短編『SF的談話』
(ドラえもん×多重クロス)



――デウス・エクス・マキナ。機械仕掛けの神との意味を持つこの言葉。ある時、黒江と圭子は過去の改変が『余りにも自分らに都合が良すぎた』事に疑問を持ち、真田志郎へ相談しに赴いた。


「ふむ。過去を改変したら、余りにも自分らに都合が良すぎる経緯になった、か。」

「ええ。まるでご都合主義のように。こういうのって、何があるのかと思っちゃって……」

「デウス・エクス・マキナだな」

「デウス・エクス?なんすか、それって」

「元は古代ギリシアの言葉を訳したもので、分かりやすく言うと、ご都合主義的な解決法で物語を無理矢理締めるというものと思えばいい。夢オチなんてのは、その場合の最たる例で、昔の日本の漫画の大先生はそれを忌み嫌った。ドラえもん君らの冒険にも多少はその卦がある」

「どういうことですか?」

「いつも、ドラえもん君らには何かかしらの助けが入るだろう?予定調和のように。ある時はタイムパトロール、またある時はドラミちゃん、またある時は、未来の時間軸の彼ら自身……。そういう予定調和は、いささかご都合主義に過ぎると、他人は捉えるだろう。それこそ『デウス・エクス・マキナ』と言える」

真田は相談しに来た黒江と圭子に、デウス・エクス・マキナという言葉を教える。機械仕掛けの神とも訳され、ご都合主義と同義とも捉えられると。ドラえもんらの冒険の多くは何かかしらの逆転要素があるが、予定調和すぎるため、他人から揶揄されるであろう要素を含んでいる。それを指摘する真田。


――ご都合主義と言うのは、古代ギリシアの劇の頃から見るもので、その頃から既に批判も出されていたとの記録が残されている。ドラえもんの道具には、それを逆手に取った『ゴツゴーシュンジク』という道具があり、アニマル惑星での際にのび太に飲ませ、凄まじい幸運を彼にもたらしたのは有名だ。圭子らが感じたのは、自分らが歴史の改変をしようとした時に『大きなトラブル』に合うどころか、その逆だったので、例えようのない不安に駆られたのだ。

「君たちが艦娘やゲッター線、光子力の意志の補助を受けられたのは、何かしらの大いなる意志が働いたからかもしれない」

「大いなる意志、ですか?」

「そうだ」

「私が仕えているオリンポス十二神とか?」

「いや、君が仕えているアテナなどのオリンポス十二神よりも更に古の神の意志かもしれない。例えば、ウラヌスとかガイア、更にその上のカオス……。オリンポス十二神は第三世代の神々だからね」

「へぇ……ギリシア神話、疎いんですよ。仕える身になってから調べ始めたけど」

「君の所を察するに、あれは名前だけが伝わった伝承に土着民族の神性をくっつけた神話だよ。それほど鵜呑みにしなくていいさ。属性は合ってはいたが」

「ゲッターの意志は下手をすると、ゼウスの祖父のウラヌスの直接、あるいはそれを現世に伝えるための意志かも知れん。それは隼人くんから聞いた時にも話した推測だが、ウラヌスは、孫のゼウスも倒せない『何か』を人間に倒させるために『進化』を促しているのかも知れん。それと人間の間に平和主義が伸長する度に、なにかかしらの危機を起こすのは、地球人類を『兵器』として見ているからかも知れん」

「ゼウスの雷槌でも倒せない何かを倒す為の兵器、ですか?」

「そうだ。都合が良すぎる。平和主義で争いが無くなる事は、人間に取っては都合がいいはずだ。だが、神々は宇宙怪獣を生み出し、それで地球を襲わせた。まるで闘争心を煽るように」

