短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)
――次元震パニックが各地で起こる中、戦争も激しさを増す。最前線でシャーリーAが戦う報を聞いた圭子Aは、扶桑本土に襲来した戦略爆撃機『B-47』を迎撃せんと、とっさに市ヶ谷地区にガウォークで駐機しているVF-19Aに乗り込む。
「へぇ!?な、何よこの飛行機に手足が生えたようなのは!」
「未来技術の可変戦闘機。映像で見たあれの現物よ。私達は操縦訓練受けてるのよ」
「智子、こっちのお前は専用機持ってるぞ」
「はぁ!?何よそれ!?」
「未来人との盟約の条件に、未来の戦線に従軍する事が条件だったのよ。それで私たちは技能を習得したってわけ」
「……本当?」
「こんな時に嘘いって、どーすんのよ。こういう時にはこれが手っ取り早いから」
圭子はVFの操縦訓練も当然ながら受けている。瞬く間に熱核バーストタービンエンジンをかけ、離陸準備に入る。
「わ、私達も直ぐに後を……」
「やめなさい。魔力が減衰した貴方達じゃ、今の第一線級のジェットストライカーは起動すらできないわ。それに、敵の超重爆の飛行高度は12000を超えるわ。レシプロじゃ、戦闘を見ることさえ叶わないわよ」
「い、12000!?」
「それに、促進器は無いし、市ケ谷だから司偵が離陸できる滑走路もないのよ?」
「そ、そんなぁ〜!」
ガクリと落ち込む智子Bだが、思わぬ助け舟が出た。
「しょうがないわね、予備シートがあるから、綾香とで、どっち乗るか、じゃんけんで決めなさい。私は出る準備をするから」
智子Aが助け舟を出した。予備シートを出し、扶桑皇国軍機のカラーリングの専用機を起動させる。二人はじゃんけんをする。
『あいこでしょ!』
じゃんけんの結果、圭子Aが黒江Bを、智子AがBの面倒を見ることになった。
「うっわ……何がなんだかわからないブラウン管ねぇ……」
「貴方ははキャノピーに張り付いて、周辺警戒してなさい。下手にボタンとか押さないでよ?」
「わかったわ。……見るだけで目眩がするわ。なんで板が光ってんの?映写機どこよ?」
「そ、そのレベルだったわね……確か」
圭子Aは通信越しに聞こえる、M智子Bの言葉に頭を抱えつつも、機体を離陸させる。
「さて、早々にへばんないでよっ!」
「き、きゃああああああ……」
ファイター形態に変形し、かっ飛ばす。VF-19Aの加速Gは普段はかからない方法からのものだったので、気が遠くなりそうな智子Bだった。
――圭子Aは、黒江Bが『新しいおもちゃを買ってもらった子供のような』目をしているのに気づく。
「あんたはどこの世界でも、機械好きねぇ」
「審査部所属なんだぞ?新しい物に興味ないと、テストパイロットなんてしてられないわよ」
「『わよ』かぁ……。黒江ちゃんが女言葉使ってるの、10年ぶりに聞いたわ」
「本当か?ったく、この世界の私、どういう言葉使いしてるのよ」
「この間は猛暑のあまり、『くそったれ……あちい〜』とか、『ちくしょう…この暑さ、どーにかなんねーのかよ』とか喚いてたわね」
「えぇ〜〜!?」
「あ、そうそう。三番目のお兄さんが基地に来た時は『兄貴』って呼んでたわよ」
「うぅ……何よそれぇ……」
黒江Bはあらゆる意味でしょげる。兄を『兄貴』と呼んだ覚えは自分にはないからだ。
「あ、そうそう。この世界だとコーラ好きよ、黒江ちゃん。」
「え?リベリオンのあの飲み物?ラムネみたいに炭酸が入ってる、あの?」
「そそ。この間、後輩と一緒に、キューリ味なるコーラに挑んで玉砕してたわよ」
「……嘘でしょ?ハァ……」
黒江Bは別の自分のギャップに衝撃を受け、しょげた。自分はラムネ派だが、その後輩の影響を受けたと容易に想像がつく。
「なぁ、出る前に聞くが、私にコーラ勧めた後輩って誰なんだ?」
「黒田那佳。黒田侯爵家の一族にあたる、華族ウィッチよ」
