短編『魔法少女達の奇妙な物語』
(ドラえもん×多重クロス)
――別世界ミッドチルダにて、戦いを起こしたフェイトAとシャドームーン。未来の自分が更に力を貸し、聖闘士としての力を使ったものの、世紀王であるシャドームーンには致命打とは成り得ない。
「ライトニングプラズマぁ!!」
ライトニングプラズマを放つものの、光の軌跡はシャドームーンに当たらない。シャドームーンは光速の拳でも見きれるのだ。その為、ライトニングプラズマは虚しく、空を切る。
「フッ。そのような借り物の技で、この俺に傷を付けられはせん」
「流石に気づいていたか、このからくりを」
「貴様の内に秘める素養は、完全には目覚めていない。それを何かの力で引き出しているのだろう?動きで分かる。体の速度が脳の思い描く速度に追いついておらんという表情をしている」
「確かにな。この私は時間軸的に、『それ』に目覚め切っていなくてな。体に無理を強いている状況さ。別に、お前を倒そうとは思っちゃあいない」
フェイトAは時間軸的に未来の自分の精神が宿った状態なので、口がグンと上手くなっている。表情も相応に落ち着いている。
「RXを待っているな?」
「そうだ。お前と真に戦う資格があるのは、あの人だからな」
電撃を腕に纏わせながら言う。フェイトは黄金聖闘士としてのフルスペックは出せていないものの、それでもシャドームーンに当たり負けしない程度の力を発揮している。だが、ヴィヴィオは無理を重ねているため、肩で息をし始める。更にふらついたらしく、片膝をつく。
「あれ……?体が……言うこと効かない……よ」
「お前は今、体にレリックがない状態だ。成長した姿を保とうと、体が無理するから、負担がかかったんだ。しばらく休むんだ」
「で、でも……」
「なあに、心配ない。すぐに交代が来る」
「交代?」
ヴィヴィオが首を傾げたその瞬間、壁をぶち破って、小太刀モードのレイジングハートを持った、なのはAがシャドームーンに襲いかかった。
「御庭番式小太刀二刀流『呉鉤十字』!!」
なのはAは、小太刀を十字に交差させ、鋏の様に斬りつける。シャドームーンの装甲『シルバーガード』の比較的薄い首筋を狙ったが、シャドームーンはそれを受け流して見せる。
「ちぃ、流石にこれに対処してくるか……」
着地するなのはA。僧兵姿にポニーテールなので、妙な色っぽさがある。
「こりゃややこしいな……ヴィヴィオ、交代だ」
「なのはママ……?」
「ああ。だけど、そこにいるあたしとは『別人』だよ」
そう。なのはAは、バリアジャケット姿のBと明確に差がある。背丈が高く、体つきが筋肉質である事、何気にバストサイズも上である。
「さあ、あたしの相手もしてもらおうか、シャドームーン」
「この俺も舐められたものだ。小娘、貴様ら如きに遅れはとらん」
「そいつはどうかな?」
――激突する三人。なのはAもフェイトAに追従するため、身体能力を高めており、シャドームーンと渡り合う。それはBには見えないスピードで行われたため、何が何やら分からない。
「おおおっ!!」
「はあああああっ!」
二人の叫びが木霊し、ライトニングプラズマとボルトの電撃、なのはAの炎が舞い、ゆりかごの内部を破壊していく。なのはBは、自分の積んできた訓練は何だったのかと、自問自答するほどに茫然自失となる。
「私が……積んできた訓練ってなんだったの………?ヴィヴィオ一人も満足に守れない私がいるだけじゃない……」
へたりこんで、ブツブツと呟くなのはB。ネガティブモードに入ってしまっているらしく、目からハイライトが消えている。戦闘能力にあまりの差がある事を悟ってしまったのだ。
「ケイロンズライトインパルス!!」
フェイトAが、ケイロンズライトインパルスを放ち、ド派手に天井に穴を開ける。そこから黒江の姿が見える。
「お、おい、ケイロンズライトインパルスなんて、室内でぶっ放すな!風圧でぶっ飛ぶ所だったぞ!」
「シャドームーンがすばっしっこいんで、当たんないんですよ。あいにく、この体じゃ、まだスカーレットニードルは撃てないんで、当てずっぽうなんですよ」
