短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)
――北海道に近づきつつある野比家トレイン。エーリカ・ハルトマンに501から連絡が入る。
「あー、OK。ミーナにはあたしからも言っとく」
「お願いします」
「でもさ、宮藤。なんでこっちの電話番号わかったの?」
「ミーナ隊長の連絡表に載ってたんです。それで」
「なるほどね。ミーナの腹がぶっ壊れたって?」
「ええ。フェイトさんが黄金聖闘士だってネタバレしたんで、お腹の風邪引いて、ウンウン唸ってます。私が治そうにも、ウイルスの感染力の都合で医官に止められてますから、うわ言で私を呼んでるみたいで」
「熱は?」
「質が悪いウイルスみたいで、39度です」
「医者の診断は?」
「点滴して、ここ3日位は絶対安静だそうです」
「トゥルーデや坂本少佐で回すしかないなぁ。とにかく、皆には手の消毒を徹底させて。それと体調チェックは厳に。ミーナが風邪こじらせて、軍病院に入院でもされたら、事だからね」
「分かりました。バルクホルンさんと坂本さんに伝えておきます」
――ミーナの体調は、ショックで糅が外れた事もあり、重症であった。坂本とバルクホルンが中心となって隊を回していたが、隊の半数が休暇を取った事もあり、ローテーションはきつく、坂本が自ら指揮を取って、夜間戦闘を行ったとも、芳佳は言う。
「そりゃ、502と504は吸収の正式な承認と、残務整理もあって、ウチの好きに動かせない事もあるんだ。坂本少佐も大変だと思うけど、頑張ってもらうしかないねぇ」
502と504は書類上はまだ存続しており、残務整理が残っていた。双方の幹部は残務整理がある都合、戦闘に参加しない事がほぼ常態であり、ローテーションが破綻しかねなかった。
「宮藤、スーパーパルカンベースと連邦軍のスペースに行って、双方に哨戒の代行を頼んだほうがいいよ。あたしや黒江少佐の名前出していいから、嵐山長官んとこに行け。事情が事情だ、今度はトゥルーデや坂本少佐が過労でぶっ倒れるしね」
「分かりました〜!ありがとうございます!それじゃ!」
「うん、気をつけなよ〜!」
芳佳は電話を切り、まずはスーパーパルカンベースに向かった。ハルトマンも、ドンジャラ中の黒江に事後報告をし、黒江も『そういうことならわかった。あとでもう一回、宮藤に電話かけて、501再編成に伴う手続きおよび事務手続きに合わせた隊員の休養中の警備任務の協力とした書類を坂本か、バルクホルンに作らせるように確認とれ』と承諾した。
――この時期から、ハルトマンはシャーリー共々、501の『潤滑油』として働くようになり、以前より大人びた態度を見せたり、面倒見がいいところを見せるようになった。これは精神科を受診し、憔悴しているマルセイユを支えなくてはならなかったり、ミーナがスリーレイブンズを個人的な感情から冷遇したりしたのを改善しなければならなかったりしたためだ。この時の経験から、ハルトマンが数十年後、退役後に実家の稼業を継いだ際に、診療項目に『心療内科』を加えたとの事――
――竹井醇子は、未だ療養中のアンジェラ・サラス・ララサーバルの復帰予定が司令部から通達された事による、504の吸収の残務整理を終え、501基地に帰還途上でクライシス帝国の襲撃を受けたが、これは仮面ライダーアマゾン=山本大介が救った。山本大介、通称『アマゾン』は、ライダーでは数少ない『生体改造』で力を与えられた仮面ライダーで、ピラニアとトカゲを組み合わせたような姿をしている。彼が腕にしているギギの腕輪はインカ帝国の遺産であり、彼の命でもある。アマゾンライダーはインカ帝国が生み出したロストテクノロジーの忘れ形見であり、仮面ライダーで唯一の『カッターを使ったチョップ技が決め技』という特徴を持っている。彼はアマゾンの奥地で育ったため、戦闘時には『ギャウウウウウ!!』や『ケケケ――ッ!!』という唸り声や威嚇の叫び声をあげながら戦う。そのため、野性味溢れるアクションを竹井は目の当たりにした。
『大・切・断!!』
アームカッターを使い、クライシス帝国の再生怪魔獣人を両断する仮面ライダーアマゾン。山本大介としての純粋な姿とは別の『鬼』となる側面を目の当たりにした竹井は息を呑む。
「これが……仮面ライダー……アマゾン」