「く、黒田侯爵家ぇ!?」
そう。黒田侯爵家といえば、旧大名家で、黒田官兵衛、黒田長政を輩出した事で有名な名家である。そんなお大尽のウィッチと付き合いがあるのかと、パニックになる。
「元はその分家だったんだけど、本家にウィッチがいなかったから、新設部隊へ派遣する時に本家が養子縁組した子でね。ここ数年は御家騒動に巻き込まれてたの。すごかったわよ。お上が仲裁に出るくらいの大スキャンダルになったのよ。
「お上が?侯爵家ともなると、色々あるんだな」
――黒田家は1946年の不幸を発端に、家中を巻き込む一大スキャンダルを起こし、遂には天皇陛下の介入に至った事を短く話す。黒田家史上最大級の恥部と後世に記録される、この御家騒動は別の機会に話そう。
――この頃、リベリオン本国軍は戦略爆撃機の機種を、『ピースメーカー』から『 ストラトジェット』へ、徐々に転換し始めていた。これは技術の加速で、過渡期の機体であるピースメーカーを長期間使用する意義はないと、本国空軍が判断してのものである。また、B-52の実用化に予想以上の時間がかかる事が判明したため、ストラトジェット(B-47)は当初の予定数の倍の機数が生産、投入されたという。同機は占領した南洋島北東部に造成された戦略飛行場から発進し、空中給油も併用して扶桑本土に到達したのだ。更に電子戦機も帯同し、防空システム構築途上の扶桑の隙を突いたのだ。
「各機、投下用意!……投下!」
この時代はピンポイント爆撃とは無縁であるので、当然ながら絨毯爆撃による無差別破壊である。市街地、農地問わず爆弾が降り注ぐ。焼夷弾と、当時最新鋭の『Mk82』通常爆弾が投下され、焼夷弾は古い木造住宅地に絶大な効果を見せる。搭載量こそ、ジェット機としては小さいものの、レシプロ機よりも遥かに多いのだが、彼らは焦っていた。扶桑軍が連邦軍より買い入れている可変戦闘機がいつ現れるか、である。
「圭子、あれ!」
「おうおう、来たな。図体のでかい『シロナガス』め。火器管制システム、オンライン。奴らを一機たりとも生かして返すなよ、智子!」
「OK!」
下から攻撃する形となった二機のVF。圭子Aと智子Aは、ファイター形態で愛機を突っ込ませる。敵編隊の中央に穴を開けるべく、立ち塞がる二機をガンポッドで蜂の巣にし、敵の頭上に踊り出る。次にガウォーク形態に変形し、トリッキーな動きで防御機銃を避け、死角からミサイルやガンポッドを乱射。敵爆撃機を落としまくる。ガウォーク形態の動きは三次元的なものであるので、後部予備シートに座る二人は思い切り振り回される。
「うわぁ〜!?なんだなんだこれぇ〜!」
黒江Bはおおよそ飛行機よりも、自分達ウィッチに近い三次元的な動きを行っている機体に戸惑う。
「あら、黒江ちゃん。もう音を上げたの?」
「ば、ばっか。こ、この私がこのくらいで音なんか……」
「その割には足、震えてるわよ♪」
「う、うるさいっ!」
「んじゃ、もっと凄いの見せてあ・げ・る♪」
圭子Aはバトロイド形態へ機体を変形させる。黒江Bが目を瞬きしている間に、周りのモニターがオンになっている。バトロイド形態用のモニターのスイッチが入ったからだ。
「き、機体が分解したかと思った……な、何をしたんだ、ヒガシ!?」
「ロボットになっただけよ」
「なぁ!?ロボット!?」
「さあて、あいつに鉄拳でもぶち込むか!」
19の腕部を緑の光が包む。ピンポイントバリアパンチだ。それは黒江Bのシートからも見えた。
『喰らえ!ピンポイントバリアパァーンチ!!』
ちょうど移動の軸線上にいたB47の機首コックピットにピンポイントバリアパンチを叩き込む。オーバーキルもいいところだが、菅野もよくVF、生身を問わず使用している戦法だ。直ぐに離脱し、ファイター形態に戻る。バトロイドでは跳躍出来ても、飛べないからだ。
「おい、今の攻撃、一部の連中の固有魔法に似てないか?」