「私達は、神々にとっては家畜だと?」

「そういう感覚で生きながらせたかもしれん。その気になれば、いくらでも滅ぼせる機会はあったからな。彼らにとっての我々は『闘犬』に等しいのだろう。」

「何に対してのです?」

「クロノスかも知れん。クロノスはゼウスに戦争で負け、追放されている。ゼウスが創りだしたこの宇宙を滅ぼすために、何かかしらを生み出した可能性はある」

「私達はオリンポス十二神の秩序を守るための道具って訳ですか?なんか馬鹿らしいですね」

「だが、クロノスの私怨で、宇宙そのものを滅ぼされてはたまらん。神々にとってはちっぽけな世界かも知れんが、そこには幾多の生命が息づいている。それを奪う権利は、冥界の王であるハーデスであろうともない。神であろうとも、人が未来を作る権利を奪う道理はないという事を教えてやらなくてはならんよ」

「はい。その時は、この『エクスカリバー』でまっ二つにしてやりますよ。相手が神であろうとも」

――黒江はそれに言及する。この対談の頃には、既に拳にエクスカリバーとエアを宿しており、黄金聖闘士としての副業を行っている時間軸であることが分かる。

「そう言えば、君は『黄金』だったな。どうだね、仕事は?」

「有事が終わった後になったから、滅多にお呼びはかからないもんです。だから安心して本業できます。今は忙しいですから。太平洋戦争してる最中なんで」

「そうか、太平洋戦争か。皮肉なものだな。向こうでは起き得ないはずの事を、ティターンズと我々が出来事に導く引き金を引く役目をしてしてしまったと言っていいな……。これは我々の罪なのかもしれない。ティターンズを生み出したのは地球連邦なのだから。これこそ、我々がデウス・エクス・マキナの役目を果たしてしまったのかもしれない」

――地球連邦軍の関係者は少なからず、自分達がウィッチ世界に戦乱をもたらした事に負い目を持っていた。それを初めに言及したのは真田だった。『機械仕掛けの神』が本当にいるのなら、それは太平洋戦争の運命に導くため、ティターンズ、更には地球連邦軍を利用したと言っていいのかもしれない。

「機械仕掛けの神、か……。そんな概念があるの知らなかったなぁ」

「私は知ってたわよ?」

「なぁ!?」

「だって私、副業はジャーナリストだもの。そのくらいはね。黒江ちゃん、釣りしか興味ないから……」

「失礼な!最近は黒田についていって、映画見始めたんだぞ!映画!あいつったら、ホラー映画に連れて行く確率たけーんよなぁ」

黒江は本業で秘書にしている、妹分の黒田那佳に付き合う形で、映画鑑賞し始めた事を口にした。黒田はホラー映画好きなため、501基地在駐時の上映会のホラー映画回には必ずいたほどだ。(他ジャンルの映画も見ないわけではない)

「へぇ、映画ねぇ。私の本もその内、映画になるかも」

「何、話がきたのか?」

「ええ。この間だったかな?某大手映画会社から電話がかかってね」

太平洋戦争に入った1947年頃になると、『扶桑海の閃光』は軍部のプロパガンダ色が濃い事が知れ渡って来た事、公開から10年近くが経過した事も合って、『当時の実情とかけ離れている』事が指摘され始めたのだ。軍部の不祥事が立て続けに起こった事もあり、世間の扶桑軍に対する目は厳しさを増した。そこで改革派に入れ替わった軍部の中枢は、『より実情に即した映画』を欲し、圭子の著作を映画化する話に乗っかろうとしているのだ。