「スターダストレボリューションにでもしとけよな……。フォトンバーストはやめとけよー、ゆりかごが沈む」
と、自身に似たような出来事があったためか、聖闘士の証である小宇宙を感じ取った黒江は、さも当たり前のように声をかける。フォトンバーストの使用を諌めたのは、ヴィヴィオなどがいる状態で使用すれば、ギャラクシアンエクスプロージョンと同じ原理の技である都合、辺り一帯を吹き飛ばすからだ。だが、ゆりかごの攻撃力を警戒するクロノ・ハラオウン率いる艦隊は『なんでもいいから、早く沈めてくれ』と呟く。映像には、炎を操るなのはAの姿が写っており、混乱するクロノだった。
「シャドービーム!」
シャドームーンが指先からビームを放ち、なのはAを捕縛し、ゆりかごの内壁に叩きつけまくる。なのはAはこれでダメージを負い、額から多量の血を流す。
「あー、いちち……やられた」
「傷、大丈夫なの……?」
『出血は止まっています、問題ありません』
と、レイジングハート(A。連邦軍の技術で電気的バックアップ機能がつけられたので、稼働している)が答え、次いで、A自身が答える。
「大丈夫、問題ないよ」
優しく微笑うが、出血で顔が半分、赤く染まっているため、不気味さがあった。また、師の黒江と同じ『狂奔』のスイッチが入りかけたため、瞳はギラギラしている。口元は引き締まっていたが、体の動きに愉悦がにじみ出ており、言動と表情が一致していなかった。顔が赤く染まっているせいもあり、なのはBとヴィヴィオは思い切り唖然としつつ、引いた。表情が朗らかなだけに違和感が恐怖を駆り立てる。
(な、なのはママ……?)
(あれが本当に私……。違う、あれは『私じゃない』!別の何かだよ……)
なのはBは恐怖する。違和感とも恐怖とも解らない何かを感じるのだ。『制圧する事』を前提に訓練された自分と明らかに違う『殺すための訓練』を受けたような違和感。ゆりかごを破壊しながら死闘を展開する三人に、なのはBとヴィヴィオは立ち尽くす事しか出来なかった。また、表情が消えているあたりが、黒江との違いで、表情のコントロールを忘れるのが、スイッチが入ると、激しい感情の起伏を表に出す師との違いであり、二人の見分け方であった。
「トウ!」
シャドーキックがフェイトAを狙う。天羽々斬モード(モード『天』とも)の刀身で受け止めようとするが、シャドーキックはそれを破砕し、フェイトAを吹き飛ばす。
「フェイトちゃん!」
なのはAが斬りかかるが、シャドーパンチのエルボーを食らい、これまた吹き飛ばされる。振動波で服が破け、下着が顕になるのもセットだ。
「あー、この素絹、お気に入りだったのに。貴方、以外に好き者?」
「あいにく、俺にはそのような戯れ言を行う趣味はない」
シャドームーンに質問しながら首に巻いていた白袈裟を着け直す。
(く、一発食らっただけで、このダメージ……!あと二撃でも食らったら、死ねるなこりゃ…)」
なのはAは今の一撃により、肉体に激しいダメージを負った。肘打ちをされただけで、肋にヒビが行ったのだ。内蔵にダメージが通らなかったのは運がいいが、あと二撃でも直撃させられば、死亡もあり得る。だが、表情に出てないため、周囲には平静にしか見えない。これは脳のリソースの殆どが戦闘に割かれているからだ)
「貴様からこのシャドーセイバーの錆にしてくれよう」
「!」
シャドーセイバーを持ち直し、なのはAに斬りかかるシャドームーン。なのはAは小太刀で防御するが、強度差により、レイジングハートの刃先が折れてしまう。折れた刃先が地面に突き刺さる。
「失敗したなー、フォートレスの盾の一枚でも有ればもう5分は楽に引っ張れたのに、何か代りは…」
と考えるが、シャドームーンはそれを待ってはくれない。
「終わりだな」
もはや防御手段が無くなったなのはAにつきつけられる刃。それがなのはAの心臓に刺さらんとしたその時だった。
『待てぇい!!』
と、声が響く。暗闇を背負いながら、颯爽と現れたのは、白いジャケットを纏った南光太郎だった。
「貴様は……」