「同じようなもんよ。あれは拳大に圧縮した高硬度シールドで腕を覆うでしょ?コイツは余剰エネルギーでバリアを発生させて、腕部を包み込んで殴る。それくらいかな、違い」
「科学で同じような事が出来んだな?」
「あれよ。高度な科学は魔法と見分けがつかないって聞いたことあるでしょ?それよ」
「なるほどな。根は一つのはずだしな。『魔法に出来る事は科学で実現出来る』って言ったほうがいいんじゃないか?」
黒江Bも理論派であるのは変わらず、圭子Aの説明を理解し、この一言を言った。
「フフ、根本的には同じね、『あなた達』は」
「当たり前よ。いくら言動が変わったって、私は私さ」
そう。黒江は根本的に現実主義者であり、理論派である。それは風来坊+破天荒さが加わったAであっても同じだ。圭子Aはそれを実感したのだった。
――一方の智子は。
「ちょっと貴方、なんでツバメ返しを使わないのよ!?」
「ジェットであんな捻り込みできるかつーの!ジェットにゃジェットなりの機動ってのがあんの!」
当人同士の言い争いが起きていた。しょうがない事だが、智子Bの現役期間は1943年まで。二式戦闘脚三型が出回った当たりで認識が止まっているのだ。それを再認識し、智子Aは頭を抱える。いくら連邦軍最高級の格闘戦闘機と言えるVF-19Aと言えども、ファイター形態では智子Bの言うような、超急角度の捻り込みは無理だ。
「まぁ、見てなさい!」
「え、え、え!?ち、ちょっと!?」
智子Aもバトロイドに機体を変形させる。そして、スラスターを用いて、往時のツバメ返し同様の捻り込み機動を見せる。落下中に変形してガウォークで空中停止し、そこから大きく弧を描くように旋回しながらガンポッドを撃ちまくる。最後の一機への止めで、圭子と違うのは、オプション装備の刀を使用した『ピンポイントバリアソード』というべき行為を行う。
『でぇりゃあ!!』
B-47の機首を叩き切り、撃墜する。最後に二機で編隊の前方に立ち塞がり、バトロイド形態に再度変形し、残る爆撃機を火器の一斉射撃で粉砕し、ファイターで離脱する。
「一丁上がりっと。どう?これが今の私の機動よ」
「か……」
「か?」
「かっこいい〜〜!ね、ね、ね、あんなのどうすればできるのよ!」
「う〜ん。これをやるには機体の性能もだけど、連携も大事だから、僚機がいないと」
「そ、そう……ああ、ビューリングがいればなぁ」
「ハルカはどう?♪」
「じ、冗談じゃないわよっ!あの子のおかげで、現役時代に何度苦労したか……」
「アハハ、冗談よ」
「じ、冗談って……心臓に悪い……」
智子はどの世界でも、迫水ハルカには苦労したのが分かる一コマだった。ただし、違うのは、この世界においては、1944年に23世紀の薄いレンズの眼鏡を手に入れたため、一気に戦果倍増。今では大尉に昇進している。
「そいや、あの子。今は大尉よ」
「大尉!?あの子が!?」
「23世紀の薄いレンズの眼鏡をかけるようになったら戦果倍増でね。それでこの間に大尉になったのよ。……性格は変わってないけど」
「や、やっぱりぃ……」
と、落ち込む智子Bだが、智子Aと圭子Aに通信がかかる。源田実からだった。
「お前ら、よくやった」
『親父さん!来てたんですか』
『話は加藤から聞いた。大変だと思うが、俺もなんとか連合軍総司令部に働きかけ、状況の把握に務める。それと、可能な限り、転移した統合戦闘航空団関係者は扶桑に集める事が決定した。我が国が最も、連邦や時空管理局と関係が深いからな』
『何人くらい把握できたんです?』
『ヴィルケ大佐を除く501関係者のほぼ全員、504関係者の過半数だ。話を聞くと、2年前のヴェネツィアの巣に関係した者を無差別に召喚したようだ。それとお前らから報告があったバケモノだが、呉付近に複数が出現し、大和、長門、赤城、加賀、矢矧、雪風が撃退した。どうやら、大和らが交戦した敵は三年前に沈められた船の怨念が形となって現れた存在であるのは確からしい。それの出現を誘発したのはゴルゴムの創世王であるというのが、彼らの見解だ。我々は奴らを『深海棲艦』と呼ぶことにした』