「どうするんだ?」

「受けたわ。今回は黒江ちゃんにも出てもらうわよ。今じゃ事変の立役者だって知れ渡ってるんだし。」

「マジかよ〜……うちのおばさんが喜ぶだろうけど、お袋や上の兄貴に撮影所に来られてもなぁ」

「ハハハ。いいじゃないか。お母さんやお兄さんが来られるくらい」

「恥ずかしいんですよ〜!お袋や上の兄貴、昔に私が映画にモブで主演する時、大げさに喜んじまって……。某歌劇団に入団させようかって言ってたから、ガキの頃」

黒江は当時の扶桑女性では異例と言える『長身』に育ったため、親戚のおばさんから『某歌劇団の男役トップスターになれる!』と言われ、12、3の頃には親にも度々、入学を勧められたことがある。その前に黒江が軍へ志願したので、その夢は潰えたが、両親と長男(黒江の長兄)は諦めておらず、昔にモブで出た時に大げさに喜んだ。圭子の著作『来た、飛んだ、落っこちた』は歴史改変後、軍部の検閲で削除された箇所が補完された完全版が1945年に出版された。その完全版では、更に当時の軍部の暗部に迫っている。その中で、裏で奮闘した黒江の事に触れられているため、黒江の出番は多いのだ。

「たしかに君の歌唱力と演技力なら、トップスターにもなれただろうな。それが役に立つかも知れんよ。今回は」

「うぅ〜……」

黒江はこの時、大いに困った。親や兄が知ったら大喜びだが、自分としては本意ではないのだ。しかしながら山口多聞の説得もあり、今回は映画の主演を引き受けたのだった。

――真田と再度の対談をするまでの間、黒江は実家にその話が伝えられたために苦労した。母親には万歳三唱で喜ばれ、長兄からは『責任をもって、頑張りなさい』と言われてしまったのだ。黒江は未来世界の自宅で、次兄からの電話で、その事を愚痴った。

『兄貴、どーにかしてお袋とおばさんと、兄様を黙らせてよ〜!あれじゃ、恥ずかしいったら……』

『綾香、兄貴やお袋達の性格は知ってるだろう?撮影の時に見に来るかも知れんぞ』

『ええ〜!そんな事でわざわざ!?』

『お前の子供の頃を思いだしてみろ。お袋やおばさんはお前を女優にしたがってたんだぞ?兄貴もお前を裏で可愛がっていたから、それに乗っかっていた。お袋やおばさんは、お前が20になった後、職業軍人で居続けるの止めただろ?』

『う、うん』

『あの時、お前が軍に残るのを選んだ時、えらく落胆してな。その夢が間接的に、今度こそ叶うんだ。撮影所に来るくらいはどうって事は無いだろう。運賃は兄貴が出すだろうしな』

『でも、兄様、もう子持ちだよ?家族サービスとか考えると、そんな余裕……』

『兄貴、会社で出世したらしい。だから、相対的に余裕が出来たから、そのくらいは出せるはずだ』

『えぇ〜〜!マジで……参った』

『お袋達は一度でも見れば、満足するだろ。だから、今回ばかりは我慢しろ。お袋たちには、俺から言っておく。お前も仕事頑張れよ。今回で軍の広報の上にも顔が効くようになるだろうしな』

『正直言って、代役にしてほしいんだけど』

『悪いが、その線は無理だぞ』

『な、なんで?』

『話を聞くと、スポンサーが兄貴の勤務先なんだよ。兄貴が『妹を出してくれるなら』って言ったらしいんだ』

『マジかよ……兄様、どうせ私をスタッフに推したんだろー。恥ずかしいからやめてくれよな……』

『そういうわけだから、まぁ、頑張れ』

『兄貴〜〜!』

『往生際が悪いぞ。そんな理由だから、もう断れない。確か、クランクインは近いはずだ』

『え!?マジで!?』

『あと三週間もないはずだ。こっちに戻ってこい。俺の別荘が撮影所の近くにある。宿泊はそこにしろ』

『わーったよ。3日後に都合ついたら行く。お袋達にお土産買っておくから。んじゃ、切るよ』

『ああ。兄貴のワガママに付き合ってやれ。お前が子供の頃は満足に遊んでやれなかったのを心残りにしてるから』

『わかってるよ』

――『来た、飛んだ、落っこちた』は大手映画会社の制作で、1947年の4月にクランクインした。軍部は出来るだけ当時に在籍済みだったウィッチをかき集めたが、10年近くの年月の経過に伴い、軍を去っていた者も多く、仕方がないので、『扶桑海事変に何かかしらの形で参戦した当時の新兵達』も駆り出された。そのために、当時は一新兵に過ぎなかった黒田や角丸美佐までもが駆り出された。