「お前の目的は、この俺だろう?シャドームーン。貴様がこの世界を闇に包むのなら、俺は世界を照らす太陽となる!!この世界の人々を巻き込み、自分の欲望を満たす道具にするなど、この俺が許さん!!」
光太郎は威風堂々と宣言し、いつものように『変身する』。それは、出来過ぎた構図であったが、光太郎のヒーロー性を考えれば、そんな疑問は吹き飛ぶ。彼は『仮面ライダー』なのだから。
『俺は太陽の子!仮面ライダーBLACK!!R・X!!シャドームーン、勝負だ!!』
名乗りの見得もバッチリ決める。RXの登場で我に返ったなのはAは歓喜し、フェイトAも安堵する。だが、それはRXとシャドームーンの宿命の顕現でもあった。
『リボルケイン!!』
剣状の『バトン』であり、いつもはトドメ専用武器のリボルケインを今回は早々に繰り出し、剣戟を展開する。シャドームーンはRXの動きを見切ってはいたが、歴戦により、経験値が高いRXは、戦い方を工夫する事で、それを無にする。
「トゥア!」
「ハアっ!」
シャドーセイバーが振られ、衝撃波が走るが、RXはそれをリボルケインのパワーで相殺し、更にリボルケインをボルティックシューターに変形させる。いつもとは打って変わって、他形態の武器を基本形態のままで使用するテクニックを見せる。
『ボルティックシューター!!』
ボルティックシューターをRXの姿で使用し、撃ちまくる。これは能力が歴戦で強化された証でもあり、ロボライダーほどの照準能力は出せないが、光太郎はそれをカンで補える。
「RXのままでボルティックシューターを……?チートじゃん、それ……」
と、呆気にとられるなのはA。RXの火力は凄まじく、当たったゆりかごの内壁は再生を不可能にするほど破壊されているからだ。そして、更にバイオブレードに変形させ、リボルケインよりも剣戟向きの武器で対抗する。
『バイオブレードッ!』
バイオブレードは斬撃に向いているが、バイオライダーは格闘戦向けの特性とは言いがたいため、対抗手段を持つシャドームーン相手には、RXの姿で使用したほうが適当と判断してのものだった。
「なのはちゃんにフェイトちゃん、君たちは脱出の準備を急げ!外で綾ちゃんとケイちゃんが待っている!ヴィヴィオちゃんと、この世界のなのはちゃんを連れて、ここから離れるんだ!世紀王同士の戦いに巻き込まれたら、どうなるかは俺にもわからん!」
バイオブレードにエネルギーを充填させ、二刀流のシャドーセイバーと撃ちあうRX。その動きはなのはA、フェイトA、黒江を唸らせる。
「RX、貴様を倒すことのみが、俺の存在の証明だ!」
「ならば、俺は何度でも蘇って、お前を止めてみせる!」
バイオブレードとシャドーセイバーが交錯し、二人のキングストーンが共鳴し、光を発する。シャドームーンにかつての記憶はないものの、その光景はゴルゴム創世王が望んだものであり、光太郎は運命の皮肉を感じる。結果的に、ゴルゴムの理を実現させてしまっている自分にだ。
「ハアアアッ!!」
「RXキィィィック!」
シャドーキックとRXキックがぶつかり合い、ゆりかごを大きく揺るがす。その余波で、ゆりかごの損傷は拡大していく。だが、ここでヴィヴィオに異変が起こる。
「か、体が熱いよ……ママぁ……ッ!」
「え!?」
「不味い、体を保てなくなって来てるんだ!遅かれ早かれ、体の細胞が若返り始めるぞ!」
ヴィヴィオの肉体は成長した外見を保とうとするが、骨格や内蔵までもが急激に元の姿へ戻ろうとしているので、その余波で体温が上昇したのだ。ヴィヴィオの意識は朦朧とし始める。
「ママ……早く……逃げて……このまま元の姿に戻ったら……私は……」
「大丈夫だ!ヴィヴィオちゃん、君のママ達を信じろ!」
RXの言葉は不思議と説得力があり、ヴィヴィオは朦朧とする意識の中、頷く。
「お前ら聞いたな?こっちで誘導するから、脱出しろ!シャドームーンはRXさんに任せろ!」
「は、はい!」
そして、黒江の誘導に従い、先ほど開いた穴の下に行き、外に出る。その際には、黒江がISで引張り上げる。フェイトAは自前のジャンプ力で外に出る。外に出れば魔法は使える。
