短編『魔法少女達の奇妙な物語』
(ドラえもん×多重クロス)



――さて、別世界のミッドチルダで暴れるなのはAとフェイトA。なのはAは御庭番式小太刀二刀流を用いつつも、荒っぽい側面が表に出ていた。

『おい、クワットロのブスメガネヤロー!!どーせ見てるんだろう?あたしも今からそっちに行くから、覚悟しやがれぃ!!』

と宣言し、ゆりかご内部の壁をなんと、気を打ち出す事でぶちぬく。なのはBとは別方向から行ったのだが、なのはAの方が早く中心部にたどり着いた。

「さあて、覚悟しろよ?」

なのはAはカチコミに来た柔道部員だが、空手部員だかのような不敵な笑みで、クワットロの前に現れた。僧兵の如き出で立ちであるのも、迫力満点である。

「わ、私をどうするつもりかしらぁ……?」

「あ?決まってるだろう。テメーをボロボロのギタギタのメロメロにしに来たのさ」

ブチ切れているせいか、口調が荒い。そこから剣形態のレイジングハートを召喚する。

「さて、どう料理してくれようか?」

ジリジリと歩み寄るなのはA。完全に喧嘩のカチコミに来た剣道部員である。クワットロは完全に怯えていた。なのはAの威圧感とその気のオーラとがマッチし、不気味な雰囲気を醸し出していたからだ。元々が正面戦闘用に製造されていないため、身体能力面では常人を多少上回る程度の彼女では、人間の領域を超えていたなのはAに喧嘩を売られた事自体が不幸であった。

「甚振るのは、あたしの性に合わん。ひと思いに楽にしてやろう」

「!」

「フレイムッ!ソ―――ドッ!!』」

レイジングハートの刀身がツーハンデッドソードに巨大化し、桜色の刀身に見合わぬ炎を纏い、ロボアニメにつきものの剣を持つポージングを決める。

「チャー――ジア―――ップッ!!」

剣を天に掲げると同時に炎のオーラが現れ、それが不死鳥の形となって具現化する。それが二人のなのはの違いをこれ以上ないほどに示す必殺技であった。そのオーラを纏い、突撃する。


「おおおおおああああっ!!」

火の鳥が自身に襲い掛かってくるような錯覚を覚えたクワットロは、それまでの威厳をかなぐり捨て、みっともないほどに狼狽え、悲鳴を上げる。「いやあああああああああああ〜!?」と。

「とぅあ!いやぁぁぁぁぁ!」

上段から縦一文字に振り下ろし、クワットロを一刀両断する。同時に炎が彼女の両断された体を焼き、そのエネルギーが更に機械部の動力と反応し、大爆発を起こす。爆煙を背に、決めポーズを決めるなのはA。これになのはBは……。

「……へ?な、何あれぇ〜〜!?」

と、ヴィヴィオを助けに行く途中ながら、完全に涙目であった。一方、はやてBは冷静であった。

「いやぁ、なのはちゃん。太陽の勇者見たやろ?」

「研究のために買ったよ。全話収録BOX。カラオケでも歌うんだ、あれ」

「へぇ。違う世界でなきゃ、見てみたい場面や」

と、完全にオタク同士の会話を念話で行う。はやてには元々、子供時代の車椅子生活の時期があった時の都合上、アニメオタクと化する素養が充分にある。なのはAの時空においては、ロンド・ベルのスーパーロボットの調査の結果、完全にアニメオタクになり、なのはAも実物をロンド・ベルで見た都合上、同志となっていて、高3の頃にはファミレスでバイトをしつつ、はやて、フェイトを巻き込んで同人活動をするほどになっていたのだ。

「うちの方じゃ、サークル活動してるよ」

「ほんまかいな!?」

「高2の冬頃から管理局の仕事が落ち着いてきたから、次の年の夏からイベントとかで同人活動してるよ。コスプレもしてるし。バリアジャケットもコスプレで通るから、それで買い物したり……」

「いいのかいな、それ」

「ハッハッハ。結構バレないもんさ。大半の地球人は管理局を知らないしね」

――そう。時空管理局の存在は、なのは(A・B共に)の故郷の世界においては、過去に所属していた人間か、現在活動中の人間、あるいは国家首脳級しか存在を知らない。公表が控えられているため、なのはの故郷の世界は意外と時空管理局が半ば人材補充の場にしている点がある。公表されていないのを逆手に取って、バリアジャケット姿で夏コミに参加して、同人誌を売り捌いた事があるのだ。