他の仮面ライダーがヒーロー然としているのに対し、アマゾンライダーは野獣というのが相応しいほどにワイルドな戦法を使う。引っ掻き、噛みつきは当たり前、首を跳ね飛ばす事もあるのだ。勝利の雄叫びをあげるところなどは完全に獣だ。
「危ないところだったな。ストロンガーから話は聞いた。俺はアマゾン。仮面ライダーの一人だ」
「た、竹井醇子です」
アマゾンは屈託のない笑顔を見せる。精神年齢が肉体より若いのと、元々が明るい性格だったのもあり、他のライダーより親しみやすさを持つ。なお、意外な事に、現役時代に日本語を習得したので、イメージでの片言の日本語ではなく、流暢に日本語を使えたりする。(精神年齢相応の言葉遣いだが)こうして、アマゾンに救われた竹井が、仮面ライダーアマゾンに救われたと報告した事から、坂本は改めて、仮面ライダーアマゾンの異質さを意識した。
「うーむ。仮面ライダーアマゾン、か。他の仮面ライダーとは異質だな……」
「パーソナリティも、生後間もなくに両親がアマゾン区域での飛行機事故で死亡、以後はアマゾンで暮らしていたとある。成人後にゲドンと戦うために改造された、か……。ゲドンやガランダー帝国を壊滅させた後に、歴代仮面ライダーの戦列に加わったらしい。ふーむ……凄いな」
アマゾンからの連絡を受けた坂本とバルクホルンは改めて、栄光の7人ライダーのパーソナルデータを閲覧する。激戦を潜り抜けてきた7人の猛者達。そのうち、黒江が兄のように慕うのが、この間に姿を見せた、仮面ライダー7号に当たるストロンガーである。
「1970年代に20代であるのなら、私達よりは『年下』ということになるな?」
「私達が40代になる頃の20代だ。生年月日は20年ほど離れてるから、ちょうど私達の子供世代にあたる。が、サイボーグだから、23世紀まで余裕で生きている。だから、黒江達が出会った時には、互いの年齢差は逆転している。時のいたずらという奴だな。あいつらが慕っているのも分かるよ」
坂本は、7人ライダーの戦いの写真を手に取る。自分達にとっての鞍馬天狗同様、現在の黒江達にとって、7人ライダーはヒーローなのだ。それを実証する写真は自分達の手の中にある。
「圧倒的な強さ、そして、清々しいほどのヒーロー然とした姿。確かに、私達が憧れる全てを持っている。羨ましいよ。絶対不変の力など、私達は本来、『縁遠い』話だったしな」
「何を言っている、少佐!宮藤を異質だというのか!?確かに私達は有限の力を偶然持ったに過ぎないが……!」
いきりたつバルクホルン。坂本の自虐的な発言は、芳佳を可愛がっている彼女にとって、一生あがらない芳佳を異質と取れるような口ぶりと取れるので、語気が強まる。
「落ち着け。私は別に、宮藤を否定しているわけではない。私達の大半は『力は衰える』宿命を背負っている、と言っているのだ。私とて、宮藤や菅野くらいの年の頃には『クロウズ』と謳われ、無敵を自称していた事もあるんだ」
「それは知っている」
「だが、今の私はあの頃の半分以下の力しか出せない。あいつらを戦線に呼び戻してしまったのは、私達世代が不甲斐ないためだ……。バトンを託されたのに、だ!」
「少佐、そんなに悩んでいるのなら、何故、黒江少佐達のような措置を」
「元から衰えは受け入れている。『わかっていた』事だ。だが……なんとなくだが、摂理に反する気がしてな。あいつらは『受け入れた』が、理屈がわからんモノに身を委ねる事は出来ん。あいつらがウィッチの摂理を超えるのなら、止めはしない。あいつらには、あいつらの道がある。お前にもお前の道がある。だから、私の道を『自分自身の足で歩いて行きたい』のさ。だが、近頃の風潮だけは我慢ならんのだ……!」
坂本は衰えを受け入れている一方、ここ一年で醸成された『早期退役』、『自主退役』、『良心的兵役拒否』への怒りとで葛藤している様を見せた。それは幼い頃の扶桑海事変の経験で、『力のある者の義務』を強く意識した事によるものだが、やがてその考えが、世代を隔てた自らの娘との確執となってしまう悲劇を招来させてしまうのだった。
「なら、ウィッチ以外の力を認め、自分に合った新しい力を目指してみろ!黒江少佐はリウィッチになっても、小宇宙という力を手に入れ、マルセイユはニュータイプに目覚めた。私もISという力を手にした。あなただって出来るはずだ!」