――撮影所

「あれ?角丸じゃねーか?」

「お久しぶりです。黒江中尉、いえ、今は中佐でしたね」

「お前がガキの頃以来だから、ほぼ10年ぶりか?」

「はい。その節はお世話になりました。でも、いいんですか?扶桑海の時は、私、まだ飛行学校出たての新兵ですよ?」

「当時の人間は多くが軍を去っているからな。出来るだけかき集めた方だぞ、これでも」

「でも、北郷少佐役が坂本少佐ってどういう事なんですか?」

「あの人は今、バード星駐在武官だ。呼ぶわけにもいかんだろ。それと、今の坂本の性格は往時の北郷さんの生き写しだ。当人も『あの時の振る舞いは思い出したが、気恥ずかしいし、今の振る舞いなら先生のほうが合ってる』と言ったから、ヒガシがそう割り振った。江藤隊長は喫茶店の建て替え資金がほしいとかで、統合参謀本部から出てきたけど」

黒江は、代役になったウィッチに触れる。北郷は立場の都合もあり、その弟子であった坂本が演ずる事となったと告げる。(当時の当人は代役)。相応の地位になった者らも多いので、海軍若手は全員代役である。(坂本のみが北郷役で出演。これは、若本はミッドチルダで若返りの措置中である上、当人が難色を示した、竹井は504再建に忙しく、出演を辞退したなどが原因だった)


「撮影入りまーす!」

カメラマンの一言で、二人は撮影に入った。この日の撮影シーンは黒江含む三羽烏と海軍若手との絡みのシーンで、圭子の著作に忠実に描かれた。また、同時に広報部のイチオシで、艦娘らも出演しており、その出演シーンが撮影されており、加賀や長門が撮影に臨んでいた。数時間後、撮影が休憩に入り、加賀に声をかける黒江。

「おーい、加賀〜」

「お久しぶりです」

「中佐、この方、まさかあの時の…!?」

「ああ。こいつは加賀の化神だよ。戦艦でもあり、空母でもある珍しい艦娘だ。今は南雲さんの秘書になってるんだったな?」

「はい。その節は」

「え?え、え?ちょっと待ってください。加賀と南雲提督に何の接点が?南雲提督、水雷閥でしたよね?」

角丸はキョトンとする。南雲忠一は水雷戦隊閥で、小沢治三郎のように、空母機動部隊の専門家でもない事は角丸でも知っていた。加賀が空母としての戦いを見せた事を覚えていたため、驚いたのだ。

「あら。南雲さん、雷撃機を水雷艇と考えて戦術考案したことある程度には、航空に明るい人よ。山本閣下に無理矢理研究させられたらしいけど」

「加東さん」

「久しぶりね、美佐。ワイト島での事は聞いているわ」

「いえ、あれはみんなのおかげですよ…。でも、南雲さんが航空に明るいって?」

「年次の都合で、空母機動部隊司令してた事があったのよ。41年から42年頃だったかな?現場の反対で小沢さんに変えられたけど」

「なるほど」

そう。南雲忠一はやはり1941年頃、年功序列の都合で機動部隊司令を拝命していた事があるのだ。だが、航空の素人に等しい南雲は幕僚だった源田実らに任せていた面が大きく、そこが現場からの顰蹙を買い、早々に小沢治三郎に変わった要因であった。小沢治三郎は機動部隊の生みの親であった都合、在任期間は一年ほどであったが、露出も多かったため、歴代でも有名な提督であった。その後に山本五十六に、連合艦隊司令長官の器と評価された事もあり、1944年の途中からのほぼ2年間、連合艦隊司令長官の任にあった。小沢が有名なので、南雲が空母機動部隊経験者なのはあまり知られていない(その後の連合艦隊司令長官の廃止により、最後の連合艦隊司令長官となった)。

