短編『SF的談話』
(ドラえもん×多重クロス)
――真田志郎とドラえもんとのび太は対談を続ける。統合戦争で何故、日本が苛烈な戦争に打って出たのか。それはその時期に就任した若き総理大臣に理由があったという。
「どうして統合戦争はあんな殲滅戦に?」
「当時の総理大臣の生い立ちに理由があったのだ。当時に就任した総理大臣は新進気鋭のうら若き20代の青年だったが、生い立ちは不遇そのものだった。母親がフランスの貴族の車に轢き殺され、しかもそれをもみ消された事から、フランスに強い憎悪を抱いていた。それで彼は権力を握ると、学園都市から得た武力でフランス軍を蹂躙し、沿岸警備隊を含めてもわずか30%しか戦力が無い状態へ追いやり、政治的にも衰退を強いた。海外領土のいくつかを賠償代わりに分捕ったからだが、当然ながら反発を招き、オランダやギリシャなどが次々と宣戦布告したが、軒並み薙ぎ倒されていき、最終的には日本の領土は大日本帝国時代の1920年代に近い規模に回帰した。南方の小国が立ちいかなくなり、かつての宗主国の一つである日本の庇護下に入りたがったからだった」
――真田志郎の口からは、日本と呼ばれる地域は最終的に日本列島以外に、かつての委任統治領の地域までを含んだ事が明らかにされた。傾向としては下へ領土が拡張したのが窺える。
「なんでそんな事が?」
「南方の国は元々、産業基盤が整っていなかった上に、自分たちが贅沢しようとしたら、目の敵のように先進国らに規制された結果、やがて経済危機が起こった。当時にはアメリカも衰退していて、安全保障面でも不安が高まった。そこで中興を起こしていた日本の恩恵に預かろうとしたのだ」
――旧南方の国々は結局、確固たる産業基盤もなく、安全保障面もアメリカ合衆国の衰退で多大な不安が生じたために、かつての宗主国の一つの日本に助けを仰ぎ、苦渋の末に再び日本の一部として生きることを選んだことが明らかとなった。アメリカ合衆国の衰退が世界に混乱を招き、中興を成し得た日本国は次第にアメリカ合衆国という超大国の後継者として振る舞う事を強いられたのが窺える。そしてその振る舞いに不満を持つ欧州の国々は喧嘩を売っては倒されていったのが統合戦争の最終盤の実情である。地球連邦で最も力を持つのが日本なのも、この時の動乱が主原因であるのが分かる。
「統合戦争後半の実情としては、地球連邦決議に反発した国々と日英独の戦争みたいなものだ。圧倒的武力と政治力で小国を統合していき、地球連邦は出来上がった。人間を一つにするには力が必要なのだよ」
――ちょっとした事でいがみ合う人間を一つにするには、武力と政治力が必要なのである。対話と、それを裏付ける力による担保が世界の本質なのだ。宇宙時代では特に重要視されるようになった。対話しようにも力がなければ、相手にされない事は奇しくも戦乱と、ドラえもんの過去の冒険が証明している。
「そういえば、ドラえもんが前に天上連邦と対話に持ち込むために雲もどしガスを持ち出したけど、アレって正しかったんでしょうか?」
「ある意味ではね。かつての小国が核兵器を持ちたがったのも似たようなものだ。古代において、ローマ帝国は異民族を蛮族などと言って嘲笑していた。天上連邦は一方的に地球を汚す地上人に我慢がならず、強引にでも浄化しようとしたのだろう。そうしたらまず破滅だ。大国は躊躇なく全ての核兵器を撃ちこむだろうし、雲を散らす化学薬品を何としてでも作るだろう。そうなれば天上人との生存競争の果てに滅んだ可能性が大きい」
その天上人はその後、どうなったのか。のび太が久しぶりにキー坊(植物星大使)と、この時代の日本で会った時、天上人の末裔らは地球連邦軍が破滅の危機を尽く跳ね返した事に恐れをなしているらしく、議会で紛糾していたと話していたのをのび太に教えた。彼らもガミラス帝国及び、ゼントラーディ、白色彗星帝国の前に蹂躙されると確信していたようで、ヤマトとスーパーロボットらが必死の防衛戦で勝利をもぎ取った事に驚愕しきり、のび太らと交わした約束(キー坊が出会った植物星の先遣隊が交わしていた)は最終的に立ち消えとなった事が伝えられたという。