バルクホルンは叱咤する。弱気な坂本など、坂本でないような気がしてならないからだ。既に新たな世界の扉を開いた者は501内部にかなりいるためだ。(ハルトマンが戸隠流忍法、隠流忍術、飛天御剣流を極めている事は知らなかったりする。ハルトマンがひた隠しにしていたためだが)
「バルクホルン……」
「それと、確かに力を持った者の果たすべき役目があると思うが、それは個人の裁量に委ねられていて、誰かが強制するものではない。それは覚えておいてくれ」
バルクホルンは最後に、坂本が滲ませた『良心的兵役拒否』などへの憎悪に釘を差す。バルクホルンにできる事はここまでだからだ。
――この時のバルクホルンの忠告は、坂本のその後の人生に待ち受ける一つの悲劇の暗示だったのかもしれない。キャリアウーマンとしては大成功した坂本だが、家庭人としては不幸な部類に入る後半生を送る事になる。バルクホルンの言葉を、後に1990年代に自嘲めいた台詞で、近所に住んでいた同期のウィッチに語ったという。――
「すまんな。重苦しい空気にさせて」
「いや、こちらこそ、出過ぎた真似かもしれない。詫びておく」
「よし、ちょっと外の空気を吸ってくるか。付き合ってくれ」
「分かった」
休憩がてら、建物の外に出る坂本とバルクホルン。ふと、空を見上げると、空に尾を引くコスモタイガーの編隊が見えた。
『よし、アレで宇宙まで行ってみるか!』
「お、おい!コスモタイガーって、パイロットライセンス取ったのか、少佐!?」
「いや、まだだ。乗った事はあるが。あれは私の人生を変えた二個目の機体だ。あれで宇宙にでも出てみたいが、それまでに、今の戦いを片付けよう」
ニっと微笑う坂本。坂本の夢の一つはコスモタイガーで宇宙に行くことだったのだ。
「そうだな。あれに乗る時は連絡してくれ。クリスを乗せてやりたくて」
「お前、自分でライセンス取ればいいだろうw」
「私がメカオンチなのを知ってるだろう〜〜!」
「ハハハ。未来と交流しているんだ。その内、別の自分と出会うかもな」
「まさか」
「いや、分からんぞ?次元世界は広いんだ。『似た世界』がいくつもあるかもしれんし、中には、ここではあり得ないような経緯になった世界だってあるかもしれない。そんな事になったら、聞きたい事があるんだ」
と、語る坂本。その事は数年で叶った。1947年頃だ。その坂本Bは対面した際、Aに語った事がある。
――数年後
「まさか、お前のところでは、扶桑海の後半は黒江達と同じ釜の飯を食い続けたとはな。あいつにそんな活動的なところがあるとは」
「こちらの黒江は……なんと言おうか、うん、何考えてるか読めないっていう、恐ろしいところがあってな。扶桑海の時には『第一戦隊と舞鶴航空隊を一つに再編させた飛行隊』を作ってしまったんだ。しかも食料品や機材まで優遇措置が取られていたんだ」
「何?あの当時にそんな事が出来たのか!?」
「お偉方のケツを舐めたとか、冗談めかして言ってたが、今から考えると不思議でな」
「だろうなあ。ん!?待てよ、あの時期は戦力の平均化に躍起になっていたはず。なのにどうして、戦力を集中させた部隊を結成できたんだ!?」
「あいつが軍令部と参謀本部のお偉方や、はたまたお上や西園寺公に至るまで、口八丁で直談判したそうだ。その甲斐もあって、早期に浦塩の防備は固められたから、敵が迂回したほどだったぞ」
「なにィ!?それじゃ浦塩は!」
「直接の戦火には見舞われなかったよ。空襲も阻止できたしな」
「こっちじゃ、浦塩はその時に被害受けて、あいつのお兄さんの一人が亡くなって、遺体にすがりついて泣いてるとこを見たと言うのに」
Bの世界では、浦塩は大空襲を受けている。その時に黒江の長兄は被災し、悲劇的な最期を迎えた。遺体を回収した坂本Bらは、遺体が長兄であると確認した黒江Bが泣き崩れるのを見ている。妹へのプレゼントを送ろうとウインドショッピングしていた際に戦火に倒れた彼の服のポケットからは、妹へ送るはずだったモノが見つかり、それが何であるか悟った黒江Bは泣き崩れ、そのショックでしばらく出撃すら不可能に陥った事がある。その時の憔悴ぶりが印象に残っていたため、驚いた顔を見せた。
「こちらだと、そのお兄さんはご存命だよ。その要因は武器や戦術の改善だ。あいつらが中心になって、武器や戦術の改善を現場から進めてな。電探による索敵や、大口径砲の本格導入もその時に始まったんだ。特に『アホウドリ』対策に『逆落し戦法』を最初に考案して、実行したって功績は大きかったよ。それで空襲を阻止出来たんだ」