――と、なのはとはやてがオタク同士の会話に花を咲かせているが、数分ほど前の外では。

――アースラ 艦橋

「なんだ、あの質量兵器は!?」

アースラの艦首に腕を組んで仁王立ちする、全長50mの巨大人型兵器。赤を主体にしたカラーリングをし、力強さを全面的に押し出したデザインの巨大ロボは、見る者を圧倒する。

「げ、ゲッタードラゴンだとぉ!?」

黒江も思わず固まる、ゲッタードラゴンの登場だった。形状がオリジナルに比してマッシブであるため、量産型ゲッタードラゴンがベースの個体であるのが分かる。

『ハァイ、黒江ちゃん〜。迎えに来たわよ〜』

「ヒガシ、ヒガシか!?お前、どこから持ちだしたんだよ、ゲッタードラゴンなんて!?」

『ネイサーからテストに回された量産型を持ってきただけよ。さて、ひと暴れと行くか!』

圭子は駆けつけるなり、お得意の射撃戦を見せる。

『ゲッタービームランチャー!!』

ガジェットの大群を、ゲッタードラゴン版のハイメガランチャーとも言える『ゲッタービームランチャー』で散らす。フレームはゲッターレーザーキャノンと共通だが、打ち出すものがゲッタービームであるのが異なる点だ。その為、なのはがディバインバスターを放つよりも遥かに強力な砲撃がガジェットを襲った。サイズに相応しい広い射線と、ゆりかご本体の装甲を、掠っただけでドロドロに溶かす威力は、その場のほぼ全員を驚愕させる。

『さて、お前の出番だぞ、シャーリー!』

『おう!チェーンジライガー!!スイッチオン!!』

その場でライガーに変形し、ドリルを回転させながら、ガジェットの大群に突っ込む。そこから凄まじい暴風が吹き荒れ、ライガーの十八番であるマッハスペシャルを発動させたのだが……。

『ゲッタービジョン!!』

と、技名を派手に間違っていたりする。これにポセイドンを操縦するティアナAが盛大に突っ込む。

『し、シャーリーさん。技名間違ってますよ!』

『え?マジかよ!』

『ゲッタービジョンはゲッター2と真ゲッター2、ライガーはマッハスペシャルですってば』

『ハッハッハ、ゲッターはめったにのらねーからな。お前、ポセイドンにならなくていいのか?』

『今、あたしが出たらややこしい話になりますからパスです!』

そう。この世界にも『彼女自身』はいるのだ。しかも元の『魔導師』として。既にウィッチとして転向し、戸籍も作成され、扶桑皇国軍人としての人生を歩む彼女にとっては複雑なのだ。

『おし。でも、どっちみち顔みせねーと。終わったら』

『その時は覚悟しますよ。この格好み見たら、間違いなく腰を抜かされますし』

ティアナは扶桑皇国陸軍の戦闘服姿に、ゴーグルをかけていた。ゴーグルはシャーリーが調達し、送ったモノで、『扶桑皇国軍人』としての彼女のアイデンティティ』とも言える要素だった。今回は顔を隠したいティアナの希望で、レンズが色付きだったりする。

『チェーンジドラゴン!スイッチオン!』

再びドラゴンとなり、今度はトマホークを構える。

『ダブルトマホークブーメラン!!おまけにもう一本!うりゃあ!!』

ダブルトマホークを二本、おまけのもう一本をぶん投げて、残ったガジェットを破壊しまくり、同時にゆりかごの表面装甲と武装を削り取る。これでゆりかごの攻撃力は大きく削がれたことになる。



『ゆりかご内部で高エネルギー反応。この世界のなのはさんがスターライトブレイカーでヴィヴィオを助けたようです。同時にゆりかご内部の魔力接合妨害が働きだしました』

『これで一件落着か?』

『ん!?ま、待ってください!!もう一個強大なエネルギー反応!これはキングストーンです!』

ティアナが切羽詰まった声で報告する。

「こっちでも捉えた!まずいぞ……ここのなのはじゃ奴に……シャドームーンには対抗できないぞ!」

黒江も通信で焦りを見せる。シャドームーンがRXを求めて来ているのなら、なのはBとヴィヴィオを障害とすら捉えていないはずだが、なのはBはヴィヴィオを傷つけようとする者と判断すれば、誰であろうと喧嘩を売ってしまう『頭に血が上っている状態』だ。しかも、ヴィヴィオが倒された以上、あの内部で魔法はほぼ使用出来ない。そうなれば、常人よりちょっと強いだけのなのはBにシャドームーンへの勝ち目はないのだ。

