由がある。次に政治屋もそんなのしかいなかったことなどが大きい。それでシドニーとパリは地図から消えたしね」

「旧各国の主要都市で現存してるのは?」

「日本の東京圏、イギリスのロンドン、中国の香港、ベルギーなどの指で数えられる程度さ。それらは都市ごと地下に避難できるように長い年月の間に改修されたしね。インドはまだガミラスとの戦いから復興してない。首都機能はフォン・ブラウンに移転する事は決議されたよ。本当はブリュッセルに移転させる案が挙がってたが、スペースノイドの反発を予想して、フォン・ブラウンになった。」


――地球連邦政府はスペースノイドに配慮する形で、首都機能を月面都市に移転させる決断をしたのが真田から語られた。旧主要都市を首都にしとくと、またテロで荒廃しかねない故、フォン・ブラウンに移すのである。フォン・ブラウンは西暦2201年時で5000万を超える人口を誇っており、首都にする資格は充分に備えている。妥協と政治的判断が重なって決議されたが、存外に成功を収めたとの事。



「これから地球はどうなるんでしょうか?」

「地球連邦政府もいずれ独立した移民星と連邦を組むことで再編されるだろう。度重なる侵略で左派は嫌われ者になってしまっているから、政治的には中道右派が続くだろう」

「なんでそんな状態に?」

「度重なる侵略は左派のリベラル的手法を真っ向から否定してしまったんだよ。運悪く宇宙では帝国主義真っ只中で、まだ地球のように政治思想が成熟した星がそれほどないから、奴隷か死を要求する星間国家しかいなかったのも大きい。特に白色彗星帝国のやり口は人々に復讐心を根付かせた。連邦政府が白色彗星帝国を殲滅したのは、生存競争化したからだ」

――皮肉にも白色彗星帝国の行いは地球連邦政府の国民に生存競争への抵抗感を無くし、白色彗星帝国そのものを殲滅する大義名分を軍隊に与えた。リベラル派は度重なる地球そのものの破壊の前にはほぼ無力であり、彼らは政治的に厳しい立場にあった。地球連邦政府のように政治思想が多種多様な国家は宇宙レベルだと逆に珍しい事も彼らの立場を弱めた。しかしながら『軍の独走を止める』という役目のために彼らは存在を許されているのが現状だった。

「かつてのナチスもそうだが、極端になると国家の破滅を招く。それは右派であろうが、左派であろうが同じことだ。戦いを捨て去りたい気持ちは誰だってある。だが実際は血を分けた親子、兄弟の間でさえ相続争いや扱いの差などでいざこざが絶えないし、競争に負けた者の人生は暗転する可能性が高い。それは猿であった頃からの本能のようなモノ故に人は『戦いを捨てられない』かもしれん」

真田は一般家庭に起こりえる『兄弟や姉妹がいる場合の跡目争いや相続争い』を例にして、人間が戦いを捨てきれない理由を説明する。かつての旧各国の歴史上でも跡目争いで謀殺など日常茶飯事だったし、扱いの差が原因で反乱が起こった例さえある。人間が闘争と縁が切れないのは、猿であった時から受け継がれている闘争本能に由来すると結論づけた。それはたとえ人類がニュータイプに飛躍しようとも変わらないであろうという悲観も含まれていた。実例に、かつてのハマーン・カーンとクワトロ・バジーナ(シャア・アズナブル)とカミーユ・ビダンの例があるからだ。ニュータイプであろうと対立は避けられない。それはカミーユ・ビダンと亡きパプテマス・シロッコにハマーン・カーンの例や、現在でも続くシャア・アズナブルとアムロ・レイを見ても明らかであった。ニュータイプであろうと人間である。知られたくない事もあるのだ。

「統合戦争も最後の方はそれに近い理由もあったかもしれん。タイムマシンで各国の歴史の暗部を見られたくないのも多分に作用したんだろう。特に米国は先住民を大量殺戮していたからな」

――日本のタイムマシンの発明に各国が反対したのは、歴史の定説が覆ること、暗部が暴かれる事を異常に恐れたためである。タイムマシンで邪馬台国の位置争いは完全に終止符が打たれたし、米国の先住民への酷い仕打ちも明らかとなった。統合戦争の再燃を各国が容認したのは歴史は『物語であるべき』とする思惑があったかもしれない。その事に複雑な顔を浮かべる一同。明らかになる事が受け入れられるとは限らないと。

「それでひみつ道具はどれだけ技術が残されたんですか?」

「タイムマシンや武器系、害虫駆除などの一部しか残されなかった。他の道具が歴史から消えたのは今でも明らかでない」


――タケコプターやスモールライトなどの技術が失われたのは23世紀でも明らかでない。ドラえもんはかつて対峙したギガゾンビがいた『23世紀』とこの23世紀は繋がっていないように思えた。

(ギガゾンビは23世紀から来たと示唆していた。でもこの23世紀は『道具の技術はほぼ失われている』。同じ世界とは思えないな。まさか支流から?)

――時空間にも本流と支流がある。平行時空はこれで説明がつく。ドラえもんらがいて、最終的に戦乱期へ至るこの世界を『本流』とするなら、ギガゾンビのいた『ひみつ道具技術が存続した世界』は支流である。この理論はドラえもん自身が証明していた。創世セットを使って新世界を作った際に支流ができたからだ。

「そういえばペコの国、どうなったんだろう?」

「地球全土が火の海になったからなぁ。バンホーさんのところに移住してるといいんだけど」

のび太の心配事は、バウワンコ王国が衰亡していないかであった。地球全土が攻撃を受けた幾度かの戦乱で、バウワンコ王国が消滅している事は充分にあり得た。海でさえ干上がったことがあるのだ。恐竜人はゲッター線に適応した種族が地底国を築いたが、そうでない種族が恐竜帝国となったという。竜の騎士バンホーと交わした約束は達成できたとは言いがたい。それはゲッターロボと恐竜帝国の生存競争で偏見が生まれてしまった事で、恐竜帝国のせいでバンホー達の子孫が地上に遊びに来ることは難しくなった。そしてバウワンコ王国があのままの文明レベルでは間違いなく滅亡まっしぐらである。地底人か海底人に勧められれ移住を行っていると信じたいのび太であった。




――談話で判明したのは、技術的特異点の現実化に怯えた欧米諸国が統合戦争を再燃させた結果、自らの破滅を招いた、スペースノイド過激派の思想はアースノイド達には理解できないほどの過激ぶりである事、科学の発展は戦争以外の分野でも起こっている事、ニュータイプに飛躍しても、人は戦いを起こすという現実論が歴代ガンダムパイロットの例で実証されてしまっていることだった。地球連邦の融和政策の一環で、フォン・ブラウンに遷都が行われるのにも関わらずテロを起こす者らの存在は地球圏に暗い影を落としている。ドラえもんとのび太は心配事もさることながら、地球圏の混沌ぶりにため息をつくのであった。



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