「逆落し戦法だと!?馬鹿な、こちらでは1944年以降に考え出された戦法だぞ!?それに当時の99式一号20ミリでは、貫通力不足だったはず!」
「あいつら、自前で99式を長砲身に改造したりして使ったり、カールスラントのMG151/20を独自に調達して配ったりしたんだよ。薄殻榴弾もバンバン撃ったから、他の部隊が羨ましがってなぁ」
扶桑海事変後半の際の『64戦隊』時代、火力不足に陥ったどころか、火力過剰だと友軍から苦情が来るほどに贅沢三昧の火力だったと回想する。黒江、智子、圭子の三者はズームアンドダイブ戦法を重視し、とにかく大口径砲を求めたが、扶桑海当時は大口径の航空機銃そのものが普及していなかったため、既存品の改造か、外国からの輸入品を使うしか手はなく、陸軍制式の八九式機関銃や、次期制式の一式十二・七粍機関砲はあまり使わず、海軍の九九式二〇ミリの改造品を使ったり、ガランドのツテで調達した、当時最新鋭のMG151/20を好んだ。江藤も火力不足は認識していたので、この行為を『黙認』した。その結果、64戦隊は一撃必殺の火力を好む風潮となり、海軍が兵站と扱いやすさを理由に20ミリのスケールダウンモデルを普及させていったのと裏腹に、陸軍は大口径砲を好む傾向となった。どちらが正しかったかは、怪異の急激な進化と、ティターンズの登場で証明された。
「長砲身20ミリを早期に使えたのか!?」
「ああ。逆落し戦法共々、結構な無茶でな。武子さんも当初は反対した。だが、黒江が説得して使わせたら、気に入ってな。『機動性は腕で補え!防御力と火力が正義!』と教わったよ。最も、海軍は戦後は扱いやすさと兵站面から、12.7ミリにスケールダウンさせたのが普及していったが」
「だろうなぁ。陸と違って、海は零式からは長距離を飛ぶのが当たり前になったし、一号20ミリはションベン弾だったから不評だったからな。20ミリなんて使うのはナイトウィッチか、局地戦部隊だけだ」
「ここじゃ、敵が高速・重装甲になったし、ティターンズなんていう不埒な乱入者が、超音速ジェット機なんてオーパーツを持ってきたから、連合軍は大パニックになってな。初速が遅すぎて、ジェット機には当たらないと来た……」
「ジェット機はそんなに早いのか?」
「速度が有に4桁に達するんだぞ?見えてから照準を合わせてる内に蜂の巣だし、早すぎてリード(射角)が読めない、旋回半径は大きいけど、レート(時間辺りの旋回角、旋回率)が高いからすぐ向きが変わるんだ。特に超音速ジェット機ともなればな。あいつらとの緒戦は全く歯が立たなかったそうだ。あのハンナ・ユスティーナ・マルセイユでさえ、奴らに軽く遊ばれたそうだ」
「何!?あの人類四強の一角のマルセイユを以てもか!?」
「当人いわく、命のやり取りをする相手と見られていなかったそうだ。今でも、マルセイユはソイツを落とせてはいないからな」
――ここ数年、マルセイユはティターンズ空軍の撃墜王、TACネームは『クルセイダー1』を地面とキスさせるのを目標としているが、1947年現在でもそれは果たせていない。彼がマルセイユの『偏差射撃』の固有魔法を技能でねじ伏せられるからで、ライーサもマルセイユを空で弄ぶ人間がこの世にいるのかと驚いている。
「馬鹿な、偏差射撃の固有魔法が通じないのか?」
「正確には、凡人が極限まで鍛え上げた技能が天才の磨かれていない才能を凌駕した、と言っていい。未来予知はできているが、相手はそれを覆してくるんだよ。強引に旋回を捻じ曲げるから、マルセイユの経験則も通じないからな。マルセイユは才能に頼っているところがある。そこが彼との明暗になったのさ」
「信じられんな……」
「同僚になった事があってな。言ってやったよ。『パルスレーザー砲でも抱えて飛んだらどうだ?』って。そうしたら、『真面目に考えてくれ!!』って怒ったが」
「何故だ?パルスレーザーなら光速だし、必中に近いはずだが」
「マルセイユは、巴戦でそいつを上回った上で落としたいんだろう。このご時世では珍しい『騎士』だよ、あいつは」
47年にもなると、ミサイルを撃ち合う事も当たり前となっているので、一昔前の『騎士』や『武士』の時代は過ぎ去りつつあった。坂本もなんだかんだで、現在空戦に慣れつつあるため、マルセイユの姿勢を珍しいと標した。