「ヒガシ、急いで光太郎さんに連絡を取ってくれ!スバルと一緒のはずだ!」


『わ、分かった!』

楽観から一転しての混乱に陥る圭子達。シャドームーンの存在は、彼女らにそこまでさせるほどのネームバリューがあるのだ。



――ゆりかご中枢部

金属音を鳴り響かせながら現れた、一人の銀の鉄仮面の男。威圧感に溢れつつも、どこか仮面ライダーにも似通った姿を持つこの男こそ、南光太郎のかつての親友で、義兄弟『秋月信彦』を素体にして生まれし『世紀王』。同時に暗黒組織『ゴルゴム』の長『創世王』の候補であった改造人間『シャドームーン』なのだ。

「あなたは何者!?」

「我が名はシャドームーン。地獄より蘇りし『死の使者』」

なのはBはシャドームーンの持つ圧倒的な威圧感に気負されそうになる。虚勢を張るものの、足は震えていた。これほどまでに恐怖を感じたのは、『11歳の頃』以来でもあった。

「女。貴様には用は無い。用があるのは、その『子供』だ」

「ヴィヴィオを!?」

シャドームーンはゆっくりと歩み寄る。無機質とさえ思えるその声色と、金属音を伴う足音とが重なりあい、不気味さを醸し出していた。

「させないっ!!」

反射的にレイジングハートを構えるなのはBだが、レイジングハートはうんともすんとも言わないし、砲撃魔法も撃てない。魔力接合妨害が強いため、レイジングハートも機能を停止しているのだ。

「!?」

「今のこの空間では、魔法は使えん事を忘れたようだな」

シャドームーンはなのはBを、ゴミを払う動作で吹き飛ばす。軽くだ。

「あああっ!?ヴィヴィオ、逃げて!ヴィヴィオぉぉぉ!」

それは最後は悲鳴に近かった。だが、ヴィヴィオは逃げなかった。先ほどまで体に埋め込まれていたレリックの影響か、外面上は16歳ほどに成長したままの肉体で立ち、シャドームーンに戦いを挑んだのだ。しかも、聖王の鎧と似たデザインながらも、色が異なるデザインの鎧を再構築して。それは後の『高町ヴィヴィオ』としての運命の暗示でもあった。

「いやだ……。私は……逃げない……!ママに助けてもらった命……今、ここでママのために使うんだ!!」

ヴィヴィオはその時、その言葉が口をついて出た。本来は縁もゆかりもない事は分かっていた。だが、なのはとの日々が自分にとっての大切な時間と理解したヴィヴィオは消耗しきった体でありながら、決死の覚悟でシャドームーンに挑んだのだ。


「はぁあああああっ!」

ヴィヴィオがこの時、ゆりかごの呪縛から解き放たれ、実質的に何の訓練も受けぬ状態ながらも、高度な格闘術を使えたのかは定かでない。遺伝子に刻まれた『聖王オリヴィエ』(彼女のオリジナルとなった、最後の聖王)の記憶がそうさせたのか、はたまた、後の運命を示すかのように、オリンポス十二神、あるいはその上位の神がヴィヴィオに力を与えたのかもしれない。


「やめてヴィヴィオ!!その体じゃ、その体じゃ!」

そう。ヴィヴィオの今の姿はレリックがもたらした仮初の姿。いつ消えるかわからないものなのだ。なのはBはただ見ていることしか出来ぬ自分を恥じると同時に、別の自分の強さを羨望した。

「おおおおおおっ!」

ヴィヴィオがシャドームーンに力負けし、引き飛ばされたのと同じタイミングで、フェイトAが乱入してきた。巫女装束と小具足姿なので、フェイトはフェイトでも、『別のフェイトである』と直ぐに分かった。