「ゆりかごから離れろ!」
黒江がそう指示を飛ばした瞬間、ゆりかごの甲板が一部破壊され、シャドームーンとRXが立つ。
「なかなか面白くなってきたぞ、RX。俺はスカリエッティの目的などに興味はない」
「やはり、俺と戦うためにか!?」
「そうだ。俺には過去の記憶はない。だが、疼くのだ。仮面ライダーを倒せという本能がな」
シャドーセイバーを構えながら宣言するシャドームーン。どこか、ゴルゴムを率いた際の威風堂々たる姿の雰囲気が戻りつつあるが、一匹狼なアウトローな匂いも感じさせた。
「どうするつもりだ!?」
「スカリエッティとの盟約は果たした。この世界にこれ以上留まる道理はない。忘れるな。貴様を倒すのはクライシスではなく、この俺だと言うことをな」
シャドームーンはそれを宣言し、RXと戦う。二人は体を液状化させ、戦場を地上へ移す。それを見届けた黒江は圭子へ、ゆりかごの破壊の指示を出す。
「よし、ヒガシ。はやても脱出に成功したようだ。スカリエッティの野郎はどうやら、フェイトが天羽々斬で一刀両断していたようだ。はやてが部下を率いて、捕虜を外へ運びだした!これで何の心配もない!シャインスパークで粉々に粉砕してやれ!」
『了解!』
圭子のゲッタードラゴンが動く。上空に上がり、ゲッターシャインを発動させる。
『ペダルを踏むタイミングは分かってるな?』
『ヘッ、言われるまでもねーぜ!』
『こっちも、いつでもOKです!』
『よし!1、2、3!!ゲッターシャァアアアアインッ!!』
ゲッターGは青白い光を発する。そのエネルギー密度はアルカンシェルをも凌ぐほどで、純粋な科学のエネルギーでここまでの出力を出せるものかと、アースラを含めた全艦のオペレーターが驚愕仕切って、上官に報告する。
「何……あのロボットが光って……?」
「なのはちゃん、シャインスパークや!ゲッターロボGの最大最強の技や!まさかモノホンが見られるなんて……!!」
別口で脱出に成功したはやてBがなのはBにいう。ゲッタードラゴンが何をしようとしているのかを。
「信じられません!アルカンシェルを超えるエネルギー密度です!」
「馬鹿な、あの質量兵器のどこにそんなエンジン出力が……!」
クロノは、副官の報告に己が耳を疑う。アルカンシェルを超える威力を持つ質量兵器がこの世にあるのかと。だが、全力ならそのアルカンシェルを弾くともされる『聖王のゆりかご』に通じるのかの疑問はある。だが、聖王のゆりかごはRX達の戦闘で中枢部に大損害を受けていた事、RXのキングストーンフラッシュが浴びせられた事で、聖王の加護が消失していた事、単純なエネルギー量でシャインスパークがアルカンシェルを上回っていた事で、弱まっていた防壁を突破したなどの理由により、あっさりと防壁を無視され、ゆりかごはゲッターエネルギーの光弾に飲み込まれていく。(もし、ゆりかごが往時の完全な状態ならば、質量兵器で真っ向からぶち破るには、よりエネルギー量で勝る、ストナーサンシャインでないと無理だっただろう)
『シャイィイィンスパァァァク!!』
圭子の叫びが木霊し、シャインスパークが撃ちだされ、ゆりかごに命中したと同時に大爆発を起こす。これでゆりかごは、クワットロ、スカリエッティの亡骸と共に火葬された事になる。奇しくも、これで質量兵器は『必ずしも魔法兵器に劣らない』事を証明した事になる。
「こっちのフェイトちゃんは回収してあるけど、しばらく入院やな。で、一つ聞くで。ゲッターGのパイロットは誰なん?」
「あー、それは見てからのお楽しみだ」
「あーん、焦らすの上手くなってるでぇ、フェイトちゃん」
フェイトAははやてBにそう言う。地上でも、RXとシャドームーンの戦いに決着がついたようだ。
「さらばだ、RX。決着はまだいずれの機会に取っておこう」
「待て、シャドームーン!」
「焦るな。どうやら、俺とお前は戦いあう宿命らしいからな……」
そう言って、緑色の閃光とともに姿を消すシャドームーン。
(信彦……それが俺達の運命だ。だが、俺は変えてみせるぞ……!)