「今は電子戦機や移動管制の統制下でミサイルを撃って、それの上での巴戦を行う時代だ。一昔前のような武士道や騎士道然とした空戦は過去のモノになりつつある。それに反発する者は多い」
「だろうな。地上なり空の管制に統制されるのでは、息が詰まるよ」
「勘違いするな。管制はあくまで、空の道案内人だ。決め手はパイロットなり、ウィッチであるのは変わりはない。これは23世紀の宇宙時代になろうとも同じだ」
「空母の作戦士官、だからか?」
「ああ。管制が下手だと、接敵もままならん。私達の仕事は『航空隊を如何に戦いやすくするか?』に尽きる。ある人が私に教えてくれたことだよ」
この頃になると、坂本Aはウィッチとしては半引退状態で、本業は空母の航空指揮管制官見習いになっている。そのため、中佐に昇進している。年齢も22歳なため、現役末期の頃の悩みを吹っ切っている。
「そうか……私も、お前のようになれるのかな……?武士としてしか生きて来なかった」
「ハッハッハ、何を言っている。『私』は数年後のお前自身なのだぞ?私がこうなっているのだ。同じ『坂本美緒』であるお前にできない道理はないさ。それよりも、私はバルクホルンとの約束を果たさんといかん身だからな」
「約束?」
「お前くらいの頃に、バルクホルンに『お前の妹に、いつか宇宙を見せてやる』と約束してな。そのためにライセンス取得の勉強中なんだ」
坂本AはBに、バルクホルンとの約束を語る。それはコスモタイガーでクリスに宇宙を見せること。それを守るためにライセンスを取る決意をしたのだ。この約束は翌年に果たされるものの、本業のステップアップに時間を割けず、48年度は資格取得に至らず、慰めパーティが野比家で行われた。その翌年に合格し、戦術統制官に任じられ、『伝説の魔女』の二代目であった坂本の管制でなら戦うという、海軍ウィッチも多く、ウィッチの近代戦術統制の第一人者となる。こうして、坂本は以前と違う形で後輩らを支えていくのだった。
――野比家トレイン
「お、もう青函トンネルかよ。この分だと、函館はもうすぐか。くそ、一勝二敗かよ」
ドンジャラを楽しむ黒江だが、一勝二敗をしたあたりで青函トンネルに入ったのを知り、ドンジャラを切り上げる。皆の成績は、智子が一勝、ハインリーケが二勝、黒田は勝ち星無し、黒江は一勝二敗であった。そのため、得られたお菓子はうまい棒のめんたい味とチーズ味とが二本づつという、苦労の割にはヘボい報酬であるため、ちょっとがっくり来ている。
「クソぉ、コーンポタージュ味狙ってたのにぃ〜!」
「まぁまぁ、先輩。焼肉くん太郎が10枚もらえたから」
「私はわさびのが食いたかったんだよぉ〜!いつもの行きつけのスーパーには置いてないし」
と、子供な愚痴をこぼす黒江。肉体に精神が釣り合ったらしく、このような子供っぽいところを見せることも多くなった。そのため、以前より『親しみやすくなった』、『接しやすくなった』と好評であり、以前より同年代や後輩らからの人物評が改善した。当人も『腹黒い』と言われるのは心外であり、気さくな面を見せるように努めたため、個人としては『子供っぽさ』を残す一方、仕事では、敵に冷徹な戦士であるという二面性がはっきりした。オンオフの切り替えが以前より明確になったとも言える。ただし、以前より明確に『怒ると怖い』ところが出るようになったため、敬愛する仮面ライダー達を侮辱する発言をしたら、80%の確率で容赦ないデコピンとしっぺが飛ぶ。音速のだ。ただし、あまり度が過ぎた場合は音速拳の寸止めで吹き飛ばす。元々が喧嘩っ早いため、結構な頻度で喧嘩してくる事も多いため、その辺は菅野と似ている。
「先輩、街のチンピラとか893に喧嘩売らないでくださいよ?処理大変なんですから」
「それはヒガシに言えよ。あいつなんて、親戚のはとこだかいとこがシャブ漬けにされたとかでブチ切れて、893の事務所に殴り込んで、組員の全員を病院送りにしてきたそうだし」
「加東先輩、過激ですね……」
「あいつは私よりよっぽど恐ろしいぜ。893のナニが縮み上がるくらいのバイオレンスを繰り広げて、あいつ、全国の893ネットワークのブラックリストに載ったらしいぞ」
「何したんでしょうかね、加東先輩」