「でぇえええりゃあ!」

天羽々斬を振るい、シャドームーンを吹き飛ばす。

「大丈夫か!?」

「フェイトちゃん……。やっぱり、どこの世界でも、フェイトちゃんはフェイトちゃんだ……来てくれた……」

それは普段の時空管理局のエースとしての言葉でなく、高町なのは個人としての言葉だった。それを悟ったフェイトAは微笑ってみせる。

「ああ。昔に言ったろう?『友達』だって」

「う、うん、うん…!」

それはフェイトAがなのはBにできる精一杯の事だった。なのはBを慰めたのはいいが、相手がシャドームーンである以上、自分も死を覚悟せねばならないからだ。

「ヴィヴィオ、戦えるな!?」

「う、うん!」

「よし、行くぞっ!!」

フェイトAは、とっさにヴィヴィオに指示を飛ばす。そして、彼女も師である黒江と同様に、後の運命の因果の因果が繋がるのであった。




――フェイトの右手が光る。それは時間にして、0.1秒以下というものだった。

「お前は……?」

「私は未来のお前自身だ。獅子座の黄金聖闘士となり、聖闘士として生涯を費やした後の、な」

「獅子座の黄金聖闘士だと……私が!?」

「そうだ。あと少しすれば、お前は聖闘士がいる世界を発見する。その後は見ての通りだ」

「教えてくれ!何故、私は聖闘士になる?縁もゆかりもないはずだ」

「確かにな。だが、ある人の意志を継ぐことを考えた時、私は聖闘士となった。お前に力を貸そう。綾香さんも過去の自分にそうしたように」

扶桑海事変の際の黒江と同じ現象がフェイトにも起こったのだ。そして……。

「シャドームーン、貴様に教えてやろう。この大いなる星々の瞬きからは、たとえ貴様でも逃げ延びる事はできん!」

フェイトAの腕に光が走り、そこから光線のようなものが撃ちだされる。この技は。

『スターダスト・レボリューション!』

スターダストレボリューション。牡羊座の黄金聖闘士の得意技で、かつての牡羊座の黄金聖闘士であり、教皇であった『牡羊座のシオン』が編み出した最強奥義で、後々に、貴鬼の成人までの中継ぎで同星座となるフェイトも受け継いだのである。

「え!?え!?え!?」

なのはBは完全にパニックに陥る。その技に見覚えがあるからだ。

『お次はこれだ!ライトニング・ボルトぉぉぉ!』

連撃をシャドームーンにヒットさせるが、シャドームーンにダメージは無きに等しい。

「流石に光速拳でも、何発か当てただけでは致命傷にならんか……!」

「面白い、光と雷の力を使うか……」

シャドームーンは初めて、『面白い』という単語を発した。それはRX以外は敵なしという状態の彼としては『太刀打ちできそうな敵』と出会った』ことでの興奮とも言えた。

「ヴィヴィオ、お前は牽制に徹しろ!こいつは私達がいくら頑張ったところで倒せはしない!ある人が来るまで持たせろ、分かったな?」

「わ、分かった、フェイトママ!」

ヴィヴィオも自然と『フェイトママ』という単語を口にしていた。それはヴィヴィオの後の運命を連想させるものだった。

『我が拳に宿れ!!獅子の魂!!ライトニングプラズマ!!』

フェイトは、未来の時間軸の精神状態を考慮に入れれば、この時がライトニングプラズマの初使用だった。威力は未来の精神が過去の体を借りている状態故、多少威力は落ちるが、速度は同等。光速を見切れるシャドームーン相手でも、何発かは当たった。更にヴィヴィオの一撃も加わり、シャドームーンは悠然と着地はするものの、吹き飛ばすことは成功する。

「やった!」

「いや、この程度で奴はくたばらん。来るぞ!」

シャドームーンは能力を使い、フェイトAを拘束し、ビームを使ってぶん投げる。

「おわあっ!!」

フェイトAはすぐに立ち上がるが、シャドームーンの新たな剣の洗礼を浴びる。

「喰らえ!」

シャドームーンの斬撃をのけ反る事で回避し、天羽々斬で斬撃を受け止め、鍔競り合いに移る。なのはBはそれが羨ましくもあるが、何も出来ない自分を恥じた。魔法がなければ、本質的に8歳以前と何ら変わっていないことに気づいたのだ。

(私は……こんなに無力なの……?子供の頃と何も変わってないんだ……何も……!)

自然と涙さえ溢れる。それは圧倒的な存在に立ち向かえる勇気と力を持つフェイトAと、魔法がなければただの少女に過ぎない自分との落差がショックだったのだ。愛する者も自分で守れないことへの衝撃は、なのはBを打ちのめしていた。



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