「生存競争、ですか?」
「そうだ。天上人があくまで強硬手段に出たのなら、そうなっただろうね。地上人の生存権を脅かす事態だからだ。逃げた人が然るべき立場の人間であれば、証言も信用される。そうなればあらゆる手段で天上人を倒そうとするのは目に見えている。生存競争というのはそういうものさ。宇宙時代になるとそのような事になるケースが大半だ。軍事大国では惑星自体を破壊するミサイルが実用化されててね。白色彗星帝国も『破滅ミサイル』という形で実用化していた。地球へ彼らが侵攻してきた時、彼らは奴隷か死を要求してきた。地球連邦の人々はけして容認はせず、あくまで防衛戦をする決意だった。そして我々は地球圏のために、その生命を捧げたのだ」
――地球本土決戦時にヤマトのクルーはその大半が死亡している。それを回想したらしく、真田の目には涙が滲む。生存競争と化した闘いの末に、地球は膨大な犠牲を払いつつも勝利した。宇宙戦争では、戦争が惑星を巻き込む生存競争化することは当たり前である。その時に、手の平返しで平和主義というものが世論からの中傷を受けたのは言うまでもいない。世論というのは実に気まぐれで、何かのきっかけがあれば先鋭化しやすい。特に宇宙では議会制民主主義国家が逆に珍しいという事が彼らに悪影響を与え、その影響力は低下した。政治家の力ではどうにもできずに軍隊の力と歌の力で解決したケースが増えた事から、いつしか連邦政府には政治家<軍隊<歌のパワーバランスが出来上がった。白色彗星帝国戦は皮肉にもそのパワーバランスを確立させてしまい、世論から生存競争への抵抗を無くしてしまった。寄ってたかって侵略者が現れ続ける事は、軍隊の縮小という議論が事実上封殺される事でもあった。以後、現状維持派が主流となった事もあり、銀河殴り込み艦隊の帰還と合わせて地球連邦軍は更に再編された。それは暗黒星団帝国襲来の数ヶ月前の事だ。
「生存競争、ですか……。種の存続を脅かす敵の前には話しあいは無理って事なんですか?」
「そうだ。向こうに意思が無ければ、会談などはなんら意味を持たない形式的なものに過ぎん。恐竜帝国、ミケーネ帝国、百鬼帝国らはそれを証明してくれた」
いずれも人類に奴隷か滅亡を強いるような暴虐非道の輩である。政治家は話し合いに行き、逆に尖兵化される、殺されるかの二択しかなかった。恐竜帝国は巴武蔵の自爆で帝王ゴール含めた幹部を多く損失し、マグマ層へ引きこもった。ミケーネ帝国はグレートマジンガーやゲッターロボGとの死闘の果てに手駒の大半を喪失し、身を潜めた。百鬼帝国も手駒の温存に努め、目立った動きはない。
「彼らには奴隷か死かの二択しかない。共生など無理な話だ。何度、使節を送ってその度に皆殺しにされたり、奴隷にされていたか……」
さすがの真田もその三国との共生という選択肢は切り捨てざるを得なかったのが窺える一言だった。軍事力による打倒を嫌う一面のある彼がここまでいう当たり、三国の暴虐非道ぶりが分かる。天上人も独善的な側面が強かったのを思い出したドラえもんとのび太は傲慢さが暴虐非道の入り口だと強く実感した。やがて話題はドラえもんらが出会った恐竜人に移る。
「真田さん、恐竜帝国以外にも恐竜人はいますよ」
「本当かい?」
「ええ。恐竜帝国とは種の成り立ちが根本的に違って、僕たちが関わったんですけど、いい人達です」
「どんな風に生まれたんだい?」
「6500万年前のある日。僕たちはその恐竜人の『大遠征』に、成り行きでついていったんです。彼らは恐竜の滅亡を宇宙の侵略者が原因であると考え、大遠征で阻止して歴史を変えようとした。準備に文明確立からの長い年月を掛けて。でも、実際は隕石の衝突が原因で、僕たちはそれを目の当たりにしたんです」