「何でも、組長にM29を突きつけて、『こいつは.44マグナムと言ってな、世界最強の拳銃なんだ。てめえのドタマなんざ一発で吹き飛ぶ。私も、夢中になって、撃った弾を数えるのを忘れちまった。ツキが残ってるかどうか、試してみるか?さあどうする、組長さんよぉ』とかぶちかましたそうだ」
「どこのダーティハリーですかwww」
腹をよじらせて爆笑する黒田。圭子がダーティハリーの作中の台詞を言ったのがツボに入ったらしく、3回も転げ回って、床をバンバン叩いている。言っている黒江も吹き出しそうである。ダーティハリーを見た後なのが丸わかりだからだ。
「そんなに笑ってやるなよ、お前ww」
「だってwwwあの映画見てれば分かりますってwww」
ダーティハリーは映画史に残る一本であり、続編もいくつかある。映画好きな黒田に誘われ、ススキヶ原駅前にある名画座に観に行ったら、のび太と現地で遭遇したこともある。(のび太の街『ススキヶ原』は意外にも、駅前商店街に映画館がいくつかあり、名画座もある。これは東京ローカルのTV局『あけぼのテレビ』があり、芸能人が結構な頻度で訪れる都合、映画館が何件かある。ただし、単館上映の古めの映画館なので、最新ヒット作の場合は新宿まで出向いている)
「で、続きで、組長が『撃ってみろよ!その化物をよぉ!』と強気な発言したから、躊躇なく引き金引いて、不発だった。で、二発だけリロードして、『今度は確実に1/3だ、さぁ、どうする?』ってかまして、組長はションベン漏らしたそうな」
「わーおwwwM29をわざわざ買うなんて、先輩、ハマったんだなあw」
「この間なんて、ウエスタンを見に行って、チャールズ・ブロ○ソンとヘ○リー・フォンダの早撃ち対決に興奮してたぜw」
のび太行きつけの名画座は、西部劇映画が割と多めに上映されるため、のび太は時たま、ドラえもんを伴って見に行っており、そこで見た早撃ちを自分のモノにしている。黒田ものび太らと知り合って以降はちょくちょく見に行っており、楽しんでいたりする。
「ふ、おおおお……なんじゃこの味は!?」
ハインリーケは驚く。日本(扶桑)の駄菓子が存外に美味かったらしい。黒江とのトレードに応じ、見事、黒江は念願のうまい棒のコーンポタージュ味を手に入れた(お気に入りとの事)。
『間もなく函館〜、函館〜』
アナウンスが流れ、北海道についた事が知らされる。青函トンネルを抜ければ、秋を迎えた函館が見えるはずだ。
「しかし、今ではモビルスーツにも慣れ、ジェット機にも慣れ、スーパーロボットにさえ慣れてしまった……。妾達はどうなるのじゃ、少佐」
「連邦が来てから、怪異は活動を鈍らせ、次第に私達は人同士の戦争に巻き込まれて来ている。これは帳尻合わせなのかもな。第一次世界大戦と第二次世界大戦、朝鮮戦争のな」
「人同士の戦争に巻き込まれ、死んでいく事が帳尻合わせじゃと……」
「そうだ。私達は重要な岐路に来てるんだよ、ティターンズの目指す『一人やごく一部の集団が全てを決める』専制君主制のもとで、抑圧されて生きるか、民主主義のもとで、今までの暮らしを続けるか。ティターンズは、最高の専制君主制は最悪の民主主義よりマシだっていうのが持論らしいからな……」
ティターンズは民主主義の国で生まれし軍隊ながら、ジャミトフ・ハイマンの本来の思想たる『地球圏を地球生まれの選民で支配する』という真の目的があったが、彼らはそれを実行する気はあるのだが、一方で、自分達が旧エゥーゴに敗れ去る可能性も予期していた。自分達は敗軍の残党なのだ。ジオンと同じように。そのため、彼らは核兵器の恐怖を見せておきながら、ちゃっかりと『リトルボーイ』と『ファットマン』を確保、自前で自爆用に生産し、艦艇に積み込んで爆破させるという案さえ出しており、一部空母と戦艦にそれ専用のスペースさえ確保していた。彼らには『アメリカの同位国であるリベリオンを軍事大国化させない』という目的が含まれており、ヘンリー・ウォレスを大統領に添えたのも、それを根付かせるためだ。そのため、リベリオン本国はティターンズを維持させるために軍の設備や装備を提供はするが、自前の兵力はそれほどではない『軍事小国』主義に走っていく。また、亡命側に21世紀の日英米の富も流れ込む一方で、リベリオン本国には中露などの反米諸国と日本の左翼達の資金が流れ込む。その結果、冷戦時代が決定的になるのだった。