『深海棲艦、ですか……名付け親は誰です?』
『岡田啓介閣下だ。閣下が大和らから話を聞かれ、そう名付けたのだ』
『岡田閣下、まだご存命だったんですね……もういいお年じゃ?』
『79歳だ。閣下が聞いたら大笑いされるぞ』
――岡田啓介。それは総理大臣も経験した、生存中の海軍軍人経験者の最長老で、御年79歳の御老公である。史実ではあと5年で天に召されるはずだが、介入で寿命が伸びた可能性もある。
『ハハ……。それじゃ、帰還したら戦果を報告します』
『うむ。それと、別世界の方のお前らが巻き込まれた理由を聞きたいので、事情聴取を行うと言っておいてくれ』
『了解』
二人が答える。そしてBに言う。『帰ったら、源田実閣下が事情聴取を行うから、心の準備をしといて』と。B側は『源田実は海軍の参謀』という認識しかないので、驚きだった。それと……。
「お前、今、親父さんって言ってなかったか?源田参謀の事を」
「ああ。私達の直属の上官だし、扶桑海から付き合いあるしね。それに、源田さんとのコネ作ったのあなたよ?黒江ちゃん」
「本当かよ……ここの私はどういうコネあるんだ?」
「お上にもコネあるわよ。黒田侯爵家や、扶桑海の時に拝謁してるから」
「ほ、本当か……」
「ええ。あの時の武功で恩賜の軍刀もらえたのは私達だけだから。色々と理由あるんだけど」
「私はもらってないぞ……江藤隊長だって。それにあれはそもそも武功で貰えないんじゃ?」
「特別って言ったでしょ?そういうことよ」
――そう。この世界では、天皇陛下が扶桑海事変の際のクーデター鎮圧の功で金鵄勲章の候補となったが、辞退したための代替措置で恩賜の軍刀を与えられた。別の時に勲章は貰ったものの。こればかりは黒江Bらがどんなに頑張っても貰えないので、がっくりきたようだった。
――帰還後に事情聴取が行われる中、この日の官報と新聞の夕刊にある記事が載った。それは坂本Aが前年度末に新聞社から受けたという、とあるインタビュー記事の訂正・検証記事で、坂本の名誉に関わる重大事だった。そのインタビュー記事を最初に乗せた大手新聞社『旭新聞社』は、戦前から軍部御用達で知られていたが、最近は軍部から距離を置かれた事に危機感を持っており、記事を書いた記者がインタビューに『ちょっと面白みがない』と、インタビューの一部に手を加えたのだ。しかしながら、それは坂本の人物像に多大な誤解を与える行為となってしまい、坂本の同期の多くからの孤立を招来してしまったのだ。これを坂本当人から知らされた黒江は激怒し、圭子のツテでカウンターになる記事を官報及び、別の新聞社に載せてもらう。しかしながら、未来人の扶桑軍高級軍人に対するそれがそれであるように、一度ついた悪評やイメージはなかなか拭えぬものである上、最初に載った新聞社が大手だった事もあり、坂本の人生の歯車を狂わす引き金となってしまったのだ。事の発端となった新聞社は、捏造に気づいた軍広報部からの報復措置を受けた他、軍部はマスコミへの取材に警戒心を抱くようになり、自身で運営していた記者クラブを解散させ、原則、個別取材許可制に移行する。旭新聞社が起こしたこの出来事は、『マスコミ界の大スキャンダル』とされ、一人の軍人の人生の歯車を狂わせたと、社会問題となった。その結果、その後の旭新聞社は軍部とのつながりが切れたために、論調を軍批判に移行させるが、読者層の怒りと呆れを呼び、20世紀後半頃には往時の4分の1も発行部数がないほどに凋落してしまう。その詳しい経緯はまた、別の機会に語ろう。
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