恐竜が滅亡した原因はゲッター線を強く帯びた隕石の衝突にあった。その時に撒き散らされたゲッター線に適応できなかった恐竜帝国の先祖らはマシンランドウを作ってマグマに逃れたが、適応した種もいたのだ。ディノサウロイド仮説の例がこれで全て肯定された事になる。
「隕石の衝突後の大津波を逃れた僕らはポップ地下室で作った地下室に恐竜を出来るだけ避難させたんです。北海道程の面積の地下室です。そこで長い年月の間に、ステノニコサウルス、今の時代の学説だとトロオドンと言うんでしたっけ……が完全な知能を獲得し、人類同様の進化を辿ったのが彼らです。僕の道具『ヒカリゴケ』にはゲッター線を放射する作用があったようなので、それで進化が促進されたと思われます」
「こりゃ大発見だぞ、ドラえもん君。今や恐竜帝国のおかげで恐竜人との共生は切り捨てられているからな。ただ、現状ではかなりの偏見が生まれているのが残念だ……。」
恐竜国の存在は、真田には嬉しいニュースだったようだ。しかも人類に敵意がないというのはセンセーショナルだからだ。問題は偏見だ。流竜馬らは『爬虫人類は巴武蔵の生命を奪った不倶戴天の敵』と公言しているし、市井の人々も少なからず悪感情を抱いている。その感情が爬虫人類と現生哺乳人類との共生に立ち塞がる壁であると言っても過言ではない。
「トロオドンから知性を得た彼らは、やがて人間同様の形態に進化し、五本指を取り、尻尾は退化しました。これがその時に取った写真です」
「こ、これは……」
真田が見たのは、竜の騎士バンホーとのび太たちが撮った写真である。姿は爬虫類の特徴は薄れており、かつての想像図の姿に近い人間じみた姿であった。タイムスリップを可能とする科学技術を持ち得たものの、軍事面では17世紀末から18世紀当時の人類とそれほど変わりないというドラえもんの説明の通り、次元転換船の作りは近代戦艦に入る以前の戦列艦然とした風体である。これは軍事的に敵となりうる種族がいなくなった故に、軍事面の進歩が緩やかになったのだと推測した。
「この船の形は19世紀頃まで使われた戦列艦だよ」
「戦列艦?」
「ああ。近代戦艦が現れる前の時代の主役だった帆船の事だよ。ガレオン船の後身とも言え、砲撃戦に使うことを前提に造られ、歴史上、装甲艦が現れるまで主役として君臨した。近代戦艦に比べれば脆い。ただ、空を飛び、部分的に近代戦艦級の装甲を持つとすれば、意外に凄いよ」
恐竜国が移動手段として使用する次元転換船の軍艦タイプは地球の船の進歩で言えば、17世紀から19世紀までのレベルの構造であると説明する真田。真っ向からの砲撃戦となれば近代戦艦には当然ながら敵わないが、空を飛ぶという利点はその構造を補っていると熱が篭るあたり、興味津々なのが窺える。
「戦艦が戦艦大和とか戦艦長門みたいな形になったのは、どの辺りなんですか?」
「戦艦の進化は大まかに第一世代の装甲艦、第二世代の前弩級戦艦。戦艦三笠はこの世代に当たる。第三世代の弩級戦艦、戦艦ドレッドノートを始祖にする世代の戦艦を指す。第4世代の超弩級戦艦、戦艦オライオンが始祖となり、大和はこの世代の究極的な進化点に当たる……だいたい第4世代の超弩級戦艦で確立されたと言っていいだろう」
「超弩級戦艦が消えたのは空母のせいですよね?」
「空母のほうが当時はコストパフォマンスに優れていたから、というのも大きい。だが、皮肉なことに飛行機の発達が空母のコスト暴騰を招いたんだ。マリアナ沖海戦で『訓練未了状態の飛行隊と空母は動く的』という戦訓が示されたんだが、艦載機がジェット機になり、コンピュータ技術が導入されるに連れ、空母の運用コストは小国が扱えるレベルを超えてしまい、日本や英国などの大国でさえ、複数での運用はアップアップになるくらいになったんだ。これは宇宙戦艦の時代になっても変わらず、人員の都合もあって、銀河殴り込み艦隊でも空母の数は戦艦より少なかった」