「奴らの好きにさせぬわ。人々の笑顔を守るために妾達は戦う。かつての専制君主制の再来などごめんじゃ。立憲君主制となった後の身で言うのもなんじゃが」
「だな。昔の専制君主制は、王の気分次第で戦争を起こしてたし、王族の浪費もすごかった。ブルボン王朝の破滅を見たってそうだ」
「だから、王政を維持するために、立憲君主制が考え出されたのじゃろう?学校の教育で子供でも知っておる事じゃ」
「そうなんだが、一つこれからの問題がある。ノイエカールスラント、大型艦造れるドックも軍港もないだろ?」
「停泊は出来るが、建造施設はない」
「カールスラント、ナチ共のZ計画艦隊見て、『うちもほすぃ〜』とか言い出したんだそうだ」
「な!?冗談じゃろ?あの規模の艦隊を持つのに、どれくらいの年月がかかると思っておる。20年、いや30年かかっても、昔年の大海艦隊の規模には達しはせんぞ!?」
「戦艦や空母は鹵獲品の流用か改造でしばらく凌ぐそうだ。ティルピッツやヒンデンブルクを引っ張ってきたそうだし」
「ヒンデンブルク?」
「ナチが持ってた『H42型』の2番艦だよ。第三次ミッドチルダ沖海戦で鹵獲したのを貰い受けたらしい。状態は良好で、修理の後にビスマルクに代わる旗艦にするそうだ」
「いいのか?敵が使っておった船を使うなど」
「カールスラントは戦艦建造能力は失われている。鹵獲品とは言え、大本は同じドイツ製だ。乗員教育もし易いしな」
「少佐、確か空軍じゃろ?海軍の事に、何故そんなに詳しいのじゃ?」
「宇宙軍は『海軍』だからさ。おかげで海軍用語覚えちまったよ。坂本より詳しいかもしれない」
「坂本少佐は生粋の海軍軍人なのじゃろう?その根拠は?」
「あいつは空母畑だ。おまけにカリキュラムがめちゃくちゃ短縮された最初の世代だ。砲術のイロハも知らん」
坂本らは必要最低限の教育だけを施され、士官となった。戦時下のせいもあるが、士官として見るなら『必要最低限の事しかできず、つぶしも効かない』。黒江や智子は、連邦軍でみっちり、宇宙軍の軍人としての教育を施されたので、その気になれば、宇宙戦艦の砲手を代行できるほどだ。そのため、坂本からの数世代の職業軍人にのしかかる『教育不足に起因する、作戦立案能力の不足』が問題になり始めていた。
「あいつらの世代から必要最低限の教育だけで士官にしたから、今更ながら、問題になってるんだ。対人作戦に希望的観測を持ち込んだりするんだよ」
「だろうな。妾たちのように、国土を犠牲にする作戦が立てられた経験もないからのぉ」
「とは言え、ミーナ中佐は、私がある地域を見捨てる判断したら、反論してきたぞ?」
「あの人は仕方がない。恋人を失っているのじゃ。仲間や住民を切り捨てるのを何よりも嫌っている。ダウディング閣下の事もある」
ミーナは一部高官から『青二才』とそしられる事がある。過去の経験から、仲間や住民を切り捨てるのを嫌っており、冷酷な判断を下せない。そのため、ロンド・ベルやフロンティア船団で過酷な戦場を経験し、冷酷な判断も選択肢にある黒江と意見がぶつかる事も多く、黒江の悩みどころであった。
「中佐とは結構、意見が合わなくてな。困ったよ。時々、ヒステリックに怒鳴るし」
「中佐は基本的には物分りいいが、追い詰めると、ヒステリックになる事があると聞いた事がある。地域を見捨てるような、デリケートな判断に弱いのじゃろう。昔の恋人を結果として見捨てたのじゃ。心中は察して余りある」
「未来に行ったり、防大行ってみてわかったが、対人相手には、『戦略的撤退』だって選択肢なんだ。中佐の考えは……言っていいのか迷うが、どうも向こうの日本陸軍並に脳筋としか……」
「仕方がない。我々は普仏戦争以来、対人戦争をしておらず、戦争のイロハを知らん。特にウィッチは必要最低限の事しか学ばんで、戦場に出されるのが当たり前じゃったからの。坂本少佐のようにな」
ハインリーケも実戦促成世代だが、貴族である都合、親から英才教育を叩き込まれたので、地政学的観点からの戦略を理解していた。そのため、黒江の立場を擁護した。
「ハインリーケ少佐はわかるのか?」
「妾の先祖はナポレオン戦争の時のオラーシャの将軍なのでな。まぁ、対人戦争のノウハウはほとんど受け継がれていなかったからこそ、ティターンズにいいように弄ばれたのじゃが」