と、シャドームーンを秋月信彦に戻すことを諦めてはいない光太郎=RX。だが、観測世界の多くでは、信彦をその手にかけている。その運命に抗うRXであった。
――戦いは終わった。ゆりかごはシャインスパークで吹き飛び、質量兵器は魔法兵器に劣らない事の証明となった。なのはBはヴィヴィオは救えたが、シャドームーンからは障害とも見られていなかった事実へのショックで上の空となっていた。フェイトBは入院を余儀なくされ、なのはA達とRXが見せ場を取った形の機動六課は、史実ほどの活躍は見せずじまいとなった。
――地上
「あなた方がゲッターロボGを?」
「そうだ。地球連邦宇宙軍、第13外郭独立部隊『ロンド・ベル』隊所属、加東圭子少佐」
「同じく、シャーロット・E・イェーガー大尉」
「同じく、ティアナ・ランスター曹長」
「……ほえ?なんでティアがいるんや?」
「あー、色々と理由があって、移民したんですよ、ミッドから」
ティアナAは陸軍式で敬礼する。巫女装束の下にアンダースーツを着込んでいるので、素足を露出させてはいない。髪を下ろしているのが、この世界のティアナ当人との外見上の違いだ。
「ち、ちょっと!?あたしがなんで、そんな格好に!?」
ティアナBは口から泡吹く寸前の様相を呈し、ろれつが回らない様子を見せる。目もパニックになったか、グルグル回きだ。
「ちゃんと説明するから!落ち着きなさいよね。ったく、我ながら恥ずいわ……」
ティアナAは呆れる。それに苦笑するなのはA。なのはBに至っては、ショックのあまり、目からハイライトが消え、うわ言を言い出している。
「実は――」
ティアナA当人の口から、身の上話がなされた。別のミッドチルダから、別世界の日本に飛ばされ、圭子や黒江と知り合い、それで口利きをしてもらい、戸籍謄本を作った上で、軍隊に志願し、一定期間の飛行訓練を受けて、アフリカに補充要員として送られた事を。なので、自分は陸戦魔導師ではなく、『空戦ウィッチ』であると説明する。が、当然ながら、ティアナは元来、空戦適性がないとされており、それが陸士に進むきっかけのはずだったので、誰もが信じなかった。
「ティアナは確か、空戦適性がない筈だよ?六課に入れる前の調査でも……あ、ゴメン」
「いいんです。事実ですから」
バツの悪い顔を見せるなのはB。ティアナは陸戦魔導師として優秀な素養があるが、空戦適性はない。それは時空管理局航空隊の全ての採用への道で不合格とされた事で『証明されていた』からだ。
「転移からしばらくの間、黒江少佐に世話になりまして。そこで個人的に教えてもらったんです。それでウィッチに転向して、戸籍が出来たことで訓練学校に入れるようになったんで、志願しまして。そこで武器の取り扱いや空戦戦術、語学を学び、卒業後に軍曹に任官されたんです」
「で、でも、飛行ってどうやって!?箒じゃないよね!?」
「あながち間違いでもないですね。『機械の箒』、ストライカーユニットで飛んでますしね。実物が解析から戻ったんで、見せますよ。これです」
「これが……?」
それはゲッターGに持ち込んでいた、ティアナ用のストライカーユニット『キ100』である。(当時はまだジェットへの機種転換前であった)この世界の管理局はゲッターGを事の直後に調査し、更にストライカーユニットを調査したのだ。ストライカーユニットについては、純粋科学と魔術が混合した代物と判定された。時空管理局のテクノロジーと比べればローテクだが、補装具のような感覚で使える道具ということで、シャリオ・フィニーノは興味津々だったとの事。
「はい。飛んで見せましょうか?発進促進器も簡易のを持ってきてるんで」
と、言うわけで、ティアナAはキ100を履いて、飛行をして見せる。機動は航空機+αという趣だが、ティアナにカワセミの翼と短い尾が現れると言った外見上の変化、圭子と同じ『超視力』の固有魔法、圭子から教わった『ツバメ返し』も見せる。なのはBはティアナに隠された素養がこのように出たのを嬉しい反面、バツの悪い思いがあった。
(ティアにこんな素養があったなんて…)
『あ、安心してください。道具がないと、あたしは飛べないんで。言わば、個人用ヘリコプターに乗ってるみたいなもんですよ」
と、ティアナAがフォローする事で、なのはBは安心した顔を浮かべた。
「それで、武器は何を使ってるんや?」
「クロスミラージュの他には、時代相応のやつですよ。日本軍の九九式短小銃の狙撃仕様、ドイツ軍のMG42、M1カービンとガーランドにBAR……MG151、MK108……」