「でも、なんで加賀が空母なんですか?戦艦でしたよね?確か」

「こちらではそうですが、私はむしろ『空母』として生まれる場合のほうが普通で、戦艦として存在するほうがレアケースなのです」

「そうなんだ、へぇ……」

「お、坂本。そっちも休憩か」

「ああ。まさか10年経って、私が先生の役をするとは思わなかったぞ。お、君は確か……」

「角丸美佐であります。リバウではお世話になりました」

「なあに、お安い御用さ。お、黒江。この方があの時の?」

「ああ。挨拶しておけ。お前の恩人だぞ」

「わかってる」

「加賀です。あなたはあの時の子ですね?」

「坂本美緒です、あの時はどうも。あの時は加賀が空母として、戦うのは信じられなかったけど、後で話を聞いて納得しました」

坂本は扶桑海の最終決戦当時、エンジンが不調になって、墜落しかけたところを加賀に助けられた事がある。そのため、この時が10年ぶりの再会だった。

「大きくなられましたね。今は少佐でしたね?」

「ええ、恥ずかしながら。お、そうだ。加東、思い出したんだが、昔に読んだ時と随分変えたな、本の内容。まぁ、歴史を変えたから当然か?」

「まぁ、歴史をだいぶ変えたから。美佐にも言っとくけど、歴史変えたのよ、私達」

「ええ。前から薄々とは思ってました。けど、なんで変わる前の記憶があるんですかね、私達?」

「うーん、その辺は未来でも研究中のテーマだしなぁ。なんとも言えない。だけど、前の時に死んだ人も『今の歴史』だと生きてる。どっちが良かったのかはわからないけど、私達は最善を尽くしたわ」

「そのおかげで、こうして語り合えてるんだ。その点はお前らに感謝しないとな」

坂本がそう締めくくる。この後、それぞれの撮影に戻っていくのだった。

――映画撮影はその後も快調に進み、黒江は久方ぶりに実家の家族と対面し、さすがの彼女も対応に困った。その内の長兄との体面はこちら。

「兄上、来てたんですか?」

「会社の仕事に空きが出来てな」

「私を出させたの、兄上でしょ?やめてくださいよ、恥ずかしい」

「いいじゃないか。お前の晴れ舞台だ。母さん達も喜んでいたぞ」

黒江の長兄はサラリーマンであった。割と若い内に重役に抜擢されたため、40代前ながら、当時としては高水準の収入を持っていた。そのため、家族を実家から呼べるのだ。

「母さん達のアクション、オーバーすぎますよ。恥ずかしいったら……」

「お前を女優にするのが夢だったからな。あいつの別荘の件は、私からも言っておくから、安心しろ。それと、父さんの病状だが、芳しくない」

「そんなに悪いんですか?」

「ああ」

「そうですか……」

――黒江の父親はこの時期には癌を発症していた。黒江は数カ月前の帰省時に病状に気づき、検査入院させたが、その時点で進行率はかなりのもので、もはや23世紀の医学でもどうにもならないと宣告されていた。

「父さんの命は、あと一年持てばいいほうだろう。意識を保てるのは半年だろう。映画が公開されるまで持てばいいが……」

――流石の黒江もこれには顔を曇らせた。父が1年以内に死ぬ事が知らされたのだから、当然であった。この後、黒江の父は映画の公開を見届けた後の1948年初春頃に永眠した。黒江へは『映画に出て、母さんたちの夢は叶えさせた。ここからはお前の好きに生きなさい』との遺言を残した。これが黒江が職業軍人で居続けられた理由の一つとなるのだった。