百戦錬磨のティターンズ相手に、100年近くも対人戦争をしていない世界(しようという気はあった)の軍隊が立ち向かうのは無謀とも言え、リベリオンはその支配下に置かれてしまった。
「妾達は戦いを正義と信じて、走り続けるしかない、という事だ。それが例え、血塗られた道であっても、破滅の奈落であろうとも、地獄の果てまでも」
「そうだな……舞い上がろう。信じる何かの導きのままに。」
二人は決意を固める。地獄の果てまでも、破滅の奈落へ落ちようとも、血塗られた道であろうと、戦いを正義と信じる事を。意外に、ハインリーケもやる時はやるようだ。そんな二人に比べ、ミーナは『青臭い』し、『優しすぎる』。だが、同時にそれがミーナの人間性であると言え、坂本が両者の間を取り持つのは自然な流れだった。一時は持ち上がった坂本の降格話が立ち消えになったのは、この功績が高く評価されたからだった。
「黒田中尉、そなたは何を食べておる……」
「え?アポロですけど?」
三角形のいちご味とミルクチョコレートが半々のおなじみのお菓子にご満悦の黒田。カッコいい場面の緊張感が一気に消えたため、ハインリーケと黒江の頭上でアホウドリが鳴く。
「お、おう……」
黒江もそれしか言えなかった。函館につき、レールから列車を外し、手近な空き地に停車した瞬間だった。『パァン』と銃声が響き、窓が割れる。
「狙撃じゃと!?」
「学園都市の狙撃手か!?」
「いや、どうもアメリカ人っぽいですよ」
「のび太たちがフルボッコにした報復か?」
「いや、バダンかも」
「なんで分かる?」
「米軍がキャリコM100なんて、クソみたいな銃使います?漫画の悪役キャラが使いそうな銃を」
「キャリコぉ?評判悪いんで、あまり採用されなかった銃だろ?弾薬は確か……」
「22LRよ。どこでも買えるから、悪の集団御用達の弾薬ね。でも、この精度からすると、120mぎりぎりってところね」
「ヒガシ。お前、九九式狙撃銃で応戦かよ?相手はセミオートだぞ?」
「こういう狙撃はボルトアクションのほーが遠距離に届くし、精度もいいの。これにこいつはベアハンターだから、狙撃でぶっ殺すのにちょうどいいしね」
「大丈夫かよ?」
「あのねぇ。この加東圭子様を舐めるなよ。120が何よ。かのデューク東郷は600mを平均で当ててるのよ?120なんて、至近距離も同然よ」
「まぁ、ゴルゴに比べりゃ、子供のような難易度だけどさ」
そう。超視力で狙撃した場合、圭子は銃の精度によるが、平均で数百mを当てる。のび太やデューク東郷には及ばないが、狙撃手を狙うことは容易である。狙撃姿勢から発砲し、数十秒ほど後に、『ガチャン!』と、『ドスン』という音が響く。ややあって、望遠鏡での観測でヒットが確認される。
「これで狙撃手はクリアした。多分、私達を追ってきたか、近くに誰かヒーローでも来ているかも。そうでないと、動く理由の説明がつかん」
「私から本郷さんに確認取ってみる。折角のドラえもんの誕生日が近いってのに、邪魔しに来やがって!アンニャロー、聖剣で細切れにたたっ斬ってやるぜ」
黒江は手刀で斬る真似をするが、当然ながら、エクスカリバーを持っているので、発動してしまい……。
「あ〜!しまったぁ〜!」
タンスが見事、エクスカリバーの餌食となってしまった。
「あ〜もう、何をバカしてるのよ!黒江ちゃん!」
「まさか、手刀の真似しても撃てるとは思わんだ……」
「中身まで綺麗サッパリまっ二つだ……切断面も綺麗ですよ」
「こりゃ、玉子さんがいたら三時間お説教ね」
「いなくてよかったぁ……タイムふろしき買おうかな……」
胸をなでおろす一方、エクスカリバーの発動条件が意外に緩い事に気づき、しょげる黒江。ハインリーケはエクスカリバーの片鱗を目の当たりにし、呆然としている。ゲームに夢中だったドミニカは呆れ顔だ。
「大尉、なんだよ、まるで『ヤンキーズが優勝した』ような爽やかな顔は!こっちは大変なんだぞ!?」
「狙撃手はどうでも出来るし、タイムふろしきやればいいだろう?」
「あ、あのなぁ……」
ドミニカは意外とゲームに夢中であるが、解決法は知っているため、黒江にドライな返しをする。黒江はしょげたまま、のび太からの『夜食の準備完了』のアナウンスを聞く羽目になり、一人だけがっくりした状態で夜食に臨んだという。
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