「うんうん…ん!?ちょいまちぃ!航空機関砲混じっとるで!?」
「私達、空戦ウィッチは搭載量が許す限りなら、武装をある程度まで強化できるんだ。機動性とトレードオフだけど」
シャーリーが補足する。自身も最近はM1919を使うようになっているからだ。
「え、えーと……はやてちゃん。今のって、銃の名前?」
「正確には愛称だったり、形式だったりと色々や。日本軍のもあるで。九九式とか」
「三八式歩兵銃みたいな?」
「あれはもう、戦争中は旧型やで。採用は明治や。旧型もいいところや」
「ですね。私が訓練受けた頃になると、もう一線級部隊の多くは九九式になってたし、あれは壊れると、前線で修理できないんですよ。同じ銃でネジやボルトの位置が違うとか、平気であるし。訓練で撃ったくらいかな?」
そう。なのはBも良く知る『三八式歩兵銃』は日露戦争後に開発された旧世代小銃である。第二次大戦が転換中に起こったので、切り替えが進まなかっただけで、一線級部隊は九九式を使用していた。
「え?そんなことがあるの?」
「いいか?お前がよく知る工業規格が出来たのは戦後だ。戦争中に互換性が考えられ始めたんだから、明治の銃にそんな概念はない」
なのはAが補足する。別の自分が知らなすぎるので、口を挟んだのだ。
「そっか、そうだよね……って、貴方、使った事あるの!?」
「射撃練習とかの時にな。三八式は6.5ミリだから、軽いんだよな。九九式はその気になれば、熊やれるし、いい銃さ。時代を考えれば、ボルトアクションなのはしゃーない。」
「でも、ドイツの銃に比べると、やっぱりWWU日本の銃は落ちますよ」
「ドイツのマウザーとか、ヘッケラー&コッホと比べちゃ可哀想だろー?ルガーP08とかあるんだし。戦後の62式言うこと聞かん銃なんてな〜」
と、愚痴るなのはA。幸いにも後の進路は空自なのだが、連邦軍での残党狩りの際に、ジオン軍残党からの鹵獲品に触った事があるのだ。
「あれはメーカーに文句言ったほうが、ねぇ」
ティアナも否定しないあたりは、その評判が当たっている証であった。ただし、銃単体を見るならばいい銃であるのだが、陸自は整備時間が取れないなどの理由もあり、酷評されており、未来世界の統合戦争の際には、鹵獲したM1919を嬉しがる陸自隊員が多かったとの事。
「と、そんな訳です」
「なるほど。あ、それと、ギンガのことだけど、どうするんや?この世界のスバルは赤心少林拳なんて使えへんで」
「問題無いです。スバルが自分を拉致って、特訓させてるんで」
「あ、なるへそ……」
と、呆れる。
「あ、はやて。こっちのミッドチルダの次元座標と、地球連邦の次元座標を教えるから」
「はいな」
圭子から、次元座標を教えられる。これで二つの世界の存在が明らかとなった。
「あ、なのは」
『なんですか?』
「Bの方来て。貯金の埋め合わせするから、口座番号とか……」
「はい。相当やられたんですよ……あれ」
「いくらだ?」
「〜〜ほど」
「お、お前なぁ……」
使い込んだ金額が高額なので、圭子は呆れる。
「連絡取れたら補填すればいいかなーって」
「ったく。なのは、帰ったら大和型の甲板掃除な」
「お、オーマイガーぁ〜〜!!」
「小沢長官も承認してる。それと黒江ちゃんも。ミイラ取りがミイラになって、どーすんのよ?」
「おお、そりゃスマン……」
「帰ったら、武子の小言と甲板掃除は覚悟しといて」
「なぁ!?お、おい、私は何もしてねーぞ!?」
「ノリノリで介入して、連絡して無かったでしょ。おかげで武子がオロオロしちゃって、大変だったんだから。私が行くことになった日なんて、『綾香はどこで油売ってんのよ!』って、ヒステリーの入り口に来てたし」
「マジかよ!!」
「多分、始末書は書かされると思うわよ?朝からヒステリーになってて、檜が慰めてたんだから」
「おお、そりゃアイツに悪いことしたなぁ」
武子のヒステリーがどんなものか。想像に難くない。智子では抑えきれないのは目に見えているし、恐らく、コーヒーをガバガバ飲みまくり、フルーツをやけ食いするのは目に見えている。
――ブスっとした武子に振り回される智子達の姿が目に浮かぶが、笑ってもいられない。武子がヒステリーになるということは、始末書で済めば御の字だからだ。ヘタすれば、減俸、禁錮処分もあり得る。独房入りはロンド・ベルで経験したので、別に怖くないが、減俸のほうが堪える。
(やべぇ……減俸されたら、あれやあれが買えねえ!!こうなったら、光太郎さんに頼んで、緊急避難と現地機関の協力要請で押し切るしかねねーぜ!)