――空母は艦載機の運用に纏わる人員の確保の都合もあり、近年では調達数は控えられている。そのために、地球連邦軍は戦艦にもある一定の航空運用能力を求めている。運用コストの増大が逆に戦艦の復権を手伝ったという歴史の皮肉であった。のび太は子供ながらに歴史の循環を実感し、頷く。
「恐竜国の軍艦は艦隊運用はあまり考慮していないんだろう。大遠征を超大型戦列艦の一隻で行ったということは、地上の人類のように複数の船で戦うことが少なかったからと考えられる」
「なるほど。そういえば、ペコの王国も古代ローマ帝国の頃の軍事力しか無いから、火を吐く車や空飛ぶ船があっても、外の世界の軍隊には勝てるわけないんだよね、ドラえもん?」
「そうさ。あいつらの使ってた武器は古代ローマ帝国のに毛が生えた程度。殺し合いを何千年も続けてる人間達にとっちゃ、所詮は古代の遺物にすぎない。鋼鉄の戦車や音速でかっ飛ぶ戦闘機の敵じゃない。ましてあの王国は銃火器の存在をペコ以外は知らない。この時代の火器を持って行ったら、それこそインカ帝国とスペイン人だよ」
「今、ペコの国は大丈夫なのかなぁ?」
「数百年の間に暗君が続けば、この時代に国が存続してる可能性は低くなる。ましてや、この時代はゼントラーディ人やガミラス、白色彗星帝国の猛攻を受けた後なんだ。あの場所にあるかどうか……」
ドラえもんはバウワンコ王国の存続を危ぶんでいた。地球そのものが一度、赤茶けた姿に変貌していた時期すら存在する以上、地下に避難していない限りは生き延びるのは不可能だからだ。または暗君が続いて、国が崩壊していく事も考えられる。中国歴代王朝もそうだが、数百年から数千年の月日は政権に綻びを生み、やがて滅びに至るのが常である。当初は統一政権として歓迎されたはずの地球連邦でさえも、スペースノイドの反発をきっかけに戦乱期を迎えている事からも分かる。
「そ、そんな!」
「それに、あそこは科学技術が殆ど無い。宇宙文明と衝突すれば一瞬で滅ぶ程度の力しかない。バンホーさんのところと国交を持って、避難したのを祈るしかないよ」
――科学技術の差は時として絶望的な戦力差を生む。それはガミラス戦時の艦隊戦力差で証明されている。彼らバウワンコ王国のの守り神『巨神像』は軍事力の発達を捨て去る代価に造り上げたスーパーロボットと言えるが、5000年の間に発達した人型兵器に立ち向かえるかは未知数である。ドラえもんは宇宙戦争を経た故に、バウワンコ王国の存続にどことなく不安を覚えていた。その不安は後に恐竜国との国交樹立とともに解消されるが、それはまた別の話。
「しかし驚いたよ。狼にも人型に進化する余地があるとは」
「狼?バウワンコ王国は犬ですよ?」
「おおまかに言えば、犬は狼が家畜化された後に進化していった動物なんだ。なので、狼から分化して生まれた動物と言っていい。シベリアンハスキーなどはその特徴が残っているからね。多分、ある程度の犬の種類が出てきた年代、地殻変動で切り離された場所で独自に進化して文明を得たのが彼らなのだろう」
バウワンコ王国の祖先については推測の域を出ないが、地殻変動で外界と切り離された盆地において、同地にいた犬らが猿のように収斂進化を行って、二足歩行能力と知能を得たというのは、真田はほぼペコと同じ結論を導き出した。恐竜帝国や恐竜国の恐竜人や『犬人』の存在は収斂進化の学説を決定づけるものであり、環境さえ整えば哺乳類、爬虫類共に知能を持つ存在に進化し得るというのは一大センセーショナルを巻き起こすのは確実だ。
「ありがとう、二人友。今日はとてもおもしろかったよ」
「いえいえ。お役に立てて嬉しいですよ」
――真田はこの半年後、ドラえもんとのび太の協力で論文を書き上げ、生物学会に一大センセーショナルを巻き起こす。彼が科学省長官に任じられるのはこの更に数年後の話である。(終)
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