――映画の方は1947年の初秋にはクランクアップを迎えた。戦闘シーンがメインでないため、特撮撮影は少なめであった事もあり、完成は早かった。ナレーションは圭子のモノローグであるが、アフレコの段階で圭子のスケジュールに空きが無かったため、23世紀からプロの声優が呼ばれたという。その後の記録によれば、智子や武子などが再度の出演をした事や、軍の内情が赤裸々に描かれた事が高く評価された一方、若年層からは戦闘シーンの不足や、智子の纏うマフラーの色などで不満が見られたとの事だが、大ヒットを記録し、艦娘の認知にも成功した事から、軍としても大助かりであった。本がベストセラーとなった事もあり、圭子はジャーナリストとしても高評価を獲得したという。公開後に真田と再度の会談をした時にそのことに言及した。


――23世紀

「と、いう感じでした」

「なるほど。映画の方はどうだい?」

「大ヒット御礼ですよ。本はバカ売れ、印税も入りましたし。まぁ、これであの時の事が世間に広く知られたから、良かったけど」

圭子の著書がベストセラーになった事で、軍の派閥抗争が明るみに出、政治家に問題視されるに至る。間接的に当時の派閥抗争に加担した人間(エクスウィッチ含む)が多数、アリューシャン諸島へ左遷させられる結果を上げた。圭子は後に、アリューシャン諸島が『人材の墓場』と揶揄されるようになる一端を担った事になる。

「それで、なんだね?その写真は」

「ああ、これはですね。撮影が終わった後の打ち上げで智子がコスプレした写真ですよ。酒入れて、ベロンベロンに酔わせた後にさせたんですよ。あの子、ああでもしないとノリ悪いですから」

「君もワルだなぁ。どれどれ」

その写真は智子が酔った拍子にやったコスプレの写真だった。(当人に記憶はない)そこには、かつて、日本の某土星の名前のゲーム機で発売され、その後にいくつかシリーズ化がなされた、アドベンチャーや恋愛、戦略シミュレーションなどが混ざったジャンルのゲームのヒロインの戦闘服姿のコスプレだった。真田はそれを知っており、思わず言った。

「……一つ、聞いていいかい?何故、帝都でなく巴里の方なんだ?それもドジっ子シスターの」

「酔った勢いで、誰かが持ち込んだコスプレ衣装を着たんで、多分、そこまでの判別はついてないでしょう。でも、凄く似てるでしょう?」

「うむ。再現度高いな、これは。ん?そう言えば、黒江中佐はどうしたんだね?珍しく姿が見えんが?」

「ああ、黒江ちゃんは葬式です。親父さんが亡くなって、実家に帰ってるんです」

「そうか……今度会ったら、お悔やみを言わんとな。前に聞いてはいたが、そうか、亡くなられたのか」

「ええ。当分は戻れないらしいです。形見分けとかがあるらしいんで」

「大変だな」

「あ、黒江ちゃんに伝えておきますよ。ええと、ストライクタイガーUの量産申請が通ったって」

「頼む。その書類に全て書いてあるから」

――真田が『デザリウム戦役の際にテストさせたコスモストライカーは量産申請が通り、メーカー単位のペースによる生産に入りつつあるとの報はウィッチに朗報だが、流通形態や使用形態などの課題も多い。真田は最後にその事が書かれた書類を圭子に託すのだった。


――父の死後、黒江が父から相続したのは、兄達に比べると、家での順位の都合もあり、僅かではあった。だが、父の所蔵している『雷切』(元は筑前立花家所有であったが、黒江の父が生前、同家の当主と友人で、同家にウィッチが久しく出なかった事で譲られ、扶桑海当時に黒江が名刀を欲した事で、正式に黒江家に所有権が移った)を相続した。元は立花家の物なので、父の死の後に母が『我が家には過ぎたモノでございます』と、刀の返還を申し出たが、当主は『我々のもとで腐らすよりも、宅のご息女が使われる方が、刀も本望でしょう』と返事を返したとの事)を受け継いだことで、兄妹で唯一、軍人の道を歩んだ彼女への励みになったとか。



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