と、とっさに緊急避難策を考えるのは武子よりも上手なため、この後、光太郎に拝み倒し、結果、彼の口添えで減俸は免れた。だが、甲板掃除は免れず、4人で大和、信濃、甲斐の掃除をする羽目になったという。
――はやてBはこの後、クロノに報告した。クロノはフェイトAにいくつかの質問をした後、『そっちの自分はどうなった?』と私的に聞いた。フェイトAは『管理局の立て直しに追われてるよ』と返したという。結果、この世界の管理局は観測世界のミッドチルダを知った事になり、以後、ミッド動乱が起こった世界の時空管理局の再建に力を貸し、人材交流が盛んに行われたという。一同が帰る日の朝、なのはAは圭子達から渡された連邦軍の軍服に袖を通し、その姿を披露した。
「それが連邦軍の軍服かぁ……なんだか、アニメみたい」
「結構、動きやすいぞ。フライトジャケット着れば、パイロットは艦内で彷徨けるし」
「フライトって……貴方、何に乗ってるの?」
「ん、ZZガンダムとVF-19」
「ガンダムって、まさかあの?」
「そうだ。こう見えてもガンダムパイロットだぞー」
そう。なのはAはガンダムの操縦ライセンスを取得しており、この時には既にZZを乗機にしていた。
「おい、なのは。スーパーロボットの写真があったら送れよなー」
「んー、真ゲッターロボは?」
「あたしの趣味とはちげーよ。もっとこう……」
「言っとくけど、ガ○ガイガーいないからね?」
「マジかよ!あれ、好きなのに。マジンガーZは?」
「戦いでお釈迦になって、今はグレートマジンガーが主役だよ」
「ぐぬぬ……んじゃマジンカイザーは?」
「最終状態だけど、あるよ。写真送ろか」
「頼むぜ」
と、別世界でも趣味は同じようであるのが確認されたヴィータ。一方で、ティアナが移民でミッドから離れた事の要因が自分にあるのでは無いかと、気に病んでいたなのはBはティアナAに自分の行為を謝罪した。
「ゴメン、ティアナ。どうしても謝りたくて。あの時のあれが原因なのなら……」
「あの時は本気で、自分の努力はなんだったのか?なんて考えましたよ」
「や、やっぱり……」
「でも、後になって、あなたとは別のなのはさんの子供時代の気持ちを知って、分かったんです。貴方はひたむきに努力した。そして、それを叶えられるだけの素養があった。私にはそれは無かった。だけど、ストライカーユニットを使えば飛べる。貴方は天才だった。それ故に、努力で身を立てようとする凡人を理解出来なかった。それがあなたの欠点ですよ」
「そうだ。あたしから見ても、お前は他人に自分のレベルを押しつけ、『出来て当たり前』と考えてる。だがな、どんなに頑張っても、そのレベルに達することが不可能な人間の事を考えたことがあるのか?物事を教えるっーのは、ゲームのレベルアップじゃないんだぞ!」
なのはAがきつめに言う。それは連邦軍で指摘された事でもあり、自らの不手な分野に挑んだきっかけともなった。そのため、なのはBの瞳から涙が溢れる。
「わ、私は……自分が遭った事を、みんなに味わわせたくないだけだよぉ……だから……だから……」
子供のように泣きじゃくるなのはB。本質的に子供時代から成長していない部分がある事が露呈した場面だった。
「だからって、ティアナに私的制裁を加える必要は無かったはずだ。いくら教導隊の趣旨がこうだからって、それを盲従する必要はない。口頭で注意するとか、他にやり方はあったろう?」
「力で押さえつければ、反発を招くか、潰れるかのどっちかですよ。あたしの場合はうまく言ったから良いようなもので、これが小さい子供だったら?教導をすると言うのは難しいんんですよ」
「そうだ。10回の訓練より、1回の実戦がためになる事もある。これは軍隊での理屈だけどな」
最後は諭すようにして、なのはBに言い聞かせるなのはAとティアナA。なのはBの教導官のしての立場は考慮しているが、きつめに言う事で、なのはBの精神的成長を促したのだ。これは上層部から、なのはBの教導の際の私的制裁が問題視され、なのはBは教導資格の一時停止処分が下されたため、その前に『第三者』であるなのはA達に諭してもらい、自分はなのはとの衝突を避けるという、はやてBの策謀であった。
「はやてちゃんからの事付だ。お前には教導資格の一時停止処分が下された。上はティアナへの私的制裁を問題視している。下手をすれば、六課そのものが消滅しかねなかったが、今回の功績で軽減されたそうだ」
「……だろうね。はやてちゃんやシャーリーががその場は取り持ってくれたけど、上は厳しく見るとは思ってたから、処分を受けるよ」
「今回のことは胸によく刻んでおけよ。間違いがあれば、正せばいい」
「うん、うん……」
それを傍目から見ている、黒江と圭子、光太郎、シャーリー(シャーロット・E・イェーガー)。
「あいつもクサイこと言えるようになったな」
「アムロさんから日頃言われてたことだしな。感情的になるなって」
「人間は時として、感情が理性を上回る事がある。ここのなのはちゃんは自分の感情が暴走してしまった結果だろう。俺達の知るなのはちゃんは、子供時代の内に、間違いを正してくれる人達と出会えたが、あの子は周囲に持ち上げられて、青春時代を過ごしていた。家族からの疎外感を持っていた子供に取って、『自分が頼りにされる、自分を見てくれる』場がある事はいい事だが、ここのなのはちゃんはそれにずっと甘えて来たし、周囲も過保護でありすぎたんだろう」
「子供時代の経験が、あいつを縛ってたんだろうなぁ。歴史の分岐点の『11歳』の時に味わった恐怖、罪悪感とかがトラウマになったんでしょうね。こっちのなのはは克服したけど、ここのなのははトラウマが刺激されて、制裁に走った。スバル曰く、みんな現場で無理をすることなく、無事に帰ってこれるようにって願いの割に、当人が無茶するからなぁ」
そう。この世界のなのはは『周囲に無理をさせない』事を教導の目標に掲げている。それと矛盾する行為を行っている自覚が当人にないことをシャーリーは指摘した。それに一同は頷く。なのはAは、子供時代の内にそれを自覚し、『無茶してでも貫き通したい気持ちがある』と公言したが、なのはBはそのトラウマが先に立ってしまうのではないかと推測したのだ。
「ふう、疲れた……」
「帰ったら甲板掃除だぞ?」
「分かってますって。ゲッターGが通れる次元ゲートの開放に必要なエネルギーはあとどの位?」
「あと4時間もあれば、チャージが完了するはずだぜ」
「分かりました。スバルを回収して、帰りましょう」
「そうだな」
「おっと待ったぁ!4時間もあるなら、模擬戦していってくれへん?」
「なぬ!?」
――こうして、異世界のミッドチルダでの奇妙な物語は幕を閉じた。別れ際の模擬戦はRXをレフェリーに、A側がB側の半数を短時間で落としたが、シグナムがシャーリーを、ヴィータがティアナAを落とすなどの活躍を見せ、互角に。最後はなのは同士のスターライトブレイカーの撃ち合いとなったが。
『石破天驚ぉぉ!ゴォォォッドフィンガーァァ!!』
なのはAが最後の切り札『石破天驚ゴッドフィンガー』を使い、スターライトブレイカーと併用する形でスターライトブレイカーを押し返し、ヒートエンドで締めた。スターライトブレイカーexを上回る(模擬戦でex-fbは使えない)威力の石破天驚ゴッドフィンガーとの合わせスターライトブレイカーを食らった時のなのはBの顔は、どこか清々しいもので、『重責から開放された』かのようなものだったとか。
――この模擬戦の際に取られた写真が、後々のなのはAの資質に飾られている。レイジングハート・エクセリオン・ソードフォームを軍服姿で構えるなのはAの後ろに、模擬戦に負けて悔しそうなバリアジャケット姿のBの姿があった……。
――帰還後、なのはA達を待っていたのは、加藤武子の叱責と、ミッドチルダ駐留中の聯合艦隊の大和型戦艦の甲板掃除であった。
「どうしてこうなったのぉ〜!」
なのはAの叫びが、虚しく、戦艦大和に響いたという。
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